異世界の少女と絶望のデッキ   作:仕舞獅子舞

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今回はデュエルしません。
ただし、モンスターカードの名前や、魔法カードの名前はバンバン出てきますのでご注意を。

そして、キャラクター数が増えたよぉ。大変だよぉ。


転校生の少女と、絶望の予兆

柚子との一戦が終わった私たちは、その足で職員室へ向かった。

白井さんがダイナソーイングデッキが回ったことに、興奮しすぎてうるさかったため、一時的にイヤホン消音にしておいた。これから私の担任の先生と話すというのに、耳元で騒がれたらたまったものじゃない。

そういえば、この世界では転校生の紹介とかはどうやって行っているのだろう。やはり自分のデッキや使える召喚方法について触れないといけないのだろうか。だとしたらかなり厄介なことになる。

 

どの召喚方法を明かせばいいのか、全くわからない。

 

シンクロは私のデッキ、サイフレームにとってなくてはならないものだが、汎用性の高いエクシーズを切り捨てるのは勿体無い。

かと言って融合や儀式はいらないのか、と言われるとそうでもない。白井さんの持っているネクロスやシャドール、私のファーニマルがいらないのかと問われれば、答えはもちろんNOだ。

そうなるとやはり、あの人に相談するのが一番だ。

私はイヤホンの音量を調節する。

 

『都合のいい時だけ俺を呼び出すのかよ、清澄』

「テンションが高い白井さん、めんどくさいんだもん」

『だもん、じゃねぇよ。何可愛い子ぶってんだ。……それで、何の用だ』

「あれ、今の白井さんって私の心の中が読めるんじゃないの?」

『読めるわけねぇだろ。無茶振りすんな』

 

ということは、私の考えてたことを一から説明しないといけないのね。面倒くさい。

私は話をかいつまんで彼に伝える。

 

『……なるほどな。公開する召喚方法ね』

私は誰もいない階段で腰を下ろす。

「そう、もしもデッキのこと聞かれたらどうするか、全く考えてなかったの」

『……ふむふむ。そういうことなら俺に任せろ! 昨日の夜、俺がお前に持ってくように言ったカードケースがあったろ?』

「えぇ、カバンの中に入ってるわ。よくわからないけど、とりあえずカバンに入れたはず」

 

白井さんは驚きの声を上げる。

 

『おま……中身確認しなかったのか!?』

「えぇ」

『……じゃぁさっきのデュエルのとき、特殊な召喚方法を使わないデッキで何を持ってるか聞いた時に三個だけって言ったのは、俺のこのデッキをネタデッキの一つとカウントしてたんじゃないのか!?』

「ダイナソーデッキ以外は、メタモルポット式デッキデスですよ?」

『そりゃ……また変なデッキを持ち出したな、お前は』

 

彼に言われて、私はカバンからケースを取り出す。入っていたのはスリーブに入った二つのデッキ。カードの量を見るに、どちらもエクストラはきっちり15枚用意されているらしい。

 

「これ、何デッキが入っているの?」

『片方、キャラスリーブに入ってるのは炎王だ。エクストラはエクシーズで統一されてるが、使わなくても戦える』

 

さすがは白井さん! 私が悩むことを見越して、エクストラを使わなくてもいいデッキを用意してくれるなんて!

 

「ありがとう、白井さん。さっきまで消音にしててごめんなさい」

『綺麗なまでの手のひら返しってやつだな。まぁいいや。もう片方の黒一色のスリーブに入ってるデッキは、使うことはないと思うが、俺のお気に入りのデッキだから、お守り代わりに持っておいてくれ』

「スリーブは抜いておく? この世界だとスリーブついてたら使えないみたいだし」

 

よろしくたのむ、と一言言ったきり、彼は何も話さなくなった。

私は自分の手に収まるデッキケースをマジマジと見る。

黒いスリーブに入ったデッキ。彼の全てのデッキはキャラスリーブの上に、カットがしやすい加工がされたオーバースリーブがつけられている。それは元の世界にいた時に、彼自信が言っていたこと。

ならばこの黒いスリーブに入ったデッキは? 身内にもお披露目してないデッキ? 未完成のデッキ? 他人のデッキ? 本当にただのお守り?

