そして、久しぶりの回想スタートです!
今回は天城の回想からです。
それではお楽しみくださいです!
これは俺がまだプロになる前、ただの不良だった頃の話だ。舞網の天城っていったら、他の町の奴でもすぐわかるくらい有名な名前だった。
全戦全勝。町の不良を全てなぎ払い、そのプライドを消し炭にする男。それが俺だった。近づいてくるクズを焼き払い、図に乗ってる優等生も叩き潰す。力に物を言わせて全てを打ち砕くのが俺のデュエルだった。
当時はまだ帝デッキを使わずにもっと別の、ただ相手を叩き潰すだけのデッキを使っていたからこそ、それだけ不良として強くいれたんだと思う。
だがそんな俺にも転機ってのは訪れるもんだ。俺が、今清澄冷菓がリーダーをやってる不良チームを作ってから、1年経つか経たないかの頃だろう。俺の学校に榊遊勝がやって来たのは。
最初はめちゃくちゃ気に食わない奴だった。エンタメとかふざけたことぬかしてる優等生ぐらいの認識だったし、俺とはプレイスタイルが全然違ったから分かり合えなかったんだろう。
そんなある日、俺たちは偶然にもぶつかることになってしまった。遊勝の方から突っかかって来たのが原因だったが、俺があまりにも暴れてたのも理由の一つだろう。どうやら俺のせいで遊勝の友人がプロデュエリストへの道を諦めてしまったらしい。
そんなこんなで俺と遊勝は初めてデュエルすることになった。
結果は、引き分けだった。
最終的に俺が苦し紛れにうったバーンカードで互いにライフを削って引き分けになったんだ。今思うとひどいプレイングだな。潔く負けようとせず、遊勝も道連れにしよう、とか考えてたんだろうな、きっと。
話を戻そう。負けはしなかったが、俺は遊勝に勝てなかった。初めて、デュエルで勝てなかった。
悔しかった。遊勝に勝てなかったことじゃない。俺は勝てなかったのに、とても楽しかったんだ。
遊勝とのデュエルを心の底から楽しいと思えた。俺の予想を超えるプレイング、俺の全力を全力で受け止めにくる遊勝のデュエルが、とても面白かった。
だからこそ、悔しかった。
今までの勝ちにこだわり相手を叩き潰す自分のデュエルを自分で否定している気分だった。
それ以降、俺は以前使っていたデッキを封印し、新しく帝デッキを作ることにした。対戦相手を叩き潰すデュエルではなく、対戦相手も楽しませることができるデュエルを目指して前のデッキを解体することに決めたのだ。
それ以降俺は帝デッキを使ってデュエルをし、プロデュエリストとしてトップクラスにまでのぼり詰めることができた。俺は全国からプロデュエリストとして高い評価を受け、同時期にデビューした遊勝とともに一大スターとまで呼ばれるようになった。めでたしめでたし。
と、それで話が終わればよかったのに、現実は残酷だった。
遊勝の逃亡。
俺の『皆を楽しませるデュエル』が、静かにひび割れていく。
赤馬零王の企み。
俺の『相手を叩き潰すデュエル』が再び眼を覚ます。
そして俺の前に現れた野々宮。
俺の中の歯車が完全にぶっ壊れた。融合次元を止めるためには、楽しいデュエルなんかじゃダメだ。もっと強烈で、相手を粉砕するデュエルじゃないとダメだ。
俺は野々宮に持ってる技術を全て教え込み、相手を壊すデュエルを叩き込んだ。それだけじゃなく、LDSよりも強力な、融合次元を叩くための組織として不良チームを育て上げることに決めた。
それでも、俺は遊勝のデュエルから離れることができなかった。デュエルが根本的に楽しいものだと知ってしまったのだ。
このままでは俺がダメになる。常々そう思っていた時、清澄冷菓が現れた。彼女は相手をロックして叩き潰すデュエルを俺に見せてくれたのだ。
だからその礼はいつかする。
俺の本来のデュエルを思い出させてくれた清澄には、蘇った俺のデュエルを見せてやる。
そう、ずっと考えていた。
だから今回のデュエル、対戦相手には悪いが俺の復帰戦とさせてもらおう。もう俺は帝王じゃない。俺はただの、不良に戻る。
私、光津真澄はLDSの社長、赤馬零児さんに呼び出された。刃と北斗も呼び出されたところを見るに、きっと昨日遊勝塾で行ったデュエルの話をするのだろう。
結局あのデュエルで勝てたのは私だけで、刃は引き分け、北斗に至っては無様に負けてしまったので、怒られても仕方ないとは思っている。私たちはLDSの中でもトップクラスなのに、小さいデュエル塾相手に勝ちきることができなかったのだ。きっと、赤馬零児社長もお怒りだろう。
そう思いながら呼び出された社長室に行ってみると、何やら真剣な顔で巨大なモニターに向かっている赤馬零児社長がいた。
私たち3人が到着するとすぐ気づいたらしく、メガネの位置を直し、こう切り出した。
「君たちには今から、私の知る中でもトップクラスの3人と戦ってもらう」
「……へ?」
調子抜けだというような声をあげた北斗を、私と刃が睨みつけるも社長は気にした様子を見せない。
「疑問に思うことも多いと思うが、昨日のデュエルと同じように、LDSが倒さねばいけない相手ができたと思ってくれ」
そんなこと言われても。昨日は沢渡の敵討ちという口実があったらしいが、今回はそういう口実すらも説明されてない。
「赤馬零児社長、対戦相手は?」
私がそう尋ねると、社長の後ろにあった大型モニターに一人の男性が映し出された。
大柄な男性で、とても怖そうな顔をしているが、その服装は何処かのカードショップの制服と思われるエプロンをしているので、怖さが消え失せてしまっている。
「彼の名前は天城。私も尊敬している元プロデュエリストだ。今は子供にデュエルを教えるため第一線を退いているが、その実力は本物だ」
