異世界の少女と絶望のデッキ   作:仕舞獅子舞

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今回は長めです。
デュエル要素たっぷりの回となっております。


2色の眼と偉大な君主

The tyrant NEPTUNE。

プラネットシリーズの中の1枚で、太陽と同じくレベル10のカードだ。その効果は単純だが強力で、使い方によってはズシン等のモンスター効果を奪い取ることができる。

 

俺、白井はケータイの中でずっと頭を悩ませていた。NEPTUNEをドローしてから、清澄の言動に違和感があった。あいつなら、烈旋をもう少しだけ温存しただろう。あの盤面では、効果をパクってもこっちのメリットになるようなモンスターは、ヘルアーマゲドンくらいしかいなかった。それなら貫通持ちのベオウルフが出るのを待った方がよかった。

 

「あいつにしてはかなり珍しいプレイングだったな」

 

彼女のやりたいことはわかったが、普段の彼女なら、それをやる前に相談してくるはずだ。

 

「やっぱり、俺以外の誰かが清澄の身体をのっとったか?」

 

だとしたら、誰が?

いや、誰かなんてわざわざ言うまでもない。だいたい目星はついている。

一人は俺と同じように、ケータイの中に住んでいる奴。そしてもう一人は、The tyrant NEPTUNE。

性格にはNEPTUNEがまとっていた闇。あれが清澄の何かを制御したと考えられる。

 

「……NEPTUNEだけじゃない。URANUSもだ」

 

1度、プラネットシリーズ全てを赤馬零児に解析してもらった方がいいかもしれない。プラネットシリーズが清澄に何らかの悪影響を与えているなら、それをなんとしても取り除かなくては。

 

「……だが、本当に取り除いてもいいのか?」

 

NEPTUNEがやられた時、俺の頭の中が強制的にかき乱され、眠っていた記憶が無理やり引き出された。あれが本当に俺の記憶か怪しいが、少なくとも、あそこにいた連中は全て俺の見知った顔で、俺が対戦していたAF帝の最後の盤面には見覚えがあったし、あいつが使ってたプレマにも見覚えがある。

 

だが、認めたくない。

あれが俺の記憶だったとするなら、俺の記憶の中の清澄と今の清澄は別人ということになる。

 

俺の知ってる清澄冷菓は、挑発行為で何度もジャッジキルされた女だが、記憶の中の清澄冷菓は重度のおっちょこちょい。

 

「……誰かが、俺の記憶をいじったのか?」

 

だとしたら誰が、何のために?

俺の疑問は、とどまることを知らなかった。

 

 

 

 

「確かに預かったが、本当にいいのか?」

 

そう訪ねてきたのは赤馬零児だ。彼の問いに、私は頷く。

 

「えぇ。どんなに時間をかけてもいいから、そのThe tyrant NEPTUNEを解析して」

「……わかった」

 

赤馬零児にNEPTUNEを預けた私は、さっさとLDSを出た。天城さんと光一の二人は、デュエルが終わったらすぐに帰ってしまったので今は私1人。さらに白井さんも考え事中らしく、デュエル終了後から一言も発していない。最後に彼が呟いたあの一言が、私の中で反復される。

 

「……考えるのも、めんどくさくなっちゃった」

 

私は持ってたカバンからデッキケースを取り出す。こっちの世界に来る前に買ったデッキケースで、同人即売会で買った、艦これのデッキケース。ここに入っているデッキは、私の持っているカードだけで組んだ、『どうしてこうなったか分らない』デッキだ。

今まで数度しかリアルで使ったことがなく、デッキの主軸となっているテーマはしっかりと息をしていて、普通にデッキとして成り立ってはいるが、デッキのコンセプトは『どうしてそいつが出てくる』。

カード仲間曰く、清澄も中学生だもんな、いろいろなやんでんだよな。曰く、メインのテーマが霞む。曰く、そのカード抜いた方が強くね。

白井さんがこのデッキを見て「清澄もいろいろ悩んでるんだな。時間はたくさんあるんだ、どんどん悩んでいいんだぜ」と笑顔で言ってくれた覚えがある。

 

「このデッキ、何処かで試してみたいなぁ。でも、LDSに戻るのも気が引けるし、天城さんのカードショップは遠いし…………あっ」

 

そうだ、すっかり忘れていた。簡単に新しいデッキを試す方法があったじゃないか。

そうと決まれば善は急げだ。私はカバンにケースをしまい、全速力で町の中を駆け回った。

 

 

 

というわけで来ちゃいました、遊勝塾。

そろそろ榊遊矢にあってみたいと思っていたのもあるが、それ以上に、この塾には柊柚子がいる。

大分前だが、私は彼女相手にとあるネタデッキを使った。その名もズバリ、『だいなそーデッキ』

悪魔族モンスター、ダイナソーイングを使うために組んだデッキで、基本的には相手に自爆特攻させたり、相手に送りつけてトークンを特攻させたりして、ダイナソーイングの攻撃力をあげるデッキだ。

あのデッキを使って以来、私は彼女とデュエルをしていないし、彼女は私のデュエルをみていない。それが表すことはズバリ、『私がダイナソーイングつかい』だと誤解されているということだ。

 

別に嫌じゃないが、ダイナソーイングつかいというのは、あまりいい気分じゃない。

あのカードは彼岸のパック、エクストラパックに入っていたカードで、私にとっては軽くトラウマもののカードだ。

何十パックも剥いたのにダンテが出なかった嫌な思い出が、ダイナソーイングを見るたびに掘り起こされるのだ。

 

「さて、と。ごめんくださーい」

 

堂々と優勝塾に侵入する私。本来ならペンデュラム召喚を生み出す前の遊矢に出会い、仲良くなる作戦だったのだが、なぜか一度も榊遊矢とエンカウントせず、ペンデュラム召喚が使用されてからも、一度も出会うことができていないのだ。

 

「ごめんくださーい。あれ、誰もいないの?」

 

来るタイミングを間違えたかな? 誰もいないのに来たんじゃ意味がない、と一瞬思ったが、誰もいないはずがない。塾の電気がついているのだから、誰もいないほうがおかしい。

無断で中に入るか? でもそれだと警報装置とかがなったりするかもーーいや、それはないだろう。ここは塾、今はまだ午後5時。この時間なら誰かしらいるはずだ。となれば、デュエルフィールドにいるのかな?