 

「考えていても仕方ないか」

 

階段に下ろしていた腰をあげて、デッキケースをしまう。

きっとこの黒いスリーブのデッキは、身内にすら見せたくないデッキなのだろう。以前、白井さんは絶対に見せられないデッキがあると私たちに告げていた。それならば詮索するのも野暮だろう。

スリーブを外す時はデッキ内容を見ないようにしないと、と思いながら私は職員室へと向かった。

 

 

 

 

 

「あなたが清澄冷菓ね。話は聞いているわ。ツムギ先生があなたのクラスの担当よ」

 

綺麗な女の人だった。私が職員室に入るなり、突然手を振ってきたこの女性が唐突にそう告げてきた。

 

「自己紹介がまだだったわね。私はツムギ、皆からはツムギ先生って呼ばれてるから、私も自分のことツムギ先生って読んでるの! よろしくね、冷菓ちゃん!」

「よっよろしくお願いします、ツムギ先生」

 

無駄にハイテンションな人だ。背丈は私と同じくらいなこともあって、中学生と言われても納得してしまいそうだ。

 

「はい、それじゃあもうすぐホームルームなんだけど、まだ時間があるからそこらへんで待っててね」

「あの、何処かに机がある場所はありませんか? 少しデッキの調整をしたくて……」

「あら、デュエル熱心な子ね!いいわよ、私の机がそこにあるから、好きに使ってね!」

「ありがとうございます」

「そうだ! 校長は言ってないはずだから、私の方から伝えておかないと」

 

ツムギ先生は、自分の机の上からデッキを一つとって、それに愛おしそうに頬ずりしながらこう続ける。

 

「この学校には特殊なルールがあってね、十人の先生に連続で勝利できれば、特殊な権利が与えられることになっているのよ」

「特殊な権利?」

「一部の校則に縛られない権利。例えば今あなたが犯してる校則、イヤホンの持ち込み、制服以外での登校が許されるようになるーー」

「ちょっと待ってください! 今すぐデッキ調整するのでデュエルしてください!」

 

私はデッキケースを取り出すと、急いでスリーブからカードを抜き取る。

制服以外での登校。これは私にとって神からの救いだ。あの恥ずかしいコスプレみたいな制服を着なくてすむなら、私は全力でデュエルする。白井さんには止められてるからサイフレームは使わないが、炎王にはいっているエクシーズは全力で利用させてもらう。

何が何でも私の羞恥心だけは守って見せる。

 

私の早すぎる手さばきに、近くにいた先生たちは、目を点にしている。

 

「ツムギ先生、あの子一体どうしたんだ?」

「さぁ、特権のことを話したらいきなり……何があの子を動かしたのかしら」

「校長からイヤホンのことは黙認されてる、と聞かされてるはずだろうに……」

 

「ふう、ようやく終わった」

 

わずか2分。エクストラ合わせて45枚の二重スリーブを、たった2分で全て剥ぎ取れるとは。人間やればできるものだ。

 

「さぁ先生。私とデュエルしてください!」

「時間はあるからいいけれど……一体どうしたの?」

 

私はデュエルディスクをつけ、デッキをセットしながら答える。

 

「守りたい〈もの〉があるんです」

 

 

 

ツムギ先生とのデュエルは、私の圧勝という形で幕を下ろした。エクシーズは一回もせずに勝てたのだから、デッキの試運転としては上出来だろう。

周りの先生の話を聞くに、ツムギ先生はこの学校でも五本の指に入る実力者だったらしく、何の対策も練らずに勝てた生徒は私がはじめてらしい。

先生のデッキはサイキック族を使用したシンクロデッキ。デュエル中に何度サイフレームを使いたくなったかは言うまでもないだろう。

そんなこんなで一人目の先生に勝利したところで、私は自分の教室へと行くことになった。当然、ツムギ先生と一緒に。

 

