ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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8話 出会い

「案外、普通だな。吸血鬼の町って」

 

俺の眼前に広がるのは真っ白な雪に覆われた町。

 

よくテレビで見かけるヨーロッパ風の造りの建物がずらりと並んでいた。

 

俺とアリス、レイヴェル、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさんの七人は深夜の城下町に視察という名目で軽い下見に来ている。

 

というのも、あのヴァレリーとのお茶会から既に二日ほど過ぎており、その間、目立った動きがなかったため、暇をもて余していた俺達にリアスがそう提案してくれたんだ。

 

それで、出てきたのはこの七名。

 

他のメンバーはというと、先生は吸血鬼の神器研究機関に連れていかれたまま。

この二日間会っていない。

レイナはそんな先生が気になったのか、そちらへ向かった。

 

リアスと朱乃は地下室にいるギャスパーの親父さんと話を進めている。

木場は護衛も兼ねてそちらに付き添っている。

 

なんでもリアスはヴラディ家からギャスパーを正式に引き取る形で話を進めているそうだ。

 

当のギャスパーは美羽と小猫ちゃんと共に連日ヴァレリーとお茶会をしている。

 

おかしな話なんだが、暫定女王であるヴァレリーの自由時間は多い。

 

普通、クーデター直後のこの状況下で新たなトップが暇なはずがないんだが・・・・・。

政権をマリウスが握っているとはいえ、王を自由にさせすぎだろう。

 

マリウスが語った『解放』ってのも気になる。

どう考えても不吉だし、それにこの二日間、目立った動きがないのも気になる。

 

早いとこ先生の意見も聞きたいところだけど・・・・。

 

このままヴァレリーの危険を見過ごすわけにもいかないしな。

 

さて、どうしたものか・・・・。

 

まぁ、それより気になるのは――――――

 

「おまえ・・・・何してるの?」

 

「寒いから暖まってる」

 

半目で問う俺にそう返すアリス。

 

来たときと同じように俺の防寒着の中に入り込んで小さくなってる。

 

寒いのは分かるけど・・・・

 

「俺のやつ貸そうか?」

 

防寒着の襟元を指先で摘まみながら言う。

 

流石に歩きにくいし・・・・こんな中途半端な状態じゃそれほど温もれないだろう。

 

それなら、少しごわごわするかもしれないけど、二枚重ねにして着た方が温いと思うんだ。

 

しかし、アリスは首を横に振った。

 

「いいわよ、それだとイッセーが寒いだろうし。・・・・この方が色々暖まるし・・・・」

 

頬を少し染めながらぼそぼそと呟いているんだが・・・・。

 

うん、もう何も言わないでおこう。

 

役得と言えばそうだしな。

 

そんなやり取りをしているうちに繁華街に到着した。

 

様々な店の看板が出ており、服屋から雑貨屋まで何でもそろっていそうだった。

飲食店もある。

 

人間から吸血鬼になった者は血以外にも人間の食事をとることが可能だ。

ただ、純血に近いほど血を多くとらないといけないらしいが。

 

ギャスパーはハーフなんで血も飲まないといけないけど、食事自体は人間のものが多い。

・・・・ニンニクを使ったものは苦手なようだけど。

 

町を歩いていると俺達に視線を送られていることに気づく。

それは監視の視線じゃなくて、町を行き交う人達のものだ。

 

すれ違う度にちらりとこちらを伺ってくる。

 

「余所者だとわかるみたいだね」

 

ゼノヴィアがそう言った。

 

イリナも肩をすくめる。

 

「城下町とはいえ、閉鎖された世界だもの。やっぱり外の世界から来た人って空気が違うんじゃないかしら? ほら、私達が任務で外国に行くと浮いてたじゃない?」

 

「そういえばそうだな。教会で育った者が任務先の地でぶつかるのは異文化の壁だね」

 

この二人の言うことも分からなくはないが・・・・・俺はこの二人に問題があるような気がしてならない。

 

だって、町中でお祈り捧げてるんだぜ!?

変なおっさんの絵をひっさげて!

 

誰でもおかしい娘だと思うわ!

こいつら、他の国でも変なことしてただろ!