 

そんなことを考えていると、一つの扉からジャージを着た男が飛び出してきて、そのまままた別に扉へと入って行った。

 

「……今のってもしかして……」

 

もしかしなくてもわかる。あれは柊柚子の父親、柊修造だ。

お客さんがいるのにスルーするって、そんなんだから漫画版で経営破綻に陥るんだろう。

 

私は柊父が出てきた方の扉に手を掛ける。遊勝塾の面々がどこにいるか分らないのだから、しらみつぶしに扉を開けて、中を確認するしかない。

 

鼻歌を歌いながら、扉を開けて中に入る。私の予想通り、そこはデュエルフィールドだった。中にいたのは柊柚子、ジュニアの3人組、そして榊遊矢とーー

 

紫雲院素良。

 

「絶対認めなーい!」

 

これが、私が初めて聞いた生榊遊矢のセリフであった。

 

私の記憶が正しければ、榊遊矢がこのセリフを言うのは、紫雲院素良との初戦が終わってからのはずだ。つまり私は、アニメが丁度終わる一歩手前、エンディングが丁度流れたあたりで部屋に入ってきたというわけだ。

 

「なんとも微妙なタイミングで入ってきちゃったなぁ」

 

呟いてから、しまったと思った。皆の視線が私に向く。誰だこいつ、そんな目をしている皆。それもそのはずだ。私は無断でここに入ってきたのだから。

 

「えーっと、お邪魔してます」

 

とりあえず挨拶から。さてさて、ここからどう言い訳を展開していこうか。

 

「あれ、もしかしてレーカ?」

「あっ、柚子、久しぶり」

 

よかった、知り合いがいた。知り合いがいるのといないのとじゃ、警戒のされ方が違う。知り合いがいないところに無断侵入したんじゃ、話すら聞いてくれないこともある。

 

「えーっと、初めまして、清澄冷菓です。そろそろ塾に入ろうかなーって思って町中ブラブラしてたらたまたまここに来たんですけど、誰もいなかったみたいなんで勝手に入ってきちゃいました。ごめんなさい」

 

まずは謝ろう。以前カードゲーム仲間の一人が言っていた。何かあったら、まず謝る、それが日本人だと。

 

「えーっと、塾の見学者さんってことで、いいのかな?」

 

榊遊矢が困惑した様子をみせつつ、しっかりと受け答えしてくれた。

 

「そういうことになりますね」

 

もし今白井さんがいたら、間違いなく緊張してるとかいっていじられていただろう。初対面の相手に敬語を使うのは私のくせだ。直す気もない。

 

「遊勝塾といえば最近ではP召喚で有名なあなた、榊遊矢がいますけど、それは特に関係ないんですよね」

 

あっさりと言い放つ。さすがにこれで心が折れたら遊矢のメンタルは、豆腐を超えてトランプタワーの域だ。扇風機で爆散。

 

「私はここで教えているエンタメデュエルに興味があるんです」

「へぇ、君もエンタメデュエルに興味があるんだね」

 

別にこの言葉は嘘ではない。この世界において、普通のデュエルではそうそう負ける気はない。ネタデッキやファンデッキでは負けるかもしれないが、本気で相手を倒すために構築された、勝ちにこだわるデッキなら、まず負けない。

しかしこの世界には一つだけ、私にとって不安な要素がある。それが、アクションカード。

 

「アクションカードを使って華麗に戦い、なおかつ観客を湧かせる。そんなデュエルのやり方をどうやって教えているか、少し気になったんです」

 

うーん、こうやって間近で榊遊矢を見ると、その髪型の奇抜さがますます際立つ。本当に、トマトみたいだ。

 

「あと、ペンデュラム召喚も見てみたいですしね」

「そういうことなら、とりあえずデュエルしよう。デュエリストは口で語らずデュエルで語る、ってね!」

 

あなたがそれを言うか。あんなにデュエル中うるさいあなたがそれを言うか。

 

「遊矢、気をつけて」

「柚子?」

「レーカは不思議なデッキを使うの。油断してたらやられちゃうわ」

「えっ、冷菓って、あの転校生だろ? 俺は『転校生のデッキは炎王』って聞いたけど?」

「炎王? 私が戦った時はダイナソーイングっていうモンスターが出てくるデッキだったけど……」

「2つのデッキを持ってるってことかな? まぁいいか。さぁみんな、観客席に移動して。俺のエンタメデュエルを始めるよ!」

 

榊遊矢に言われ、フィールドから出て行くジュニア達と、柚子と素良。素良からは変な視線を感じたが、このさい気にしない。

私はさりげなく柚子に持っていたカバンを渡し、腕にデュエルディスクをつける。

 

「柚子、デュエルフィールドを決めてくれ!」

『ちょっと待って。今お父さんがーー』

『どうしたんだ、柚子。また遊矢がデュエルを……誰だ、あの対戦相手』

 

私はデュエルフィールドにある操作室の方へ頭を下げる。

 

「初めまして、柊塾長。この塾に見学に来ました、清澄冷菓です」

『清澄? ……どっかで聞いた気がするなぁ。あっ、天城さんのところのお嬢ちゃんか!』

 

えっ、なぜあの人の名前が出てくる? もしかして天城さんって有名人なのか?

そう思っていたら、遊矢が首を傾げて柊修造に尋ねる。

 

「天城さん?」

『もとプロデュエリストだ。確か子供にデュエルを教えたいからプロを引退したとか……』

 

あの人、プロだったんだ。

 

『今でもたまにお酒に誘われるんだ。その時君の名前は聞いたよ、清澄冷菓くん』

 

くん付けはやめて欲しいなぁ。前の世界にいた嫌なやつを思い出す。

 

「塾長! 早くデュエルしたいんだけど!」

『おっおう、悪いな遊矢! 今回のフィールドはここだ!』

 

何もなかったデュエルフィールドが、徐々に形を表していくと同時に、室内の気温が一気に下がっていく。浮かび上がったデュエルフィールドの全貌を見て、思わず私は息を飲んだ。

 

「……ここ、もしかしてーー」

 

平坦な大地に突き刺さる無数の棒。それの一つ一つの幅はどれも均等で、まるで墓のようだ。いや、本当に墓なのだ。

間違いない。ここはーー

 

『アクションフィールドは希望の墓場、だ!』

 

e・ラーとゼアルのメインキャラ達がラストバトルを繰り広げた場所だ。漫画版遊戯王ゼアル8巻で登場する場所なので、知っている人も多い場所だろう。ホープライトニングがついてくる巻だ。

