我輩はレッドである。   作:黒雛

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 自分をマサキだと思い込んでいるコラッタ
「マサキです……
 前話の感想でイワヤマトンネルの話題ばかりピックアップされてひたすら空気だったとです。

 マサキです……
 イワヤマトンネルに鼻で嗤われてどこかへ行かれたとです。

 マサキです……
 遂に名前すらも悪意ある改竄がなされたとです。

 マサキです……
 僕はいつまでコラッタと合体してればいいのでしょうか?

 マサキです……
 マサキ・アンド―。ちょっと言ってみただけとです。

 マサキです……
 木原マサキ。グレートポケライマーを作るとです。

 マサキです……マサキです……マサキです……」




第二十七話「クソザコナメクジを育成するRTA 中編」

 

 

 才能のある奴が嫌いだ。

 

 ――将来の夢はポケモンマスター!

 この世界に生きる者なら誰もが一度は思い描くだろう絢爛とした夢想の栄誉。

 俺も例に漏れずポケモンマスターを目指した。

 ガキの頃に観客席で見た光景は今でも覚えている。

 人間よりも強大な力を持っているポケモンを手足の如く扱い、相手を打ち負かしていくチャンピオンの姿。

 それはまさしく絶対強者。

 威風堂々と佇む姿はまさに王の風格。

 全ての頂点に立つことを許された最強の存在。

 格好良かった。

 ああなりたい、と素直に思った。

 今思い返すとバカバカしいが、本気でなれると信じていたのだ。

 子供というのは本当に純粋で愚かな生き物だ。

 そこに立つためには『才能』という絶対の資格が必要なのに、努力をすれば夢は叶うと勘違いする。

 そして、その才能とは生まれながらに持ち合わせるものだ。

 つまり、生まれた瞬間に敗北者になることが決定しているのだ。

 夢は叶わない。

 胸をときめかせて育んだ夢は、才ある人間に踏み躙られる。

 才ある人間の肥やしにされる。

 凡人という生き物の抱いた夢は、天才を育成するためだけの踏み台と成り果てるのだ。

 そんな俺たちの嘆きは同族にしか伝わらず天才には理解されない。

 当然だな。理解できるなんて口走っていたら刃傷沙汰に発展してもおかしくないと思う。

 

 努力をすれば夢は叶う。

 これ以上に残酷な言葉を俺は知らない。

 そんな甘言に乗せられて一体何人が人生を無為に費やしただろう。

 

 努力は裏切らない。

 所詮は勝ち組の言葉だ。持っている人間の言葉だ。持たざる人間はそんなことを口にしない。叶わなかった夢に何の価値がある。報われなかった努力など無意味だ。夢は叶わず、積み上げた努力を別のところに活かせるほど賢く生きられない人間だっているんだ。

 

 綺麗事。綺麗事。綺麗事。

 綺麗事ばかりの欺瞞に満ちた世界。

 ああ、本当に虫唾が走――

 

 

 

うっさい、ばーーーーーーーかっ!!!!

 

 

 ぐべらぁっ!

 

 

   ◇◆◇

 

 

 なんかクソザコナメクジが気取ったように人生を語っていたからぶん殴った。

 拳を振り抜いたその先に放物線を描いて地面を転がる青年――シュンの姿。

 振り抜いた拳を引き戻したレッドは殺人鬼のような目でシュンを見下ろす。

 

「お前何なの? 何長々と自語りしてんの? 隙あった? 隙とかプレゼントした記憶ないんですけど。生意気にも一人称視点じゃん? 俺にだってそんな機会恵まれず三人称視点で『殺人鬼』とか書かれているのに、何その待遇おかしくない? お前今回限りのモブキャラだって分かってる? もうこれ以降出番ないの。アニポケ仕様なの。独白したいんだったら文章量に応じた金を主人公に納品しろカスが」

 

 ※ちなみに三人称視点でお送りしているのは、赤に語り部を任せたら、会話文だけでなく地文ですら平然と嘘をついて他人sage自分ageの詐欺を働くからである。

 一人称視点とは語り部のやりたい放題の世界だ。この赤が語り部を担うような事態になれば、確実にグリーンとブルーは改悪が加速するだろう。会話文の後に『ブルーは鼻をほじりながらそう言った』とか『グリーンは決然とした顔で言いながら野糞を垂れ流した』なんて書いてもおかしくない。ブルーも然り。

 

