[木場 side]
「すいません、ご心配をおかけしました」
グレモリー場のフロアで、僕は部長達に頭を下げていた。
ジークフリートとの戦闘で瀕死の重症を負った僕は、あの後、部長達に発見されアーシアさんの治療によって助かった。
ただ、血を流しすぎたこともあり、一度グレモリー城へと帰還することになったんだ。
部長が僕の肩に手を置いて首を振る。
「いいのよ。あのジークフリートを倒したのだもの。それにあの周辺にいた旧魔王派はもう大方片付いたから問題ないわ。・・・・・体はもういいのね?」
「はい。問題ありません」
「そう、分かったわ。次は首都に向かうことになったの。準備を整えてくれる?」
「了解しました」
部長の支持を受けて支度しようとした時だった。
すると、こちらに複数の気配が近づいてくる。
「すまない、遅くなったな」
ゼノヴィアとイリナさん、それからレイナさんだ。
ゼノヴィアは布にくるまれた長い獲物を携えていた。
布には魔術文字と天界の文字も刻まれている。
―――布の中身は修復が終わったエクス・デュランダルだろう。
そして、イリナさんも新しい剣を腰に携えていた。
剣からは異様で力強いオーラを感じられる。
・・・・・・あの剣はいったい・・・・・・?
疑問を抱くが、僕はそれよりもとレイナさんに尋ねた。
「レイナさんはアザゼル先生と一緒じゃなかったのかい?」
「総督はサーゼクス様と共に冥府へと向かわれたわ。この機に乗じて冥府の神ハーデスがちょっかいを出さないように監視にね。私は総督の命でこっちに合流しに来たの」
なるほど。
あの疑似空間であれだけの死神を投入してきたんだ。
英雄派と繋がっている件もある。
冥界の危機に横やりを入れてくる可能性は十分にある。
ゼノヴィアが部長に問う。
「部長、イッセーのことは聞いている。まだ戻ってきていないのか?」
「ええ・・・・。だけど、無事だと思うわ。イッセーだもの」
「そうだな。イッセーがそう簡単にやられるものか。今頃私達の胸を恋しがっているだろう。すぐにでも帰ってくるさ」
ゼノヴィアもイッセー君の帰還を信じて疑わないようだ。
胸を恋しがる・・・・・・あり得るね。
イッセー君だもの。
「それで、これからどうするの?」
今度はイリナさんが部長に訊く。
部長はフロアに備え付けられている大型テレビに電源を入れる。
映し出されるのは冥界の各領土で暴れまわる巨大な魔獣達。
そして、『豪獣鬼』相手に善戦する悪魔や同盟関係の戦士達の姿だった。
『ご覧ください! 魔王アジュカ・ベルゼブブ様をはじめとしたベルゼブブ眷属が構築した対抗術式! それによって展開する魔法陣の攻撃が「豪獣鬼」にダメージを与えております!』
上空からレポーターが嬉々としてその様子をレポートする。
どうやらあの堅牢で凶悪な魔獣達もアジュカ・ベルゼブブ様とその眷属によって構成された術式プログラムに足を止め、ダメージを蓄積させているようだ。
『大怪獣対レヴィアたんなのよ!』
チャンネルが移り変わり、次に画面に映ったのはセラフォルー・レヴィアタン様だった。
・・・・・・確か、魔王様は出撃を控えることになっていたはずでは?
この状況に英雄派、特にあの曹操が絡んでくることを考え、魔王や各勢力の神仏は出撃を控えることになっていたはずだ。
いずれかの勢力のトップ陣、そのうちの一人でも聖槍に貫かれでもすれば大事だからね。
「冥界の危機にいてもたってもいられなくなって、眷属を連れて魔王領を飛び出してしまったそうよ」
部長が嘆息しながら教えてくれた。
・・・・・ハハハ、あの方らしいと感じてしまうよ。
極大ともいえる氷の魔力が画面いっぱいに広がり、広大な荒れ地が全て氷の世界と化していった。
セラフォルー・レヴィアタン様の得意魔力だ。
むろん、『豪獣鬼』も無事に済むはずもなく、半身以上が氷ついて身動きが取れなくなっていた。
これが魔王レヴィアタンの力・・・・・・魔力のスケールが桁違いだ。
別のチャンネルではタンニーン様が眷属のドラゴン達と共に『豪獣鬼』の一体を追い詰めているところだった。
対抗術式を得た今となっては、魔王級と称されるあの方の火炎には耐えられないだろう。
『母上! 頑張って下されー!』
更にチャンネルを変えると九尾の狐が『豪獣鬼』に強大な火炎をくらわせているところだった。
あれは―――――京都の八坂さん!
