あと、今章11話のタイトル変えました。
内容は変わっていませんが。
師匠の元を訪れてから一週間が経っていた。
俺は師匠に用意してもらった場所で一人座禅をしていた。
神器に潜るときにしていたのと同じ感じだ。
違うところと言えば、今回は俺の前の地面にはイグニスを突き刺していることと、周囲を師匠特製の特殊な結界で覆っていることだ。
結界を張っているのは、イグニスによる影響を出さないため。
もし張ってなかったら周囲が焼け野原になってしまうからな。
そんでもって、俺は一人イグニスと向き合って座禅をしているわけなんだけど・・・・・。
イグニスの中に意識を潜らせても、見えてくるのは真っ白な景色だけ。
どこまで潜っても見えてくるのは何もない白い空間だ。
『かなり深いな・・・・。この空間の最深部に何かがある気はするんだが・・・・・』
ドライグがそう言う。
最初は俺一人だけで潜ってたんだけど、中々上手くいかなかったんだ。
それで、ドライグに助けを求めて今もこうして一緒に潜ってもらってるんだけど・・・・・
正直、ドライグも根を上げそうになっているほどだ。
あ、ちなみにだけど、ここは精神世界だからドライグも元のドラゴンの姿で行動しているんだ。
俺はドライグの背に乗っている状態だ。
快適快適。
『まさか、相棒をこうして背に乗せる日が来るとはな。まぁ、精神世界限定だが・・・・・』
まぁね。
いやー、思ってたより快適だよ。
昼寝していい?
『振り落すぞ』
ゴメンゴメン。
冗談だよ。
にしても、本当に何も見えてこないな・・・・・。
師匠の助言をもらって何とかイグニスとの対話を試みているんだけど今のところ成果は全くなし。
見えてくるのはどこまでも続く白い空間のみだ。
本当にこれでいいのかね?
『いや、この先に何かがあるのは間違いないだろう。僅かにだが何者かの波動が感じられるからな』
そうか・・・・。
ってことはこのまま進むしかないってことかよ?
『そうなるな。だが、このまま進めてもかなり時間がかかるだろう。あまり潜りすぎると精神と肉体が離れてしまう。そうなってしまえばロスウォード対策どころではなくなる。そろそろ相棒は出た方が良い』
了解だ。
それじゃあ、俺は一度戻るよ。
また後で潜るから、その時は頼むよ。
『分かった』
そう言って、俺は一度精神世界から出ることにした。
▽
「ぷはぁーーーーーっ! 疲れたぁ!」
精神世界から出た俺は座禅を止めて、その場で大の字になった。
時計を見てみると、かれこれ二時間以上潜ってたみたいだった。
いや、これはかなりキツイ。
神器に潜るよりもはるかに辛いな・・・・・。
あー、足痺れた・・・・。
動けねぇ・・・・・。
全身汗だくだから、とにかく汗を流してしまいたい。
ここのところ、毎日こんな感じだよなぁ。
イグニスと対話できない限り、これが続くとなると・・・・・・地獄だな、これは。
だけど、イグニスを扱えるようになることがロスウォードを止める手段になるのなら、止めるわけにはいかないよな。
美羽達とも連絡は取っているけど、今のところ大きな襲撃は無いらしい。
たまに白い怪物が現れるだけで、ロスウォード本人は姿を見せていないようだ。
白い怪物共の退治はモーリスのおっさん達がやってくれているから安心だ。
それから、アザゼル先生曰くロスウォードが封印されていたという禁断の海域の調査は無事に済んだとのことだ。
先生の読み通り、その場所には封印の痕跡があったそうだ。
今はそれを元に新しい術式を組み上げている最中らしい。
リーシャ達の協力もあるから、順調に進んでくれることを願いたい。
とにかく俺は俺に出来ることをしないとな。
と、そこで後ろから声を掛けられた。
「イッセーよ。進捗具合はどうじゃ?」
振り向くとそこには師匠がいた。
格好は相変わらずのタンクトップに短パン姿という超ラフな格好をしている。
・・・・・皆さん、この人が神様です。
鼻くそほじってるけど、この人が武術の神様です。
「うーん、上手くいかないですね・・・・・。対話どころか、会うことすらできてないんですよね。ドライグが言うには、何かがいるのは間違いなさそうなんですけど・・・・・・」
「まぁ、そう気を落とすでない。急ぎすぎても良い結果は得られんよ。とりあえず、飯にせぬか? 腹が減っては何とやら、じゃよ」
そう言ってニカッと笑う師匠。
まぁ、それもそうか。
急がなきゃいけないけど、焦って事を進めても良いことは無いしな。
ドライグにもあまり根を詰めすぎないように言われてるし。
何より腹が減ってる。
「そうっすね。汗流したら行きますよ」
「了解じゃ。じゃあ、ワシは飯の支度をしようかのぅ」
そう言うと師匠は小屋へと戻って行った。