 

アーシアが二人に続く。

 

「私も日本に来たばかりの頃は知らないものだらけで戸惑いました」

 

アーシアも日本に慣れるまではいろんなものに驚いてたな。

食事もそうだけど、生活面でね。

特に家電製品の便利さにはビックリしてたっけ。

 

美羽もアリスも最初は機械製品に中々に苦戦していたな。

今となっては自動ドアも克服できたようだし、何よりだ。

 

「イッセー、あそこのお店行かない? 面白そうなものがあるわ」

 

と、俺を店へと引っ張ろうとしてくるほど。

 

こうなると自由に振る舞っちゃうんだよね。

もうあちこちの店に俺を引っ張っていく。

 

はしゃいでるなぁ、アリスのやつ。

 

ふと町を見てみると、ここの住人も車やバイクなどの移動手段を使っているのが分かる。

店の中にはレジもあるし、おまけに入り口は自動ドアだ。

 

閉鎖された世界とはいうが、冥界の悪魔と同じで便利な物は取り入れる柔軟な部分も吸血鬼は持ち合わせているらしい。

 

「うむむ、吸血鬼の世界には『おっぱいドラゴン』は広まっていないのですね。これはマネージャーとして何とかしなければ・・・・」

 

レイヴェルが店を見ながらそんなことを言っていた!

 

気持ちは嬉しいけど、無理に広めなくていいから!

 

町に出てからやけに注意深く見てると思ったら・・・・そんなことを気にしてたの!?

 

頑張りすぎだよ、マネージャー!

 

ゼノヴィアがふいに息を吐く。

 

「・・・・・後をつけられるのは好きではないんだけどね」

 

そう、ゼノヴィアの言うように俺達の後を何名かつけてきている。

あれは城から派遣された監視役だ。

 

最初からその旨は伝えられているんだけど・・・・まぁ、気になるよね。

 

俺は肩をすくめて言う。

 

「吸血鬼からすれば、俺達は他勢力の存在だ。外出許可が出ても最低限の監視はするさ」

 

まぁ、そんな監視を全く気にしていない人もいるけど。

 

「イッセー! これ面白いわ! ここを押すとウネウネ動くの!」

 

全力で楽しんでますね、アリスさん!

 

あと、寒かったんじゃないのか!?

いつの間にか一人で自由にあちこち行ってるし!

 

つーか、その手に持ってるやつなに!?

明らかにいかがわしいものじゃないか!

おまえ、それが何か知らないで触ってるだろ!

 

置いてきなさい!

こんなところまで来て、そんなもんに興味をもつな!

 

「ほう、これは私も知っているぞ。『エロゲ』でこれを使ったプレイを見たことがある」

 

ああっ!

なんか、ゼノヴィアもそっちに食いついたよ!

 

「な、なんて卑猥な動き・・・・。イッセーくんって、こんなのを使うの?」

 

「わ、私はそれでも構いません!」

 

うわぁぁぁぁぁ!!

教会トリオが全員そっちに行っちゃったよ!

 

なんで、その店に興味を持つ!?

 

そもそも、なんで吸血鬼の町にそんな店があるんだ!

そこも柔軟なのか、吸血鬼よ!

 

「他にもありそうだ。店内に入ってみよう」

 

『おおー!』

 

ゼノヴィアを先頭に店の中へと突入した!?

 

それで良いのか!

ルーマニアにまで来て、入る店がそれで良いのか!?

 

帰ってこい!

後悔する前に帰ってこい!

 

「わ、私も行った方が良いのでしょうか・・・・?」

 

レイヴェルまでもがそんなことを言い出した!

あいつらに合わせようとしないで!

 

ロスヴァイセさんが俺を指差して言う。

 

「イッセーくん! 教育的指導ですよ!」

 

「なんで俺なんですか!?」

 

さっきからツッコミが止まらない俺の視界に驚くべきものが映り込んだ。

 

―――――オーフィスの分身体の少女が露店の前で座り込んでいたからだ。

 

「・・・・・・」

 

じーっと露店に出ている品を見ていた。

 

どうやらアクセサリーのお店のようで、赤いドラゴンの形をしたアクセサリーを見ている様子だった。

 

「・・・・えーと、お嬢さん、どれが欲しいんですかな?」

 

露店の主も無言で品物を見るだけの少女への対応に苦慮しているようだ。

 

周囲を見渡しても怪しい奴はいないし・・・・一人で買い物に来ているのか?

