我輩はレッドである。   作:黒雛

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 投稿すると必ず誤字脱字報告が来る私だが、実は小説を読みながらも同時に間違い探しが出来るという高度な遊びを仕掛けていることに気付いている読者さんが果たして何人いることか。
 他の作者さんとは違う領域(見苦しい言い訳)に立っている私を、どうか許してほしい。



第二十五話「ハナダシティジム戦③」

(あー、くそ。ヤバい。判断ミスった)

 

 ギャラドスに焚き付けるような発言をしながらレッドは失策を自覚した。

 ポケモンバトルにおいてポケモンのレベルや習得した技の熟練度、作戦やタイプによる相性、そして機転は当然必要だが、それと同じくらい体調やテンションを管理するのもトレーナーに必要な仕事だ。

 

 そしてレッドのルカリオは先鋒を任せると俄然テンションを上げて実力以上の力を発揮する。当然の理屈を感情という不条理であっさりと乗り越える様は、まさに熱血系主人公の気質そのものと言えるだろう。

 故に、レッドはカスミの後陣にスターミーが控えていることを承知でルカリオを先鋒に送った。普通ならば後陣にスターミーがいることを予想するならば“10万ボルト”を危惧してギャラドスこそを先鋒に出すべきなのに。

 

(強欲に2タテを狙ったのが完全に裏目に出たな)

 

 しかしそれも仕方ないことだろう。元々レッドのルカリオはそういうふうに鍛えているのだから。

 期待を一身に浴びることが大好きな性格の彼を先陣に送り、“グロウパンチ”と“つるぎのまい”をメインに火力を爆上げしてから一気呵成に相手のパーティを崩壊させる。

 一対一に特化させるのではなく、一対多数をメインに。

 動体視力と反射神経が他のポケモンを凌駕しているかくとうタイプのポケモンならではの育成方針。

 それがレッドの求めるルカリオのコンセプトだ。

 

(まさかニョロゾが出てくるとはなァ……)

 

 ニョロゾは進化後にかくとうタイプを獲得するだけあって接近戦もいける口だ。もっとバフを付けたかったがニョロゾの素早い動きと巧みな“みずでっぽう”がそれを許さなかった。後一度でも“つるぎのまい”を使うことが出来たならスターミーを追い込むことも可能だったのに。

 

(いや、どの道詰んでいたか)

 

 “バブルこうせん”によって泡まみれになったフィールドを見据えて甘い思考を一蹴する。

 この――えげつないまでの地上戦殺し。等倍のはずのかくとうタイプに一体何の恨みがあるのかと問い掛けたくなるほどの戦法だ。

 物理技をメインに鍛えて特殊技の習得を最低限にしていたルカリオに、この泡まみれのフィールドを打開する術はない。

 

「安心していいわよ」

 

 思わず渋面を見せるレッドにカスミが笑い掛ける。

 

「“10万ボルト”を警戒しているのでしょう? ギャラドスには四倍のダメージが入るものね。でも、この子は“10万ボルト”は覚えていないわ。ジムリーダーのポケモンに技マシンが解禁されるのはもっとバッジを集めた挑戦者にだけ。だから安心して掛かってらっしゃい」

「それはそれでムカつく」

「言うと思ったわよ、この負けず嫌い」

 

 カスミのスターミーが“スピードスター”を放ち、ギャラドスが“たつまき”を巻き起こした。

 フィールドに吹き荒れる竜巻によって輝く星々が浚われていく。

 スターミーは動じることなく風の軌道を読みながら中空を踊り、再び“スピードスター”を撒く、軌道を読んてばら撒いた“スピードスター”は明後日の方向から突如弧を描いてギャラドスの元へと殺到する。

 四方八方からギャラドスの元へ集う星々。

 それをギャラドスは全身を捩りながら“アクアテール”で弾き飛ばした。しかし全てとはいかず礫のような星々がギャラドスを打つ。

 だがそれは微々たるもの。ギャラドスを止めるにはあまりにも足らない。

 ギャラドスは“こわいかお”をスターミーに向けた。とある地方では『破壊の神』と恐れられているギャラドスの凶悪な顔付きはスターミーに原始的な恐怖を与えてその行動を遅延させる。

 

「――――ッ!」

 

 その隙をギャラドスは逃がすことなく中空を波打つように泳いで、“かみつく”によってその牙を突き立てようとする。

 

「しっかりなさい、スターミー! “ちいさくなる”!」

 

 そこにカスミからの叱責が飛んだ。ハッと正気を取り戻しながらも技の行使へ至ったのはさすがの一言だ。

 スターミーの身体が小さくなり、ギャラドスの顎は虚空を噛み潰す。

 

