異世界の少女と絶望のデッキ   作:仕舞獅子舞

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今回は少し無理したかもしれません。
もう少しゆっくりやってもよかったかなぁ、と思っています。
そして、最後に少しデュエルがあります。


絶望のパーツ

4000のバーンダメージ。

OCG環境であってもこの一撃は脅威だ。以前このデッキを白井さんが組んだ時、彼はこう言っていた。

 

『これ、カウントダウンにした方がいいよな。よし、波動キャノン抜いてカウントダウンにしよう』

 

カウントダウン、代表的な持久型デッキで、キーカード発動から20ターンを経過させることでカード効果により勝利するというデッキだ。

波動キャノンは確かに強力なカードだが、簡単に突破されやすい。例えばゴルガー、URANUSを鬼畜モグラでどかしてからのサイクロン、カステルでバウンス。

弱点丸出しのこのカードを私、清澄冷菓があえて採用したのは、アニメ環境に対応するためだ。

終焉のカウントダウン発動時のライフコスト2000、経過ターンの長さ等を考えるとカウントダウンデッキにするよりは波動キャノンの方がいいと考えたのだ。

 

それが結果として、モヒカンのプライドを打ち壊した。

 

白井さんはデッキをディスクから抜きとり、満足そうに微笑む。

 

「デッキとしてはまだ未熟だな。必要パーツが多すぎる。ガチデッキとして未完成とかいうレベルじゃねぇな、こりゃ。でも、ネタデッキとしては合格だ」

『ちゃんと動いたからね』

「動かないネタデッキはそもそもデッキじゃない、が俺のモットーだからな」

 

彼はふと、対戦相手の方を見た。両膝を付くモヒカン。彼のプレイングとデッキ構築は悪くなかった。カードに対する愛情もすごい。ダイダロスやネオダイダロス、竜巻海流壁などの海を使用するカードを大量に詰め込みながらも、ちゃんと回るようになっている。今回もネオダイダロスを召喚し、URANUSデッキをあと一歩のところまで追い詰めた。

だからこそ悔しさも尋常ではないはずだ。

 

「黒板消しの罠は、ちょっと想定外だった。普通あんなカードデッキに入ってないからな」

「……カウンター罠を無効にするカードを入れてるなんてな」

「あぁ……それは……」

『うん……普通入れないもんね』

 

枠が空いてたから、白井さんと私で何を入れようかずっと考えていた。私はギャクタンを入れようと言ったのだが、白井さんは「せっかくならネタカード入れようぜ」といってこのカードを入れたのだ。

ごく稀にだが、ネタカードが勝負を決めることがある。エーリアンベーダーによる反復横跳びでライフを0にできたり、なんとなく入れてたEmフイムイーターが命を救ったりと、遊戯王ではそういった奇跡が、たまに発生する。

 

「まぁ俺の構築がよかったてことで」

『OCGだったら対戦相手泣いてるわね』

 

私の頭に仲間の顔が浮かぶ。

『あはは、カウンター・カウンターねぇ。それいつのカード? 帝王降臨に入ってた? 渋いカード使うねぇ。いいデュエルだったよ、またやろうね』

前言撤回。案外みんな笑ってくれると思う。大会でやられたら流石に怒ると思うけど。

 

「最後に一つ聞く。お前にはThe despair URANUSが闇をまとってたように見えたか?」

「いや、むしろ光をまとっていたぞ?」

「……そうか」

 

白井さんがモヒカンに背を向け、友人2人の方へ振り返る。彼女達は、怯えていた。あまりにも強烈で型破りなデッキ構築。しかもそれを実践において運用するという勇気。全てこの世界では珍しいものだ。

 

『白井さん、笑顔笑顔! 私の真似してほら、にっこり!』

「あっ、お前の体だってこと忘れて普通に喋ってたわ。やっべ」

 

そういえばさっきまで白井さんは、かなり攻撃的な口調でカードしてたっけ。それなら怯えさせても仕方ない。仕方ないけど、少しは気遣って欲しかった。

これで私のイメージはガタ落ちだ。

 

「二人とも、ごめんなさい。少し怖がらせちゃったかも」

 

ぎこちない笑みを浮かべる白井さん。それに対し、神導さんはまるで化け物でも見るような目でこちらを見つめてくる。

 

「……今のデッキは……いったい」

「えーっと、なんて言えばいいんだろ」

『なんて言えばいいのかなんて、私にも分らないわ』

 

