我輩はレッドである。   作:黒雛

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 尚、バトル開始まで進まなかった模様。


第十八話「ヤバげな赤が勝負を仕掛けた!」

 巨大な体躯が鋭く空気を切り裂いて、鞭のように撓る。小型のポケモンは勿論のこと中型のポケモンですらその巨躯は迫り来る壁を彷彿とさせるだろう。

 その――迫り来る壁を見て。

 オコリザルは真っ向から立ち向かった。トレーナーの制止の声も耳に入らずボクシンググローブにも似た拳を振りかざし――――ホームラン。

 白球をバットで打ち返すが如くオコリザルは大きな放物線を描いてフィールドの外へと落下する。防御面にやや不安の残るオコリザルは、やはりというかその一撃で戦闘不能となった。

 

「あちゃ~」

 

 と、対戦相手のトレーナーが頭に手を当てる。その顔には「やっぱりか」と書いてあった。

 これで相手の手持ちのポケモンは全滅。こちらの勝利が確定した。

 トレーナーはポケモンを“モンスターボール”に戻して、こちらに歩み寄って来ると、右手を差し出した。

 

「対戦ありがとう。本当に強いな、キミは」

「いえ、こちらこそ」

 

 相手が十代後半の年上(尚且つ好印象)だったこともあり、レッドはそこそこに取り繕った声音で握手を交わした。

 

「やっぱりオコリザルの育成は難しいなぁ」

「まあ――いつも怒ってるポケモンっすから」

「何があいつをそこまで駆り立てるんだろうね」

「さあ? 一説には、怒ることが無いことに怒っている奇特なポケモンだし」

 

 だよねぇ、と青年は苦笑して離れていく、おそらくポケモンセンターに向かうのだろう。

 

「これで二十人抜き、と」

 

 ピカチュウは当然、ラティアスも抜いた三体のポケモンで来る者拒まずばったばったと薙ぎ倒しているのだが、そろそろポケモンのコンディションも考慮して休憩を挟もう。

 レッドは“モンスターボール”に待機しているヒトカゲとルカリオに労いの声を掛けて、今日のMVPの元へ歩を進めた。

 

「お疲れさん――ギャラドス」

 

 ポンと青い鱗に手を置くと、ギャラドスは相好を崩した。

 そう――レッドが選んだのは、ラプラスではなく、コイキングだったのだ。

 あのレースの後、内容はともかく優勝したことには変わりないのでカスミからラプラスの入った“モンスターボール”を受け取ろうと思ったのだが、そこで心変わりが起きた。

 

 釣りをしてはコイキング。釣りをしてはコイキング。釣りをしてはコイキング。

 これがコイキングという種族のみが共通している別個体なら、ただコイキングに好かれているコイキング小僧で収束するのだが、レッドが釣り上げたコイキングは同じ個体だった。

 そして、そのコイキングがレースに置いてハプニングを起こしてレッドを優勝に導いた。

 

 ――これはもうフラグだろ。

 

 ただのモブキングとして処理をするのは無理があった。このコイキングを仲間にする舞台が整いすぎていたのだ。

 

 故に、即断だった。

 

 ラプラスとコイキングの両者に視線を右往左往させること一時間、実に即断だった。即断ったら即断である。レッドとコイキングは出会った頃からマブダチ――ズッ友だ。セリヌンティウスは処刑ヌンティウス。

 当然ながらレッドの手持ちになってからコイキングがコイキングとしていられた時間はたった数時間だった。サクッとギャラドスへと進化した彼は、凶悪ポケモンとしてデビューしたのだが、凶悪とは名ばかりに人懐っこいタイプだった。もしも凶悪な性質のままレッドに牙を向けようものならピカチュウ道場(四倍弱点&レベル差八十という鬼畜仕様)で矯正しようと思っていたのだが、その心配は杞憂に終わった。運命力持ってんな、こいつ。

 

 レッドはギャラドスを“モンスターボール”に戻して、ハナダジムを出て行く。ジムはバッジ取得のためだけじゃなくて一般トレーナー同士のバトルフィールドとしても利用できるのだ。

 

『マスター、お腹空いたー』

 

 隣を歩いているラティアスが言う。

 

「そーだな。ポケモンセンターに寄ってから昼食にするか」

『じょじょえーん』

「ロケット団がそこら辺に転がってたらな」

 