 

「イッセーさま・・・・あれは・・・・」

 

レイヴェルとロスヴァイセさんも予想外の人物に当惑を隠せないでいるようだが・・・・

 

俺は息を吐いて、リリスのもとに歩み寄る。

 

そして、リリスの見ていた商品を指さす。

 

「・・・・これ、欲しいのか?」

 

問うと、こちらに気づいて俺の顔をじっと見るリリス。

相も変わらず無言だ。

 

俺は店主に言う。

 

「これ、ください」

 

リアスから受け取っていたこの国で使えるお金で赤いドラゴンのアクセサリーを購入。

そのままリリスに渡した。

 

「ほい。これが良いんだろう? それじゃあ、行くよ」

 

それだけ言い残して皆の元に戻ろうとする俺だが・・・・。

 

振り返った途端に服を引っ張られた。

 

見ればリリスが裾を掴んでいた。

 

「ど、どした?」

 

問う俺だったが、リリスは無表情でこう言った。

 

「・・・・おなか、へった」

 

腹が減った、ね・・・・・。

何とも可愛らしいお願いだと思うが・・・・・。

 

その直後、アリスが顔を真っ赤にしながらトボトボと戻ってきた。

 

・・・・・本当にどういう店か知らなかったのな。

 

 

 

 

目の前でパクパクとロールキャベツやグリルされた肉などを口に運んでいくリリス。

 

俺達はこの子を連れて近くの料理屋に入ることにした。

 

テーブルに並ぶルーマニア料理。

中には日本の料理もある。

 

どうやら、多国籍な料理が楽しめるようだ。

 

まぁ・・・・味はいまいちなものがたまにあったりする。

豆腐もあったんだけど、正直微妙だった。

 

もちろん、美味しい料理もあるので俺はそちらをメインで食事を楽しんでいる。

 

「・・・・入る前に止めてくれてもよかったじゃない」

 

未だに赤面しながら料理を口に運ぶアリスが恨み言を吐いていた。

 

「いや、何となく分かるだろ・・・・・店の雰囲気とかで」

 

「だって・・・・テンション上がってたんだもん。見たことないものばかりで面白そうだったんだもん」

 

もんって・・・・・。

 

経験あるんだから、何となくででも察してほしかったよ、そこは・・・・・。

 

どうやら店内には色々と過激なものも多かったようで、ゼノヴィア曰く、日本でも売ってそうなものがあったらしい。

 

イリナとアーシアも真っ赤になりながら、ゼノヴィアと共に最後まで店内を見て回っていたけど・・・・・。

イリナのやつ、よく堕天しないな・・・・・。

 

ま、済んだことだし、飯食って忘れなさい。

 

俺はアリスから視線をリリスに戻して訊く。

 

「うまいか?」

 

「・・・・わからない」

 

簡素に答えるリリス。

 

いつの間にか口元は食べかすやらソースやらでえらいことになってるし。

 

「口にソースがついちゃってます」

 

アーシアがナプキンで口についたそのソースを拭いてあげていた。

 

「はい、キレイになりましたよ」

 

口元がキレイになると食べるのを再開して・・・・また汚れていく。

 

うーむ、オーフィスも子供みたいな感じだけど、こっちもその辺りは似たようなもんか。

 

この光景を見て、ゼノヴィアがパスタを食べながら言う。

 

「これがオーフィスの分身とはね。・・・・色々とチャンスか?」

 

チャンス。

 

新生『禍の団』の情報を聞き出したり、この子自身をどこかに連れ出してリゼヴィムから引き離す、ということを言っているのだろう。

 

確かに悪くはないけど・・・・

 

イリナがため息を吐く。

 

「・・・・やめといた方がいいんじゃない? いちおう、監視されているんだし、下手に行動するのは面倒なことになりそう」

 

そういうこと。

 

付け加えれば、リゼヴィムはこの国ではVIP扱い。

それの関係者に手を出したとなると、今のこの国では行動しづらくなるだろう。

 

「それにヴァレリーさまのことを考えるとそれは悪手ですわ」

 

レイヴェルもそう付け加えた。

 

まぁ、この子もめちゃくちゃ強いだろうし、抵抗されれば俺やアリスでも抑えられないと思う。

 

そこは何と言ってもオーフィスの分身体だし、リゼヴィムがボディガードにするくらいだしな。

 

食事が落ち着いたのか、フォークを置いたリリスは突然俺を嗅ぎだした。

くんくんと俺の体を嗅いでまわる。

 

・・・・え、えーと・・・・なんだなんだ?

 

何か臭う?

