異世界の少女と絶望のデッキ   作:仕舞獅子舞

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今回はデュエル無しです。
なのにほどほどの長さです。


地獄の序章

私が赤馬零児、榊遊矢、紫雲院素良との鬼の三連戦からしばらくの時が経った。あの日以来アニメのキャラと特筆すべき接触はなく、当然、エクシーズ次元の二人にも会っていない。

学校の廊下で数回、柚子や榊遊矢とはすれ違いはしたが、軽く挨拶を交わす程度だ。

……はたして原作はどこまで進んだのだろうか。そろそろLDSが遊勝塾に襲撃しに来る頃だろうか。

 

この数日間私がしていたことは、光焔さんや神導さんにデュエルの講義、野々宮さんにデュエルの講義、天城さんとカードケースの改良、不良チームにデュエルの講義と、とにかくデュエルを教えまくっていた。

 

暇さえあれば誰かが私を訪ねてきて、おいデュエルしろよ、と野良デュエルを吹っかけてくるし、最近はろくにデッキの調整ができていない。おかげさまでここ数日、家に返ってきてからのデッキ調整は、全部体を入れ替えて白井さんにやって貰っている。

彼が夕飯を食べながらデッキを調整し、私は彼の作ったデッキレシピをケータイの中で確認しつつ、ネット世界に飛び立つ。互いのやりたいことが合致した、WinWinの関係だ。

 

そんなこんなで今日も1日を終え、私と白井さんの体を入れ替えて互いにお楽しみの時間を迎えている。今日の白井さんはまた新しくデッキを作るらしく、いつも以上に床にカードをばら撒いている。

 

『ねぇ白井さん』

「どうした、清澄」

『私たちがこの世界に来てからだいぶ時間が経ったね』

「そうだな」

 

始めてこの世界に来てから、あっという間に時は過ぎ去った。アンチホープ、ダイナソーイング、炎王、龍大神、その他諸々、様々なデッキを使ってきた。

 

『もうアークファイブの原作は始まってるよね』

「そうだな」

『私たちはいつになったらペンデュラムカードを使っていいの?』

「正直に言って、俺もそれは悩んでた」

 

ペンデュラムカードは、アニメにおいて榊遊矢が生み出した新たなカード。ペンデュラムスケールにセットすることで魔法として扱われ、破壊された時に墓地へ行かずエクストラデッキへと送られるカード。

ただしいろいろとルールが複雑で、遊戯王復帰勢の頭を痛めつける要因ともなっているカードだ。

 

『アニメが始まったから、私たちがペンデュラムカードを使っても、ペンデュラムの開祖にならないーーつまり原作を破壊しないよね?』

「確かにそうなんだけどな」

 

白井さんが私の声で返事をする。同じ声の二人の会話。

 

「俺たちがペンデュラムカードを使用した時に、赤馬零児にする言い訳が思い浮かばねぇんだよなぁ」

『使ってたらカードがペンデュラムカードになりました、って言えば案外信じてくれるんじゃない?』

 

私の返答に、白井さんはアンデシンクロデッキをいじりながら首を捻る。

 

「まぁそうなんだけどな、問題は俺らのカードプールなんだよ」

『カードプール?』

「ペンデュラムカードが多すぎるんだよ」

 

あぁそうか。榊遊矢のデッキはペンデュラムテーマの三種類の混合。魔術師オッドアイズEMだ。オッドアイズは1枚しか入ってないが、ペンデュラムテーマはたった3種。

それに対して私たちは? まずペンデュラムテーマはそれなりにある。有名どころだと、竜剣士、クリフォート、イグナイト、メタルフォーゼにマジェスペクター。それに加えてアニメにも登場するカード、汎用ペンデュラム、漫画版カード、武神や宝玉獣のようにテーマ強化として投入されたペンデュラムカードなど、ペンデュラムカードの数はこちらと向こうでは天と地ほどの差がある。

 

「こんな大量のカードが一度にペンデュラムになりましたとか、流石に疑われるだろ」

『もともと持ってたんじゃないかって?』

 

彼は頷く。白井さんはそれなりに慎重派だ。すぐに相手の考え方を読み、起こりうる中で一番悪い選択肢を先読みして判断の基準としている。だから若干ネガティブに思えるが、別に根っこから暗い人間というわけでは決してない。

