アスカロンと聖槍が衝突する音が響き渡る。
俺と曹操は僅かに競り合うと一度、距離を置く。
それがこの京都での最終決戦の開幕の合図となった。
龍王化した匙は八坂さんと大怪獣バトルを繰り広げ、その傍らでは美羽が大きな魔法陣を展開していた。
「我が魔法を逆転させる気か! そうはさせん!」
ゲオルグが霧を美羽の周囲に広げる。
あの野郎、美羽を転移させる気か!?
しかし、俺の心配はすぐになくなった。
その霧は美羽を中心に巻き起こった竜巻で全て吹き飛ばされた!
「邪魔はさせないよ!」
辺りに広がる無数の魔法陣。
そこから放たれるのはお返しと言わんばかりの異世界式魔法フルバースト!!
ロスヴァイセさんのようにありとあらゆる属性の魔法の砲撃が雨のようにゲオルクへと降り注ぐ!
砲撃の雨が止んだ頃にはその辺り一帯が焼け野原へと変貌を遂げていた!
うーん、流石の威力!
魔王の娘の実力は半端じゃないってな!
ゲオルクは霧で防いだようだけど、額から汗を流していた。
「なんだ、あの術式は・・・・・・。北欧・・・・・白魔術、黒魔術、どれにも当てはまらないだと?」
どうやら、美羽の魔法陣に関心を寄せているみたいだ。
まぁ、この世界の魔法使いからしたら興味深いだろうな。
ロスヴァイセさんも似たような反応してたし。
「さぁ、あの時の続きをしようか。木場祐斗」
「今度こそ君にこの刃を届かせよう」
木場は聖魔剣、ジークフリートは魔帝剣グラムを抜き放つ。
そして二人は駆け出した!
早速繰り広げられる剣戟の応酬!
互いの技を見切り、最小限の動きで相手の技を受け止め、あるいは避けている!
しかし、剣の質ではジークフリートの方に軍配が上がる。
よく見れば激しい剣戟の中で木場の聖魔剣の刃が欠けていた。
「流石は魔帝剣。魔剣最強と言われるだけはある!」
木場は後ろに飛び退くと手に持つ聖魔剣を捨て、新たに聖魔剣を二振り造り出す。
更には木場の周囲に七つの剣が出現した。
「以前のように様子見はしない。最初から全力でいかせてもらうよ」
木場の言葉にジークフリートが笑む。
「なるほど。ならば僕も本気をだそうか!」
ジークフリートがグラムを軽く振るい、奴の神器、『龍の手』の亜種である銀色の腕が背中から生えてくる。
すると、ジークフリートから先程とは段違いの重圧が解き放たれた!
木場への殺気も膨らんでいく!
「―――
ジークフリートの背中から新たに三本の銀色の腕が生えてきた!?
なんだありゃ!?
背中に生えた四本の腕が帯剣してあった全てを抜き放つ。
空いている手には光の剣。
六刀流かよッ!
「元は教会の戦士だったからね。魔剣以外にもこうして光の剣も扱えるのさ」
六本の腕で構える姿はまるで阿修羅だ。
「これが僕の禁手『
挑発するように言うジークフリートに木場は不敵な笑みを浮かべて返した。
「君が倒れるまでだ。それまで僕はこの剣を振るい続けよう」
「いい返事だ」
そこから始まる二人の剣士による激戦が始まった。
死ぬなよ、木場!
俺は曹操と剣を交えながらも木場以外の状況を確認していく。
木場とジークフリートが剣を交えている中、少し離れたところではイリナとジャンヌが激戦を繰り広げていた。
「はっ!」
イリナが光の剣を振り下ろし、ジャンヌはレイピアで軽々と受け止める。
「いいね! 流石はミカエルさんのAと言ったところかしら?」
二人とも鍔ぜり合うことはせず、互いに地を蹴って剣戟を繰り広げていた。
イリナのスピードについてこれるのか。
コカビエルの騒動の時、教会からエクスカリバーの一本を任されるだけあってイリナの身のこなしは良い。
パワータイプのゼノヴィアと比べるとテクニックの方面に優れている。
それにスピードもあった。
それが天使化してから皆と修行を積んだおかげで出会った頃と比べるとかなり速くなっている。
そのイリナにジャンヌは対抗できていた。
「これならどう!」
イリナが空いている手を掲げる。
上空に光の槍が幾重にも展開され、ジャンヌ目掛けて降り注ぐ!