「お前に何が分かる! 才能ある人間のお前に凡人の気持ちなんて分かってたまるか!」

「いや、別に知りたくないし。どうでもいいし。アレじゃね? そんなに凡人が嫌ならさっさと死んで第二の人生に期待したら? 第二の人生、意外とあるもんよ?」

 

 実体験。

 

「そもそもそんな負け犬の遠吠えなんて誰が聞くよ。お前も自分自身に価値はないって言ってんだから誰も見向きするわけないだろうが。逆に聞くけど、お前は価値ないものに見向きをするか? 例えば……そうだな、自分より十メートルくらい離れた場所でデブ――失敬、豚足でブサイクな女が転んだとしよう。お前は手を差し伸べるか?」

 

 もちろんレッドは手を差し伸べる。困っている人がいるのなら、助けを差し伸べるのは人として、男として当たり前のことだ。それを為さぬものは股間にぶら下がっている息子にギロチンを落としてしまえ。

 ただ――きっとその時のレッドはたまたま、そう、た・ま・た・ま余所見をしていて気づかずに通り過ぎてしまうだろう。

 もしくは本当にただの豚足が転がっているだけと勘違いするか。

 惜しいな。悔しいな。目に入っていたら絶対に助けていたのにビックリマークビックリマークビックリマーク(変換ミスに非ず)。

 

「…………」

「あ、目逸らした。ホラな。で、美少女だったら周り蹴散らしてでも助けに行くだろ? そういうことなんだよなァ」

「ち、違うっ」

 

 もちろんレッドは以下略。

 但し助けた相手の反応が『助けて当然。むしろ美少女の私と知り合えてラッキーっしょ?』とかのたまう女だった場合、メンタルフルボッコにするが。

 

「はー、やだやだ。お前みたいな奴に限って自分より下の人間を叩くんだよ。才能がないとか言い訳しながら自分の価値を上げることを放棄して、他人の価値を下げて自分を平均よりも上に置きたがる。自分より上の人間を妬んで足を引っ張ろうとする。俺に因縁をつけたみたいに? 返り討ちに遭いましたがあああああああ」

 

 だが、まあ直接言って来ただけまだ見どころはあるだろう。世の中にはネット越しという安全圏からでしか他者に強く出られず、罵倒を浴びせて自尊心を満たす真の不法投棄物が五万といるのだから。

 

「じゃあ何で俺に構うんだよ! 放っておけばいいだろうが!」

 

 レッドの優しい言葉が身に染みたのか、シュンは涙を溜めながら叫んだ。

 

「おう、俺も放置するつもりだったんだけどな。けどあいつ――さっきのあの生意気なクソガキ……」

「……ジンだろ。つかお前の方が子供だろ」

「人間としては俺が上だ」

「え?」

『え?』

「「「???」」」

「おっとうちのポケモンたちとは夜通し話し合う必要があるみたいだな」

 

 全てのポケモンたちから『こいつマジで言っとるん?』という目で見られたレッドは青筋を浮かべた。

 

「そのジンって奴が俺に舐めた口を利いただろ? そりゃもうぶちのめすしかないんだけど、ただ俺が倒すだけじゃくっだらない言い訳を始める可能性もあるからな」

「こいつ、何様のつもりで」

「レッド様だ。主人公はいつだって完璧で格好良いんだ。どこぞの緑と青とは違うんだよ、緑と青とは!」

『んー? でもマスター昨日ホテルでお腹壊してトイレに引きこもってたよ?』

「余計なことを言う口はこれかなー、あははー」

『んににー』

 

 レッドはラティアスの頬を引っ張った。

 

「ま、そういうわけでアプローチを変えないとあいつを白ひげ――じゃない、敗北者として認めさせる必要があるわけだ。そこでお前だ、クソザコナメクジ」

「クソザコナメクジ!?」

「お前は才能がどうとかほざいていたが、それ以前の問題だ。バトルの基礎が微塵も出来ていない。論外なんだよ」

 

 シュンの言葉は本当に無意味だ。

 無能の土俵にすら立っていない。

 云わばこの男は、スポーツで言うフォームすらも固まってない状態で才能がないと嘆いているのだ。目先の情報に囚われて、予測という行為そのものを放棄している。

 努力の方向性がそもそも間違っているのだ。

 

「ど、どういう意味だ!」

「それを今から教えてやるっつってんだ」

 

 シュンの癇癪のような声音に冷淡に返して、レッドはピカチュウとルカリオに指示を出す。

 

「ピカチュウ、ルカリオ。さっきと同じように軽く戦ってみろ」

 