「天城店長!?」
びっくりしたような声をあげた刃。知ってるの? と尋ねると彼は苦しげな顔をして口を開く。
「俺も何度かお世話になったカードショップの店長だ。最近は行ってないけどな。……あの人、元プロデュエリストだったのか。いろいろ聞いとけばよかったぜ」
「彼のデッキは『帝王』と呼ばれている。アドバンス召喚を何度も行う強力なデッキだ。私が知っている中で最もアドバンス召喚を巧みに使うのが、彼だ」
赤馬社長がそこまで言うなんて。
帝というカードは確か総合コースの沢渡が使ってたが、あのデッキは『帝デッキ』と呼ばれていたはず。
なんで帝王と呼ばれているのか気になるが、きっと本人の強さから帝王と呼ばれるようになったのだろう。
「ついでに、彼はいまだにアドバンス召喚のことを生贄召喚と呼ぶ。生贄召喚と言われて混乱しないようにしてくれ」
たまにいるわよね、モンスターを生贄に捧げるって言う人。私も生贄召喚って言葉は好きだけど、アドバンス召喚っていう言葉も嫌いじゃない。
そんなことを考えていると、ふとあることが頭に浮かんだ。
「赤馬社長、その、天城プロは融合やシンクロ、エクシーズ召喚を使えないんですか?」
「使えないんじゃない。使わないし、使ったら彼のデュエリストとしての何かが終わる」
そう答えた社長の顔はとても歪んでいた。まるで、思い出したく無いことを思い出したかのような顔。
「……あの人だけだった」
苦しそうに、赤馬社長は語り出す。
「あの人がまだプロだった時、LDSがプロデューサーとして彼のバックにつこうとした。まだ発表されたばかりのエクシーズ召喚とシンクロ召喚、そして融合召喚のやり方を教えることを条件に、だ」
プロのデュエリストなら乗る条件だろう。私だって乗る。全ての特殊召喚の方法が使えるようになったら間違いなく強くなる。
「だが、あの人は断った。この条件を飲まなかったプロはかれだけだ。そのことが信じられず食い下がった私に彼はこう言った。『赤馬のガキ。お前は俺のデッキを殺す気か』と」
えっ、デッキが死ぬ? エクストラデッキを使うだけで?
「あの人はアドバンス召喚に全てをかけて戦っていた。それを知らずに私はあんなことを言ってしまったんだ。私はあの人の踏み込んではいけないところに踏み込んだ。いまだに恥ずかしいと思っている」
赤馬社長の顔はどこか悲しそうでいて、悔いているような、なんとも言えない表情だった。
「……天城さんの話はもういいな。次は彼だ」
「「「げっ!」」」
私たち3人は同時にそう声を上げた。
そこに写っている顔は、LDSなら誰もが知っている。
「君たちも知っての通り、野々宮だ」
「『にこやかな死神』野々宮。こいつとは一番やりたくねーな」
「刃の言う通りね、この人はちょっと苦手だわ」
「僕はまだ戦ってないけど、噂は知ってるよ。かなり強いし、えげつないらしいね」
北斗は済ました顔でそう言ったが、私と刃にとっては最悪の相手だ。
噂ではLDS襲撃事件の犯人とも言われている、最狂最凶最強のデュエリスト。昔、LDSに正面からたった一人で襲撃をしかけ、迎撃に当たったプロデュエリストを一蹴した上、LDSエクシーズコースの先生を『戦利品』と称して拉致した男、それが野々宮だ。私が今まで見てきた中で、2番目に目がくすみ切っていた男でもある。
今でもたまにLDSに来るが、どうやら裏で取引をしているらしく、穏便にことを済ませているようだ。また、LDSに協力するという名目で調子に乗っている塾生を鍛え直しにくることから、『にこやかな死神』と呼ばれている。
私と刃は一度戦って、完膚なきまでに叩き潰された苦い思い出がある。なんとなく戦いづらいと思っていたらどんどんペースを崩され、気づけば彼のペースにはまり、そして散々狂わされたあげく何もできずに殺された。あんな戦い方をする人はプロにはいないし、当然LDSにもいない。
「彼はトラップを巧みに使いつつ、強力なエクシーズモンスターでトドメを刺しにくる。戦う時は気をつけてくれ。……最後は、彼女だな」
モニターに映し出された3人目の顔を見て、私は思わず「あっ」と声をあげてしまった。
すぐさま北斗が、知っているのかと訪ねてきたので私は一度だけ頷く。
「ちょっと前に、私をたった一撃で倒したデュエリストよ。悔しいけど、全然歯が立たなかったわ」
紅蓮魔獣ダ・イーザの攻撃力を9200まで上げて、たった一撃で勝敗をつける。あんな豪快なプレイングをしてくるデュエリストは、私の記憶には彼女しかいない。
「彼女は清澄冷菓。最近この町に引っ越してきた中学生だ。デッキについては……とても説明しづらいのだがーー」
ダ・イーザデッキなんて、普段見かけるものじゃない。説明が難しくなるのも頷ける。
「彼女のデッキは複数あり、シンクロとエクシーズを、LDSの生徒以上に使いこなしてくる」
「ちょっ、ちょっと待ってください! 私が戦った時は紅蓮魔獣ダ・イーザが主軸のデッキで、シンクロ召喚どころかエクシーズも一度も……」
「その話を今からしようとしていた。彼女は複数のデッキを使う上、使用するデッキの全てが、ありえないほど質の高いものになっている」
そのデッキがメインデッキだと思い込ませてしまうくらいに、と社長は私を見ながら続けた。
「彼女のデッキは本当に理解不能だ。対策のたてようがない。清澄冷菓へのアドバイスは、彼女の全てのデッキを知らない私では出しようもない」
「えっ、デッキの傾向とか、全部のデッキにこのカードが入ってるとか、そういうのは……」
