ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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11話 出撃! オカルト研究部!

[木場 side]

 

 

時は少し遡る。

 

これはヴラディ家当主との交渉を終え、部屋に戻った後のことだ。

 

《外とここを繋げるのに時間がかかりやしたが、なんとかなってよかったですぜ》

 

そう言うのはシトリー眷属の新メンバー、ソーナ会長の新しい『騎士』のベンニーア。

 

ここに来る途中で朱乃さん達と別れたとは聞いていたけど、どうやら脱出ルートの確保は上手くいったようだ。

 

そして、

 

「ごきげんよう、皆さま。お元気ようで何よりですわ」

 

そう挨拶をくれるのは以前、カーミラからの特使として部室に現れたエルメンヒルデ。

 

この人もベンニーアや同じくソーナ会長の新しい『戦車』のルガールさんと共にこの部屋に転移してきたんだ。

 

・・・・・ただ、天井に転移してきたため、この人は盛大に尻餅をついてしまっていたけど。

 

部長がエルメンヒルデに尋ねる。

 

「あなたもこの国に潜入していたのね?」

 

「当然です。町で城へのルートを工作員と決めかねている時にそこのベンニーアさんと裏路地でお会いできたものですから。―――――お知らせすることがありますわ」

 

改まる彼女は、真剣な表情でこう伝えてきた。

 

「―――――間もなく、マリウス・ツェペシュ一派は聖杯を用いた一連の行動を最終段階に移行するとの密告がありました」

 

『―――――っ!』

 

それを聞いて僕達は表情を厳しくする。

 

「最終段階・・・・・まさか」

 

先生のその一言にエルメンヒルデはこう言う。

 

「ヴァレリー・ツェペシュから聖杯を抜き出し、この国を完全に制圧するようです。付け加えるなら、聖杯の力を用いて、この城下町の住民全てを作り替える計画を発動させる、と」

 

そんな・・・・・聖杯を抜き出すなんて。

 

それに住民を作り替えるというのは・・・・・。

 

先生が顎に手をやり、目を細めた。

 

「聖杯のことは予想できた。リアスから伝えられたマリウスの『解放』という言葉。つまり、はなからそのつもりだったと言うわけだ。・・・・しかし、住民を全員弱点のない吸血鬼にするつもりか。それはすでに吸血鬼と呼べる存在なのか?」

 

エルメンヒルデも嫌悪の表情を浮かべていた。

 

「おぞましい限りです。聖杯の力で吸血鬼の特性を持った他の生物に変える気なのですから。我々、町に潜入したカーミラの者はもうすぐツェペシュ派の政府側と共に反政府側の打倒を開始するつもりです」

 

彼女達はすでにクーデター鎮圧のために行動を始めているということか。

カーミラもツェペシュの政府側も今回の一件を重く見ているようだね。

 

図らずも真実を知ってしまったギャスパーくんは・・・・小柄な体を震わせて、曇った表情となっていた。

 

震えた声でギャスパーくんが訊く。

 

「・・・・あ、あの、聖杯を抜き出されたら、ヴァレリーは・・・・」

 

「死ぬ。奴は最初から抜き出す計画だったのだろう。抜き出して手元に置けば損失の心配をせずに使えるからな」

 

ハッキリとした先生の言葉にギャスパーくんは床に崩れ落ちる。

 

「・・・・そ、そんな・・・・マリウスさんは解放してくれるって・・・・日本に行ってもいいって・・・・全部、嘘だったの・・・・」

 

ボロボロと涙を溢すギャスパーくんの肩を部長が優しく抱いた。

 

「あそこまでの卑劣漢もそういないものよね。――――不愉快極まりないわ」

 

「だね。ここは早くヴァレリーさんを連れ出し――――」

 

美羽さんがそう続こうとした矢先、窓から目映い光が室内に入ってきた。

 

朝というわけではない。

そもそも霧に覆われたこの町にここまで明るい陽の光はは届いてこない。

 

となると・・・・・

 

僕達は窓から外の様子を伺うと・・・・巨大な光の壁が城を覆うように発生していた。

 

これは魔法陣の光!

しかも、これだけの規模!

 

これは――――――

 

先生がその光景に舌打ちした。

 

「先手を取られたか! おそらくカーミラ側の動きが察知されているな。奴ら、この時点で聖杯を抜き出す儀式を始める気だ! これは・・・・かなりオリジナルの紋様が刻まれているが、神滅具を所有者から抜き出す時に描く術式で間違いない!」

 

神滅具を抜き出す術式魔法陣の光!

 

急がないと、手遅れになってしまう!

