[木場 side]
「ヴァーリ、これはまた驚きの登場だな」
ヴァーリの登場に曹操は苦笑する。
フェンリルと入れ代わりでヴァーリが転移してきた・・・・・?
ルフェイさんが魔法の杖で宙に円を描きながら言う。
「フェンリルちゃんとの入れ替わりによる転移方法でヴァーリ様をこちらに呼び寄せました」
やはりそういうことなのか。
ヴァーリが続く。
「フェンリルには俺の代わりにむこうにいる美猴達と英雄派の別動隊と戦ってもらうことにした。こうなることは予想がついていたからな。保険をつけておいて正解だった。――――さて、決着をつけようか、曹操。しかし、ゲオルクと二人だけとは剛胆なものだ」
ルフェイさんが言っていたようにヴァーリはこうなることを初めから読んでいたらしいね。
ヴァーリの言葉に曹操が不敵に笑む。
「剛胆ではないさ。俺とゲオルクだけで十分だと踏んだだけだよ、ヴァーリ」
「強気なものだな、曹操。それは例の『
ヴァーリの言葉に曹操は首を横に振る。
「それは違うな。『龍喰者』とは現存する存在に俺達が付けたコードネームのようなものだ。『龍喰者』とは俺達が作ったわけではなく、すでに作られていたんだよ。――――『聖書に記されし神』によって」
それを聞いたゲオルクが言葉を発する。
「曹操、いいのか?」
「ああ、頃合いだ、ゲオルク。赤龍帝がいないのは残念だが、オーフィスもいる、ヴァーリもいる。それに堕天使総督殿に若手悪魔最強チームがこの場にいる。観客としては十分だ。―――呼ぼう。地獄の釜の蓋を開けるときだ」
「了解だ。――――無限を食うときが来たか」
ゲオルクが口の端を吊り上げ、背後に巨大な魔法陣を出現させる。
その時―――――
ズォォォォォオオオオオ・・・・・・・
ホテル全体が激しく揺れた!
あまりに黒く禍々しいオーラが魔法陣から滲み出していく!
・・・・・なんだ、この心の底から冷え込むような感覚は・・・・・・っ!
見ればアザゼル先生やヴァーリですら、このオーラに冷や汗を流していた。
この二人でさえ、この反応。
これはいったい―――――
魔法陣から巨大な何かがゆっくりと姿を現していく。
それは十字架に磔にされている何者か。
体を強烈なまでに締め上げる拘束具。
それが身体中に施されており、その拘束具には不気味な文字が浮かんでいる。
目にも拘束具がつけられ、隙間から血涙が流れていた。
あれは・・・・・・ドラゴン・・・・・なのか?
上半身は堕天使のように黒い翼があり、下半身は東洋のドラゴンのように細長く、鱗もある。
両手、尾、黒い翼まで。
全身のあらゆるところに無数の大きな釘が打ち込まれている。
・・・・・・まるで、大罪人を縛り付けたような磔の仕方だ。
『オオオオォォォォオオオオオオォォォォォォ・・・・・・』
磔の罪人の口から不気味な声が発せられてロビー全体に響き渡る。
牙が剥き出しになっている口から吐き出された血と唾液がロビーの床に落ちる。
苦しみ、妬み、痛み、恨み。ありとあらゆる負の感情が入り混じったかのような低く苦悶に満ちた声音だった。
先生が目元をひくつかせ、憤怒の形相となっていた。
「・・・・・・こ、こいつは・・・・・。なんてものを持ってきてくれた・・・・・・! コキュートスの封印を解いたのか・・・・・!」
曹操が一歩前に出て、人差し指を立てながら言った。
「―――曰く、『神の毒』―――曰く、『神の悪意』。エデンにいたアダムとイブに知恵の実を食べさせた禁忌の存在。いまは亡き聖書の神が怒りを向けた存在――――神の呪いが未だに渦巻く原初の罪。『龍喰者』サマエル」
『――――っ!!』
その言葉を聞いて、この場の全員が驚愕の表情となった。
サマエル。
その名前は僕も知っている。
蛇に化けアダムとイブに知恵の実を食べるように仕向けたのがサマエルだ。
そのせいでサマエルは聖書の神の怒りに触れた。
また、聖書の神は極度の蛇―――ドラゴン嫌いになる。
教会の書物でドラゴンが悪として描かれているのはここに由縁がある。
神聖であるはずの神の悪意は本来ありえない。
サマエルはそのあり得ない悪意を全てその身に受けた。
「しかし、そいつはドラゴン以外にも影響が出る上にドラゴンを絶滅させかねない理由から、コキュートスの深奥に封じられていたはずだ。サマエルにかけられた神の呪いは究極の龍殺し。それだけにこいつの存在自体が凶悪な龍殺しだからな。・・・・・・・まさか・・・・・・」
先生はそこまで言うとハッとなる。
「おまえら・・・・・冥府を司る神ハーデスと・・・・・・!」
「そう、ハーデス殿と交渉してね。何重もの制限を設けた上でサマエルの召喚を許可してもらったのさ」
「野郎! サマエルの封印については全勢力で意見が一致してただろうが! ゼウスのオッサンが各勢力との協力体制に入ったのがそんなに気にくわなかったのかよッ!」
先生が憎々しげに吐き捨てた。
ハーデスが英雄派に協力したというのか!?