 レッドの指示にピカチュウは仕方ないと、そしてルカリオはテンション声高に叫んで戦いを始める。

 先手を取るのはルカリオ。“しんそく”で距離を詰めて、すかさず“グロウパンチ”を繰り出した。

 ルカリオが必ずといって良いほどに行う初動。レッドがそうやって起点を作るように鍛えた。

 しかし相手は勝手知ったるピカチュウだ。“しんそく”の挙動すらも完全に捉えており、突き出された拳を尻尾で横から引っ叩いて受け流した。零距離になったところで小さな身体を捩って一周した尻尾がルカリオの顎を穿つ。

 遠心力を得た一撃。しかし鋼タイプのルカリオは物理攻撃に強く(レベル差もあってピカチュウが加減しているのはもちろんだが)、ひるんだのは一瞬。すぐさま次の拳を突き出した。

 ジャブ。ストレート。フック。

 が、どれもが躱されてしまう。

 次のストレートが迸ると、ピカチュウは当然の如くそれを回避しながら、その腕に乗った。そのまま腕を走って肩に、そして背中にまで移動したピカチュウは電撃を放つ。

 苦悶の声を上げるルカリオがピカチュウを振りほどこうと藻掻くが、まるで離れる気配はない。左右に振り回されても微塵も動じずに雷を放出して継続的なダメージを稼いでいる。

 

「 “はどうだん”だ」

 

 そこでレッドの指示が飛んだ。

 ハッとなったルカリオは両手にエネルギーを集める。極限まで収斂した高密度のエネルギー弾を天に向かって発射した。弾丸の如く射出された“はどうだん”は急カーブを描いて吸い込まれるようにピカチュウの元へ飛来する。

 ピカチュウはギリギリまで引きつけてからルカリオの背中から離れた。

 故に “はどうだん”はルカリオに直撃してしまう。

 しかし。

 直撃した“はどうだん”は即座にルカリオの身体を駆け巡り、そのエネルギーは再び利き手へと収束した。

 自分の攻撃によって倒れることほど無様なものはない。

 だから跳ね返って来た自らのエネルギーを再利用できるようにルカリオを鍛えた。

 エネルギーを操ることに長けたルカリオだからこそ出来る御技だ。

 これにはピカチュウも目を丸くした。

 至近距離で突き出された“はどうだん”。

 避けるすべは無――

 

「――――ッッ!!!」

 

 裂帛の気合。

 ピカチュウは、それだけで“はどうだん”を対消滅させた。

 

「いや、空気読めや」

 

 堪らずレッドはピカチュウに異議を申し立てた。

 

「お前、そこは当たっとくべきだろ。何だよ気合だけで技を吹き飛ばすとか、どこのラカンだ」

 

 しかしピカチュウはそっぽを向いて聞き流している。

 

「まあいいや。好きにやってていいぞ」

 

 言うとルカリオが再度ピカチュウに向かっていく。

 その度に返り討ちに遭うルカリオを背景に、レッドはシュンを見遣る。

 

「今のは黄色がおかしかったせいで成立しなかったが、普通なら命中していた。いや、そこは別に問題じゃないんだ。今の戦いで俺とお前の戦い方が違うことに気づいたか?」

「…………指示が少ない?」

 

 首肯。

 

「そ。俺は基本的にバトル時の行動はポケモンに任せている。指示を出すのは打開策を見つけたり、流れを変えたいときくらいだ」

「それじゃあトレーナーは何のためにいるんだよっ」

「その認識がそもそも間違っていることを理解しろ。トレーナーっつーのは、スポーツで例えるとコーチ兼監督みたいなモンだ。実際に戦っているのは選手――つまりポケモンだ。主役はポケモンなんだ。お前だって選手は思考停止して一から十まで全部監督の命令に従うのが正解だ、なんて思ってないだろ?」

「そりゃあ……」

「でもお前がポケモンにしているのは、そういうことなんだよ。全ての行動に指示を出している。心当たりはあるだろ?」

「……!」

「その結果お前のポケモンたちは自分で考えて行動をしない。いや、出来ないようにお前がしている。だから一つ技を放つたびに一々お前の指示に従おうとして必要以上に距離を空けたり、行動の遅延に繋がっているんだ」

 

 レッドはピカチュウとルカリオに視点を移した。

 激しい攻防だ。トレーナーの指示が追いつかないほどの連撃を繰り出している。全ての行動に指示を出してしまえば、ポケモンのポテンシャルは半分も引き出せない。

 

「ポケモンは賢い生物だ。バトル中にご丁寧に指示を出さなくても自分で考えて最適の行動を見出そうとする。トレーナーは簡潔にアドバイスを飛ばすくらいでいいんだよ。

 トレーナーの一番大事な仕事はバトル前!

