[リアス side]
私と朱乃は今、教会の近くにある小さな森の中にいる。
私達の役割は教会の外にいる堕天使の捕縛または消滅させること。
そして先程、外にいた堕天使の全員の処理が終わったところだ。
朱乃が言う。
「リアス、投降してきた堕天使は拘束して冥界の専門機関に送っておきました」
「そう。ご苦労様、朱乃。それじゃあ、祐斗達の応援に向かいましょう。イッセーもまだ神器が使えないみたいだし、心配だわ」
「そうですわね」
互いの合意の上で行ったとは言え、私の実力不足のせいでイッセーには無理な転生をさせることになってしまった。
アジュカ・ベルゼブブ様の調整もあって、最終的には無事に悪魔に転生できたが、悪魔の駒を取り込んだ際に生じた不具合もあり、イッセーは神器を使えない状況にある。
『兵士』の駒を八つ使っても転生できなかったほどの実力。
まだ彼の真の力というものは見たことがないけれど、主となった私よりも上なのは間違いないのだろう。
しかし、神器を使えない状態でどれだけ、その力を発揮できるのか………。
消えない不安を抱えた私はこちらの処理を終えたので、すぐに魔法陣を展開して教会に転移しようとした。
その時―――――。
ドゴオォォオオオン
何が崩れるような音が聞こえた。
音がした方角には―――――例の教会。
戦闘が行われている、そう認識すると同時に私達は感じ取った。
「このオーラは…………」
「…………イッセー君のものですわね」
感じ取れる濃密なオーラ。
間違いなく、私を―――――上級悪魔を超えている。
神器を使えないはずなのに、これだけの力を発揮できるだなんて………!
今回の戦いでは彼の実力が分かるかもしれない。
私はイッセーの心配をする傍らでそう考えていた。
もちろん、それは祐斗や小猫のサポートあっての話だ。
二人と協力して、どれだけ戦えるのかを確かめるつもりでいた。
でも、これは―――――。
「………私は彼を見誤っていたようね。多分、彼は………」
「部長?」
「行きましょう。といっても、到着した時には全てが終わっているでしょうけど」
イッセー、あなたは一体―――――何者なの?
[リアス side out]
▽
俺とドーナシークは地下室を飛び出た後、教会の礼拝堂の前で少しの戦闘を行った。
そして今。
教会の壁が一部崩壊しており、ドーナシークはそこに埋もれている。
「ゴブッ」
瓦礫の中で膝を着くドーナシーク。
口から血を吐いている。
さっき、俺があいつの腹に軽く一発入れたんだけど………意外とタフだな。
「もう終わりか?」
「ぐっ…………。舐めるなよ、若造がッ!」
そう言って、俺に光の槍を投げつけてくる………が、俺は胸に当たる直前に掴み、ドーナシークに投げ返した。
投げ返した光の槍はドーナシークが投げつけた時よりも速く、空を切裂きながら奴へと迫っていく。
「なっ!?」
まさか、投げ返されるとは思わなかったのだろう。
ドーナシークはギリギリのところで避けながらも、信じられないといった表情を浮かべていた。
「何故、悪魔である貴様が光に触れられる!?」
「気で手を覆ってたんだよ。直接触れているわけじゃないから悪魔の俺でもこういう芸当は出来る。それでも、少しヒリヒリするけどな」
「っ・・・・!」
絶句してるな。
光は悪魔にとって猛毒らしい。
直接触れば、光によって、身を焼かれるとのことだ。
特に魔力が低い悪魔は光への耐性が弱いらしく、少し掠めるだけでも激痛が走ると部長から警告を受けた。
俺は悪魔に転生したものの、保有する魔力量はかなり少ない。
下級悪魔の中でも魔力は低い方らしい。
そんな俺が堕天使の光の槍を直接受ければ、色々と不味い。
ならば、どうするか。
簡単だ、直接受けなければ良い。
俺は錬環勁気功を発動させて、体の表面を気で覆う。
こうすれば、ドーナシークの槍は俺には届かない。
俺は一歩踏み出して、ドーナシークに言う。
「まぁ、そんなことはどうでも良い。おまえはアーシアとレイナを傷つけた。簡単に終わらせるとは思うなよ?二人を泣かせたツケはきっちり払ってもらう」
