ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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今回はキリの良いところで終わらせたので少し短めです。


6話 ギャスパーの真実

城の中は静かで、歩いていてもすれ違うのはメイドや巡回中の兵士ぐらい。

 

・・・・この様子だけ見てると、クーデターなんてなかったように思えるな。

 

俺達はギャスパーの父親が閉じ込められているという地下の部屋に来ていた。

 

リアスとギゃスパーはヴァレリーが面会したいとのことで、王の部屋へ。

先生はマリウスの息がかかった上役の吸血鬼についていった。

 

前者は単にヴァレリーの話し相手だろう。

 

後者は先生から神器についての話を聞きたいんだろうな。

吸血鬼にも神器を研究する機関はあるみたいだし、そこへ神器研究の第一人者である先生が来たとなると話を聞きたくなるだろう。

 

で、俺達は部屋で待機していたんだが、ギャスパーパパとの面会は許されていたので、会いに行くことに。

 

明かりを持ったメイドさんが先導していき、石造りの階段を下りていく。

 

少しすると、広い空間に出た。

扉がいくつも存在し、その一つにメイドが歩み寄った。

 

「ここがヴラディ家当主さまがおられる客室でございます」

 

貴族を迎え入れるにしては大分質素な場所だ。

 

まぁ、質素といっても普通に綺麗な場所なんだけどね。

グレモリーやフェニックスの城を見てるから、あれと比べて見劣りするだけだ。

 

メイドはノックのあと、「お客さまがお見えです」と中の者に報告する。

 

すると、部屋から応答があり、メイドが俺達にお辞儀をして下がっていく。

 

俺達は頷き合って入室していく。

 

中は随分と豪華な造りだった。

天井にはシャンデリア、部屋の家具も全てが高級感溢れるものばかり。

 

ソファに座る人物が俺達を捉えると立ち上がった。

 

若い金髪の男性。

歳は三十代ほどだろう。

どこかギャスパーに面影がある。

 

・・・・・この人がギャスパーの父親か。

 

「はじめまして、私達はリアス・グレモリーさまの眷属悪魔です。私はリアス・グレモリーさまの『女王』、姫島朱乃と申します」

 

「同じくリアス・グレモリーさまの『兵士』そして赤龍帝眷属の『王』、兵藤一誠です」

 

と、朱乃に続き俺も挨拶をする。

 

リアスが不在時は『女王』の朱乃がグレモリー眷属の長なんだけど、俺も一応『王』なので挨拶しておいた。

 

昇格してからはリアスの眷属としてだけでなく、こういう場面でも上級悪魔として前に出ないといけないんだよね。

 

男性はひとつ頷くとソファに座るように促してくれた。

 

「どうぞ、お座りください。―――――アレ、いえ、ギャスパーについて話をしに来たんですよね?」

 

用件はすぐに理解してくれたようだ。

 

朱乃と俺がソファに座り、その後ろに美羽達が並ぶ。

 

ギャスパーの親父さんと向かい合うが・・・・よく見てみると純血の吸血鬼なんだなって思えた。

 

ギャスパーに面影があるけど、生気が感じられないし、顔立ちも人形のようだ。

影もない。

 

ギャスパーの親父さんが口を開く。

 

「既にリアスさまとは話をしましてね。お互いにアレの情報を交換しあいました。今後のアレの処遇を巡ってグレモリーとヴラディでどうすれば良いのか。しかし、話し合いを進めるなかで、私はこの城に召喚されまして・・・・。情けない話ですが、幽閉されたのですよ。まさか、こんなにも静かにクーデターが起こり、ツェペシュ王が退かれるとは想像すらしていなかったのでしてね」

 

話の内容の割には、これといって動揺しているようには見えないな。

この状況を受け入れているのか・・・・。

 

まぁ、それはいい。

さっきから気になっていることがある。

 

俺は静かに問う。

 

「アレ・・・・ですか」

 

この人は先程からギャスパーのことを『アレ』と口にしている。

 

「アレは・・・・ギャスパーは悪魔として機能しているのですね。リアスさまからそれを聞き、正直驚きました」

 

また、『アレ』か。

 

実の父親がそう口にするなんてな・・・・・。

 

朱乃が訊く。

 

「ギャスパーくんのお母さまはやはり・・・・」

 

「ええ、既に亡くなっております。アレを産んだ直後にね」

 

「難産だったと?」

 

朱乃がそう問うと、ギャスパーの親父さんは首を横に振った。

 

目元を細め、厳しい表情を浮かべて・・・・何か思い出したくないような顔だった。

 

そして、小さく口を開いた。

 

「・・・・・ショック死です」

 

ショック死・・・?

出産でそんなことあるのか?

 

特に医学の知識があるわけでもないか、そのあたりは分からないけど・・・・・。

 

ギャスパーの親父さんは手を組み、恐ろしげに話を続けていく。

 

「彼女の腹から産まれたのは――――禍々しいオーラに包まれた何か別のモノでした」

 

「何か・・・・とは?」

 

朱乃もその言葉の意味がよく理解しきれずにいる。

俺や他の皆もそうだ。

 

ただ、この親父さんは純血だとかハーフだとか、そんな視点でギャスパーを見ていないことは何となく分かった。

 

もっと違う・・・・・俺達の知っているギャスパーとこの人が語ろうとしているギャスパーでは全く別物のように思えてならない。

 

親父さんは絞り出すように口にしていく。

 

「・・・・・生まれたとき、アレは・・・・・人の形をしていなかったのです。人でもなく、吸血鬼でもない・・・・黒く蠢く不気味な物体として。・・・・怪物とも言えぬものが自分に宿っていた。アレの母親はそれを目の当たりにして精神に異常をきたし、そのまま死に至ったのです」

 

思考がついていかなくなった。

 

・・・・・黒く・・・・蠢くものって・・・・。

何だよ、それは・・・・。

 

本当にギャスパーの話なのか・・・・・?