 適当に相槌を打ちながらポケモンセンターでギャラドス達の治療を済ませ、手頃な飲食店に入る。

 

「「「あ」」」

 

 そこでブルー達と鉢合わせになった。

 

「何か数日前も似たようなことがあったわね」

「そういや水上レースのときにあったな」

「水上レースのことは、もう私の記憶には残ってないわ」

 

 ブルーは真顔で言った。

 

「そうか。あ、昨日身包み剥がされたロケット団が連行されてたんだが、アレはお前の仕業か?」

「んー、記憶に無いわよ?」

「いや、貴女でしょう。ロケット団を倒したの」

 

 フラウが半眼で突っ込みを入れるが、ブルーは平然と、

 

「ごめんなさい。私、倒したゴミの数を覚える奇特な趣味は無いの」

「それもそうか」

「そうじゃないから。私、そろそろ貴方達二人を通報した方がいいんじゃないかと思うようになってきたわ」

「いやいや、そりゃ酷いだろフラウ」

「そうよ。私達は世のため人のため、平和のために悪党を懲らしめているのよ」

「涙・腺・崩・壊」

「抱・腹・絶・倒」

「おい、後者。本音が零れてるわよ」

「ねぇ~、もうロケット団の話なんてどうでもいいから、早くご飯食べようよ~」

 

 ここまで沈黙していたローザがプクーと頬を膨らませて、ラティアスがコクコクと同意する。

 

「天然って凄いよなァ」

 

 レッドが呟くと、唐突にブルーがキャピキャピと大袈裟に、

 

「実はぁ、私も天然なの~。きゃは☆」

「きっしょ。ベトベトンを顔面に投げつけられた気分なんですけど」

「――は?」

「お?」

 

 すぱんっ!

 

 フラウのハリセンが火を噴いた。

 便利なツッコミの相棒を見つけたようだ。

 

 

   ◇◆◇

 

 

「ブルーは今どんな感じだ?」

 

 同じテーブルで昼食を取りながら、レッドは唐突に問い掛ける。

 いつも殺意を散らして喧嘩をしている、人類の底辺決定戦におけるシード権を獲得している二人だが、だからといって普通に会話ができないわけじゃない。

 いわゆる――喧嘩するほど仲が良い、の典型だ。ただ過激なだけで。

 

「主語が抜けてるわよ。まあ、伝わるんだけどね」

 

 言って、コップを手に取り喉を潤す。

 

「正直なところ微妙の一言に尽きるわね」

「何の話?」

 

 フラウが尋ねる。

 

「この旅のことだよ」

「へぇ、意外。貴方達二人が苦戦しているところは見たことないわよ?」

「だからこそよ。私達ってこの旅が始まる前は色んな地方に行ってバトルを吹っ掛けていたんだけど、この旅が始まってからは色々と制限されちゃって手応えのあるバトルとは無縁になりつつあるのよね」

「あ、そういう……」

 

 確かに二人のバトルは、圧倒的な実力差による完全勝利が常だ。ポケモン自体は経験値を得て強くなれるが、トレーナーの技量が上がるかと言えばそんなわけはなくて。

 故に、微妙と称したのだろう。

 レッドは気怠げに頬杖をつく。

 

「だよな。俺、旅に出るまではそこそこロケット団に期待していたんだぞ。裏社会に生きるマフィアなんだから、もう少しできる奴らだと思っていたってのに」

「あ、私、オツキミ山で幹部候補と会ったわよ」

「マジで? 強かった?」

「まさか」

「まあ、ロケット団だもんな」

「やたら偉そうだったから、ついイラっとしてサザンドラ出しちゃった」

「うう、あのときの悪夢が……」

 

 フラウが青褪めた顔でぶるりと震える。

 血飛沫ワッショイなポケモンを出したのだから、常人がトラウマを抱くのは必然だろう。

 

「おいおい、何だよその楽しそうなイベントは」

「楽しかったのは否定しないけど、いつも通りだったわよ。サザンドラで身も心も恐怖に染め上げて、土下座した頭を踏みつけてカメラをパシャリ」

「そりゃ確かにいつも通りだ」

 

 けらけらとレッドは笑う。

 ――そこのどこに笑う要素がありましたか、とフラウはドン引き。ローザはラティアスと仲良くご飯を食べてそもそも話題に興味すら抱いていなかった。

 

