[アザゼル side]
俺は吸血鬼カーミラ派のテリトリー内に足を踏み入れていた。
カーミラの中心とも言える城下町。
この町は中央に真祖たるカーミラの城を円上に囲むようにして現代的な建物が並んでいる。
住宅街の民家も今風のものばかりだ。
他にもちょっとした土産屋やカフェなんかもちらほら見られる。
流石にゲームセンターのようなものはないがな。
吸血鬼が住む町だけあって、日の光を遮るようにどの建物にも窓は少なく、あっても戸は閉められている。
まぁ、これだけ濃い霧に包まれているようじゃ、日の光なんて昼間でも町まで届かないだろうがな。
現在は昼間なので、夜の住人たる吸血鬼は睡眠タイムだ。
昼間でも動いている者はいるが、肌を露出しないように厚い服装で防備していた。
町の設備や住人の持ち物は人間界とさほど変わりはない。
住人の大半が元人間だからだろうな。
この町を覆っている霧だが、こいつは吸血鬼の能力だ。
吸血鬼は霧を操り、それを結界とし、索敵に使用したりもする。
英雄派ゲオルクの絶霧ほどの特異性はないだろうが、それでもこの町を丸ごと覆えるのはその吸血鬼が相当な実力を有しているということだ。
リアス達と別れた俺は一人でカーミラ側の領地に入った。
人里離れた山間部に広大な結界を張った人間界はおろか、他の神話勢とも隔絶した閉ざされた空間。
それがここだ。
で、そんな場所にあるカフェで俺は注文したコーヒーを飲みながら外の景色を眺めている。
「やれやれ・・・・」
俺がこうして一人カフェにいるのは理由がある。
実はカーミラ派のトップ、カーミラ本人との面会しようとしたんだが・・・・どうにもタイミングが悪くてな。
女王さまは会議中とのことだ。
しかも、かなり長々話し合ってるため、ここを訪れてから数日が経っている状況だ。
どうやら、ツェペシュ側で動きがあったようでな、それの対抗策を練っているみたいなんだ。
俺との面会は後になる。
っと、さっき一人と言ったのは少し訂正だ。
少し離れたところに座る男。
監視役だ。
そんな気配が町に出てからムンムンしてる。
だが・・・・そんな監視役の気配が唐突に途絶えた。
ちらりと視線をそちらへやると、監視役の者はテーブルに突っ伏していた。
やれやれ・・・・
「ったく、こんなところにまで何の用だ? ――――ヴァーリ」
俺の席に近づいてきたのはヴァーリだった。
「この近くを通りかかったら見知った気配を感じたものでね」
ヴァーリの後ろには美猴とアーサー、そしてフェンリル。
「やーやー、総督おひさー。あー、いまは監督だっけか?」
「相変わらずだな、おまえも。眠らせたのか?」
俺が監視役の吸血鬼へ視線を配らせると、イタズラ猿は楽しそうに笑んだ。
仙術、もしくは妖術で眠らせたのだろう。
こいつらがこの霧の中で何事もなく動けるのは潜入に長けてるからだ。
伊達に各神話勢からの追っ手を撒いてないってことだな。
それだけ猛者の集まりだ。
「で、何か用があるんだろう?」
「ああ。邪龍のことだ」
ヴァーリが話始めたのは、こいつらが出会った邪龍について。
アジ・ダハーカ、か。
グレンデルに続いてまたまた厄介なドラゴンが甦ったもんだ。
諸々のことを聞いた俺は息を吐き、改めて問う。
「アジ・ダハーカは強かったか?」
「少なくともプルートよりは楽しめそうだ」
少なくともアジ・ダハーカはプルートよりも強いということだな。
美猴が続く。
「つーか、強ぇよ、あのイカレドラゴン。今までやり合った中じゃ抜群に強ぇ。一向に倒れる気配がねぇんだぜ? ありゃ、参るわ」