エヴァンゲリオンのワンシーンを思い起こさせるそのフィールド上は、よく見ればただの墓場じゃない。私の背後には土が剥き出しの陸地と、凍りついた海がある。

 

「アンチホープのためのフィールド……」

 

絶望の神が戦ったフィールド。こんな場所でデュエルできるなんて……

 

『なんか不気味だなー。フィールド変えようよー』

「素良はあぁ言ってるけど、どうする?」

「大丈夫ですよ、このままのフィールドで」

 

確かに不気味ではあるが、これほどまでに私とマッチしたフィールドはない。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

榊遊矢がデュエル開始前の口上を口にする。それに合わせるように、私も声を上げる。

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これぞデュエルの最強進化系」

「アクショーン!」

 

「「デュエル!」」

 

先行は榊遊矢だ。

私は手札を確認する。悪くない手札、むしろ最高の手札と言っていいが、このデッキで最もやりたいことはできない。

私は改めて周りを見渡し、アクションカードの位置を確認する。

それからその場にしゃがみ込み、自分の靴を脱ぐ。

 

『あれ……あの人何してるの?』

 

観客席の鮎川アユちゃん、ジュニア組の少女が疑問を口にした。

 

『靴を、脱いでる? レーカ、靴履かないと危ないわよ!』

「大丈夫よ、柚子。そんなに動かないし」

 

こう見えても小さい頃は田舎に住んでいたから、裸足で田んぼの中を駆け回っていたので、革靴で走るよりは速度が出るし、危ない場所はモンスターに行ってもらえばいい。

 

靴下も脱いで自由になった指を動かし、その場で少しステップを踏む。

うん、悪くない。

 

「えっと、始めてもいい?」

 

律儀に待ってくれてたんだ。ありがとう、榊遊矢。

私は一度だけ頷くと、彼は大きく息を吸い込んでーー

 

「さぁ、いきますよ! 私は手札からEMディスカバーヒッポを召喚!」

 

フィールドに現れたのは攻撃力800のカバ。現れたそいつの背中に、遊矢は飛び乗る。

 

「さらにカードを1枚セットし、ペンデュラムスケールにオッドアイズ・ペンデュラムドラゴンと、星読みの魔術師をセッティングし、ターンエンド」

 

さて、そろそろ私も動きますか。

素足で地面を踏みしめ、墓場を疾走する。遊矢もヒッポの背中に乗り、墓場を駆け抜ける。

 

「ターン終了時、オッドアイズペンデュラムドラゴンのペンデュラム効果発動!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、レベル7

攻2500、守2000

『Pスケール、4』

1、自分のPモンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを0にできる。

2、自分エンドフェイズに発動できる。このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のPモンスター1体を手札に加える。

『モンスター効果』

1、このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、このカードが相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

 

「ペンデュラムスケールのオッドアイズを破壊し、私はデッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター、慧眼の魔術師を手札に加えて、ターンを終了します!」

 

榊遊矢の喋り方はまさしく道化師そのもの。それこそ周りを楽しませるためであり、自分の弱さを隠すための仮面でもある。

 

そんな道化を演じる彼の手札はたった2枚。そのうち1枚はOCGで制限カード入りを果たした魔術師、慧眼だ。

なぜ時読みの魔術師をペンデュラムスケールにセットしたのだろう。単なるプレイングミスか? それともペンデュラム召喚の開祖なりに、ペンデュラムの使い方を探っているのかもしれないが、どのみち私のプレイングに大きな影響はない。

 

「ターンをもらうわ……とりあえず、ドロー! さらにアクションカードも貰うわ!」

 

素足でブレーキをかけつつ、アクションカードを取る。これで私の手札は7枚。

さっきの通常ドローでキーカードを引けた。このデッキで最も攻撃力が高いモンスターだ。

 

「おっと、お相手はアクションカードをゲットしたようですね! では私もアクションカードをゲットします!」

 

カバの背中に乗ったまま地面に落ちていたアクションカードを華麗に手に取る遊矢。

 

私はいったん立ち止まり、足の裏を確認。大丈夫、皮はむけてない。

 

「じゃあ、一気に回しますか。 手札抹殺を発動! 互いに手札を全て捨て、捨てた数だけドローするカードよ。私が捨てるカードは6枚」

「私の手札は3枚です、よって3枚捨てて3枚ドローします!」

 

アクションカードも手札として数えられるので、手札抹殺と相性がいい。私はデッキから6枚ドローし、思わず笑みを浮かべた。

サイコーの手札、そして墓地だ。

 

「手札から捨てたモンスター、暗黒界の尖兵ベージ、暗黒界の龍神グラファ、さらに2体の暗黒界の術師スノウの効果発動! このモンスター達、暗黒界カテゴリーのモンスター達は基本的に手札からカードの効果によって捨てられたとき、効果を発動できる!」

「なっ、手札から捨てられた時に発動する効果だって!?」

 

あっ、遊矢が素に戻った。

……可愛い。

 

「スノウの効果でデッキから暗黒界の門をサーチ、さらに2枚目のスノウで暗黒界の取引をサーチ、グラファの効果で相手の伏せカードを破壊!」

「くっ、俺のドタキャンが」

「まだまだ! 暗黒界の尖兵ページの効果で、自身を墓地からを特殊召喚!」

 

暗黒界の尖兵ページ、レベル4

攻1600、守1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

なんということでしょう。手札抹殺は本来手札の枚数を一枚減らしてしまうカードだが、暗黒界と組ませればアドバンテージを稼ぐことができる。暗黒界とは、そういうテーマだ。

ディスアドバンテージがアドバンテージに早変わりする。だからこそ、恐ろしい。

 

「これで私の手札は8枚」

「手札が増えてる……」

 

手札を見た後に、自分の墓地を確認。スノウ2体とグラファと、このデッキのキーモンスターが1枚闇属性悪魔族のモンスターなので、このデッキと相性はいい。

 

『……おっおい、これどういう状況だ?』

 

耳元から聞こえる声。

 

「あっ、白井さん。考え事はもういいの?」

『あぁ、丁度終わったとこだ。で、どういう状況ーー暗黒界!? もしかしてあの、意味不明な暗黒界か!?』

「意味不明って……確かにそうだけど」

『あの、ダークストームドラゴンとかギルフォとかガンドラとか入れてた、あの意味不明な暗黒界か!?』

 

