ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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前編・後編の2話構成にしようかと思っていたんですが、3話構成になってしまいました。

しかも、後編が思ったより長くなってしまいました(苦笑)


番外編 ミリキャス君の見学会 後編

そのまま風呂を上がって着替えた俺とミリキャスはルシファー眷属の人達を連れてリビングに戻った。

 

一番驚いていたのはリアスだ。

 

「総司! それに皆もこちらに来ていたのね!」

 

総司と呼ばれた羽織の男性は柔和な笑みを浮かべていた。

 

「これは姫。お久しゅうございます。我々もミリキャス様の護衛をと思いまして」

 

男性の視線は次に木場へと移る。

 

「祐斗も元気そうで何よりです」

 

「夏以来です、お師匠さま」

 

木場も姿勢を正してそう返した。

 

この人はサーゼクスさんの『騎士』の沖田総司さんだ。

本物の一番隊組長さん。

歴史上の人物、超有名人だ!

 

沖田さんは『超獣鬼』の時にアリスと共にあのぶっとい足を両断していた。

あのスピードは今でもよく覚えてる。

 

魔獣騒動の後にもしやと思って木場に尋ねてみたら、本当に木場の師匠だってんだから驚くしかなかったな。

 

「ハハハハ! ひっさしぶりだなぁ、姫さん」

 

「姫に無礼ですよセカンド。リアス姫、ご機嫌麗しゅうございます。また一段とお綺麗になられましたな」

 

豪快に笑う巨躯の男性とエレガントに会釈する紅色のローブに身を包む男性。

 

野性的なオーラを纏う巨躯の男性に対してローブの男性はとても静かなものだ。

二人とも纏うオーラがまるで逆。

 

共通しているのはどちらもとてつもない実力者だということか。

 

「セカンドもマグレガーも来ていたのね。お兄さまの眷属が揃って集まるなんて珍しいわね。有事の時以外にはそうそう集まらないというのに。それに、ミリキャスの護衛でもこれは大袈裟よ」

 

うんうん、リアスの言う通りだ。

なんで冥界最強のルシファー眷属が家に集まってるの?

 

セカンドと呼ばれた巨漢は持っていた酒瓶を一気に煽ると、口から息を吐くように火を噴き出す!

息と共に火がでやがった!

 

つーか、家で火を吐かないで!

火事になるでしょーが!

 

「なーに、この間の騒動の後で『たまには眷属でどっかに行くか』って話になってよ。坊っちゃんの護衛ついでに姫さんの顔を見にきたってわけよ。炎駒とバハムートは別件で来れなかったけどな」

 

なるほどなるほど。

ミリキャスの護衛とリアスの顔を見にきたってことね。

 

なんか旅行感覚で家に集まられているような気もするんだが・・・・・・・気のせいだろうか?

 

まぁ、別にいいけどさ。

 

「皆、改めて紹介するわね」

 

リアスはそう言うと紹介を始める。

まずは沖田さんだ。

 

「こちらが兄の唯一の『騎士』沖田総司。祐斗の剣の師でもあるの。皆も新撰組で知っているわよね?」

 

「え、ええ! やっぱり、歴史上の方・・・・・ですよね?」

 

リアスの紹介にイリナが驚愕する。

当然の反応だろうな。

だって、新撰組だもん。

 

イリナの驚きの声に沖田さんが微笑んだ。

 

「ええ、そうですよ。当時は病で戦線を離脱していましてね。なんとか死を回避するために様々な儀式に手を出していたら、サーゼクス様を呼び出してしまったのですよ。その時は黒猫の格好をされていましたね」

 

黒猫って・・・・・・。

なぜにその姿で召喚に応じたんですか、サーゼクスさん!?

お茶目か!

 

「それで魔の儀式を繰り返していたら、総司さんの体は魔物の巣窟になっていたのですよ」

 

ローブの男性がそう付け加えた。

 

すると、沖田さんの背後に猿の顔、手足が虎で尾が蛇という大きな魔物が現れた。

 

こいつは合成獣、キメラか!