「中々に楽しめましたけどね」
アーサーもヴァーリに負けないくらいのバトルマニアのようで。
だが、強者を求めて世界中を旅するこいつらがここまで言うのだからアジ・ダハーカの力は郡を抜いていたようだ。
アーサーが言う。
「そちらではグレンデルが出たとか」
「情報が早いな。まぁ、こっちは撃退出来たようだが苦戦したようだ。イッセーの手札をほとんどフルに使ってもグレンデルは立ち上がったんだとよ」
イグニスの力なら跡形もなく消し去ることが出来るだろうが・・・・あいつの力はそう容易に使っていい代物じゃないからな。
周囲への影響もそうだが、イッセーの腕が焼けてしまう。
本当にここぞと言うときにしか使えない。
・・・・それに気になるのはグレンデルの血から生まれたという小型のドラゴン。
そして、それを見たときのイッセーの異変、か。
俺は実際に見たわけでも、イッセー本人から話を聞いたわけでもないから何とも言えないが・・・・
「とにかく、現状は相当不味い状況にあるってところか」
ヴァーリが片眉を少し上げて訊いてくる。
「やはり、邪龍の復活は聖杯か? あれは生命をいじるのだろう? 死んだ者の蘇生も可能なのか?」
その考えに行き着くよな。
俺もヴァーリと同じ考えを持っている。
神滅具の聖杯は使いようによっては命の理を狂わせる。
「魂の在り処、行き着く先ってのは各宗教ごとに違う。だが、キレイさっぱり元通りで復活ってのはありえない。一度魂が逝っちまったら、そう簡単に現世に戻ってこれないからな」
それだけ、肉体から魂が離れるってのは尊いことなんだ。
もちろん例外はある。
悪魔や天使の転生システムによる復活とかだな。
ただ、この二つは死にたてホヤホヤじゃないと使えない。
ヴァーリは目を細める。
「邪龍は別、か?」
「奴らはしぶといからな肉体も、その魂も。あれほど肉体と魂を切り刻まれたヴリトラが神器を寄せ集めただけで復活を遂げたぐらいだぜ? そこから推測して神滅具である聖杯の力があれば―――――」
「しかも亜種の禁手ともなれば次元も変わるだろうな」
続いたヴァーリの言葉に俺は頷いた。
美猴が頬杖をつきながら言う。
「そうなっと、聖杯を持つ吸血鬼の一族は『禍の団』と繋がってるってことかい?」
「普通に考えればそうなるな」
聖杯を持つツェペシュ側の吸血鬼と邪龍を復活させた『禍の団』。
これまでの話をまとめればこの二つは自然と繋がってくる。
カーミラ派はそこまでの情報を得ていたのだろう。
そして、この二つを自分達では抑えきれない。
そう判断したからこそ、今まで交流を断絶していた俺達に近づいてギャスパーを得ようとした。
ヴァレリーと交流のあったギャスパーなら、相手も隙を見せるかもしれないと踏んだからだ。
まぁ、あの特使の娘はイッセーの嫁二号にコテンパンにされてたけどな。
しかし、ギャスパーよ。
おまえの恩人はとんでもないことに巻き込まれているのは確かみたいだぜ?
最悪の事態にならなければいいがな・・・・。
と、今更ながらに気づいたことなんだが、
「あの悪猫と魔女っ子はどうした?」
黒歌とルフェイの姿がチームになかった。
俺の問いにヴァーリは肩をすくめる。
「兵藤一誠のところだ」
「なんだなんだ? 振られたのか? きちんとかまってやらないからあいつに取られたんだぞ?」
「そうかもな」
冗談混じりで言ったが、こいつは気にもとめない。
あー・・・・・こいつ、本当に大丈夫かよ?