 

ベンニーアが城の外と繋げている魔法陣の中央にエルメンヒルデが立つ。

 

「私は外から仲間と共に行動します。あなた方は早く脱出してください」

 

先生がエルメンヒルデの言葉に嘆息する。

 

「おいおい、この状況をおまえさん達だけで解決できると思っているのか? 相手はテロリストと絡んでいる。間違いなく、邪龍も出てくるぞ?」

 

「ええ、吸血鬼の問題は吸血鬼が―――――と、言いたいのですが、我らが女王カーミラもあなた方の援助をお認めになられています。私も今更、あなた方のやり方に口を挟むつもりはございません」

 

少々、不満な口調で言うエルメンヒルデ。

 

どうにも彼女達は極力、他人の力は借りたくないのが見てとれる。

 

「それではごきげんよう。お手数ですけど、外と繋げてください」

 

ベンニーアに転移魔法陣の再度展開するよう願うエルメンヒルデ。

 

すると―――――足元に展開された魔法陣からスポッと落ちていってしまった。

 

「きゃぁあああああ―――――」

 

魔法陣の先から彼女の悲鳴が聞こえてくるけど・・・・。

 

ベンニーアが舌をチロリと出した。

 

《繋げた先もどっかの屋内の天井ですぜ》

 

ハハハ・・・・今頃、また尻餅をついてるだろうね。

 

なんというか、気の毒だよ。

 

ギャスパーくんが強い瞳で訴える。

 

「僕、ヴァレリーを救いたいです! 皆さん! どうか・・・・どうか! 僕に力を貸してください!」

 

――――っ!

 

やっぱり、ギャスパーくんは変わったよ。

 

これもイッセーくんの影響かな?

 

まぁ、僕も大いに彼の影響を受けているけどね。

 

美羽さんがギャスパーくんの肩に手を置いた。

 

「もちろんだよ! ボクはギャスパーくんのためなら、喜んで力を貸すよ? 一緒にヴァレリーさんを助けよう!」

 

小猫ちゃんもギャスパーくんの手を握る。

 

「・・・・友達の友達は私の友達。ギャーくん、私も手伝うからね」

 

「私も喜んでお手伝いしますわ。ギャスパーさんは私のお友達ですもの」

 

レイヴェルさんもそう言う。

 

ゼノヴィアがデュランダルを担いで不敵に笑う。

 

「私も力を貸そう。おまえは私の後輩だからな。先輩を頼れ、パワー勝負ならいくらでも披露してやる」

 

僕もそれに続いた。

 

「それじゃあ、僕はテクニック勝負かな。強化された純血の吸血鬼を相手にどこまで試せるか、グレモリーのナイトとしてぜひ参戦したいね」

 

「そうそう、一年生を助けてこその二年生よね! 私も天界代表として悪いヴァンパイアを断罪しちゃうわ!」

 

「なら、私は堕天使代表でいかせてもらおうかな。私もギャスパーくんの先輩だし!」

 

「はい! 私も頑張ります! い、いざとなったら、パ、ファーブニルさんを呼びますし!」

 

イリナやレイナさん、アーシアさんもそう答えた。

 

朱乃さんがギャスパーくんを優しく抱き締める。

 

「うふふ、私もお手伝いしますわ」

 

そして、部長がギャスパーくんに力強く宣言した!

 

「いきましょう、ギャスパー。グレモリー眷属は、オカルト研究部は困った部員をほっとけるはずがないのだから!」

 

ギャスパーくんは皆の戦意に涙ぐむが、それを我慢した。

 

「皆さん・・・・。はい! 僕、頑張ります!」

 

シトリーのベンニーアとルガールさんも言う。

 

《あっしらも手伝いますぜ。ねぇ、ルガールの兄ちゃん》

 

「うむ、ソーナ殿からの命を果たしてこそのシトリー眷属だろう」

 

僕達が意気込みを高めるなか、先生とロスヴァイセさんが少し離れたところで僕達を眺めていた。

 

「いいねぇ、若いもんは。なぁ、ロスヴァイセ先生」

 

「私も若いのですが。まぁ、私も存分に魔法を振るわせてもらいましょうか」

 

「そんじゃ、俺も久々にやるか。ところで、美羽、レイヴェル。おまえらの『王』と『女王』はまだ帰ってこないのか?」

 

先生が首をポキポキと鳴らせながら美羽さんとレイヴェルさんに尋ねた。

 

イッセーくんはゼノヴィア達と一緒に城下町の下見に行っていたんだけど・・・・・戻る際に、用事があると言い残して皆と別れてしまったらしいんだ。

 