 

「無駄に詮索されてアニメの展開変えるのは、清澄だって嫌だろ?」

『……まぁね。じゃあ使うペンデュラムカードの種類を絞る?』

「だとしたら何を使う? 今決めなくてもいいが、使うペンデュラムカードは選ばないと損するぞ」

 

うーん。個人的にはクリフォートを使いたいが、他にも使いたいカードは山ほどある。ネタデッキのエンジンとしてペンデュラムカードを使うことはしばしばあるから、一つのテーマに限定しない方がいいか……

 

『いっそのこと全部ペンデュラムカードになりましたって言ってゴリ押しするのはーー』

「清澄。俺は最近考えてることがあるんだ」

『……唐突ね、どうしたの?』

「この世界って、ペンデュラムとエクシーズ、シンクロに融合。そういう特殊な召喚方法イコール強いって方程式が出来上がっちゃってるんだと思うんだよな」

 

確かにそうだ。その証拠としてLDSにたくさん人が集まり、ペンデュラム召喚をもとめて優勝塾に人が集まったりもした。

 

「でも、それってocgプレイヤーからしたら、どうなのよ」

『えっ、どうって、どう?』

「分かりにくかったか。ようするに、ocgプレイヤーとして、特殊な召喚方法イコール強いって方程式は解せないってわけよ」

 

あー、何と無くだが分からなくもない。ocgにおいて特殊な召喚方法を使わないデッキが環境に食い込むことだって何度もあった。極端な例だと0帝。堕天使やコズモ、結界像はエクストラを使わなくても十分強い

 

「この世界の人たちは、まだ自分の使用している召喚方法の真の強さを知らずに、新しい力を求めてる節がある気がするんだ」

『確かに、そうね』

「だから俺らも今使ってる召喚方法を完全に極めてからペンデュラムに手を出そうぜ」

『分かったわ。そういうことなら、しばらくペンデュラムは使わない方針で行くわ』

 

……あれ、なんか綺麗に言いくるめられた気もするけど、まぁいいか。実際、私も今あるカードプールで新しいことを試さず、他のカードに手を出そうとしている節がある気がする。

それは私としてーー様々なデッキを作る人として、ocgのエンタメデュエリストとして許せない態度だ。

カードプールを増やすというのは決して悪いことではない。むしろ新しいカードが増えることで過去のカードが生かされることの方が多いので、できる限りカードプールは増やした方がいいのだが、新しいカードだけでなく古いカードにも目を向けなくてはならない。

今の私は古いカードを、今あるカードプールを完全に把握しきれていないのにペンデュラムカードへと走ろうとしている。これじゃあ見つけられるものも見つからない。

 

『そういえば白井さん。ふと思ったんだけど白井さんの龍大神デッキってどうして思いついたの?』

「……あぁ、最初は龍大神を相手に送りつけてヌトスで場を荒らそうって思ってたんだけど、デッキ作成中にユッピーがサイバードラゴンノヴァの隠された効果を教えてくれてな」

 

基本的にサイバードラゴンノヴァはすぐにインフィニティへと昇格してしまうので、ノヴァの効果はわりと見落とされがちだ。破壊時の効果なんてなおさらだ。私は龍大神デッキ以外で墓地へ送られた時の効果が発動したところを見たことがない。

 

「まぁたまたまだったんだけどさ、サイバー使ってたユッピーがさ、龍大神が俺のフィールドにいる状況下でサイバードラゴンを特殊召喚してな」

『あー、あのコンボが炸裂した、と』

「そうそう、本当に偶然だった。だからこそ、嬉しかった」

 

彼は近くにあった龍大神のカードを手に取る。

 

「たまたまでも、俺が求めていたものをこのデッキは見せてくれた。1ターンで場を支配する圧倒的な展開力、複雑に見えてシンプルなコンボパーツ、そしてギミックの多様さ」

 

ガイザーを起点として龍大神を呼び出すならば、まずガイザーを出すために合計レベルが7になるようにモンスターを出す必要がある。強制転移などの魔法を使うなら、魔法カードを確保する手段が必要だ。

ガイザーを使わないなら破面竜をつかうか。ガードはどうするか。墓地利用型にするか。エクストラの構築はどうするか。

 

