デュエル成分控えめです。ご了承ください。
デュエルを終えた黒咲は、その場に膝を着いた。10000を超えるヌメロンドラゴンの攻撃と、私の強運に心を折られかかっている。
これではさすがに可哀想だ。私はカバンから1枚のカードを取り出し、彼の足元に置いた。
「これ、持っていっていいから、もう私に近寄らないで」
「……なぜだ。どうして、そこまで俺を拒む」
「だから、私とあなたは初対面なの。おわかり?」
少しだけ腰を曲げ、黒咲と目線の高さを同じにする。
「もう2度と会う気がないけど、一応名前は教えておくわ。清澄、清澄冷菓よ。あなたの名前は?」
「……黒咲、隼だ。お前まさか、記憶がないのか?」
どうしてそうなる。
別人である可能性が、なぜ頭に浮かんでこない。
「記憶とか、何言ってるか分らないけど、私はあなたに関わりたくないから、もう2度とここには来ないで。今度あったら、完膚なきまでに叩き潰すから」
RR対策のメタデッキを組めば、簡単に封殺できる。そもそもRRはライオウがいるだけでその展開力は一気に失われる。さらに放電ムスタンガンでもいれば完璧だ。RRは闇属性しかいないから、結界像でも大丈夫だ。
「……そのデッキ、大事にしてね」
彼に聞こえない程度の声でつぶやいてから、私はエントランスを通って、自分の部屋へ向かった。
黒咲隼の心は折れかけていた。
No100、ヌメロンドラゴンの火力は、今までみてきたモンスターの中で、過去最高のものだった。
そしてそのモンスターを召喚した少女は、黒咲のことを初対面の相手と言った。
「なぜ、記憶がないんだ。ともに戦った、記憶が」
そもそも別人であることなど、一切頭に浮かんでない。同じ顔の少女がいれば、当然の反応ともいえるが、信じて疑っていないところがすごい。
「いや待て、そもそもあいつはあんなデッキを使っていたか?」
アンチホープ、ナンバーズ。黒咲の知識にはあんなカードはない。
「あのカード、どこで手に入れた」
彼は近くに落ちていたカードを拾う。清澄冷菓が置いていったカード。そこに何か手がかりになるような物がないか、一筋の希望を求めてカードを見た。
通常モンスター、レベル5。
モリンフェン。
「これをどうしろというんだ!」
黒咲との試合を終えた私は、デッキ調整をしながら白井さんに、その日起こったことを全て話した。赤馬零児にあったこと、LDS内でひと暴れしたこと、アンチホープを赤馬に解析してもらったこと、そしてこれからしようとしていることを。
それだけでなく、赤馬零児との交渉の末手に入れた、とっておきの情報を彼に告げる。
『そうか、ようやく時系列が把握できたな』
白井さんは楽しそうにそうつぶやく。
『次の日曜日に、アークファイブ第一話スタートか』
私は赤馬零児にいくつか願い事を聞いてもらった。一つはLDSの見学、そしてもう一つは、次のストロング石島の試合の対戦相手を教えてもらうこと。
「次の試合は、榊遊矢だった」
『試合のチケット、持ってるか?』
「もらった。3枚分」
誰と見に行くかは決めていなかったから、寝ながら考えよう。
遊戯王アークファイブの物語の始まりは、ストロング石島と遊矢のデュエルから始まる。その試合で遊矢がペンデュラム召喚をしなかったら、遊戯王アークファイブは始まらない。
「でも、ちょっとまずいことしちゃったかも。チケット貰うのは、やりすぎたかも」
『……かもな』
ペンデュラム召喚が行われた試合のチケットを、あの女は要求した。
赤馬零児はそう考えるだろう。
「そういえば、アークファイブの第一話って、どんなデュエルしてたっけ」
『覚えてねぇな。なんかストロング石島のデッキがクソ微妙だったことは覚えてる』
「バーバリアンデッキ」
『ネタデッキ愛好家は作ってるかもしれないデッキ、か』
環境には出て来れそうにないデッキだ。
切り札たるバーバリアンキングは、確かに強い。だがアド損は避けられない。それに3000打点だとライトニングで処理されるし、効果破壊にも耐性がないため、いともたやすく突破されてしまう。
「遊戯王の現環境は、打点が全てじゃない」
アンチホープのカードを触りながらつぶやく。カードから泣き声が聞こえた気がするが、気にしない。