アリスさんはそんなイッセーくんを追いかけていったそうなんだけど・・・・・。

 

美羽さんが答える。

 

「さっきから連絡を入れてるんだけど、反応がないんだ。多分、通信が届かない場所にいるか・・・・」

 

「通信が出来ない状況にあるか、ですわね。・・・・心配ですわ。別れた時のイッセーさまはとても恐い顔をされていましたので・・・・」

 

レイヴェルさんもそう続いた。

その表情はとても心配している様子だ。

 

イッセーくんが皆に知らせず一人で動く。

 

『禍の団』に関することなら、誰かに伝えてから行動するはずだ。

 

それをしなかったとなると―――――

 

「異世界関連でしょうね」

 

部長がそう呟いた。

 

先生も頷く。

 

「リゼヴィムが言っていた『坊っちゃん』とやらがイッセーの前に現れたと考えるのが自然か。あいつのことだから無事に戻ってくるとは思うが・・・・」

 

「大丈夫だよ」

 

先生の言葉を遮って美羽さんが口を開いた。

 

皆の視線が美羽さんへと向けられる。

 

「一人で行ったのは、問題ないと判断したからだと思う。お兄ちゃんがそう判断したなら大丈夫だよ。それに、アリスさんもいるなら、ね?」

 

だから、と美羽さんは続ける。

 

「今は先を急ごう。お兄ちゃん達もすぐに戻ってくるはずだからね。皆で、ヴァレリーさんを助けよう!」

 

『おおっ!』

 

皆が拳を挙げた。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、結界張ったから外部から侵入されることはないし、盗聴もできないよ」

 

「ご苦労だ、美羽。ま、外からカーミラと結託した政府側の者達が攻め込んでくるだろうから、そっちに主な人員を割くだろうけどな。一応の警戒は必要だ」

 

と、先生が言う。

 

先生が言うようにこちら側に兵士達が来る様子も気配も感じられない。

 

仮に来たとしても美羽さんの強固な結界があれば容易に防げるだろう。

 

外からは激しい爆音や叫び声が聞こえてくる。

既に戦闘は始まっているようだ。

 

窓を覗けば町の建物の幾つかが破壊されていた。

 

先生は懐から一枚の図面を広げる。

 

「くすねてきた城の見取り図だ。城の地下深くに広大な空間があり、四つの階層に別れている。あの魔法陣が城を中心に展開したということは―――――」

 

先生がとある階層を指差す。

そこは最下層にある祭儀場だった。

 

「この祭儀場で聖杯の取り出しを行っていると見て間違いない」

 

「ここに『禍の団』もいるわけだね」

 

ゼノヴィアがそう言い、先生も肯定する。

 

「クーデターに関与した上役とその近衛兵はここにいるだろう。んで、俺達が向かうのはここになる」

 

「イッセーくん達に知らせないとですね。今、どの辺りにいるのかしら?」

 

レイナさんが窓の外を見ながらそう呟いた。

 

町は今頃、勃発した戦闘で混乱状態になっているだろう。

その中を切り抜けてくるとなると、少し時間がかかるかもしれない。

 

イッセーくんのことだから、住民を守りながら来るだろうしね。

 

「それに関しては・・・・・美羽、どうだ?」

 

「連絡はつかないけど、ボク達の位置は定期的に送れるよ」

 

「なら、それでいい。イッセーはその気になれば町全体に気の探知をかけられる。ある程度の場所さえ分かれば向こうもこちらに追い付ける」

 

それに加えて僕達が戦闘に入れば、それの気配で僕達の居場所がイッセーくんに伝わるだろうしね。

 

僕は見取り図に赤ペンで×印をつけながら言う。

 

「この二日間で城に待機している兵士の活動範囲はだいたい把握しました。一応、地下までは兵士と遭遇しないルートは用意できそうです」

 

ただ、この非常事態で兵士の首尾配置も変わっているだろうけどね。

 

まぁ、遭遇したとしても、ここのメンバーなら容易に退けられるだろう。

 

問題は・・・・

 

「――――地下。僕達がここへ向かう以上、強敵とぶつかるのは必然ですね」

 

重要な聖杯の取り出しを行っている以上、マリウスもその近辺の重鎮、兵士、そして・・・・・邪龍もここに集まっているだろう。

 

駒王町でレイヴェルさんが拐われた時、イッセーくん達が戦ったというグレンデル。

 

そのグレンデルは本気のイッセーくんの攻撃を受け、肉体が半壊したような状態になったにも関わらず、立ち上がってきたという。

 

今回はどうなるか分からないけど、少なくともクロウ・クルワッハはこの地にいる。

 