「久しぶりだわ、ツムギ先生があんなに綺麗に負けるなんて。冷菓ちゃんのこと甘くみてたかしら?」

「私の運が良かっただけです。後攻の1ターン目で炎王の急襲を引けなかったら、もしかしたら攻め込まれて負けてたかもしれません」

 

彼女は私に負けても悔しそうでなく、むしろスッキリしたという感じだ。私や白井さんだったら中堅デッキに負けるのが悔しくて、すぐに再戦を挑んでいただろう。

その白井さんだが、さっきから何も喋らない。デュエル中でさえも、一言たりとも口にしなかった。いつもの彼なら実体化した炎王神獣ガルドニクスに興奮を隠しきれないはずなのだが……

 

「さぁ、ついたわ。ここがあなたのクラスよ。私が先に中に入るから、合図したら入ってきてね」

 

彼女はそれだけ言うと中に入って行った。

その間、私はずっとさっきのデュエルことを振り返る。

炎王の回し方は、前の世界で白井さんが使っていたから何と無くわかる。終盤になったら真炎の爆発で一気にモンスターを並べてエクシーズすればいい、彼がそう呟いていたのもよく覚えている。だがこの世界はライフが4000しかない。そうなると爆発を使用するだけの火力が必要な状況は、なかなかやってこないだろう。実際、さっきのデュエルでは手札の爆発が完全に腐ってた。

真炎の爆発は抜いてもいいか、なんてことを考えていると、教室の中から先生が私の方へウィンクを飛ばしてきた。

 

「今日は皆さんに転校生を紹介します! 転校してからいきなりツムギ先生を倒した、すごく強い人よ。さぁ、入ってきて!」

 

私はゆっくり、クラスの中にいる人たちの顔を確認しながら、先生の隣まで歩いていく。

 

「黒板に名前書いてから自己紹介してね」

「わかりました、ツムギ先生」

私は差し出されたチョークを受け取り、出来るだけ綺麗に自分の名前を書く。

 

「はじめまして、今日からこの学校に転校してきました。この町についてはよく知らないので、いろいろ教えてください。みなさん、よろしくお願いします」

 

私は深々と頭を下ろす。

周りからは何も聞こえない。誰も感想などを言う気配もない。とりあえず頭をあげると、皆一様に驚いた顔をしていた。

教室は静寂に包まれる。

しばらくすると、誰かが耐えきれなくなったように口を開いた。

 

「可愛い! なんだこいつクソ可愛いぞ!」

「マジかよ。誰だ! 転校生はどうせブスだって言ったやつは!」

「可愛いというよりは美しい、姫って感じだな」

「すごく性格も良さそうだし、めちゃくちゃ優しそう」

「あれ、ドキドキしてきちゃった。……ダメよ、女の子同士なんだから!」

「でもデュエル強いんだろ? 告白デュエルとかしてもなぎ倒されるんじゃないか?」

「すごく丁寧な子、テニス部入ってくれないかなぁ」

 

もしかして盛大にやらかした? と思っていたらどうやらそうではなかったらしい。

前の世界では、カードゲームオタクらしいということで、少しだけ距離を置かれていたが、この世界ではそういうのは特になく、私の外見のアドバンテージがそのまま生かされているようだ。

それにしても転校生がやってきただけでここまで盛り上がれるのか。前の学校に入学した時は、コソコソと噂されるだけだったのに……

 

「すごい盛り上がりね、冷菓ちゃん、窓側の一番後ろの席が空いてるでしょ? そこ、自由に使っていいわ」

 

普通に「あそこがあなたの席」と言えばいいのに、どうしてそんなに婉曲的な言い方をしたのだろう。

 

「それと、一時間目には気をつけてね?」

「え、一時間目ですか?」

 

先生はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「デュエルの実技よ」

 

 

 

そんなわけで一時間目は大変だった。

50分間で20回、1回の試合を2.5分でこなすという超高速デュエル。そんなことをしたせいで私の脳は早くも処理能力の限界を迎えていた。

白井さんの炎王デッキは炎王獣キリンやヴォルカニックカウンターが入った、カウンター型炎王。本来ならば相手の攻撃を受けつつガルドニクスで場を一掃するという、時間をかけながら勝つデッキなのに、今回使った時間は1試合たったの2分と半分。全勝できたからよかったものの、これで全敗とかだったら泣きわめいていただろう。