「ない」
北斗の疑問に対して社長はきっぱりと言い切った。本当に何もかもわからない、お手上げ状態だと。
「でもシンクロとエクシーズを使ったってことは、LDS関係者ってことか?」
刃の無礼な物言いにも、赤馬社長は変わらず応じる。
「LDSの関係者ではないが、彼女はシンクロとエクシーズだけは私たち以上に使いこなしている」
「だけってことは、融合は」
「君たちの予想通り、彼女はおそらく融合を使わない。だが、君たちが追い詰めればもしかしたら……その程度の確率でしか使わないということだ」
つまり融合は使ってこないと。だとしてもダ・イーザの攻撃力を、強欲で貪欲な壺のデメリットを使ってあげようなんて考える相手のことだ。何が起こってもおかしくない。
「三人とも、誰と当たったとしても全力で戦ってくれ。場所は第1デュエルフィールド。以上だ」
赤馬社長がそう言ってからすぐに、私たちは部屋を追い出された。
「デュエルする順番はどうする?」
「僕をトップバッターにするのはやめてくれ」
刃に疑問にすぐさま返事をした北斗。昨日の榊遊矢とのデュエルが響いているらしい。男のくせに情けない。
「私が一番最初に行くわ」
「真澄か……」
呟く刃。その視線はどことなく私を心配しているようにも見える。
「心配は無用よ。昨日みたいにサクって勝ってあげるんだから」
「……そうだな。向こうは一番強い人を大将に据えてくるだろうから、先鋒か中堅で今調子がいい真澄に出てもらうのが得策か」
「そういうことなら僕は2番手をやらせてもらうよ」
1番手は私、2番が北斗で最後が刃という順番に決まった。刃は昨日3番手で引き分けたこともあり、少し不服そうだったけど、北斗に3番手を任せるわけにもいかないので刃には大人しく3番手を勤めてもらうことになった。
第1デュエルフィールドまでの道のりは、二人とも何処か顔が暗かった。そういう私もきっと暗い顔をしているのかもしれない。
野々宮に清澄冷菓。あの二人に勝つビジョンが一切見えない。どれだけ手札が良かったとしても、彼女たちに勝てる気がしないのだ。
「真澄、緊張してるのか?」
「そうね、刃。少しナーバスになってるかもね」
少しどころじゃない。
昨日とは比べ物にならないくらい、今にも膝が震え出しそうなくらい緊張している。
「そう硬くなってちゃ勝てるものも勝てないぜ」
「分かってるわ、そんなこと」
「かといって負けてもいいって思って戦ったら負けるぜ?」
刃はニヤニヤと笑いながらそう言った。
「真澄がいつも通り戦えば、どんなやつにも勝てるさ。デッキを信じて、まっすぐ戦えよ」
「……そうね、その通りね。ありがとうね、刃」
そうだ、まっすぐ戦おう。自分のデッキを信じて戦いさえすれば、簡単には負けないし、うまくいけば勝てるはずだ。
たとえ相手が元プロだろうと、私に勝った清澄冷菓だろうと、全力を出せばそれはいいデュエルになるはずだ。
私たちが第1デュエルフィールドに着いて、最初に北斗が言った言葉がこれだった。
「どうして社長が先にここに?」
「走った」
息を切らさずに、済ました顔でそう言い放った赤馬社長。
第1デュエルフィールドはLDSの中でもかなり大きいデュエルフィールドで、外からプロデュエリストを招いた時に使われるフィールドだ。当然のように控え室も、客席も完備されている。
その客席にはすでに何人かのギャラリーがいて、今か今かと試合を待ちわびているようだった。
だが、当の対戦相手がいない。デュエルフィールド内にいるのは、赤馬社長ただ1人。
「3人は今控え室にいる。デュエルを始める前に挨拶に行っておいた方がいい」
私の思考を読んだのか、赤馬社長はそう言った。
彼に言われるがままに、私たちはデュエルフィールド入り口の近くにある一室へと向かう。
普段は使われることの無い部屋だが、何度か使用しているのですぐに場所はわかった。
白い扉に『天城、野々宮、清澄』と手書きで乱雑に書かれた紙が貼られた部屋。きっと、ここで間違いないのだろう。
北斗が恐る恐るノックすると、中から渋い男の人の声が返ってくる。
「どちらさまだ?」
「えーっと、LDSの志島北斗です。この後の試合のーー」
「あー、対戦相手さんか」
扉が開かれ、中から出てきたのはダンディな顔つきの大柄な男。間違いないこの人が、天城プロだ。
「悪いな、わざわざ挨拶に来てもらってな。あーっと、後の二人は仲良く寝てるからほっといてやってくれ」
そういって彼が指差す先には、仲良さそうにソファに腰をかけ、寝息を立てている男女のペア。パッと見カップルにも見えるが、年の差がありすぎて兄弟のようにしか見えない。
ちょっと外で話そうか、と天城プロは腕にデュエルディスクをはめながら廊下へと出てきた。
「あの2人はちゃんと目覚ましかけてから寝てたから、時間通りに起きるだろ。……おっと自己紹介がまだだったな。俺は天城。しがないカードショップの店長さ。気安く店長って呼んでくれ」
「僕はLDSエクシーズコース所属の志島北斗です」
「俺はLDSシンクロコースの刀堂刃」
「私はLDS融合コースの光津真澄です」
「よろしくな、3人とも。今ので名前は覚えたから、今度俺の店に来た時は割引してやるよ」
楽しそうに笑う彼の目はとても綺麗で、くすみなど1つもない。清澄冷菓や野々宮とは大違いだ。
「まぁでもデュエルフィールドに立ったらお互い敵同士だ。デュエルでは優しくしねぇからな?」
いたずらっぽく笑う天城プロは、どことなく嬉しそうだった。
