Fate/EXTRA 外伝 ~Distract Order~   作:半裸ーメン

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 次回でプロローグが終わると言ったな、あれは嘘だ。

 なーんか構成が間延びしちゃうんですけど、そこら辺って読者の目線からはどうなんでしょう?


 若干のキャラ崩壊が御座いますので、御注意ください。


#06 Sucks The Beginning -一段目で躓く覇者-

 ___燃え盛る炎と、紅く切り取られた空。

 

 

 ___地獄から、生まれた。

 

 

 ___忘れてはいけない/目を逸らすな

 

 ___それこそが、人間の()だと、その声は(うた)う。

 

 そう、これは罪だ。

 忘却(・・)とは、赦し難い罪である。

 

 人間とは愚かしい生き物だ。

 

 罪を犯し、

    ___その罪には、結果がない。

 

 罰を受け、

    ___その罰には、意味がない。

 

 そして、忘却に溺れる。

    ___その忘却には、未来が存在しない。

 

 

 

 ___故に、忘れてはいけない。

 

 

 

 ___その地獄から、生まれた意味を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___欠けた夢を、見ていた気がした。

 

 

 

 壁に掛けられた、備え付けのデジタル時計に目を向ける。

 

 ___作戦開始まで、残り7時間38分16秒。

 運命は、確実に時を刻んでいる。

 

 ……寝汗がひどい。シャツが体に張り付いて気持ちが悪い。息が荒く、呼吸も乱れていた。

 どうやら、怖い夢でも見ていたらしい。

 このままでは風邪を引いてしまうかもしれないので、シャワーを浴びることにした。

 

 カルデアには、居住区の個室にそれぞれシャワールームがある。そこまで広くないものの、一人で使う分には特に問題もない。シャンプーやボディソープなども、完備されている。

 やたらとハイテクなのが特徴で、浴室の壁にはタッチパネル式の小さな液晶が埋め込まれており、照明や水温、果ては室温まで調節することが出来る。

 本当に魔術師が住んでいい場所なのか、ここは。自分の記憶では、魔術師とは神秘の秘匿を重要視するので、その神秘を只の自然現象だと暴いてしまう科学のことを、敵視しているのではなかったか。

 

 このシャワールームには浴槽___お風呂というものがない。それを置くだけのスペースを確保できなかったのか、或いは予算の都合上かは知る(よし)もないことだが。

 浴槽に湯を張るのは、実際思っている以上に無駄が多いものだ。

 まず第一に、浴槽に張る水の量。

 次に、それを沸かす為のガス。

 最後に、使い終わった湯の処理。

 おまけに、それらをカルデア職員全員分。

 ほとんど外界から遮断されているカルデアで、大量の水を無駄使い出来るとは思えない。というか、無駄使いさせたくない。倹約家である自分は、国を傾けてしまうほどの皇帝(浪費家)やどこからか財宝が湧いてくる黄金律の塊(ゴージャス)よりも、主夫の英霊(貧乏性)のようなタイプなのだ。

“せめて執事(バトラー)と言ってくれ、主夫ではないぞ私は。”

 遥か遠い月から、双剣を携える弓兵の苦言が聞こえる。

 やってることが母親(おかん)そのままなのに。

 

 個人的には、『大浴場の設置』が理想である。俗に銭湯と呼ばれるような、大多数で同時に入ることの出来る形式ならば、お湯などを最低限で済ませることが可能となる。

 あ、もちろん男女は別。……何だか言い訳っぽく聞こえるが、これだけは言っておかなければいけない気がした。

 "ご主人様のぉ~、お背中お流ししちゃいますっ☆"なんて世迷い言を吐きながら突貫してきそうな自称良妻(アホ)に心当たりがある。

 

 自分がお風呂に対して多少こだわっているのは、彼女(セイバー)の影響が大きい。

 彼女は無類のお風呂好きで、聖杯戦争本選の直中(ただなか)であっても隙あらば湯浴みを嗜んでいた。

 『薔薇の皇帝』と呼ばれるだけあって、薔薇風呂に浸っている彼女は美しい。

 その美しさに見惚れていると、いたずらっぽい笑顔を浮かべて

 