それに、やたらと男子と戦うことが多かった。女子は魔導使いの神導魔希子さんと、シャドール使いの光焔ねねさんだけだった。魔導はともかく、シャドール相手によく短時間デュエルで勝利できたものだ。

そんなこんなで、光焔ねねさんは試合を全部終えた私に、おどおどしながらもペットボトルを差し出してくれていた。

「……おつかれさまです」

「お疲れ様。光焔さんのシャドール、今日戦った中で一番強かったわ」

 

差し出されたものを受け取りながら彼女に微笑みかける。

 

「……あの、もう行ってもいいですか?」

「こら、ねね! それがデュエルの相手に対する態度じゃないですよ。まったくもう……ごめんなさい、清澄さん。ねねは対人恐怖症なので」

「全く気にしてないから大丈夫ですよ。以前にもそういう人と一緒にいたことがありますから」

 

神導さんと光焔さんのやりとりをみていると、なんだかダメな娘と母親を見ているようで、少しだけ心が和む。

 

「ねねはデュエルが強いのにこの性格ですから、学校での成績もいいとは言えないんです」

「だって、怖いから。早くデュエル終わらせたいから」

 

早く終わらせたいから強いデッキで相手を封殺する、と言ったところだろうか。戦っている側としたらたまったものじゃないが、カオス、征竜、EMEmを使われるよりはまだマシだ。

 

「シャドール使いか。炎王でよく勝てたわね」

「いいデュエルでしたよ、清澄さん。ただ、少しだけ焦っていませんでした?」

 

神導さんは鋭い。後ろに人がたくさんいたから、速攻を意識したのは事実。それを見抜かれるとは思ってもいなかった。

 

「確かに本来の動きではなかったけど、それ相応の結果は出せたわ」

「清澄さん、対戦相手には常に全力で、最高の動きを見せるのが礼儀ですよ? じゃないと、フェアじゃないです」

「炎王の新しい戦い方を試していただけなの。別に手は一切抜いてないわ」

 

まぁ本気を出すなら、私がやらずに白井さんの指示を丸呑みするだろうが。

 

「あの、私、もう行ってもいいですか? はじめての人は、怖くて」

 

神導さんの影に隠れ、声を震わせながら光焔さんがそう口にする。

私は引き止めちゃったようでごめんなさい、と言ってから何処かへと走っていく彼女の後ろ姿に手を振った。

 

「それにしても、清澄さんのデッキは不思議ですね」

「不思議?」

 

唐突すぎる神導さんの言葉を、オウムのように復唱する私。

 

「デッキは使い手の分身のようなもの。炎属性の炎王を使う人は、だいたい熱血な人が多いんです。清澄さんは炎王というよりは、海皇っていう方がしっくりきます」

「炎王を使うほど暑苦しく見えない?」

「失礼ですが」

 

なるほど。デッキは使用者の分身ね。

そうなると私の本来の分身は、サイフレーム? サイフレームのイメージといえば、うざい、気持ちいいデュエルをさせない、フィールド魔法に頼りすぎと言ったところだろうか。

私は相対的にみて、そんなにうざい方じゃないし、何かに依存しているわけでもない。ましてや他者を不快にさせないように出来るだけ気を配っているつもりだ。

そうなるとサイフレームは私の分身とは程遠い。

 

頭の中をアンチホープが横切る。

アンチホープ、希望の対局にある絶望。

私に一種の充実感をくれたアンチホープデッキ。もしかして私がお守り代わりにしているあのデッキが、私の分身と言えるデッキなのだろうか。

 

「でも、人は見かけによらないですから、清澄さんがとても情熱的な人なのかもしれませんね」

「そうかしら。まぁ自分のことはよくわからないものだからなんとも言えないけど」

「ふふっ、情熱的な清澄さんというのもみてみたいです」

 

楽しそうに笑う神導さん。

私が情熱的、ね。そんな風になったことは今まで一度もない。趣味に熱中したこともないし、当然のように情熱的な恋もしたことない。

あえて言うならカードゲームだけは熱中したかもしれないが、それ以外は特にない。

私と最も無縁な言葉が、熱だろう。

 

