我輩はレッドである。   作:黒雛

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 零時に予約投稿する小説達の大物感に憧れて零時に予約投稿。零時更新ってホント良作が多いイメージ。
 やっとこの前「〇〇ダイーンッ!!」って叫んでいる元ネタが判りました。アレ、クロコダインのことだったんですね。なるほど、とも思いましたが、自分のようにクロコダインが好きな人には、ちょっとアレなネタですね。やっぱり好きなキャラクターをネタにされるというのは辛いです。自分も気をつけないといけませんね。









 前回のあらすじ。



 ――――ラティダイーンッ!!


第二十話「ヤバげな黄色のボルテッカー」

 

 

 

 サザンドラの攻撃を受けてHPが尽きたラティアスを見遣り、ブルーはグッと握り拳を作る。

 先制はこちらが取った。あの愛らしい少女の傷ついた姿を見るのは心苦しいが、容赦なく潰しておかねば油断は命取りになる。

 レッドのパーティにおいてラティアスのポジションは、ブルーのトゲキッスと同じ何でも屋だ。エスパーという非常に利便性の高いタイプを持ちながら、高い潜在能力を秘めるドラゴンでもある。ドラゴンとしての決定力はもちろん、“でんじは”を始めとする多種多様な技を修得する器用さは厄介の一言に尽きる。

 あんな人畜無害で純粋無垢な顔をして、きっちりあの悪い男に色々と仕込まれているのだ。かっこ意味深かっことじる。落ちろ、あの赤の好感度。連載終われ。私主役でリ・スタートよろしく。

 

 ラティアスをモンスターボールに戻したレッドが、次のポケモンを繰り出した。

 当然、必然――黄色のやべぇ奴。最近アレをピカチュウと呼ぶことすら疑問を持ち始めた。クールな眼差しと落ち着いた佇まい。偶にはピカチュウ♪ って愛らしく鳴いてみなさいよ。大物か。大物だった。

 

 周りの観客はレッドがピカチュウを出したことに懐疑的だ。うん、そうりゃあねぇ。誰も想像できんて。想像力が足りないよ。櫂「何? 想像力(イメージ)だと……!?」何か変な電波受信した。

 

「ほ、本当にいいんだね?」

 

 審判がレッドの正気を疑うように問い掛ける。ある意味正気は失っているが。

 

「ッチ、問題ねーっす」

 

 舌打ちされた……と審判が傷つくが、死ぬほどどうでもいいので、早く進行してほしい。

 

「そ、それじゃあ……」

 

 と、言って。

 審判が「始め!」と旗を上げる。

 同時にピカチュウの姿が忽然と消えた。サザンドラは三つ首から“かえんほうしゃ”を広げる。扇状に広がる“かえんほうしゃ”のギリギリのところに、刹那に動いた影。サザンドラはすかさず扇状に広げていた“かえんほうしゃ”を束ねて、その影の動く行先へと放射する。しかし、あまりに身軽な影は苦もなくバックステップを踏んで回避する。

 着地。同時に、黄色い影がぶれる。右と、左。二つの影が疾駆する。

 

(“かげぶんしん”と“こうそくいどう”……本当に厄介ね)

 

 ――二つともやり方自体は似てるんだし、同時に発動できんじゃね? と赤のいらん発言と、あっさりと実現してみせる黄色。

 無数に増える影。いつまでも当たらない“かえんほうしゃ”に痺れを切らして、サザンドラが高速移動する影へと遮二無二に襲い掛かる。一見すると自棄を起こした無謀な行動に見えるが、獲物に対する嗅覚が敏感なサザンドラが仕掛けたのは分身ではなく本物である。

 “かみくだく”。

 鉄だろうとあっさりと咀嚼して飲み干すサザンドラの強靭な顎を、ピカチュウは“アイアンテール”で尻尾を鋼質化させて受け止めた。

 ピカチュウのHPがやや削れる。ニヤリと嗤うサザンドラはそのままピカチュウに空いている二つの頭を使って蹂躙しようとしたが。

 ――ピリッ。

 

「――下がりなさい!」

 

 咄嗟にブルーが声を上げる。

 そこでサザンドラもハッとピカチュウを手放した。ほぼ同時にピカチュウの全身が放電する。

 

(はあ、危なかった)

 