 

「これは鵺という妖怪です。こういう風に私の体には数多くの妖怪が巣くってしまいまして。一人百鬼夜行が出来るようになってしまったのです」

 

沖田さんは妖怪の頭を撫でながら言うが・・・・・・。

一人百鬼夜行って、それまたとんでもないものを・・・・・。

 

「ゆえに『騎士』の駒が二個必要だったのでしょう。超獣鬼が産み出していた小型のモンスターを相手にしていたのが総司さんの妖怪達なのです」

 

と、ローブの男性が更に説明をくれた。

 

はぁー、そいつは凄いもんだな。

一人百鬼夜行も凄いけど、剣の腕も達人級みたいだ。

 

次にリアスが紹介したのは先程から色々と説明をくれていたあのローブの男性。

金髪と黒髪が混じった長髪でウェーブがかかっているのが特徴的だ。

 

「彼はマグレガー。マグレガー・メイザースよ。お兄さまの『僧侶』よ。近代西洋魔術の使い手にして、かの『黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)』の設立者の一人よ」

 

その説明にアーシア達教会トリオとロスヴァイセさんはかなり驚いていた。

 

「わ、私、教会で習いましたよ!」

 

「魔術関係の偉人じゃないか!」

 

「うんうん、魔法を使う人にとってはすんごい有名だわ!」

 

「まさか、かの有名な・・・・・・。一度魔法についてじっくりお話ししてみたいですね」

 

などと言っているが・・・・・・・俺は上級悪魔の試験勉強の時に見かけたくらいか。

 

『黄金の夜明け団』という名前だけは覚えてるけど、詳細は知らないんだよね。

 

俺の反応にマグレガーさんは笑む。

 

「ふふっ、若君はあまり知らないようですね」

 

「すいません、試験勉強で名前を覚えたくらいなもので・・・・・」

 

「かまいませんよ。凄い魔法使い程度の認識でOKです」

 

凄い魔法使い程度じゃないと思いますけど・・・・・・。

 

俺がそんな風に思っているとマグレガーさんの視線は美羽に移った。

 

「あなたは若君の妹、美羽さんでしたね。若君の『僧侶』になられたとか」

 

「あ、はい。兄の『僧侶』として転生しました」

 

「先日の魔獣騒動の際にあなたの魔法を拝見しましたが、どれもが見たこともない術式で大変興味深いものばかりでした。もしよろしければ、あなたの魔法について教えていただきたいのですが」

 

おおっ、美羽がマグレガーさんに教えを請われてる!

 

そもそも美羽の魔法ってこの世界のものじゃないしね。

マグレガーさんが見たことがないのも当然だろう。

 

「わかりました。それで、代わりと言ってはなんですけど・・・・・マグレガーさんの魔法をボクに教えてくれますか? ボクもあなたの魔法には興味があって」

 

「もちろんかまいませんよ。ここは悪魔らしく等価交換といきましょう」

 

どうやら二人の交渉は成立したらしい。

 

二人とも魔法に関してはずば抜けてるから凄い議論をしそうだ。

 

最後の紹介となるのは巨躯の男性。

 

ガハハと豪快に笑いながら自身を親指で指しながら大きな声で言い放つ。

 

「さーて、俺の番だな! 俺はサーゼクスの旦那の『戦車』が一人、スルト・セカンドさまだ! さー、戦け! 跪け! なんてな! ガハハハッ!」

 

見た目通りに豪快な人だな!

元気の良いおっさんなことで!

 

リアスが苦笑しながら紹介をしだす。

 

「セカンドは行った北欧神話の炎の巨人スルトのコピー体なの。ラグナロクの折、巨人の大隊を引き連れて世界樹ユグドラシルに火をつけると予言されているあのスルトのね」

 

スルトか。

名前ぐらいは知っている。

ロキとの一戦の後に北欧神話の勉強も少ししたからな。

 

それのコピーってことは、いわゆるクローン的なものなんだろうか?

 

「北欧の神々がスルトのコピー体を作ったのは良かったのですが、コピー体が暴走しましてね。手がつけられなくなってそのまま放り出したそうなのです。そこにサーゼクス様が現れまして、ご自身が手にしていた『戦車』の『変異の駒』で眷属にされたそうなのですよ。コピー体ゆえに『セカンド』と呼ばれています」

 

サーゼクスさんの駒で、『戦車』の『変異の駒』!

