我輩はレッドである。 作:黒雛
ポケモンGO! と連動とか、私のカイロスCP1500に勝てるようなバケモンがいるのかよ!?(田舎だからまともにプレイするつもりがないダメユーザー。というかこればっかりは都会贔屓なシステムに問題があると思う)
初めは、なんてことない少年少女のバトルだと微笑ましい気持ちで観戦するつもりだった。
しかし、そんな気持ちは、
刹那の駆け引きによって発生する一進一退の攻防。
鍛え抜かれたポケモンの鋭い一撃。堅牢な護り。トレーナーの指示に即座に反応する頭脳の回転力。
間違いなく、どれもが一級品。高水準に纏まったポケモン達を、またトレーナーも難なく手綱を握って操っている。優れた名刀も素人が握れば鈍らと化すように、ポケモンも強くなれば強くなるほどトレーナーへの綿密な作戦と判断、そして信頼関係が要求される。フィールドに立っている二人のトレーナーは、見事その条件を満たしていた。
まるで年末に開催されるポケモンリーグのような、強者が鎬を削って勝利を求めるハイレベルな戦いに、観客の誰もが息を呑み、自然と口からこのバトルを讃える声が零れ落ちる。
何よりも驚いたのは、それが幼い少年少女によって行われているという事実。まだトレーナーになったばかりであろう二人は、幼い容姿とは裏腹に、ナイフのような鋭い眼光を利かせてバトルの様子を見守っている。
強いポケモンが技を放ち、ぶつかり合う衝撃はかなりのものだ。観客席にいる自分達は護られているが、フィールドに立っているトレーナー達はそうもいかない。車と車が正面衝突するほどの衝撃を間近で見るようなものだ。
野太い衝撃音をダイレクトに受けながら、しかし、少年少女は微動だにしない。瞬きもしない。細い両足をしっかりと大地に根を張っている。普通なら恐怖に震えて泣き出すだろうに。
観客達は、確信する。
この二人は、間違いなく上がって来る。
頂点に。
頂点への挑戦権を獲得するポケモンリーグに。
そして、大波乱の旋風を巻き起こすだろうと確信する。
――歴史が変わる。そんな予感が胸を熱くした。
しかし、観客達は知らない。
紛うことなく強者の資格を持つ、この少年少女の本質を。
ホント、バトル中の外面に限ってはイケメンオーラや美少女オーラを輝かせる二人は生粋の問題児であり、ぐだぐだな展開に発展させるプロフェッショナルであるということを。
つまり、何が言いたいかというと。
――はい。恨みを買いすぎたんですね。いつものパターン、入ります。
◇◆◇
バトルは終盤に突入。互いにポケモンを入れ替えながら慎重に、されど果敢に繰り広げられるバトルの行く末は、
「行け、ピカチュウ!」
「塵殺なさい、サザンドラ」
この通り、やはり絶対エースに託される。
不利なのは急所に“どくどく”を打ち込まれているサザンドラだが、しかし、このサザンドラは傷つけば傷つくほど元気になるバトルジャンキー。とにかく逆境に強い。
溜まりに溜まった憤怒と鬱憤を晴らすため、血涙を流さん勢いで血走った目を向ける飢えた獣を、ピカチュウは冷静に迎え撃とうとした、まさにその瞬間――。
ドォン、と。
爆ぜる音。
フィールドではなく、フィールドへと繋がる四方の扉から。これには流石にレッドとブルーも何事かと視線を向けてしまう。
すると、巻き上がる粉塵を突き抜けるようにして黒ずくめの集団がぞろぞろと襲来し、あっという間に包囲網が完成した。
その人員数は、三十は超えている。
「チッ、蛆虫がぞろぞろと」
レッドは、心の底からの不愉快を露にした。
当然だ。よりにもよって一番大事なところでコレだ。肩透かしにも限度がある。その紅い瞳に本気の殺意が宿った。
ブルーも同様だ。鬼のような形相でロケット団を睨めつけている。
二人にとってロケット団という存在は、哀れなやられ役でしかないが、他の人々には紛れもなく恐怖の対象だ。
ポケモンを使って悪事を働く、生粋の犯罪者集団なのだから。
銃器を持ったテロリストに襲撃を受けたかのように、恐慌状態に陥る人々。
大袈裟――いいや、これが普通なのだ。レッドとブルーの感覚がおかしいだけで、彼らは元々『悪』と『恐怖』の象徴。
「――そう、これが普通なのよ」
ややあって、二十代後半ほどの女性が現れる。するとロケット団の下っ端は左右に分かれて道を作る。その道を、当然のように優雅に歩く。
「私たちはロケット団。このカントーを、そしてジョウトを支配する生粋のマフィア。その辺の、群れていい気になっている下等なチンピラとはワケが違うのよ」
彼女だけ、黒ではなく白の制服を纏っていた。
「あ? なんだこのもっこりヘアーの女は」
「も……ッ!!?」
レッドの冷たい声音に、女性の表情がピキリと崩れる
