ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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9月も終わり、10月から学校か~~~

更新スピードがかなり落ちると思いますが、ご了承ください。


21話 再臨

[木場 side]

 

 

「はぁ・・・憂鬱だわ・・・・・」

 

部長が大きなため息を吐いていた。

 

 

イッセー君が彼の師に会うべくこの世界の神々が住まうという神層階に向かってから既に十日。

 

彼からもたらされた情報を基に僕たちはロスウォードに対抗する術を探した。

その結果、アザゼル先生は何かを掴んだらしく、今はオーディリア各地を回り準備をしている。

リーシャさんやロスヴァイセさんもそれに同行していて、ここ三日ほどは会っていない状況だ。

 

僕達も今できることとして、各自の修行やこの町の避難経路を確認したりして、いざという時のために備えているんだけど・・・・・。

 

 

「イッセーとこんなに触れ合えない時間が続くなんて・・・・。早く帰ってきてくれないかしら」

 

 

見ての通り、女性陣はイッセー君の帰りを待ちきれないでいるみたいだ。

特に部長に朱乃さん、アーシアさんに美羽さんはイッセー君に依存してると言っても良いくらいだからね。

ここ最近のため息の多さは尋常じゃない。

今、僕達は気分転換も兼ねて町に来ているんだけど、隣で歩いている部長も相変わらずの様子だ。

 

モーリスさんから聞いた話だと、アリスさんも仕事の合間はボーッとしていることが多いとか・・・・。

 

こうして見ているとイッセー君の存在の大きさがよく分かる気がするよ。

 

 

そんな中、全力で楽しんでいる人がいた。

 

「これ可愛い! あ、これ美味しそう! ねぇねぇ、ゼノヴィア。これ似合うんじゃない?」

 

「イリナ。少しはしゃぎ過ぎじゃないか?」

 

そう、イリナさんだ。

 

彼女は町の市場を歩き回り、はしゃいでいた。

アクセサリーから食べ物まで。

 

僕達の世界では見られない物、全てに目を輝かせていた。

 

「だって、異世界なんて早々来れる物じゃないでしょ? だったら楽しまなきゃ」

 

 

まぁ、確かにその通りだね。

そもそも、この異世界の存在自体が未知のもだったわけだし。

こうして僕達がこの世界に来ていることって、よくよく考えたらすごい体験をしているわけなんだよね。

 

正直、僕達が異世界に来ていること自体、最近忘れそうになってたよ・・・・。

激戦があったこともあるけど、僕達と接してくれる人達が元の世界の人達と変わりなかったからね。

 

 

はしゃぐイリナさんを見て、部長も微笑む。

 

「まぁ、イリナさんの言う通りなのかもしれないわね。せっかく来たわけだし・・・。それにイッセーともう会えなくなったわけでもないしね。・・・・・帰ってきたら存分に・・・・ふふふ」

 

 

イッセー君。

帰ってきたら、それはそれで大変なことになりそうだよ・・・・。

僕は、応援することしかできないけど、頑張ってね。

 

 

 

たまにイッセー君から連絡をもらうけど、彼はイグニスとの対話だけでなく、彼の師から新たに修行をつけてもらっているらしい。

領域(ゾーン)という極限の集中状態に意図的に入る術を学んでいるとのことだ。

 

再会する頃には彼は更に強くなっているだろう。

どんどん引き離されていくような気がするよ。

 

 

僕もその領域(ゾーン)に入ることは可能なのだろうか・・・・?

もし入れるなら――――――

 

 

 

ズッ・・・・・・

 

 

 

 

「「「「っ!!!!」」」」

 

 

 

 

突然、僕達を凄まじい重圧が襲った。

 

息が詰まりそうな・・・・体が押し潰されそうになるほどのこの重圧・・・・!

この感じはまさか・・・・!

 

 

僕は空を見上げた。

 

視線の先には黒い翼の男。

 

間違いない、ロスウォードだ・・・・・・。

 

 

 

「部長・・・・」

 

「ええ。ついに来てしまったようね」

 

 

皆も厳しい顔で頷いていた。

ついにロスウォードが僕達の前に再び姿を現した。

 

それも最悪のタイミングで・・・。

 

今はアザゼル先生もイッセー君もここにはいないというのに・・・・っ!

