我輩はレッドである。   作:黒雛

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 元SAMPの三人が仲良くCMをやってるの見て、ほっこり。随分とお待たせしました。いつも通りの、人に優しく、殺伐とは無縁の、道徳に則ったお話です。


第十七話「水上レース ④」

 

 

 ――水上レース・スタート地点。

 

「やっぱりさ、スポーツマンシップって大事だと思うんだよ」

 

 本選開始を目前に。

 水門に設けられたスタート地点、そしてゴール地点でもある場所で、ミロカロスに跨るレッドは唐突に呟いた。水上にはレッドと同じく“なみのり”を習得した水タイプのポケモンに跨る参加者で溢れており、意気揚々とレースの開始を待っている。

 レッドの呟きを拾い上げたのは、隣でマリルリの背に座っているブルーだった。

 

「いきなりどうしたの? 頭打った?」

「俺はいつだって正常だっつーの。身から伝わる善人オーラが伝わらねえかなァ」

「うんっ!!」

 

 予想外の返答を受けてレッドは「くっ」と吹き出してしまう。ブルーの性根から苛烈なくらいの罵倒が来ると予想していたのだが、まさか満面の笑みで肯定してくるとは。

 こほん、と咳払い。

 

「まあ、いい。つまり俺が言いたいのはだな、勝負っていうのは真剣に取り組むからこそ意義があるって事なんだよ。正々堂々と、真っ向から、互いの持てる全ての力を出し切るからこそ勝利を得たときの余韻や達成感は半端なもんじゃないはずだ」

「そうね。卑怯な手段を使って勝ったとしても得られるものは何もないわ。あったとしても、それは空っぽの偽物だもの」

 

 首肯。

 

「俺はな、相手をリスペクトできるバトルがしたいんだ。自分の全力と相手の全力、その双方を認めて成り立つバトルほど素晴らしいもんはないと信じている。勝利だけを求めるバトルなんて虚しいだけだ。バトルってのはもっと大事な、心と心のぶつかり合い。自分を成長させてくれる相手への敬意ってのは絶対に忘れちゃいけないんだ」

 

 自分の心の根っこにある信念を、切実な想いで口にする。

 きっと勝利を渇望する相手には届かないだろう。一笑に付されることだって。

 だけどレッドは己の信念を疑わない。

 誰かに笑われるくらいで折れるようなものは信念とは言わない。

 何があろうと決して折れず、譲れない、様々な人生を経験した先に見出した意志――それこそが信念なのだから。

 そんなレッドの信念を、ブルーは笑った。

 クスッと。

 だけど、それは相手を小馬鹿にするような笑みではなく、それでこそ、と相手を肯定する優しい笑みだった。

 

「流石はサイバー流ね」

「フッ、俺のエヴォリューション・バーストを魔法の筒(マジック・シリンダー)で反射しやがったあの時の絶望、今でも思い出せるぜ」

 

 あの瞬間ばかりはブルーにエヴォリューション・バーストゴォレンダァ!をダイレクトアタックしそうになった。いや、よく考えたら殆ど毎日ダイレクトアタックな事案は発生していたのだが。

 

「パワーボンドのサイバー流には反射系のトラップが突き刺さるから大好きよ♪」

「一ターン目に禁止令でお触れを殺すとか徹底的過ぎんだろ」

「超攻撃的なデッキ構成をしているアンタが悪いのよ。妨害大好きデッキにサイクロンと羽根帚だけで対抗とか舐めてんでしょ」

「ワンショット・オーバーキルはロマンなんだよ」

 

 ロックデッキ死すべし。相手をリスペクトする精神が足らぬ。

 話が逸れた。

 

「レッドの言いたいことは判るわよ。このレース、正々堂々戦いましょう」

 

 ――そういうことでしょう? と目で訴えてくる。

 

「やっぱ判るか」

「判るわよ。幼馴染だもの」

「そうだな、野暮なことを言った」

「――負けないわよ」

「俺だって」

 

 二人は満ち足りたような笑みで、しかし瞳には闘志を宿しながらコツンと拳を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――数分後。

 

 

 

「「死ねやああああああああーーっ!!」」

 

 

 ミロカロスとマリルリの“ハイドロポンプ”がぶつかり合った。 

 所詮、この程度である。

 

 