「でも……ここはあの鬼畜な環境じゃない」
アンチホープを出すのがアド損と思われない世界だ。
龍大神を主軸にしたデッキが、ネタデッキと呼ばれない世界。
『平和な環境だな』
「そうね」
机の上に置かれた一枚のカードを手に取る。メタルフォーゼ・ゴルドライバー。元いた世界の環境デッキの主軸パーツだ。
「勝ち続けるためのデッキ構築、ね」
『それが全てじゃないんだよな。仲間内だけで使ってたデッキを、とてもじゃないけど人に見せられないネタデッキを他人に使っても、無礼に当たらない世界なんだよな』
「見せられないデッキ?」
『デッキトップ調整なしの、デッキトップ宣言デッキ』
「勝ち筋は?」
『真実の名でオベリスク特殊、以上!』
「それはデッキじゃなくて、紙束だと思う」
この世界で紙束を使うのは失礼に当たるか知らないが、カードゲーマーとしての何かが失われる気がするので、私は使う気になれない。
デッキ調整とデッキ構築を終えた私は、制服のまま布団に潜り込んだ。体が重い。カードのやりすぎだろうか。
カードをやるのもに体力がいる。何時間も集中してデッキを回すのは、そんなに楽なことではないのだ。ソリティアして一撃で決着をつけるタイプのデッキは、ちょっとしたことですぐにプレイングミスを引き起こす。今日はそこまで複雑なデッキを使ったわけではないのだが、なぜだか体が重い。
「単純な動きのデッキね……」
『単純な動きってのがどういうのか、お前と俺の解釈の違いはあると思うが、少なくとも今日は単純な動きのデッキしか使ってないだろ? どうしてそんな疲れてるんだ?』
アンチホープデッキを単純と言ってしまっていいのか分らないが、今日は疲れるようなことはしていない。
「もしかして、召喚するカードによって、体力が削られるの……?」
アンチホープは漫画版遊戯王ゼアルのラスボス、e・ラーが使うカード。本来の性能とは雲泥の差だが、腐っても紙のカード、間違えた、神のカードだ。
『もしそれが本当なら、今日召喚したモンスターの中で一番体力を持ってきそうなのは、No.100じゃないか?』
ヌメロンドラゴンか。No関係ならセブンシンズも出したけど、あれはORUを二つ使う効果を発動できる状態じゃなかったから、そんなに影響がないんじゃないかと思っている。
「セブンシンズかぁ」
『漫画版遊戯王のカードって、どれも面白いよな』
否定はしない。プラネットシリーズ、アルティミトルビシバールキン、そして八雲のNo。どれも一つ一つの性能がいいだけでなく、カードとして面白い。
「専用構築でデッキ組もうかな」
『ウラヌス虚無、セブンシンズビート、タクシーベエルゼ』
「なんでそういうことばかり考えるの?」
『勝つことに拘り続けたデュエリストは、誰もがいずれこうなるんだよ』
カードは勝つことも楽しいが、勝ちすぎて他の楽しみを見失ったら元も子もない。絶対に負けないデッキで勝ち続けたら、いつか何が楽しいのかすら忘れてしまう。
EMEmが私に教えてくれたことだ。
「……こんなことしてないで、さっさと寝よっと。白井さん、スリープモードにするね」
『おう、風呂入ってゆっくり休めや』
そして日曜日が来た。
一気に時間が飛んだが、その間私はアニメキャラには一度もあっていない。権現坂や柚子、榊遊矢に赤馬零児。誰1人として私の前に姿を現していない。ヌメロンドラゴンでこてんぱにした黒咲すらも、あれ以降姿をみていない。
ちなみに、あのデュエルの翌朝ポストをみてみたら、モリンフェンが投函されていた。どうやらお気に召さなかったようだ。
学校生活も特に変わったことはない。いつものようにデュエルして、遊んで、ご飯食べて、カードショップ行って、デュエルして、寝る。天城さん達とはかなり距離が近づいた気がする。
距離が近づいたといえば、神導さんと光焔さんとの距離は一気に近づいた。お互いデッキを見せ合うほど仲良くなり、その流れでストロング石島の試合に誘うこともできた。
光焔さんは人の多いところには行きたくないとだだをこねていたが、神導さんの、同じ学校の友達を応援しにいけるチャンスという言葉に動かされ、行くことにしたらしい。
遊戯王アークファイブの第一話を見れるということもあり、私は今日を楽しみにいていたが、それとは別に私のお目当てがある。前座の試合だ。