「奏者よ、一緒に入るか……?」

 

なんて言って、自分のことをよくからかっていた。

 最初は戸惑うばかりだった自分だが、慣れてくると『入っていいの?やったー!』と、逆にセイバーをからかったこともあった。

 

 なっ!?奏者よ、今のはジョークだローマ式ジョークなのだぞ?そもそも奏者と共に入るにはそれなりの準備が必要でな!?なんて、焦りまくっていた。

 その後壮絶に拗ねられて、丸一日口を聞いてくれなかった時は反省した。

 

 

 シャワーで汗を流しつつ、さっきまで見ていた夢を思い出そうとする。今までも度々おかしな夢を見たことはある___そもそも霊子虚構世界(SE.RA.PH)で見るのは夢ではなく、正確には自分の記憶だ___が、今日のそれは何かが違った。

 本当に些細な、気を付けていなければ見過ごしてしまうほどの、違和感がある。気休めでも気のせいだと言って自分を安心させたくなるが、その言葉は喉の一歩手前で詰まったままだ。

 拭い去れない不安とともに、嫌な汗がその額に滲んだ。何の為にシャワーを浴びているのか分からなくなる。

 

 少し頭を冷やすために、タッチパネルでシャワーの温度を調節するスクロールバーを、勢い任せに下へ弾く(フリックする)

 すぐに冷たい水が自分の体を流れ始め___

 

 

 ___何も考えずに温度を下げたことを、後悔した。

 

 ___冷たっ!?

 

 心臓から氷水が全身へ送られていくような感覚。既に寒さで歯が合わなくなっている。

 ヤバい。これは本気でヤバいやつだ!

 壁に埋め込まれた端末からは、ピーッピーッ、と何かの警告音がシャワールームに響いていた。慌てて液晶画面(ディスプレイ)を確認する。

 表示されていたのは、9℃という意味不明な数字と、『生命活動に著しく支障を来します』的な意味の文字列(メッセージ)だった。

 

 それが目に映った瞬間には、勝手に手が動いていた。

 水温を40℃、室温も38℃まで上げて、耐える。

 当然、温度が設定値まで上がるまでにはタイムラグがある。

 だから、耐える。ひたすら、耐える。

 

 実時間にして、約1秒。その永遠かと思われた時間を、耐え切った。

 

 

 

 

 まだ、全身が()けるようにヒリヒリする。

 

 シャワーを終え、髪の毛を乾かす。髪を撫でるドライヤーの暖かい風が心地良い。

 あれだけのことがあったのに、10分くらいしかシャワールームに入っていない事実に、少し驚く。

 

 

 ___作戦開始まで、残り7時間14分22秒。

 

 午前1時前。

 まだ時間がありすぎるので、もう一度寝ようか迷う。

 

 作戦開始時刻の午前8時に第1陣、すなわちマシュのいるAチームのレイシフトが実行される。その2時間前には、コフィンなどの機材の最終チェックを完了させ、1時間後の午前7時に所長からの説明が入る。

 それが、今日の予定だ。

 

 技師の人達は朝早くから機材の調整をやらなければならない。

 所長を含む管理職は、それらの作業が何事もなく終わるように監督するのと、その前に今日の作戦の打ち合わせがあるので、技師よりも朝が早い。

 もしかしたら、もう起きている人がいるかもしれない。

 

 かく言う自分達、レイシフトを行う魔術師も、寝起きで所長の話を聞きたい者はいないだろう。皆普段よりも早めに起きるのは間違いない。

 

 

 つまり何が言いたいかというと、今から寝たら所長のお話を寝起きで聞かなければならないのではないか?

 もっと言うなら、最悪の場合寝坊してしまうのでは?