その話はできれば蒸し返さないで欲しい。あの時の私はかなり瞑想してた。今では軽く黒歴史だ。

 

『まぁ始まっちまったもんはしょうがねぇ。てかこのフィールドあれだよな、e・ラーの』

「うん、希望の墓場だって」

『なんでアンチホープデッキじゃないんだよ』

「NEPTUNE抜いたから枚数が足りないの」

 

私は改めて手札に向き直る。まずはーー

 

「手札からフィールド魔法、暗黒界の門を発動」

 

暗黒界の門、フィールド魔法

フィールド上に表側表示で存在する

悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。 1ターンに1度、自分の墓地に存在する悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。 その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

フィールド魔法を発動すると同時に、私の背後に禍々しい形をした門が現れる。

このデッキは闇属性悪魔族で統一したデッキなので、全てのモンスターが暗黒界の門の対象となる。

 

「暗黒界の門の効果発動! 墓地の悪魔族モンスターを除外し手札の暗黒界の狩人ブラウを捨て、ワンドロー!」

『ブラウの墓地発動効果、忘れんなよ』

「ブラウの効果発動!」

 

暗黒界の狩人ブラウ、レベル3

攻1400、守 800

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、自分のデッキからカードを1枚ドローする。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらにもう1枚ドローする。

 

「デッキから1枚ドロー! これで私の手札は8枚」

『キーカードは全部揃ったな』

「さてさて、まずは墓地のグラファの効果発動。フィールドのベージを手札に戻し、墓地からグラファを特殊召喚」

 

暗黒界の龍神 グラファ、レベル8

攻2700、守1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の自分フィールド上に表側表示で存在する「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、墓地から特殊召喚する事ができる。このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。確認したカードがモンスターだった場合、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

私の背後にあった門が開き、そこから伸びた黒い腕がベージの身体を掴み取り、門の奥へと引き摺り込んだ。そして完全にページの体が消えると同時に現れたのは、龍の姿をした悪魔。龍神、グラファ。

 

「ベージを手札に戻して特殊召喚って、また手札から捨てたらベージの効果が発動するってことじゃないか!」

「グラファは暗黒界モンスターを手札に戻せるから、スノウを墓地に送って、蘇生して、グラファで手札に戻して、カードの効果で捨ててを繰り返せば何枚も暗黒界カードをサーチできるのよ」

「でも、カードの効果で手札を捨てないといけないってことはーー」

「コストで捨てたら意味ないし、手札枚数制限で捨てても意味ないの」

 

最初はコストと効果の違いがいまひとつ分らなくて、ライトニングボルテックス等の手札コストを要するカードをデッキに入れていた時期もあった。

 

「グラファの攻撃力は、門の効果で3000になっているわ。さらに手札からベージを通常召喚!」

 

私はグラファの背中に飛び乗る。

 

「さぁ、あのカバを滅ぼしなさい! 私のエースモンスター、グラファ!」

「くっ、手札からEMバリアバルーンバクの効果発動! 手札から捨てることで戦闘によるダメージを0にする!」

「でも関係ない! 足を潰せば私が有利だ!」

 

グラファがすれ違いざまに榊遊矢の乗ったディスカバーヒッポを破壊する。

だが、遊矢はヒッポから飛び降りると同時にアクションカードをゲットした。

 

「さらに、ページでダイレクトアタック!」

『くたばれEM!』

 

遊矢LP4000ー2100

 

暗黒界の門の効果でページの攻撃力は1900。ライフが4000しかない状況下ではかなり響くはずだ。

 

「……さっきのくたばれEMって何?」

『ちょっとEMEmが頭に浮かんでな』

「あれって悪いのはヒグルミジャグラーじゃないの?」

『ジャグラーは悪くない。制限復帰させてもいいだろ』

「でも猿はダメ、と」

『あいつは獄中でマキュラと踊ってろ』

 

今、私の手札は8枚。一方の遊矢の手札は2枚と、アクションカードが一枚。フィールドも榊遊矢の方にはPスケールの星読みしかいないが、私のフィールドにはグラファとページ、それに暗黒界の門がある。

 

「アド差はすごいけどーー」

『油断してたら一発で逆転されちまうからな』

「仕方ないわね。手札から魔法カード、アドバンスドローを発動」

 

自分のフィールドにいるレベル8以上のモンスターをリリースして、デッキからカードを2枚ドローするカード。グラファのように自信を蘇生できるカードと相性がいい。

 

「フィールドのグラファをリリースして、デッキから2枚ドロー」

 

グラファが訥々に消え去り、私は地面に着地する。足の裏が痛い。グラファがいるうちに、丁寧に降ろしてもらえばよかった。

 

……そろそろ手札枚数が大変なことになってきた。ターン終了時には手札枚数が6になるようにしないといけないので、できるだけフィールドにカードを伏せた方がいいのだが、羽ぼうきやツインツイスターといった、相手フィールドの魔法を破壊するカードが怖い。

でも,捨てるのは勿体無い。

 

「カードを4枚伏せてターン……あっ、ちょっと待った! 墓地のグラファの効果発動! フィールドのページを手札に戻して、グラファを特殊召喚!」

 

ふぅ、危うく忘れるところだった。攻撃力の高いグラファを出しておいた方が、戦闘で破壊される可能性も低いし、さらに手札に戻したページを再利用できるし、何より乗り心地がいい。

再び門から現れたグラファの背中に飛び乗り、アクションカードを探す。

 

「あっ、私はこれでターンエンド!」

 

手札6枚、伏せカード4枚。ライフは初期値のまま。非常にいい滑り出しだ。

でも私としてはワンショットキルを決めたかったので、死者蘇生を引くまでデッキを回した方が良かったかもーーーーあれ、これ、私が勝っちゃったら榊遊矢の心が折れるかも? それはまずい。こんな物語の序盤で折れられたら困る。

 

「グラファ……アクションカードはいらないから、適当に走り回って。風を感じたいわ」

 

どうせソリッドビジョンだから、疲れることもないだろう。龍神に乗っているとはいえ、乗り心地は以前白井さん達と北海道に行った時の乗馬を思い起こさせる。ただ、馬よりもお尻に来る振動がすごいし、女の子座り状態じゃないとまたが裂けそうだが。

 

「くっ、俺のターン、ドロー!」

『さて、榊遊矢のターンだな」

 

相手の手札に羽箒がなければ、とりあえず次のターンにはこのデッキでやりたかったことができるようになる。もしバックが除去されたら、普通に暗黒界ビートをすればいい。暗黒界というテーマは混ぜ物をしても、テーマとしての印象が薄くなることは少ない。

むしろこのデッキのキーカードの存在が薄くなって、入れなくてもいいんじゃないかと思うほどだ。

 

「…………チッ」

 

ッ!?