「神導さん、次の授業って何かわかる?」

「ええと、次は数学です」

 

あっ、普通の授業もしないといけないのね。てっきり、こっちの世界ではデュエルだけしか勉強しないものだと思ってた。

 

「私は先に教室に戻ります。何かあったらいつでも声かけてくださいね」

「そういえば、光焔さんは?」

「ねねはまたカウンセリング室にいると思いますよ。彼女、できるだけ人といたくないって理由で先生に連勝して特権を手に入れてるんです」

「特権って、授業免除とかもできるの?」

「えぇ。デュエルが強い人にデュエルのことを教えても無意味、っていうのが当校の方針みたいです。そんなことないと思うんですけどね……」

 

これまたいい話を聞いた。授業を受けずにデッキの調整や、この世界についていろいろと調べることができるというのは、私たちにとってかなりのアドバンテージだ。

まず、今私と白井さんが持ってるデッキは、現環境との対戦を想定としたデッキだという問題点を解決できる。ペンデュラム召喚対策として入っている魔封じの芳香や、その他諸々のメタカードを抜いて、他のカードを入れられるというにはかなりのメリットとなる。私はまだ中学生だからできるだけ夜更かしはしたくない。デッキ調整はなるべく昼間にしたい。

そしてこの世界のことを調べられること。私はアニメを通じてこの世界のことを何と無く知っているが、それでも知らないことが多すぎる。

 

「なるほど。これで今後の方針は決定ね」

「……どういうことですか?」

不思議そうに首を傾げる彼女に、私は微笑みかける。

「なんでもないわ。ただの独り言よ」

 

 

 

 

 

午前中はあっという間だった。

授業で教わることは、どれもカードゲーム仲間とともに予習したところばかりで、出される問題も全然歯ごたえがない。仕方がないので、問題をとき終わったらずっとデッキについているスリーブを剥がしていた。

3時間目の国語も同じように過ごし、4時間目の体育はまだ体操服が届いてないということで見学となった。先生には制服のままでいいから参加したい、と申し出たが男子が集中できないという理由で却下された。スカートを履いてバスケに参加するのは、さすがにまずいのだろうか。

 

午前の授業が終わり、食堂に向かうとすぐさま神導さんがやってきて、空いてるスペースを教えてくれた。昼の食堂の混み具合は尋常ではなく、彼女がいなかったらゆっくり食事することもできなかっただろう。

 

そして昼休み。これがなかなかに激しかった。

先生との3連戦。当然のように三連勝を収めたのだが、私の脳は確実に限界を迎えていた。

カードをやり過ぎて疲労感が溜まっている。それも24時間カードをやった時くらいの疲労度だ。そんなわけで午後一発目のデュエルタクティクスの授業は、全く頭に入ってこなかった。

6時間目、本日最後の授業は英語。白井さんや他の仲間から、英語だけはちゃんとやっておけと言われていたので、眠気に耐えながら必死にノートをとっていた。

 

そんなんこんなで学校生活初日が終わりを迎えたわけだが、ひとつだけ問題があった。

今日は柊柚子にしか会えていないのだ。

榊遊矢か権現坂には会いたかったのに、その二人の名前すらも聞いていない。これでは遊勝塾へのコンタクトが取れない。まだペンデュラム召喚のことが公になっていない今しか、遊勝塾とコネクトを持てるチャンスはない。

ペンデュラムが周囲に認知されるようになれば、私もペンデュラム目当てで近づいた人間だと思われてしまう。マイナスの印象から相手に接触するほど面倒くさいものはない。

 

私は放課後の誰もいない教室で、炎王デッキを調節しながら今後の予定を考える。まずはカードショップに行ってデッキケースを買う必要がある。以前と違ってデッキを持ち歩くことが多くなりそうなので、ケースはあった方がいい。今までみたいにwixossのボックスにいれて持ち運ぶよりは、市販のケースに入れていた方が相手からの印象もいいはずだ。

 