北斗と刃がデュエルフィールドの近くの、ゲスト専用観戦エリアに向かい、私は1人デュエルフィールドへと向かう。
すでに客席の半分以上が埋まり、皆がこれから始まるデュエルを楽しみにしている。
負ける訳にはいかない。自分にそう言い聞かせていると、LDSの講師の1人がマイクを手にとった。
『只今より、LDSジュニアユース対特別講師3人の、特別試合を開始します。では先鋒は両者、前に出てきてください!』
私がデュエルフィールドに行くと、皆が拍手で出迎えてくれた。
そして私とは反対側の入場口から出てきたのは、天城プロだった。
「よう、光津真澄。まさか1回戦に俺が出て来るとは思ってなかったろ?」
やはりいたずらっぽい笑みでそう言う天城プロ。
「えぇ、てっきりあなたは最後だと思っていたわ」
「俺も最後が良かったんだけどな。まぁいかんせん俺より清澄冷菓の方が強そうだからな。仕方なく俺が一番手ってことよ」
帝を用いたアドバンス召喚デッキ。はたしてどんな戦い方をしてくるのか。
「おい審判、とっとと始めようぜぇ!」
『はっはいぃぃ! アクションフィールド、悪魔の巣窟伏魔殿!』
アクションフィールドは古代遺跡を模した場所だ。
天城プロにつられて私もデュエルディスクを構える。この一戦、何が何でも勝って次に繋げたい。北斗と刃に、少しでも楽させてあげないと。
「「デュエルッ!」」
天城 LP4000
光津 LP4000
「先行は俺か。つってもやることが無いんだよなぁ」
廃墟のようなアクションフィールドの中央で、天城プロはそう漏らす。
「なぁ光津真澄ちゃんよ。プロっぽく観客湧かせる楽しいデュエルするのと、お前を徹底的に叩き潰すデュエルするの、どっちがいい?」
すでにアクションカードを探すために走り出していた私に、彼はそう訪ねてきた。
知らないわよ、と返したいが相手は元プロ。無礼なことはしたくない。
「どっちでも、観客は楽しいんじゃない?」
「そうだな……じゃぁ俺の復帰戦だな、これが。モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンドだ。っと、あそこにアクションカードがあんのか」
天城さんは宙に浮かぶアクションカードを見て、肩を落とした。
モンスターを何も出していない状況では、空中にあるカードを取ることはできない。おとなしく地上にあるアクションカードを取るしかないだろう。
「私のターン、ドロー!」
よし、手札はいい。これなら……
「まずは手札からーー」
「その前にスタンバイフェイズの宣言をしろよ」
天城プロはかったるそうに、ディスクを操作する。
「スタンバイフェイズに永続罠、連撃の帝王を発動。相手ターン中に生贄召喚できるようにするカードだが、今はまだ効果を発動しない」
……だったらなんで発動したの? あれじゃぁ割ってくれって言ってるようなものじゃない。
「……くっ、モンスターをセットしてターンエンド」
「日和ったか。俺のターン」
笑顔で勢いよくカードを引く天城プロだったが、すぐにその顔は歪んだ。
「お前は呼んでねぇんだよなぁ。……仕方ない。手札から今引いた永続魔法、帝王の開岩を発動」
帝王の開岩
「帝王の開岩」の2の効果は1ターンに1度しか使用できない。
1、このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
2、自分が表側表示でモンスターのアドバンス召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。
・そのモンスターとカード名が異なる攻撃力2400、守備力1000のモンスター1体をデッキから手札に加える。
・そのモンスターとカード名が異なる攻撃力2800、守備力1000のモンスター1体をデッキから手札に加える。
「大雑把に言えば、生贄召喚を行うたびに帝をサーチするカードだな」
なるほど、召喚する帝モンスターを絶やさず、毎ターンアドバンス召喚するためのカードというわけね。でも、リリース要因とするモンスターをサーチするわけでは無いので、毎ターンアドバンス召喚するにはすでに召喚された上級モンスターをリリースしないといけない。
それって、すごく勿体無い気がする。
「俺はこれでターンを終了するぜ」
天城プロのフィールドにはセットモンスターが1、伏せカードが1枚と表側表示の帝王の連撃に帝王の開岩。手札は2枚。一方の私は手札が5枚あるがフィールドにはセットモンスター1体だけ。そしてどちらもライフは初期値の4000。
静かだ。
プロのデュエルとは思えないくらい、静かだ。私の場にセットカードはない。攻めるなら確実に今だろう。なのに、サーチ用の永続魔法を張っただけで、動こうとしない。
怪しい。アドバンス召喚が軸のデッキなら、フィールド上のモンスターをリリースしてさっさと攻撃に出るはずだ。ということは、あのセットモンスターが攻撃された時に何らかの効果を発動するモンスターなのか、手札に上級モンスターがきていないということだ。それなら……
「私のターン、ドロー!」
「今回のスタンバイフェイズは何もしないぜ。続けな」
「なら反転召喚、ジェムタートル!」
ジェムタートル、レベル4
攻 0、守2000
リバース:デッキから「ジェムナイト・フュージョン」1枚を手札に加える事ができる。
「ジェムタートルの効果発動! デッキからジェムナイト・フュージョンを手札に加えるわ」
「いいぜ、それは通してやる」
よし通った。ジェムナイトデッキのキーカード、ジェムナイト・フュージョンが手札にきた。これなら攻めきれる!
