Fate/EXTRA 外伝 ~Distract Order~   作:半裸ーメン

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これでラスト、最後の方はもう少し丁寧に作ればよかった。

だけど、もうこれ以上は手を加えると悪くなりそうだったので、やめておきました。

妥協です。


#05 Limits -決戦前夜-

「……頭が沸騰しているかのような、そんな感覚です。」

 

 倒れてしまってから、すぐにマシュは気が付いた。自分の安易な発言のせいで、彼女に負担を掛けてしまった。反省しなければならない。

 

「いきなり、あんなこと(・・・・・)を言われる身にもなって下さい。……本当にビックリしたんですからね。」

 

 それは本当に申し訳ないと思ってる。どこか辛いところはない?

 

「……はい。大分良くなってきました。もう歩けると思います。」

 

 良かった。

 

 ーーー改めて、マシュを見る。

 うっすらとピンクがかった髪に、透き通るような白い肌。触れれば壊れてしまいそうな儚さと、女性らしい柔らかさを併せ持っている。

 その在り方に、何度も"桜"を重ねている自分がいる。

 

 ーーー間桐桜。月の聖杯戦争において、マスターの健康管理を目的として作られた上級AI。

 共に月の裏側に落とされ、生徒会の一員として自分をサポートしてくれた後輩。彼女が居なければ、自分達は何も出来ないまま虚数に飲み込まれていた。

 

 どことなくマシュと桜は似ている。容姿ではなく、雰囲気が。

 だからだろうか、守りたいと思ってしまう。桜に抱いた感情と同じものを、自分はマシュに対して抱いている。どうしようもなく、保護欲を掻き立てられる。

 マシュが岸波白野のことを『先輩』と呼ぶように、自分もマシュのことを『後輩』としてーーー守るべき存在として認識しているのかもしれない。

 

 そんなことを考えていたら、無意識のうちにマシュの乱れた髪を整えていた。まるで、父親が子供をあやすような手つきで。

 

「……その、先輩。もう大丈夫ですので、そろそろ離して頂けると助かります。恥ずかしさでまた頭が沸騰してしまいそうです。」

 

 髪がすっかり元通りに整ったところで、マシュがそう言った。

 

 現在の体勢を一言で言うなら、"お姫様抱っこ"に近い。

 正確に表現すれば、マシュは床に寝ていて、自分は片膝を付き彼女の腰と頭を手で支えている。彼女を床に寝かせるのも忍びなかったので、こんな体勢になってしまった。

 

 ーーー本当に、大丈夫?

 

 マシュの抗議も尤もなのだが、また倒れられでもしたら困る。心なしか、顔もまだ赤い気がする。

 

「先輩がヘンなことするからですっ!まったく……。

 先輩は誰にでもこ、こういうこと(・・・・・・)、するんですか……?」

 

 まさか。そこまでお人好し(・・・・)ではない。

 大体そんなことしてたら後が怖い。

 

 余に優しいものが好きなのだ!と胸を張る薔薇の(ワガママ)皇帝は、すぐ拗ねる上になかなか許してくれない。

 

 良妻系巫女狐(メンヘラ駄狐)に至っては、御主人様を惑わす奴は許さねー!なんて騒ぎながら呪い殺すかもしれない。

 これを冗談ではなく地で行くから本当に怖い。

 

 ……なんだろう、よく生きてたな自分。

 

「……多分先輩は、私の言った意味を勘違いしていると思いますが。

 そうですか。そう、ですか……。」

 

 フフッと、マシュが微笑む。

 ……どうやら本当に大丈夫のようで、心から安堵する。

 

「フォーウ?」

 

 フォウも心配していたようだ。マシュにすり寄って、不安そうな声で鳴いている。

 

 マシュが立ち上がろうとしたので、手を貸す。

 

「んっ……と。ありがとうございます、先輩。」

 

 これくらいお安いご用だ。

 

「フォウさんも、先輩も、ご心配をお掛けしました。

 マシュ・キリエライト、復活です!」

 

 グッと胸の前で小さくガッツポーズする。

 

 ……そうだ、マシュは"桜"じゃない。

 マシュはマシュ、桜は桜だ。今自分の前にいるこの後輩の、ありのままを見ていこう。

 

「私はもう大丈夫ですので!