その背には巫女服を着た九重ちゃん。
八坂さん達が多くの妖怪を引き連れて大暴れしていた。
京都の妖怪勢力も冥界の危機に駆け付けてくれていたようだ。
イッセー君がこれを知れば喜ぶだろうね。
『あーっと! ついに! ついに巨大魔獣「豪獣鬼」の一体が活動を停止させました!』
レポーターの実況がテレビを通して聞こえてくる。
画面に映るのはその巨体を破壊尽くされた人型の『豪獣鬼』。
再生する様子もなく地に倒れ伏していた。
そしてその近くに佇むのは三名の女性。
最初に『豪獣鬼』を仕留めたのは美羽さん達だった!
以前、ティアマットがアジュカ・ベルゼブブ様とは面識があると言っていた。
おそらく、それで対抗術式を手に入れたのだろうけど・・・・・。
まさか三人であの『豪獣鬼』を倒してしまうとは・・・・。
イッセー君が上級悪魔になったとして、美羽さんとアリスさんは彼の眷属入りを果たすだろう。
そうなった場合、それだけで戦力的にレーティングゲームのトップクラス並みのチームになってしまうような・・・・・気のせいかな?
部長もテレビに映し出される映像に唸っていた。
「流石としか言いようがないわね・・・・。だけど、この様子ではあと半日もしないうちに他の『豪獣鬼』についても片が付きそうね。問題は―――――」
「残る問題は魔王領の首都に向かう『超獣鬼』でしょうね」
―――――っ!
聞き覚えのある声が後方から聞こえてくる。
振り返ればそこにいたのはヴァルキリーの鎧姿のロスヴァイセさんだった!
「ロスヴァイセ!」
「ただ今戻りました、リアスさん」
北欧から戻ってきてくれたのか!
ロスヴァイセさんが真剣な面持ちで言う。
「イッセー君のことは聞きました。まぁ、彼がそう簡単に命を落とすとは思えませんし、皆さんの胸を求めてそろそろ帰ってくるかもしれませんね」
・・・・・ロスヴァイセさんにも言われているよ、イッセー君。
グレモリー眷属女子、いや・・・・オカ研女子部員全員がそう思っているのかもしれない。
まぁ・・・僕もそう思うけど。
ジークフリートからシャルバがサマエルの血を塗った矢を持っていたという情報を聞かされ、不安には思ったけど・・・・・彼がその矢を身に受けるはずもない。
イッセー君は戦闘時において一切の油断をしないからね。
となると、イッセー君が帰ってこれなかった理由が気になるね。
一体どんなアクシデントがあったというのだろうか・・・・?
とにかく、後はグリゴリの研究施設へと向かったギャスパー君が戻ってきてくれれば全員集合となる。
ギャスパー君はまだ研究施設にいるのかな?
「皆様! 大変ですわ!」
フロアにパタパタと駆け寄ってくるのはレイヴェルさんだった。
皆の分のお茶を取りに行ってくれていたみたいだけど・・・・・
彼女は険しい表情で報告してくる。
「・・・・首都で活動中のシトリー眷属の皆さんが都民の避難の護衛をしている途中で・・・・・『禍の団』の構成員と戦闘に入ったそうです!」
――――――っ!