 

 寝坊して怒られる程度なら、まだいい。

 呆れられて、作戦から外されるのはまずい。

 

 選別された48人の魔術師は、実際にレイシフトする実働隊と、その支援(サポート)などを行うそれ以外、いわば補欠の二つに分けられている。

 当たり前だが、自分は補欠に当たる。

 実働隊に入れなかったメンバーの仕事は多岐にわたり、最も重要なのが"カルデアの防衛"だ。

 

 実働隊、つまりは優秀な魔術師がレイシフトした後のカルデアには、外部からの『横槍』を防ぐ戦力がない。実働隊が戻ってくるまでの間、何とかその状態のカルデアを守り抜かなければならないのだ。

 

 ___しかし、実働隊に欠員が出た際には、補欠要員の中からアサインすることになっている。

 

 自分が選ばれる可能性は限りなくゼロに近いだろうが、ゼロではない。であるならば、その可能性にかけるのが岸波白野という人間だ。

 だからこそ、作戦に参加できないという事態は避けなければいけないのだ。

 

 

 

 寝るか寝るまいか、悩んでいる時間が惜しい。なので、自分の欲求に従うことにした。

 

 ___寝よう。

 

 時計のアラームを6時半にセットし、ベッドに入ろうとすると

 

 ブチッと、足元から不吉(・・)な音がした。

 

 どうやら、右足の靴紐が切れたらしい。

 よりによって、これから睡眠を貪ろうとしていたこんな時に、何の前触れもなく切れたのだろう。タイミングが悪いにも程がある。

 幸いなことに替えががあるので、今のうちに交換してしまおう。

 予備の靴紐をクローゼットから取り出して、ベッドに腰掛けて右の靴を脱ぎ、切れてしまった紐を抜こうとする。

 

 

 ___嫌な予感がする。

 

 靴紐を交換しながら、そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 人理継続保障機関『カルデア』の所長である私、オルガマリー・アニムスフィアは困惑していた。

 

 その日は、朝から頭が痛かった。

 人類の未来を取り戻すため『霊子転移(レイシフト)』により時間遡行し、2004年___日本の地方都市、冬木に観測された特異点の調査を行う、というカルデアの威信をかけた大事な作戦の為に、私は多くの苦労を重ねてきた。

 魔術協会(うえ)からの圧力、部下(した)からの苦情など、挙げ始めたらキリがない。

 私の安息は、レフ・ライノール、彼の存在しかなかった。

 

 レフは私の話を聞いてくれる。

 レフは私のことを理解してくれる。

 レフは私のことを___認めてくれる。

 

 そんな私の苦悩の日々も、ようやく終わる。

 今日はレイシフト実行の、作戦当日。今日この日さえ終わってしまえば、私は全ての苦痛から解放されると言っても過言ではない。

 

 思えば今日も、朝から頭痛が酷かった。

 カルデアの責任者である私は、作戦の最終調整にも立ち会わなければならない。ちょっとしたことでもいちいち報告してくる無能な部下。そんなことも自分で判断できないのか、と文句の一つでも言いたくなるが、そいつに言っても仕方がないので言葉を飲み込む。

 

 その作業の中で、何人かが倒れたらしい。そんなの、適当に医務室にでも寝かせておけばいいわ、何て投げやりに指示を飛ばす。医務室にいるであろうあの男(・・・)ならば、あの程度の人数は問題なく対処できるだろう。

 

 あの男、ロマニ・アーキマンの能力は、カルデアの職員のほとんどが認めるところだ。もちろん私も、その能力だけ(・・)は、認めるのも(やぶさ)かではない。

 ……本人には口が裂けても言わないけど。

 

 私は、ロマニが嫌いだ。

 能力もある。人望もまぁ、ある。基本的には優秀な人材に対して寛容な私が、彼を嫌う理由は"人間性"にある、と思う。

 

 彼は仕事が出来る人間だ。それなのに、仕事をすぐにサボる。出来ないのではなく、やらないことを選択する。それが気に食わない。

 それに、私生活のだらしなさも嫌いな理由だ。私にはおよそ理解できない趣味を持っていて、時々PCのディスプレイを見ながらニヤニヤしているのがたまらなく気持ち悪い。

 何より、多くの人から認められているのが、一番気に入らない。

 

 いつも浮かべている緩み切った顔をを思い出すだけで、つい舌打ちしてしまった。

 そのせいか近くを通っていた若い女性研究員が、引き吊った顔をして小走りで逃げるように離れていくのが見えた。

 ……多分私が怒っていると勘違いしたんだわ。上司の顔色なんて伺う前にやることが有るでしょう、と私はまた一層頭痛が酷くなる。

 

 