家にだいたい伝わる秘密のカード作戦はすでに使用済みだし、私が日頃使うカードは炎王だという認識が彼女達にはある。

 

『いっそのこと開き直るしかないかも』

「これは私のデッキ。私はその日の気分でデッキを変えるタイプなの」

 

そういう言い方をされると、まるでデッキに対する愛情がない人のように聞こえるのはなぜだろう。

 

「では、さっきのデュエルの時の清澄さんは、本当に清澄さんなんですか」

 

神導さんの目つきは鋭い。彼女の目には、デュエル中の私と普段の私が別人として写ったらしい。なかなか鋭い感を持っているようだ。

 

「うーん、何て答えればいいんだろ」

『……あっ、そうだ。こう言っちゃえばいいんじゃない?』

 

私の提案を聞いた白井さんは微笑む。どうやらお気に召したらしい。

 

「驚かないで聞いてくれる」

 

真剣な表情で白井さん、私の身体を使う彼はこう告げる。

 

「私は二重人格なの」

 

 

 

 

「どうぞどうぞ、上がって上がって」

「お邪魔します」

「……お邪魔します」

 

私たちは倒れこんだモヒカンと不良達を置き去りにし、一旦場所を変えて話をすることにした。移動先は当然、私の家だ。大量のカードが散乱しているが、ペンデュラム関連や前の世界に関する物は全て白井さんの部屋に移したので、同級生二人をいれても安全だ。

 

「それで、どこから話せばいいのかな」

 

二人をベッドに座らせ、私は引っ張り出してきた丸椅子に座る。移動中に一時間が経過した為、私の身体の所有権はすでに元に戻っている。今白井さんはケータイの中でおやすみ中だ。

 

「まずは私のもう一つの人格について話そうかな」

 

神導さんと光焔さんが同時に息を飲んだ。いきなりその話が来るか、といった様子だ。

 

「まぁどういう仕組みは分らないんだけど、突然表面に現れて私も身体を乗っ取っちゃうのが私のもう一つの人格で、とにかく攻撃的。……そのくらいしか私には分らないのよね」

「自分のことなのに……ですか?」

「うん、光焔さんの言う通り、自分のことなのにこれしかわかってないのよ」

 

無駄に情報を与えてボロを出し、元の世界のことを明かしてしまったら何が起こるか分らない。このアニメ世界において、OCGの知識を持ち出すということはアニメ世界の歯車を狂わせるということに他ならないのだ。

 

「だから突然体が動き出して、あんな乱暴な口調になっても止められないのよ」

 

これで納得してくれるのだろうか。次元戦争とか起こるような世界の住人だから、このオカルト話も用意に受け入れてくれると思うが……。

 

「わかりました」

 

神導さんの言葉に思わず目を見開く私。予想してた返事とはいえ、疑わなさすぎだ。

 

「えっと、こんな突飛な話なのに、信じてくれるの?」

「信じるしかないですよ。でないとどうしてあの言動をとったのか、説明できないですから」

 

白井さんと私では、何もかもが違いすぎる。口調、趣味、好み、プレイング、カードに対する愛情。どれをとっても同じ物はない。

その全く違う二人が同じ身体を使っているのを他者が見れば、あの人二重人格らしいよ、と言われて納得できてしまうのも仕方のないことだ。

それにしても、ちょっと純粋すぎないかな。

 

「……すぐに信じてくれた方が話しやすくていいけどね。って、光焔さん何してるの?」

「あっ、ごめんなさい。みたことないカードがあったから、つい……」

「あっ……」

 

いつの間にやらベットからおりて押入れを探索していた彼女の手にあるのは、メタルフォーゼフュージョン。

まずいまずいまずい! ペンデュラム関連は全部片付けたつもりだったけど、メタルフォーゼフュージョンは再利用できる手札コストとしても使えるから、出張パーツとして使えると思って置いておいたんだった!

このカードは1ターンに1度デッキに戻してシャッフルしてから、1枚ドローできるという効果をもつ。だからスクラップドラゴンで破壊したり、ツイツイのコストととして落とすのには便利なカードなのだ。だが問題は、このカードを使うテーマ、メタルフォーゼがペンデュラムテーマであるということ。この世界でペンデュラムを使えるのは、まだ榊遊矢だけ。ここで私も使えるなんて言ったら大変なことになる。

光焔さんの近くにあるデッキがスクラップデッキであるのを見るに、おそらくそこから抜き取ったのだろう。

 