その報告を訊いて全員の表情が引き締まる。
部長は僕達を見渡して一言
「―――――行きましょう」
▽
魔王領にある首都――――――――リリス。
高層ビルが立ち並び交通機関も発達した冥界の大都市である。
この大都市に規格外の魔獣『超獣鬼』が接近しつつある。
もし到達すれば首都は壊滅的な打撃を受け、その機能を失うだろう。
そうなれば、冥界の各所に影響が出るのは必然だ。
現在、ルシファー眷属―――――――グレイフィア様を始めとするサーゼクス様のご眷属方が『超獣鬼』の相手をしており、いまのところ足止めには成功しているそうだ。
ニュースで初めて拝見したが、グレイフィア様の放った魔力の波動は想像を絶する規模であり、地形そのものを消し飛ばしてしまうほどの破壊力だった。
魔王セラフォルー・レヴィアタン様と肩を並べる唯一の女性悪魔、『銀髪の殲滅女王』。
そして、魔王サーゼクス・ルシファーの妻。
部長がお義姉さまに畏敬の念を抱かれるのは当然なのだろう。
だが、そのグレイフィア様が率いるルシファー眷属でも決定打を与えるには至っていないという・・・・。
いったい、どれほどの怨恨を込めればあのような怪物が生まれるのか・・・・・。
しかし、ルシファー眷属の足止めのおかげで、都民の避難はほぼ完了しているとのこと。
シトリー眷属や他の若手悪魔は逃げ遅れた人がいないかの確認に回り、サイラオーグ・バアルは首都で暴れている旧魔王派を相手にしていると聞いている。
僕達グレモリー眷属とイリナさん、レイナさんは美羽さん達に連絡を入れた後、グレモリー城の地下にある大型転移魔法陣で首都の北西区画にある高層ビルの屋上に転移してきたところだった。
美羽さん達はそのまま『超獣鬼』の討伐へ向かうそうだ。
彼女達がルシファー眷属と共闘してくれるのならこちらも心強い。
レイヴェルさんはグレモリー城に置いてきた。
彼女は本来客分、戦闘に介入させるわけにはいかない。
・・・・まぁ、美羽さん達はどうなのだと聞かれると悩んでしまうけどね。
使い魔であるティアマットはともかく、美羽さんとアリスさんは・・・・・イッセー君の親族、関係者・・・・将来の眷属候補・・・・・?
すでに戦闘に介入している今となっては言っても仕方のないことだけれど・・・・・。
とにかくレイヴェルさんは残ることを承諾してくれている。
役に立てないことを心底残念がっていたが、こちらの言い分を素直に呑み込んでくれた。
「まずはソーナ達のところに向かうわ」
部長の言葉に頷き、この場から移動しようとした時だった。
僕達を呼び止める者がいた。
「み、皆さん! よ、よかった!」
それはギャスパー君だった!
「ここにいれば皆さんと合流できると堕天使の方々に言われていたんですけど、なかなか来なくて・・・・寂しかったけど会えてよかったですぅ!」
涙目のギャスパー君。
彼ともようやく合流できた。
あとはイッセー君だけだ。
彼が戻ってきてくれればグレモリー眷属は全員揃う!
「ギャスパー、トレーニングの成果、期待してるわよ」
部長がギャスパー君の肩に手を置いてそう言うが・・・・・・ギャスパー君は伏し目がちで顔色が悪かった。
「・・・・・は、はい・・・期待に添えるように頑張りますぅ。・・・・・あれ? イッセー先輩は?」
ギャスパー君はこの場にいないイッセー君をキョロキョロと探し始める。
ギャスパー君にはまだ伝わっていないのか・・・・・・?
「イッセーは――――」
部長がイッセー君のことを伝えようとした時だった。
「あれ!」
小猫ちゃんがとある方向を指差す。
その方向に視線を送ると遠目に黒い巨大なドラゴンが黒炎を巻き上げて暴れている様子が確認できる!
あれは――――匙君だ!
龍王化するほどの相手と戦っているということか!
全員がそれを確認すると、そのまま翼を広げて現場へと急行した。
▽
僕達が辿り着いた場所は広い車道で道の両隣には高層ビルが建ち並んでいた。
しかし、そこは既に戦場と化しており、建物や道路、公共物に至るまで大きく破損していた。
周囲には火の手が上がっている。
人の気配が感じられないのが幸いと言ったところだ。
この様子を見るにこの区域の避難もほぼ完了しているようだった。
「リアス先輩!」
聞き覚えのある声に引かれてそちらを振り向くと横転した一台のバスを守るようにして囲むシトリー眷属女性陣の姿があった。
――――バスの中には大勢の子供達。
僕はバスを守るシトリー眷属の一人、『騎士』の巡さんに尋ねた。
「巡さん、これはいったい・・・・・・」
すると、巡さんは涙交じりに答えた。
「このバスを先導している時に英雄派と出くわして・・・・・。相手はこちらを確認すると突然攻撃を・・・・・・! 衝撃を受けてバスが横転してしまったので、ここで応戦するしかなくて・・・・・・会長と副会長と、元ちゃんが・・・・・・っ!」
『っ!』
その報告に僕達の間に緊張が走る。
英雄派の構成員!
匙君が龍王化してまで戦う相手となると―――――
「あれを!」
ロスヴァイセさんが叫び、とある方向を指差した。
その方向に視線を送ると・・・・・・・血塗れの匙君の喉元を掴む英雄派のヘラクレスの姿が!
その近くではソーナ会長が路面に横たわっており、真羅副会長は英雄派のジャンヌと交戦していた!
ヘラクレスは匙君を放り捨てると、倒れているソーナ会長の背中を踏みつける。
「ぐうっ!」
悲鳴をあげるソーナ会長!