 ※ここでフラウが泣きました。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

「テメェ、さっきの正々堂々戦おうって言葉はどこ行きやがった!?」

「はあ? その台詞は熨斗つけて返すわクズ野郎! さっきは意図的にアンタがぶつかって来たんでしょうがあ!」

「はい、お目目のイカレた意味不な発言いただきましたーっ! 他人に責任を擦りつけるとか人間の底辺を極めた女は本当に愚かですね! そうしないと自分を保てないとか無様で滑稽にも程があるわ! ビデオ判定してトドメ刺してやりましょうかあああ!?」

「上等よ! 最高裁にまで持ち込んでやるわ鬼畜外道のクソガキ赤がァッ! 死刑を覚悟してなさい!」

「このハゲーっ!!」

「違うだろー!!」

 

 ……完全にどっちもギルティである。

 カスミはトップ争いを続ける二人の醜い争いを映像越しに眺めて頭を抱えた。

 

「なんでこうなった……」

 

 主催者であるカスミの重たい溜め息。伝統ある水上レースはもっと華やかで観客達を魅了する水の舞なのだ。だけど繰り広げられるレースはカスミの思惑とは大きく逸脱したものだった。

 接触事故に煽り運転、急ブレーキetc。

 悪質タックル。

 悪質タックル!

 言い訳になってしまうのですが、その時、ポケモンを見てしまいまして、赤と青のところを残念ながら見ていないのです、とカスミは目を背けたくなった。ええい、センテンススプリングからのトドメの一撃はまだか!

 動画サイトに上がっているDQNの悪質な運転そのものを十二歳になったばかりの少年少女がやっている。サイクリングロードに屯している暴走族も驚く光景だ。

 

(暴走族って言えば、少し前、バンギラスを連れた十二歳くらいの少年に蹂躙、恐喝されて真人間に転向、サイクリングロードが平和になったってニュースがあったわね)

 

 フランスパンの如くリーゼントを決めていた暴走族が七三分けのスーツ姿に変貌を遂げて「本当の悪というのは、無表情で暴力を振るえるんだなと思いました。もうフランスパンゼントは卒業します」とインタビューに答えていた。

 

「カスミさん、現実逃避は程々に……」

 

 申し訳なさそうに運営の一人が言ってくる。

 

「判ってるわよ」

 

 カスミは力なく答えて映像に目を移す。

 他の参加者達は殆どが脱落している。レッドとブルーの争いの余波を受けたり、優勝争いとは無縁なほど突き放されていたりともう他に見込みは無かった。

 というか、あの二人が上手すぎた。

 この水上レースは、カントー地方を代表する水の都たるハナダシティの住民が最も得意とする勝負事だというのにレッドとブルーはあっさりとコツを掴んで、常に際どいコーナーを攻めている。ポケモンとの息もピッタリであり、どんどん他の参加者達と差をつけているのが現状だ。

 

「あの華麗な波乗り捌きからどうしてあんなクソみたいな言動が飛び交うのかしらね」

 

 ホント、その技術だけはカスミも舌を巻き、自分も二人と戦いたいと思うくらいなのに。

 なぜ神は、外道に鬼畜を煮込んで下衆をトッピングし畜生を盛りつけてクズを添え物にしたような連中に天賦の才を与えたのだろう。ホント使えないな、神。

 

 すこーんっ!

 

「あたーっ!?」

 

 カスミの頭部に、天より遣わされた金タライが直撃した。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 ――ヤバいな。このままじゃ負ける。

 序盤からの順調なレース展開は、しかし、中盤に差し当たった辺りから崩れ始めてしまった。

 徐々にブルーとの間に差が生まれつつあるレッドは、一向に縮まらない距離に歯噛みする。もしもミロカロスがレッドの手持ちだったならピンポイントでブルーを狙撃する技と技術を仕込んでいたのだが、残念ながらミロカロスはシロナのものだ。チャンピオンとして君臨する彼女のポケモンに、対ブルー専用暗殺技術を教えるわけにはいかなかった。

 

「もう“かみなり”でも落ちて、死なないかな。今こそロケット団の出番だろうが。何で出てほしいときに出てこないんだよ、ホント使えないな、ロケット団。後で殺そ」

 