 

 

すると、僕達の耳元に小さな魔法陣が展開した。

 

『聞こえているか、おまえ達』

 

聞こえてきたのはモーリスさんの声。

 

「はい、聞こえています。モーリスさん、これは――――」

 

『ああ、分かっている。どうやら奴さんが現れたみてぇだな』

 

「僕達は避難にあたりますか?」

 

『いや、おまえ達は一度戻ってこい。町の避難の方は既に兵士達を動かしている。アザゼルにも連絡済だ。向こうの作業が終われば帰ってくるだろうよ』

 

僕達はその言葉に驚いていた。

 

何という迅速さだ。

ロスウォードが現れたのはつい先程だというのに・・・・・。

 

いや、今は感心している場合じゃない。

 

「部長」

 

「分かっているわ。皆、城に戻るわよ!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・」

 

「今日の修行はここまでじゃな」

 

「あ、ありがとうございました・・・・・・・」

 

 

俺は息をきらしながら小屋へと戻っていく師匠に頭を下げた。

 

あー、疲れた・・・・・・。

 

俺はその場に大の字になって寝転がった。

 

 

ここは小屋がある崖の下。

そこに広がる大きな草原だ。

 

俺はこの三日間、師匠から領域に意図的に入るための修行を受けてたんだけど・・・・・・・。

 

 

結果的には僅かな時間だけど領域に入ることには成功した。

一度入っていたこともあり、予想よりも早く入れることができた。

 

ただ、想像してたよりもキツかった。

身体的にもそうだけど、やり過ぎると頭痛がするんだよなぁ・・・・・。

 

しかも、籠手の力を使わずに師匠とガチンコで殴り合いの猛特訓。

もうヘトヘトだよ・・・・・・。

 

『スケベジジイとは言え、この世界では武術の神と呼ばれるジジイだ。相応の実力はあるさ。今の相棒では勝てんだろう』

 

まぁね。

 

パワーだけならともかく、テクニック勝負となるとな。

錬環勁気功だって、師匠の方が遥かに上だし。

 

『それはそうだろう。あのジジイは長い時の中で技術を磨き続けてきた。二年の修行で追い付けるほど甘くはないさ。それに、ジジイが本気で錬環勁気功を使えばパワーですら劣ることになるぞ』

 

師匠を越えるにはまだまだか・・・・・・。

いつかは越えてみたい背中だけどな。

 

 

とりあえず風呂に入ってから飯にするか。

朝からぶっ通しだったから腹減っちまった。

 

 

 

 

 

 

昼食を終えて体を休めていると・・・・・・。

 

「そういえば、オーディリアにロスウォードが現れたみたいじゃの」

 

「ブフォアッ!!!!」

 

俺は盛大に口の中のお茶を吹き出した!

 

だってそうだろ!

 

師匠に掴みかかる!

 

「なんで、そんなことを思い出したみたいに言うんですか!?」

 

「落ち着かんか。ワシもさっき知ったんじゃ」

 

「じゃあ、早く教えてくださいよ!」

 

なんでそんな呑気にしてるの!?

 

ヤバイじゃん!

アリスや美羽達がピンチじゃねぇか!

 

師匠はまぁまぁ、と俺を宥めるように言う。

 

「そもそも、修行したばかりで消耗しておるお主が行って戦力になるとおもうか?」

 

「うっ・・・・・・」

 

「万全のお主が向かっても手も足も出なかったのが、あんな腹も減って、ヘロヘロの状態で勝てると思うとるのかの?」

 

「ううっ・・・・・・」

 

 

仰る通りです・・・・・・。

 

師匠とやり合って、消耗しきってる俺が行っても邪魔にしかならないよな・・・・・・。

 

いや、だからって皆のところに行かないわけにはいかないだろ!

 

あー、どうすりゃ良いんだよ!

 

 

俺が頭を抱えていると師匠がニヤッと笑んだ。

 

「まぁ、そう慌てるでない。今のところロスウォード本人は何も仕掛けておらんしの。精々、眷獣を出しとるくらいじゃ」

 

「眷獣?」

 

「なんじゃ、その名も知らんかったのか? ほれ、あの白いやつじゃよ」

 

あー、あの怪物ね。

 

眷獣って言うのか。

初めて知ったよ。

 

確かに獣っぽい雰囲気あるかな?