「こういうコンボ系のネタデッキには、ロマンと可能性があるんだよ。出会いは本当にたまたまだけどさ、俺は龍大神デッキこそ俺が求め続けていた最高のデッキじゃないかって思うんだ」

『……そう、ならあえて一つ聞きたいんだけど』

 

『なんで龍大神のデッキにキャラスリをつけてなかったの?』

 

白井さんの動きが止まった。それもそのはずだろう。なぜなら私ですら忘れかけていたことなのだから。

白井さんがこの世界に来る前に言っていたことだが、彼のデッキには全てキャラクタースリーブの上にザラザラ加工がされたオーバースリーブをきせている、いわゆる二重スリーブになっている、と。そしてキャラスリーブは全て自分の知っているキャラだ、と。

初めて龍大神デッキの存在を知った時、それにつけられていたスリーブは黒いミニスリーブで、キャラスリーブではなかった。

オーバースリーブすらつけられていなかったので、きっと未完成だからキャラスリーブをつけていないのだろう、と私は勝手に思い込んでいた。

だが今の話を聞いてとても不思議に思った。そこまで大事なデッキなら、むしろキャラスリーブをつけるんじゃないのか、と。

 

『なんでキャラスリじゃなかったの?』

「……あー、特に深い意味は無い。キャラスリが調達できてなかったんだけの話さ。大事なデッキだからいいスリーブをつけたいだろ? だから同人スリーブを買おうとしたんだけどさ」

 

同人スリーブは企業が出している公式スリーブと違い、その値段がとても不安定だ。元いた世界の仲間の同人スリーブ専門家が言うには、そのスリーブに描かれているキャラクターの人気、絵のうまさ、流通数や絵師の人気、その他諸々の要素が組み合わさってその値段が決定されるらしい。

 

それらしい理由を並べた白井さんだったが、私は疑わずにはいられなかった。

 

もしかしたら龍大神デッキには、何か秘密があるんじゃないか、と。

 

 

 

 

 

 

 

「LDSに行くぞ、姉ちゃん、野々宮」

 

翌日の放課後、私がいつものように天城さんのカードショップで野々宮さんと話していたら、天城さんが突然そう言ってきた。

 

「……唐突ですね、店長」

「向こうから唐突に電話が来たんだよ。文句なら赤馬の息子に言え」

 

野々宮にきつくそう言い放つ天城さん。かくいう彼も少し不機嫌そうだ。それもそうだろう。いくらこの店が2号店で、カードサプライ等を専門にしているからくる人が少ないとはいえ、放課後がかきいれどきであることには変わりはない。

 

「まぁ俺と野々宮だけじゃ飽き足らず、姉ちゃんも呼び出したってことはよっぽどのことなんだろうが、普通呼び出すか? 俺らがなんかしたならともかく」

「LDSで見せたいものでもあるんじゃない?」

「清澄冷菓ちゃんの言葉に賛成っすよ。まぁ、単純に礼儀を忘れただけかもしれないっすけどね」

 

私と野々宮さんの二人で店のカードスリーブを並べながらそう答える。最近、天城さんが買い物を割引にしてくれているので、私から頼んで店の手伝いをさせてもらっている。

せっかくお店のお手伝いをしているのに、それを一回中断しないといけないというのは、いささか寂しい。

 

「どのみち呼び出されたってんなら、こっちは迷惑そうな雰囲気漂わせて向こうに出向くだけだろ。無視したら電話鳴らしまくって業務妨害してきそうだからな」

「天城さん、それなら訴えればこっちの勝ちじゃーー」

「LDSには金のパワーがあるっすからねぇ。警察だってマネーパワーーでコントロールできるんっすよ」

 

真剣な顔つきで見たこともないキャラクターのスリーブを並べる野々宮さん。

 

「店長、このキャラスリ売れ行き悪いっすから値下げしてセールワゴンにぶち込みましょうよ」

「そのキャラはまだいける。もうちょっと待て。アニメの2期がもうすぐ来る。っと、話が飛んだ」

 

店では必ずつけているエプロンを外しながら天城さんは続ける。

 

「これは勘だが、こないだ野々宮とやりあった奴について、ようやく情報をゲロるんじゃないか?」

「野々宮さんとやりあったーーあぁ、黒咲さんね」

「黒咲……」

 