 ポケモンバトルじゃなくてリアルファイトで闇に葬ってやる。一人や二人いなくなっても誰も判らんだろ。モブだし。

 そんなことを思いながらもミロカロスと息のあった“なみのり”を披露するが、やはり結果は芳しくない。元々のスピードはマリルリよりミロカロスの方が上なのだが、コースにスピードを活かせる直線距離というものが少なく、やたら入り組んだ道が多い。決勝なのだから難易度が上がるのは当然だが、狭いコーナーを曲がるときミロカロスはサイズ差によってマリルリよりも大きく減速して曲がる必要があった。

 それがブルーとの差となり如実に現れてしまっている。決勝のみに使用可能となる技も焼け石に水といったところだ。……そもそも“ハイドロポンプ”のトレーナー狙い撃ちオンリーなのだが。

 ――と、そのとき不意にブルーが振り返った。

 

 そして。

 

 

「おほほほほほほほほ! おほほほほほほほほ! やっぱりどれだけポケモンが優れていようと肝心のトレーナーがへっぽこなら宝の持ち腐れで終わってしまうみたいね! もしかしてレッドくんってば、それを私に判らせるためにレースに参加したの? 優しー! レッドくん優しー! ブルーちゃん、感動のあまり泣いちゃいそうだわー! …………え? 何? 違うって? ……じゃあ、もしかして……………………それが実力? うわぁ、恥ずかし……あの、その……なんか、ごめんね……………………………………ぷぷっ」

 

 

 ………………。

 

 

 

 

「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 

 

 

 効果は 抜群だ! 

 レッドの 精神が 崩壊した!

 

 闇に飲まれよ! いいえ、むしろ闇が飲まれました。ここぞとばかりに煽ってくるブルーにレッドは発狂する。

 もしもこの時、手持ちに時間やら空間を操るポケモンを所持していれば、レッドは間違いなく世界を滅ぼしていただろう。

 かつてないほどの屈辱だった。

 例えるなら、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームである。古い。

 しかし、レッドは諦めなかった。レースを諦めるという行為はミロカロスに悪い。かぶりを振って気を取り直し、レースに集中する。

 

 ――それが功を奏したのか。

 

 ブルーとの距離が少しずつ縮まっていく。

 今までのレッドは勝利することはもちろん、ブルーを撃墜することにも思考を割いていたせいで“なみのり”に集中できていなかったのだ。ミロカロスの奮闘を見遣り、一周回って冷静になったレッドは、脳裏にコースを思い浮かべてショートカットできる地点を見出す。

 加速し、速度と大きな体格を活かした大ジャンプをして複雑なコーナーを避けた。

 

「よしっ」

「チィ、小僧が!」

 

 十二歳の子供にガキと呼ばれる転生者がいるそうです。

 後は長い直線のみ。

 ならば必然、ミロカロスの領域だ。

 ブルーは余裕の表情を消して“なみのり”に集中するが、互いの距離は更に縮まっていく。

 

「よーし、行け! ミロカロス!」

「マリルリ! もっと加速して! お願い頑張って!」

 

 ミロカロスもマリルリも最後の力を振り絞るようにして加速する。

 やはり、直線的な加速力はミロカロスが上回っているが……。

 

「うふふふ。やっぱり今回の勝負は私の勝ちのようね! この距離ならギリギリで逃げ切れるわ!」

 

 その通りだった。

 確かに差は縮まっていくが、当然ゴールとの距離も縮まっていく。両者の速度とゴールまでの距離を計算すれば、結果はブルーの言葉に収束する。

 レッドは苦い顔をする。

 ミロカロスを見遣れば、彼女も死力を尽くして頑張っているのは一目瞭然だ。これが人間なら馬車馬の如く働かせてボロ雑巾になるまで使い潰してやるのだが。

 

 おほほほほ! と再度ブルーの高笑いが迸る。

 

 しかし、まあ――この手のレースは調子に乗ると芸人フラグが立つものだ。 

 不幸にも――否。愚かにもブルーはまたレッドを振り向いて笑っている。

 前方不注意。

 ブルーの前方で、水面が跳ねた。

 

「あ」

「え?」

 

 思わず目を丸くするレッドの姿を認め、そこでブルーは視線を前に戻した。そんなブルーの視界に広がる――赤。

 

 王冠を被った、赤。

 透き通るような、鮮明なまでの、赤。

 

 ――というかコイキングだった。

 

 レッドには、とても見覚えのあるコイキングだった。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 しつこいくらいに食いついてきた、あのコイキングだった。

 偶然か、奇跡か。

 

「へぷっ」

 