どんだけの潜在能力をもってるんだ!?

 

その情報に驚く俺だが、セカンドさんはため息と共に火を噴いたあと話し出す。

 

「北欧のクソ野郎共に捨てられて、己の炎で燃え尽きそうになってた俺をサーゼクスの旦那が救ってくれたのさ。おかげで俺は炎の扱いも覚え、今では冥界最強の『戦車』として旦那についていくことができているんだがな!」

 

セカンドさんの表情と言葉からはサーゼクスさんへの敬愛が強く感じられた。

自身を救ってくれた主に対して感謝の念が尽きないんだろう。

 

マグレガーさんは苦笑する。

 

「その最強の『戦車』も超獣鬼との戦いで開幕直後に巨大化して無駄に力を使ったあげくガス欠となり、終盤戦では活躍しませんでしたけどね。超獣鬼が悪魔にとって桁違いのアンチモンスターであり、強力な再生能力を有していることを事前に説明したというのに・・・・・・。アジュカ様の対抗術式が届いてから一気に畳み掛ければあれほど倒すのに時間を要することはなかったでしょうに。あなたの本気の炎で燃え尽きぬ者などいないのですからね。まぁ、失敗しなければの話ですが」

 

長々とため息交じりに文句を口にする。

 

あのメンツで苦戦していたのはそういう背景があったのね。

 

 

デッデデーン!

 

 

「燃え尽きないものがいない・・・・・・。いいわね! それじゃあ、私の炎とどちらが強力か勝負よ!」

 

軽快な音楽と共にテンション高めの声が聞こえてくる。

 

そちらを向くとラジオを側に置いたイグニスが変なポーズを決めていた。

 

「我が名はイグニス! 真焱を司りし原初の女神!」

 

「何やってんだおまえ」

 

そんなイグニスにすかさずツッコミをいれる俺。

 

イグニスはというと、更にポーズを変えて言った。

 

「アニメで見て一度やってみたかったの。それに炎を話題に出すなら私でしょう? 最強の炎を見せてあげるわ!」

 

「やめなさい」

 

「イテッ」

 

俺はその一言と共にイグニスの頭にチョップを入れてやった。

 

そんな対抗意識燃やさなくていいって。

 

つーか、あんたが本気になったら辺り一帯が焼け野原になるだろ!

それこそ、何もかもが燃え尽きるわ!

あんたは存在そのものがチートなんだから!

 

はぁ・・・・・・まったく、うちの駄女神は・・・・・・。

 

もう少し女神っぽく出来ないもんかね?

まぁ、こっちの方が接しやすいと言えばそうだけどさ。

 

何にしてもとんでもないメンバーがルシファー眷属にいるってことか。

最強の『女王』に最強の『戦車』もいるし、それ以外のメンバーも強力だ。

しかも全体的にバランスがいい。

 

そんなことを思っているとリアスは誰かを探すように見渡した。

 

「そういえば、ベオウルフは? やはり今回は三人だけなの?」

 

その言葉を聞いて、沖田さん、セカンドさん、マグレガーさんはきょとんとするが、思い出したかのように「あー、そういえば」と一様に口にする。

 

「あー、あいつはー」

 

セカンドさんがそこまで言いかけたときだった。

 

 

バタンッ!

 

 

と、リビングの扉が大きく開け放たれた。

 

何事かと思い、そちらに視線を送ると―――――そこには少し息を上げた茶髪の男性がいた。

二十代くらいだろうか?

スーツを着ている。

 

「やっと追い付いたー! ひでーよ、皆! 俺を置いて先に行くなんてよ!」

 

「おっせーよ、ベオ」

 

「何言ってんスか! セカンドさんが俺にあれ持てこれ持て、あれ送れこれも送れって俺に日本のお土産を冥界に送らせてたからでしょうが!」

 

ぼやくセカンドさんに不満をぶつけるベオと呼ばれた男性。

 

例のごとくマグレガーさんが説明をくれる。

 

「彼がサーゼクス様の『兵士』の一人、ベオウルフです。サーゼクス様に戦いを挑んで惨敗し、そのまま頼み込んで眷属になった英雄ベオウルフの子孫です」

 