だけど、ジャンヌは余裕の表情で――――
「聖剣よ!」
叫ぶジャンヌの足元から剣が生えてくる!
イリナは咄嗟に後ろに飛び、回避するが、イリナの槍は地面から生えた剣に迎撃されてしまった。
イリナはそれを見て、ハッとなる。
「聖剣が地面から・・・・・造った? あなたの神器はもしかして――――」
「あら、お姉さんの能力バレちゃったみたいね」
ジャンヌはペロッと舌を出してウインクする。
そして自身の能力を明かした。
「お姉さんの神器は『
それはそうだ。
聖魔剣は木場と木場の仲間達によって誕生したイレギュラー中のイレギュラー。
聖と魔、相反する二つの力を一つにした剣だ。
聖魔剣を創るなんて真似は木場以外には出来ないだろう。
ジャンヌは木場とジークフリートが戦っている場所を見るとニッコリと笑んだ。
「ジーくんも張り切ってるみたいだし、お姉さんも頑張っちゃおうかな♪ ―――――
ジャンヌの足下から大量の聖剣が生み出され、凄い勢いで重なっていく!
聖剣は何かを作り出し――――
「ドラゴン・・・・・・?」
イリナが呟く。
そう、ジャンヌの背後に現れたのは聖剣で出来た巨大なドラゴンだった!
「これが私の禁手『
こいつも亜種の禁手かよ!
「さぁ、再開しましょうか、天使ちゃん♪」
ジャンヌは微笑みを浮かべると、剣を構えてイリナに斬りかかった!
ギィィィンッ!!
イリナはジャンヌの聖剣を受け止める。
しかし、そこを突いて聖剣のドラゴンがイリナを横合いから襲う!
「くぅっ!!」
イリナはギリギリで直撃は避けたけど、左腕を掠めたようで、血が腕を滴っていた。
あの量からして少し傷が深い。
「イリナ、大丈夫か!」
俺が叫ぶとイリナはこっちに親指を立てて返してくれた。
「大丈夫! これくらいどうってことはないわ!」
「回復を!」
アーシアがイリナに回復のオーラを飛ばして傷を癒す。
離れているとはいえ、流石の治癒力。
一瞬で腕の傷は塞がった。
「ありがとう、アーシアさん! 皆のためにもここで負けるわけにはいかないわ!」
イリナが握る光の剣の輝きが増す!
それを両手で構えてジャンヌへ向かって飛翔した!
踏ん張ってくれよ、イリナ!
ドゴォンッ! ドオオオンッ!
炸裂音を何度も響かせて爆破合戦に入っているのはロスヴァイセさんとヘラクレス。
「くっ! なんて防御力! 魔術を受けてもモノともしないなんて!」
ロスヴァイセさんによって縦横無尽に繰り出される魔法攻撃。
しかし、それをまともにくらっているヘラクレスは笑みを浮かべてロスヴァイセさんへと突っ込んでいく!
「ハッハッハーッ! いい塩梅の魔法攻撃だっ!」
ロスヴァイセさんの北欧魔術のフルバーストを受けて笑っていやがる!
ダメージは受けているようだが、傷は少ない!
・・・・・魔法に対して何かしらの耐性でもあるのか?
ヘラクレスの拳をロスヴァイセさんは軽やかに避ける。
すると、空振った拳は後方の樹木に突き刺さり――――
ドォォォオンッ!
炸裂音と共に木が木っ端微塵に爆ぜた!
「俺の神器は『
ヘラクレスが叫び、巨体が光輝く!
腕、足、背中に何かゴツゴツしたものが形成されていく!