ヴァーリの女への関心の無さは異常と言うか・・・・ガキのころから恋愛ごとに興味がないんだよなぁ。
女嫌いなわけではないのは分かってるんだが・・・・。
頼むからそこのところ何とかしてくれないかねぇ。
マジで心配しちまう。
イッセーは続々と嫁を増やしてるのを見てるとなぁ・・・・。
ただ、そうなるとあいつの子供が何人くらいになるのか気になってくる。
美猴が笑う。
「黒歌もルフェイも何かあったら駆けつけてくれるんでねぃ。それにあいつら、赤龍帝と遊ぶのが楽しいってよ。こっちの兄ちゃんも安心らしいぜ?」
美猴の言葉にアーサーも頷く。
「ええ。赤龍帝殿の傍にいる方がルフェイも安全でしょうからね。未だに私は、妹は俗世に戻った方が良いと思っておりますし。完全に戻れなくとも特例区域とも言える赤龍帝殿のご自宅にいれば近しい生活はできるはずです。元総督殿もその辺りはご配慮してくれそうですしね」
「おまえさんも抜け目がないな。まぁ、心配しなさんな。あそこにいる限りは誰も手出しできないようにはしてやってるさ」
「感謝します」
律儀に頭を下げてくるアーサー。
こいつも中々にシスコンのような気がするが・・・・俺の周囲にいるシスコンに比べれば遥かにまともか。
そんなことを思っていると、美猴が荷物から何やら取り出す。
カップ麺だった。
「元総督はどれがいいんだい? 赤いのか? 緑のか? 焼きそばとラーメンもあるぜぃ」
テーブルに並べられていくカップ麺。
ほうほう、中々に揃えてるな。
しかも全部日本製だ。
確かに日本のカップ麺が一番美味い。
「緑をくれ。そばが好きなんでな」
「おっ、日本慣れしてんねぃ。ヴァーリとアーサーはどれさ?」
美猴に問われ、ヴァーリは焼きそばをアーサーは赤いのを取っていく。
「しかし、白龍皇さまご一行のお食事がカップ麺とはな。誰か料理の一つでもできないのか?」
美猴が手をぶっきらぼうに振る。
「ルフェイが作れるけどねぃ。あの子がいないとうちは途端にインスタント食品さね。ま、俺っちは麺類好きだし、この二人もこだわらないからねぃ」
ふと見ると、フェンリルの前にカップ麺がぞんざいに置かれていた。
フェンリルからは明らかに不服というオーラが放たれているが、こいつらは完全にスルーしてやがる。
元の巨獣サイズから小さくなってはいるが、伝説の魔獣だぞ?
扱いが雑すぎる・・・・。
おかしいな・・・・・なんか涙出てきた。
イッセーは三食手作りの愛妻、愛人料理食ってるのになぁ・・・・・。
やはり俺の育て方が悪かったのだろうか・・・・・。
「どうした、アザゼル?」
「過去の己を責めているところだ・・・・」
「?」
気にするな、ヴァーリ。
おまえはまだ若いんだ。
この先で何とかなる・・・・・と思いたい。
とりあえず、女の一つでも作れよ。
ここで、俺は別の話題を振った。
「話は変わるんだが・・・・アルビオンの様子はどうだ?」
ヴァーリの神器に封じられている白い龍、アルビオン。
ドライグの『おっぱいドラゴン』に続き、『ケツ龍皇』と呼ばれたかわいそうなドラゴン二号。
そう呼んだのはオーディンの爺さんだが。
「いつか、再び兵藤一誠と戦う時が来るだろう。その時までには慣れてほしいと・・・・・願う」
ヴァーリが瞑目しながら無茶ぶりを言いやがった。
対してアルビオンは――――
『・・・・無理でござる』
語尾にござるがつくほど無理らしい。
「紹介したカウンセリングはどうだったよ?」
以前、ヴァーリに相談を受けたため俺はツテを頼ってドラゴンの心理カウンセリングをしてくれる者を探した。
苦労したぜ、ドラゴンのカウンセリングなんて聞いたことなかったんでな。
探した結果、見つかったのは栴檀功徳仏―――――三蔵法師だった。
ヴァーリが焼きそばをすすりながら言う。
「話は聞いてもらえたし、薬も処方してもらった。――――赤龍帝ドライグはアルビオンと同じ苦しみを持つ同士だそうだ」
『・・・・ドライグと語り合うのが良いとも言われた。ドライグは私と同じ苦しみ・・・いや、それ以上の悩みを持つとも』
あー、そう言われると確かに。
あっちは『おっぱいドラゴン』に加えて、いじめてくる駄女神がいるからな。
話じゃ、縛られてドラゴンSMプレイをさせられたらしいぞ。
その心労はアルビオン以上だろう。
まぁ、『おっぱいドラゴン』に関しては俺も一枚噛んでるから何も言えないがね。
アルビオンがイグニスに会えば・・・・されることは同じだろう。
つーか、ドラゴンSMプレイって何だよ!
そんなプレイ聞いたこともねぇ!
「ま、今度ドライグと話してみるといいさ」
『う、うむ。そうだな・・・・私は目をそらさず、向かい合わなければならないのだ』
アルビオンは自分に言い聞かせるように呟いた。
どうやら話し合うことにしたようだ。
もしかしたら、二天龍のケンカが終わるんじゃないか?