などと思った俺は自分のニオイを確認してみるが・・・・。

 

リリスは言葉少なに言う。

 

「・・・・リリスと同じニオイする」

 

無表情だが、首を可愛く首をかしげていた。

 

リリスと同じニオイ・・・・あー、なるほど。

 

「オーフィスのニオイが移ってるのか?」

 

オーフィスの分身体ならリリスも同じニオイを持っててもおかしくない。

 

それに俺ってオーフィスに憑かれているらしいし・・・・。

 

「会長さんが憑かれていると言ってましたしね」

 

あ、ロスヴァイセさんにも言われた。

 

ど、どうせなら、加護が欲しかったかな・・・・。

 

俺はコホンとひとつ咳払いすると、リリスに自己紹介を始めた。

 

「俺は兵藤一誠だ。こっちはアリス、そっちはアーシア、ゼノヴィア、イリナにレイヴェル。そんで、ロスヴァイセさん」

 

皆も「よろしく」と笑顔で対応した。

 

「ひょうどう、いっせい・・・・ひょうどう・・・・いっせい・・・・」

 

「覚えづらかったか? イッセーでいいよ」

 

「・・・・」

 

あらら、また無言になっちまった。

 

やっぱり、オーフィスよりも更に表情がないな。

オーフィスは微笑んだりもするが・・・・・。

 

『禍の団』・・・・いや、リゼヴィムの野郎は奪ったオーフィスの力でどんな作り方をしやがったんだ?

 

空腹を満たし、満足したのかリリスに席を立つ。

 

「帰るのか?」

 

俺が訊くとリリスは振り返ることもなく、

 

「リゼヴィム、まもる、リリスのやくめ」

 

と述べるだけだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、この後はどうする?」

 

食事を済ませ、支払いを終えた俺達は店を出た。

 

俺が皆に訊くとレイヴェルが時計を見ながら言う。

 

「そろそろ良い時間ですし、城の方へと戻りましょう。あまり、リアスさま達と離れるのもどうかと思いますわ」

 

それもそうか。

 

今のところ動きがないとはいえ、いつマリウスが動くかも分からないからな。

 

先生はどうか分からないけど、リアス達はギャスパーの親父さんとの話し合いから戻ってるだろうし。

 

「そんじゃ、ぼちぼち帰るか」

 

皆が頷き、城への帰路につく。

 

町を行き交う吸血鬼とすれ違いながら、帰りもあれやこれやと面白そうな物を売っている店を眺めていく。

 

ロスヴァイセさんが、ここに百均が無いことに不満を漏らしていたが・・・・・。

 

そんな中―――――俺の視界にフードを深く被った少年が映った。

これだけ人がいる中で、なぜかその少年に目が離せなくなってしまったんだ。

 

その少年から感じる気配は吸血鬼のものではなく、明らかに普通の人間(・・・・・)のものだった。

 

この地に吸血鬼以外の存在がいること自体、珍しいことなのは町中を歩いている時に理解できた。

 

それなのに、その少年には誰も見向きもしない。

それどころか、アリス達もその少年に気づいていないようだった。

 

・・・・・胸の内側から沸き起こる不安。

 

何か得体の知れない存在と向き合った時のようなこの感じは・・・・・。

 

一歩、また一歩と近づく度に嫌な汗が流れていく。

 

そして、すれ違う瞬間――――――

 

 

「―――――やっと会えたね。勇者くん?」

 

 

――――――っ!

 

こ、こいつ・・・・まさか――――――――

 

その言葉に俺は立ち止まり、そのまま通り過ぎていく少年の背中を睨んだ。

 

何事もなかったように歩いていく、白いパーカーの少年。

 

ほんの一瞬だったけど、不気味な笑みが浮かんでいるのが見えた。

 

ヤバい・・・・よく分からないけど・・・・あいつはヤバい・・・・!

