よろしければどうぞ。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です安部さん。 なにか飲みますか?」
「じゃあお茶もらっていいですか? できれば温かいので」
「了解です」
俺は安部さんに出すお茶を準備する。今はバイトの休憩時間だ。
休憩室にいるのは安部さんと俺。午前のピークは過ぎて、今は人もまばらだ。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます陸くん」
安部さんは出されたお茶を飲むと一息つく。本当に午前は忙しかったなぁ。
「ふぅ……今頃皆さんなにしてるんでしょうねぇ……」
「皆さんとは?」
「シンデレラプロジェクトの皆さんですよ。 陸くん言ってたでしょ? 今合宿行ってるって」
そうなのだ。安部さんが言っているように、シンデレラプロジェクトのみんなは次のフェスに向けて絶賛合宿中。
年頃の男、アイドルの中に1人だけ男がいる、色々な理由で俺は合宿に参加できなかったのだ。
まぁ、正直泊まり込みで何日も女の子と同じ空間にいるっていうのは精神的にちょっと大変だから、この配慮には助かったかな。
「どんな感じなのかは気になるので、一応かな子が夜に電話してくれることになってるんですよ」
「へぇーそうなんですか」
「はい。 もしかしたら長電話になるかもしれないんで、バイトが終わったら休憩して夜にかな子の話を聞けるようにしようと思ってます」
「そうなんですか。 良い報告があるといいですねぇ!」
「はい」
「ナナはさっき楓さんに宅飲みに誘われたので楽しむ予定ですよ!」
そういえばさっき安部さんと高垣さん、カフェでなにか話してたな。
「メンバーは高垣さんと安部さんですか?」
「後は川島さんと早苗さんです!」
……そのメンバーって……。
「いや〜楓さんがとっておきの飲み物を持って来てくれるらしいんですよ! 今からとっても楽しみです! 帰りになにかつまめる物も買わないとですね!!」
安部さんすっごい良い笑顔浮かべてるけどちょっと待って。
「安部さん……」
「どうしたんですか陸くん? 心なしか顔が引きっているような……」
「そのとっておきの飲み物ってお酒じゃないですよね?」
「…………」
そう言った瞬間に安部さんの顔が引きつり、静寂が訪れた。
安部さんの顔から汗が一筋流れる。聞こえてくるのは時計の進む音だけ。
この部屋だけ時が止まってるみたいだ。
「な、なに言ってるんですか〜! ナナは17歳ですよ? お酒なんて飲むわけないじゃないですか〜!」
「でもメンバーが……」
「たまにはお酒を飲まずに集まりますよ〜! お家でお菓子とか食べながら女子会ですよ!! ナナ達の中ではそれを宅飲みって言うんです!!」
安部さんは焦りながらそう言うが、説得力があまりない。
それに……。
「たまにってことは時々お酒飲んでるってことですよね……?」
「…………」
「17歳なのに……?」
「…………」
「…………」
安部さんの顔から表情が消えた。
なんとも言えない空気が流れる。
こ、こんな時は……!!
「あ、俺休憩そろそろ終わるので行きますね。 安部さんはごゆっくりどうぞ」
「アッハイ」
とりあえずこの場から離れて、時間が解決してくれるのを待とう!!
俺は休憩室を出て、男子トイレに向かう。
気持ちを落ち着かせた後、俺はバイトへと戻った。
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「お兄さんこれ美味しいですよー!!」
「日野さんは美味しそうに食べますね」
「そうですか? 実際美味しいんだからしょうがないですよ!」
そう言ってサンドイッチなどを食べるのは日野さん。
さっきまで運動していたのか、服装はジャージだ。
「お兄さん! デザートも食べたいのですが、今日のオススメはなんですか!?」
「今日はパンケーキがオススメですよ」
俺はメニュー表に載っているパンケーキを指差す。
日野さんはそれを見てパンケーキを注文した。
俺は注文を伝えるために厨房に向かい、店長に伝える。
すると、途中で安部さんと出会った。
「あ、陸くん。 注文ですか?」
安部さんはコップを磨きながら聞いてくる。どうやらさっきのは時間が解決してくれたみたいだ。
「はい。 日野さんがデザートにパンケーキを注文して下さったので」
「今日のパンケーキは店長の自信作らしいですよ!」