倒れた女性を踏みつけるなんて!
ヘラクレスはソーナ会長と匙君を見て嘲笑う。
「んだよ、レーティングゲームで大公に勝ったっていうから期待してたのによ。こんなもんかよ」
「ふざけないでっ! 子供の乗ったバスばかり狙ってきたくせに! それを庇うために会長も匙も・・・・・!」
真羅副会長が涙を流しながら激昂していた。
普段、会長よりもクールな真羅先輩。
その真羅先輩がここまで感情を表に出す・・・・・・よほど悔しかったのだろう。
そして、その理由が英雄派が子供達が乗っているバスを狙ってきたから・・・・・・。
そんな卑怯なことをして会長と匙君を攻撃したというのか・・・・・・!
そんなことをされては僕も我慢は出来ない・・・・・!
「魔剣創造・・・・・・ッ!」
「「っ!」」
僕がヘラクレスとジャンヌの方に手をかざすと、二人の足元から大量の聖魔剣が咲き乱れる。
ヘラクレスとジャンヌが咄嗟に大きく後退したので、傷を負わせることが出来なかったが、それでも匙君達から引き離すことが出来た。
そして、僕は一振りの剣を抜き放ち、匙君達とヘラクレス達の間に立つ。
ジャンヌが僕の得物を見て仰天する。
「・・・・・グラム!? それにその腰の魔剣・・・・・・!」
「ああ、僕が倒した。このグラムを含め、彼の持っていた魔剣は僕を新しい主に選んだらしい」
僕の腰にはグラムとジークフリートが持っていた全ての魔剣が鞘に収まっている。
彼を倒し気絶した僕だったが、目が覚めると僕の周囲の地面に彼の魔剣全てが突き刺さっていたんだ。
始めは何事かと驚きもしたが、握ってみてすぐに分かった。
この魔剣達は僕を新しいマスターに選んだのだと。
正直、未だに驚きはあるよ。
「へっ! こんな奴に負けるなんてよ! あいつもたかが知れていたってわけだ!」
ヘラクレスは彼を嘲笑うだけだった。
どうやら、彼らの間では仲間意識みたいなものは薄いらしい。
「侮るなヘラクレス。相手を過小評価するのはおまえの悪い癖だ」
ヘラクレス達の後方に霧が発生し一人の男性が現れる。
霧使いのゲオルクだ。
ゲオルクはこちらに視線を送ると嘆息する。
「そうか・・・・・ジークフリートまでやられたか。グレモリー眷属にこれ以上関わると全滅しかねないな」
ジークフリートまで・・・・・・?
もしかして、例の『魔獣創造』の少年は再起不能となったのだろうか?
あの疑似空間でシャルバ・ベルゼブブに無茶な術をかけられていたようだしね。
ゲオルクは僕の後方、部長達に保護を受けている匙君に視線を移すと忌々しそうに言う。
「ヴリトラめ。思ったよりも黒炎の解呪に手間取ったぞ。呪いや縛りに長けた能力は伝説通りか」
「はっ! 未成熟とはいえ、龍王の一角をやっちまうなんてな! 流石は神滅具所有者ってところか!」
ヘラクレスはゲオルクを称賛した。
どうやら、ゲオルクが中心となって匙君を打ち倒したようだ。
魔法に長け、神滅具所有者が戦闘の中心となったのなら、龍王の匙君がやられたのも納得できる。
・・・・・・それ以前に子供の乗るバスを狙ってきたのもあったようだが。
「しっかりしてください!」
アーシアさんが会長と匙君に緑色の淡いオーラを当てていく。
二人の体をオーラが包み込み、傷が塞がっていった。
「・・・・・子供が大事に握りしめてたんだ・・・・・おっぱいドラゴンの人形を・・・・・・・ここで、あの子達に何かあったら・・・・・・俺は・・・・・・あいつの背中を二度と追いかけられなくなる・・・・・・」
治療を受けながら匙君はそう漏らした。
匙君・・・・・君は・・・・・・・!