まるでボクシングの試合のように、メインイベントの他に前座の試合が組まれていた。私にとって、アクションデュエルとは無縁の私にとって、前座の試合はアクションデュエルの参考になる、とてもいい教材といえる。……環境デッキを使えばアクションマジックに頼らずとも、この世界の人間を完封できそうだが、油断は禁物だ。
私は会場の入り口付近の壁に背中を預け、つぶやく。
「ナワトビニャローブベイゴマニャローブベイゴマニャローブベイゴマニャローブベイゴマクルミドベイゴマクルミド」
『おい、初見殺しの呪文を呟くな。周りの人から変な目で見られてるぞ』
「どうせ遊戯王世界の人には分らないんだろうなぁ」
『wixossプレイヤーは最近増えつつあるから、案外通じるんじゃないか? この世界の人にも』
周りをみても、皆が皆遊戯王の話をしていて、他のカードの話は一切出てこない。MTGくらいあってもおかしくないと思うけれど。
「wixossの世界から転生してきた人がいたら、大変だろうなぁ」
そんなことを白井さんと話しながら二人を待っていると、遠くから見知った顔がやってきた。
柊柚子、権現坂の二人だ。他の遊勝塾のメンバーは見当たらない。榊遊矢の姿も、見えない。
柚子の方は私に気づいたらしく、笑顔でこちらに手を振った。私も笑顔で手を振る。
「久しぶりね、レーカ! レーカも遊矢の試合をみにきたの?」
「えぇ、久しぶりね、柚子。えーっと、たまたまチケットを知り合いにもらったの。遊矢君とはまだ顔を合わせたことすらないけど、同じ学校の生徒なら応援したいしね。ところで……」
私は隣にいる応援団長のような風貌の男に視線を移す。
「彼は?」
「えっと、私と遊矢の友達のーー」
「権現坂昇だ。お初にお目に掛かる」
「始めまして、清澄冷菓です。気軽に冷菓と呼んでください」
丁寧に頭を下げる。権現坂とこのタイミングで遭遇できたのはラッキーだ。
『外堀から埋めて、榊遊矢と仲良くなる作戦』
黙れと言いたかったけれど、二人に聞かれたら厄介なのでがんばって言葉を飲み込んだ。
「それで、権現坂さんはどうしてここに?」
「そんなに硬くならなくていい。気軽に権現坂と呼んでくれ」
「じゃあ権現坂、どうしてここに?」
「うむ、柚子と同じく遊矢の試合を見にきたのだ」
「なるほど。榊くんって、どんな試合するの?」
「それは、百聞は一見に如かず。冷菓殿の目で直接確かめた方がいいだろう」
うん、高貴な侍みたいな人ね。
超重武者フルモンデッキを使う、権現坂。ヘルテントーチでも食らえば致命傷になるデッキで有り、なおかつ様々なカードとの混ぜ合わせが可能な、面白いテーマのデッキだ。
「そうね、榊くんのデュエルスタイルは自分の目で確認するのが一番ね」
「うむ、それが最適だ。俺の言葉で遊矢の全ては語れないからな」
「そうだ、権現坂はどんなデッキを使うの?」
柚子そっちのけで話し出す私たち。ごめんね、柚子。
「俺のデッキはーー直接みた方がいいな」
「えっ、もしかして今すぐデュエルするの?」
「ちょっと権現坂!」
割って入ってくる柚子。ナイスタイミング。
「こんな大勢の人がいるところでデュエルなんて、何考えてるの!? デッキ内容が他の人たちにもばれちゃうじゃない!」
「うむ……確かに……」
「レーカは同じ学校の生徒なんだから、昼休みにでもやればいいでしょ」
「確かに……失礼なことをした、冷菓殿」
「えっと、私、まだ何もされてないから、大丈夫よ?」
なんというか、絡みづらい。根が真面目なのだろうか。私のような根っこが曲がっている人とは、相性が悪そうだ。
そんなことを考えていると、遠くに知り合いの姿を見つけた。私は二人にまた後でと声をかけてから、知り合いの二人ーー神導、光焔ペアの元へ向かう。
神導さんはいつもの制服ではなく、落ち着いた色のワンピー。一方の光焔さんの方は、平日と同じく制服だ。なんで休日なのに制服なのかと言いたいが、私も制服なので人のことは言えない。神導さんは私を見つけるなり、にこやかに笑いながら手を振る。もちろん私も振り返す。
「二人ともおはよう。きてくれてよかったわ。1人で見るのはちょっと寂しかったから」