 

「眷獣程度ならお主の仲間でどうにでもなるじゃろ」

 

まぁ、それはそうだけど・・・・・・。

 

アリスやモーリスのおっさんもいるし。

それに、部長や朱乃さん達もパワーアップしてるしな。

 

「でも、何かあってからだと遅いじゃないですか。ここからだと時間もかかりますし」

 

この神層階からあの島に降りて、そこからオーディリアまで飛ぶ必要がある。

当然、それなりに時間がかかる。

それでは遅すぎる。

 

「それも問題ない。こんなこともあろうかと作ってもらったからのぉ」

 

作ってもらった?

何を?

 

師匠は立ち上がり、部屋の隅にあるクローゼットを開けた。

すると、ピッピッと電子音が鳴る。

何かを操作してるみたいだ。

 

操作が完了したのか師匠は手招きで俺を呼ぶ。

 

師匠のところに行った俺が見たものは―――――

 

 

 

「エ、エレベーター・・・・・・・?」

 

 

 

小さなガラス窓がある小さな部屋。

壁に取り付けられたボタンには色々な国名が刻まれている。

 

 

「このボタンを押せば、その国へと飛ぶことができる。どうじゃ、すごいじゃろ?」

 

 

えええええええええっ!?

 

知らねぇぇぇええええええ!

この十日間、こんなの一度も見たことねぇよ!

 

「いつの間に!?」

 

「んー、四日ほど前じゃったかの? お主が座禅しとる間に知恵の神につけてもらったのじゃ」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

言葉が出ない・・・・・・。

 

俺がイグニスに意識を潜らせている間にこんな物を・・・・・・。

 

神様マジでパネぇ・・・・・・・。

 

 

「え、えーと、俺としては助かるんですけど・・・・・こんなの作って良いんですか?」

 

神様が下界に降りるのは禁じられているんだろ?

 

 

師匠は顎髭をさすり、笑みを浮かべた。

 

「別にこういう物を作ることは禁止されとらんよ。それに使うのはお主じゃ。何も問題はあるまいて」

 

ま、まぁ、それもそうか・・・・・・。

 

 

「そういうわけじゃ。とりあえずお主はある程度回復させてから向かうのが良かろうて。少し待っておれ。良いものを作ってやろう」

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

モーリスさんからの指示を受けた僕達は城の正門前に集まっていた。

僕達が到着した頃には騎士団の人達は白い怪物を抑えるべく現場へと向かった後だった。

 

「さて、集まってもらってそうそうで悪いんだが、おまえ達にも動いてもらう」

 

そう言うとモーリスさんは紙を広げた。

それはこのセントラルの地図で、数か所に赤い印が着けられている。

 

「見て分かると思うが、この印のところが白い奴らが暴れている箇所だ。今のところ、どういうわけかロスウォード本人は動いていない。それが気になるところではあるが・・・・・」

 

 

確かに。

 

ロスウォードは先程からあの怪物を生み出すだけで、本人が動こうとする様子はない。

まぁ、怪物の数はこれまでよりもはるかに多い数を出してるわけだけど・・・・・。

すでに百近く放っている。

 

これを相手取るのは一苦労だ。

 

 

だけど・・・・・

どう考えても、自身で攻撃した方がすぐに片が付くと思う。

 

ここにいるメンバー全員で向かっても勝てる相手ではない。

 

それを考えると、やはり・・・・・。

 

一体どういうつもりなんだろうか?

 

 

「奴が動かないなら都合がいい。今のうちに白いのを殲滅する。俺やアリスも当然出る。おまえ達にもそちらに当たってもらうぜ」

 

 

それから僕達は各自指示を受けた場所へと向うことになった。

 

 

 

 

 

 

僕は美羽さん、ゼノヴィアとのスリーマンセルで町の南側へと走った。

他の皆も被害を受けている場所へと向かっている。

 

ちなみにティアさんとモーリスさん、アリスさんは一人で現場へと向かった。

まぁ、あの三人なら一人でも後れを取ることは無いだろう。

 

「木場君! あそこ!」

 

美羽さんが指さす方には通常の物よりも大きい腕の長い猿のような怪物。

その周囲にもあの怪物が数体。

町を破壊していた。

 

ゼノヴィアが叫ぶ。

 

「まずい! 逃げ遅れた人がいるみたいだぞ!」

 

「分かってる! 僕が先陣をきるから二人は援護してくれ!」

 

「「了解!!」」

 

 

僕は駆けるスピードを上げる!