「お、落ち着くのよ、アテナ。所詮は子供の戯言……レディは常に優雅たれ」
「はあ? なに大人ぶってんのよ、このブス」
「…………ッ!!」
続いてブルーからの罵倒。女性の握る扇子が悲鳴を上げる。
「本当に調子に乗っているようね。貴方達の噂は、私たち幹部のところにも届いているわ。どこまでもロケット団をバカにしているガキがいると」
「だってさ。ほら、謝れよブルー。お前のこと言ってんだぞ」
「は? 私が人をバカにするような人間なわけないでしょうが。アンタのことよ」
「は、んなわけ」
「アンタ達、二人のことでしょ」
「「そんなバカな。その発想だけは無かった」」
ささっと傍に駆け寄ってきたフラウの冷たいツッコミ。隣にはローザ。逃げる場所もないから当然だろう。
「アンタ達がロケット団に過剰な報復をしているから、怒って偉い人が来たんでしょう」
「そこのお嬢ちゃんの言う通りよ。よく判ったわね、お嬢ちゃん」
「話しかけないで。汚らわしい犯罪者」
ぴしゃりと。
「おお~、フラウちゃんが珍しく毒舌だ~」
そして緊張感のないローザの一言。
「どうやらそこの二人も制裁する必要があるようね」
冷徹な眼光が、フラウとローザにも向けられる。
「私は、アテナ。ロケット団の幹部よ。貴方達の快進撃は見事と褒めてあげたいところだけど、これ以上貴方達みたいなお子様を自由にさせておいたら、栄えあるロケット団の威光に傷がつくわ。故に、幹部である私が直々に馳せ参じてあげたのよ――――貴方達を潰すために」
アテナがスッと手を挙げる。すると周りにいる下っ端達が一斉にモンスターボールの開閉スイッチを押して、各々のポケモンを出現させた。
悪意に染まったポケモンは、どれも危険な目つきをしていて、フラウとローザの顔色が悪くなる。しかし、それでも応戦しようとモンスターボールを出そうとして、
「やめなさい。アンタ達じゃ敵わないわ」
そう言って、ブルーが戦うことのできるポケモンを可能な限り出現させる。同じく、レッドも。
「で、でも二人のポケモンは……!」
そう、レッドとブルーのポケモンは共に疲弊状態にある。とてもこれだけの数を相手取れるコンディションではないのだ。
「もしかして、それを狙って……」
フラウの推測に、
「その通りよ。私は貴方達の実力を侮ったりはしないわ。だから暫くは様子を見るつもりだったのだけど、まさかこんな早くに絶好の機会が訪れるとは思わなかったわ」
アテナは不敵に笑う。
それにブルーが過剰なまでに反応する。
「暫く様子を見るですって? アンタ達ロケット団にそんな知能が備わっているわけないじゃない。正直に言いなさい! なんとなく突撃したらなんとなく絶好の機会だったって! 服を着て人語を話せること自体が奇跡なアンタ達が知性派は気取ったところで誰も信じないわよ!」
「ほら、早く謝りなさい。お母さんが怒っちゃっただろ。ただでさえ見るのも苦痛なブサイクな顔がもう吐き気を催すレベルで――」
「殺人ナックル!」
「しかし こうげきは はずれた!」
「まずはアンタからブチ殺してやるわ!」
「ふぁっきゅー。やれるもんならやってみな」
「やってる場合かあああーーっ!!」
フラウのハリセンが輝く。
「こんな状況でよくヘイトを稼げるわね」
「おかしいわね。私は善意で平和を説いたつもりだけど」
「どこが!?」
「全くだ。平和というものは説くものじゃないだろーが。自ら掴み取るものだ。敵対する連中を皆殺しにしてな」
「アンタも黙りなさい!」
「硝子の心が傷ついた。泣きそう」
「アンタ達二人に涙腺機能はついてないわよっ」
「巻き込まれたんですけど」
その、いつものやり取りに。
度重なる不快な態度に、遂にアテナの怒りが限界を超えた。
「ここまで……ここまでバカにしたんですもの。もう生きて帰れるとは思わないことね! やりなさい!」
アテナの掛け声に、下っ端達のポケモンが一斉に牙を剥い――
キュイン。ズトォオオオオオオオン!!
――た、と思った瞬間、外から凄まじい熱線が迸る。
無慈悲に薙ぎ払う破壊の権化に、ジュンジュワーとロケット団の半数が溶けた(生きています)。
「…………は?」
これにはアテナも絶句する。
恐る恐るといった様子で熱線が迸った方角を見遣ると、ジムの瓦礫を踏み潰しながらバンギラスが現れた。
その肩に乗っている人物は、ロケット団が最も注目している人物だった。
レッドやブルーと同じく、破竹の勢いでロケット団を蹴散らしながら、尚且つオーキド博士の孫ということもあって非常に利用価値の高い少年。
――グリーンは、ロケット団に目もくれず、存命のレッドとブルーを見下ろして。
「チッ、照準を見誤ったか」