「短い! 俺の紹介短すぎないっスか!? ってか、皆は若さんにもうしたのかよ!?」

 

「てめぇが遅いからもう済んじまったよ。つーか、背広なんざ堅苦しいもん着てきやがって」

 

セカンドさんの一言にベオウルフさんは涙目で訴える。

 

「なんだよ! 俺の登場ぐらい待ってくれてもいいじゃん! 同じ『兵士』の先輩として若さんに格好良いところ見せたいのはわかるでしょ!? 第一印象は大事だからスーツだって新調したんスよ!」

 

「ベオ、若君は既に上級悪魔、『王』になられたのですよ? これからは『兵士』よりも『王』としての生き方の方が重要になってくるでしょう」

 

「あぁぁぁぁぁ!! そういえば、そうだったぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

マグレガーさんの一言に頭を抱えて叫ぶベオウルフさん。

 

そんなベオウルフさんを無視してセカンドさんが俺に言う。

 

「おう、若。あいつが俺達のパシリだ。若も存分に酷使してくれ」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

パ、パシリっすか・・・・・。

なんつー扱い受けてんだよ・・・・・・・。

 

ってか、今更だけど俺はグレモリー関係者にとっては『若』なのね。

前はその理由が分からなかったけど、今では何となく分かってしまう自分に驚きだ。

 

リアスが小さく笑いながら俺に言う。

 

「ベオウルフは軽そうに見えるけど、実際は冥界の『兵士』の中でも五指に入るほどの強者よ。何せ転生前、お兄さまに手傷を負わせたほどだもの」

 

『兵士』の中で五指に入る!

やっぱり相当な手練れなんだな!

うーん、人って見かけによらないよね!

 

「腕をちょっと斬っただけですよ。それに若君の方が強いでしょう」

 

「んだよ! せっかく姫さまが良いこと言ってくれたのにぃ! 俺のイメージをこれ以上悪くしないで!」

 

マグレガーさんの一言に涙目になるベオウルフさん。

 

なんだか賑やかな人だな。

まぁ、この場のルシファー眷属全員にそれは当てはまるような気もするけど。

 

「ま、まぁ、俺はリアスの『兵士』でもあるんで、『兵士』の先輩としてアドバイスはもらうこともあると思いますよ?」

 

「うぉぉぉぉ! 流石は若さんだ! この人でなし達とは違って優しいぜ! うんうん! 『兵士』のことで聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ! 力になるから!」

 

俺が苦笑しながらそう言うとベオウルフさんは感涙を流しながら俺の手を握ってブンブンと上下させる。

 

本当に賑やかな人だな。

 

こほんと咳払いしてこの場の空気を改める沖田さんはリアスに訊く。

 

「ところで、サーゼクス様はこちらにお越しになられていませんか?」

 

「来ていらっしゃらないけれど・・・・・どうかしたの?」

 

それを聞いてルシファー眷属の四人は顔を意味深に見合わせる。

 

そして、沖田さんが続けた。

 

「実は――――」

 

 

 

 

 

 

ある日のこと。

 

 

ミリキャスとの親子の時間を過ごしていたサーゼクスさんは不意にミリキャスに訊いてみたそうだ。

 

『ミリキャス、サタンレッドとおっぱいドラゴン、どちらが好きかな?』と。

 

サタンレッドはサーゼクスさん達、四大魔王がやっている『魔王戦隊サタンレンジャー』のリーダーのこと。

人間界の特撮でよくあるヒーロー戦隊の赤い人だ。

 

レッドをサーゼクスさん、ブルーをアジュカさん、グリーンがアスモデウスのファルビウムさん、ピンクをセラフォルーさん、そしてイエローをグレイフィアさんが担当しているんだが・・・・・・。

 

グレイフィアさんに関しては夫の趣味に付き合わされているといった感じかな。

実際、イエローの出番はほとんどない。

 

そのサーゼクスさんは自身が演じるサタンレッドと俺が演じているおっぱいドラゴンのどちらが良いかミリキャスに尋ねた。

 

そりゃ、サーゼクスさんとしてはサタンレッドの方が格好いいと言ってもらいたかったはずだ。

何せ自分が演じてるんだし、しかも自分の息子だし。

 

