「本当にごめんなさい!」
そう言って俺に頭を下げてくるレイナーレ。
レイナーレ曰く、はぐれたアーシアを探して、見つけたところに俺がいた、とのことなんだけど・………。
俺と再会してから、かれこれ十分ほど経つが、ずっとこんな感じだ。
美羽はレイナーレが俺を殺そうとした堕天使であることを知って、初めは少し怒りの表情を浮かべていたんだけど、レイナーレが彼女の上司であるドーナシークっていう堕天使に無理矢理させられたことを知り、何度も頭を下げてくる彼女の姿を見て、少し怒りが収まったようだ。
「レイナーレさん、頭を上げてください」
美羽がそう言うも、レイナーレは俺に頭を下げ続けた。
「私があなたのお兄さんにしたことは、とても許されることじゃないわ。私はあなたやお兄さんに恨まれても、殺されても文句を言えない。それだけのことをしたもの」
参ったね………ここまで、謝られると逆に申し訳なくなるよ。
彼女が俺を殺そうとしたことは事実だけど、本心からでは無いことは何となく分かってたしな。
それに、この光景って男子が女子をいじめてるようにしか見えないから居心地が悪い…………。
「そんなに謝らなくても大丈夫だって。俺は気にしてないからさ。俺は今、こうして生きてる。だから頭を上げてくれよレイナーレ」
「だけど………」
「本当に気にしてないよ。だから頭を上げてくれって」
そう言うとレイナーレはやっと頭を上げてくれたけど、彼女の顔は涙でクシャクシャになっていた。
今もポロポロと涙を零している。
俺はポケットに入れていたハンカチで涙を拭いてあげた。
「ほら。そんな顔してると、折角の美人が台無しになるぞ?」
俺が微笑みを浮かべて涙を拭いてあげると、少しだが表情を柔らかくしてくれた。
それからレイナーレが落ち着くのを少し待った後、俺はふと気になったことを聞いてみる。
「今さらなんだけど、俺、さっきから君のことレイナーレって本名で呼んでいるけど、大丈夫?」
「えっ?」
「いや、俺と会った時は夕麻って名乗っていたからさ、良いのかなって」
「もちろん良いよ。夕麻って名前はあの時限りの偽名だし。………もし、イッセー君さえ良ければレイナって呼んでくれないかな?」
「レイナ?」
「えっとね、仲の良い人にはそう呼ばれているの………」
「そっか。じゃあ、俺も遠慮なくレイナって呼ぶことにするよ」
俺がそう言うと彼女は少し嬉しそうな表情となった。
▽
「はい、アーシアさんにレイナさん。お茶で良かったよね?」
「ありがとうございます、美羽さん」
「ありがとう」
二人は美羽からペットボトルを受けとると少し飲み、ベンチに座った。
「それでなんだけど、何で二人はここに? レイナはアーシアを探してたっていうのは分かるんだけど」
レイナがアーシアを追ってきた時の表情はすごく焦っているようにも見えた。
まぁ、見知らぬ土地ではぐれたら誰でも焦るとおもうんだけど、何かそれだけじゃないような気がした。
何かに追われているような、そんな鬼気迫るものが彼女からは感じられたんだ。
俺の問いにアーシアは目を伏せ、レイナは真剣な目で俺を見てきた。
「………ドーナシークから逃げてきたの」
「逃げてきた? 何があったんだ?」
「ドーナシークがアーシアの神器を奪おうとしていることが分かったからよ」
「神器を奪う?」
「そう。そして、神器を奪われた人間は…………死ぬわ」
「「っ!?」」
レイナの言葉を聞いて、俺と美羽に衝撃が走った。
「そんな………! じゃあ、アーシアさんは………」
「だから、ドーナシークの計画を知った私はアーシアを連れて冥界、アザゼル総督の元に逃げようと考えたの」
アザゼルって名前は聞いたことがある。
堕天使の長だったはずだ。
ここで、一つの疑問が俺の中に生まれた。
「なぁ、レイナ。今回の件ってドーナシークの独断の行動なのか?」
「正確には分からないの。私は使いっぱしりみたいなもので、計画の詳細までは知らされていなかったもの。だけど、少なくともアザゼル総督やシュムハザ副総督はアーシアを殺したりしないわ。あの方達は神器持ちの人間を大切にしているもの」
「なるほど………」
レイナの言うことが真実ならば、ドーナシークを含めた一部の堕天使の犯行と見て間違いないはずだ。
仮に堕天使全体が絡んでいるなら、悪魔の領土でコソコソせずにさっさと堕天使の領土に連れて帰ればいい。
そうすれば、誰にも邪魔されずに済む。
それをしないってことは他の堕天使に隠れて事を進めているってことだ。
「それで、アーシアを連れて逃げようとしたんだけど、アーシアが逃げる前にイッセー君に会いたいって………」
「俺に?」
すると、アーシアが俺に答えた。
「私、イッセーさんお礼が言いたかったんです。それで、レイナさんに無理言ってイッセーさんを探してもらっていたんです」