「いえいえ、むしろ私たちでよかったんですか?」
「そうですよ……私と一緒でいいんですか……?」
オドオドしながらもしっかりと口にしている彼女に、私は微笑みかける。
「あの学校で1番強かったから、呼んだのよ。私はアクションデュエルに疎いから、いろいろ教えて欲しくて……」
「そういうことなら遊矢君に……あっ」
光焔ねねがしまった、というような顔をした。
「遊矢くん、今日のデュエルに出てるんですよね。ごめんなさい」
「別に謝らなくても。それに、私は二人の意見が聞きたいの」
この世界に来てから思ったことは、アクションデュエルというものが、想像異常に厄介であるということだ。例えば、夏の風物詩、昆虫族ソリティアの代表インゼクターでワンキルの布陣を整えたとする。
フィールドに2回攻撃シャークフォートレス、グランパルス、アザトート、ギガマンティス装備ホッパー、ライトニングが並んでいるような状況だ。インゼクター使いの仲間が『後攻ワンキルのための優しいインゼクター』を使った時の理想の布陣だそうだ。
OCGであればかなり絶望的な布陣だが、この世界だとこの猛攻をアクションカードで止めれることがある。これはOCGプレイヤーにとっては厄介だ。サイクロンで破壊できない魔法カード。ナチュルビーストを立てればいいだけの話だが、炎王は火属性メインのデッキで地属性が入る余地はなく、アンチホープに至ってはエクストラ枠に余裕がない。
そこで彼女たちの出番だ。神導さんのデッキ、魔導にはEMのカバのようなアクションカードを取るために便利なモンスターはなく、自然と相手の妨害をしつつアクションカードを取るという戦術になるらしい。そんな戦術を使う人から、アクションカード対策を聞く。これが今回の目的だ。
そして光焔さんを呼んだのは、OCGでも通用するデッキ、シャドールを使うプレイヤーから見たプロの実力を知りたかったから。この世界においての強いの基準を、私はまだ知らない。私にとっての強いは、OCGという地獄で洗練されたデッキという意味で、この世界でその領域に達している人は、今のところいない。それだと強い人がどれくらいうまくて、私はどれくらい警戒すればいいのかが分らない。
常に警戒し続けていたら、体がもたない。過度に疲れないためには、やはいほどほどに手を抜く必要がある。そのほどほどを彼女に教えて貰いたいのだ。
「さっ、もうすぐ始まるみたいだから、会場に入りましょ」
「少し待ってください。ちょっとした軽食を買ってもいいですか? 生のデュエルを見ながら食べるご飯は、美味しいんですよ?」
「私も……買っていいですか?」
「そういうことなら私も買うわ。DPに余裕があるし」
プロの試合は、ほどほどに楽しかった。
劣化版十代vs十代を見ているような感じ、それが白井さんの感想だった。とにかくお互い引きがよく、制限カードの素引きは当たり前。ライフ残り100で異常なまでに強くなり、使用するデッキはほとんど純デッキ。異物混入率が極端に低い。ゼンマイに超量が入っていた人もいたが、あの人はプレミを連発して、自滅してしまったのでOCGのような動きは全くしてなかった。
『出せなかったな。グレートマグナス』
「ゼンマイ超量はグレートマグナスが出しやすい」
私はさっき買ったポップコーンを口に運ぶ。隣の光焔さんと、その隣にいる神導さんの頭に疑問符が浮かんでいる。
「グレートマグナスは超量デッキの切り札、ランク12のエクシーズモンスターよ」
「ランク12ですか!?」
反応したのは神導さんだ。そういえば魔導ってエクシーズモンスターがいたっけ。それならランク12を出す面倒臭さがわかるはずだ。
「魔希子ちゃん、ランク12ってなに? ……驚くことなの?」
「エクシーズモンスターは、基本的に同じレベルのモンスターを2体ださないといけないんです。だからランク12を出すためにはレベル12のモンスターを2体ださないといけないんです」
「レベル12のモンスター……バルバロイドとかFGDがレベル12だったはず……普通の手段じゃ出せないってこと?」
首を捻る光焔さん。私はポップコーンを食べながら、頷く。
「ランク12のグレートマグナスを正攻法で出すためには、レベル12を揃える他ないわ。でも、グレートマグナスには、超量というテーマにはマグナキャリアがあるの」