「やられ役乙団はともかく」

 

 斬新な呼び名である。

 彼らはロケット団は一応、ポケモンを利用した金儲けを始め、傷害や殺人等の悪事を平然と行っている紛れもない悪党なのだが、哀れ、この二人にとってはお金を落とすサンドバックでしかない。

 

「――久々にバトルしようぜ。公式戦に則ったガチバトル」

「え!?」

 

 これに驚いたのはフラウだった。ローザもパチクリと目を丸くしている。

 レッドとブルーは人類屈指の問題児だが、同時にかなりの実力を持っていることを知っている。ならば、果たしてどちらが強いのか、と密かながらに疑問に思っていたのだろう。

 

「――――……」

 

 その提案に、一瞬だけブルーは無表情になったが、

 

「いいわよ。私もそろそろ刺激がほしいと思っていたところだもの」

 

 そう、不敵に笑う。

 先のロケット団の件は充分に刺激的な日常と思うんだけど。そうですか二人にとってはそれが平凡な日常ですか、そうですか、とフラウは遠い目になった。

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 そんなわけで昼食後、再びハナダジムに訪れたレッドは受付で申請書を記して、提出する。

 ただバトルを行うだけならこの手続きは不要なのだが、公式戦形式でバトルを行う場合、中立に物事を判断する審判の存在が不可欠なため、こうして申請書を記すことによって審判にバトルの仲介を要求するのだ。

 

 早めに昼食を取ったおかげか、幸いなことに審判の手は空いており、今すぐにバトルを行うことが可能とのこと。

 

「ねぇねぇ~、公式戦ってどういうルールなの~?」

 

 見学のため、フィールド外の左右にあるベンチに腰を降ろしたローザがフラウに問う。

 

「え? ちょっと待ってローザ。私達、毎年年末にやるポケモンリーグの中継を見ていたじゃない。もしかして知らないで見ていたの?」

「うん、知らな~い」

 

 とぼけた顔で言ってのけるローザにガクリとなる。

 ポケモンバトルの公式戦ルールを知らないなんてかなり珍しい部類だというのに、それがまさか自分の一番の親友だったとは。というか毎年手に汗握って白熱する試合を見ていたのはフラウだけだったのか? そう思うと何か哀しくなった。

 

「まあ、いいわ。公式戦のルールっていうのはね――――」

 

 

 公式戦・シングルバトル。

 基本ルール。

 ・使用するポケモンの数は三体から六体の任意。

 ・入れ替え戦。

 ・入れ替えの場合、次のポケモンを出すまでの所要時間は三秒。

 ・ポケモンが戦闘不能になった場合、仕切り直しのために定位置に戻り、改めて審判が開始の合図をする。こちらの場合、次のポケモンを出すまでの所有時間は十秒とする。

 ・互いのポケモンが技を繰り出していない時に、一度だけ一分間の作戦タイムを取ることができる。

 ・相手のポケモンの所持数に関わらず、三体を戦闘不能にした時点で勝利が確定する。

 

 違反項目。

 ・入れ替え時、戦闘不能時、作戦タイム時の所要時間をオーバーした場合はイエローカード一枚。

 ・戦闘不能になったポケモンに対する過剰攻撃はイエローカード二枚。

 ・トレーナーとポケモン、双方に対する罵倒や煽りなどの挑発行為もイエローカード二枚。

 ・イエローカード三つで退場。強制敗北となる。

 ・相手トレーナーに対する意図的な攻撃はレッドカードで一発退場。やっぱ赤って禄でもねぇ。

 

 

「――と、こんな感じかしらね」

「そうなんだぁ。でも~、どうしてポケモンの所持数に関わらずに三体が戦闘不能になったら負けになっちゃうの~?」

「それは…………そういうルールだから?」

 

 としかフラウは言えなかった。

 これは近年変更したばかりのルールであり、以前は手持ちのポケモン全てが戦闘不能になって勝敗は決していたのだ。

 

「入れ替え――トレーナー同士の読み合いを深めるためよ」

 

 首を傾げるフラウに助け船を差し出したのは、ブルーだ。

 

「トレーナーの読み合い?」

「そ。昔の六体全員が戦闘不能になるまでのフルバトルって、拮抗したバトルになることって、あまりなかったでしょう? 読み合い以上に育成面が重要で、強いポケモンで強引に薙ぎ倒す――そんな怪獣映画みたいなバトル」