(“ちいさくなる”を使うのか。厄介な)

 

 ギャラドスはまだ仲間に加わって間もなく、鍛え方も不十分だ。全体的に動きが荒く、無駄が多い。それでいて大振りなのだから回避技は恐ろしく突き刺さる。

 

「“ちょうはつ”しろ、ギャラドス」

 

 ならば攻撃に意識を向けさせればいい。

 ギャラドスは尻尾をスターミーに向けて、くいっくいっと振るう。完全に見下し切った顔でスターミーを見下ろして怒りを誘発した。心なしか顎が突き出ているような気がする。

 そんな“ちょうはつ”を真に受けて、スターミーは“こうそくスピン”でギャラドスを攻撃した。

 先程はギャラドスの“こわいかお”に縮こまっていたというのに攻撃に意識を集中出来るのだから、ポケモンの技の強制力が如何に強力であるかが分かる。

 攻撃を受けたギャラドスは真正面から迎え撃つ。強引にでも“かみつき”にいき、しかしその牙は“かたくなる”によって強靭な防御力を身に付けたスターミーに深々とは刺さらない。効果は抜群なのだがまだ余裕が見える。

 ギャラドスは口に咥えたスターミーを放り投げて、強く尻尾で打ち払った。

 ギャラドスの口内に灼熱の光球が生まれる。

 強く、眩く、絶望を告げる破壊の輝き。

 しかし照準を合わせていたスターミーが素早く体勢を立て直したことによって不発に終わった。

 光球を噛み潰してスターミーを睨み付けるギャラドス。

 一瞬の停滞後。両者は示し合わせたように動き出した。

 一回り小さくなったスターミーと、それを追い掛けるギャラドス。互いに縦横無尽に空を駆けながら鋭い攻撃を放つ隙を見出そうとする。

 優位に立ったのはスターミーだ。小さく、そして小回りの利く身体を活かしてギャラドスの巨体を翻弄しながらヒット&アウェイに徹している。ギャラドスが強引に攻撃に出ようとしても冷静に対処して攻撃を重ねていく。

 そんなスターミーに、ギャラドスはフラストレーションが溜まる一方だ。

 

「フム」

 

 と、好転しない鼬ごっこ(この場合はオタチごっこと言うべきか)を眺めながらレッドは真剣な様子で思考を巡らせる。

 この戦況を打開してみせるのがトレーナーの役目だ。

 

(“あばれる”や“げきりん”は……短絡的か。それ待ちの場合も充分にある。“りゅうのまい”は舞う余裕が無い。補助技は“こわいかお”と“ちょうはつ”だけ。なら打開するための技を探すんじゃなくて、如何に工夫するかを考えるべきだな)

 

 例えばカスミが“みずでっぽう”を水の鞭の如く撓らせてみせたように。

 工夫次第で一つの技に様々なバリエーションを持たせることも可能なのだ。

 

「……よし」

 

 物は試し、とレッドは腹に力を込めた。

 

「ギャラドス! 大きな“たつまき”を巻き起こせ!」

 

 ギャラドスの本来の顔。きょうあくポケモンそのものになりつつあったギャラドスはレッドの叫びで正気に戻る。

 モンスターボールの中で戦いを見つめていたピカチュウはつまらなさそうに尻尾を降ろした。道場フラグは折れた模様。

 ギャラドスがその巨体に相応しい激しい“たつまき”を起こしてみせた。

 フィールド全体を覆い尽くす大規模の竜巻にレッドは頷く。

 

「“たつまき”に乗って“りゅうのまい”! はい、駆け足!」

 

 へい! と言わんばかりにギャラドスは“たつまき”に飛び込んで、その流れに乗りながら“りゅうのまい”を踊る。

 これならば比較的安全に“りゅうのまい”を使える。

 

「“たつまき”は操れるな!? なら、少しずつ範囲を狭めてスターミーの逃げ場を無くせ!」

「スターミー! 防御に徹しなさい!」

 

 レッドとカスミは“たつまき”の轟音に晒されながらも、それに負けないほどの声量で叫んだ。

 ギャラドスは“たつまき”に乗りながら少しずつ圧縮していく。

 中に閉じ込められたスターミーの行動範囲が狭くなる。上下には移動できるが、地面と天井が邪魔をして脱出は叶わない。早々にダメージ覚悟で“たつまき”を突っ切っていれば脱出も出来ただろうが、判断が遅れた。“たつまき”は小さくなりながらも威力は衰えていないのだ。故に攻撃範囲を絞ると反比例して威力が上昇する。

 スターミーは“かたくなる”を重ね掛けして機を窺うことにした。

 

「――――!!」

 