「この………悪魔ごときがあぁぁああ!」
ドーナシークは翼を広げて空を飛ぶ。
そして、自分の周囲に光の槍を展開し、それらを全て、俺に目掛けて放つ。
さっきよりも速く、数が多い。
だが―――――。
「そんなもん、効くかよ」
俺は気を溜めておいた腕を振るうと、衝撃波を生み出し、降ってきた光の槍を全て弾き飛ばす。
弾かれた光の槍が周囲に着弾し、弾け飛んだ。
爆風と煙が巻き起こる中、俺はドーナシークの背後に移動して頭を掴む。
「いつの間―――」
そして、ドーナシークが言い切る前にそのまま教会の床に叩き付けた。
叩き付けた所にはドーナシークの血と羽が飛び散る。
「今のはレイナを泣かせた分だ」
ヨロヨロしながら立ち上がるがドーナシークは血まみれでボロボロだ。
「まだ、立てるのか。本当にタフだな、おっさん」
「クソォオオオオオ!」
ほとんど絶叫に近い叫びを上げながら手元に光を集めるドーナシーク。
その光は先程までとは違い、どんどん大きくなっていく。
小技では俺を倒せないと踏んで、自分の全力を放つ気のようだ。
少しすると、ドーナシークの手元にはやつの体の三倍くらいの大きさの槍が出来上がる。
「グオオオオオ!」
ドーナシークはその槍を握って突貫してくる。
多分、これが全力の攻撃なのだろう。
奴の全てを込めた捨て身の攻撃。
だけど――――
「なん、だと…………!?」
俺は槍の先端を掴み、ドーナシークの突貫を軽々と止めて見せた。
まさか、悪魔に成り立ての新人悪魔に自分の全力をこうも簡単に防がれるとは思わなかったのだろう。
ドーナシークは俺と、自身の作り出した光の槍を交互に、何度も視線を移していた。
驚くドーナシークを無視して、俺は握る手に力を入れ光の槍を砕く。
そして、俺は呆然とするドーナシークにボディーブローを放つ!
「ガハッ!!」
骨が砕ける感触と内臓を潰した感触が拳を通して俺に伝わる。
こみあげてきたものを堪えきれなかったドーナシークは口から大量の血を吐き出した。
「これがアーシアを泣かせた分。―――これで終わりだ」
俺はそのまま拳に更に力を込めて、ドーナシークを吹き飛ばす。
勢いよく吹っ飛んだドーナシークは教会のガラスを突き破り、外の木に衝突したところでそこに倒れ伏した。
その後、ドーナシークはピクリとも動くことなく、完全に気を失っていた。
▽
[木場 side]
はぐれ神父と堕天使を片付けた後、僕と小猫ちゃん、そして美羽さんは捕らわれていたシスターことアーシアさんとレイナーレという堕天使を救出した。
正直、悪魔が堕天使を助けるなんて前代未聞のことなんだけど、美羽さんとアーシアさんに懇願されたので助けることにしたんだ。
そして、上で戦っているイッセー君の援護に向かったんだけど…………。
そんなものは必要なかった。
イッセー君は堕天使を圧倒していたからだ。
あの堕天使から感じたオーラは並の堕天使よりもかなりの強者だった。
それをイッセー君は圧倒していた。
それも無傷で。
すると、見知った気配が近づいてきた。
「想像以上ね、彼」
リアス部長だ。
「部長、そちらの方は片付いたのですか?」
「ええ。祐斗と小猫も無事みたいで良かった………って、美羽? 何故ここに?」
「ボクがお兄ちゃんに頼んで連れてきてもらったんです。ボクも友達を助けたくて」
「そう。詳しくは後で聞かせてもらうわ。美羽も無事ね? ケガはない?」
「はい。ボクは大丈夫です」
なんてことを平然として言っているけど、彼女も圧倒的だった。
なにせ、彼女も無傷で堕天使を捕縛しているからね。
「部長、一部の者は捕縛してあります。お任せしても良いですか?」
「了解したわ。朱乃、冥界に送っておいてちょうだい」
朱乃さんはリアス部長の指示を受けて、捕縛した者ところへ向かっていった。
「それにしても、イッセー君はとんでもないですね。彼は一切、神器を使っていませんよ?」
「ええ。だから驚いているのよ。素の状態で上級悪魔を超えているんですもの」
そう、イッセー君の力は明らかに上級悪魔を超えたものだった。
イッセー君、君は一体何者なんだい?