 なおこの後カルデア全体に『所長の虫の居所が悪い』と伝わっていくのだが、そんなことは彼女の知るところではない。

 

 

 

 全ての機材の調整が終わったのは、予定時間を30分ほどオーバーした頃だった。

 

 何故こんなにも時間を超過してしまったのか、大きな理由はあの“白いふわふわした怪生物”の乱入だろう。

 

「フォーウ、キャーウ!」

 

 突然の鳴き声と共に管制室へ突入してきたあれ(・・)に、私は怯え___てないけど距離をとった。

 あれ(・・)のせいで、作業員の集中力は削がれてしまったに違いない。それにしては、皆そんなに気にしてなかった気がするのは気のせいかしら?

 

 詳細は割愛するけど、あれ(・・)の後ろからマシュが続いて管制室へ来た。朝の散歩か何かで逃げられたのかもしれない。

 それなら首輪(リード)でも付けておきなさいよ!

 

 ……こほん。

 流石はいつもあれ(・・)の相手をしているだけはあるわね。ものの数分で、見事に捕まえていた。

 

 本来なら、逃がした上に管制室に入られてしまったのは、彼女の失態よ。

 でも整備班も、私が思い付くだけで少なくとも二桁はミスをしてしまっている。

 

 マシュにはレイシフトをやってもらわなきゃいけないから、今は何も言わないでおくけれど___

 

___整備班には、お説教ね。

 

 

 整備班が私の説教から解放されたのは、全体朝礼の5分前だったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 全体朝礼と言っても、大したことをする訳じゃない。いつもと同じことを話すだけ。

 今日に限っては、いつもより少し気を引き締めさせる必要があるとは思うのだけれど、それでも話の内容は変わらない。

 

 何度も同じ話を繰り返し聞かせることで、それが自分の命よりも重い使命なのだと意識させること。

 くどいくらいしているこの“講義”の目的はそこにある。

 

 私の命令を、ただ聞くだけの兵隊を作る。

 

 ほとんど洗脳に近いことなのも、人権を侵害しているのも分かっている。私だって、本当はやりたくない。

 でも、レフがそう言った(・・・・・・・・)

 レフの言葉に、間違いがあったことはない。レフは、私の為にこんなことを進言したのだと思う。

 彼だって、望んでこんな方法を選んだとは考えにくい。これしか選択肢がないのだ、きっと。

 

 今回の作戦は、絶対に失敗できない(・・・・・・)

 失敗したら最後、カルデアは解体され、私は誰からも無能の烙印をおされる。その前に、人類の絶滅は避けられない。

 どちらにしても、私は全てを失う。

 ならば、こんなやり方でも結果さえ出してしまえば、安易に私を裁くことは出来ない。曲がりなりにも、人類を救った機関の長なのだから。

 

 

 

 いろいろ話が脱線してしまったけれど、今は全体朝礼の最中。私がカルデアの全職員に対して話をする、最後かもしれない機会。

 

 

 そんな中___私は、困惑している。

 

 

「おはよう、なんて挨拶を交わしている場合ではないのは理解していますね?

 今日はレイシフト実行の当日、失敗は許されません。そのことを肝に命じておきなさい。」

 

 

 朝礼の最初、私は普段通りに話し始めた。

 少し強い言葉を使ってしまったけれど、未だのほほんとしている者の存在は見過ごせない。これでそういった者がいなくなり作戦がうまくいくのなら、私は嬉しい。

 私の言葉に、不服を申し立てるような人間がいないことに、少しホッとしている。全員が特異点調査の重要さをきちんと理解していることと、私の命令に疑問を抱かずに従えることが分かった。

 

 

 そんなことを考えながら、今日の段取りについて話し始める。

 すると、私の目の前で船を漕ぎ始めた奴がいることに気が付いた。

 

 ___何なの、彼は?

 

 あまりにも間抜けな様子に、私は開いた口が塞がらない。

 私の目が悪いのかと錯覚してしまうほどの見事な居眠りに、感心さえしてしまったほどだ。

 

 彼はいつもロマニと一緒にいる、一応レイシフトする魔術師の一人だった気がする。魔術回路などの素質はそこそこだけれど、魔術師としては半人前の、一般枠の只の数合わせ。

 名前は確か___そう、キシナミ。ハクノキシナミだったはず。

 

 私、たった今気を引き締めろと言ったばかりよね?なのに、どうしてあいつは緊張感の一欠片もない顔でいられるの?どうして、居眠りなんかしていられるの?