「あの、清澄さん、このカードは?」

「えっと、メタルフォーゼフュージョン、ね。なんて説明すればいいのかな。融合先のカードを持ってないから使えないけど、融合と同じような効果を持つカードよ」

「私のシャドールフュージョンみたいなもの……ですか?」

 

うん、違うね。

シャドールフュージョンほどえげつない効果を持ってるわけじゃないよ、それは。デッキ融合なんてチート性能を持ってるわけじゃない。

 

「似たようなもの、かな」

 

専用融合カードという面では同じだ。

 

「じゃあ、このカードはなんですか?」

 

続いて光焔ねねは、カードファイルに入っているノーデンを指差す。彼女が持っているファイルは、禁止カードファイル。もちろん、ヒグルミ等のペンデュラムカードは抜いてある。

 

「それは、禁止カードのノーデンね」

「へぇ、初めてみました。……なに、この融合素材の厳しさ」

「正規召喚する人はあんまりいなかったなぁ」

「……ん? このカード、なんですか?」

 

首を傾げながら、神導さんがファイルに収まっているカードを指差した。

 

「このカード、私知りません。魔導書の神ーー」

「そうだ、せっかく家に来てもらったし、ちょっとデュエルしない? この前作ったデッキの試運転を手伝ってもらいたいの」

 

無理やり話題をかえた。できればそのカードについては触れたくない。神判魔導なんて、滅びればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かがおかしい」

 

ケータイの中で俺、白井は呟いた。外では清澄とその友人達が仲良く遊戯王をやっている。できれば俺もその光景をみていたいが、それどころではない。

今日、再び清澄冷菓の体に入ってーー正確にはURANUSデッキを使用して予感が確信に変わった。

あのURANUSの立体映像は、闇を放っていた。どちらかというと闇を纏っているといった感じだったが、そんなことはどうでもいい。

問題は、あのカードが闇を纏っていたということ。漫画版遊戯王GXは何周もしたからよく覚えている。

 

URANUSではないが、同様のプラネットシリーズに、The blazing MARSというカードがある。そのカードもURANUS同様、闇を放っていたカードだ。

俺の記憶が正しければ、オブライエンがそのカードを使用したのだが、使用者のオブライエンーー精霊を見ることができない人間には、闇を認知することができなかった。それだけでなく、The blazing MARSが闇を放っていたのは、ドラゴエディアが決闘者の生命力を奪い取るためだったはずだ。

だが今回、The despair URANUSはモヒカンから生命力を奪い取っていたようには見えない。モヒカンは息を乱すことなく、気だる気な様子も見せなかった。

それに加え、モヒカンはURANUSの闇を認知できなかった。

 

「おかしいんだよ。全員に見える立体映像としてURANUSが闇をはなっていたならまだ分かる」

 

だが闇は俺にしか見えなかった。正確には清澄の身体でみていたから、清澄にしか見えないのだろう。

生命力を吸収する必要がないのに闇を放っていたURANUS。

 

「ちょっと確認するか。URANUSが闇を出したのって確か、相手にダメージを与えた後だったよな」

 

ケータイの機能を利用し、この世界のネットにアクセス。当然、この世界のネットでは遊戯王GXの情報など手に入るはずもない。だが、抜け道はある。

 

「なぜか俺のブログとかにはアクセスできんだよな、このケータイ」

 

前の世界のサイトにはほとんどアクセスできないのに、なぜか俺が管理していたサイトやデータバンク等にはアクセス出来るのだ。デッキレシピやデッキの回し方のメモを閲覧できるのは嬉しいが、なぜこれらにアクセスできるのかについては疑問が残る。

 

「さてさて、ブログから保管庫にアクセスしてっと」

 

以前、いつでも遊戯王GXの漫画を読めるように、全部データ化したことがあった。もちろんネットにはあげず、個人のデータバンクに入れているだけだが、そのデータバンクへのリンクが俺のブログにあるのだ。

 

お目当ては第8巻、The despair URANUSが登場する回だ。

 

「保管庫のパスは確かーー」

 

パスコードを解除し、データバンクにアクセス。大量のデッキレシピやメモに混ざって現れる、漫画版遊戯王と書かれたフォルダ。

 

「ここだな。さて、オープン!」

 

開かれるファイル。記憶が正しければシリーズごとにファイルわけがされてて、かなり見やすくなっていたはずだがーー

 

絶句。

 

「ーーーーおい、嘘だろ」

 

ネット上のデータで一番あってはならないことが、今目の前で起こっている。

 

「破損データってなんだよ」

 