今、私の口が勝手に動いた! なんで、どうして舌打ちなんてしたの?

 

私の疑問に対する答えはない。その代わり、榊遊矢が動き出す。

 

「強い。暗黒界デッキ、確かに強いけど、負けたくない! 手札から、時読みの魔術師をPスケールにセッティング!」

 

ペンデュラムスケールは1と8。

フィールドに現れる2本の青い光の柱。その間を振り子が揺れる。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能! 揺れろ魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 来い、俺のモンスターたち!」

 

光の柱の間に穴が空き、複数のモンスターが同時に降って湧く。

 

「こい、EMウィップ・バイパー、EMチアモール! そしてエクストラデッキから蘇れ! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」

 

アクションカード以外の全ての手札を使用して召喚したモンスター達。

レベル2のチアモール、レベル4のウィップバイパー、そしてレベル7のオッドアイズペンデュラムドラゴン。

 

「……一度に大量のモンスターを召喚するのはいいけど、このままじゃグラファの突破は無理よ?」

「確かにオッドアイズの攻撃力は、2500でグラファを突破できない。でも、お楽しみはこれからだ!EMウィップ・バイパーの効果を発動!」

 

突然乗っていたグラファが立ち止まり、その場に膝をついた。

 

「グラファ!?」

「ウィップバイパーの効果により、暗黒界の龍神グラファの攻撃力を守備力と入れ替えました! これでグラファの攻撃力は2100に減少します!」

 

EMウィップ・バイパー、レベル4

攻1700、守 900

1、1ターンに1度、フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力をターン終了時まで入れ替える。この効果はお互いのメインフェイズにのみ発動できる。

 

派手なモーションで、さらにディスクをタップする榊遊矢。

 

「さらにEMチアモールの効果発動!対象は暗黒界の龍神グラファ!」

 

EMチアモール、レベル2

攻 600、守1000

『Pスケール:青5/赤5』

1、自分フィールドのPモンスターの攻撃力は300アップする。

『モンスター効果』

1、自分メインフェイズに元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力の数値によって以下の効果を適用する。

・そのモンスターの攻撃力が元々の攻撃力より高い場合、

そのモンスターの攻撃力は1000アップする。

・そのモンスターの攻撃力が元々の攻撃力より低い場合、そのモンスターの攻撃力は1000ダウンする。

 

「暗黒界の龍神グラファの攻撃力より低いので、さらに攻撃力をダウンさせます!」

 

あぁ、グラファ。これで一旦お別れね。

私は膝をついたまま動けずにいるグラファからおりて、榊遊矢の方を見る。

 

「これでグラファの攻撃力は1100にまで下がった。これならーー」

「バトルだ! オッドアイズペンデュラムドラゴンで、グラファに攻撃!」

 

ちょっ、最後まで言わせてよ!

 

「オッドアイズペンデュラムドラゴンとの戦闘ダメージは2倍になる! くらえ、灼熱のスパイラルフレイム!」

 

清澄LP4000ー1200

 

「くっーー残りライフ1200」

「これで終わりだ! EMウィップ・バイパーでダイレクトアタック!」

 

……。

 

『この攻撃を受ければ遊矢は勝つな』

「うん」

 

ここで負ければ遊矢の心は絶対に折れない。アニメの進行にも問題はない。

 

「でもーー」

『あぁ』

 

デュエルディスクに手を伸ばす。

 

「『負けてたまるか!』」

 

トラップカード、オープン。

 

「『闇次元の解放!』」

「闇次元の解放?」

「このカードは除外されている闇属性モンスター1体を、特殊召喚するカード!」

 

ずっと温存していた私の切り札が、今降臨する。

 

『清澄、口上は?』

「いつも通り二人で合わせるわよ!」

 

「『光からと置き場所に闇は宿る。冥府の使者は、忘却の彼方で光の周りを回り続ける。来て、私たちの切り札!The() suppression(サプレッション)PLUTO(プルート)!』」

 

The suppression PLUTO、レベル8

攻2600、守2000

1、1ターンに1度、カード名を1つ宣言して発動できる。相手の手札を全て確認し、その中に宣言したカードがあった場合、以下の効果から1つを選んで適用する。

・相手フィールドのモンスター1体を選んでコントロールを得る。

・相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊する。その後、破壊したその魔法・罠カードを自分フィールドにセットできる。

 

フィールドに現れたのは、冥王星の名を持つ悪魔、The suppression PLUTO。漫画版遊戯王GXにおいて、十代を倒したプラネットカードだ。

NEPTUNEと同じく闇を纏ったそのモンスターを見て、榊遊矢が目を見開いた。

 

「攻撃を中断して、ターンエンド」

「……ふぅ」

 

きっつぅ。次のターン、再びグラファを出して数でおせば間違いなく勝てるが、それで遊矢の心が折れたら元も子もない。

 

「考えてても仕方ない! とりあえずドロー!」

 

……きた。

私は目を閉じて、榊遊矢に語りかける。

 

「デュエルは楽しい?」

「えっ……?」

「楽しい?」

「あっあぁ、楽しいよ」

「負けかけてても?」

「それでも楽しいよ。デュエルは最後まで何があるか分らないからね」

 

あぁ、とても眩しい。EMEmと当たった時点でサレンダーしようとした私とは、全然違うや。

 

「私、あなたとプレイできてーーいや、遊矢とデュエルできて、本当に嬉しいわ。そのお礼に、このデッキの全力を見せてあげるわ」

『おい、やるのか清澄』

「えぇ、このデッキの全力! とくと味わってもらうわ! 伏せておいた暗黒界の取引を発動! 互いに1枚ドローして、手札を1枚捨てる!」

 

「「ドロー!」」

 

「俺が捨てるのは、アクションマジック、奇跡」

「私が捨てるカードは、地縛神Ccapac(コカパク)