手元に二振りの聖魔剣を創り出し、片方を怪物目掛けて投げつける!

 

 

グシュッ

 

 

聖魔剣は怪物の眼に突き刺さり、その動きを止めた!

更に僕の後方からゼノヴィアのデュランダルと美羽さんの魔法による砲撃が怪物を吹き飛ばした!

 

僕はその間に何とか逃げ遅れた女性を保護。

抱きかかえて、美羽さん達のもとに戻る。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ありがとうございます・・・・。すいません、足をくじいてしまって・・・・」

 

女性の足を見てみると、赤く腫れていた。

それから、どこかで擦りむいたのか少し出血もしている。

 

命に関わるような大きなケガじゃないようで安心したよ。

 

「見せてください。ボクが治癒魔法をかけるよ」

 

そう言って美羽さんは小さな魔法陣を展開して女性の足に当てる。

すると、アーシアさんの神器のように淡い緑色の光が発せられ、傷を治していった。

 

「これで大丈夫。大きなケガじゃなくてよかったよ。もしそうだったらアーシアさんのところまで運ばないといけなかったからね」

 

アーシアさんは今、城内で逃げる際に負傷した人達の治療に当たってる。

 

彼女の神器の力はこちらに来てから伸びており、一度に大勢の人を回復できるようになっていた。

それもかなり早いスピードで。

 

 

 

まぁ、それは僕も同じだったりするんだけどね。

部長や朱乃さんのように早くは無かったけれど、僕の力にも変化はあったんだ。

 

僕は聖魔剣を手に握っている一振りのほかに七本の聖魔剣を空中に展開する。

一本一本はそれほど長くはなく、普通の剣の半分くらいの長さだ。

 

「美羽さんは後ろから援護をお願いするよ。僕とゼノヴィアが前衛だ」

 

「了解だ。派手に暴れるとするよ」

 

「でも、出来るだけ町は壊さないでね?」

 

ははは・・・・

 

ゼノヴィアにそれを頼むのは難しい気はするけどね・・・・。

 

 

「さぁ、行くよ!」

 

僕は地面を蹴って一気にトップスピードに至る。

展開した七本の聖魔剣も僕に付き添うようについてくる。

 

僕の目の前には二体の怪物。

その太い腕から繰り出される攻撃を避け、懐に入る。

 

そして、そのまま飛び上がり怪物の頭を斬り刻んだ。

 

 

普通の相手ならここで勝負はついてるんだけど、今相手をしているのはこれで終わるような相手じゃない。

頭を無くしても僕を狙って攻撃してくる。

 

僕は手を振りかざし、宙を舞う七本の聖魔剣を動かす。

 

「斬り刻め、七剣(セブンソード)

 

七本の聖魔剣が一斉にその鋭い刃で怪物を切り刻んでいく。

 

一体目がバラバラに分解された後、七本の剣は意志を持ったかのように二体目の怪物に襲いかかって行く。

 

 

これが僕が使えるようになった力の一つ。

創り出した聖魔剣を遠隔操作できるようにすること。

 

今までは空中に創り出しても一定の方向に飛ばすくらいしか出来なかった物がこうして自在に動かせるようになったんだ。

 

まぁ、部長や朱乃さんと比べると地味だけどね。

 

それでも、これが出来るようになったのは僕にとってはかなり大きい。

今までは近接して戦うしかなかった相手でも遠くから攻撃できるようになる。

それに、何より手数を圧倒的に増やすことが出来る。

 

戦術的に幅が広がったことになるね。

 

 

「はぁぁあああああああっ!!!!」

 

 

ドッガァァァァァァァァァァァン!!!!!!