「さらに手札からレスキューラビットを召喚!」
すぐに効果を発動する。
「レスキューラビットは自身を除外することでデッキから同名の通常モンスター2体を呼び出せるの。私が呼び出すモンスターは、ジェムナイト・ラピス!」
ジェムナイト・ラピス、レベル3
攻1200、守 100
これには天城プロも感心したように声を漏らした。
「同じレベルのモンスターが2体か。チューナーってわけでもないみたいだから、くるな」
「えぇ、いくわよ。覚悟しなさい! 手札からジェムナイトフュージョンを発動!」
「なんだと!? エクシーズ召喚じゃなくて融合召喚か!」
「私はフィールドのジェムナイト・ラピスと手札のジェムナイト・ルマリンを素材に、融合召喚をおこなうわ」
2体のモンスターが渦を作り、今新たなモンスターへと生まれ変わる!
「雷帯びし秘石よ!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!
ジェムナイト・プリズムオーラ、レベル7
攻2450、守1400
1、1ターンに1度、手札から「ジェムナイト」カード1枚を墓地へ送り、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。その表側表示のカードを破壊する。
天城プロは何だか納得したように数回うなづくと、おもむろにその口を開けた。
「てっきりエクシーズモンスターが出てくると思ったが、さっきデッキから融合カードをサーチしたんだ、融合しない理由はねぇな」
「そんなに悠長に構えてていいのかしら?」
私は走りながら床に突き刺さっていたアクションカードを手に入れる。
「私は手札からアクションマジック、伏魔殿の魅災硫を発動! このカードは相手に1000ポイントのダメージを与えるアクションマジックよ!」
カードから飛び出たミサイルがそのまま天城プロめがけて飛んでいく。
天城LP4000ー3000
「……続けろ」
ダメージを受けたのに動揺した様子はない。まるで私が取るアクションマジックが何か最初から分かっていたかのような反応。
くっ、やりにくい。攻撃した感じが全然しない。
「さらに私は墓地のジェムナイトルマリンを除外して、墓地のジェムナイトフュージョンを手札に戻すわ」
「ほう、その魔法カードは墓地のジェムナイトカードを除外すれば何度でも使えるのか」
それはいいことを聞いたというような天城プロの反応。まだ攻める姿勢どころか妨害する気も見せない彼がだんだん恐ろしいものに見えてくる。
「くっ、私は再びジェムナイトフュージョンを発動! フィールドのジェムナイト・ラピスとジェムタートルで融合! 来て、ジェムナイト・ジルコニア!」
ジェムナイト・ジルコニア、レベル8
攻2900、守2500
これで私の手札は4枚。まだやれる。
「まだデッキをぶん回すって顔してんなぁ」
足を止めて天城プロの方を見れば、彼は一歩たりともスタート地点から足を動かしていなかった。その姿勢からわかること、それはアクションマジックを使用しないという、全力を出さないという意思表示。
「くっバカにして。私はこのターンで決着をつけるわ!」
「やれるもんならやってみろよ。俺のデッキはすぐ決着をつけれるほど甘くはないぜ?」
「なら見せてあげるわ! 私は墓地のジェムナイトラピスを除外して、墓地のジェムナイトフュージョンを回収」
さらに、発動!
「手札からジェムナイトフュージョンを発動! 融合素材に使うのは、手札のジェムナイト・ラズリー、ジェムナイト・アイオーラ、そしてジェムナイトクリスタ!」
「ほう、3体融合か。要求される素材の数が増えれば強いモンスターが出るってことか?」
「そう、これが私のエースモンスターよ! 現れよ、全てを照らす至上の輝き、ジェムナイトマスター・ダイヤ!」
ジェムナイトマスター・ダイヤ
攻2900、守2500
1、このカードの攻撃力は、自分の墓地の「ジェム」モンスターの数×100アップする。
2、1ターンに1度、自分の墓地のレベル7以下の「ジェムナイト」融合モンスター1体を除外して発動できる。エンドフェイズまで、このカードは除外したモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
現れたモンスターは私のエース、鎧を纏い宝石が埋め込まれた剣を使う戦士。
「ほう、随分とかっこいいモンスターが出て来たじゃねぇか」
「かっこいいだけじゃないわ。ダイヤは自身の効果で墓地のジェムナイトの数だけ攻撃力をアップさせることができるのよ!」
「ほう」
「それだけじゃない! 私は墓地に送られたジェムナイト・ラズリーの効果を発動! 墓地のジェムナイト・ラピスを手札に戻すわ」
ダイヤの打点は下がるけれど、あのセットカードと伏せモンスターを警戒して、次のターン用に保険はかけておいた方がいい。
「さぁ、バトルフェイズよ!」
私はアクションカードを探す足を止め、天城プロの方を向く。このターンで決める!
「さぁ、ジェムナイト・ジルコニアでセットモンスターに攻撃よ!」
ジェムナイト・ジルコニアの拳が天城プロのセットモンスターを粉砕する。だが……
「セットモンスターは警戒しないとダメだぜ。破壊されたのはジャイアントウィルスだ」
ジャイアントウィルス、レベル2
攻1000、守 100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、相手ライフに500ポイントダメージを与える。さらに自分のデッキから「ジャイアントウィルス」を任意の数だけ表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
「ジャイアントウィルスは戦闘破壊された時、相手に500ポイントのダメージを与えるぜ」
光津真澄LP4000ー3500
「さらにぃ! ジャイアントウィルスは増殖する! パンデミックの時間だ、デッキから出てこい、2体のジャイアントウィルス!」
攻撃表示で特殊召喚されるジャイアントウィルス。この2体を倒すと私のライフは2500にまで減少してしまうが、ダイヤとプリズムオーラの攻撃が通れば先に向こうのライフが0になる。
デッキ相性が悪かったわね。ジャイアントウィルスで生贄を確保したところで、先にライフを0にしてしまえば全く問題ないのよ。
「さぁ、敗北はすぐそこよ! ジェムナイトマスター・ダイヤでジャイアントウィルスを攻撃!」
「……リバースカードーー」
ここで伏せカードを使うのね!