「コカ……なんだって?」

「私の第2の切り札、地縛神Ccapac Apuよ。このカードが墓地に送られたから、私は伏せておいたこのカードを使うことにするわ」

 

トラップカード、オープン。

 

「リビングデッドの呼び声」

「墓地からモンスターを蘇生するカード……」

「私は墓地のCcapac Apuを選択!」

 

 

 

地縛神 Ccapac Apu

攻3000、守2500

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

フィールドに現れる闇の巨人。全身に入った光のラインは、ナスカの地上絵を想起させる。地縛神の一つにして、満足が使った神。

これがこのデッキの真の切り札、Ccapac Apu。

 

このデッキは元をたどれば、白井さんから暗黒界のパーツを全て借りて、混ぜ物をしたらどれが一番暗黒界に合うかを試したものだ。セルケト、地縛神全種類、最上級デュアル全種、神、邪神、幻魔、インゼクター、デーモン、その他もろもろ、あげればきりがない。

借りたカードが全て白井さんのものだったので、正確には私のデッキではないので久しぶりに触れたが、デッキ内容は当時一番面白いと思った形にとどめられていた。

地縛神が出て来るという衝撃だけでなく、暗黒会とのシナジーが確かにあるというのも事実だ。

 

榊遊矢はCcapac Apuを前に足を止めた。得体の知れないモンスターへの恐怖を感じ取ったのだろうか。だが、すぐさま足を動かして近くにあったアクションカードを手に取る。

 

『そういえば、Ccapac Apuからは闇が出てないな』

「それもそうだけど、今はデッキを全力で回してる最中だから少し黙ってて!」

『悪い』

 

遊矢の手札枚数はアクションカードを含めて2枚。対する私の手札枚数は7。少し手札を減らそう。

 

「カードを一枚セットし、再び手札から暗黒界の取引を発動!」

 

互いにカードをドローする。

 

「俺はEMラ・パンダを捨てる」

「私が捨てるカードは、暗黒界の門」

 

これで手札は5枚。よし、これならいける。

 

「さらに手札から魔法カード、墓穴の道連れ!」

 

墓穴の道連れ

1、お互いのプレイヤーは、それぞれ相手の手札を確認し、その中からカードを1枚選んで捨てる。その後、お互いのプレイヤーは、それぞれデッキから1枚ドローする。

 

「さぁ、遊矢。あなたの手札を見せなさい」

「くっ、EMゴムゴムートンとアクションマジック、回避だよ」

「ありがとう、私は回避を選択するわ。さぁ、次は遊矢が選ぶ番ね」

 

手札を遊矢の方に向けて宣言する。

 

「私の手札は暗黒界の尖兵ベージ、暗黒界の龍神グラファが2体と、暗黒界の狩人ブラウよ」

「全部暗黒界モンスターだって!?」

「そんな驚くことでもないでしょ。そのためにカード伏せたり取引で門捨てたりしたんだから。さぁ、選びなさい」

 

榊遊矢は迷ったすえにベージを選択。その後お互いに1枚ドローする。

手札から捨てられたページはフィールドに特殊召喚。

 

「これで総攻撃をしかければ勝てるけど、一応念のため、次のターンまで長引いた時のために、やることはやらせてもらうわ」

 

ディスクを操作し、The suppression PLUTOのカードをタップ。

 

「The suppression PLUTOの効果発動! カード名を一つ宣言して、そのカードが相手の手札にあった時、PLUTOの効果は発動する。私が宣言するカードはもちろん、EMゴムゴムートン!」

 

遊矢が手札をこちらへと向けた。そこには確かにEMゴムゴムートンがいた。

 

「トリガーヒット! PLUTOの一つ目の効果を適用! 私はEMウィップバイパーのコントロールを奪い取る!」

「コントロールを奪取する効果だって!? そんなすごい効果を持つモンスターがいるなんてーー」

「うーん、驚いて欲しいのは道連れの意外な使い方なんだけど、まっ、いっか」

 

このコンボは榊遊矢がアクションカードを取らなければ、起こりえないものだった。手札が1枚だけの状況で道連れをうっても、ピーピングした手札が捨てられてしまうので意味がない。けれど、2枚ならばもう片方は残る。そうすればPLUTOの効果で相手のカードのコントロールを奪うことができる。

 

『ウィップバイパーの効果をチェーンしてうたれなかったのが救いだな。すぐに手札を見せてくれるなんてーー』

「白井さん、少し黙っててっていったよね。まだ色々考えてるの」

『悪い』

 

さて、ここからいかに不自然にならずに目標を達成するか。せっかくPLUTOを出せたんだから、試すことは試しておきたい。

辺りを見渡し、アクションカードの位置を確認。榊遊矢の後方、十数メートルのところか。

 

「さぁ遊矢。私の全力の一撃を、受ける前に少しだけ時間を上げるわ。最後まで何が起こるか分らないってことを、私に見せてみて!」

 

その言葉に気づいたのか、辺りを見渡した遊矢がアクションカードの存在に気づき、そちらの方へと駆け出した。

よし、あとはあのアクションカードに賭けるだけだ。

 

「さぁ、The suppression PLUTOでオッドアイズペンデュラムドラゴンにアタック! くらえ冥府よりの連撃、Three satellites!」

 

オッドアイズの目前まで迫る、PLUTOの触手。だがそのギリギリ手前で、遊矢がアクションカードを手にとった。

 

「よし! アクションマジック、ハイダイブを発動! オッドアイズの攻撃力をターン終了時まで1000上昇させる!」

 

PLUTOの攻撃力は門の効果で2900に上昇しているが、オッドアイズの攻撃力は3500。

よし、賭けには勝った。

 

「これで攻撃力は600上回った!さらにオッドアイズの効果により、戦闘ダメージは倍になる!」

 

私の残りライフは1200。

 

「さぁ反撃しろ、オッドアイズ! 灼熱のスパイラルフレイム!」

 

オッドアイズの口から吐き出された炎がThe suppression PLUTOを包み込みーー

 

再び、闇とともに私の中の何かが弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

そこは見覚えのある場所だった。私たちが拠点としているカードショップのうちの一つ。

私は座り慣れたパイプ椅子に座ってwixossをやっている。目の前の対戦相手は某有名コスプレイヤーことユッピーさんだ。

 

「じゃあ、ターンもらうわね。……チャージアンドグロウ、レベル2アルフォウ」

「ユッピーさん、そういえばアサヒさんは今日来ないんですか?」

 

