我輩はレッドである。   作:黒雛

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 こ、更新が遅れた理由……?
 い、いい、異世界召喚に巻き込まれていました。ゴミみたいなスキルを与えられて国から追い出されたのですが、そのゴミスキルが実はチート級の才能を秘めていて、なんやかんやで成り上がりハーレムを築いて――ごめんなさい。


第八話 「底辺の争い」

 

 

「ねえ、なんなの? なんで私の隣にさり気なく座ってくるの? 狙ってたの? 虎視眈々と狙ってたの? 私のこと好きなの? マジキモイんですけど」

「意味わからないこと言わないでくれますかね。ただの偶然に決まってんだろバカじゃねーの、勘違い乙」

「え? なにその必死な否定。もしかして図星だった? 今度は私を攻略するつもりなんですか? いやいや、無理に決まっているでしょう。経済力のない男に価値はありませんー。プークスクス。私のフラグを立てたかったらまずはポケモンマスターになってからにしなさい、ぼーや」

「は? 攻略? 誰が誰を攻略するって? え? は? ちょ、ないわー。さり気なくヒロイン枠みたいな物言いしてるけど、どう考えてもお前はないわー。サブキャラというか、ただの賑やかしだわー。スタッフのお茶目な遊び心で名前とグラフィックを追加されたモブ同然の存在が生意気だわー。ないわー、マジないわー。自己評価高い女とかマジないわー」

 

 

「「………………!!!」」

 

 

 レッドとブルーは互いに頬を引っ張り合った。手持ちのポケモンたちが一様に呆れた顔をしているが、関係なく二人は底辺の争いを続けた。

 

『もうっ、喧嘩するの、めーっ』

 

 ぷくりと頬を膨らませたラティアスが間に割って入った。

 渋々怒りの矛先を収めた二人は改めてスタジアムを見下ろす。

 

『なんか悉く散ってるねー』

「最初から観戦してたけど皆こんな感じよ。無謀に無策にポケモンを突っ込ませてあっさりと返り討ち。ポケモンが可哀想だわ」

「俺たちのような特別許可証所持者はいないのか?」

「いたわよ。けど、特別許可証を持っているからといって優秀なわけじゃないわ。ソレを自慢しながら肩で風を切るようにして挑戦していたけど、ジムトレーナーに一蹴されて泣きべそかいて逃げ出したし」

 

 どうやらポケモンのことになると普通に会話ができるらしい。

 

「参考になるかと思って来たんだけど、結果はご覧の通りよ。誰もジムリーダーのところにたどり着いていないわ」

 

 ブルーの言葉を聞きながらスタジアムの脇に目を移すと、フラウとローザの姿があった。

 

「まあ、さっきまでの話だけどね」

「どういうことだ?」

 

 フラウたちのそばにある扉が開く。また新しい挑戦者がやって来たのだろう、とついでにその顔を拝むことにしたレッドは、

 

「なるほどね」

 

 と、呟いた。

 

『どうしたのー?』

 

 ラティアスがちょこんと小首を傾げる。

 

「ほら、あそこに変な緑虫がいるだろ」

『んー? あ、グリーンくんだ』

 

 グリーンなら問題なくジムトレーナーを倒し、ジムリーダーへの挑戦権を手にするだろう。

 

「さっきまでアンタの席にいたんだけど、参考にならない挑戦者たちに業を煮やして突撃したわ。無様に負けたら笑いましょう」

「じゃあ俺は紙に『www』って書いてバトル中に応援するわ」

「おっとこんなところに“バトルレコーダー”が」

「「くっくっく」」

 

 なんて笑っているが、グリーンならジムリーダーであるタケシを倒すこともそう難しくないだろうと二人は予想している。信じている。

 とにかく人を貶していくスタイルはもはや矯正不可能のクセなのだ。

 

「まだあいつの出番まで時間あるし、なんか買ってくるか」

『行くーっ』

「私はプリンアラモードでいいわ」

「黙れ小娘。貴様にサンが救えるか」

「だけどプリンは掬えるわ」

 

 誰が上手いこと言えと。

 

 

     ◇◆◇

 

 

「残念だったね~」

 

 と、のほほんとした声をこぼすのはローザだ。

 

「くぅ、もう少し、もう少しだったのに……!」

「いやいや、キミら完敗だったよ?」

 

 対照的に悔しげな表情をするフラウに、レッドは最寄のコンビニで購入した菓子パンを食べながら正直に言ってやった。

 意気揚々にジムに挑戦した二人は、やはりというべきか、ジムという壁に屈してしまった。わりとあっさりと。

 