これはどう考えても勢力間に混乱をもたらすほどのことだ!
いくら悪魔と堕天使を嫌っているからといって、こんな真似をするなんて・・・・・!
曹操は聖槍をクルクルと回して矛先を僕達に向ける。
「というわけで、アザゼル殿、ヴァーリ、サマエル持つ呪いはドラゴンを喰らい殺す。サマエルはドラゴンだけは確実に殺せるからだ。龍殺しの聖剣など比ではない。比べるに値しないほどだ。アスカロンなど、サマエルに比べたらつまようじだよ」
龍王を斬り殺す力を秘めているアスカロンですら爪楊枝扱い。
それだけサマエルの龍殺しは凶悪なものということか。
「それを使ってどうするつもりだ!? ドラゴンを絶滅でもさせる気か!?・・・・・いや、お前ら・・・・・オーフィスを・・・・・・?」
先生の問に曹操は口の端を愉快そうに吊り上げた。
そして指を鳴らす。
「―――喰らえ」
ギュンッ!
僕達の横をなにかが高速で通り過ぎていく。
刹那―――バグンッ!
という何かがのみ込まれるような奇怪な音が鳴り響いた。
慌てて振り返ると、オーフィスがいたであろう場所に黒い塊が生まれていた。
その黒い塊には触手の様な物が伸びている。
元をたどればそれは十字架に磔にされているサマエルの口元―――舌が伸びていた。
「おい、オーフィス! 返事をしろ!」
先生が呼びかけるが、オーフィスからの返事はない。
「祐斗! 斬って!」
部長の指示を聞いて、僕は聖魔剣を創りだし黒い塊に斬りかかる。
しかし――――
「っ!」
僕は目を見開き、驚愕の声をあげた。
黒い塊に触れた瞬間、聖魔剣は刃先の部分が失われた。
聖魔剣を消した・・・・・・?
この黒い塊は攻撃をそのまま消し去るのか?
僕は刃先の消えた聖魔剣を消して、新たに聖魔剣を作り出す。
それをもう一度振るうが・・・・・・・結果は同じだった。
斬りかかった部分の刃が消失し、聖魔剣は上下二つに分かれていた。
『Half Dimension!』
ヴァーリが『白龍皇の光翼』を出現させ、その能力を行使する。
周囲の空間が歪んでいき、あらゆるものが半分になっていく。
しかし、黒い塊とサマエルの触手には変化がない。
「これならどうだ?」
それならばと、ヴァーリは手元から強大な魔力の波動を打ち込む。
それでも何事もなかったように黒い塊はそれを飲み込んでいった。
「消滅の魔力ならどう!」
部長が消滅の魔力を放ち、朱乃さんとゼノヴィアがそれに続く。
それでも黒い塊は意にも介さない!
とてつもなく頑強なのか・・・・・・それとも攻撃というものを全てはね除ける力を持っているのか?