「ーーは使わずに、すでに発動しておいた帝王の連撃を発動!」
「帝王の連撃?」
「忘れたか? 相手ターン中に生贄召喚できるようにする永続罠だ」
さっきのターンか! さっきのターンに発動しただけで何もしなかったから、すっかり忘れていたわ。
「俺は2体のジャイアントウィルスを生贄に捧げる。さぁこいよ! 俺の相棒、怨邪帝ガイウス!」
宙に浮かぶ黒い球を踏み潰し、空から降って来たそいつは、私の口から言葉を奪った。
外見はとても邪悪で、マスターダイヤとは正反対なのだが、とてもかっこいいのだ。悪だからこその格好良さが、このモンスターから感じられる。
怨邪帝ガイウス、レベル8
攻2800、守1000
1、このカードがアドバンス召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚を対象として発動する。そのカードを除外し、相手に1000ダメージを与える。除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、そのコントローラーの手札・デッキ・エクストラデッキ・墓地から同名カードを全て除外する。このカードが闇属性モンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した場合、その時の効果に以下の効果を加える。
・この効果の対象を2枚にできる。
「さぁ見せてやるぜ、俺の実力を! 怨邪帝ガイウスの効果発動! 姉ちゃんのフィールドのジェムナイトマスター・ダイヤを除外して1000のダメージを与えるぜ!」
怨邪帝は私のそばまでゆっくりと歩み寄り、ジェムナイトマスター・ダイヤの頭を片手で掴み上げる。
「さらに、生贄となったジャイアントウィルスは闇属性モンスターだ。よって、怨邪帝ガイウスの効果対象は2枚に増える!」
「一回の効果で2枚のカードを除外ですって!?」
「これが帝王、怨邪帝の力だ。仲良く滅びな、ジェムナイト・プリズムオーラ」
ガイウスの左手がジェムナイト・プリズムオーラへと伸びる。ジェムナイト2体の頭ががっちりと、邪悪なる帝王に掴まれた。
天城プロが短くやれ、とだけ呟くと怨邪帝は勢いよく2体のジェムナイトを地面に叩きつけた。
光津真澄LP3500ー2500
「くっ、ダイヤとプリズムオーラが!」
「これで攻撃できるモンスターはいなくなったな 。……おっと、召喚時についでに発動しておいた帝王の開岩の効果を使うぜ。デッキから風帝ライザーを手札に加えるぞ」
「私のバトルフェイズ中なのにデッキが回ってる……」
「相手ターンだろうがなんだろうが生贄召喚を行う、それが俺の帝王だ。さぁ、バトルを続けな! つってももう攻撃できるモンスターはいないがな」
くっ、これ以上やることもとくにない。ジェムナイトは1ターンキルを目指すテーマなので、メインフェイズ2でくるくる回るようなことは基本的にはない。
だからといってこの状態でターンを終えるのはまずい。空いての手札には新たな帝がいるし、私のライフは残りたったの2500だ。手札も2枚しかなく、ここから逆転するのは至難の技。
でも、まだ諦めない。たった1ミリでも希望があるなら、私はそれにしがみつく!
「カードを1枚セットしてターンを終了するわ!」
「ほう、まだ希望があるって顔してんな。いいぜ、それでこそデュエリストだ」
ニヤリと笑う天城プロ。その目には自身の敗北の可能性など微塵も写っていない。
「俺のターン、ドロー!」
再び、天城プロの顔が歪む。さっきから何を引いているんだろう……。
「これじゃあ、ただの帝デッキじゃねぇか。……仕方ない。俺は怨邪帝ガイウスを生贄に捧げる! 生贄召喚! こい、嵐を操りし帝王、風帝ライザー!」
風帝ライザー、レベル6
攻2400、守1000
1、このカードがアドバンス召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚を対象として発動する。そのカードを持ち主のデッキの一番上に戻す。
「なっ、怨邪帝よりステータスの低いモンスターをアドバンス召喚した?」
「俺の帝モンスターには生贄召喚に成功した時だけ発動する効果が備わってる。つまり、生贄召喚終了後の帝はただの通常モンスターと同じになっちまうのさ」
使用済みの上級モンスターもどんどんリリースして強力な効果を毎ターン発動。さらにはサポートカードで相手ターン中にもアドバンス召喚を行いつつ後続の帝も確保する。これが、帝王!
「ライザーの効果発動! フィールドのジェムナイト・ジルコニアをデッキの一番上に戻すぜ」
きた! モンスターを対象とするカード効果だ!
「それを待ってたわ! リバースカードオープン! トラップカード、亜空間物質転送装置!」
亜空間物質転送装置
1、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その自分の表側表示モンスターをエンドフェイズまで除外する。
「私はターン終了時までジェムナイトジルコニアを除外するわ!」
「ほう。うまく逃れたみたいだが、フィールドがガラ空きだぜ。やれ、ライザー!」
くっ、どこかにアクションカードは……あるけどここからじゃ遠すぎる!
光津真澄LP2500ー100
「もう虫の息じゃねぇか。俺はカードを一枚セットしてターンを終了するぜ」
……なんとか助かった。
でも彼が言う通り、私はもう、本当に虫の息と言っていい。手札枚数は1。フィールドには彼のターン終了とともにフィールドに帰ってきたジェムナイトジルコニアだけ。伏せカードどころか表側表示の魔法罠は一枚もない。墓地にジェムナイトフュージョンがあるのが救いだが、ジェムナイト融合モンスターでこの状況を突破するのは無理がある。
くっ、あらかじめ連撃の帝王を破壊しておけばよかっただなんて 、今更言っても後の祭りだ。
天城プロの手札は2枚。何故かライザー召喚時に帝王の開岩の効果でサーチしなかったところを見ると、手札の1枚は上級の帝王だろう。これ以上サーチして手札抹殺等を打たれたら目も当てられないからあえてサーチしなかった、そう考えるのが妥当よね。
つまり、あの連撃の帝王をどうにかしないと私に勝ち目はない。さらに伏せカードの2枚も怪しい。
さっき連撃の帝王の効果を使おうとした時に発動しようとしていた伏せカード、あれは相手の攻撃を防げるカードと見ていいだろう。そう考えると迂闊に攻撃はできない。
……これ、どう足掻いても勝てる気がしないわ。
「おいおい、カードを引かずに諦めてんじゃねぇよ」
真剣な表情でそう呟いた天城プロは、どこかイラついた様子だった。
「最後の一手で逆転してやる、ぐらいのやる気がなきゃデュエリスト失格だぜ? ちょっと不利だってだけで諦めるようなら対戦相手にも失礼ってもんだぜ」
「……そうよね」
まだデュエルは終わってない。まだデッキもライフも尽きてない。
不利なら、それを打開するカードを引けばいい!