俺が保存していた画像ファイルが全て、開けなくなっていた。表示される「破損データ」の文字。

 

「ネット上で破損って、マジで言ってんのか!?」

 

今まで、こんなことは一度もなかった。

 

一度深呼吸をし、思考を落ち着かせる。データがなくとも、明日清澄に頼んで本を見せてもらえばいい。急ぐことはない。

 

「でも、早めにこの違和感は取り除いておきてぇな」

 

 

 

 

 

 

 

昨夜は大変だった。

神導さんと光焔さんとのデュエルを終えてから、かれこれ日付が変わるまでずっとデッキ調整をしていたのだ。

日付をまたぐことくらい造作もないことだ、と白井さんはよく言うけれど、私はまだ中学生だし、これでも美容と健康には気を使っている。

私がずっと調整していたのは、昨日たまたま神導さん達とのデュエルで使うことになった儀式デッキだ。儀式の下準備を使用しない構築の儀式デッキで、墓地からのバニラ蘇生などのギミックを搭載した、実戦でもほどほどに戦えるデッキだ。

 

最初は回していた時の感触から事故率を下げようとしていたのだが、気づいたら新しいギミックを大量に詰め込みはじめ、ふと時計をみた頃には日付が変わっていた。

そんなこんなで今の私はーー

 

とても眠い。

 

なんとか授業中は一度も寝ずに頑張れたが、流石に放課後となるともう限界だ。普段のいい習慣のせいで今日も朝早くに目覚めてしまったこともあり、睡眠時間が平均値を大幅に下回っていた。

 

「眠いよぉ」

 

誰もいない教室にて、一人机に突っ伏す私。帰ってくる言葉はない。白井さんですら何も返してくれない。

 

白井さんは昨日の試合の後から、私の呼びかけに応じてくれなくなった。きっと何かを調べているのだろうが、何を調べているのか、そのヒントすらも教えてもらっていない。

 

「白井さんだから、きっと考えてることがあるんだよね」

 

それなら私が何か言う必要はないだろう。彼に任せれば、悪い結果になることはまずないだろう。

前の世界にいた時もそうだ。彼に任せれば、結果的に自分たちだけは利益をむしり取ることができた。

 

「とにかく私は、間近にある問題をさっさと片付けないとね」

 

今日の昼、私のデュエルディスクに一通のメッセージが届いた。差出人は、天城さんだ。

内容は極めてシンプル。

 

『今日の放課後にLDS本社前に集合。赤馬零児がお前と会いたいそうだ』

 

なんだか、面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。

 

 

 

 

 

 

眠すぎて頭がボーッとしているが、なんとかLDS本社前に辿り着くと、そこには見覚えのある顔が二つ。

一つは白い半袖Tシャツにミリタリー柄のズボンという出で立ちの天城さん、もう一つは何処かで見たが名前を思い出せない、学ランを着た赤髪の男。

天城さんは私を見つけると、手を振った。

 

「遅かったじゃねぇか、姉ちゃん。まぁ突然呼び出しちまったから、そんなこと言う権利は俺にはないがな」

「いえ、どうせ暇だったんで。それで……彼は?」

 

私が赤髪の方へ視線を向けると、天城さんが苦笑いとともに答えてくれる。

 

「一度あってるとは思うが、そうか。自己紹介してねぇのか、お前ら」

「……あっ、ヴェルズ使いとやった時にいた 、反LDS派のーー」

「俺、油上光一(ゆがみこういち)っていいます。気安く光一って呼んでくださいよ、リーダー」

 

爽やかな笑顔とともに、彼ーー油上光一はそう言った。私も軽く頭を下げた。

 

「よろしくお願いします、光一さん」

「ちょっ、リーダー!? 俺はリーダーの部下なんだから、そんなにかしこまらないでくださいよ! そんな態度じゃぁ、下の奴らに示しがつきませんよ」

「そっ、そう……?」

「そうだなぁ、ただでさえ中学生だっつうのに、おまけの果てに大人しそうな女だからなぁ。そんな弱々しくされちまったら、他のチームからどんどん対戦申し込まれちまうぞ?」

 

頭をボリボリと掻きながら、天城さんがそんなことを呟いた。

知らない人とデュエルをするのはいいが、また昨日みたいに半ば強制的にカードをする状況になったら、再び白井さんが暴走するかもしれない。

 

「じゃぁ、光一。これからよろしく」

「よろしくお願いしますね、リーダー」

「それで、光一と天城さんはどうしてここに?」

 