「「マグナキャリア?」」
手札を1枚捨てることで超量モンスターを超量機獣モンスターにする効果とともに、墓地へ送ることで3種類の超量機獣を素材にマグナスを特殊召喚する効果を持つフィールド魔法。
「カード効果でグレートマグナスを出せるの。知らなかった?」
「私は融合コースだから……エクシーズは知らなくて……ごめんなさい」
「私も知りませんでした。勉強不足ですね」
今日になって改めて分かったことは、この世界の人たちは、自分が使っていないデッキやカードに関する知識が、足りないということ。知識がないということは、相手のデッキに対する対処法がすぐに分らないということでもある。これはかなり致命的なミスに繋がりかねない。
相手のデッキが暗黒界であることが分かっているのに、手札抹殺を打つようなミスを犯しかねない。前の世界にそういう人が本当にいたから、笑えない。
カードに関する知識が少ないこの世界の人たちは、全力で自分のデッキを回す。今日みた試合では、棒立ちになっているシャインエンジェルを殴りに行くプロがいた。オネストに関する知識がなければ、警戒しようもないということだ。
『カードに関する知識がないから、俺がこの前出した獄楽鳥にも無警戒だったのか』
ヴェルズ使いがPSYフレーム相手に無駄に動いたのも、そのためだろう。
プロの試合が一通り終わり、ついにメインイベントが始まるのだろう。空席が徐々に埋まり出す。人が増えたせいか、自称対人恐怖症の光焔さんはガタガタ震え出す。一応彼女を挟むようにして私と神導さんは座っているのだが、それでも怖い物は怖いようだ。
現在、デュエルフィールドで試合は行われておらず、まるでアメフトの試合の前のように、チアリーディングが披露されていた。光焔さんをそばに抱き寄せ、頭を撫でる神導さんをみながら、私は考える。
ペンデュラムカードのないEMオッドアイズ魔術師。
榊遊矢がストロング石島戦の序盤で使うデッキだ。正確に言うと、まだペンデュラム化してない魔術師が入っているデッキ。そのデッキが回っているところを、私は想像できない。
アークファイブ第1話の記憶が曖昧で、榊遊矢の試合を鮮明に思い出せないからこそ、彼のデュエルがとても気になる。私がこの世界に来たことで何かしらの変化が起こっているとしたら、私の知らない新しいカードを見ることができるかもしれないのだ。
「変化が起きてるかどうか、この試合でわかるわね」
隣の2人に聞こえないよう、小さな声で呟く。
『いよいよ始まるな。物語のスタート地点』
楽しそうな声の白井さん。私も、内心とても楽しみにしている。遊戯王アークファイブの重要シーンを、生で見れるのだから。
『ペンデュラム召喚のお披露目だ』
「……かなりピンチね」
デュエルは終盤に差し掛かり、遊矢が築いた必殺の攻撃が、ストロング石島のとったアクションマジックによって不発となってしまった。
「榊くん……」
「相手がアクションマジックを取ることを想定していなかった……」
心配そうな顔をする光焔さんと、厳しい意見をいう神導さん。榊遊矢の武器となるはずのアクションカードが、敵に利用されることで逆に瀕死のところまで追い詰められてしまったのだ。
アクションカードは共通の手札。常に自分を追ってくれるとは限らない。
「次のターンが来た時に、状況をひっくり返せなければ、負ける」
『まぁ、どうせ負けないんだけどな』
まったく、白井さんったら。私のテンションを一気に地獄のそこまで突き落とすようなことを、平喘と言っちゃって。
「神導さんなら、この状況をどう切り抜ける?」
「私なら、次のドローによって動きは変わりますけど、とりあえずアクションカードを探します」
「光焔さんは?」
「……超融合を引き……ます」
EMならこの状況をどう切り抜けるのだろうか。バリアバルーンバグ? 墓地発動の効果を使う? あれ、この先の展開ってどうなるんだっけ……
私はポップコーンを食べながら、周りを見渡す。さっきまで榊遊矢を応援していた人は皆、諦めムードだ。一方、ストロング石島を応援していた人たちは息を吹き返す。
「まだデュエルは終わってないから、諦めるには早いわね」
