今回はデュエル要素が少なめです。
なので「デュエルしろ!」「アンチホープはボルカザウルスでやれる」「アンチホープは公式でボコられたじゃん」等の発言は、我慢してください。
次の話はデュエルづくしにする予定なので、勘弁してください。
私はカードを点高く掲げる。
絶望神アンチホープ、レベル12
攻5000、守5000
1、このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
他の自分のモンスターは攻撃できない。
2、このカードが戦闘を行うバトルステップ中に1度、自分の墓地のレベル1モンスター1体を除外して発動できる。
このカードはそのダメージステップ終了時まで、他のカードの効果を受けず、戦闘では破壊されない。
私たちのデッキの切り札となるカード、絶望神アンチホープ。
フィールド上に存在していた四体のモンスターが弾け飛び、代わりに黒い姿の巨体が姿を表す。希望の対極にある絶望。それを象徴するかのような、禍々しいフォルムと圧倒的なオーラ。
そしてその攻撃力は5000。
「……なんだ、なんなんだ、このカードは……」
対戦相手のイケメンは言葉を失い、ギャラリーの中には逃げ出すものも、泣き叫ぶものもいた。
圧倒的すぎるその力はまさしく神。
『さぁ清澄、終わらせるぞ』
「行きます! 絶望神アンチホープでエレキングコブラにアタック! アンチホープ・ディスペア・スラッシュ!」
絶望の神がゆっくりとその腕をあげ、相手のフィールドへとその手を伸ばす。
今まさに、その力が解き放たれるところで、私のフィールドのアンチホープは弾け飛んだ。消えたのはアンチホープだけじゃない。相手のフィールドのモンスターも纏めて消し飛んだ。
「えっ、一体何がーー」
『清澄、デュエルディスクをみてみろ』
彼に促されて目を向けた先にあったのは、ディスクに表示されたエラーの文字。どうやらアンチホープを召喚したせいで、デュエルディスクに過度な負荷がかかってしまったらしい。
私が召喚したアンチホープは、実体がないのにあれだけのプレッシャーを放っていた。この世界で協力すぎるモンスターを召喚するには、それ相応のデュエルディスクが必要なのかもしれない。
「デュエルは中断ですね。私のデュエルディスクが壊れてしまいました」
口を半開きにし、ただ突っ立っていたイケメンは、私の一言で意識を取り戻す。
「今のは、一体……」
「私のデッキの切り札にデュエルディスクが耐えられなくなったんでしょう。だから強制終了ーー」
「そうじゃない! 今のモンスターはなんだって聞いているんだ!」
さっきまでの真摯な態度を崩し、私を問い詰めるように彼は続ける。
「あんなカード、見たことも聞いたこともない!」
「そんなこと言われても……」
『悪い。アンチホープデッキは使わない方が良かったかもな。これならお前のデッキ使ったほうがマシだったな』
白井さんが素直に謝罪する。
まさアンチホープを召喚しただけで、これだけの大騒ぎになるとは私も思ってもいなかった。
「お前、まさLDSの人間か……?」
イケメンの顔に疑惑が張り付いている。
アニメ世界ではLDSが新規カードを開発している、という設定だったのを思い出した。
新しいペンデュラムカードを開発しているのも、確かLDSだ。
ここはLDSの名前を借りてもいいが、それで目をつけられるのはかなりめんどくさい。
「白井さん、どうすればいいの?」
『先祖代々から伝わってる伝説のカード、とでも言っておけば納得してくれるんじゃないか?親が死んで自分の元にこのカードが回ってきた、的なこと言っとけば問題ないだろ』
かなり投げやりな彼の言葉通り、アンチホープは伝説のカードで、今日はじめて使用した、ということを事細かに説明したら、イケメンもギャラリーも納得してくれた。
こんな苦し紛れの嘘を信じるなんて、今世界には純粋な人しかいないのだろうか。
デュエルは中止となり、私はすぐさま自分のアパートに戻り、デュエルディスクもイヤホンもつけたままベットの上に横たわった。