「とにかく、イッセーのところに行きましょう」
リアス部長に言われ、僕達はイッセー君のところに向かった。
[木場 side out]
▽
俺は外に飛んでいったドーナシークを回収して教会に戻った。
ドーナシークは生きているけど瀕死の状態だ。
ここは部長の管轄だからな。
こいつの最終的な処分は部長に任せるつもりだったから一応、死なないように手加減はしたんだけどね。
木場達と合流しようとしていると、アーシアが走ってきた。
「イッセーさん!」
「アーシア、大丈夫だったか?」
「はい! 皆さんが守ってくれましたから!」
「そっか。レイナも無事みたいだな」
「うん。私も助けてもらったから」
二人とも無事みたいだ。
レイナの傷が消えているのはアーシアに治療してもらったからなのだろう。
と、二人の後ろから部長が姿を見せる。
「イッセー、ご苦労様」
「あ、部長。………すいません、先に動いてしまって」
「いいのよ。あなたが無事ならそれで良いわ。………彼が今回の首謀者のようね」
部長がドーナシークを見ながら尋ねてきた。
「ええ。瀕死の状態ですが、一応生きてます。最終的な処分は部長にお任せしようと思いまして」
「そうね。彼は冥界の専門機関に送るわ。本当ならここで消し飛ばしても良いのだけれど、流石に元部下の前で消し飛ばすのは私も気が引けるわ」
そう言って部長はレイナの方を見た。
「部長、レイナは………」
「分かっているわ、イッセー。彼女のことは美羽とそこのシスターさんに聞いたわ。だから、彼女のことは私の方で少し取り調べてから解放するわ。本当なら、こういう処置はしないのだけれど………」
悪魔と堕天使は敵対関係だ。
普通なら、消滅させる、もしくは捕縛するのだろうが………どうやら、俺と美羽の気持ちを考えてくれたらしい。
部長がレイナに話しかける。
「えっと、レイナーレだったかしら?」
「あ、は、はい」
「そう言うわけで、もう少し私達に付き合ってもらうわ。いいわね?」
「は、はい」
「あと、シスターさんについては私の方で保護させてもらうわ。勝手だと思うけど、流石にこういうことがあった以上、放置しておくわけにはいかないもの。ごめんなさいね」
「い、いえ! よろしくお願いします!」
そう言ってペコリと頭を下げるアーシア。
二人の様子に部長はクスクスと笑った。
「二人とも、そんなに堅くならなくてもいいわよ? 確かに私達は悪魔で堕天使とは敵対しているけど、私はそれなりに人を見て判断しているつもりよ?」
「「は、はい!」」
この後、ドーナシークはアーシアに治療された後、冥界の専門機関に送られそこで裁きを受けることになった。
レイナは部長と少しばかり話した後、冥界の堕天使領に戻っていった。
駒王町に残ればいいのでは、と言ってみたけど、今回のことをアザぜル総督に報告しなければならないと言って戻っていった。
ちなみにレイナの連絡先は聞いといたからいつでも連絡は取れるんだ。
まぁ、互いに敵対している勢力に所属している者同士で連絡を取り合うのは問題なのだが………まぁ、その辺りは適当な言い訳を考えておこう。
アーシアは部長に保護されることになり、とりあえず今日は部長の家に泊まることになった。
それから、美羽のことだけど、部員の皆には亡くなった美羽の父親が魔法使いだったと言って誤魔化しておいた。
皆は色々と疑問があったようだけど、詮索はしてこなかったのは正直、助かったよ。
こうして、今回の騒動は収拾がついた。
▽
次の日の朝。
俺は何時ものように松田や元浜と話をしながら授業が始まるのをまっていた。
チャイムが鳴り、席に座ると、教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。
「うーい、席につけー。それから、元浜はエロ本をしまえー」
「はーい」
「それじゃあ、出席をとるー。呼ばれたやつは大きく返事をしろー」
すると、一人の生徒が手を挙げた。
「坂田先生」
「なんだ、志村?」
「先生が持っているのは出席簿じゃなくて今週のジャンプです」
「あ、間違えた」
あ、間違えた、じゃねぇよ!
サイズ全然違うじゃねぇか!
全く、うちの担任は…………。
不真面目にもほどがあるだろう。
それからしばらくして、出席をとり終わると、坂田先生が言う。
「よーし、全員いるな。突然だが、転校生を紹介する。おーい、入ってくれー」
転校生とそう聞かされて賑わう教室。
男子なのか女子なのか、そんな定番の話で盛り上がっていく。
転校生は出来れば女子で!
更に言えば美少女が良いです!
そんなことを考えていると、教室の扉が開いて転校生が入ってきた。
「えっ?」
入ってきた転校生を見て、間の抜けた声を出す俺。
その転校生は見覚えがあったからだ。
というか、昨日も会った!
綺麗な長い金髪にグリーンの瞳の美少女――――アーシアだ!