また勝手に動く私の口。周りには自称元ラグビー部のカードゲーマーと遊戯王をしている白井さんがいる。

 

「……なんでアサヒのことをあたしに聞くの? 白井じゃなくて」

「だってアサヒさんとユッピーさん仲良さそうだし、この前もアサヒさんが何してるか知ってたし」

「たまたまよ。今日はいかないって朝メールがきたわ」

 

このやりとりは記憶にある。たしかその数週間後に、アサヒさんとユッピーさんは仕事の同僚だってことがわかったんだっけ。

 

「なんでよりによってユッピーにメール送ったかは突っ込まないでやるよ」

「白井さーん、モリンフェン様でダイレクトアタックっすよー」

「それは止めるわ。ミラフォ。爆散しろリア充」

「白井、あたしとアサヒは付き合ってないわよ? それにあんた、彼女いるでしょ」

「一昨日別れた。あいつボランティアでケニアに行くんだと。それで向こうから分かれるように言われた」

 

くだらない会話。いつも通りの日々が当たり前のように過ぎて行く。

私はユッピーさんとカードをやりつつ、考えていた。

この当たり前の光景に一体なんの意味があるのだろう。さっきのデュエルで見た白井さんのように、私の知らない何かを知ることができるのだろうか。

 

そう思っていると、なんだかレジの方が騒がしくなってきた。気になって視線を向けたかったが、体は動かない。

 

「ルリグアタック」

「あっ、防ぐわ。ユッピーさん、そういえば今度のコミケどうするの?」

「そうね、艦コレは息が長いからまた披露してもいいんだけど、折角だから今年はカバネリとかでーーって、なんだか騒がしいわね」

 

そう彼女に言われて、ようやく私の首が動いた。どうやらレジで客がもめているらしい。白井さんも遊戯王の手を止めて、レジの方を見た。

 

「そういや今日のレジ、つい最近入ったバイトのやつだったよな」

「なんか不手際でもあったのかしらね」

 

ユッピーさんが興味なさそうにそう言ったが、白井さんは席をたった。彼はこの近辺にあるカードショップ全てに所属している店員のような立ち位置で、なにかしらのトラブルがあったら手伝うことになっているそうだ。

白井さんはレジの中に入り、アルバイトの男に声を掛けた。

私はじっと、白井さんの方を見つめ、耳を澄ます。

 

「どうした、何かあったのか?」

「あっ白井さん! このお客さんが使用済みスリーブの買取値段がおかしいっていってきて……」

「買い取り額は……妥当だろ。お客さん、なにかご不満でも?」

 

白井さんが首を傾げる。レジを挟んで向かい合っている客は、髪を金髪に染め上げたガラの悪い感じの人だ。

 

「冷菓ちゃん、あれ、多分いつものやつよ」

「いつもの?」

「あっ冷菓ちゃんは始めてかしら。この店って使用済みスリーブもいい値で買い取ってくれるから、他の場所からもいろんな人が来るの」

 

ユッピーさんが自分のルリグデッキを確認しながら続ける。

 

「その中によく、買値をもっとあげろだとか、そういうことを言ってくる人がいるのよ。それで相手が弱気だと若干強引に、恐喝まがいのことをしてくるのがいるのよ」

「……そんな常識知らず、本当にいるの?」

「いるのよ。以前それで折れちゃったバイトがいるせいでね。それから噂が広まったせいか、もう2度と店に来なくなる代わりに、そういう恐喝行為をするのがでちゃったってわけ」

 

私の記憶が正しければ、この客が白井さんのことを殴っちゃって、大変なことになるはずだ。私が知ってる中で最も一方的なリンチ。白井さんと周りにいた数人袋叩きだ。

 

「これイベント限定のスリーブだし、未開封品だぜ?買値がもっと高くてもおかしくないだろ」

「2013年のフェス限定品ですね。市場での売値はだいたい1000前後ですね」

「だろ? ならーー」

「でもこれ、すでに開封されてますよね」

 

私の目の前にいたユッピーさんが目を見開き、私で無い私が急いでレジの方へ首を向けた。

 

「は? 新品だっつうの。ちゃんと内側をノリで止められてるじゃねぇかよ」

「これ、ノリの上に再度ノリがつけられてるんですよ。つまり、一度開封された痕と、それを誤魔化した痕があるんです。それにーー」

 

白井さんの目つきが変わる。

 

「2013年のフェスの限定スリーブは俺も持ってるからわかるんですよ。お客さん、内側の包装の存在、知らなかったでしょ」

「……は? 何言ってんだ?」

「このスリーブはサプライセットとしてまとめられてたやつじゃなくて、現地でバラ売りされてたやつなんですよ。だからか知りませんけど、スリーブは外側のビニールと内側のビニールで二重になってるんですよ」

 

サプライセットとしてまとめられていたやつは、包装が一枚だけだから剥がすのが楽だ、と以前アサヒさんが言っていたのを思い出した。

 

「お客さん、このスリーブ、中の包装がないんですよ。だから未開封品ではないと断言できます」

 

白井さんはレジ上にあった電卓を、金髪へと見せる。

 

「なので、この値段での買取は妥当だと思いますよ。そちらが未開封品だと断言なされたようですので、こちらも開けて確認はしていません。なのでスリーブの状態確認がーー」

 

直後、レジを挟んで金髪の拳が白井の顔面に突き刺さる。乾いた音が響き、ショップ内を静寂が支配した。

私とユッピーさん、そして白井さんと遊戯王をしていた体格のいい男が、立ち上がって彼らの方へ駆け寄る。

 

「うるせぇよ! 未開封品だっつてんだろうが!」

「……いってぇ、お客さん、暴力は良くないよ。カードゲーマー云々抜きで、人としてダメだよ」

「白井! あんた大丈夫なの!?」

 

ユッピーさんと共に私はレジの方へ入って、バランスを崩して床に尻餅をついていた白井さんの前に膝を付く。

 

「頬に当たっただけで、対したことなさそうね。ユッピーさん」

「分かってるわ、冷菓ちゃん。……おいクソ野郎。お前何したか分かってーーちょっ、白井!?」

 

突然立ち上がった白井さんが男の胸ぐらを掴み、レジの方へと引き寄せた。

 

「お客さん、殴っちゃったね。これでスリーブの買い取りは無しだ」

 

男の顔面ギリギリに顔を近づけ、睨みつける白井さん。

 