ゴクンゴクンと不気味な快音を立て、塊に繋がる触手が盛り上がり、サマエルの口元に運ばれていく。
それはまるで、捕らえたオーフィスから何かを吸い取って喰らっているかのように見えた。
ヴァーリが白い閃光を放ち、鎧姿となる。
「相手はサマエルか。その上、上位神滅具所有者が二人。不足はない」
ヴァーリの一言に黒歌さん達も戦闘態勢に入る。
先生も黄金の鎧を纏い、僕も聖魔剣を新たに造り出す。
部長や朱乃さんも魔力を全身から迸らせるなどと、全員が戦闘態勢に入った。
それを見て、曹操は狂気に彩られた笑みを浮かべる。
「このメンツだとさすがに俺も力を出さないと危ないな。なにせ、ハーデスからは一度しかサマエルの使用を許可してもらえていないんだ。ここで決めないと俺たちの計画は頓挫する。ゲオルク! サマエルの制御を頼む! 俺はこいつらの相手をする」
ゲオルクがサマエルを制御しながら言う。
「一人で白龍皇と堕天使総督、グレモリー眷属を相手にできるか?」
「やってみせるさ。本当ならここに赤龍帝もいる予定だったんだ。それに比べればまだ楽なもんだ」
曹操の持つ聖槍が眩い閃光を放つ。
「―――
力のある言葉を発し、曹操の体に変化が訪れる。
神々しく輝く輪後光が背後に現れ、曹操を囲むようにボウリングの珠ほどの大きさの七つの球体が宙に浮かんで出現した。
曹操が一歩前に出る。
それと共に奴を囲む七つの球体も宙を移動した。
「これが俺の『黄昏の聖槍』の禁手、『
曹操の状態を見て、先生が叫ぶ。
「―――ッ! 亜種か! 『黄昏の聖槍』のいままでの所有者が発現した禁手は『
「俺の場合は転輪聖王の『転』を『天』とさせてもらってるけどね。そっちの方がカッコイイだろう?」
曹操は笑みを浮かべながら槍を肩でトントンと叩く。
最強の神滅具の禁手。
しかも亜種ときたか・・・・・・。
ヴァーリが皆に注意を促すように言う。
「気をつけろ。あの禁手は『七宝』と呼ばれる力を有していて、神器としての能力が七つある。あの球体ひとつひとつに能力が付加されているわけだ」
その言葉を聞いて、全員が驚愕する。
「七つッ!? 二つや三つではなくて!?」
「七つだ。そのどれもが凶悪。といっても俺が知っているのは五つだけだが。だから称されるわけだ、最強の神滅具と。紛れもなく、奴は純粋な人間のなかでは最強だろう。・・・・・そう、人間の中で」
ヴァーリをしてそこまで言うのか・・・・・・。
前回の京都でイッセー君は神器を使えない状態で曹操を退けた。
それでも彼はかなりギリギリだったと教えてくれた。
――――奇襲が上手くいってなければ、やられていたのは自分だろう、と。
しかも、それは神器が使えていても結果は分からなかったとも言っていた。
あれが最強の人間。
最強の神滅具、聖槍の使い手。
曹操が空いている手を前に突きだす。
球体のひとつがそれに呼応して曹操の手の前に出ていく。
「七宝がひとつ。―――輪宝」
そう小さく呟くと、その球体がフッと消え去る。
次の瞬間、ガシャンという何かが砕ける音がロビーに木霊した。
振り返れば―――ゼノヴィアが握るエクス・デュランダルが破壊される様が僕の視界に映りこんだ!
「・・・・・ッ!? エクス・デュランダルが・・・・・っ!」
ゼノヴィアも全く反応できなかったようで、ただ壊れゆく得物を見て驚愕するしかなかった。
錬金術でデュランダルの制御機能としての鞘と化していたエクスカリバーの部分が四散する!
デュランダル本体にも傷が付いているのが見えた!
「―――まずはひとつ。輪宝の能力は武器破壊。これに逆らえるのは相当な手練のみだ」
そう一言漏らす曹操。
次の瞬間―――。
ブバァァァァッ!
ゼノヴィアの体から鮮血が吹き出る。その腹部には穴が空いていた。
「ゴプっ」
口から血を吐き出し、その場に崩れるゼノヴィア!
致命傷なのは誰の目から見てもあきらかだ!
「ついでに転宝を槍状に形態変化させて腹を貫いた。いまのが見えなかったとしたら、君では俺に勝てないよ。デュランダル使い」
曹操の一声を聞き、全員がその場から散開する。
「ゼノヴィアの回復急いで! アーシア!」
部長がすぐさま反応して、アーシアさんに指示を出す。アーシアさんは呆然としていたが、すぐにハッとしてゼノヴィアに駆け寄った。
「ゼノヴィアさん! いやぁぁぁぁぁっ!」
アーシアさんは泣き叫びながら回復を始めた。
くっ・・・・・!
よくもゼノヴィアを・・・・・・!
「許さないよッ!」
僕が聖魔剣を手に突っ込む。
しかし、曹操にそれを聖槍で軽々と捌かれてしまう。
曹操は球体のひとつを手元に引き寄せると――――
「―――女宝」
その球体は高速で部長と朱乃さんのもとへと飛んでいく!