ボソリ、と呟く野々宮さん。あのエクシーズ対決以降、野々宮さんの目標は打倒黒咲となり、ことあるごとに彼に対する敵対意識を表面に出すようになった。

あの2人の試合は、客観的に見て野々宮さんの方が有利だった。手札と墓地、そしてフィールドのアドは圧倒的と言っていいほどに野々宮さんが有利。ただ、アルティメットファルコンの登場によって、その状況は一変し、一気に野々宮さんが不利となった。

これが、彼にとってかなり悔しいのだろう。私が確認した限りだと、野々宮さんのデッキにはアルティメットファルコンを突破するカードはなかった。つまり、あの時点で野々宮さんの負けは確定していたのだ。

 

「野々宮、黒咲のことはそんなに気にするな。いつかまた会える。その時全力で叩き潰せ」

「もちろんっすよ、店長。清澄冷菓ちゃんのおかげでデッキも強くなったし、次は負けないっすよ」

 

わしゃわしゃと私の頭を撫でる野々宮さん。髪は乱れるが、不思議と嫌な気にはならない。なんだか落ち着くような、ホッとする撫で方だ。

 

『こうやって見てると、清澄と野々宮って兄弟かなんかじゃないかって思うよ』

 

うーん、一人っ子だからよくわからないけれど、こんなお兄さんがいたらちょっと嬉しいかも。デュエル中はすごかったけど、普段は優しいし。

 

「とりあえず二人とも、一旦店の仕事は置いておいて出かける支度しろ」

「私はもう出来てるわ。持ってくものとか特にないし」

『学校帰りに直接来たからな』

「ちょっと待ってください、店長。すぐ支度するっす」

 

野々宮さんは持っていたスリーブを置き直すと、急いでスタッフルームへと駆け込んで行った。

一方の天城さんは持っていたエプロンをレジのしたに叩き込むと、そこから黒いカバンを取り出し、肩にかける。

 

「そういえば姉ちゃん、デッキは持ってるか……って聞くまでもないか」

 

彼の視線は私の太ももーーのカードケースへと向かう。

 

「天城さんが改造してくれたこのカードケース、かなり使いやすいわ」

「カードケースを改造してくれなんて頼んできたのは、姉ちゃんが初めてだっつうの。俺は一応、デュエルディスク専門の技師だぜ?」

 

私の太もものカードケースだが、デッキを取り出す時にスカートを捲らなくてはいけないという欠点を解消した。天城さんと話し合いながら、カードケースの外見はそのままに電動のギミックをいれて、デッキを取り出す時だけデッキケースが飛び出るようにした。

これでデュエル前に「ちょっと、こっち見ないでよ!」という下りをしなくて済むようになったのだ。白井さんはこの世の終わりでも来たかのように嘆いていたが、そんなこと知ったこっちゃない。

 

「無理言ってごめんなさい、天城さん」

「あー、ずっと思ってたんだが天城さんだと堅苦しいし、くすぐったいな。俺のことは店長って呼んでくれ」

「じゃあ改めて、ごめんなさい店長さん。あと、私のわがままを聞いてくれてありがとう、店長さん」

「おう、どういたしまして。まぁできる限りのことはするからよ、困ったことがあったらいつでも来てくれ」

 

やっぱり天城さんはいい人だ。元不良とはいえ、根っこは本当にいい人なんだろう。なんだかんだでいっつも私を助けてくれ、相談にも載ってくれる。

 

……だが天城さんはいまだに私とデュエルしてくれない。デュエルどころかデッキ内容すら知らない状態だ。

天城さん曰く現役の不良とOBの間ではよっぽどのことが無い限りデュエルをしないらしい。とはいっても私と野々宮さんとでは頻繁にデッキ調整という名目でデュエルしてるのだがーー

 

「お待たせしましたっすよー、店長、清澄冷菓ちゃん」

「よし行くぞ、姉ちゃん」

「分かったわ、店長さん、野々宮さん」

『よっしゃ、レッツゴートゥーLDS!』

 