 

 

デュランダルから放たれた莫大な聖なるオーラが辺り一帯の建物ごと怪物を消し飛ばした。

 

ゼノヴィアにも変化は起きてたんだけど・・・・・

見て分かる通り、それは大幅のパワーアップだった。

 

ゼノヴィアらしいといえばゼノヴィアらしいけど・・・・・・。

 

 

「どうだ木場! 私のデュランダルはここまで威力を上げたぞ!」

 

意気揚々に言うゼノヴィア。

 

うん・・・・すごいとは思うよ・・・・・。

あれだけのしぶとさを誇る相手を一撃で消し飛ばすのだから。

 

 

でも、さっき美羽さんに町は壊さないようにって言われていたのを完全に忘れているみたいだね・・・・。

 

 

はぁ・・・・。

 

どうしよう、ゼノヴィアが完全にパワーに走ってしまう。

彼女にはもっとテクニック方面も頑張ってほしいのだけれど・・・・。

 

 

事が済んだら、美羽さんに町の修復をしてもらうことにしよう・・・・・。

 

 

ふと見ると美羽さんは保護した女性の周囲に結界を張りながら、ため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼノヴィアさん・・・・町は壊さないようにって言ったのに・・・・」

 

「まぁ、良いじゃないか。この辺りの住民は助けられたし、あの怪物共は全て倒しただろう?」

 

「それはそうなんだけどさ・・・・・」

 

ガックリと肩を落とす美羽さん。

ま、まぁ、彼女の気持ちはわかるかな。

 

流石にこれは・・・・・

 

 

周囲を見渡すとゼノヴィアが放った攻撃の爪痕があちこちに残っている状態だった。

 

うーん、後でモーリスさんに怒られなければいいけど・・・・・。

 

 

とりあえず他の皆も大体は終わったみたいだ。

 

残るは――――――――――

 

 

 

 

 

「シリウスの娘か。・・・・・赤龍帝はどこにいる?」

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

声がした方を振り向くといつの間にかロスウォードがすぐ近くに立っていた。

 

前回もそうだったけれど、声をかけられるまで接近に気が付かなかった・・・・・。

 

 

美羽さんは唾を飲み込み、ロスウォードに尋ねる。

 

「・・・・お兄ちゃんはここにはいないよ」

 

「そうか。どうりで出てこないわけだ」

 

 

僕はロスウォードの言葉に疑問を覚えた。

 

イッセー君を狙っているのか?

 

美羽さんも怪訝な表情をしている。

 

「どうしてお兄ちゃんを狙っているの?」

 

「どうして、か・・・・。正直、理由は俺にも分からん。殺し損ねたからなのか、あるいは・・・・・。まぁ、今のあの男の力では後者は無理だろうがな」

 

そう言うとロスウォードはこちらに掌を向ける。

 

「どのみち俺のすることは変わらん。ただ、与えられた全てを滅ぼすという術式に従っておまえ達を消すまでだ」

 

「「「っ!」」」

 

僕達は咄嗟に身構える。

 

 

けど、今の僕達でロスウォードの相手をするのは無謀だ。

 

確かに僕達は前回よりも力を伸ばすことが出来た。

それでも、今の力が目の前の敵に通じるとは思えない・・・・・。

 

皆もロスウォードがここにいることは彼が放っている濃密なオーラで気付いているはず。

それでも、救援に来るまでには時間がかかるか・・・・・。

 

 

 

嫌な汗が額を流れていく。

 

 

どうする・・・・?

この状況をどうやって切り抜ければいい?

 

僕が考えている間にもロスウォードは黒い槍を手元に創り出す。

堅牢なイッセー君の鎧でさえ容易く貫いたという黒い槍。

 

 

 

 

ロスウォードはそれを握り、僕達の方へと投げた――――――――

 

 

 

 

速い。

迫る槍のスピードに体がついてこない。

相手は全く本気を出していないというのにこのスピードだ。

 

僕だけでなく美羽さんやゼノヴィアも同じ状態。

 

 

 

黒い槍は美羽さんに迫り、その胸を貫く。

 

 

 

 

 

――――――――――はずだった。

 

 

 

 

 

突如、美羽さんは光の粒子と化してその場から姿を消した。

美羽さんがいなくなったことで、黒い槍は僕とゼノヴィアの間を通り抜けて遙か彼方まで飛んで行ってしまった。

 

 

どういうことだろう?

なぜ美羽さんが姿を消した?

 

 

 

 

「アザゼル先生がくれたブレスレットが役に立ったな」

 

 

 

 

 

声がした。

聞き覚えのある声だ。

 

僕達が待ちわびた彼の声―――――――――

 

 

上空を見上げると美羽さんを抱きかかえているイッセー君の姿があった。

 

 

 

「悪い。遅くなった」

 

 

 

 

 

[木場 side out]

 

 


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