「そんなことないわよっ。良いところまでいってたわ」

「どこが? 初戦敗退を良い線と断じるのはさすがに無理があるわ」

「うぐっ! で、でももう少しで初戦突破くらいは――」

「自分を褒める前になにが悪かったのか検討しなさいな。岩タイプのヘイラッシャイに全力の体当たりを仕掛けた時点で完全にアウトだよ」

「なにがいけないのよ? 全力でいかないとダメージは与えられないじゃない…………ヘイラッシャイ?」

「岩タイプに物理攻撃は諸刃の剣なんだよ。考えてみろ。お前が岩を全力で殴ったらその手はどうだ?」

「痛い」

「ついでに岩を壊すどころかひび割れ一つ入れられないだろ? ポケモンだって似たようなモンなんだよ。体当たりでぶつかったとき、ガーディは痛そうにしていたぞ」

 

 フラウは腰に装着している“モンスターボール”を見下ろした。

 既にジムに備え付けている回復装置で治療は完了している。ガーディとピカチュウはすやすやと眠っていた。フラウは“モンスターボール”を撫でて「ごめんなさい」と呟く。

 

「じゃあ~、どうしたらよかったの~?」

「そうだな……ローザの場合はプリンの“かなしばり”で動きを封じてから“うたう”で眠らせて至近距離で“チャームボイス”がいいんじゃないか? 観察した限りじゃ最初のジムは技の工夫で突破できる仕様に調整してるっぽいし」

「そうなの?」

「トレーナーなら技を指示するだけじゃなくて、タイミングもちゃんと見計らってやれ。相手の動きを読み取って緩急をつけるのも大切だ」

 

 一つの技を出せば、すぐに次の技を繰り出そうと指示を出すのはルーキーの反省すべき点だ。彼らはひたすら攻めることしか頭になく、相手のポケモンを観察しない。ひたすら自分のポケモンを注視しているのだ。フィールドの外から俯瞰してフィールドを見下ろせる立場にいるのに、あまりにもったいない。

 そもそも攻撃一辺倒というのは、堅実な防御を得意とする岩タイプの土壌に堂々と踏み込むようなものだ。そんな愚行を犯すものに勝利を与えるほどジムは寛容じゃない。ちょっとやそっとで勝てる仕組みになっていない。

 

(さくっとバッジを集める原作主人公やライバルが異常なんだよなぁ)

 

 レッドは前世の記憶を思い出す。へっ、ジムリーダーとか一丁前に気取りおって――と言わんばかりに次から次へとジムを制覇した懐かしい記憶を。四天王という輝かしい称号を持つ、全ポケモントレーナーたちの憧れの的ですらただのカツアゲ対象でしかなかった哀しい記憶を。

 もちろん、この世界でそんな舐めプをしようものなら即座に瞬殺されてしまうだろうが。

 

「私の場合は?」

 

 と、フラウが訊いた。

 

「ガーディは相性悪いからなぁ。水タイプとか草タイプのポケモンをゲットして再挑戦したらいいんじゃねーか?」

「身も蓋もないこと言わないでよっ。私はガーディで勝ちたいの」

 

 まあ、最初のポケモンで勝ちたいというのはわからないでもない。本当の意味で最初のポケモンであるラティアスは胃薬の旦那によって出禁を受けているし、旅立ちの日に嫁は胃薬に貰い受けたヒトカゲはガーディと同じ炎タイプと分が悪い。

 相性の良し悪しを覆すのも、奥深いポケモンバトルの醍醐味と言えるがヒトカゲが怖がっているのを無理させるわけにはいかない。

 

「不利な相性のポケモンで勝ちたいのなら技の工夫より戦い方を工夫するべきだ」

「どう違うの?」

「言葉」

「……ラティアス、やっておしまい」

 

 てしてしてし!

 

「ブルーちゃんも参加してあげるわ♪」

「うるさい黙れ。振り上げたサバイバルナイフは大人しく自分の胸に突き刺してしまっておけ。虚刀流をぶちかますぞ」

「虚刀流(笑)」

「よし、殺す」

「貴方たち本当に幼馴染!?」

 

 目を剥いたフラウの言葉にレッドとブルーは互いに指を差して、

 

「ムシケラと書いて幼馴染」

「ゴミクズと書いて幼馴染」

「「ああん……!?」」

『もうっ、いい加減にするのーっ!』

 

 ぷくりと頬を膨らませたラティアスがてしてしてし――否、ごっちーん!