 サザンドラは、その本能によって獲物を正確に見抜くことに長けているが、反面、知力を求められることを不得手とする。元々おつむはサイホーンと良い勝負なのだから、ブルーが的確に指示を出す必要がある。一言で言うとお慢心が過ぎるのだ。

 

「ピカチュウを近づけちゃ駄目よ。火力を乗せるのは、確実に当てられる一瞬だけ。それまでは範囲技で牽制しなさい」

 

 本当はこうして面前で指示を出すのはよろしくないが、如何せんブルーのエースは怒りや快楽に呑まれやすく、その感情を抑制する必要がある。高いポテンシャルを秘めている代償だ。そういう点で言えば、冷静でトレーナーの指示に忠実な赤のピカチュウや緑のバンギラスが羨ましいと思う。冷静で忠実なサザンドラとか普通に最強だ。

 

 距離の空いた両者。

 ピカチュウはその桁違いの速さを以て距離を詰めようとする。

 サザンドラは“りゅうのはどう”を三つの頭から幾重にも吐き出して迎撃をする。

 空気を揺らし、迸る衝撃波は絨毯爆撃の如くフィールドを壊していく。

 ――が、ピカチュウは縦横無尽に走り回りながら距離を詰める。その最中に分身体が消えようが直撃コースに入ろうが、構わずに走り抜ける。

 

(当たること前提で……!)

 

 あまりにも速すぎて。

 そして当たっているようにも見えないが、電光掲示板に記されているHPゲージは確かに減少しつつあった。一刻も早く距離を詰めたかったピカチュウは被弾を覚悟の上で突貫を選んだのだ。

 最短距離で突き進むピカチュウの姿が再び――消える。 

 右――いない。

 左――いない。

 

「上よッ!」

 

 ピカチュウは高く跳躍してサザンドラの頭上にいた。

 高く、高く。

 そして、天井を蹴って一気に加速する。落下により更に跳ね上がった加速性、そこに回転を混ぜ込んで運動エネルギーを底上げする。“アイアンテール”により鋼質化した尻尾を斧刀に見立てて――――斬ッ!

 

 防御の体勢を取ったサザンドラだったが、その絶大な運動エネルギーに耐え切れず、まるで限界まで引き絞った弦から飛び出した矢の如く吹き飛んで、フィールドに叩き付けられる。

 凄まじい衝撃が、ジム全体に迸る。

 ゴリゴリとサザンドラのHPが削れる。既にまともな足場の無くなったフィールドは土煙に覆われてピカチュウとサザンドラの姿を隠した。

 

 ――しかし、土煙は刹那にして晴れる。

 サザンドラとピカチュウがぶつかり合った衝撃で外に吹き飛んだのだ。

 まるで分厚い金属で殴り合うような重低音が空気を叩く。飽きることなく、両者は幾度となく相見える。

 洗練された最小限の動きから一瞬の隙間を縫うようにして繰り出すピカチュウの攻撃と、暴風の如く荒々しいサザンドラの猛攻が激しく衝突する。並みのポケモンなら一撃で落ちるだろう威力を内包した攻撃の乱舞。

 

 散らす火花は、気がつけば誰もが夢中で見入っていた。

 

 

「――――ッ!」

「――、――――!」

 

 

 衝突。

 “かみくだく”。

 受け流される。

 反撃――“アイアンテール”。

 防ぐ。

 距離を取られる――“ワイルドボルト”

 “りゅうのはどう”で迎え撃つ。

 相殺。

 三度、衝突。

 “かみくだく”、“かみくだく”、“かみくだく”。

 “アイアンテール”、“かわらわり”、“アイアンテール”。

 時には受け流し、時には強引に仕掛ける闘争乱舞。

 

 

 

「「――――――――ッッ!!」」

 

 

 

 “アイアンテール”。

 白羽取り。

 “りゅうのはどう”

 “10まんボルト”

 殴られる。

 殴り返す。

 “かわらわり”

 “かみくだく”

 尻尾で弾かれる。

 距離が空く。

 

 

 

 ――“ボルテッカー”。

 ――“はかいこうせん”。

 

 

 

 鼓膜を突き破らんとする大技の激突は、痛み分けという形で収束する。

 これだけの猛攻を交わしながら残りのHPはまだ半分ほどに余裕があるということは、それだけ両者が巧みに身体を使ってダメージを逃がしているということだ。

 互いにエース。他のポケモンを繰り出せば鎧袖一触に終わることは必然。故に、ピカチュウとサザンドラの戦いの場は、他者の介入する余地の一切無い魔境なのだ。

 