「お礼って………。俺、お礼されるようなことしたかな?」
「はい。イッセーさんは私に優しくしてくれました。それに二度も助けて頂きました。教会を追い出されてからは誰かに優しくされたことって無かったものですから。嬉しくて………」
「教会を追い出された?」
俺はアーシアの言葉が信じられずについ聞き返してしまった。
アーシアは寂しそうな表情で小さく頷いた。
「………はい」
「イッセー君、アーシアは………」
「レイナさん、大丈夫です。………イッセーさん、私の過去を聞いていただけますか?」
「………ああ」
アーシアは自分の過去を話してくれた。
それは『聖女』として祀られた少女の救われない末路だった。
▽
全ては今から十五年ほど前に教会に生まれたばかりの女の子が置き去りにされていた事から始まった。
そこは孤児院を兼ねた教会だったこともあり彼女は信心深く優しい子に育っていく。
そんな彼女に力が宿ったのは八つの時だった。
孤児院内に偶然ケガをした子犬が迷い込んだ。
彼女はその子犬を不思議な力であっという間に治療した。
そして、その場面をカトリック関係者に見つけられる。
彼女の人生が変わったのはそこからだ。
それから程なくして彼女はカトリック教会の本部に連れて行かれ、治癒の力を宿した『聖女』として担ぎ出された。
そして、訪れた信者に加護と称して体の悪いところを治療していく。
彼女の事が噂に上がるのに時間はかからず、多くの信者から『聖女』として崇められるようになった。
彼女の意思など関係なしに。
教会関係者はよくしてくれるし、他者のケガを治すこと自体は嫌いではなかった。
むしろ、自分の力が役に立っている事がうれしくて、治癒の力をさずけてくれた神への感謝を忘れる事もなかった。
………だけど、彼女は寂しかった。
誰一人、友と呼べる人が出来なかったからだ。
そんなある日、転機が訪れる。
少女の目の前に大ケガを負った悪魔が現れた。
教会の人間にとって悪魔は忌避すべき存在であり、見つけたら退治することが当たり前であった。
だけど、悪魔であろうとケガをしていた存在を見捨てられなかった彼女はその場で悪魔の治療した。
それが彼女の人生を反転させる事になった。
『聖女』が悪魔を治療する姿は教会に報告され、報告を聞いた司祭達はその事実に驚愕したという。
そして彼女は『悪魔も癒すことができる力』を持つ者『魔女』として異端の烙印を押され、そのまま教会を追放されたのだった。
それから、各地をさまよっていた後、偶然『はぐれ悪魔祓い』の組織に拾われ、それ以降堕天使の加護を受ける事になった。
そうして『はぐれ悪魔祓い』の一員となった少女だったが、神への感謝を忘れた事はなく、今でも祈りを捧げているという。
▽
「………」
アーシアが語ったのは俺の想像を越えたあまりに壮絶な過去だった。
傷ついた悪魔を治療しただけで、アーシアを追放したのか………。
そして、アーシアの神器を奪おうとする堕天使。
神器を抜けば、アーシアが死ぬとわかっていながら、己の欲を満たすために―――――。
ふざけてるな。
どいつもこいつも、あまりに自分勝手だ。
「そんな………ひどいよ。そんなのって………」
「美羽さん、これは試練なんです。主が私に与えてくれた、試練なんです。私の信仰が足りないから………」
悲しむ美羽にアーシアはそう言う。
だけど、俺は首を横に振った。
「それは違うぞアーシア」
「えっ?」
「アーシアは何も間違ったことをしていない。もしこれが試練だっていうなら、アーシアはもう十分に耐えてきただろ?」
「ですが………」
「それでも神様がまだ足りないっていうなら、俺が神様に文句言ってきてやるよ、『俺の友達を悲しませてんじゃねぇ』ってな」
俺の言葉を聞いたアーシアは少し驚いていた。
「………友達」
「確かに俺たちは出会って間もないし、これと言って何かをしたわけじゃない。だけど、俺たちはこうしてお互いの気持ちを伝えることができているだろ? なら、俺たちは友達で良いんじゃないかな?」
「お兄ちゃんの言うとおりだよ、アーシアさん。ボク達はもう友達だよ」
俺と美羽がそういうとアーシアは涙を流した。
「す、すみません………。私、うれしくて………」
アーシアはそう言うと涙を拭いながら、笑顔を俺に見せてくれた。
そうだよ。
やっぱりアーシアは笑顔じゃないとな。
すると、レイナが少しモジモジしながらアーシアに言う。
「えっとね。………私も友達になってもいいかな? 堕天使だけど………」
「はい! レイナさん、よろしくお願いします!」
アーシアにそう言われて少しホッとしたレイナ。
レイナは次に俺と美羽の方をチラッと見てきた。
何を求めているのかは明らかで、
「もちろん、俺たちも友達だよレイナ」