さぁ、行きましょう!まだ案内する場所は、たくさんあるんですから!」

 

 そう言いながら自分の手を引っ張るマシュ。

 元気なことは良いことだと実感しつつ、そのまま引っ張られていった。

 

 

 

 

 ーーー訂正しよう、元気すぎるのも考えものだ。

 

 時刻は午後7時過ぎ。カルデア正面ゲート前。

 流石に陽が落ちて時間が経っていることもあり吐く息は白く、地面には雪が積もっている。周囲には背の高い外壁と、強固な"門"がそびえ立っている。

 カルデアがどこぞの山中にある、くらいは教わっていたが、自分の目で見て改めて実感した。

 

 あの後、マシュに連れられてカルデアのほとんどを案内された。あまりにも多くの場所へ行ったため、歩き疲れた挙げ句マシュの説明すら覚えている自信がない。

 気分を変えたくなったのでどこか無いかと訊いたところ、外へと連れてきてくれた。

 ここには、自分とマシュしかいない。フォウは自分達が外へ出ると把握したら、あっさりとどこかへ行ってしまった。寒いの苦手なのかな。

 

「随分と連れ回してしまいましたね。

 ……すみません、少しはしゃぎ過ぎました。」

 

 いや、そんなことはない。今日は本当に楽しかった。こんなに充実したのは、カルデアへ来て初めてだった。

 

 それに、カルデアから出ることが出来たのは嬉しい誤算だ。

 

「正確には、ここはまだカルデアの敷地内なんですけどね。」

 

 マシュからツッコミが入るが、それ自体はさほど重要ではない。ようは『外の空気を吸う』ことが必要だった。正直、結構参っていた(・・・・・)。あのままカルデアに閉じ籠っていたら、ノイローゼになっていたかもしれない。

 

 "そんな訳無いでしょ。岸波くんの精神はそんなに脆かったかしら?"

 ……なんか今、頭の中に遠坂凜(守銭奴)の声が聴こえたんだが!?

 弱音を吐いていたからだろうか、きっと彼女ならこう言うんだろうな、なんて考えてしまったのか。

 いや、自分にはそんな鉄の意思とか鋼の強さとかないからね?現にこうして幻聴まで聴こえているしね?

 

 

 自ら望んだ訳ではない場所で生きていくというのは、思っているよりも精神的に来る(・・)ものがある。それは実際に経験した者にしか分からない。

 ムーンセルにいた時も似た状況ではあった。しかし全く同じ状況ではない。

 

 ムーンセルでは、6日間の猶予期間(モラトリアム)にて2つの暗号鍵(トリガーコード)ーーー決戦場への扉を開く為の鍵を入手し、7日目に決戦場で対戦相手と文字通り命を懸けて戦う。暗号鍵(トリガーコード)を手に入れることが出来なければ、決戦場へ赴くーーーすなわち戦うことすら叶わずに死を与えられる。

 暗号鍵(トリガーコード)を手に入れる。

 ひいては、自分の命を守るということが必要になる。

 

 また、英霊(サーヴァント)というパートナーの存在。彼らは参加者(マスター)達の剣となり盾となるだけではない。常に傍にいて自分を守護してくれる安心感だけでなく、同じ時間を共有することで良好な関係を気付くことも可能だ。その絆が、心の支えとなる場合がある。かつての自分がそうであったように。

 

 『具体的な目標』と、自分を支える『何か』。

 

 今までの自分には足りなかった。

 そして、今の自分は見つけることが出来た。

 

 人理存続なんて言われても、いまいちピンと来ない。そんな高尚な願いなど、知ったことではない。

 

 自分がこの時代で見つけた願い。

 小さく粗削りな、願いといえるかさえ分からない、そんなもの。

 

 ーーーマシュを守りたい。

 

 願いには大小こそあれど、優劣はない。その勝敗は願いの質ではなく、強さによってのみ決まる。どんなに立派でも、ちっぽけな願いに負けることもあるということだ。

 

 そっと、彼女を見る。彼女もまた、自らの使命を成し遂げようとしているのだろう。その華奢な身体に、重いものを背負っているのかもしれない。

 そんな彼女のことを、尊いと感じる。

 

 ーーー自分はいつだってそうだった。人間の暖かさを、優しさを、尊び守ろうとしてきた。今回も同じことだ。

 マシュのことを守りたいと思った。だから守る。

 その為ならば、人類だろうが何だろうが救おうではないか。……何だかどこぞの金ぴかみたいだな。"ようやく分かってきたようだな、白野よ。"なんて言われそうだ。

 

 ともかく誰に何を言われても、これだけは諦めることは出来ないと思う。自分はそういう人間なのだから。

 

「どうかされましたか、先輩?」

 

 自分がこちらを見ていることに気付いて、マシュが問いかけてくる。

 

 マシュには、本当にたくさんのものを貰った。

 