 

 意味が分からない。私はここ数日、まともな睡眠なんて取れてない。

 ストレスと頭痛で、とても眠っていられない。

 当たり前だ。

 普通の人間なら、こんな状況でストレスを感じな(・・・・・・・・)

い方がおかしい(・・・・・・・)

 

 

 彼は異常だ。

 

 人類の命運を背負う重圧を感じていないのか、感じているのに気負っていないのか、あるいは作戦の意味さえ理解できていないのか。

 

 どちらにせよ、彼の無神経さというか図太さは、極めて異常だと思う。

 彼の存在は全体の士気に関わるかもしれない。このまま放っておく訳にもいかない。

 

 彼の方へ歩いていく。

 私が通った後の通路沿いに座っていた人は、皆一様に顔を青ざめさせている。そんなに、私は怒っているように見えるだろうか。私としては、特に表情を作っている(・・・・・・・・)つもりはない。

 

 

 隣に座っているマシュが、彼を起こそうと必死になって肩を揺すっている。

 貴女は本当に優秀だけれど、もう少し人を選ぶべきだと思う。特に世話を焼く人間は。

 

 彼の前に立つ。

 

「……起きなさい、貴方。」

 

 返事はないが、聞こえているのか体は反応はしている。

 よく見ると、目が半開きで睡魔と戦っているのが分かった。

 

「最後よ。起きなさい、ハクノキシナミ。」

 

 相変わらず、返事はない。

 

「……そう、なら貴方は要らない(・・・・)わね。」

 

「!」

 

 私は、彼に決定を言い渡す。

 

「待って下さい所長!確かに先輩は」

 

「自分の体調も管理できない素人に構ってあげられる程、私達は暇ではありません。今日までご苦労様でした。」

 

「っ!」

 

 そう言って、私は踵を返す。ここまで言われては、さしものマシュも食い下がれない。

 戻り掛け近くに立っていた職員の男に声をかける。

 

「彼を自室へ連れていきなさい。もうカルデアには必要ないけれど、外に出す訳にはいかないもの。部屋に閉じ込めておいて。」

 

「はぁ……。よろしいのですか?」

 

 男が戸惑うように聞いてくる。

 私は、少し声のトーンを落とした。

 

「___何か、問題が(・・・)?」

 

 男はビクッと肩を震わせて、しょ、承知しました!と言ってもう一人近くの男と一緒に彼を運ぼうとする。

 

 

 

 キシナミのことは、彼を認識したときから気に入らなかった。

 数日前に起きた、コフィンの誤作動による事故。彼はあれの被害者で、その報告を受けた際に初めて知った。

 一般枠最後に滑り込んできた魔術師。本来そこに入るはずだった彼と同じくらいの歳の少年(・・・・・・・・・・・・)は、カルデアへ向かう途中で不幸に遭ってしまったらしい。

 

 そこへ偶然現れた新しい候補が、岸波白野(ハクノキシナミ)

 出来すぎているとも思った。まるで、初めから彼(・・・・・)が選ばれることが決められていた(・・・・・・・・・・・・・・・)かのような偶然。

 でも、人手がいくらあっても足りなかったカルデアには、その違和感を考慮する余裕はなかった。

 

 無個性、と言ってもいいくらい目立たない男だった。

 魔術師としては下の下、最低限の資格しか持っていない。加えて一つも際立ったものが見当たらない、その他大勢に紛れてしまう程の存在感の薄さ。彼の第一印象は最悪だった。

 期待はしていなかったが、ここまでとは思わなかったというのが本音だった。

 

 それが、コフィンの事故の後から何かが変わっている気がした。

 具体的には分からないけれど、明らかに周囲の評価が変わった。あんなに呆けているのに、周りに受け入れられていく彼を見て、何故だか危機感を覚えた。

 どこをどう比べても私より優れているところなんて無いのに、地位も立場も魔術師としても、私が負けるはずないのに。

 