俺も行くとするかな。
俺はよっこらっせと立ち上がって師匠の後を追った。
あー、ちなみにだけど風呂も魔改造されてたよ。
以前の風呂は薪を燃やして焚くタイプだったのに、今ではボタン一つで・・・・・・。
便利な世の中だ・・・・。
▽
昼食を終えた後、一息ついていた。
ソファの上に寝転がり、天井を見上げる。
視線の先ではオシャレなシーリングファンがクルクル回って室内の空気を循環させていた。
もう、これにはツッコまない。
散々ツッコミを入れたから。
この一週間、この小屋で過ごして分かったことは他の神々の家にまでこの近代化の波が押し寄せていること。
この間なんか、師匠とこの世界の知恵の神様が楽しげに電話で話しているのを聞いたよ。
どうやら、その知恵の神がこのキッチンとかテレビを作り上げた人らしい。
師匠からの相談を受け、その話の内容だけでここまでの物を作り上げたそうだ。
今は神々の間で使えるインターネットを作っているとか何とか。
神様ってスゲェ・・・・・・・。
「食って直ぐに横になると体を壊すぞぃ」
と師匠が食後のお茶を入れて、持ってきてくれた。
「あ、すいません」
「何だかんだ言いながらかなりくつろいでおるのぉ」
「いやー、このソファの寝心地が良いもんで、つい」
「やらんぞぃ。それはワシも気に入っとるのでの」
俺は苦笑しながらお茶を飲む。
まぁ、うちにもソファはあるしね。
部長がかなり良いやつを揃えてくれたし。
三十分くらい休憩いれたら再開しようかな・・・・。
と時計を見ながらそんなことを考えていると、師匠が口を開いた。
「今のところロスウォード本人に動きはないみたいじゃの」
「ええ。多分、封印の影響がまだ残ってるんじゃないかと」
「ま、それもいつまでも続くもんじゃなかろうて。数日後に現れるかもしれんし、今日現れる可能性もある」
ロスウォードと邂逅してから二週間近く経った。
師匠の言う通り、いつ現れてもおかしくはないんだ。
せめて、来るタイミングさえ分かればまだマシなんだけどさ。
被害が出ないように町の人達を避難させたり出来るし。
戦闘と同時に避難活動を行うにも相手のレベルからして厳しいところがある。
俺達としては出来るだけ戦力を戦闘につぎ込みたいところなんだけど・・・・・・。
師匠がお茶を啜る。
「まぁ、分からんもんをいくら考えても仕方がなかろうて。奴が現れる前に何とかして、こちらの準備を整えるしかないじゃろう。その辺りは運じゃな」
運、か。
まぁ、そうなるよね。
奴が現れる直前までになんとか出来れば良いんだけど・・・・・。
ここで師匠が話題を変える。
「ところでじゃが、イッセーよ」
「なんです?」
「お主、戦っている最中に視界から色が消えたことはあるかの?」
「色が、ですか?」
聞き返すと師匠は頷いた。
俺は手を顎にやって記憶を探ってみる。
戦闘中に色が消える・・・・・・?
そんなことあったっけ・・・・・・・・・。
師匠が俺の顔を覗き込むように見てくる。
「どうじゃ?」
「えーと、確か一度だけ・・・・・そう、シリウスと戦った時に一度」
シリウスとの一騎討ち。
その最後の局面だった。
シリウスとすれ違い様の刹那の瞬間、俺の視界から色彩が消えたことはある。
まるでモノクロ映像を見ているように色彩が無くなったんだ。
そして、動く全てのものがスロー再生されたように遅く感じる。
あの時は必死だったから全く気にならなかったけど、今思うと不思議な現象だった。
血を流しすぎて目がおかしくなったのかね?
「なるほどのぉ。一度入っておるか・・・・・・」
師匠は髭を擦りながら感心したように言う。
どうしたんだろうか?
「ただ、意図的にはまだ入れていないようじゃの。シリウスの時もほとんど偶然に近いか。いや、極限の状態だったはずじゃから、入ったのは当然と言うべきかの」
?
どういうことか、さっぱり分からん。
師匠はさっきから何をブツブツ呟いてるんだろうか?
『ボケたんだろ』
「ワシはまだボケとらんよ。ピンピンしとるわい」
「いや、そんなことはどうでも良いんで、どういうことか教えてくれますか?」
「そうじゃの。まずはお主が入ったその状態。それは一般に
ゾーン・・・・・・
あー、なんか聞いたことある!
メチャクチャ集中してる時になるアレか!
なるほど。
俺が体験したのはゾーンだったのか!
「極限の集中状態。これに入ると身体能力だけでなく、飛躍的に反射速度も上げることができるのじゃよ。この状態に入れる者は極々僅かな者のみ。そして、
「でも、それがどうかしたんですか?」
俺が尋ねると師匠はため息をつく。
「お主は阿呆か。意図的に
「っ!」
マジでか!
その領域に自分で入ることか出来ればもっと上に行けるのか!