 そこにギャラドスが“たつまき”を切り裂いて現出する。

 スターミーの背後から、そして今までよりもずっと速くなったギャラドスに驚いたスターミーは無防備を晒してしまう。

 一気に肉薄したギャラドスは、その強靭な牙をスターミーのコアに突き立てた。

 “かみくだく”。

 ここぞとばかりに温存していた“かみつく”の上位互換となる技は、見事にスターミーの急所を貫いた。

 

 

   ◇◆◇

 

 

「――それでは、見事ジムリーダーである私を倒したことを認めて、貴方に“ブルーバッジ”を授けます」

 

 妙に丁寧な言い方でカスミは一滴の雫を模したバッジをレッドに渡した。

 

「似合わねーな」

「っさいわね。私も自覚してるわよ」

「にしても“ブルーバッジ”か。ブルー……縁起でもない最低の名前だな。よし、今日からお前は“アクアバッジ”だ。ブルーという忌まわしい記憶はアクシズと共に朽ち果てるといい」

「勝手に名前を変えるな。で、次はどこのジムに挑戦するつもりなの?」

「あ? んなもん――て、そうか。道のり的には次はヤマブキシティが最短だったな」

 

 レッドはジュースやおちゃを渡さないと通してくれないクソみたいなゲートの警備員を思い出した。しかし警備員の身勝手な都合など知ったものではない。もしも記憶にある通りに道を遮るというのなら、残念ながら残念なことになるだろう。残念だ。Kill You。

 

「他にどこがあるってのよ」

「この世界の道徳の教祖たるレッドさんには凡人には思いにもよらない使命を背負ってんだよ、分かれ」

「詐欺師乙」

「おおん? つーか、ヤマブキってことはエスパーか」

「そうね。ジムリーダーはナツメさん。エスパータイプのエキスパートにして本人も超能力の持ち主なのよ」

「奇遇だな。俺も超能力者なんだ」

「アンタは何にでも張り合わんと気がすまんのか」

「見えます……貴女には三年後に素敵な彼氏が出来るでしょう。ゴールドという十二、三歳の少年がデート現場に現れるだけで彼女を置いて逃げ出すような――そんな素敵な彼氏さんが」

「んなわけあるか! そんなヘタレこっちから願い下げだっつーの!」

「へー。こりゃ三年後が楽しみだ」

「ハン、もし本当にそんな彼氏だったら無様に笑ってくれて構わないわよ。私の彼氏はイケメンで背高くて金持ちでセンスがあって誰にでも優しくて、でも私にはそれ以上に優しくて、家事も得意でコミュニケーション能力も抜群。そんな完璧超人の体現者なんだから!」

「いや見事なネタ振りと三年越しの丁寧な伏線、ほんとありがとうございました」

 

 にやにやと揶揄するような笑みを浮かべてレッドは一礼する。

 

「ムカつく……。まあいいわ。外れることが分かっている予言なんて意味ないもの。そんなことよりヤマブキシティに行くなら気を付けなさい。最近、ヤマブキシティとタマムシシティにロケット団の目撃情報が集まっているみたいだから」

「――ほう(にやり)」

「そういうところを気を付けろっつってんのよ。街に不要な被害を出すのはやめなさい」

「おっと俺の心配はないんですかね」

「あるわけないでしょ。アンタなんて、ナイフで惨殺されて解体されてベトベトンに消化されたとしても、翌日にはコロッとトレーナーズホテルから出て来たとしても全然おかしくないわよ」

「ただの化物じゃねーか。……いや、待てよ。スーパーマサラ人ならワンチャンあるか? 緑虫か青汁で試してみるのも悪くないかもしれないな」

「スーパーマサラ人」

 

 何だそのパワーワードは、とカスミはドン引きする。友人を緑虫とか青汁と呼んでいる男は、おそらく世界でレッドだけだろう。

 

「そんじゃあそろそろ行くとしますかね」

「ま、頑張りなさい。せいぜい応援しといてあげるわ」

 

 ひらひらと手を振って。

 レッドはハナダジムを、延いてはハナダシティを後にした。

  

 

 

 





 ☆三年後☆
カスミ「くっころおおおおおおおおーーーーっ!!!」
レッド「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!! 草! 草あああああああああああああああああああーーーーーーッ!!!wwwwwwwwwwwwwwwwwwww!!!!」


 これにてハナダシティ編は終わりとなります。次はヤマブキ……それともやっぱり妨害をくらってイワヤマトンネルルートになるのか。というか、そもそも何でヤマブキシティは通行止めになっていたのか忘れてしまった。さて、どうしたものか。

マサキ「バ、バカな……原作主人公に転生した系のクセにワイをスルーするやと……!?」

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