「ボク達って、こういうの多いね」

 

美羽さんが深く息を吐いた。

 

先生が美羽さんの頭に手を置く。

 

「ま、だからこそ、著しい成長を遂げたんだろうさ。おかげで、こいつらも出会った時とは比べ物にならないほどの高火力と突破力を持つことができた」

 

それは僕も同意見かな。

 

これまでの激戦、激闘。

強敵と出会い、それらに対抗する力を身につけるための日々の修行があったからこそ僕達は成長できたと思うよ。

 

先生が見渡すようにして皆に告げる。

 

「目的は聖杯の抜き出しを阻止することだ。残酷なことも言うが、最悪、取り出しがされた後でもマリウスは捕縛する。マリウス以外の上役は・・・・出来るだけ生き残らせろ。テロリストどもは問答無用で構わん。俺が許す。邪龍の件もあるが、攻めが難しくなった場合はヴァレリーと聖杯だけ確保して、後は逃げの一手だ。無理に倒そうとするな。グレンデルとやり合ったメンバーは理解していると思うが、それだけ邪龍はしぶとい。余計な消耗は避けろ。良いな?」

 

『はいっ!』

 

ヴァレリーさんと聖杯の確保。

それが僕達が必ずクリアしなければならないミッション。

 

「ぼ、僕はヴァレリーを取り戻します!」

 

ギャスパーくんが立ち上がり、気合いの入った一言!

 

『もちろん!』

 

皆がそれに笑顔で応じた。

 

僕達は一同に立ち上がり、客室を飛び出した。

 

オカルト研究部、出撃だよ!

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

~ほんの少し前のイッセー達~

 

 

城下町にある空き家にて。

 

「とりあえず、準備は整えたからティアは転移してきてくれ」

 

『承知した』

 

ティアマットをこちらに呼ぶための魔法陣を敷いた一誠とアリス。

 

町からは爆音と悲鳴が聞こえてくる。

 

カーミラ派とツェペシュ派の政府側がクーデターの鎮圧に乗り出したのだ。

 

アリスが言う。

 

「これは早いところ合流しないとマズいわね」

 

「ああ。とりあえず、ティアが転移してきたら城に向かいつつ―――――」

 

一誠がそこまでいいかけた時だった

 

空き家の天井に魔法陣が展開された。

 

そして、そこからは―――――

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「えっ!? のわっ!?」

 

突如と降ってきた何か。

それは一誠の顔面に直撃。

 

 

ドスンッ!

 

 

一誠が倒れた衝撃で床に溜まっていた埃が舞う。

 

「え、ちょ・・・・なに!? イッセー!?」

 

宙に漂う埃を払いながら一誠の名前を呼ぶアリス。

 

すると、声が聞こえてきた。

 

「ま、また天井からだなんて・・・・。なんて不親切な・・・・」

 

一誠がいた場所には見覚えのある人物がいた。

 

アリスはその人物に指を指しながら叫ぶ。

 

「あ、あんた・・・・あの憎たらしい吸血鬼!」

 

「なっ!? いきなりなんですか! 失礼ですわ! エルメンヒルデです! ・・・・なぜ、あなたがここに? 確か、あなたは赤龍帝と―――――ひぁっ!」

 

エルメンヒルデがそこまで言いかけた時、妙な感覚が彼女を襲った。

こそばゆいような、妙な感覚が自分の股の間から伝わってきたのだ。

 

エルメンヒルデは恐る恐る自分のスカートの中を見る。

 

そこにいたのは―――――――

 

「むぐぐぐぐ・・・・・ぐるじぃ・・・・! な、なんだぁ!?」

 

自分の下でもがき苦しむ一誠の姿。

 

そう、彼女が尻餅をついた場所は―――――一誠の顔の上だった。

 

つまり、一誠の顔にはエルメンヒルデの下着が直で当たっている・・・・・というより、顔が下着にめり込んでいる状態だ。

 

その状況を認識した途端に、純血の吸血鬼特有の血の気のない顔が一気に赤く染まった。

 

「な、ななななななな・・・・・・!」

 

人形のような作りの顔がみるみる恥じらいを帯びた少女のような顔へ。

 

「ぷふぁ! な、なんなんだよ、いったい・・・・。あ、あれ、クマさんがいる・・・・」

 

一誠がそう口にした瞬間―――――――

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

エルメンヒルデの悲鳴がこの空き家に響き渡った。

 

ティアマットが転移してきたのはそれと同時だった。

 

 

 

 

~ほんの少し前のイッセー達、終~

 

 

 

 


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