 ――そのはずだった。

 

 電気を纏ったピカチュウがサザンドラに突撃する。呆気なくいなしたサザンドラだが、攻撃後、ピカチュウは攻撃の反動を利用するようにして勢いよく後退する。交代する。

 

「――は?」

 

 そのままモンスターボールへと戻っていくピカチュウを凝視して、そんな声が零れ落ちる。

 “ボルトチェンジ”。それは判る。

 しかし――と、ブルーの思考が定まらない隙を狙うようにして、レッドは次のポケモンを繰り出した。

 入れ替えるまで一秒にも満たない早業。

 モンスターボールから出現したそのポケモンは、ブルーの度肝を抜いた。

 

「やれ――――ミロカロスッ!」

 

 それは水上レースでも活躍したミロカロスだった。

 どうやらあのクソ赤。まだシロナにミロカロスを返還していなかったみたいだ。死ねばいいのに。

 ミロカロスは飛び出した勢いのままにサザンドラに肉薄し、その尻尾を急所へと突き立てる。サザンドラも抵抗しようとしたが、流石チャンピオンのポケモン。ミロカロスは鞭のように身体を撓らせてサザンドラの防御をすり抜けだ。

 その――毒々しく変化した尻尾を見遣り、ブルーは即断する。

 

「――タイムッ」

 

 舌打ちをして、宣言。

 ミロカロスが使ったのは、“どくどく”。

 通常より高い毒性を持っているこの技は非常に厄介だ。サザンドラのような奔放に動き回りたいタイプは当然、毒の回りは早くゴリゴリとHPは削られる。しかも急所を的確に射抜いたのだ。毒の蝕みは更に強くなる。

 現状、サザンドラは停止してしまった。毒のせいで迂闊に戦えない上に、相手はミロカロス。

 シロナのミロカロスは、完全に耐久型で仕上がっている。今回のように相手を状態異常にさせる技を行使してサイクルを壊し、尚且つ自分は“じこさいせい”で何度でも甦る。

 “じこさいせい”という技は、傷を即座に癒すために利便性は高いのだが――つまりそれは、何度も何度も傷つこうと立ち向かうことを強いる残酷な技でもある。ポケモンの精神面を考慮したトレーナーはあまり“じこさいせい”を多用させないのだが、シロナのミロカロスは過去が過去だけに却ってそうして気を遣われることを嫌う性質になっている。

 

 誰よりも彼女の役に立ちたかったのに、結局誰よりも彼女の役に立てなかった。

 そんな過去があるからミロカロスは気を遣われて遠慮されるよりも、もっと頼ってほしいのだ。大切な人のチカラになれることがとっても嬉しいから。

 天使かな。

 まるで私のようだ、とブルーは思った。

 しかし、その天使がかつてないほどの壁として君臨する。

 ――溜め息を一つ。

 

「サザンドラ、アンタは一回下がりなさい」

 

 言うと、サザンドラの殺意がブルーを射抜く。全方位に撒き散らせていたソレが、一身に襲い掛かって来る。

 濃厚で、鋭利。それでいながらも粘着質な暗い激情。常人なら気絶やら失禁やらしてもおかしくない殺意の塊だが、ブルーにとってはそよ風のようなものだ。

 

「下がりたくないのね。そりゃあそうよね。でも猛毒を急所に貰ったアンタにミロカロスの相手が務まるわけないでしょう。アレはチャンピオンのポケモンなの。そこら辺にいる赤みたいな雑魚とは訳が違うのよ」

 

 ――今、あそこのブサイクな青が俺を侮辱した気がする、とか呟いている赤は無視だ。人の悪口を言うとか心から人間性を疑う。

 淡々と正論を述べるブルーだが、サザンドラはギリ、と奥歯を噛み締めて唸る。

 

「納得できない? ――なら選びなさい。このままミロカロスに及ばず猛毒で無様に倒れるか、矛先を収めて千載一遇の機会を待つか。どっちでも好きなのを選びなさい。――でも、前者を選んだ場合、私は二度とアンタをエースとは思わないわ。パーティを勝たせられない奴にその座は相応しくないわ」

 