 ___彼を恐れる感情が、私の中にある。

 

 “どうして”という疑問よりも、“認めたくない”という拒絶の方が強かった私は、彼に当たるようになった。ほとんど八つ当たりのように、毎日怒号を放っていた。まとめて怒られるロマニに少しばかり同情しないでもないけれど、ロマニはロマニで怒られる理由があるので、仕方ない。

 

 あの事故の翌日に、二度とこのようなことがないように注意も兼ねて行った講義の最中にも、彼は今日のような醜態を私に晒していたのでつい、ハイキックをかましてしまった。

 レフには、『病み上がりの負傷者にハイキックをお見舞いするのは、どうかと思うよ』と言われてしまった。

 その時は私も反省したのだが、今思えばあの時から彼に対して“恐怖心”を感じていたのかもしれない。

 この頃から、頭の痛みが増してきていた。

 

 

 そんな理不尽な扱いを受けても、彼は怯まなか(・・・・)った(・・)

 毎日のように、私に挨拶をしてきた。

 おはようございます、所長と。

 

 どれだけ酷い言葉で罵倒されても、彼はすぐに立ち上がってきた。その姿に、私はより一層恐ろしくなる。その恐ろしさから八つ当たりが激しくなっていく。その不毛な繰り返しが続いた。

 

 

 それも今日で終わりよ、と心の中で思う。

 私が彼に感じていた“恐怖”は、何を言われても全く響かない不屈の精神と、周囲への影響力だ。

 要は右の耳から入って左の耳から抜けていく、どうしようもない頭の悪さだと、私は結論付けた。

 分かってしまえば、そんなものを恐怖でもなんでもない。

 

 

 キシナミに肩を貸す形で、左右から支えて立たせようとする職員に、マシュが懸命に訴えていた。

 

「待って下さい!部屋に閉じ込めるなんて、軟禁と同じじゃないですか!そんなの……」

 

「マシュ・キリエライト」

 

「所長……!」

 

「彼はもう“要らない”と、私は言ったはずよ。彼がいては、現場の雰囲気も悪くなります。

 貴女は優秀な人材よ、マシュ・キリエライト。そんなのと関わって貴方に悪影響が出るなんて、私は許しません。」

 

「私は先輩から悪影響なんて受けていません!何を根拠に……」

 

「マシュ」

 

 彼女の言葉を遮るように話す。

 

「貴女もカルデアの一員なのだから知っているでしょう。この作戦に、どれだけの責任が伴うのか。彼は、その重要性を全く理解していない。そんな男に、全てを台無しにされたくはありません。

 人類の存続が掛かっているのです。これ以上、駄々をこねるのはやめてちょうだい。」

 

 子供をあやすように、彼女へ言い聞かせる。

 その男のことは諦めろ、と。

 

「___それに、私の命令が聞けない者は必要ありません。この意味、分かるわよね?」

 

 マシュはうつ向いて、何も喋らなくなってしまった。

 

「……結構、理解してくれたようで助かるわ。

 以後不服を申し立てる者がいれば、すぐに作戦から外します。これは決定事項です。異論は認めません。」

 

 誰一人、そんな者はいるはずがないと思うけれど。

 

「何をもたもたしているの、早くその男を連れ出しなさい。」

 

 先程の職員二名が、慌ててキシナミを立たせる。

 

 

 こんな状況なのに、まだ夢の世界から戻って来れていない。

 

 そんな彼を、私は何も感じずに見送った。




如何だったでしょうか。

終わらせ方が難しい……のと、話の着地点を見失うのが最近の悩み。

そろそろ、本編で語られることがなさそうな裏設定とかをネタバレしようかと考えてます。
語りたくてうずうずしているだけなのですけどねww

ちなみに、彼、すなわち主人公の岸波白野と同じくらいの歳の少年というのが、本来のFate/GOの主人公のぐだ男君です。本編には一切登場しません。

元々自己満足で始めましたので、そのスタンスは極力崩さずに、皆様も楽しめるようにしていきたいと思いますので。


次は、もう少しお時間いただきたい……ですね。



カルナさんの会話のためだけにアルジュナ欲しい今日この頃……
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