二人は球体に攻撃を加えようとするが――――
「弾けろッ!」
それよりも速く、曹操の言葉に反応して球体が輝きを発した。
それは二人の体を包み込んでいった!
「くっ!」
「こんなものでっ!」
二人は光に包まれながらも攻撃をしようとする。
・・・・・・しかし、二人から攻撃が放たれることはなかった。
二人とも怪訝そうに自分の手元を見て、もう一度手を前に突き出す・・・・・・が、やはり何も起きない!
これは、まさか――――
「女宝は異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。これも相当な手練れでもない限りは無効化できない。―――これで三人」
曹操の発言に、僕達は驚く。
お二人ほどの実力者ですら無効化されたということは、ゼノヴィアやイリナさん、アーシアさんも無効化される可能性が高い。
特にアーシアさんは回復役で今は重傷のゼノヴィアを治療中。
今、アーシアさんを無効化されたらゼノヴィアが・・・・・!
曹操が高笑いをする。
その表情は完璧に戦いを楽しんでいるようだった。
「ふふふ、この限られた空間でキミたち全員を倒す。―――派手な攻撃はサマエルの繊細な操作に悪影響を与えるからな。できるだけ最小の動きだけで、サマエルとゲオルクを死守しながら俺一人で突破する! なんとも高難易度のミッションだッ! だが―――」
まだ言い綴ろうとする曹操に向かって、黄金の鎧と純白の鎧が突っ込む。
「ヴァーリィィィィッ! 俺に合わせろッ!」
「まったく、俺は単独でやりたいところなんだが・・・・・・なッ!」
高速で曹操に近づく先生とヴァーリ。
二人とも瞬時に距離を詰める。
先生の光の槍とヴァーリの魔力の籠った拳が同時に曹操に打ちこまれていく。
「堕天使の総督と白龍皇の競演! これを御することができれば、俺はさらに高みへと昇れるだろうッ!」
嬉々としてその状況を受け入れる!
曹操は二人から高速で撃ちこまれていく攻撃を余裕で避けていた!
あの二人の攻撃を避けるなんて・・・・・・・いや、確か彼は――――
「彼で言うところの
やはり、そうか・・・・・・。
今の曹操は僕達と別の世界を見ている。
イッセー君と同じ次元に曹操は立っているということ。
「邪眼というものをご存知かな? そう、眼に宿る特別な力の事さ。俺もそれを移植してね。赤龍帝にやられ、失ったものをそれで補っている。俺の新しい眼だ」
二人の攻撃を避けきった曹操は、視線を下へと向ける。
次の瞬間、先生の足元が石化していく!
「―――メデューサの眼かッ!」
目の正体に気づき、先生が舌打ちするが―――――
ドズンッ!
曹操は聖槍で黄金の鎧を難なく砕き、先生の腹部に聖槍が突き刺さった。
「・・・・・ぐはっ! ・・・・・・なんだ、こいつのバカげた強さは・・・・・・・ッ!」
先生は口から大量の血を吐き出し、鮮血をまき散らしながら崩れる。
曹操は槍を引き抜きながら言う。
「あなたとは一度戦いましたから、対処はできていました。それに――――領域に入っていない今のあなたでは俺を捉えるのは難しいでしょう。そうだろう、ヴァーリ?」
「アザゼルッ! おのれ、曹操ォォォォォッ!」
激昂したヴァーリが曹操に極大の魔力の塊を打ち出す。
あれが直撃すればいくら曹操でも倒れる。
しかし、その魔力の塊へ球体のひとつが飛来していく。
「―――珠宝、襲い掛かってくる攻撃を他者に受け流す。ヴァーリ、キミの魔力は強大だ。当たれば俺でも死ぬ。防御も難しい。―――だが、受け流す術ならある」
ヴァーリの放った魔力は、球体の前方に生まれた黒い渦に吸い込まれていく。
消えた・・・・・?
今のは敵の攻撃を吸収する能力なのか・・・・・・?
いや、曹操は受け流すと言った。
次の瞬間―――――
ゴパァァァァァァァァァァンッ!
僕の後方で激しい爆発音が響く!
振り向けば、黒歌さんがボロボロの姿で小猫ちゃんを守るようにたっていた!
まさか、今のはヴァーリの攻撃を転移させたのか!?