「そうだね。最初はお兄ちゃんを殺そうとしたって聞いて怒ったけど、レイナさんってすごい優しい人だって分かったし。ボクもレイナさんと友達になりたいな」
「あ、ありがとう」
顔が赤くなっているけど、良い笑顔だ。
こうして、俺たち四人がお互いを友達として認め合った時だった。
「ふん。くだらんな。堕天使が悪魔と友達ごっこか? レイナーレ」
▽
声は俺たちと少し離れた公園の噴水の方から聞こえた。
振り返ると、レイナの上司にして今回の首謀者とも言っていい堕天使、ドーナシークがいた。
「ド、ドーナシーク………!」
「ほう? 私を呼び捨てとはずいぶん偉くなったなレイナーレよ」
ドーナシークはレイナを睨みながらそう言う。
そして、今度は俺の方を見てきた。
「この間の神器持ちの人間か。いや、今は悪魔か。まぁそんなことはどうでもいい。アーシア・アルジェントをこちらに渡してもらおう」
「俺が素直に渡すとでも?」
「ならば―――」
「ならば、力づくでか? 俺に勝てると思ってんのかよ、おっさん。それとも俺たちの後ろにいるあんたの仲間にでも助けてもらうつもりか?」
「………っ!? 気付いていたのか。なるほど、やはり只者ではないようだな。だが、堕天使をバカにしてもらっては困るな、悪魔よ」
「このままおとなしく帰ってくれたら、痛い目を見ずに済むけど。どうする?」
「この場で貴様と争っても我々への損害が大きい。ここは引くとしよう―――――その者たちを連れてな」
ドーナシークがそういった時、アーシアとレイナが光に包まれた。
二人を包み込む光が強くなり、はじけた瞬間―――――ドーナシークの手元に二人が現れた!
「強制転移!?」
目を見開く俺にドーナシークは薄く笑って答えた。
「いざという時のために強制転移のマーキングをしておいたのだよ。アーシア・アルジェントだけでも良いかと思っていたのだが、レイナーレにも仕掛けておいて正解だった」
やられた………!
確かに、自分達の計画の要であるアーシアを逃すはずがない。
アーシアが逃げ出した時のために仕掛けを施していてもおかしくはない。
少し考えれば分かったことだ。
完全に油断していた………!
歯噛みする俺を嘲笑うようにドーナシークが言う。
「では、これで失礼する。計画も大詰めなのでな」
「待ちやがれ!」
俺はすぐさま気弾を放つも、僅かな差で転移の方が早く、命中することはなかった。
ドーナシークの転移が完了したと同時に俺たちの後ろにあった気配も消えていった―――――。
▽
二人を連れていかれた後、公園にいるのは俺と美羽の二人だけ。
俺は先ほどまでドーナシークがいた場所を見つめながら息を吐く。
これも平和ボケってやつなのかね?
美羽をこちらの世界に連れてきてからは争いのない平和な日々が続いていたからな………。
二人が連れて行かれたのは油断していたせいだが………今は自分を責めている場合じゃない。
この後、どう動くかが重要だ。
俺は振り向くと、美羽に言う。
「俺はドーナシークを追う。美羽は家に――――」
「帰らないよ。ボクも行くよ」
「おまえなぁ…………」
「アーシアさんもレイナさんはボクの友達でもあるんだよ。だからボクも行く。それに、ボクはお兄ちゃんの足手まといにはならないよ」
ダメだこりゃ。
美羽ってば以外に頑固なところがあるからな。
こうなったら梃子でも動かない。
俺としては美羽を危険なことに巻き込みたくないんだが………。
「分かった。だけど、気をつけろよ?」
お前にケガされたら、俺も嫌だしな。
それに父さんと母さんに俺がしばかれる…………!
「ありがとう、お兄ちゃん」
「よし。そんじゃ、さっさと行くぞ。二人を助けにな」
俺と美羽はアーシアとレイナを救出するべく、教会へと向かった。
さて………後で部長たちに何て説明しようか。
▽
[リアス side]
私は今、とある公園に転移してきた。
「イッセーったらもういなくなってる…………」
イッセーの情報を基に朱乃に堕天使について調べてもらっていた結果、駒王町に現れた堕天使は一部の者が独断で行動していることが判明。
堕天使達を討伐しに行くから、イッセーを呼びに来たのだけれど…………。
私に続いて朱乃が転移してくる。
「あらあら、一足遅かったようですわね」
「もう、他人事みたいに言わないでちょうだい」
「うふふ。それで、どうするの、リアス?」
「イッセーは例の教会に向かってるみたいね。それなら、祐斗と小猫にもそちらに向かってもらいましょう」
「それでは、私が二人に連絡を入れておきますわ」
「ええ、お願いするわ」
朱乃が祐斗と小猫に連絡を入れた後、私と朱乃も堕天使のところへと向かった。
[リアス side out]
うーん、文章表現がもっと上手くなりたい・・・・・