「私のターン、ドロー!」
きた! 勝利の方程式がついに見えたわ!
「逆転のカードは引けたか?」
「えぇ。手札から永続魔法、ブリリアント・フュージョンを発動!」
ブリリアント・フュージョン
1、このカードの発動時に自分のデッキから「ジェムナイト」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を、攻撃力・守備力を0にしてエクストラデッキから融合召喚する。このカードがフィールドから離れた場合にそのモンスターを破壊する。
2、1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を捨てて発動できる。このカードの効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力・守備力は相手ターン終了時まで元々の数値分アップする。
「私はデッキのジェムナイト・ラピス、ジェムナイト・ラズリーで融合!」
「デッキ融合だと!? インチキクセェなおい」
「インチキなんかじゃないわっ! これがマルコ先生に教えてもらった融合召喚よ! 神秘の力秘めし碧き石よ。今光となりて現れよ! ジェムナイトレディ・ラピスラズリ!」
ジェムナイトレディ・ラピスラズリ、レベル5
攻2400、守1000
1、1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。デッキ・エクストラデッキから「ジェムナイト」モンスター1体を墓地へ送り、フィールドの特殊召喚されたモンスターの数×500ダメージを相手に与える。
「あん? なんで攻守が0になってんだ?」
「ブリリアント・フュージョンのデメリットで、ラピスラズリの攻撃力は0になっちゃうのよ」
「……じゃあなんで出したんだ? 生贄召喚に使うのか? つってもお前の手札にいるのはラピスだけだろ?」
「全てのデッキがアドバンス召喚を使うわけじゃないのよ。私は墓地に送られたジェムナイト・ラズリーの効果で墓地のジェムナイト・クリスタを手札に戻すわ」
「やっぱ生贄召喚じゃねぇか」
だから違うっていうのに。ジルコニアとラピスラズリをリリースしてまでクリスタを出すほど、私はアドバンス召喚に全てを捧げる気はないのよ。
「私はジェムナイトレディ・ラピスラズリの効果をーー」
「なんか嫌な予感がすっからリバースカードオープン、永続罠、帝王の溶撃だ」
帝王の溶撃
1、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、アドバンス召喚したモンスター以外のフィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される。
2、自分エンドフェイズに、アドバンス召喚したモンスターが自分フィールドに存在しない場合にこのカードは墓地へ送られる。
「このカードがある限り、生贄召喚されたモンスター以外のフィールドのモンスターの効果は無効化されるぜ」
っ! アドバンス召喚されたモンスター以外を対象としたスキルドレインですって。これじゃ墓地肥やしもできないし、バーンダメージも与えられないじゃない。
「でもまだ止まらないわ! 墓地のラズリーを除外してジェムナイト・フュージョンを回収。そして発動! 融合素材はフィールドのジェムナイトレディ・ラピスラズリと、手札にいるジェムナイト・ラピスとジェムナイト・クリスタ!」
さぁ、私のデッキの真のエースを見せてあげる!
「融合召喚! きて、輝きの淑女、ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ」
ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ、レベル10
攻3400、守2000
1、1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分フィールドの表側表示の「ジェムナイト」モンスター1体を選んで墓地へ送り、エクストラデッキから「ジェムナイト」融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
「攻撃力、3400だと……?」
これには天城プロも動揺した様子を見せる。たとえスキルドレインのようなカードが発動されているとしても、打点が高いモンスターを出せば関係ない!
「さぁ行きなさい、ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ! 風帝ライザーに攻撃!」
「グゥッ! ライザーがやられちまったか」
天城LP3000ー2000
「これで終わりよ! ジェムナイト・ジルコニアでダイレクトアタックよ!」
お願い、通って!
「通すわけねぇだろ! トラップカード、カウンター・ゲートを発動! その攻撃を無効にしてデッキから1枚ドローするぜ! ドロー!」
まだ終わらないぜ、と天城プロ。
「このドローが通常召喚可能なモンスターだった場合、こいつを通常召喚できる。俺が引いたのは通常召喚できる邪帝ガイウスだったが、生贄がいないから召喚できない」
「……」
ならなんで言ったの? 手札のカードを公開したようなものじゃない。
「仕方ないわ、私はこれでターンエンド」
……分からない。
さっきから天城プロの行動が理解できない。前のターン風帝ライザーの召喚時にデッキから帝をサーチしなかったこと、そして手札にガイウスがいるとをわざわざ公開したこと。
まるで手を抜かれているような嫌な感覚。いや、どちらかというと何かをされそうな、恐怖だ。
「意味がわからないって顔してるな」
ニヤニヤと笑いながら、天城プロ。
「……なんで前のターンに、ライザー召喚時にデッキからガイウスをサーチしなかったの?」
「ガイウスが手札抹殺とかで墓地に送られるとまずかったからさ」
「なんでガイウスが手札にあると公開したの?」
「それはなー」
満面の笑みで彼は口を開く。
「お前さんへのお礼だ」
……お礼? お礼されるようなことは何もしてないのに。
ダメだ、どんどんこの人のペースに持っていかれてる!