 てちんっ、とブルーの顔面にコイキングがぶつかった。

 衝突音からして最弱臭が漂っているが、中途半端な体勢だったブルーがバランスを崩すには充分だった。

 

「――ちょおおっ!?」

 

 ブルーにとって、まさに青天の霹靂だった。

 泳ぐことに一生懸命になっているマリルリにブルーの様子を気づけというのは、あまりにも酷な話だろう。

 ブルーは水面へと転落してしまう。

 そのままマリルリはゴール。

 パッと明るい顔をして喜色を露にするが、何かおかしいことに気づいて小首を傾げる。

 だって背中にブルーがいないのだから。

 レッドはブルーが転落した場所を、何とも言えない表情で通過、そしてレッドの優勝が決定した。

 

 しかし、微妙な気持ちだったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、もちろん煽るんですけどね。

 それはそれ。これはこれ。  

 

 アイツ、許サナイ、絶対ニ。

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

「ブルーちゃん、残念だったね~」

「……そうね」

 

 レースが終わり、ブルーを迎えに行くため運営本部へと歩を進めているフラウとローザ。

 ローザは綿飴を片手にのほほんとそんなことを言っているが、反対にフラウの気はとても重かった。

 

「まさかコイキングに負けるとは思わなかったな~。なんかぁ、すっごく滑稽だったよね~」

 

 …………。

 

「……それ、絶対ブルーに言うのはやめてよ」

 

 ブルーが自分達に辛く当たる可能性は低いが、他に当たる可能性は高い。主にロケット団とか。

 オツキミ山でロケット団に絡まれたときは、酷いものだった。 

 明らかにやべぇ薬に手を出しているようなポケモンを出して、十数人もいたロケット団員を瞬殺してみせたのだ。ブルーがそのポケモンを出した瞬間、「あ、これはあかんやつや」と逃げようとした者にも慈悲はなかった。

 警官の一族の娘としてマフィアを取り締まることは名誉なことだが、悪党として有名なロケット団が自分に助けを求めに来たときは盛大にドン引きしたものだ。

 

 そんなブルーに、コイキングに負けたなんて言ったらどうなるか。

 街中であの明らかにやべぇ薬に手を出しているようなポケモンを出してハナダシティを血の海に沈めかねない。

 その上、結果的には失格。二位ですらなく、そしてライバル視しているレッドに負けてしまったのも事実だ。

 コイキングさえいなければ、という言い訳は、そもそもレッドを煽ることに夢中になっていたブルーの自業自得というわけで。

 

 だからこそブルーの精神状態を鑑みて、ブルーの元に行くことが非常に気が重いのだ。

 せめてそこにレッドがいないのならば、多少の希望はあるのだが。

 現実はそう甘くなく、ブルーの傍には赤がいた。

 思わず天を仰いだフラウの耳に入ってきた言葉は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

 

 

 

 

 もはや言語すら超越したナニカだった。

 草生えるというより、草原が生えていた。

 殺意すら覚えるほどのドヤ顔で、ブルーの周りをターンをキメながら回っている。

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ、ブルーさん? ブルーさん。あーた、レース中散々人のこと煽っておきながら失格っすか? え? マジっすか? マジ失格なんすか? え? え? え? 俺だったら恥ずかしくてとっくに自害してるんすけど、やっぱブルーさんってすげぇっすね? なんていうか? 面の皮が厚いってやつ? 呼吸することに恥じらいとか覚えないんすか? あー、やっちゃったよ、この人マジやっちゃったよ。可哀想でしゅね~、悔しいでちゅか~? 傷ついてます? ねえ、傷ついてます? 治す道具あげましょうか? “きずぐすり”? “げんきのかたまり”? “なんでもなおし”? ププー、それで心の傷が治るのかは知らないんですけど~。

 ていうか、え? え? ブルーさんってば、もしかしてなんすけど、コイキングに負けちゃったんすか? 俺じゃなくてぇ、コイキングに負けちゃったんすかぁ? 嘘嘘嘘だよ。だってコイキングってアレでしょ? 世界で一番弱い生物でしょ? もうオーキド博士を始めとするポケモン研究者達が満場一致で下した最弱モンスターでしょ? そんなのに僕のライバルであるブルーさんが負けるわけ…………え? ガチなの?

 そ、そっすか。ガチなんすか。あの、えと……ドンマイっす! 自分応援してるっす! ブルーさんなら立ち上がれるって信じてます!