 もちろん、精一杯頑張った上での敗北ならブルーもしっかりと労いを掛ける。しかし、今のサザンドラは完全に私情のみでバトルの続行を強要している。

 HPも残り半分に達している。

 急所に猛毒を貰っている。

 相手はシロナの――チャンピオンのミロカロス。

 つまり――世界最高峰。

 耐久性に限って言えば、最強と言っても過言は無いだろう。

 今のサザンドラでは、どう頑張っても勝つイメージが湧かない。だというのに、サザンドラは戦おうとする。その意気込みは買うが、どう足掻いたって不可能なことを根性論で捻じ伏せようとする輩は嫌いだ。

 故に、ブルーも真っ向からサザンドラの殺意を受け止める。

 選ぶのは、サザンドラだ。

 

「………………」

 

 ややあって。

 サザンドラは殺意を収めた。

 もちろん、渋々といった様子ではあるが。

 

「ミロカロスの相手は、ここにいる仲間達に任せなさい。必ず何とかしてみせるわ。だからサザンドラ、アンタはピカチュウとのバトルに専念すること。千載一遇のチャンスはやって来るわ」

 

 サザンドラは、ブルーの提げているモンスターボールを見遣る。

 未だ自分より格下の面子を、サザンドラは一度たりとも認めたことは無かった。ただ、自分という存在を際立たせるだけの――御膳立て。そんな、酷い印象。

 サザンドラの値踏みする視線に、ポケモン達もブルーと同じように立ち向かった。冷や汗を浮かべながらも、懸命に立ち向かった。

 ふん、と鼻を鳴らしてサザンドラはそっぽを向く。

 精々頑張ることだな、とでも言いたかったのか。それとも認めさせてみろと言いたかったのか。

 不遜なことには変わりないが、ブルーは苦笑してサザンドラをモンスターボールに収めた。

 さて、次に出すポケモンだが、“どくどく”を習得しているマリルリは、しかしピカチュウがこんにちわボルトするので、駄目。トゲキッスは“れいとうビーム”がこんにちわ。厄介な“どくどく”が利かず、相性一致でミロカロスの弱点を突けるポケモンは二体いるが……。

 やはり、この子にするべきか。

 もう一匹は、まだレッドの知らないポケモンだし、ルカリオがこんにちわする可能性がある。まだ温存しておきたい。

 

「お願い、親ビン」

 

 サザンドラの後を引き継いだのは、フシギバナである。エスパータイプであるラティアスは沈んだし、おそらくこの戦い――レッドはヒトカゲを出すつもりは無い。全体的に見据えてこの選出が最も正しいはずだ。

 とは言え、相手はレッド。相手を翻弄するためだけに首を傾げる戦術も取り兼ねない。そっとフシギバナに囁いて、モンスターボールを投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 


 ◆こうそくいどう+かげぶんしん◆
赤「なあピカチュウ。お前ならこの二つを同時に発動できるんじゃねーの?」
ピカ「…………」

 ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん。

赤「お、やっぱできたか」
ラティ『余裕――だって』
赤「流石」
シロナ「相変わらず規格外ね……」
ラティ『そんな難しくないって言ってるよ。そっちのルカリオもできるだろって』
シロナ「そうなの?」
ラティ『イメージみょんみょんみょん~』
ルカリオ(白)「――ッ」

 ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん。

シロナ「できたわね……。というかラティアス便利すぎない?」
ラティ『むふーっ。……うぬ? ねぇねぇマスター。うちのルカリオが「姫! 私にも何卒イメージを! 父上と同じ境地に立って見せますぞォォオオオオーーッ!!」って』
赤「えー? いや、お前にゃまだ早――――」
ルカリオ(赤)「――――――ッッ!!」
赤「あー、わかったから吠えるな。うるさいっつの。けど、無理はすんなよ」
ルカリオ(赤)「――――――――ッッッ!!!!!!!」
赤「あー、もう、ホントBASARAってんな。ラティアス、頼む」
ラティ『んっ。みょんみょんみょ~ん』
ルカリオ(赤)「――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!!!」
ラティ『おおおお! これが父上が修得した境地なのですな! このルカリオが輝くところ、どうか見ていてくだされ、姫、親方様ァァァアアアアアーーッ! み・な・ぎ・るぅぅぅうわああああああああああああああああああああああああああーーッッ!!!!!!!!!! だって』
シロナ「通訳大変ね(よしよし)」


 くきゅ。


ラティ『アシクビヲクジキマシター! って』
赤「…………………………はあっ」


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