しかし、ミリキャスの回答は―――――

 

『おっぱいドラゴンです! バリエーションの多い鎧が格好いいですし、能力も多彩ですっごく良いと思います!』

 

 

 

 

 

 

そんなことがあったのだと沖田さんは語ってくれた。

 

その瞬間、笑顔のまま心の中で号泣しているサーゼクスさんの姿が頭の中に浮かんできてしまった。

 

・・・・・・「ドンマイ!」としか言いようがない。

 

ミリキャスが家に泊まった日から、サーゼクスさんはオフを取って行方をくらませているそうだ。

 

そんでもって、眷属である沖田さん達はサーゼクスさんがここに来ているかも?、と踏んでいた。

 

しかし、当のサーゼクスさんは家には来ていない。

 

 

・・・・・・・・なんだろう、すごく胸騒ぎがする。

 

 

俺は辺りを見渡し―――――カーテンをしてある窓へと向かった。

 

そして、カーテンを掴み、ゆっくりと開けていく。

 

 

そこには――――――

 

 

「・・・・・・・ミリキャス・・・・・サタンレッドよりもおっぱいドラゴンのほうが好きなんだね・・・・・・グスッ」

 

特撮ヒーローのレッドが悲しみのオーラを発しながら・・・・・・泣いていた。

 

 

 

シャッ!

 

 

 

俺は勢いよくカーテンを閉めた。

 

 

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

 

 

部屋の空気が凍りつく。

 

「お、お兄ちゃん・・・・・・今のって・・・・・・」

 

「美羽・・・・・・今のは幻覚だ」

 

「いやいや、そう言ってる時点で幻覚じゃないからね?」

 

「・・・・・そういうことにしてあげてくれ、アリス。そういう優しさも時には必要だ」

 

あんな悲哀に満ちた魔王なんて見たくなかった・・・・・・!

だって、特撮ヒーローの格好で泣いてるんだぜ?

 

つーか、今の感じから察するに河川敷で感じた気配ってサーゼクスさんかよ!

しかも、サタンレッドの格好で!

 

可愛い息子と話すおっぱいドラゴンという図をサタンレッドの格好で遠巻きに眺めていたと!?

 

そんなの・・・・・・・

 

そんなのは魔王でも何でもねぇよ!

ただの『かわいそうな人』じゃねぇか!

 

「とりあえず中に入れてあげようよ。外は寒いよ?」

 

美羽はそう言って、俺が閉めたカーテンを開けた。

 

すると―――――

 

 

「・・・・・・ミリキャス・・・・・サタンレッドは・・・・・・ダメなの・・・・・?」

 

 

サタンレッドがベランダで体育座りの状態で震えていた!

さっきよりも悲しみのオーラが強まってるよ!

 

身も心も凍えてる!?

 

「誰か毛布持ってきてぇぇぇぇ! この人のハートを温める毛布を!」

 

美羽がそう叫んだ!

 

ゴメン!

そんな便利な毛布は持ってない!

どんな毛布でもその人の凍えきった心は温められないよ!

 

セカンドさんが窓を開けてベランダで踞るサーゼクスさんに近づく。

 

「旦那・・・・・・」

 

「おお、セカンドかい? すまない、私はもうダメらしい・・・・・・」

 

「しっかりしてくだせぇ! 旦那はこのままでいいんですかい? このままじゃあ、ミリキャス坊っちゃんは乳龍帝に奪われちまう! 旦那はそれでいいんですかい!」

 

奪いませんよ!

 

何言ってくれてるんですか、あんたは!?

 

「マスター・サーゼクス、セカンドの言う通りです。ここが決め所なのかもしれません。ミリキャス様の前で()の威厳よりも()の威厳の方が強いというところを見せるしかないかと!」

 

マグレガーさんまで!?

乳の威厳よりも父の威厳って何!?

 

「そうか・・・・・そうだな・・・・・。何を弱気になっていたのだろうか、私は・・・・・! 私は・・・・・私はまだ、ミリキャスに格好いいところを見せていない!」

 

「そうですぜ、旦那!」

 

「ええ! 今こそサタンレッドの真の力を!」

 

あんたら、人ん家のベランダで何してんだぁぁぁぁぁぁ!!!