まさか、こんなことでその日が見えてくるとはな・・・・・。
すると、途端にヴァーリが表情を渋いものにさせた。
「アザゼル、今回の件だが・・・・・ユーグリッド・ルキフグスとやらから直接伝えられた。――――黒幕についてな」
「なに・・・・?」
奴ら、ヴァーリには教えたというのか?
ヴァーリは珍しく瞳に憎悪の炎をたぎらせて、憎々しげに吐いた。
「・・・・奴だよ。あのクソのような者が、今回の首謀者だ・・・・っ!」
こいつがこれほどまでに憎しみを露にする者はただ一人。
それが真実だとすれば、今回の件、どれほどの被害が出るか分かったもんじゃない・・・・っ!
だが、解せない。
なぜ今頃になって表舞台に出てきた?
[アザゼル side out]
▽
デュリオ達と邂逅した翌日、リビングにて。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
無言で見てくる教会トリオ。
「・・・・・」
「・・・・・」
同じく無言で見てくる小猫ちゃん&レイヴェル。
「あらあら・・・・」
朱乃は頬に手を当てて微笑んでいるが・・・・妙に迫力がある。
く、空気が・・・・・重い!
なんて重圧なんだ!
今日のところずっとだぞ!?
精神的によろしくない!
なんか、こう・・・・・チクチクするような視線が今朝からずーっとだ。
そして今、俺とレイナはソファの上で正座させられていた。
ちなみに、俺の膝上にはオーフィスが座っていてバナナを食べていた。
「皆さん、どうしたんでしょうか?」
「ルフェイ。色々あんのよ。ねー、赤龍帝ちん?」
ルフェイは部屋の空気に戸惑っているが、黒歌は明らかに気づいてやがるな。
つーか、そこで問いかけないで!
今、この場で平然としてるのは美羽とアリス、それからティアとディルムッドぐらいだ。
ちなみにロスヴァイセさんは朝から百均に行っていて、家にはいない。
なんでも、新しい百均が近くの町にできたとか。
百均に命かけてんなぁ、あの人・・・・・。
ゼノヴィアが沈黙を破った。
「・・・・このような光景を以前に見たことがあるな」
アーシアも続く。
「修学旅行のときですね」
更にイリナも続いた。
「あの時は美羽さんだったわね」
こ、この三人組・・・・・目がマジだ!
頼むから微笑んでくれ、アーシアちゃん!
そんな目で見ないで!
なんで真顔なの!?
朱乃が俺に問いかける。
「イッセーくん、正直に答えてくださいね?」
「は、はい」
「昨晩、レイナちゃんと何をしていましたか?」
うっ・・・・ストレートだ。
ものすんごいストレートで来たよ・・・・・。
美羽に視線を送ると、親指を立ててエールを送り返してきた。
何のエール!?
アリスに視線を送ると、こちらはテレビを見ていた。
ダメだこりゃ!
まぁ、隠してもバレるんだよね。
特にこの手のことにうちの女性陣は鋭い。
今日も俺とレイナの雰囲気だけでここまで追い詰められたからな。
・・・・分かりやすかったのは否定しないが。
朝からレイナはご機嫌だったもんな。
しかも、俺に抱きついてきてたし。
俺とレイナは皆を見渡して――――――
「「昨日は二人でヌルヌルになってました」」
この後、俺達は昨晩の詳細を包み隠さず話すことになった。
~昨晩のリーアたん~
「っ!?」
「どうかされましたか、部長?」
「いえ・・・・なんでもないわ」
「?」
リアスは首を振ってごまかすが、明らかに何かあったという顔だ。
(今の感じ・・・・まさか、イッセーがまた誰かと・・・? ま、また、私は・・・・・)
なぜか日本にいるイッセーの状況を感覚で把握してしまったリアス。
また遅れてしまったことに落ち込むが・・・・・
(いいえ、何を落ち込んでいるの! 次よ! 日本に帰ったらイッセーに迫るんだから!)
と、異国の地で一人燃えていた。
~昨晩のリーアたん、終~
最後のリアスはニュータイプ的なあれです(笑)
次回より新章に入ります!