 これまでに出会い、時に戦い、時に手を取り合った人達から、自分はたくさんのものを貰い、たくさんのものを受け継いできた。それらが魂の一部となり、『岸波白野(自分)』という人間を作り、支えてくれている。彼らに出会わなければ、自分はここに立ってはいなかっただろう。

 貰った分だけ返さなければいけないものができたが、どれだけ返せたのかは分からない。

 思い出したのだ。自分は多くの人に支えられて、今日まで生きていたことに。

 

 その中に、既にマシュは入っている。

 マシュだけではない。ロマンやカルデアで出会った人々、所長だってそうだ。

 故に、今まで貰った『何か』と支えてくれた恩を、彼らに返さねばなるまい。

 

 

 ーーーありがとう。自分が生きる意味を見つけられたのは、マシュのお陰だ。

 

 しっかりと彼女の目を見て、言った。

 

 

「先輩は本当に裏表がないというか、素直な方ですね。……私は、先輩にお礼を言われるようなことを、まだ出来ていないと思います。ですが先輩の直球な感謝には、私も直球で返すしかありませんね。」

 

 マシュはこちらへ向き直り、自分と同じように真正面を見据えて言う。

 

 

「ーーーどういたしまして、です!」

 

 

 照れているのか、はにかむ笑顔が印象的だ。

 そんな顔も出来るのかと感心しつつ、やっぱり自分の願いを曲げたくないと思った。

 

 

 ふと上を見上げると、綺麗な星空が浮かんでいた。

 

「この辺りは標高がそれなりに高く空気も澄んでいるので、夜は星がよく見えるんです。」

 

 本当に、どうして今まで気付かなかったのかが不思議なくらい綺麗だ。

 

 暗黒の空に、煌めく無数の星。

 その光景は、偽りの予選が崩れ去り校舎とそこにいた人間が次々と虚数に飲み込まれていく中、屋上から飛び降りたーーーあの空間に似ている。

 もちろん、あの時のような不快感など微塵もなく、ただただ圧倒されている。これが自然の偉大さ、なのだろうか。

 

「先輩は一々表現が大袈裟です。圧倒される、というのは同感ですが。」

 

 大袈裟……大袈裟って。そこまで言われることはないと抗議の目を向けて見るが、マシュは素知らぬ顔で夜空を眺めている。

 

 自分はこれまで、データの集合体でしかない"自然"しか知らない。

 月想海と呼ばれる迷宮(アリーナ)は、名前の通り"海"をモチーフにしている。広大なデータの海という言葉がぴったりなそれは、結局はどこか電子的な装いがあった。

 そんな自分が初めて本物の自然を体感したのだ。少しくらい大袈裟でもいいと思う。

 

 

 しかしマシュはそんな言い訳には一切関心を示してくれないので、少しばかりふて腐れながらもう一度この満天の星空を見上げる。

 綺麗だ、以外の言葉が出てこない。自分の貧困なボキャブラリーもあるが、圧倒されて言葉を忘れてしまっているというのが大きい。

 

 そんな素晴らしい夜の帳に、

 

 

 ーーー一筋の、瞬く彗星の尾がなびく。

 

 

 それを見た瞬間に、強い既視感(デジャヴ)を感じた。

 

 あれはーーーそうだ。

 虚数の中で身動きひとつ取れず、目も開けられず、声さえあげることも出来ずに無限に落ちていく自分の前に、己の危険すら顧みずその身を燃やしながらも来てくれた、

 

 忘れてしまっていた

 /忘却の彼方にいても忘れることの出来なかった

 

その名を呼べばいつだって応えてくれた、岸波白野のサーヴァント。

 光届かぬ暗闇を切り裂くその軌跡は、まさしく流星のごとき輝きを放っていたーーー。

 

 

「あ、流れ星ですよ!先輩、今の……先輩?」

 

 マシュの声で、現実へ引き戻される。

 ーーーまた、懐かしい夢を見ていたようだ。

 

「先輩は時々どこか遠くの、ここではない場所を見ているようなことがありますね。」

 

 曖昧で、しかし自分の胸に刻まれた遠い記憶を、思い出していた。

 岸波白野(自分)が生まれた、原点とも呼べる場所の話だ。

 

「どんなところなんですか?私、先輩がいた場所に興味があります。」

 

 ーーーまた今度、ゆっくり話そう。

 そう、答えた。

 

「分かりました。約束、ですからね?」

 

 うん、約束。

 そういえば、流れ星にお願いはしたの?