『おい、清澄。聞こえるか』

 

突然、身元から声がする。朝からずっと黙りっぱなしだった白井さんだ。

 

「どうしたの、いきなり」

『今の体でできることをいろいろ試してたから、お前に声を掛ける余裕がなかった。お前からなんか言われても、返す余裕がない……まぁこんなこと言っても言い訳にしかならないから、いきなり本題に入らせてもらうぜ』

 

私は机一杯に広げていたカードを集めて1箇所にまとめ、イヤホンに手を当てつつ立ち上がる。

 

「本題っていうのはよくわからないけど、ちょっとトイレ行きたいから、話は歩きながらでいい?」

『あぁ別にいいぜ。超重要なことだけ話すから、心して聞けよ』

 

廊下に出て、まっすぐトイレへと向かう。

個室に入って腰をおろした時、彼は唐突にこう切り出した。

 

『俺は今お前にケータイの中にいる。これがずっと不思議だった』

「それは私もよ。何で体ごと飛ばされずに、こういう形で異世界に来たのか、ずっと疑問だった」

その返答を聞いた白井さんがため息を付く。

『そこじゃないんだよ。俺が疑問だったのは、ケータイの中に入ってるってことだ。俺の体のことなんてどうでもいい。ケータイに入り込んでるのには絶対意味があるはずなんだよ』

 

私はようをすませて、手を洗いながら尋ねる。

 

「それで、意味がわかったの?」

『あぁ。どうやら俺に体はーーケータイの画面にいたあのデフォルメキャラだがな、あれはどうやら、一時間だけお前になるらしい』

 

教室へと戻りながら疑問を口にする。

 

「えっと、それはそのままの意味で受け取ってもいいの? それとも私たちの体が入れ替わるっていうーー」

『わかってんじゃねぇか。ただし一日一時間限定で、入れ替わりの発動は、俺が勝手に行えるみたいだ』

 

それはかなり面倒だ。私が風呂に入ってたりしていた時に、突然入れ替わったら私の体がどうなるかわかったもんじゃない。

大学生に私の体を触られる。想像しただけで寒気がする。

 

『心配すんな。この機能を使う気はねぇよ』

「なら安心した。勝手に入れ替わられたらどうしようかって思ってたの」

 

苦笑いをこぼしながら教室のドアを開ける。

 

「遅かったな、清澄」

 

そこには知らない人がいた。見覚えなんてない。もちろん、前の世界にいた人でもない。それなのに私の机に上に座っている。

昨日のエレキ使いほどではないが、ある程度顔は整っていて、重力を無視して上へとのびる金髪はアニメならではのものと言える。きっとゲームにすら出てこないモブなのだろう。

 

「あの、どちら様で?」

「俺は隣のクラスの前浜ってもんだ。よろしくな、清澄ちゃん」

 

知らない人にちゃん付で呼ばれるのは、なんだかとても気持ち悪い。

机の隣に置いてある私のカバンの方へ視線を移す。どうやら漁られたような形跡はない。

 

「それで、私に何のようですか」

「なに大したことじゃないさ。隣のクラスにとても美人な転校生が入ってきたって聞いたから、僕の奴隷になってもらおうかと思ってね」

「……はい?」

 

奴隷? 意味がわからない。アニメキャラでトップの馬鹿さを誇る佐渡すらそんなことは言わなかった気がする。

 

「おや、君は状況がわかっていないみたいだね。君に選択権はないんだよ」

 

そう言う彼の手に収まっているのは、一つのデッキ。私の直感がこう語りかけてくる。

 

「それってもしかして……」

「そう、君のデッキだ」

「……サイテー」

 

やられた。まさかトイレに行っている間に盗まれるとは。平和な街にいた私の癖がここにきて裏目に出た。

 

「さぁ清澄くん。僕の奴隷となってデッキを取り戻すか、このまま僕にデッキを渡すか。こんなデッキ、僕の使用人に渡して廃棄してしまうかもしれないが」

 

白井さんが舌打ちする。

 

「もちろんデュエルで取り戻してもいいが、今の君にはデッキがない。そして僕はこのデッキを使う」

 