やたらとテンションの高い白井さんを引き連れて、私たちはLDSへと向かう。

赤馬零児と会うのは何度目だろう。結局私は赤馬零児に負けっぱなしになっているんだっけ。……悔しいなぁ。負けっぱなしは嫌だなぁ。次デュエルする時は、必ず叩き潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LDS。

もはや見慣れてしまったその巨大な建物の前に、私たち3人は来ている。いつ見ても思うが、これだけ大きい建物を作る金があるのだから、きっといろいろな事業にも手を出しているんだろう。手っ取り早いところだと、軍事産業あたりか。

 

『いつ見てもデカイな、おい』

「うん、すごく大きい」

「おおい、清澄冷菓ちゃん。ぼーっと突っ立ってないでさっさと用事すますっすよぉ。今日はイベント用配布カードが届く日っすから早く帰って確認しないといけないんすよ」

 

そう言って私を急かす野々宮さんとともに、私たちはLDSの受付へと向かう。

 

「あっ受付のお姉さん、こんにちわ!」

「こんにちわ。……入塾希望の方でしょうか?」

「いえ、社長に呼び出されたんです。清澄冷菓が来たと社長にーー」

「天城とその仲間が来たって言えば伝わる。さっさと社長に連絡入れて俺らを中に通せ」

 

ちょっ、天城さん!? せっかく私がフレンドリーな感じで話しかけたのに、なんでそんなに高圧的なの。

お姉さん怯えちゃってるし、野々宮さんは腹抱えて笑ってるよ。

 

「あああっ、天城様ですねっ! わっ、分かりました、今すぐ社長に連絡をーー」

『あはははは! いくらなんでも焦りすぎだろ! アニメの中かっつうの。あっ、アニメの中か。あはははは』

「お姉さん、焦らなくていいんすよ。僕らは少しくらいなら待つから、ゆっくり正確に仕事をするっす」

 

笑顔の野々宮さん、相変わらず機嫌が悪そうな表情をする天城さん、慌てながらもしっかりとやることはやるお姉さん、そしてさっきからずっと笑い続けている白井さん。まさに混沌空間。

 

なんだかんだですぐ、黒スーツのいかついお兄さんが来て、私たちを案内してくれた。LDSのやたらと長い廊下を抜けた先に待っていたのは、どこぞの研究室のような大きな部屋と、そこにいたメガネマフラーこと、赤馬零児だ。

 

「よく来てくれたな、清澄冷菓。そして天城さん、野々宮さん、突然呼び出してすまない」

 

頭を下げるメガネマフラー。だが天城さんの態度は変わらない。

 

「さてさて、俺らを呼び出した理由をさっさと話してもらおうか。時と場合によってはお前を一発ぶん殴らせてもらう」

「殴られる覚悟はできています。でももし私の予想が正しかった時、私1人ではどうしようもないかもしれないですからね」

 

年上が相手だからか敬語で話す赤馬零児の鋭い視線が、私に突き刺さる。

 

「率直に聞こう。君は一体、どこの次元の人間だ?」

 

…………。あっちゃー。

 

「LDSでも把握していないカードを使用する君は、エクシーズとシンクロを使って見せた。だがまだ一度も融合を使ってはいない」

『龍大神でサイバーエンド出すのは融合ってカウントされてないのか』

「だから私は、君が融合次元の人間ではないのかと思っている」

 

えっ、なんでそこで「だから」っていう接続しが出てくるの? 言ってることがつながってないよ?

 

「君は自分が融合次元出身であることを隠すために、あえて一度も融合を使用してないのだと思っている。違うか?」

 

……ヤバイ。とても変なことに巻き込まれた。ここではいそうですって嘘を言うわけにもいかないし、かと言って違うって言っても証拠がないし、素直に私は異世界から来ました、なんて口が裂けても言えない。

もしここで異世界の話でもしようものなら、アニメの世界が壊れかねないのだ。

ならどうすればいい?

 

「白井さん……」

『あー、どうしようか。こう言う場合はあれだ』

 

 

こそこそと小さい声で打開策を教えてくれる白井さん。でもそれはあまりにも無謀で、危険な賭けだ。

だが、危険な博打ほど面白い。今は、白井さんの案に乗るしかない!