「アンチホープ一体であんな騒ぎになるなんて……」
『よかったな、あの時オベリスクを召喚しないで』
あのターン、私が引いたのはオベリスクの巨神兵という、アニメでも神のカードと呼ばれ、絶対的な力を持っていたカード。バトルフェーダーを召喚せず、三体の黄泉ガエルをリリースし、オベリスクを召喚することもできた。だが相手はエレキ。長期戦になると面倒なので、アンチホープでさっさとけりをつけることにした。
『これからはアンチホープみたいな、マンガとかアニメで鍵になってくるカードは使えないな』
「ホープとかネオスも使えなさそうね」
『三幻魔、三幻神、三邪神、ナンバーズ、アルティマヤツィオルキン。あそこらへんは禁止だな』
「ナンバーズを使えないのは、ちょっと辛いかも。ビックアイとかホープ、スペリオルドーラが使えなくなるってことだもんね」
『列車デッキはグスタフマックスだけで頑張ることになるのか?』
そう考えると、私のデッキのいくつかは、かなりのダメージを受けることになる。ナンバーズは汎用性があり、様々なデッキに入るからだ。
今回の一件で、アンチホープを召喚したせいもあり、誰かに目をつけられていてもおかしくない。それならばいっそのことエクシーズ使いであることをバラすのも、悪くはないかもしれない。
『でも、できる限りエクシーズとかは使わないようにしろよ』
「そんなに言うなら、帝王デッキ貸して」
『あれはダメだ。環境デッキは対戦する側のメンタルを完膚なきまでに叩き潰すことがあるからな。それにここはアニメ世界だぞ?』
そうだ、ここはアニメ世界だ。ということは当然のように榊遊矢などのキャラクターもいるということ。そんな彼らが徹底的にメタられて、何もできずにやられるなんてことがあったら大変だ。
「じゃあどんなデッキを使えば……」
『それは自分で考えろ。使いたいデッキが見つかったらいつでも声かけてくれ。それと、複数の召喚方法を使わないデッキなら、使ってもいいんじゃないかって思ってる』
「どうしてなの?」
『いや、よくよく考えてみれば、アニメにもシンクロ使いとか融合使いが出てきたなって思ってさ。……さっき俺は、できるだけエクシーズは使わないようにって言ったよな』
「えぇ、確かにそう言ったわ」
『それはエクシーズの特徴を考えて言ったんだ。エクシーズモンスターはその出しやすさからいろんなデッキに採用される。だから大体のデッキに、スピードロイドみたいなシンクロデッキにも入っちゃうんだ』
ようは、複数の召喚方法を使用しないデッキで、環境に入り込めそうなえげつないテーマ以外でデッキを組め、ということだろう。
そう考えると一番作りやすいのは、特殊な召喚方法を使用しなくてすむ暗黒界だろうか。1ターン目にグラファを2体出せれば、4000のライフはあっという間に削れる。
暗黒界なら白井さんが持っていたはずだから、あとで借りればいいだろう。
だが、エクシーズを使用しない暗黒界を作るとなると、その強さは半減されてしまう。
やはりをデッキ構築するには、しばらく頭を悩ませる必要がありそうだ。
『それにしても、清澄。お前ずいぶんと落ち着いてきたな。アニメ世界に来てすぐは、緊張しっぱなしで敬語のオンパレードだったじゃねぇか』
「いつまでも緊張しているわけにもいかないからね。それに、アンチホープを召喚した時に、そういう緊張が全部吹き飛んだっていうか……」
なんだか心地よかった。
力が体の中に流れ込んでくるような、自分が強くなることを実感できるような、そういった感覚。
あの感覚を味わってから、この世界に対する懸念はほとんど消え失せた。
あれが、アニメ世界におけるアンチホープの真の力なのかもしれない。
「白井さん、明日からアンチホープデッキをお守り代わりに持って行っていい?」
『いきなりどうした、清澄。もしかして気に入ったのか?』
「うん。あんなに早くアンチホープを出せたのが嬉しかったっていうのもあるけど、この世界ではじめて使ったデッキだから……」
白井さんは少しだけ嬉しそうに笑った。ケータイはポケットに入れっぱなしだからわからないが、きっと満面の笑みを浮かべているはずだ。