私と白井さんのアイディアが詰まったデッキを、前浜は片手で乱暴に扱う。白井さんが再び舌打ち。

 

「デュエルは強いデッキを使えば勝てる。君のような人がこのデッキを使うのは勿体無い。だから僕が有効活用してあげよう」

 

再び舌打ちする白井さん。

 

『ごめんな、清澄。流石にこれは耐えられない』

次の瞬間、私の意識は体から引き剥がされた。まるで幽体離脱したかのように、体から意識が抜けた。

だがすぐに気づいた。

意識が抜けたわけじゃなく、意識入れ替わったんだと。

 

「お前、根性あるなぁ」

私が、私であるはずの何かが不気味な笑みを浮かべる。

「人様のデッキ盗んで、奴隷になれだぁ?」

私らしくない言葉使い。

「いいだろう、相手になってやるよ」

私の胸元から取り出される一つのデッキ。

 

「まさか、君のデッキは一つだけじゃないのか?」

「当然だろうが。他人のことを奴隷にしようとか考える奴は頭のネジが足りてねぇや。あらかた、この〈清澄冷菓〉にエロいことさせようとか考えてたんだろ」

 

この口調。間違いない。

私は叫ぶ。

 

『白井さん!』

 

イヤホン越しに私の声を聞いた彼は、私の顔で微笑む。

 

「ちょっと借りるぞ、清澄。このクズに、俺のデッキを盗みやがったこいつに、制裁を下してやる」

 

突然のキャラの変わりように、動揺を隠し切れていない前浜に、白井さんが告げる。

 

「さぁデュエルをしよう。お前が勝ったら、俺はお前の奴隷だ。初めてだってくれてやる。それが勝者の権利だ」

 

へんなことを想像したのか、ニヤつく彼に白井さんは言い放つ。

 

「ただし、お前が負けたらお前の全てをもらう。これが敗者の義務だ」

 

デュエルディスクを構える二人。

この狭い教室が決闘場とかす。

 

「清澄。あの黒いスリーブに入ってたデッキ、これでいいんだよな」

『えぇ、でも、勝算はあるの?』

白井さんは不気味に笑う。

「まぁ黙ってみてろ」

 

お互いにディスクを構え、デッキをセットする。

 

「さぁ準備はいいかな、清澄くん。僕の奴隷になる覚悟はできたかい?」

「お前みたいなクズには制裁を下してやるよ」

 

ディスクをなでながら目を閉じる白井さん。

「さぁ叩き潰してやるよ」

開いた目には殺意が浮かぶ。

「悪いな、お前たち。ちょっと力を貸してくれ」

『白井さん……』

「ごめんな、清澄。お前の体、使う気はなかった」

『気にしないで。私も全力で殴ってやりたかったから。代わりにボコボコにしてね!』

「あぁ、もちろんだ」

彼は前浜を睨みつける。

 

「さぁ、見せてやるよ。デュエルの行き着く先、絶望って奴をよぉ!」

 

「「デュエル!!」」




「登場したカードと炎王の解説! 本編では触れなかったのでここで解説します。解説は私、神導でお送りします。まずは登場したのに説明してないカードから」

真炎の爆発
自分の墓地から守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。

炎王神獣 ガルドニクス、レベル8
攻2700、守1700
このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから「炎王神獣 ガルドニクス」以外の「炎王」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

炎王の急襲
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズ時に破壊される。「炎王の急襲」は1ターンに1枚しか発動できない。

「炎王モンスターは炎王獣ガルドニクスと、炎王神獣ガルドニクス以外のモンスターが全て守備力200で統一されています。なので真炎の爆発は切り札的カードとしてデッキに入るんです」

「炎王の急襲からガルドニクスをリクルートして、エンドフェイズに自壊。そして次のスタンバイフェイズで相手のフィールドを焼く。これが炎王を代表するコンボです。さらに炎王モンスターは効果破壊されると様々な効果を発動するんです! そこまで説明したのですが今日はここまで。次回の本編で炎王が使用されるはずなので、そこで違うコンボを見せられればと思います! ではまた次の機会で!」

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