「デュエリストってのはな、時に勝ちを捨ててでもやらなきゃいけないことがある」
「勝ちを捨ててでも、しないといけないことーー」
「自分のデュエルを貫くことだ」
彼はデッキトップに手をかける。
「お前さんが本気を出してくれたおかげでさ、俺もようやく本気を出せるってことさ」
「……一体何を言っているの?
「俺は今回のデュエルを、プロだった頃の楽しいデュエルを捨てるデュエルにすると決めていた。だからこのデッキには、そもそも帝が3枚しか入ってない」
怨邪帝ガイウス、風帝ライザー、そして邪帝ガイウス。
「だからこそ開岩でガイウスをサーチしなかった。保険で入れといた帝を全て使うのを避けるためだ」
うん? いまこの人は保険と言ったの? あの強力な帝モンスターが、保険?
「あぁ、保険だよ。お前には今から、俺の真のデュエルってやつを見せてやるよ。ドロー!」
彼はカードを引くと同時に、おぞましい笑みを顔に貼り付けた。まるで、この時を待っていたような狂気に満ちた笑み。
「ついにきたか。待たせんじゃねぇよ」
一体この人は何を引いたの? 元からあった手札も含めてたった3枚でこの盤面を返せるようなカードを引いたとでもいうの?
「俺はっ、手札から魔法を発動する! さぁ、全てぶち壊れろ!」
妨げられた壊獣の眠り
次の瞬間、デュエルフィールドが、崩れた。
地響きとともに地面が砕け、そこから生えた黒い腕が私のジェムナイト達をがっしりと掴む。
「妨げられた壊獣の眠りは、フィールドのモンスターを全て破壊する魔法カード! さらにぃ! 互いのフィールドに俺のデッキから壊獣を特殊召喚する! こい、多次元壊獣ラディアン! そして怒炎壊獣ドゴラン!」
ジェムナイトを地底へと引きずりこみつつ、地底から現れる黒い怪獣と、天城プロの背後にあった遺跡のようなものを壊しつつ赤い恐竜のような、恐竜のようなモンスターが現れる。
どちらも互いを威嚇するように咆哮をあげるが、赤き恐竜のほうが迫力がある。
もはやこのフィールドに私がいた痕跡はない。いるのは天城プロのモンスターだけ。彼は自分のモンスターを、自分で仕留めるきだ!
「俺のフィールドに出したドゴランの攻撃力は3000。そっちのフィールドに出したラディアンの攻撃力は2800。そしてそして、お前さんのライフはーー」
100しかない。
私はとっさに辺りを見渡し、アクションカードを探す。だがもう地上にアクションカードはなく、ある場所はーー
「ラディアン! 空中のアクションカードをとって!」
モンスターに命令を飛ばすと、黒い怪獣は私を掴み、天高く掲げてくれる。
よし、アクションカードゲット!
「さぁいくぜ、ドゴランでラディアンに攻撃! 破壊の吐息、アングリーバーストォッ!」
ドゴランが吐く紫色の光線が、まっすぐに私のーーラディアンの方へと向かう。
「アクションマジック、回避! その攻撃を無効にするわ!」
かなりの巨体を誇るラディアンが、まるで瞬間移動でもしたかのように、その場から横にずれ、光線を回避する。
これで首の皮一枚で繋がったわ。
私はラディアンの腕から降り、大きくため息をついた。
「何を勘違いしてるんだ?」
ボソッと、だがはっきりと私の耳にその声は届いた。
「お前のターンはもう二度とこねぇよ!」
天城プロのメインフェイズ2が始まる。
「怒れる壊獣を贄として、敵の息の根を止めろ! 生贄召喚! 邪帝ガイウス!」
あれは、カウンターゲートでドローしたモンスター!
「ガイウスは召喚時にフィールドのカードを1枚除外する! 吹き飛べ、ラディアン!」
ドゴランを犠牲にアドバンス召喚された邪帝の魔の手が、多次元壊獣へと伸びる。
「さらに、除外したカードがが闇属性モンスターの時、相手に1000ポイントのダメージを与える」
私が負けを確信した時、天城プロの小さな声が、私の耳に飛び込んでくる。
「お前さんは頑張ったよ、確かに強かったぜーー」
でもな
「そんなの関係ねぇんだよ! お前がいくら強かろうと俺が壊す! てめぇとのデュエルを、一つ残さず消しとばす! これが破壊のデュエル、榊遊勝ですら『勝てなかった』俺のデュエルの姿だ!」
そう高らかに宣言した天城プロの目は、野々宮以上に、くすみきっていた。
光津真澄LP100ー-900
お久しぶりです。
最近リアルが笑えないほど忙しく、この二次創作を描く時間がほぼ皆無だった仕舞獅子舞です。
早速ですが、天城のデッキ内容を当初の予定と少し変えました。元々天城は帝王の烈旋で相手のモンスターをリリースして「てめぇがどんなモンスターだそうが俺には関係ねぇ!」と叫ぶキャラだったので、壊獣が出た時壊獣のほうがしっくりきてしまったんです。
というわけで天城のデッキは壊獣帝です。
そしてこれが今年最後の投稿です。来年は少しリアルが落ち着く予定なので、順次新しい話を投稿していきたいです!
余談です。
実はこの作品では何個かボツになったデッキがあるんです。今回はそれらの一部を紹介したいと思います。
『神殿ゼンマイハンデス』ボツ理由、チェインがいった。
『マジエク帝』ボツ理由、主要パーツがいった。
『大革命アンチホープ』ボツ理由、現実性皆無
『ウラヌスウィジャ』ボツ理由、動きが波動キャノンとほぼ同じだったから。
『先攻ワンキルインゼクター』ボツ理由、長い!
といったものがボツになってたんですよね。年末ということで一気に大放出して見ました。
ではでは、みなさん、来年もお元気で! 良いお年を!