 見た目こそ幼い少女のソレだが、あくまでポケモンであるラティアスの腕力は人間を軽く上回っている。てしてしてしはしっかりと手加減をした可愛らしいものだが、ごっちーんは割りとシャレにならないレベルである。

 

「スーパーマサラ人でなければ即死だった……!」

「即死しときなさいよぉ……!」

 

 二人の頭部には大きくコミカルなたんこぶができていた。スーパーマサラ人というかギャグシーンじゃなければ撲殺死体の完成である。惜しい(人類視点)。

 

「いてて、話を戻すけど、戦い方の工夫を知るには――ちょうど打ってつけのヤツがいるぞ」

 

 レッドはスタジアムに視線を向ける。

 不敵な、実に面白そうな笑みを刻んである一点に視線を注ぐ。

 次の挑戦者として空いたばかりのスタジアムに歩を進めたのは、レッドのもう一人の幼馴染。

 幼馴染と書いて中二病と読むグリーンだ。ろくなのがいない。

 

「彼が打ってつけなのかしら?」

「かっこいいね~」

「そうか? 俺はよく路傍の石ころと見間違えるんだが」

「ねえ、歪んでるわよ。貴方たち歪んでるわよ」

 

 幼馴染とは利用し、搾取し、罵倒するものである。

 三人の共通意識だ。だから散々言いながら案外仲は良い。

 

「戦い方に関しては緑が一番巧い。見ているだけでもかなり参考になるはずだぞ。忌々しい」

「私たちの中で唯一ジムリーダーに弟子入りしてるものね。憎たらしい」

「どうしてこの人たちは素直に褒めることができないのかしら」

『グリーンくんが、三人の中で一番勝率高いから』

「「違う! 性格が悪いだけだ(よ)!」」

「そこまで負けず嫌い!? 私が言うのもなんだけど!」

 

 レッドとブルーはカッと目を見開いて強く否定した。悔し紛れの皮肉と勘繰られるくらいなら、単純に性格に問題があると認識された方がましなのだろう。

 そんな賑やかなやり取りをしている間にグリーンはジムトレーナーと相対していた。

 

 他の挑戦者たちがあからさまな緊張や昂揚を浮かべているのに対して、グリーンはいつもの澄まし顔で“モンスターボール”を握っている。

 そんなグリーンの態度に、連戦で疲労の渦中にあったジムトレーナーは右肩下がりしていたテンションを持ち直した。

 ジムトレーナーとて立派なエリートトレーナーの一人だ。相対するトレーナーの技量をあるていど見抜く慧眼はある。

 グリーンを今までの挑戦者たちとは違うと認識したのだ。

 

 おそらく――タケシも同じだろう。挑戦者たちにジムトレーナーの壁はとても高く、ずっと手持ち無沙汰でバトルの様子を眺めるしかなかったタケシの目線は完全にグリーンに注目していた。

 

 審判の合図により、両者が同時に“モンスターボール”を投げる。パカリと口が開き、飛び出した二体のポケモン。

 ジムトレーナーはヘイラッシャ――イシツブテを。

 グリーンは当然ゼニガメ――否、カメールを繰り出した。

 

「進化させるの早くね?」

「なに言ってんの? 私の親ビンもフシギソウに進化したわよ」

 

 ブルーの言葉にレッドはぐぬぅと内心唸った。うちのヒトカゲまだLv.10もいってないんですけど。

 先制攻撃を取ったのはカメールである。甲羅に四肢と頭部を引っ込めて“アクアジェット”で先制を仕掛ける。

 グリーンは指示を出してない。より最速で攻撃を仕掛けるため、予めそういう風に仕込んでいたのだろう。“モンスターボール”から飛び出すと同時に“アクアジェット”で仕掛けろ――と。

 奇襲は功を奏した。イシツブテは防御も間に合わず“アクアジェット”をもろに受けてしまい大きく吹き飛んだ。二度、三度とバウンドするほど強力だったのは、直撃する寸前に“ロケットずつき”の要領でカメールが引っ込めていた頭部を突き出したのだ。

 言わば、加速力と水タイプを得た“ロケットずつき”のようなもの。水を嫌うイシツブテは堪ったものじゃない。

 

(つーか、あの戦術は……)

 