 うちのピカチュウを見たら分かるだろうが、同じポケモンでも得意不得意や素質はピンキリなんだ。だから最初に考えるのは、お前の持っているポケモン――ラッタにオニドリルにリザードは同族に比べて何に優れて何に劣っているかを見極めて長所を伸ばすか短所を克服するかを決めること。

 それを決めたらトレーニングメニューの作成と戦術の構築。足が速いのなら、それを活かして“でんこうせっか”を起点にしたヒット&アウェイで相手の思考をかき乱す戦法にしようとか、そんな感じでポケモンを戦えるように鍛えるのがポケモントレーナーの本当の仕事なんだ」

 

 それを理解している者としていない者の差は歴然だ。

 バッジを四つ以上集めたトレーナーは、その仕組みを理解した者。

 ポケモンと『仲良く』とか『絆』なんて聞こえの良い言葉を使いながら、結局バトルではポケモンをトレーナーの操り人形にしている者たちはここで落第する。

 その壁を越えた者だけが、ある意味本当のポケモントレーナーと名乗る資格を得られるだろう。

 

「ま、待てよ。そんなのスクールじゃ学ばなかったぞ!」

 

 シュンは蒼白な顔で叫んだ。

 おそらく自分の中にあるポケモンバトルを根底から覆されて気が気でないのだろう。

 それじゃあ自分が学んできたことは一体何だったのか、と。

 

「そりゃお前、ガキの頃にそんな説明されて理解できる子供がいるか?」

 

 どちらかと言うと地味な作業。あくまで自分はサポート役で、花形はポケモンにあると言われて納得出来る子供は希少だ。

 そんな正論よりもあれやこれやとポケモンに指示を出して戦わせる方がよっぽど子供の気を惹いてしまう。

 だからスクールはポケモンバトルの表面上のことしか教えられない。彼らだって仕事だ。子供を多く集めて給料を得るために、とにかく見栄えの良い教育方針を掲げるのは必然だろう。

 事実、真っ当なスクールを立ち上げても退会する子供は多いのだから。

 

「そんな……」

 

 悄然と項垂れるシュン。

 まあショックだろうな、とレッドは他人事ながらに思う。

 本当に、才能以前の問題なのだ。

 自分の歩んできた人生が、そもそも夢を叶えるための道ではなかった。

 その絶望はまさしく彼にしか分からない感情だ。

 

「――が、今お前は知ったわけだ」

「え?」

 

 シュンが顔を上げる。

 

「お前のような人間は多い。けど、それを自覚して伸びた奴もいる。それでお前はどうする? やっぱり無理だと諦めるか? それとも諦めきれず足掻いてみせるか? 選ぶのは、お前だ。けど、ここで諦めたらお前は一生後悔し続ける人生になるだろう」

 

 尤も、ジンとの約束がある限りシュンの前者の道は無いのだが、これは敢えて言わないでおく。それでも前者を選んでしまった場合はもう“さいみんじゅつ”で説得するしかないだろう。

 しかし、問題ないとレッドは思う。

 確かにこの男はクソザコナメクジだが、若干マシなクソザコナメクジだ。目の前に希望の糸を垂らされても掴む努力もしないクソザコナメクジではないだろう。クソザコナメクジ。

 

「…………俺は、俺は……っ!」

 

 弱々しかった瞳には、何時の間にか決然とした熱いものが滾っていた。

 それを見遣り、レッドは感慨深げに頷いた。

 ――ちょろいもんよ。

 

 








 ――LAST YUKITIKAKIN――
 爆死するーのがー運命だとしてもー 心はーまだー最高レアもとーめーる。
 さよなら、諭吉。灰になーった。
 嘘だろ マジかよ 首つろー。
 ねがーいの はへーんよ オーワター。 

 ソシャゲは悪い文明。
 皆で『うたわれるもの』をやろう。なんたってあの会社は『スマホからゲームを取り戻す』というイケメンな台詞を偽りの仮面発売時期に放った最高の会社。
 しかも『うたわれるもの』の最新作だって? やはりアクアプラスは最高――え? ……………………ソシャゲ? そーしゃるげーむ? すまほ?
 ………………。
 何だこの敗北者&女騎士ムーヴ(やるけどな!!)


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