 

そんなところで決起しないで!

 

警察呼ぶぞ、この野郎!

 

「イッセー兄さま! 父さまが相手ですけど頑張ってください!」

 

ミリキャスも応援はありがたいけど、今はダメだろ!

 

サタンレッドが悲しみのオーラを増幅させてこっちを見てきたじゃん!

 

クソッ!

こうなったら俺はサタンレッドと戦うしかないのか!?

乳の威厳とやらを見せつけないとダメなのか!?

 

 

その時―――――

 

 

リビングに光が走り出して円を描き出す。

 

これは魔法陣。

しかも、グレモリーの紋様だ!

 

このタイミングで来るとなればあの方しかいない!

 

光が弾けて、魔法陣から出現したのは銀髪のメイドさん!

 

俺は心の底からガッツポーズ!

この方を待っていた!

だって、この状況を何とか出来るのはこの方しかいないのだから!

 

グレイフィアさんだぁぁぁぁぁぁ!!!

 

最強の『女王』の登場にルシファー眷属の全員が硬直し、表情を青くさせていく!

サタンレッドなんて、先程よりも体を震わせているほどだ!

これは完全に恐怖している!

 

グレイフィアさんは俺達グレモリー眷属に軽く会釈した後、ルシファー眷属に冷たい視線を向け、最後にサタンレッドをその視界に捉えた。

 

一歩前に出る。

 

それだけで、部屋の全員に冷や汗が流れるほどの重圧が伝わってくる!

 

セカンドさんとマグレガーさんなんてそそくさとサタンレッドから離れていく!

あんたら、主を見捨てるつもりか!?

 

「・・・・・誇り高きルシファー眷属が、ここで一体何をしているのでしょうか?」

 

 

ぞくっ・・・・・・

 

 

な、なんて重みのある言葉だ・・・・・!

 

こ、怖い! 

怖すぎる!

 

俺の近くにいたレイナとアーシアなんて、俺の後ろに隠れ出したよ!

君達は俺を盾にしないでくれるかな!

 

俺だって泣きそうなくらいなんだからよ!

 

ベオウルフさんがグレイフィアさんのもとに近寄り、言い訳を始めた。

 

「こ、これはですね! 姐さん! たまには眷属で集まって気分転換でも・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「はい、申し訳ございません。如何様にも処分されてください」

 

ベオウルフさんが跪いて謝罪した!

言葉の途中だったのに、グレイフィアさんの睨みの前に屈したぞ!

 

「てめぇ、ベオ! ソッコーで落ちやがって! 姉御! 俺達だって――――」

 

「・・・・・・・・」

 

「すいませんでした」

 

セカンドさんも屈した!

あんたもかよ!

 

グレイフィアさんは一つ息を吐くとセカンドさんに告げる。

 

「行くのなら、一言私に言いなさい。断りもなくよそさまのお家を訪ねるのは失礼です。それとミリキャス様の護衛はリアスお嬢様や一誠さんで十分です」

 

そして、グレイフィアさんの視線がサタンレッド――――サーゼクスさんを再び捉えた。

 

「サーゼクス様。オフを利用してそのような格好でこの町に来ているとは・・・・・・。納得のいくご説明をお願いします」

 

とても低く静かな声音。

しかし、そこには明らかな怒りが籠められている!

 

サタンレッドはゆっくりとグレイフィアさんに近づき――――その場で跪いた。

 

「すまない、私が悪かった」

 

屈した!

 

うん、わかってたよ!

 

「母さまが一番強いんですよ?」

 

ミリキャスが屈託のない笑顔でそう言った。

 

 

この後、サーゼクスさんはグレイフィアさんに連行された。

 

サタンレッドの覆面を脱いだサーゼクスさんの顔は絶望に包まれていた。

時おり、こちらに救いを求めるような視線を送ってきたが、俺は瞑目するだけだ。

 

助けられるわけがないでしょうが!

そもそも、今回はどう考えてもあなたが悪い!

ちゃんと魔王の仕事もしてくださいよ!