 

ただすれ違っただけなのに、俺の中の危険信号が全力で赤色を発している。

 

突然立ち止まった俺を皆が怪訝な表情で見てくる。

 

「イッセーさん? どうしたんですか? すごい汗ですけど・・・・・」

 

アーシアが心配そうに俺の頬を伝う汗をハンカチで拭ってくれた。

 

「あ、ああ・・・・大丈夫だよ、アーシア。皆、悪いけど先に戻っててくれないか?」

 

「いきなりだな。どうしたんだ?」

 

俺のお願いにゼノヴィアは首を傾げながらそう尋ねてくる。

 

城に戻るはずだったのに、いきなりこんなことを言い出すんだから疑問に思われても仕方がないか・・・・・。

 

「ちょっと用事を思い出したんだ。すぐに戻るよ」

 

俺はそう言って皆に背を向けて、先程の少年のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

俺が行き着いた先は町の端にある小さな広場だった。

 

レンガが敷かれ、真ん中には噴水。

寒さのせいで、噴水に張られた水は薄く凍りついていた。

 

周囲は街灯があるものの、町の端にあるせいか、薄暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

そんな広場の中央―――――噴水の前に立つ白いパーカーを羽織った少年。

 

背の丈はオーフィスよりも少し大きいくらい。

顔立ちも幼く、一見、小学生にも見える。

 

特徴的なのは小猫ちゃんのような白髪くらいで、他は特に気になるところがない普通の子供だ。

気配も人間のそれだ。

 

それなのに、俺はこの子に危機感を覚えてしまった。

不気味な・・・・まるで心臓でも握られたような・・・・。

 

そもそも、吸血鬼の国にこんな人間の子供が一人でいることもおかしなことだ。

 

だが、それ以上に――――――

 

こいつは俺のことを知っていた。

 

俺は少年に話しかける。

 

「おまえ・・・・何者だ? リゼヴィムの協力者か?」

 

思い当たるのはリゼヴィムが言っていた『坊っちゃん』。

 

俺のことを知っていて、このタイミングで姿を現すとしたらそいつしかいないだろう。

 

少年はニッコリと微笑み、答えた。

 

「アハハ♪ はじめましてだね、勇者くん。僕はアセム。アセムでも、ムーくんでも好きなように呼んでねー」

 

軽い口調で話すアセムと名乗った少年。

 

敵意は感じない。

リゼヴィムのような悪意も今のところ感じない。

 

俺が注意深く見ていると、アセムは信じられないような言葉を口にした。

 

「それでね、僕は元々アスト・アーデの神で君が倒したロスウォードの創造主なんだよー」

 

「な・・・・・にっ・・・・・!?」

 

想像もしていなかったその言葉に、俺は目を見開き、声を漏らした。

 

こいつが・・・・あいつの・・・・ロスウォードを創った悪神の一人だってのか・・・・・!?

 

そんな・・・・そいつらはロスウォードに殺されたって・・・・。

 

いや、仮に生きていたとして、なぜこっちの世界にいる!?

 

 

ドクンッ

 

 

心臓が大きく脈打った。

それと同時に胸が焼けそうなくらい熱くなる・・・・!

 

こいつはあの時と同じだ。

グレンデルから出てきた小型ドラゴンを見たときと同じ・・・・・!

 

怒りが・・・・恨みが・・・・怨念とも言える強烈な感情が内側から湧き出てくる!

 

「ガッ・・・・んだ、よ・・・・これ・・・・っ」

 

あまりの苦しみにその場に膝をついてしまう。

 

突然の俺の変調にアセムは、

 

「あれれ? どうしちゃったのかな? あっ、そっかー、君の中の彼が騒いでるんだね。まぁ、彼からすれば僕は恨むべき相手だろうし? 前の時は本気で殺されかけたからね。―――――ねぇ、ロスウォード」

 

ロスウォード・・・・!?

 

俺の中に・・・・奴がいるってのかよ!?

 

ここで俺はハッとなる。

消える直前、あいつは俺に何かをした。

もしかして、最後に俺にしたことって・・・・。

 

「一目で分かったよ。勇者くんの内側から向けられてくるその殺意。いやー、懐かしいなぁ」

 

特に顔色を変えることなく過去を懐かしむように語るアセム。

 

ふと思い出すのはイグニスの言葉。

 

 

『ずっと昔に終わったはずなのに・・・・終っていなかった。多分、そういうことなのでしょうね』

 

 

あれはこういうことか。

 

ロスウォードの奴が殺したはずの悪神は実は生きていて、俺の中に移した奴の何かがアセムの力を感じ取って騒いでいた。

 

あいつは自分を創った神々を恨んでいたからな。

そうと分かれば色々と納得できるところも出てくる。

 

アセムは微笑みを浮かべながら言う。

 

「僕はね、君をずっと見てきたんだよ。君があっちの世界に現れた時から、ずっとね」

 

「・・・・どういうことだよ?」

 

「言葉通りの意味だよ。そうだね、分かりやすいように最初から話そうか―――――」

 

 

 


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