『そういうことなら持ってけ。絶望の神をお守りにするってのもおかしな話だけどな』
「ありがとうね、白井さん」
『礼はいい。……それより』
彼の声のトーンが変わる。
『この体になってから、インターネットにアクセスできないか、何回かためしてたんだ』
私はポケットからスマホを取り出し、デフォルメされた彼の顔をまじまじと眺める。
「どうだったの?」
『成功した。この世界のインターネットには簡単にアクセスできた。どうやら、俺を介してなら他の人に電話もできるし、メールも送れる。元の世界のやつには送れないがな』
デフォルメキャラの顔が寂しそうなものになる。だが、すぐに表情は変わる。
『それと、幾つか面白い発見と悲報がある。どっちを先に聞きたい?』
「面白い発見から」
悲報なんて心が沈むような内容を、これ以上聞きたくはないが、現実から目を逸らすわけには行けない。でも、あと伸ばしにするくらいはしてもいいはずだ。
『面白い発見は、このケータイ、充電が減らなくなってるぞ』
「……あれ、今日一日中使ってるのに、ずっと100%のままだ……」
『多分だが、このケータイに俺がいるからだと思う。俺が一種のエンジンみたいになってる可能性が高い』
充電が減らないなら、こちらとしては願ったり叶ったりだ。これで一日中電源をつけっぱなしにして、白井さんと話しても大丈夫になった。
『それで悲報の方だが、これはある意味では吉報とも言えるな』
私は喉元に溜まっていた唾を飲み込む。
この世界にインターネットに接続できる彼からの情報は、一つたりとも聞き逃せない。
『お前、明日から舞網第二中学に転校することになってるぞ』
「……えっ、どこ?」
私の素直な問いに対し、白井さんは画面の隅に一枚の画像を表示させる。
見覚えのあるキャラクター、柊柚子の画像。
『柊柚子、彼女が通っている学校が、舞網第二中学だ。そこからメールが来ててな。明日朝一で学校に来いってさ。いろいろ説明があるらしい』
「じゃあ、私が今まで通っていた中学はーー」
デフォルメキャラは黙って目を閉じる。
「……そう、見つからなかったのね」
『あぁ、そういう意味でこれは悲報だ』
でも、学校が消えてるということは予想できていた。なんにせよ、街並みが綺麗に一新されていたのだから、学校を勝手に転校させられていてもおかしくない。
私は今更ながらイヤホンを外し、音源を内蔵のスピーカーに切り替える。
「ねぇ、この柚子が着てるノースリーブの服って、もしかして、制服?」
『学校制定の制服だ。それがどうかしたか?』
「ということは、もしかして私、明日からこのコスプレみたいな制服着ないといけないってこと!?」
このノースリーブの服を、私がきないといけない?
そんなの耐えられない! 以前友達にコスプレを強要させられた時だって、恥ずかしさのあまり動けなくなっちゃったのに、ましてやこんなーー
『心配すんな、清澄。まだ制服が届いてないから、昔の学校の制服で行っていいらしいぞ。さすがにいきなりこの服を着るのは恥ずかしいよな』
「よかったぁ。私、こういう服着るの苦手なの」
『そういえば、お前の服って露出少なめ、色は大人しめってイメージがあったな』
「うん。私、目立つの好きじゃないの。特に男子にジロジロみられるのが苦手だから。こんな服きたら、恥ずかしくて死んじゃうよぉ」
『制服、来週には届くらしいぞ』
「いやあああああああああああああああああああ!!!」
顔をまくらに押し付けて、思いっきり叫ぶ。
どうやら私の寿命は来週までらしい。
翌日、私は朝早く、生徒が誰も来ていないうちに、学校に登校していた。
もちろん私が気なれた、黒がメインの制服をきている。決してあのノースリーブではない。
私が校長室をノックすると、中から入りたまえ、というダンディな男の声が聞こえてきた。
「失礼します」
扉を開けると、優しそうな顔の人が、窓の外を見つめていた。
この人が校長先生のようだ。
「そんな硬くならずに、楽にしてくれていい。君の話は聞いている。もちろん事故のこともだ」
事故ってなに!?