「ならもう客じゃねぇ。さっさとてめぇの持ってきたスリーブと一緒に失せろ。そこのバイト君は気づかなかったみたいだけどなーー」

 

レジ上にあったスリーブをもう片方の手で掴む。

 

「こいつはかなりタチが悪い。スリーブの大半が同じ色の別のスリーブだ。限定品は正面の数枚だけだ」

「えっ!?」

 

バイトの青年が目を見開いた。

 

「この手の詐欺は卒中でな。この店にはカメラもないと思って、好き勝手やりやがんだよ」

「いつものことよ」

 

ユッピーさんがため息をつくと同時に店の扉が開き、中に白井さんとカードをしていた男と制服の警官が入ってくる。それを見て白井も手を離した。

 

「あとは警察さんにお任せするわ。ただ覚えとけよ。これはカードゲーマー全員をバカにする行為だからな。これからここいらのカードショップに来れると思うなよ」

 

警察に男が連れて行かれ、ようやくカードショップにいた皆が息を吐いた。重苦しい空気が、消えて行く。

 

「白井さん、大丈夫?」

「あぁ。今思えば、一発ぶん殴っとけばよかったな」

 

白井さんが頬をさすりながら、レジから出る。そしてそのまま元いた席へと戻った。

 

「カードゲーマーでマナーが悪いのはまだ手のつけようがあるけど、人として悪いやつはどう仕様も無いからな。警察に任せるしかないな」

「よく殴らなかったね、白井さん」

 

不思議そうに首を傾げる白井さん。

そんなことするはずないだろ、と彼は笑う。

 

「ああいう時ほど、冷静にならなきゃいけないんだよ。感情に流されたら、元も子もないだろ」

 

白井さんは笑顔でそう言った。

また、私の知らない白井さんだ。感情にながされて人の身体を使う人間とは思えないほど、感情を押し殺した笑みだ。

 

「白井さん……」

 

あなたは本当に白井さんなの?

私のケータイにいる白井さんは、本当に白井さんなの?

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

The suppression PLUTOを飲み込んだ炎が目前まで迫る。とっさに横に飛んだが、炎と地面との衝突で発生する衝撃派に、私の体は吹き飛ばされた。

 

「やった! これでライフはーー」

「デュエルは、まだ終わってないわ……」

 

清澄LP1000

 

「私のライフはまだ、0じゃない」

「そっ、そんな……ライフは残り1200しかなかったはず」

「私はバトルステップ中に、手札のジュラゲドの効果を発動したの。これで私のライフは1000残ったわ」

 

ジュラゲド、レベル4

攻1700、守1300

「ジュラゲド」の1の効果は1ターンに1度しか使用できない。

1、自分または相手ターンのバトルステップに発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、自分は1000LP回復する。

2、このカードをリリースし、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その表側表示モンスターの攻撃力を次のターンの終了時まで1000アップする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「さっきの道連れをうった時のドローが、このカードだったのよ」

「オッドアイズの攻撃が届く前に、ライフを1000回復させて、攻撃からギリギリ身を守るなんて」

「本気を見せるって言ったから、負ける訳にはいかないわ」

『ジュラゲド引いてなかったら、どうするつもりだったんだ?』

「Ccapac Apuでダイレクトアタックしてたわ」

『わざわざPLUTOを破壊するためにそんなめんどくさいプレイングをするとはな。でも流石だ、清澄』

 

NEPTUNEが破壊された時からずっと、思っていた。他のプラネットシリーズも戦闘破壊されれば何かが起こるんじゃないか、と。

NEPTUNEを使用した時、あの光景が見えたのは確かに、ライフが0になる前だった。だからPLUTOも破壊されれば、例えライフが0にならなくてもいいんじゃないかと考えていたら、予想通りだった。

 

「さぁ、デュエルを終わらせるわ。Ccapac Apu、オッドアイズペンデュラムドラゴンを攻撃!」

 

 

オッドアイズの攻撃力は3500だが、Ccapac Apuの攻撃力は、門で強化されてるとはいえ、3300。

 

「なっ、オッドアイズの方が攻撃力は上なのにーー」

「この瞬間! ジュラゲドのもう一つの効果発動!ジュラゲドをリリースして、Ccapac Apuの攻撃力を1000増加させる!」

「オッドアイズの攻撃力を上回っただって!?」

 

これで本当におしまいだ。

 

「さぁ、Ccapac Apu、オッドアイズを破壊しろ!」

 

黒き巨人はゆっくりとした足取りでオッドアイズに近づくと、その頭をもぎ取った。

 

遊矢LP2100ー1300

 

「さらにCcapac Apuの効果! 破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

オッドアイズの攻撃力は2500。

 

「さぁ、追撃よ、Ccapac Apu!」

 

私は目を閉じる。

この後白井さんと二人でゆっくり、これからのことを話し合おう。プラネットカードのことや、今日のデュエル中に見たことも。

ただ今はこのデュエルに全力をつくそう。私は目を開き、遊矢とのバトルを最後まで目に焼き付けた。

 

遊矢LP1300ー-1200

 

「ありがとう、楽しいデュエルだったわ」




みなさんお久しぶりです。本日は暗黒界を用いたデッキです。実はこの話を描いている最中に、すでに暗黒界を書いている最中に暗黒界デッキを使って欲しいというリクエストがきて、かなり動揺しました。もう未来予知か何かかと……
そして今回、Ccapac Apuの攻撃名を考えに考えた結果、思い浮かびませんでした。Ccapac Apuがケチュア語なのでケチュア語で『君主の殴打』って言葉にしようと思ったら、ケチュア語に殴打という言葉がない。そりゃインカ帝国の公用語ですからね。あるわけないですよね。

おっと余談の前に、本作品はフィクションです。この作品に出てくるカードショップと出来事は全てフィクションです。犯罪ダメ! 絶対!


余談です。
デステニーソルジャーズが発売されましたね。もちろん箱買いして堕天使を組みました。知り合いが全員魔界劇団狙いだったので、どんどんパーツが集まりました。D・HEROの。
なぜか堕天使より先にD・HEROが完成しました。マスクチェンジ軸かつチェーンマテリアルとDフュージョンを突っ込んだ、少しだけ変態構築のデッキです。でも、かなり強いですよ。
マイフェバリットのV・HEROトリニティで今日も魔界劇団と戦っております。V・HERO新規カモン!
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