 

「いえ、それが……。初めて流れ星というものを見たので、感動と興奮で何もお願い出来ませんでした。流れ星が流れる間に3回お願い事をすると、願いが叶うんですよね?」

 

 ガックリと肩を落とすマシュ。

 感動と興奮って……。自分だって大袈裟じゃないか、なんて言うと拗ねてしまうので間一髪で言葉を飲み込む。

 

 今からでも間に合うんじゃないかな、お願い事。

 

「本当ですか!?そんなルールがあったなんて……具体的には何秒までなら、とか条件があるんでしょうか!?」

 

 あ、うん、ないんじゃないかな……?

 

 詰め寄られてしまい、咄嗟にそんなことを口にしてしまう。

 気休めで言っただけなのに、いきなりルール化されてしまった。……まぁ、マシュが喜んでくれるならいいか。

 

「ええと、ええっと……どうしましょう先輩!何も思い付きません!」

 

 流石にそこまではフォローしきれない。……ので、そんなすがるような目で見ないで欲しい。

 うぇっ!?上目遣いで、その上涙目だとぅ!?

 

 ーーー今思っていることを、素直に言えばいいと思うよ。

 

「はいっ!ありがとうございます、先輩!」

 

 ……。

 ……何だろう、自分は駄目な先輩だと分かった。

 涙目で、上目遣いで、可愛い後輩にお願いされる。その破壊力たるや、光の御子(クー・フーリン)のルーンを乗せた刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)、または呂布奉先の軍神五兵(ゴッド・フォース)ーーーつまり、校舎側からアリーナまで貫通するほどの宝具と同等の威力と言える。

 この破壊力に落ちない先輩()は、恐らくいないだろう。

 これを狙ってではなく素でやるあたり、マシュの将来が不安になる。変な男が寄ってきたら自分が追い払おう、どんな手段を使っても。

 

 

 1人で勝手に息巻いている間に、マシュのお願い事は決まったようだ。手を合わせながら目を瞑り、真剣にお願い事をしている。

 

「……先輩のお話を、いつか聞けますように……」

 

 お願いに集中しすぎて、声が漏れてしまっていた。

 やがてお願いは終わったのか、首だけこちらに向けて

 

「……聞こえましたか?」

 

なんて小声で聞いてきた。

 

 大丈夫、聞こえてない。

 

「そうですか……。折角のお願い事なので、内緒に出来て良かったです。」

 

 可愛い後輩の為だ、嘘の1つや2つなら重ねたって構わないだろう。

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 外へ出てから、既に30分近く経過していた。コートなどの防寒具もなくそれだけの時間冷たい外気にさらされていたので、体温の低下は免れない。

 最早寒さではなく痛みを感じ始めてしまい、急いで建物の中へ入ることに異論を挟む者はいなかった。

 

 

「この格好で外に出るのは、無謀だと最初に気付くべきでしたね……。」

 

 お互い寒さに震えながらロビーで足元の雪を払う。

 まだ正面ゲートからたった数歩しか入っていないのに、二人とも汗ばみ、雪は溶け出し床に小さな水溜まりを作っていた。この異様な熱気は、寒暖の差が激しいせいで暑く感じるだけだ。少しすれば、この温度にも慣れて汗も引くだろう。

 行き過ぎた暑さではないが、入り口でこれだけ快適な温度を保っているというのは普通ではない。

 もしかしたら、建物内の温度や湿度を調節出来るような魔術があるのかもしれない。

 

 5分もしないうちに、汗は引いてきた。

 

「大分体が暖まりましたね。……そろそろ部屋へ戻りましょうか。」

 

 そうか。少し早い気がするのは、自分がマシュといる時間を楽しいと感じているからか。

 

「明日は大事な作戦です。睡眠をしっかりと取り、体調を万全にしておくことが必要です。」

 

 マシュの言葉は正しく、そして自分の役割を理解している者の言葉でもある。

 そうするべきという"提案"ではなく、そうしなければならないという"義務"なのだ、と彼女は告げているのだ。

 それに、自分は納得した。

 

 今日はもう、休もう。何のための休日であるのかを、履き違えてはいけない。

 

 ただし、1つだけ問題がある。

 

「問題……とは何ですか、先輩?」

 

 見当が付かないらしく、マシュの頭の上に?が出ているのが分かる。

 何、そんなに難しいことじゃない。何故、今日マシュにカルデアを案内して貰ったのかを考えれば、自ずと答えは出るはずだ。

 

「何故先輩にカルデアを案内したか、ですか……。

 ……まさかとは思いますが、先輩ーーー自室が分からないんですか?」

 

 マシュ、正解。10ポイント獲得。

 

「何てことでしょう、私の今日一日の労力は全て無駄だったんですね!」

 

 すまない、情けない先輩ですまない……。

 

「そんな、別に怒ってないですから顔を上げて下さい。

 ちゃんと先輩の部屋まで送っていきますから。」

 

 本当?やったー!