私事故なんて起こした覚えもないしk、起こされた怯えもないんですけど!?
『落ち着け、清澄。昨日全部話しただろ』
耳元で白井さんが呆れたようにそう呟く。
昨日の夜、デッキを組みながらこの世界においての私の立ち位置を聞いた。
私はどうやら孤児院出身で、プロデュエリストになるための試験を受ける会場までの道で、凄まじい事故に巻き込まれたらしい。
そのショックから立ち直るために、この街に引っ越して新たな生活を始める少女。それが私の設定らしい。
私がイヤホンをつけているのは、精神安定のためということになっているようで、校長も特にはツッコミをいれるつもりもないらしい。
「君にはこの学校で、デュエリストとしての素質を磨いて欲しいと思っている。これから一人で生活するのは大変だと思うが、頑張ってくれたまえ。もちろん、学校も君を全力でサポートさせてもらうよ」
「ありがとうございます、校長先生」
私は丁寧に頭を下げる。
『この校長先生、いいやつっぽいな』
片耳にだけつけたイヤホンから、白井さんの楽しそうな声が聞こえてくる。
「さて、話したいことはその程度なんだが、君から何か質問は?」
こういう時に口を滑らせて不要な情報をもらすと、あとあ大変なことになる。とりあえずは聞くべきことだけ聞いておこう。
「あの、この学校でデュエルできる場所は?」
「屋上にソリッドビジョンの機械がある。生徒ならつでも自由に使えるが、授業中はやめてくれ」
「わかりました。ありがとうございます。それと、私のクラスはメール通りですよね?」
「あぁ」
「ありがとうございます。私は他の皆が来る前に、学校内を探検したいので、お先に失礼します」
さっさと校長室を出て、溜まった息を一気に吐き出す。
「ふぅ、緊張したよ」
『お疲れ様。デッキのこととか、そういうことは特に聞かれなかったな』
「うん、私の新しいデッキのこと、誰かに話したかったんだけど、また次の機会だね」
少し残念だったが、いろんなことまで根掘り葉掘り聞かれんかっただけマシだ。
校長先生には校内を探検すると言ったが、校長室に来る前に校内は探索済みだ。
「暇ね」
『せっかくだし、屋上に行ってみようぜ。ソリットビジョンってやつ、見てみたいし』
彼に促されるようにして、私は階段へと向かう。
なぜかやけに長い廊下を抜けて、角を曲がるとーー
「あっ、人だ」
はるか先だが、女子の制服をきた人がいる。
髪の毛はピンク色で、まさしくアニメの中の女の子といった感じだ。
「あれってもしかして」
彼女が私に気づいたらしく、可愛らしい笑みを私に向ける。
「はじめまして! あの、転校生の方ですか?」
彼女には見覚えがあった。
私が見間違うはずがない。彼女は間違いなく、柊柚子だ。
「はじめまして、私は転校生の清澄冷菓です」
これが、柊柚子と私との出会いだった。
まさか私がはじめて出会うアニメのキャラが彼女になるとは、さすがの白井さんも思っていなかったらしい。
『この子、リアルで見ると超可愛いな』
彼のバカみたいな感想も私の耳には入ってこない。
私はすぐに気づいた。
私は彼女の可愛さに見とれていたんだと。
だが、それは以外にも私だけではなかったようだ。
「きれい……」
柊柚子もまた、そんな感想を口にしていた。
このお話は百合ではありません。
清澄冷菓は極めてノーマルです。
こんな百合百合しい展開が想像できるもの書いておいて、と思うかもしれませんが、これは百合ものではありません。たぶん。
次回、デュエルづくしにできるよう頑張ります。
感想やご意見、お待ちしております。