「ほう。 それはちょっと気になりますね」
「ナナは今日のバイト終わりに注文して食べようかなって思ってるんですよ」
「それはいいですね。 俺は今日はやめて別の機会に注文してみようと思います」
「それもいいかもですねぇ」
俺と安部さんがそんなことを言っていると、注文を知らせる音楽が鳴る。
さて、注文を聞きに行くか。俺は安部さんと別れてテーブルに向かう。
テーブルにいたのはKBYDの3人だった。
「注文お願いしまーすって陸くんじゃん」
「陸はんバイトですぅ?」
「こんにちは陸さん!! 可愛いボクと出会えるなんて、今日の陸さんはツイてますねぇ!!」
3人は俺に話しかける。レッスン終わりなのか、みんな動きやすい服装だ。
小早川さんのポニーテールいいな……。
「皆さんレッスン終わりですか?」
「そうそうー!! 今はお疲れ様会してるんだー!!」
「女子会ともいいますなぁ」
「ま、ボクはそんなに疲れてないんですけどねぇ!!」
「「一番ヘトヘトだったのに?」」
「ちょっ!! 言わないでくださいよ!!」
相変わらず仲良いな。
「注文いーい?」
「いいですよ」
「じゃああたしは今日のオススメパンケーキ一つとコーヒー!」
「うちは温かいお茶を頼みます〜」
「ボクはこの甘さ控えめのケーキを一つお願いしますね」
「かしこまりました。 少々お待ちください」
俺は注文をとる。すると、姫川さんが俺の制服を指差しながら声をかけてきた。
「陸くん制服似合うじゃん、カッコいいよ!!」
「あ、ありがとうございます……」
姫川さんの褒め言葉に顔が熱くなるのが分かる。好きなアイドルに褒められるのって凄い嬉しいことなんだな。
「なんか面白くないですねぇ……」
「幸子はん、嫉妬どすか〜?」
「違いますよ! 陸さんはボクの時あんな顔しないじゃないですか! なんかボクの時は余裕のある顔してるから悔しいんです!」
「それは幸子はんが年下じゃないからではぁ? それにかな子はんのお兄さんだから、年下の扱いが上手いんだと思いますぅ」
「ぐぬぬ……」
輿水ちゃんは悔しそうな顔を見せる。正直可愛い。
「でも、確かに陸はん制服似合ってるどすなぁ。 和服も似合うんとちゃいますぅー?」
小早川さんが手で口元を隠しながら笑う。そんな姿も上品だ。
「ありがとうございます。 和服はあまりきたことないんで似合うかはちょっとわからないですね」
「そうなんですかぁ。 なら、機会があったら和服着てみてください。 その時はうちが着付け手伝いますよぉ〜?」
和服か……元々興味はあったんだよな。いつも和服着てる小早川さんが着付けてくれるなら、カッコよく着れるかも。
「陸さんの和服ですか……似合いそうですねぇ。 カッコいいかもしれません」
「えーあたしはカッコいいじゃなくて可愛い気がするんだけど」
「まあ、とっても似合いと思いますよ〜」
「はは、アイドルにそう言ってもらえて嬉しいですよ。 では、俺はバイトに戻りますので」
「あ、時間とらせちゃってごめんね?」
「いえいえ、皆さんとお話できて嬉しかったですよ!」
俺はそう言って、その場から離れて店長に注文を伝える。
すると、ジト目の安部さんが話しかけてきた。
「陸くん〜! お話が楽しいのは分かりますけど、まだバイト中なんですからほどほどにね?」
「はい、すいません安部さん!」
「よろしい!!……で、陸くんはKBYDの3人と知り合いなんですか?」
安部さんが俺に近づいて小声で話しかけてくる。
視線は楽しそうにしている3人に釘付けだ。
「はい。 キャンディーアイランドが初めてテレビ出演した時にお世話になったんです」
「そういえば、あの3人も一緒に出てましたねぇ」
「知ってたんですか?」
「はい! お家でテレビ見てましたから! かな子ちゃん可愛かったですよ!」
おお!! なんか見てくれてたって嬉しいな。しかも、可愛かったって言ってもらえるとは。かな子が帰ってきたら伝えよう。
「かな子にも伝えときますね。 きっと喜びますよ」
「いえいえ〜!! 本当のことですから!!」
安部さんはニコニコ笑う。やっぱり安部さん可愛いなぁ、年上だけど。
「あ、そういえば陸くん。 日野さんの注文はもう持って行きましたよ」
そんなことを思っていると、安部さんが注文を持って行ったことを教えてくれる。
お礼しとかないとな。
「ありがとうございます!」
「いえいえ。 あ、でも、日野さんから伝言もらってますよ」
「伝言?」
なんだろう?