いや、待てよ・・・・・
「師匠、なんでそれを俺に黙ってたんです? 修行中はそんなこと教えてくれなかったじゃないですか」
「そりゃそうじゃ。意図的に領域に入るということは自身の体に大きな負荷をかけることになる。身体的にもあるが特に脳にダメージがいく。それも尋常ではないほどのな。脳は腕や足と比べて鍛えるのは容易でないからの。あの段階で教えるには危険じゃったんじゃよ」
な、なるほど・・・・・。
確かに脳がやられたら即アウトだからね。
クルクルパーになるのは嫌だ。
「じゃが、一度入っとるなら話は早い。今日から伝授するとするかのぅ。最後の教えというやつじゃ。まぁ、ロスウォードに通用するかと言われれば難しいところじゃが、足しにはなるじゃろ」
師匠はそう言ってウインクする。
最後の教え、か。
一応、奥義は教えてもらってるんだけどね。
「さて、久しぶりに弟子に稽古をつけてやるとするかの」
「はい! よろしくお願いします!」
▽
[モーリス side]
「ま、今日はこんなもんで良いだろ。二人とも汗流してこい。それから水分補給も忘れるな」
「はい、ありがとうございました」
「いつも、ありがとう」
汗だくの祐斗とゼノヴィアが俺に頭を下げて、広場から去っていく。
イッセーが神層階に向かってから一週間。
俺はいつものように祐斗やゼノヴィア、騎士団の連中に稽古をつける日々を送っていた。
他国とのことはアリスやニーナが引き受けてくれているし、解析の方もアザゼルとリーシャ達が動いてくれている。
そうなると、俺に出来るのはいざという時に動けるよう、兵の練度を上げていくことぐらいだ。
ロスウォードと直接やり合えとまでは言わないが、せめて、奴が産み出す怪物程度は相手取れるようにしたいところだ。
先日のオーベル襲撃を受けて、国内も以前よりピリピリしてやがる。
表面的にはあまり変わらないが、町の空気がな・・・・・・。
俺とアザゼルはロスウォードが次狙う都市はこのセントラルだと睨んでいる。
奴はイッセーにトドメを差しにくるのではないか。
そんな考えが俺達の間にあった。
まぁ、確証となる物は何もないが・・・・・・。
俺は用意していた水を飲み干した後、アリスの執務室に向かった。
▽
執務室にアリス達の様子を見に来たんだが・・・・・・
「おい、ニーナ。なんであいつは呆けてるんだよ?」
俺が目にしたのは窓の外をボーッと眺めるアリスの姿と苦笑しながら書類に目を通しているニーナの姿だった。
「一応、お姉ちゃんの仕事は終わってるんだけどね・・・・・・。ここのところ仕事の合間はずっとこんな感じだよ。原因は・・・・・・言わずとも、ね?」
俺は手を顔にやり、ため息を吐く。
あいつ・・・・・・
仮にも一国の王女だぞ、あいつは。
それが惚れた男に少しばかり会えなくなったからって、ここまで呆けるかよ。
もう会えないと思ってた男に二年ぶりに会って、余計に思いが強くなったのかねぇ?
そのくせ、素直じゃねぇんだよなぁ・・・・・・。
めんどくさいやつだ・・・・・・。
「ニーナは至って普通だな」
「私も寂しいよ? でも、お姉ちゃんはあの性格だし・・・・・・。それにお姉ちゃんがあの様子だと、妹の私がやるしかないでしょ?」
「・・・・・・おまえ、本当に成長したな。おじさんは嬉しいぜ。あ、涙出てきた・・・・・」
上があれだと、下が成長するってのは本当だったんだな。
いかんね、歳を取ると涙もろくなる。
おっと、ニーナに知らせることがあるんだった。
俺はニーナに耳打ちする。
(この間話していた件だが、議会の奴らは承認してくれたぜ)
(本当!? よく話が通ったね)
(まぁな。皆、アリスがどれほど頑張ってきたか知ってるからな。だが、おまえは良いのかよ?)
(うん。お姉ちゃんには幸せになってもらいたいからね)
ははははは・・・・・・。
良くできた妹だ。
こいつだって本当は―――――。
いや、今言っても仕方がねぇか。
今は目の前のことに集中しねぇとな。
[モーリス side out]
▽
[アザゼル side]
「なるほどな・・・・・。こいつか・・・・・」
「アザゼル総督。これはもしかして――――」
「ああ、見つけたぜ。だが、やはり効果は一瞬、ほんの数秒ってところか・・・・・」
それにこいつには多量の魔力が必要になるな・・・・・。
リアス達の魔力だけでは到底足りないな。
「ただいま戻りました」
俺とロスヴァイセが考え込んでいる所にリーシャが現れた。
こいつがここにいるってことは調査は終わったらしいな。
「それでどうだった?」
俺が尋ねるとリーシャは微笑んだ。
「ええ、アザゼルさんの言った通りでしたよ。この国は四大神霊の加護を受けている土地ですからね」
四大神霊。
火、水、土、風を司る神霊。
神ではないが、それに近い存在らしい。
この国が豊かな土地に恵まれているのはそいつらの加護を受けているためだ。
今回はそれを利用させてもらう。
恐らく、発動してしまえばこの国の土地は一時的に機能を停止してしまうだろう。
だが、これはやらなくてはならない。
「よし。早速行動に移るぞ。動ける人員は全て投入してくれ」
「ええ。モーリスには許可は得ています。直ぐに動かしましょう」
[アザゼル side out]