 やっぱり、持つべきものは可愛い後輩だね!

 

「……若干誘導された感があるのは、気のせいですかね?」

 

 き、気のせいだよ、きっと。

 こうして、マシュとの休日はロスタイムへと突入したのであった。

 

 

 

 

 ーーー自室へ到着して、しまった。

 実は入り口から近いところに、自分の部屋は位置していた。おかげで道も覚えることが出来たが、同時にロスタイムも終わり試合終了のホイッスルが鳴り響いた。自分の胸の中だけに。

 

 ロスタイムは2分もなかった。こんなものでは、どうしようもない。

 諦めて自室で休むことにした。これ以上は、何よりマシュに迷惑をかけることになるからだ。

 

 ーーーおやすみ、マシュ。また明日。

 

「はい先輩、おやすみなさい。……また、明日。」

 

 また明日というのは、魔法の言葉だと思う。その日がどんなに名残惜しくても、また明日があると気付かせてくれる。

 

 

 別れの挨拶を交わすと、マシュはくるりと回る。

 

「そういえば先輩。」

 

 ん、マシュの方から自分を呼び止めた。

 そのまま、自分に背を向けた状態で話を進める。

 

「先輩は、流れ星に何かお願いしたんですか?」

 

 あ、その話か。

 自分はーーー

 

 

 ーーー秘密(ないしょ)だ。

 

 

 危うく口を滑らせてしまうところだった。セーフ、セーフ。

 

 マシュは小さくそうですか、と呟いた後、突然180度回りーーー

 

 

「ーーーじゃあ、いつか私が何をお願いしたのか話すときには、教えて下さいね?」

 

 

 ーーーあぁ、約束だ。

 

 

 最後にそれだけ言って、軽くスキップなんてしながら自室へ戻っていった。

 その背中を見送った後、自分はベッドに倒れ込む。

 

 今日は本当に楽しかった。

 たった1日だけだったが、こんなに心が休まることなどなかった。

 月にいた頃は、不安で押し潰されそうになる毎日だった。自分の記憶、敗者の末路などから何度逃げ出したくなったことか。今だって、それは変わらない。

 安易な逃避に走らなかったのは、サーヴァントのおかげだ。

 

 薔薇の皇帝は、自分を引っ張っていってくれた。

 

 正義の味方は、刺々しいが自分の成長を諦めなかった。

 

 傾国の妖女は、常に自分を盛り立て支えてくれた。

 

 黄金の英雄は、自分の在り方を裁定してくれた。

 

 各々が各々のやり方で自分の選択に寄り添ってくれたから、今の自分が在る。

 今朝までは、自分の記憶を辿ることが怖くて仕方がなかったのに、今は記憶を掘り起こす度に自分の気持ちを確かめることが出来た。

 

 明日からのことは、まだ分からないことだらけだ。

 ……それでも進むしかない。

 それしか出来ないのだから、

 それを選んで来たのだから、

 ならば、これからも貫いていこう。

 

 

 ふと、明日よりもさらに先のことを考えた。

 気が早い、なんて言われそうだけれど。考えずにはいられなかった。

 どうなるかなんて分からない。

 分からないのはいつものことだ、と笑い飛ばせる。

 ならば自分は、自分の思い描く未来に向けて前だけを見て歩くだけだ。

 

 願わくば、皆が笑える幸福な終幕(ハッピーエンド)を。

 今なら分かる気がする。"人生の全てを喜劇にしなければ成り立たない悲劇"で、主役を務め続けた剣の英霊(セイバー)がかつて自分に語ったこと。

 『色々あったが、神が出てきて解決した(デウス・エクス・マキナ)』。

 今の自分は機械仕掛けの神にすがるほどではないが、そんな結末でもいいと思っている。

 

 

 ーーー作戦開始まで、残り13時間12分51秒。

 備え付けのデジタル時計が、運命の時を刻む。

 

 

 明日に備えて早めに寝ようと思ったのだが、なかなか寝付けない。

 原因は、多分マシュだ。

 あんな顔をされては、しばらくは頭から離れないだろう。

 

 

 

 最後にした約束は、叶う日が来ることを願うばかりだ。




くぅ~疲れました!
これにてプロローグもいよいよ佳境へと差し掛かって参りました!

……プロローグだけでこんなに時間かかるとは。

次回がプロローグ最終話(予定)です。
ご期待ください。

冬木入ってからが本番なのに、、、


マシュマロサーヴァント育てようと、決意しました。
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