 

まるで、怪物・・・・化け物の出産に立ち会った話をしているかのようじゃないか。

 

親父さんは続ける。

 

「その場に居合わせた産婆を含めた数人の従者達もそれから数日のうちに次々と変死しました・・・・・呪殺、なんでしょうね」

 

変死・・・・?

出産に立ち会った者が?

 

しかも、呪殺って・・・・・。

 

「ギャスパーが呪いを放った、と?」

 

俺がそう尋ねると親父さんは頷いた。

 

「ええ、無意識のうちに振り撒いた呪いなのでしょう。産まれて数時間ののち、普通の赤ん坊の姿に変化したのですが、もうその時にはアレの母親はショック死した後でした」

 

想像を遥かに超えた事実が明らかになっていく。

 

今の話を聞いて思ったことなんだが・・・・・

 

「ギャスパーは神器の・・・・停止の邪眼せいで誰からも受け入れられなかった、俺もそう思っていました。今の話を聞くまでは。どうやら、違うみたいですね」

 

「事情を知らない近縁者はそうでしたが、真相を知っている者にとってみれば時間を停止させる力など可愛いもの。・・・・・アレの正体はそれほど畏怖すべきものだったのです。だから私達はアレを遠ざけた」

 

なるほどな。

 

今までギャスパーを迫害してきた奴らだと、ギャスパーの家族をそう思ってきたが・・・・。

確かに、そんな状態で産まれてくるのを見れば、そうなるのかもしれない。

 

現に母親がショック死するレベルだ。

この人達も相当パニックに陥ったはず。

 

朱乃が問う。

 

「それをギャスパーくんは知っているのですか?」

 

「・・・・いえ、知らせていません。何が切っ掛けで真の姿に戻るかわからなかったものですから」

 

親父さんは顔を手で覆って重々しく言葉を発する。

 

「・・・・我々はアレを吸血鬼としても人間としても認識できないのです・・・・。アレをハーフとして一応の扱いとさせましたが・・・・・それが正しかったのさえ分からないのです。そして、正体が判らぬままアレを外に出してしまった・・・・!」

 

・・・・今思えばギャスパーをハーフとして見たのは、父親なりの優しさだったのかもしれない。

 

どう扱えばいいのか分からない存在をハーフとはいえ吸血鬼として見ようとしたのかもな・・・・。

 

困惑の顔色が濃い親父さんに俺は正面から言う。

 

「昔のあいつがどうだったのか、どういう存在だったのかは分かりません。けど、今のギャスパーは悪魔です。リアス・グレモリーさまの下僕で、俺の後輩です。たとえ、体が闇にまみれようとも俺はギャスパーを信じますよ。―――――仲間ですから」

 

美羽が続く。

 

「ギャスパーくんは強い子です。自分と向き合うと覚悟を決めました。だから大丈夫ですよ。何があっても」

 

そうだな。

 

あいつは自分と向き合うために前に進みだした。

自分の力に向き合おうと、引きこもりっ子から根性のある男になったんだ。

だから、大丈夫だよな。

 

小猫ちゃんも一歩前に出る。

 

「ギャーくんは私の大事なお友だちです。初めて出来た、同い年のお友だちなんです」

 

誰よりもギャスパーと仲良しの小猫ちゃんだからこそ、率直に言えるものがある。

 

当主が一言訊く。

 

「あなた方はアレの正体をご覧になられたのでしょう?」

 

影を操り、闇に塗れたギャスパーのことか。

 

俺は話でしか知らないから、実際に見たことがない。

だから、どれ程のものかは分からない。

 

それでも―――――

 

「あいつはあいつです。真の姿が闇だろうと何だろうと俺達の仲間、ギャスパー・ヴラディですよ」

 

俺の言葉に皆も頷いた。

 

親父さんは苦笑する。

 

「やはり、グレモリー眷属なのですな。リアスさまも同じことを問い、同様のことを言われました」

 

『人間でもなく、吸血鬼でもないなら、ギャスパーは悪魔です。なんせ、私がこの手で悪魔に転生させたのですから。正体がなんであれ、紛れもなく、あの子はグレモリー眷属の悪魔ですわ』

 

リアスはそう告げたという。

 

ははっ、やっぱりリアスは最高だよ。

それでこそ、俺達の主ってね!

 

親父さんは小さく笑みを作りながらこう漏らす。

 

「・・・・我々には理解しがたい感情ですが、なるほど。あの力を見た上でそう仰るなら、アレは少なくともあなた方に救われたと思ってもいいのでしょうな」

 

・・・・・この人は畏怖しながらもギャスパーのことをどこかでは想っていたのかもしれない。

 

そうでないと、『救われた』なんて言葉は出ないだろう。

 

もし、ギャスパーが普通にハーフとして生まれていれば、この人は普通に父親として接していたのかもしれない・・・そう思ってしまった。

 

それから親父さんとの会話はしばらく続いたが、ギャスパーの正体を掴めそうなことはそれ以上分からなかった。

 

ただ明確に理解したのはヴラディ家はキャスパーの存在を歓迎していない・・・・・いや、出来ないといった方が正しいか。

やはり、ギャスパーの真実を知る者にとってギャスパーは畏怖すべき存在らしい。

 

リアスとの会談も恐らくグレモリー側であいつを正式に預ける格好で話が進んでいたと思う。

 

つまり、ギャスパーの居場所は吸血鬼の地にはないということだ。

 

俺はそれでも良いと思ってる。

 

あいつの居場所は俺達だから――――――

 

 

 


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