光が止むとヘラクレスの全身から無数の突起物が生えていた!
まるでミサイルみたいな形をしている。
「これが俺の禁手ッ! 『
ヘラクレスがロスヴァイセさんに照準を定める!
ロスヴァイセさんもそれを察知して距離を取った!
「ハッハー! 仲間を爆破に巻き込まないよう俺の気を逸らそうってか! いいぜ、乗ってやるよ!」
ヘラクレスは嬉々として高笑いすると、空中に飛んだロスヴァイセさん目掛けて全身のミサイルを一斉に発射した!
ロスヴァイセさんは腕を突き出し、防御魔法陣を展開する!
無数のミサイルはロスヴァイセさんを襲い、空中で大爆発を起こした!
激しい爆風が辺り一帯を覆う!
離れて戦ってる俺達の所まで風が押し寄せてきやがった!
爆煙の中からロスヴァイセさんが飛び出し、地面に着地した。
だが、防御魔法陣を敷いたにも関わらず、ロスヴァイセさんはダメージを受けているようだった。
額から血が流れ、銀髪を赤く染めていた。
戦車の特性で防御力も上がっているはずなのに、あれか。
それほどヘラクレスの攻撃力が高いってことだな。
それに厄介なのはあの防御力。
今のロスヴァイセさんの攻撃を受けても大した傷がつかないってのはやっぱり何か仕掛けがあるんだろうな。
ロスヴァイセさんには相性が悪すぎる!
アーシアから回復を受けるロスヴァイセさん。
ロスヴァイセさんはアーシアにお礼を言うとスッと目を細め、新たに魔法陣を展開。
あれは召喚用か?
いったい何を―――――
俺だけでなく、ヘラクレスまでもが怪訝に思っていると魔法陣から出てきたのは装飾が施された一丁の狙撃銃。
えっ!?
そ、それって・・・・・・・
「リーシャさんから頂いた魔装銃の複製。本当に使う日がくるとは思いませんでした」
いつの間にそんなものを!?
そんなこと一言も聞いてないんですけど!?
ロスヴァイセさんはヘラクレスから更に距離を置いて銃を構える。
すると、銃口の前に複数の魔法陣が展開された。
ロスヴァイセさんが普段扱う魔法陣以外に、リーシャが扱うものも混じってるな。
「これは私でも扱えるように少し改造しています。彼女のような速撃ちは出来ませんが―――――」
キュウウウウウウウウウウンッ
魔法陣の文字が高速で回転していき、銃の先端に高密度の光が集まっていく。
バスケットボールくらいの大きさまで光が溜まると―――――ロスヴァイセさんは引き金を引いた。
ガァァァアアアアアアアアアアンッ!!!
物凄いスピードで光が放たれた!
光は真っ直ぐ進み、ヘラクレスを遥か後方へと吹き飛ばす!
「威力だけなら十分です。まぁ、今の私では次弾を撃つのに少し時間を要しますが・・・・・・。あなたにダメージを与えられるなら良しとします」
ヘラクレスが瓦礫を掻き分けで出てくる。
傷は・・・・・先程よりは大きなダメージを与えられているようだ。
「いいな、おい! 良い威力じゃねぇか! 丁度良い! 一方的な戦いほどつまらねぇもんはねぇからな!」
ヘラクレスはミサイルを次々と放ち、ロスヴァイセさんはそれを回避しながら魔装銃による砲撃を放つ。
互いの攻撃を避けながら、二人は市街地の方へと駆けていった。
頼みましたよ、ロスヴァイセさん!