 

「……えーっと、次元って、何?」

 

とぼける! そう、赤馬零児には私が他の次元から来たという確固たる証拠は無いのだ。私がここで「私はスタンダード次元出身です」とでも言おうものなら、なぜその言葉を知っている、とあげ足を取られること間違いなしだ。だからこそここは、徹底的にとぼける。とぼけて嘘をでっち上げて、逃げ切るだけだ!

 

「とぼけるつもりか? 私にそういう手は通用しないぞ?」

「とぼけるも何も、次元って何? 何の話をしているの?」

「聞いても無駄か。ならばデュエルでーー」

「はいはいはいはい、ストップストップー!」

 

私たちの間に割り込むようにして、野々宮さんが声を上げる。それに続いて天城さんも口を開いた。

 

「赤馬の息子。いいか、お前は物事を決めつけすぎなんだよ」

 

どこか呆れているような、ダメな息子を叱るような声で彼は続ける。

 

「融合使いであることを隠すためなら、無闇矢鱈と他の召喚方法を使ったりしないだろ。ましてや融合だけ使わないなんて、露骨すぎる」

「えっ、もしかして店長さん、この話の内容がわかるの?」

「俺どころか野々宮もだ。この話のことを理解できてないのは、姉ちゃんだけだぜ」

 

考えてみれば不思議ではない。アニメにおいてアカデミアの侵攻を阻止するために、赤馬零児はスタンダード次元の使える人材を集めてランサーズを組織しようとしていた。ならば、バージェストマ使いで黒咲さんと同じくらいの戦闘力を持つ野々宮さんや、その上司的立ち位置の天城さんに声をかけていてもおかしくない。

 

少しだけ状況を把握しよう。

状況把握フェイズです、何かありますか? ……では状況把握フェイズに入ります。

 

前の世界の記憶が正しければ、まじ遊戯王アークファイブの世界は融合次元、エクシーズ次元、シンクロ次元、そしてスタンダード次元の四つの次元に分かれている。最初の三つは文字通り融合なら融合を、シンクロならシンクロというように、それぞれの次元につけられた名前の召喚方法を使用する。そして私たちが今いるここ、スタンダード次元だけが唯一多数の召喚方法を使用する次元となっている。

 

そしてある日、赤馬零児のパパが融合次元を率いてエクシーズ次元に侵攻し、エクシーズ次元を滅ぼしてしまった。

スタンダード次元にいる赤馬零児はパパの企みを阻止するために、融合次元の敵組織、アカデミアと戦う戦士集団、ランサーズを組織し、密かにアカデミアとの決戦の準備をしていたのだった。

 

ーーーーという設定を私に言わずにこの人たちは会話をしているのだ。

 

アニメの展開を知っているからすぐにこの話を飲み込めたが、ふつうなら困惑するに決まっている。

だから私は困惑するふりをした。そしてその様子を見た天城さん達が、私に助け舟を出してくれた。

 

これがここまでの状況だ。

 

「とりあえず赤馬さん、説明を要求してもいい?」

「……仕方ない。少し長くなるが、聞いてくれ」

 

それから赤馬零児が語ってくれたことは、既知の事実だった。知らないふりをして驚いて見せるのも楽じゃない。白井さんは『改めて聞くとかなり馬鹿馬鹿しいな』と他人事のように聞いていたが、改めて自分が巻き込まれる大事について説明されるとため息が止まらない。

 

「これが今我々の置かれている状況だ」

「……なるほど、それで私が融合次元の人間じゃないか、と疑われているというわけね」

『さて、どうするんだ清澄。しらばっくれる作戦続行か?』

 

当然だ。

 

「でも残念ながら私は融合次元なんて知らないし、世界が4つの次元に分かれてることも、初めて知ったわ」

「ならばシンクロとエクシーズはどこで習ったんだ。それにLDSでも把握できていないカードを、どこで手に入れた?」

『そこ突かれると痛いんだよなぁ。カードショップで手に入れましたとか言っても信用してくれないだろうしな』

 

ocg次元で手に入れましたなんて言えるはずもない。ならばどうすればいいのか、答えはこうだ。

 

「気づいたらデッキに入っていたの」

 

カードの創造、アニメ遊戯王の名物だ。過去一回、これでアンチホープについてはうやむやにできたが、今回もこれで誤魔化せるかどうか……

 