そう、転校生とはアーシアだった!
ウソだろ!?
なんでここに!?
「じゃあ、自己紹介を頼む」
「えっと、アーシア・アルジェントと申します! 日本に来て日が浅いですが、皆さんと仲良くしたいです!よろしくお願いします!」
「「「「よっしゃあああ!!」」」」
クラスの男子はもうハイテンションだ。
そりゃあ、アーシアは可愛いからな。
事情を知らなければ、俺も同じ反応をしていただろう。
しかし、次にアーシアが発した言葉が驚きの内容で―――――
「それから、私はイッセーさんのお家にホームステイすることになりました。イッセーさん、よろしくお願いします!」
「「「「えええええええええっ!?!?!?」」」」
な、なにぃ!?
そんな話、聞いてないぞ!?
俺は美羽の方を見てみると、美羽はこちらに手のひらを合わせて『ゴメンね』と口パクで謝ってきた。
まさか、美羽は知ってたの!?
ていうか、父さんと母さんに許可は貰ったのかよ!?
いや、俺は全然良いんだけどね!
とりあえず、俺は…………、
「お、おう! よろしくなアーシア!」
と、答えるしかなかった。
休み時間に男子どもから追いかけ回されたのは言うまでもない。
▽
放課後。
俺、美羽、そしてアーシアは部室にいる。
アーシアが家にホームステイする件は昨日、俺達が家に帰った後、部長から美羽に連絡があったらしい。
部長も最初は俺に連絡をしたらしいんだけど、繋がらなかったらしく、美羽に連絡をしたとのこと。
まぁ、俺は帰ってからすぐに寝たからな………うん、しょうがない。
それで、美羽も俺に伝えるのを忘れていたそうだ。
ちなみに父さんと母さんの許可は既に貰っているとのこと。
アーシアの事情を話したら、是非とも家で暮らしてほしいと言っていたそうだ。
「ゴメンね、お兄ちゃん」
「そんなに謝るなって。俺にも非があるみたいだし。それにアーシアが家に来るなんて嬉しいサプライズだよ」
そう言いながら頭を撫でてあげる。
それより、俺には一つ気になることがあった。
「なぁ、アーシア。もしかして、悪魔になった?」
そう、アーシアからは悪魔の気配が感じられて、朝からずっと気になっていた。
「分かるんですか?」
「まぁな。…………部長、アーシアを何で転生させたんですか?」
部長が私利私欲で誰かを無理矢理、眷属にしたとは思えないけど…………。
すると、それにはアーシアが答えた。
「私がお願いしたんです」
「アーシアが?」
「はい。私がイッセーさんと一緒にいたくて、リアスさんに悪魔にしてもらったんです。リアスさんは悪魔になる以外の道も提示してくれました。でも、イッセーさんとずっと一緒にいたくて…………」
うぅ………これは恥ずかしいセリフだ!
アーシアちゃんも大胆だよ!
いや、嬉しいけどね!
「お兄ちゃん…………」
おお!?
美羽が頬を膨らませているんですけど!?
そんなに嫉妬しなくても、俺は美羽だけのお兄ちゃんだよ!
とりあえず、頭を撫でて機嫌を直そう!
「まぁ、そういうわけなの。イッセー、美羽、アーシアのことお願いするわね。アーシアの荷物は明日、お家の方へ届けるわ。あと、私もアーシアの主として挨拶に行くから、ご両親に伝えてもらえるかしら?」
「了解です、部長」
「分かりました。アーシアさん、これからもよろしくね!」
「はい! よろしくお願いします!」
話が纏まったところで、部室の奥から朱乃さんがケーキを持ってきた。
「さて、話も終わったことだし、アーシアの歓迎会を始めるわ。ま、まぁ、歓迎会と言っても私が作ったケーキしかないんだけど…………」
部長は頬を赤らめて照れくさそうに言った。
頬を赤らめた部長、かわいいです!
しかし、手作りケーキか!
部長の手作りが食べられるなんて感激だぜ!
こうして、アーシアは部長の『僧侶』として眷属になり、俺達の新しい仲間になった。
いや、仲間というよりは家族かな?
父さんも母さんも美羽も家族が増えたって喜んでるしな。
もちろん俺もだ。
アーシアが来て、また守りたいものが出来た。
守るってことは大変だけど、それでも守るものがあることは幸せなことだと思うんだ。
とりあえず、第一章は終わりです。
文章表現の悪さに泣きながらも、なんとか書けました!
次回は番外編として、使い魔編を考えています!