『そうだな。次のドローでブラホ、ダイヤモンドクラブキングでも出して殴れば状況は一変するぞ』
最近見ないなぁ、ダイヤモンドクラブキング。お手軽に出せる攻撃力3000。ヴェーラーで悲劇を生む。
「どのみち、次のストロング石島のターンを乗り切れなかったら、勝機はないんだけどね」
「そうですね。まずは防御からですね」
「……2人とも冷静だよぉ」
神導さんに撫でられながら、彼女は呟いた。確かに光焔さんの言う通り、クラスメイトがピンチだというのに冷静すぎるかもしれない。でも私の性格上、そんなに熱くはなれない。
「がんばれー」
「随分力の抜けた応援ですね」
「私ならこの状況下でも絶対勝てるからね」
「……どうやって?」
首を傾げる光焔さんに、微笑みかける。
「バーバリアンキングは、突破できないほど強いモンスターじゃない。効果破壊耐性がないからね」
「狙うは効果破壊ってことなの?」
「うん。それだけじゃなくて、単純に打点あげて殴っても突破できるんだけどね」
ストロング石島のターン、攻撃力をあげたバーバリアンキングで攻撃した後、ライフを回復させてターンエンド。
遊矢のライフは残りわずか。誰の目から見ても、敗北は確実だ。
「ライフは残りましたけど、これは厳しいですね」
「そうね。でもデュエルは最後まで何があるか分らない」
油断してたらビュートで一掃なんてことも、ザラにある。その点、ストロング石島は勝利を確信してしまっている。
「あれでチャンピオンねぇ」
『笑えるな。てか4000ライフの世界なんだから、バーバリアンキングなんて出さないで、バーバリアン2体でシャークフォートレスでも出して殴ればいいだろうに』
元も子もない発言をする白井さん。私の口からため息が漏れる。
デュエルフィールドでは、榊遊矢が勢い良くカードを引いた。何やら青い光がカードから漏れている。
カードが、書き換わっているのだ。
「俺はスケール1の星読みの魔術師と、スケール8の時読みの魔術師を、ペンデュラムスケールにセッティング!」
場内のスピーカーから榊遊矢の声が響き渡る。周りの人は聞いたことのない言葉にざわめき、とつぜん浮かび上がった二つの光の柱と、巨大なペンデュラムを凝視している。それは隣の二人も同じ。だが、私は違う。
「ペンデュラム召喚ね」
『生で観れてよかったな、清澄』
同時にフィールドに召喚されるモンスターたち。オッドアイズペンデュラムドラゴンをはじめとする、榊遊矢のモンスターたちに、観客は目を奪われる。私はポップコーンを食べつつ呟く。
「この勝負、チャンプオンの負けね」
「まだわかりませんよ。伏せカードもアクションマジックもーー」
「いや、もう決定的よ」
効果はうろ覚えだが、星読みと時読みがペンデュラムスケールに揃うと、バトルフェイズ中に魔法罠が使えなくなったはずだ。モンスター効果は使えるが、バーバリアンキングに攻撃を止める効果はなく、オネストも対応してない。虹クリボーならもしかしたら入っているかもしれないが、あのガタイのいいチャンピオンが、そんなカードを入れてるとは思えない。
そして、オッドアイズペンデュラムドラゴンの効果は、モンスターとの戦闘で発生したダメージを2倍にするというもの。エフェクトヴェーラーがあれば少しはダメージが軽減できるのかもしれないが、バーバリアンを使用したアドバンス召喚デッキに、そんな物が入るとは思えない。
「あっ、本当にチャンピオンが負けた……」
「清澄さんの言う通りに……」
「でしょ? なんとなく、勢いが榊くんに傾いてたからね。さて、出口が混む前に帰ろ? みんなしばらくは勝者インタビューを見てるはずだから、今なら空いてるよ」
私たちはさっさと会場を後にし、近くにあったファミレスに入った。
ドリンクバーだけで粘り、ずっと遊戯王の話をしていたら、気づけば日が暮れてしまった。神導さんはペンデュラム召喚についての推論について語り、光焔さんは榊遊矢の戦略について語り、私はストロング石島に足りなかったところを指摘するといったかんじで、今日の試合を分析していたら時間が過ぎるのも早くなるものだ。
「今日は試合のチケットをくれてありがとうございました」