 

 コイキングに負けたとしても!

 コイキングに負けたとしても!

 コイキングに負けたとしても!

 

 ブルーさんなら立ち上がれるって信じてます!

 あ、僕、ちょっとオーキド博士に電話してきますね。この世で一番弱っちいクソ雑魚生物はコイキングじゃなくてマサラタウン出身の十二歳の少女、ブルーさんだってことを知らせないといけないので! 情報というのは新鮮さが命! すぐさまポケモン図鑑のコイキングの内容に『でもブルーよりは強い。ぷぷーっ』って追記するようにお願いしてくるっす!

 あははははははははははははは!! 超受けるんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーっ!!! ざまあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああはははははははははははははははははははははははっっ!!!!」

 

 

 

 

 ………………うわぁ。

 帰りたい。今すぐに帰りたい。

 ローザ。お願いだから空気読んで。「ブルーちゃんってぇ、コイキングより下だったんだ~」とか言わないで。空間歪んでいるから。怒りのあまり空間が捻じ切れそうになってるから。

 しかし、レッドはそんなブルーの様子に尚更ニッコリと笑顔を浮かべて追撃に入って、

 

「――あ、そういえばぁ、今の心境はどんな感じっすか? 空前絶後、世紀の負け犬さ」

 

 ブルーの拳がレッドの顔面にめり込んだ。

 

「ってぇな、何しやがるクソ女!」

「うっさいわ! 誰だってあんなこと言われたらキレるに決まってんでしょうが、キチガイ赤があ!」

「ああん? テメェが最初に煽って来たのが原因だろうが! 他人に責任を押しつけるとか、コイキングに負けたことといい、本当に恥ずかしい女ですね!」

「はあ? 誰だって煽るに決まってんでしょうが! こんな殺意しか湧かない汚いオーラをまき散らしたクレイジー鬼畜外道が生きているなんて知ったらね! ああ、近づかないでくれませんか? 汚いオーラが感染しちゃいますう!」

「顔面から生臭い臭いを放出している人に言われたくありません~! え? 何この臭い? 体臭っすか? ブルーさんキツイわー、マジ臭いわー」

「女に向かって臭いとか、マジで頭振り切れてるわねえ! 世のため人のため、もうイカレた脳を持つクズなんてさっさと抹消しちゃった方が平和のためよねえ!」

「ああ……?」

「ガキが……」

 

 

「「ブチ殺してやらぁああああああああああーーっ!!」」

 

 

 凄まじい轟音が鳴り響く中、フラウはローザの手を取って踵を返した。

 

「フラウちゃん?」

「帰りましょう、ローザ。ここに私達の居場所はないわ」

 

 五十歩百歩。目くそ鼻くそを笑うという、無様な醜態を公然の面前で恥じらいもなく見せつける底辺な二人を反面教師にフラウは今日、大人の階段を一歩上がった。

 

「ああ、良い天気だわ」 

「なんか雲が出てきたよ~」

 

 シャラップ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 難産。
 そもそもジムリーダーの本気が新米に負けるわけがないだろ、という思考からバッジ数に応じてポケモンや戦術を変えるという設定にしたんですが、そのせいでジム戦が非常に地味なものになってしまったのが更新遅延の始まり。でも、だからとトレーナーの技量を見て使うポケモンや戦術を指定するものに変更してしまうと毎回ジム戦が全力バトルになってしまう。そこまでの引き出しは持ってないよっ。

 ついでに言うとバトルの方もスピード感を持たしたくて色々と悩んでいました。

「ピカチュウ! “でんこうせっか”!」とか「ヒトカゲ! “ひのこ”!」ってトレーナーが指示を出してポケモンがその通りに動くのは定番なんですが、よくよく考えるとこれってボクシングのサポーターがリングの外から「右フック!」とか「そこでストレートだ!」って言ってるようなものですよね? 少なくとも自分はそう思いました。そう過程すると、どうしても指示が追いつかないし、そもそも事細かな指示に対応できるわけがない。

 そんなわけで次回は、自分なりに考えたポケモンバトルを展開します。
 水上レースの顛末を語ってからの、ガチバトルです。
 ネタバレになるので詳しくは言えませんが、やばいピカチュウを所持しているトレーナーと明らかに薬に手を出しているようなポケモンを所持しているトレーナーが戦います。 



 

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