「かな子ちゃんから話を聞いたそうで、機会があったら一緒にスポーツしましょうだそうですよ」
おお、そういうことか。日野さんと運動は楽しそうだな。
「分かりました。 ちゃんと返事しますね。 安部さん伝言ありがとうございます!」
「どういたしまして。さて、今はちょっとお客さん少ないですけど、あと少ししたらまたお客さんが集まるので気を引き締めましょう!」
「はい!」
俺は安部さんと話すのをやめ、次のお客さんが座れるように準備をする。
さて、頑張りますか。
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「陸くんあとちょっとで上がりですね」
「そういう安部さんもあとちょっとで上がりじゃないですか」
「そういえばそうだった!」
「まああとちょっとなんで頑張りましょう」
「そうですねぇ。帰ったら楽しいことが待ってるんですから頑張りましょう!」
机を拭きながら安部さんと会話をする。 外は少しずつ陽が落ちてきている。
少しずつだが、アイドルやスーツ姿の社会人が帰って行ってるのがわかる。
もう1日が終わろうとしているのか……早いな。
「あれ陸ちゃんじゃーん!! バイトー?」
「おつにゃーん」
そんなことを思いながら、人の往き帰りを見ていると大槻さんと藤本さんに声を掛けられる。
どうやらこれから帰るみたいだ。
「陸ちゃんバイトあと少しで終わる感じ? うちら今からカラオケ行こうと思うんだけど一緒にどーお?」
「うーん。 あと少しでバイト終わるけど、今日は予定があるから遠慮しようかな」
そう言うと、大槻さんが頬を膨らませる。明らかに私怒ってますって感じだ。まあ、小さな子どもが駄々をこねてるみたいで可愛らしく見える。
「ちぇ〜ならしょうがないかな〜でも次は一緒に遊ぼうね〜」
「ならバイトを頑張ってる少年にはおねーさんからこの飴玉をあげるぽよ〜☆」
藤本さんがそう言いながら俺に飴玉を渡してくれる。
そして、ウインクをしながらこう言った。
「バイトとかお手伝いとか大変かもだけど、偶には息抜きしないとね〜! お互い頑張ろー」
「そうですね、ありがとうございます!」
「息抜きしたくなったらアタシら誘ってもいいよ〜ギャルの遊び教えてあげるよん☆」
「ギャルの遊びか……」
「まぁ、ギャルの遊びは冗談だけどね〜普通にカラオケとかで遊ぼ」
「それなり俺でも遊べそうです」
そう言うと、藤本さんは笑う。藤本さんギャルっぽい見た目だけど話しやすいな。
大槻さんや城ヶ崎さんも話しやすし。
あれ? もしかしてギャルって話しやすい存在?
そんなことを思っていると、2人はじゃあね〜と言って帰って行った。
そんな2人に手を振る。
さて、俺も残り頑張って帰るか。
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♪〜♪♪♪♪♪〜♪♪♪
「はい、もしもし」
『あ、兄さん? かな子だけど今時間大丈夫?』
「うん。大丈夫だよ」
バイトが終わってから数時間。
今は自分の部屋でゆっくりしている。
今頃安部さん達は楽しく宅飲みしてるのかな?
『兄さんは今日バイトだっけ? どうだった?』
「いつも通り大変だったよ。 そっちは?」
『こっちも大変だったけど多分大丈夫かな』
「なにかあったの?」
『えーとね、今日ねーーーー』
かな子の話では次のフェスで新曲を全員で歌うことになった。
しかし、なかなか新曲の練習が上手くいかなったらしい。
でも、プロデューサーさんから頼まれた纏め役の美波さん、それをサポートすることになったアーニャちゃんと未央ちゃんのおかげで、少しずつ纏まってきているらしい。
さっき3人がなにか話し合ってたらしいから、きっと新曲について話し合ってるんだろうな。
……美波さん、結構溜め込みやすいというか、自分がやらなきゃって思って無理するタイプだから、アーニャちゃんと未央ちゃんがサポートしてくれるのは助かるだろうな。
『こっちはそんな感じかな』
「そっか。かな子も3人のこと見守ってあげてな」
『分かってるよ! 美波さん達だけに負担をかけるわけにはいかないからね!』
「それを聞いて安心したよ」
『うん、兄さんは安心してていいよ。じゃあ、明日も早いからそろそろ電話切るね』
「うん、おやすみかな子。お腹を出して寝ちゃ駄目だよ?」
『もう! 私そんなに子どもじゃないよ! 兄さんの馬鹿もう知らない!……おやすみ』
「怒りつつもちゃんとおやすみって言ってくれるかな子は可愛いなぁ」
『もう家に帰ったらお説教だからね!』
そう言ってかな子は電話を切った。これはかな子が帰ってきた時になにか買っていたほうがいいかな?
俺はそんなことを思いながら部屋を出て、風呂に向かう。
あと少しでフェスが始まる。シンデレラプロジェクトのみんなが出るフェスが……。
アニメとは違い、合宿の様子が少し変わりました。
次のお話もアニメとは違う感じになるかもしれません。
次はフェスの話を書こうと思います。
それではまた。