「・・・・・姉さま。どうして・・・・・ッ!」
「にゃはは・・・・・。私はお姉ちゃんだからね・・・・・・・」
血を吹き出し、煙を上げて倒れていく黒歌さん。
小猫ちゃんはすぐさまその体を抱きしめ、叫んだ。
「・・・・・ね、姉さまッ!」
「曹操―――、俺の手で俺の仲間をやってくれたな・・・・・ッ!」
怒りのオーラを全身にたぎらせるヴァーリ!
ここまで激昂する彼を見たのは初めてだ。
「ヴァーリ、君は仲間を思いすぎる。それが君の弱点なのかもしれないな。と、そういえばこれで七宝の全てを知っているのは君だけになったぞ。良かったな」
「では、こちらも見せようかッ! 我、目覚めるは、覇の理に全てを奪われし―――」
ヴァーリが『覇龍』の呪文を唱え始める!
あれをここで使うのか!
それを察したのか、曹操がゲオルクに叫ぶ。
「ゲオルク! 『覇龍』はこの疑似空間を壊しかねない!」
「わかっているッ! サマエルよ!」
ゲオルクが手を突き出して、魔法陣を展開させる。
すると、それに反応してサマエルの右手の拘束具が解き放たれた!
『オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオオッ』
不気味な声を出しながら、サマエルの右手がヴァーリへと向けられる。
その右手の先にいたヴァーリは黒い何かに包み込まれる!
それはオーフィスを包み込んだ黒い塊みたいだった。
『オオオオォォォォォォォォォォッ』
サマエルが吠えると、黒い塊が勢いよく弾け飛んでいく!
バシュンッ!
弾け飛ぶと共に試算した塊の中からヴァーリが解放される。
――――が、その純白の鎧は塊と共に弾け飛んでいき、体中からも大量の血が飛び散っていく!
「・・・・・ゴハッ!」
ロビーに倒れこむヴァーリ。
そんなヴァーリを見下ろし、曹操は息を吐く。
「どうだ、ヴァーリ? 神の毒の味は? ドラゴンにはたまらない味だろう? ここで『覇龍』になって暴れられてはサマエルの制御に支障をきたすだろうから、これで勘弁してもらおうか。俺は弱っちい人間風情だからな。弱点攻撃しかできないんだ。―――悪いな、ヴァーリ」
「・・・・曹操ッ!」
憎々しげに曹操を見上げるヴァーリ。
「あのオーフィスですら、サマエルの前ではなにもできない。サマエルがオーフィスにとって天敵だった。俺たちの読みは当たってたって事だ」
曹操は肩に槍をトントンとしながら言う。
オーフィスを包み込む黒い塊は未だに何かを吸い上げるように蠢いていた。
その様子を確認しながら曹操は僕達を数えるように指を向けた。
「えーと、これであと何人だ。ヴァーリにアザゼル総督を倒したいま、大きな脅威は無くなったかな。あとは聖魔剣の木場祐斗とミカエルの天使とルフェイと言ったところか」
「・・・・・・」
曹操の圧倒的な力にルフェイさんはどう出て良いのか分からずにいるようだった。
正直、僕もどう攻めれば良いのか分からずにいる。
皆がやられ、僕の中には怒りが渦巻いているが、ここで無闇に飛び出せば僕は一瞬であの槍に貫かれるだろう。
ここは僕のもう一つの禁手で・・・・・・・・。
そう思考を張り巡らせていた時―――――
「よくも! ゼノヴィアを! 私の仲間をっ!」
イリナさんが光の剣を構えて、飛び出していった!
怒りで冷静な判断が出来ていないのか!?
「ダメよ、イリナ! 闇雲に出れば殺される!」
部長が叫ぶがイリナさんは止まらない!
マズい!
僕は慌てて、彼女を止めようと駆け出すがこれでは間に合わない!
曹操は呆れたようにして槍をクルクルと回す。
「やれやれ。これでもう一人減ったか?」
その時
「格上相手に突っ込むのは不味いぞ、イリナ。って、これ前にも言わなかったか?」
イリナさんと曹操の間に突如として入り込む影。
その人物はイリナさんを脇に抱えると僕達の前に着地してくる。
「悪いな、皆。遅くなった」
「イッセー・・・・・・君?」
その人物――――イッセー君に抱えられた状態のイリナさんが小さく声を漏らした。
イッセー君はイリナさんを下ろすと彼女の頭を撫でながら微笑んだ。
「イリナ、ケガないか?―――――随分好き勝手やってくれたみたいだな、曹操」
「ああ。待っていたよ――――赤龍帝」
[木場 side out]