 

 ただ純粋に――強いポケモンこそが求められる。

 

「それっていけないことなの~?」

「駄目なことはないわよ。問題はその肝となる育成を他人に任せて公式戦に出場する輩が後を絶たなかったってことね。著作家で例えるならゴーストライター。つまり、ゴーストトレーナーね」

「そんな人がいたの!?」

 

 純粋にバトルを楽しんでいたフラウにとって、ゴーストトレーナーという言葉そのものが衝撃だった。

 

「いる――というかいたわよー。ほら、昔の公式戦は芸能人がポケモンリーグを始めとする大会に出場して色々と話題になっていたけど、近年の公式戦では滅多に見ないでしょう?」

「そういえば……そうね」

 

 フラウが密かにファンになっていたアイドルも昔のルールのときは頻繁に出場していたが、今のルールに変わってからはサッパリだった。僕の育てた自慢のポケモン達ですと言っておきながら、これが真相だったのならば……正直なところ幻滅だ。

 

「ポケモンバトルは何時の時代も一大ムーブメントだもの。人気にあやかりたい芸能人がいてもおかしくないわ。そういう輩を規制するために新ルールができたのよ。

 三体が戦闘不能になったら敗北ということは、勝つための最善策は、ポケモンを入れ替えて受けるダメージを均等にしつつ六体のポケモンを状況に応じて使い分けること。この場合、トレーナーの技量が諸に出てくるのは言うまでもないわよね? 思考停止せず、相手がこのタイプのポケモンを出したなら、こちらはこのポケモンに入れ替えよう。こちらの出したポケモンを見て、相手は別タイプのポケモンに入れ替えるかもしれないから、それを読んでこの技を出そう――とかね。

 ゴーストトレーナーにこの読み合いはできないわ。そもそもタイプの相性を知っているのかすら疑問だし、入れ替えっていう地味に見極めの難しい技術もこなせないでしょうね」

「ポケモンの入れ替えって難しいことなの?」

 

 言葉通り、ただポケモンを引っ込めて、出す。それだけの作業だ。

 

「ポケモンを出すときも引っ込めるときも、ポケモンはどうしても無防備な状態を晒しちゃうのよ。一瞬だけどね。でも一瞬こそが相手トレーナーにとっては千載一遇の好機。その瞬間を見極め、ポケモンを深くまで踏み込ませることに成功したなら、後続の無防備なポケモンに手痛い攻撃を与えられるんだもの」

「なるほど」

 

 深々と、頷く。

 ならばやっぱりポケモンの入れ替えはしない方が、という問い掛けは戦闘不能の数を固定することによって解決している。そもそも相性を考慮すればどちらが得策かなんて思考するまでもないし。

 

「もちろん、相手がその千載一遇のチャンスをものにするために懐に飛び込んで来たところを、結局交代させずにカウンターでドカンっ! って返し技もあるからすっごくリスキーな技術だけどね。それを運と取るか読み合いと取るかは人それぞれよ」

「あ。だから戦闘不能になったときは仕切り直すようにしているのね」

 

 そうじゃないと次のポケモンを出す瞬間が明白で、あまりにも致命的だから。

 

「そゆこと」 

 

 ニコリと笑ってブルーはベンチから立ち上がる。

 

「んじゃ、行ってくるわね」

「頑張ってね」

「ブルーちゃんを応援するね~」

「ありがと。――――首取って来るわね」

「それは要らない」

 

 

 

 

 







 と、ルールはこんな感じになっています。
 三体が戦闘不能になったら負けにした理由はブルーの説明&テンポを重視した結果です。全滅するまでにすれば凄く長引きそうだし、一発逆転のチャンスも乏しいので。タイムはスポーツでもあるアレ。作戦変更をポケモンに伝えるために設けました。


 そして、ホント今更ですけど、ラティアスをメインにしておきながらですけど、ORASをやっとクリアしました。で、でもアドバンスのルビサファとエメラルドはバージョン毎に三、四周はしたし……!(なお、毎回手持ちに必ずいるサーナイト)。
 そして只今、ウルトラサンの攻略に手をつけました。発売日に購入しておきながら最初のポケセンで停滞していた吾輩のデータ。でもプレイ時間が十時間を超えていたのはミラクル交換が原因。アレ、テレビとか見ながらだとちょうどいいんですよね。





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