天城さんに赤馬零児が連絡して私を呼び出したとするなら、天城さんがついて来るのはいいが、光一がついてくる理由はない。

私の疑問に答えたのは、天城さんだ。

 

「あぁ、こいつはお前への紹介と、LDSの新カードのテストプレイのために、学校帰りのところをとっ捕まえてきたんだ」

「校門で後ろから頭捕まえられた時には、死ぬかと思いましたよ、初代」

 

LDSの新カードのテストプレイ、か。まだペンデュラムカードの開発には至ってないと思うから、アニメには出てこないカードか、それともペンデュラムが入っていないペンデュラムテーマか。

 

「カードのテストプレイ、楽しそうね」

「いや、そうでもないですよ、リーダー。俺みたいに使い慣れたデッキがあるやつは、他のデッキを使うと調子が狂うんですよ」

 

気持ちは分らなくもない。最近ずっとPSYフレームを使ってないから、回し方に自信がなくなってくるのと同じような感覚なのだろう。

 

「それで、なんで私が呼ばれたの?」

「それは直接、赤馬の息子に聞け。俺にも知らされてないんだからな」

 

やはり榊遊矢の試合のことが関係しているのだろうか。私のチケット、わざわざLDS社長に頼んで撮ってもらったチケットで、たまたまペンデュラム召喚が初お披露目されたとは、彼は考えないだろう。

なんせ私はアンチホープという、彼らが把握していないカードを持っているのだ。同じく彼らにとって未知のペンデュラムカードと、何かしらの関係があると考えていてもおかしくはないだろう。私が赤馬零児の立場なら、きっとそう考える。

 

「面倒なことにならなきゃいいけど」

「姉ちゃん、もしかしてなんかやったのか?」

「何もしてないをしたわ」

「ったく、別に何をしようが止める気は無いが、あんま危険なことに首突っ込むんじゃねぇぞ?」

 

私は微笑む。

危険なことに首を突っ込まずにいられるはずがない。私のそっくりさんがエクシーズ次元にいるのなら、会いに行ってみたいし、融合次元やシンクロ次元にも私のそっくりさんがいるなら、出向いて見るのもいい。どのみち、私の進む道には危険しかないのだ。

 

 

 

 

 

 

「遅かったな、清澄冷菓」

 

赤馬零児がそこにいた。

大量のモニターがある部屋の中央の椅子に、彼は座っていた。

 

「わざわざ呼び出してすまない」

「いいのよ、そんなこと気にしないで」

 

髪の毛をいじりながら、彼に問いかける。

 

「それはそれとして、どうしてここには誰もいないの?」

 

私が通された部屋には、赤馬零児一人しかいなかった。それだけでなく、私と途中まで一緒に歩いていた二人ーー天城さんと光一もこの部屋に入ることは許されなかった。

赤馬零児が真剣な面持ちで口を開く。

 

「周りに聞かれるとまずい話だからな」

「ふぅん。まずい話、ね」

「清澄冷菓、率直に問おう」

 

少しだけ身構える。この次に来る言葉はだいたい予想できる。

 

「君はペンデュラム召喚が、あの試合で行われることを、知っていたのか?」

 

やはり来たか。ここで答え方を間違ったら、大変だ。

 

「……私は、あの試合で何かが起こることは予想できてた。でも、ペンデュラム召喚までは分らなかったわ」

「なぜ予想できたんだ」

 

きた。

 

「絶望神アンチホープが教えてくれたの」

 

私は太ももに取り付けたデッキケースを軽く叩く。

これは実験だ。この世界ではどれくらいまでのオカルトが受け入れられるのかという、実験。元いた世界でこんなこと言ったら、頭おかしいだろお前の一言で済まされるが、この世界では、どうなる?

 

「やはりそのカードか」

 

えっ、やはり?

 

「確かめなくてはいけないことができた。清澄冷菓、明後日は空いているか?」

「えぇ、明後日なら大丈夫だけど……」

「ならばいい。君に試作品のカードの実験に付き合ってもらいたいんだ」

 

試作品のカード? それってもしかして……

 

ペンデュラムカードのDD?