「いや姉ちゃん、さすがにそれはないだろ」

「うん店長の言う通りっすね。さすがにそれはないっすよ」

 

……さすがに無理か。天城さんも野々宮さんも呆れが顔ににじみ出てるよ。

 

「いいだろう、本当のことを言う気が無いのならば私とデュエルで決着をつけよう」

『あー、やっぱこうなるのね』

「面倒だけど、仕方ないわね」

 

さて、DDDと試合をするとなるとデッキを真剣に選ばないといけない。一応、対赤馬零児用決戦兵器はあるが、あんなもの使っても楽しいでゅえるができるはずもない。パキケファロやら結界像でロックしつつシモッチでライフ回復も許さないデッキなんて、使いたくもない。ここはやはりーー

 

「デュエルターミナルデッキで」

『やめろ清澄、あのデッキは事故率が高い上、やられた側は吐きたくなるくらいクソだ』

 

ターミナルワールドNEXTで相手の魔法トラップゾーンとモンスターゾーンを制限した上で、おじゃまトリオやらヨコシマウマで封殺を狙うデッキ。さすがにアニメキャラに使っていいデッキではないか。

 

「それで、私が負けたらどうすればいいの?」

「君には全てを話してもらう。その上で、私が組織するランサーズに入ってもらおう」

 

当然の要求か。よくわからない奴を野放しにするよりは、手元に置いて管理した方が安全という、常識的判断から導き出された結果だろう。誰も文句は言うまい。

 

「いや待て、赤馬の息子。それはダメだ」

「それはダメっすよねぇ。清澄冷菓ちゃんをそっちには渡せないっすよ?」

 

文句言うんですか。誰も文句は言うまいって言ったそばからケチつけに行ったよ、この二人。

 

これには流石の赤馬零児も困惑の表情を浮かべ、白井さんは絶句している。

 

『えっなんで!? ランサーズに入るくらいなら別にいいだろ!』

 

なんでこの二人は揃って私を赤馬零児の方へいかせまいとしたんだ? もしかしてーー

 

「チームが関係してるの?」

「ご名答だ、姉ちゃん」

「LDSに協力する分にはいいっすけど、その傘下に入ることだけはしない、それが僕らチームのルールっすからねぇ」

「そういえば、あなたがた二人をランサーズに勧誘した時もそう断られましたね」

 

えっもしかしてこの二人、ランサーズ参加を拒否したの!? いや確かに命の危険はあるけど、そういう理由じゃなくてチームが理由なの?

 

「赤馬の息子、お前が姉ちゃんを手元に置きたいってほざくんなら、俺が相手になってやるよ」

「店長、俺じゃなくて俺らっすよ。僕を忘れないでくださいよ」

『……あれ、これってこの二人が参加しなくても清澄がメガネマフラー封殺すればいいんじゃ』

 

白井さん、それは言っちゃダメだよ。折角力を貸してくれるのなら、喜んでお力を借りよう。天城さんのデッキはよくわからないが、野々宮さんのデッキなら赤馬零児相手でも勝てるはずだ。

 

……問題は私だ。

さすがにアンチホープデッキでDDDと戦って勝てる気はしないし、龍大神デッキは白井さんしか使えないから、私が使ったら回せずに死ぬ。

学校で使ってる炎王ではDDDの連激を受け止めきれないし、他のデッキはどれもガチロックデッキやネタデッキ。前者は白井さん曰く画が大変なことになるから絶対使っちゃいけないデッキたちだ。後者の方は大会で使ったら「おいおい舐めプかよ」と言われてしまう代物だ。

 

一応、普通のデッキが無いわけでもないが、私が考えてる普通のデッキはocg環境を想定して作られたデッキなので、この世界ではかなりえげつないものとかしてしまうのだ。でも、まぁいっか。使っちゃおう、そうしよう。

 

赤馬零児はメガネの位置を直すと、私たちを睨みつけた。

 

「いいだろう、ならばこうしよう。清澄冷菓とお二人の3人対LDSジュニアユースの代表3人のチーム戦で、先に2勝した方の勝ちとする。これでどうだ?」

「なんでジュニアユース?私だけが相手ならともかく、天城さんと野々宮さんもいるのよ?」

「ジュニアユースの方が思い切った戦術を取れるうえ、大人より召喚方法に精通しているし、時と場合によってはジュニアユースの方が想像以上の結果を出してくれる。ただそれだけの話だ」