 基本とはほど遠い戦い方にレッドは遠い目になった。基本に忠実とか抜かした数秒前の自分――いや、自分の発言通りに動かない緑くたばれこの野郎と恨む。

 この攻撃でイシツブテは力尽きてしまった。

 挑戦者がジムトレーナーのポケモンを瞬殺したのはグリーンがはじめてだ。あいつ何者だ……? と周りが少し騒がしくなった。

 ジムトレーナーが次のポケモンを繰り出した。

 サイホーンだ。

 サイホーンは先端の角をカメールに突きつけて、その巨体を走らせた。見るからに頑丈なゴツゴツの巨体が駆ける様はまるで重戦車のようだ。

 当然カメール、ひいてはグリーンは回避行動に移る。

 カメールは大きく弧を描くように側面に逃れようとするが、サイホーンは目測を見誤らず歩幅を小さくして突進の方向を微調整してきた。

 

「サイホーンってかなりバカじゃなかったっけ?」

 

 というブルーの言葉に、レッドはポケモン図鑑を取り出してサイホーンを検索した。

 すると、まあ出てくる。サイホーンの悪口。

 頭が悪い。単細胞。突進の理由をすぐに忘れる。

 ここまでポケモン図鑑にディスられるポケモンがほかにいるだろうか。

 

「それだけしつけや調教が行き届いているってことなんじゃねーの」

 

 その点レッドのパーティはラティアスをはじめ賢い面子が揃っているから助かる。精密な意思疎通もラティアスがいれば問題ないし。 

 うん、やっぱりラティアスが世界一である。レッドはよしよしとラティアスの頭を撫でた。

 

 方向を微調整しながら距離を詰めるサイホーンにグリーンは少し驚いた様子を見せながら、しかし慌てずカメールに指示を出す。

 カメールはじっと身を固め、前方に円状のシールドのような透明なモノが出現した。

 

「なにあれっ?」

 

 フラウは目を見開いて驚いていた。

 

「“まもる”だな。連続性・持続性ともに不安定だが、破格の防御力を誇る一級品の補助技だ。その防御力も然ることながら特筆すべきは戦術の一環として使用するときのバリエーションの広さにある」

「どういうこと?」

「さっきも言ったけど、“まもる”は確かに絶対防御に等しい性能を持っているけど、連続性と持続性が不安定だから“まもる”を読まれると一気に劣勢に追い込まれるデメリットが付き纏うんだ。ああやってガッチガチに防御の構えを取っているから“まもる”を解除するとどうしても隙を晒すことになるし、相手は“まもる”が切れるまで十二分に力を蓄えることができる。肝心な使いどころを見誤ると一気に戦況は傾くだろうな」

「それって~、使えるの~?」

 

 ローザが胡乱げに言うのもレッドにはよく理解できた。対人戦における“まもる”の利便性をネットで知る以前のレッド(前世)は「“まもる”? カーッ、ぺ。なんじゃいこのクソ技。んなもん習得する余裕があんなら攻撃技じゃい攻撃技ヒャアー!」と攻撃技ばかり充実させていた。ストーリーはそうやってクリアしたし。

 

「だから身を護るために使うんじゃなくて、時間稼ぎや相手の手の内を読むのに使用するんだよ。毒ややけどのダメージを稼いだり、初撃を“まもる”ことでどういう風にトレーナーがポケモンを育成しているのか把握することだって可能だ」

 

 たとえば――二刀流をこなせるポケモンと対戦した場合、初撃の技や身体の使い方でどっちを重点的に育成しているか読むことも不可能じゃない。

 “まもる”の切り方が勝敗を左右すると言って過言ではない。

 

 そしてグリーンは“まもる”を身を護るためではなく、突進を微調整できるサイホーンの対処法を思考する時間を求めて“まもる”を切ったのだろう。

 すぐに対処法を導き出したグリーンはカメールに指示を出す。

 カメールはスタジアムに“みずてっぽう”を発射して足元を濡らすと続いて“あわ”を使い、スタジアムはまるで洗剤をばら撒いたかのようだ。

 スタジアムを再び疾駆していたサイホーンはグリーンの思惑通り踏ん張りが利かず滑って転倒してしまう。

 こうなってしまえば身動きの取れないどでかい的の完成である。

 合掌。

 

 

 “みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”“みずてっぽう”。

 サイホーン は ちからつきた!

 グリーン は ジムトレーナー に 勝利 した!

 

 

  

 

 

 




 なんかニビシティに入ってから――というか本編に突入してから物語自体が失速しているような気がしてならないので、もう少し話を動かしていきたいと思います。あと三、四話でニビを終わらしたい。

 唐突に虚刀流が出現したのは、執筆中に、録画していた刀語を流していたせいです。雑魚ラッシュが素晴らしい。

 というか執筆中の小説に三、四年前のやつとか普通にあるんだけど、読み返したらそっちの方がずっとクオリティが高かった。なんで? なんで?

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