帰り道を3人で歩いていると、神導さんが唐突に礼を言った。大したことじゃないという風に告げても、彼女はひたすら礼を言った。どうやらペンデュラム召喚というものを生でみれたことが、よっぽど嬉しかったらしい。
「そんなに気にしなくてもいいのに。それに、たまたまよ。たまたま今日の試合が特別な物になっちゃっただけ。私に礼を言われても困るわ」
「それでもお礼を言わせてください。ありがとうございました」
「魔希子ちゃんは、しつこいから諦めた方がいいかも、です」
「うーん、じゃぁ感謝の気持ちは受け取っておくわーー」
『仲良く歓談中悪いが』
唐突に白井さんが言葉を発した。ファミレスでは私に気を使ってか何も言わなかったのに、ここに来て、それも真剣な口調でだ。
『お前らの前が人で塞がれてるぞ。なんか人相の悪い連中だ。迂回ルートは……なさそうだな』
「……そう」
「どうしたんですか? 清澄さん」
私の表情が少し硬くなっているのを、神導さんはすぐさま見抜いた。動揺が、表面に出てしまったらしい。
デッキやデュエルディスクが入ったカバンを、今一度確認する。忘れ物はない。今なら誰が相手でも、やれる。
まっすぐ歩いて行くと、そこにはいかにも不良といった面持ちの、青い服をきた男たちの姿。カラーギャングの類なのだろうか。できれば私と関係ないといいけれど……
「その制服、お前が清澄だな。顔も、写真通りだ。間違いない」
集団の先頭にいた男が口を開いた。神導さんたちは、突然目の前に現れた不良集団に怯えているようだが、私は怯まない。
「人違いじゃないですか?」
「俺の目を誤魔化せるとでも?」
「誤魔化すもなにも、私は清澄なんて人じゃーー」
「てめぇが天城んとこのチームのトップになったってのはもう知れてんだよ!」
「……うーん、面倒ね」
「てめぇ、俺様がここら辺を仕切ってるブルーオーシャンズのトップだと知ってそんな舐めた態度とってんのか? あぁん!?」
やけに喧嘩腰だ。青い特攻服にモヒカンといういでたちの男だが、不思議と怖くない。
「……知らない人、怖いですぅ」
「……清澄さん、知り合いですか?」
「知り合いじゃないわ。でも、敵であることは明らかね」
私はカバンからディスクを取り出す。
「それで、私に何のようですか?」
「チームをかけてデュエルしろ!」
「いいですよ」
「……えっ、いいのか? そんなにあっさり決めて」
拍子抜けだというような顔をするモヒカン。
「その代わり、あなたが負けたら私の下についてください」
彼の額に青筋が浮かぶ。神導さんが心配そうな目でこちらをみているが、私は気にしない。ぬしろ気になるのは、道に蹲ってがたがた震えている光焔さんの方だ。でも、そんなこと気にしていられない。
「いいだろう。その条件でデュエルだ!」
「分かったわ。せいぜい楽しませてね」
デッキをディスクにセットする。
『清澄、今回はなんのデッキを使うんだ?』
「白井さんのデッキで、奇襲専用デッキ」
『あれならそう簡単に負けはしないだろ。まぁ、頑張れ』
言われなくても。
互いにディスクを構える。ディスクが起動音をあげる。2人の友人の心配そうな視線を背中で受けながら、チームを掛けた一戦が始まる。
「「デュエル!」」
家の掃除をしていたらバトスピのカードが出てきたので、懐かしんでいたら投稿が遅れました。闇帝オプスキュリテとか、今のデッキには入らないんだろうなぁ。
次回は不良対清澄の試合からスタートです。どんなデッキにしようか考えていたのに、今回出せなくなってしまいました。デュエルパートはわりと文字数さくので、デュエルパートとは分割したいという個人的な事情です。
さて、次回以降の話はいつもと違い、話の筋は作ってあるので、あとは肉付けです! 早く投稿できるよう、頑張ります!
余談です。フルトラップデッキを作りました。初手で5伏せした時の友人の反応が面白いです。ただ、羽ぼうきが怖いですね。スターライトロードでとりあえず防げるんですけど、手札にない時は無やに伏せない方がいいですね。
そしてwixossの2周年記念スリーブを買いあさりました。近所のカードショップからこのスリーブが消えていたら、きっと仕舞獅子舞が出没しと思ってくださったら嬉しいです。
ではまた次回お会いしましょう。次回は太もも書きたいです!