 

 

 

 

 

 

それから二日後。

 

今日、ミリキャスは冥界に帰る。

 

ルシファー眷属の人達が玄関まで迎えに来てくれていた。

 

お別れをする前にセカンドさんが俺を手招いた。

 

「若、おまえにいいもんを紹介したいんだよ」

 

そう言って、セカンドさんの大きな手のひらに現れたのはおもちゃの帆船のようなもの。

RPGに出てくるようなファンタジー世界の飛行艇みたいだ。

 

すると、その船は独りでに動き出して宙を舞い始めた!

 

「これは?」

 

「こいつはスキーズブラズニルっていう北欧に伝わる魔法の帆船だ。生きる飛行船とも言われてる。とある案件で俺が入手してな。かなりレアなもんだぜ? 世界に数えるほどしか存在しないからな」

 

生きた帆船!

北欧神話の魔法の帆船か!

 

「こいつは主のオーラを糧に様々な進化を遂げる。こいつをおまえの使い魔にしてみないか?」

 

「――――っ! この飛行船を俺の使い魔に、ですか?」

 

「ああ、おまえさえ良ければな。上級悪魔昇格の祝いのプレゼントだ。それにおまえは冥界のために体張って戦ってくれているからな。まぁ、龍王を使い魔にしているおまえからしたら物足りないかもしれないけどな」

 

「いえ、そんなことはないですよ。ありがたくいただきます」

 

ティアって使い魔っていうより、俺の修行パートナーってイメージの方が強いもんな。

 

それに使い魔だって、色々いてくれた方が助かると思う。

 

「これって、成長すると巨大化したりするんですか?」

 

俺の後ろに疑問にはマグレガーさんが答えてくれた。

 

「ええ。しかも成長は主のオーラやイメージ次第です。赤龍帝として異例の成長を遂げている若君なら面白い成長をしてくれるかもしれませんね」

 

「つーか、空飛ぶハーレム御殿にすりゃいいだろ。おまえ、ハーレム作ってるんだろ? 新聞にも載ってたけどよ。それなら空飛ぶハーレム御殿は必須だろうぜ」

 

なんと!

空飛ぶハーレム御殿ときましたか!

 

そいつは考えたことがなかった!

 

なるほど、ハーレム王を目指すならハーレム御殿は必要だ!

 

 

 

・・・・・・・・あれ?

 

 

ちょっと待てよ?

 

「今、セカンドさん・・・・・・新聞に載ってたって」

 

「ん? ああ、おまえの『女王』とキスしてるところが新聞の一面に載ってたぜ」

 

「あれは若君が昇格したその日の号外でしたね」

 

セカンドさんに続いてマグレガーさんがそう付け加えた!

 

「「ええええええええええええっ!?!?」」

 

俺とアリスの叫びが家中に響いた!

 

何で!?

 

昇格のその日ってことは・・・・・・あの時のか!

 

そんなのどこで―――――

 

 

 

 

 

『面白いから録画していいか?』

 

 

 

 

 

アザゼル先生かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

あの人、どこまで俺を苛める気だ!

 

「ねぇ、イッセー・・・・・あの人殴ってきていいかしら?」

 

「許す! 何なら俺も行く!」

 

あのラスボス元総督、フルボッコにしてやんよ!

 

赤龍帝眷属の力、存分に味あわせてやらぁ!

 

「ふふふ。まぁ、いいではないですか。若君、姫のこともよろしくお願いしますね?」

 

マグレガーさんはウインクを送ってくるが・・・・・・・。

 

ふと隣を見るとリアスが顔を真っ赤にしていた。

 

ハハハハ・・・・・・・。

 

 

そんなやり取りもあったが、ついにミリキャスと別れの時がきた。

 

「お世話になりました! すごく楽しかったです! また、遊びに来てもいいですか?」

 

「もちろんだ。いつでも遊びに来い!」

 

「はい!」

 

俺とミリキャスは握手を交わした。

 

その時のミリキャスは本当に眩しいくらいの笑顔だった。

 

いつでも来いよ。

 

おまえは俺達にとって弟みたいな存在なんだからさ!

 

 

 




というわけで、2話連続投稿の番外編でした!
お待たせして申し訳ないです!

現在も課題に追われてまして、次も遅くなるとおもいます。
活動報告にも書きましたが、気長に待ってくれると助かります~。

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