曹操が槍をクルクルと回しながら構える。
「君の仲間も中々にやる。正直、彼らなら圧倒できるとは思っていたんだけど、考えが甘過ぎたか。一応、君達のデータを基に作戦を立てたつもりだったんだけどね」
「おまえ達のデータはもう役にたたないだろ? うちのメンバー舐めんなよ?」
異世界に渡り、そこでの戦闘を経て皆は大きく力を伸ばした。
もし、それがなかったら・・・・・・速攻でやられていたかもしれないけどな。
それくらい英雄派の幹部共の力量は高い。
「いやはや、全くもって驚異的だ。どうやったらここまで急激に実力を伸ばせるのか、ぜひともお教え願いたいところだが・・・・・・」
「教えるわけがねぇだろ。聞きたかったら力ずくで聞いてみろよ」
「それも面白いかもしれないな」
曹操はフッと笑みを浮かべる。
こいつの相手もしなくちゃいけないんだけど・・・・・。
俺が気になっているのはもう一人。
途中から参戦してきたディルムッドと名乗る女性だ。
「ハァァァッ!!!」
ゼノヴィアの激しい剣戟とディルムッドの二本の槍がぶつかる。
エクス・デュランダルともう一本は形状からして
つまりは破壊力の高い聖剣による連戟を繰り出しているということ。
それをディルムッドはなに食わぬ顔で全て受け止めていた。
あの細い腕でよくあの攻撃を受け止められるな。
そして、一瞬の隙をついて反撃に出る。
エクス・デュランダルを弾き、赤い槍を凄まじい速度で刺突を放つ!
「くっ! 何という槍さばき!」
反撃に出られたゼノヴィアは後退しながら槍を避けていく。
長い槍と短い槍。
間合いの異なる武器の回避は非常にやりずらいようで、直撃はしていないものの頬や腕にかすり傷が出来ていた。
「ゼノヴィアさん!」
アーシアが回復のオーラを送る。
ゼノヴィアの体を淡い緑色の光が覆うが――――
「傷が・・・・・・塞がらないっ・・・・・!?」
ゼノヴィアだけじゃなく、俺やアーシアまでもが目を見開いた。
アーシアの回復が通用しない!?
嘘だろっ!?
アーシアの回復はどんな重症でも治すんだぞ!?
それをあんな掠り傷一つ治せないなんて・・・・・。
まさか、あの槍の影響なのか?
俺達が怪訝に思っているとディルムッドは黄色の短槍を前に突きだして言った。
「この槍の名は『
傷が塞がらない槍だと!?
マジかよ!
そんな厄介な槍だったのか!
じゃあ、あの槍で重症を負ってしまえば・・・・・・・。
俺はゼノヴィアに叫ぶ。
「ゼノヴィア! その槍の攻撃は絶対にくらうな! アーシアの治癒が効かないってことはフェニックスの涙も効かないはずだ!」
「了解した!」
そう言うとゼノヴィアはデュランダルとエクスカリバーを構える。
ジリジリとディルムッドとの間合いを詰めていく中、額からは汗が流れ落ちていた。
そして、二刀流と二槍流の攻防が再開。
デュランダルと黄色の短槍ゲイ・ボウが激しく火花を散らした。
何とかして持ちこたえてくれよ、ゼノヴィア!
「さて、仲間の状況は把握できたかな?」
俺と競り合う曹操が言う。
「それはそっちもだろ? おまえだって全体の戦況を把握する方に意識を向けていただろ。仲間の心配か?」
「まぁ、彼女を仲間と呼ぶかどうかは疑問ではあるけどね」
ディルムッドの方に視線を送りながら苦笑する曹操。
そんなに英雄派の中では酷いのか!?
つーか、『英雄派のタダメシ食らい』って二つ名が付く時点で色々おかしい!
美人が台無しじゃん!
ギィィィィィィンッ!!
金属が弾ける音が響く。
俺と曹操は宙返りしながら着地。
「そろそろ俺達も本気でやろう。俺もゲオルクのサポートに回らないといけないみたいだしね」
「だな。八坂さんを助けるためにも、皆を守るためにもここは早く終わらせた方が良さそうだ」
劣勢のメンバーもいるんだ。
早く終らせて加勢に行ってやらないと。
俺はアスカロン、曹操は聖槍に溜めておいた聖なるオーラを解き放つ。
放たれた二つのオーラが衝突し、周囲を目映い光で覆った。
今回は木場達の戦闘がメインでした。
次回はイッセーと曹操をメインとした戦闘を書きます!