僕は匙君の想いを聞き、真羅副会長に言った。
「ここは僕達がやります。副会長は子供達の避難をお願いします」
「けれど・・・・・」
「お願いします。あなた達が受けた分は僕達が返しますから。匙君やあなたの想いはしっかりと受け取りました」
「・・・・・・木場君・・・・・わかりました」
真羅副会長は頷く後退し、バスの方へと向かっていった。
これでいい。
これで子供達は安全だろう。
―――――あとは彼らを斬るだけだ。
「木場くんが副会長さんにイケメン力を発揮しているわ! イッセー君のこと言えないわね!」
イリナさんが何やら嬉しそうにはしゃいでいるけど・・・・・これはスルーしよう。
ゲオルクはしばし僕を観察するように見た後、目を細めた。
「・・・・・前回見たときよりも身に纏う雰囲気が違うな。ジークフリートを倒したのはその力だろうが・・・・・・何をした、リアス・グレモリーのナイトよ」
「僕の中に眠っていた可能性が目覚めたと言っておこう。・・・・・それとも、今この場で見せようか? 卑怯な手で仲間をやられて、怒りが爆発しそうなんだ。今にも君達を斬ってしまいそうだ」
「なるほど・・・・・それは興味深いな」
ゲオルクは笑みを浮かべた。
僕が手元に聖魔剣を一振り造りだし、逆手に持って前に突きだす。
既に目の前の者達を斬ってしまいたいが・・・・・・その前に聞きたいことがある。
「なぜ、あのバスを狙った? そして、なぜこの首都リリスにいるんだい?」
子供達を狙う理由が分からなかった。
旧魔王派の者ならともかく、彼らが態々あのバスだけを狙うなんて考えられない。
そして、どうしてこの都市にいるのか。
ジークフリートはアジュカ・ベルゼブブ様との同盟に失敗してその帰りだと言っていたが・・・・・・。
まさかと思うが、この都市のどこかに隠れ家があるのだろうか?
僕の問いにゲオルクが答える。
「まず後者から答えよう。といっても単なる見学だ」
「見学?」
僕が聞き返すとゲオルクは頷いた。
「そう見学だ。曹操があの超巨大魔獣がどこまで攻め込むことが出来るのか、その目で見てみたいというのでね」
つまりは曹操の付き添いということか。
・・・・・・その肝心の曹操の姿が見えないのが気になるが・・・・・・どこかで高みの見物でもしているのだろうか?
「では、なぜバスを狙った?」
再度訊く。
この都市にいる理由は分かった。
では、前者は・・・・・・・
「偶然、そのバスと出くわしてな。そうしたら、ヴリトラの匙元士郎とシトリー眷属も乗っていたのだ。あちらもこちらの顔は知っている。出会ってしまえば相対するのは自然の流れだろう?」
・・・・・偶然の相対だと言うのか?
確かにその流れで出会ってしまえば戦闘に入ってしまうのは理解できるが・・・・・・。
しかし、ヘラクレスは挑戦的な笑みを見せる。
「俺が煽ったってのもあるぜ? 魔獣の都市侵略の見学だけじゃ、物足りなくなってな。『子供を狙われたくなけりゃ、戦え』って言ったんだよ。んで、戦闘開始ってわけだ」
「私は止めておけばって言ったんだけどねー」
「そんなこと言ったか?」
「あら、言ってなかった? まぁ、どっちでもいいじゃない」
そう言うとジャンヌとヘラクレスは面白そうに笑う。
・・・・・そんなふざけた理由で戦いを始めたというかのか・・・・・
・・・・・匙君はそれを受けて、子供達を守るために・・・・・!
「――――君達に英雄を名乗る資格はない」
僕の中で怒りの感情が最高潮に高まっていく。
そんな卑怯なことをする者が英雄?
ふざけるな・・・・・・
僕が・・・・・・僕達が知っている英雄は断じてそんなことはしない!
――――僕の体を聖魔剣から漏れ出た黒と白のオーラが覆う
服装が黒を基調としたコートへと代わり、聖魔剣は日本刀のような形状へと変化する。
静かで濃密なオーラが僕を包み込み、聖と魔、相反する力が同時に膨れあがった。
新たな聖魔剣を振り、吹き荒れる風を断ち切る――――――――
「禁手第二階層――――『双覇の騎士王』。君達は纏めて僕が相手をしよう。全員、一人残らず斬り捨てる」
僕が切っ先を彼らへと向けた時だった。
「俺も混ぜてもらおうか」
そう言いながら、対峙する僕達の間に現れる男。
その男は金色の体毛に包まれた巨大な獅子を従えていた。
「英雄派は異形との戦いを望む英雄の集まりと聞いていたが、どうやらただの外道がいたらしい。あの巨漢の男は俺が貰うぞ、木場祐斗」
己の体術だけで僕とゼノヴィア、ロスヴァイセさんを倒し、あのイッセー君とも真正面から殴りあった男―――――。
サイラオーグ・バアルの登場だった。
[木場 side out]