 

 

 

 

 

 

「そんなやりとりが、一昨日あったの」

『そうか、清澄。俺が調べものに熱中してる間に、いろいろあったんだな』

「えぇ、いろいろあったの」

『なるほどな。それで今に至ってるわけだな』

 

私の前にはデュエルディスクを構えた赤馬零児。観客席には天城さんと光一。

ここはLDSの一角にある、新カードの試験運用施設という場所らしい。

 

「清澄冷菓。これから行うことは、決して外部に漏らさないでもらいたい。もちろんギャラリーの二人もだ」

 

皆、揃って頷く。

 

「そして清澄冷菓。君にはアンチホープというカードを存分に生かしてもらいたい。そうでないと、カードのデータが取れないのでな」

『あぁ、赤馬社長はアンチホープのデータが欲しいのか』

 

白井さんの言う通りだろう。赤馬零児は私の持っている、彼らにとって未知の情報が欲しいに違いない。だがそれならなぜ、私と直接デュエルすることにしたのだろう。

 

「では、始めるとしようか」

「えぇ、いつでもどうぞ」

「「デュエル!」」

 

先行は私だ。

 

「アンチホープデッキとしてはなかなかいい手札ね」

 

アンチホープデッキのようなネタデッキは、事故率がかない高い。よくあることとしては、アンチホープが2枚手札にいたり、逆にいつまでたってもアンチホープが手札にこないことだ。そう考えるとこの手札はなかなかにいい。

まずは……

 

「手札から魔法カード、手札抹殺を発動!」

 

さようなら、手札のアンチホープ。

 

手札抹殺はお互いに手札を全て入れ替えるカード。ここで見るべきは赤馬零児の墓地だ。DDは墓地発動の効果を持つカードや、蘇生対象となるカード等があるので、DDが相手の時は墓地確認を忘れてはいけない。

デュエルディスクをいじり、相手の墓地のカードを確認する。

 

『まずいな。ネクロとラミアが墓地に落ちた』

「でもスワラルが落ち……あっ、リリスが墓地にいる」

 

相手のデッキはこれでDD確定。ラミアは墓地から特殊召喚ができるモンスター、ネクロスライムは墓地から効果を発動して墓地融合。一番落ちて欲しくなかったモンスターだ。

 

さらにスワラルスライムはモンスター効果で手札融合できるカード。手札にないと効果を発動できないので、本来なら墓地に落ちていて喜ぶべきカードなのだが、この状況では墓地にいても意味がない。まぁ、墓地発動の効果もあるので、どのみち喜べないのだが。

 

『こりゃ、想像異常に厳しい試合になりそうだな』

「そうね」

 

私の手札は4枚。環境上位のDD相手に、果たしてどこまで戦えるか。

 

「とりあえず、全力で回そう! 手札からイービル・ソーンを召喚!」

 

イービル・ソーンはレベル1のモンスターで、アンチホープとの相性はいい。

 

「イービル・ソーンの効果発動! リリースして相手に300ポイントのダメージを与える」

 

さて、手札チェック。これに反応するかな?

 

赤馬LP4000ー3700

 

特に効果は発動しないか。確かDDには効果ダメージを受けた時に手札から特殊召喚できるモンスターがいた気がしたんだが、まだ手札に来ていないのか、それとも私の勘違いか。

 

「イービル・ソーンの効果はこれだけじゃない。さらにデッキからイービル・ソーン2体をデッキから特殊召喚!」

「ふむ、アンチホープを特殊召喚するためには、あと2体、モンスターが必要だが……どうする」

「アンチホープは出さないわ。すぐ処理されそうだし」

 

DDは舐めてかかると痛い目を見る。ここはアンチホープを出すより、手堅くいこう。

 

「私は2体のモンスターでオーバーレイ! 来て! ランク1、シャイニート・マジシャン!」

 

シャイニート・マジシャン

攻 200、守2100

このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。また、このカードを対象とする魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

守備表示で壁モンスターを召喚。

 

「これでターンエンド」

 

さっきの手札抹殺で、アンチホープだけでなく黄泉ガエルとグローアップバルブを墓地に送ることができた。これなら次のターンにアンチホープを出せるが、果たして次のターンが来るだろうか。

 

「これは流石に辛いわね」

 

でも、負ける気はない。




ということで赤馬戦が始まりました。これを書きたいがために、少し無理しました。DDDはリアルで作らなかったデッキなので、友人から借りて回し方を確認。うん、強い。うん、テムジン高い。
そして、次回、話が一気に加速します。ご了承ください。

余談です。
kaiju来日を期待している今日この頃。シンゴジラも、もうすぐ公開ということもあって、テンションが上がってます。
本格的に夏となり、蝉がうるさくなってきました。蝉と言ったら虫、虫と言ったらインゼクター。友人の使うクリストロンをインゼクターで倒してきました。ダンセル帰ってくれば、もっと安定するのになぁ。
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