『俺には舐めプしているようにしか思えないんだよなー』

 

ここで首を傾げるのは野々宮さんだ。

 

「あれ、社長はデュエルしないんすか? 高みの見物っすか?」

「あっジュニアユース3人ってことは」

『赤馬零児はふくまれてないってことか。なんでだ?』

 

まさか自分が出るまでもないとは考えていないはずだ。天城さんはあくまでも元プロデュエリスト、野々宮さんは黒咲さんと互角に戦えるデュエリストだし、私はLDSが把握していないカードを使うのだ。ならば赤馬零児が出るのが普通だ。

 

「別に君たち3人を甘く見ているわけではない。ただ、ジュニアユースに経験を積ませた方が将来的に役に立つ」

「勝ったら姉ちゃんから情報を聞き出せるし、負けても経験を積ませられるってことか。プロデュエリスト使っても俺と野々宮を倒せるかわからないなら、ジュニアユースを使った方が利益が出るってことか。悪い経営者だこって」

『流石は腹黒メガネマフラー』

 

スタンダード次元の利益を考えるなら、勝つ確率がほぼ無い試合に全力を出すより、若手の育成を優先した方がいいというのはわからなくも無い理論だが、そもそもスタンダード次元の人間として利益を確実に得るためなら、わざわざ私を手元におこうとせず、情報の入手だけを優先して天城さんたちを巻き込まなかった方が良かったんじゃーー

 

まさか、私が融合次元の人間じゃないと分かっているの? 私から入手できる情報が一切ないと分かっているから、ジュニアユースに少しでも経験を積ませようとしている。そう考えればしっくりくる。

 

「ずるいわね、赤馬さん」

「最大多数の最大幸福。私は利益を優先したまでだ」

 

でも、それはそれで助かった。これで少なくともDDDを相手にすることはないということになる。つまり、ネタデッキ相手でもある程度いい試合になる相手と戦うことになるということだ。

赤馬零児と再戦できないのは残念だが、ネタデッキを実戦で使えるのは嬉しい。ネタデッカーとして喜ばずにはいられないだろう。

 

「さぁ、善は急げだな。さっさと終わらせてさっさと帰って店に戻るぞ。客が俺らの帰りを待ってる」

「すぐにジュニアユースに声をかけます。あなたがたは準備ができるまでこの部屋で待っていてください。清澄、デッキ調整をするなら今のうちだぞ」

『デッキ調整は万全だが、一応お前が再確認しておけ。……ってかメガネマフラー、清澄へのあたりだけやけに強いな』

 

あれ、赤馬さんまだ私のことを疑ってるの? もしかして私が融合次元じゃ無いことに気づいてるんじゃなくて、単純に融合次元の人間1人くらい泳がせといても別にいいかくらいの軽い感覚なの?

自然と、私の口からため息が漏れる。

 

「これからどうなっちゃうんだろ」

『さぁな。ただ唯一言えるのは、どう転んでもお前が巻き込まれない未来はないってことだな』

 

私の口から再び重いため息が漏れたことは、言うまでもない。




みなさん、いかがでしたでしょうか。次回からまたデュエル要素たっぷりでお送りしたいと思っています。
本当なら今回で三連戦の一戦目は終わらせるつもりだったのですが、これ以上書くと馬鹿みたいに長くなりそうだったので一旦区切って投稿いたしました。

執筆速度が亀より遅いので次話がいつになるかわからないですが、なるべく早く投稿させていただきます。

余談です。
捕食植物を組みました。捕食生成が高額なので友人とトレードしたりカードを売ったりしてなんとか数を揃えました。ただ、超栄養太陽が高騰しおまけとばかりにローンファイアブロッサムも値上がり。仕方なくトランスターンで頑張ってる今日この頃。超栄養太陽、欲しい……。

そしてwixossのあーやデッキを組みました。レベル4の服装に違和感を感じたのは自分だけなのでしょうか。そしてもうすぐ発売される最新弾ではドーナのパーツが収録されます! かわいいなぁ、どーなちゃんかわいいなぁ。

ちーちゃんのスリーブ発売されないかなぁ……。
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