ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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7話 ロスヴァイセの過去

ルフェイとの契約を終えた俺は外出用に着替えて玄関で待機していた。

 

玄関にはロングブーツが準備されているんだが…………ロスヴァイセさんのかな?

美羽やアリスはこういうの持ってなかったはずだし、リアス達のものでは無さそうだ。

 

少し経つと階段から降りてくる人が。

 

そちらを見てみると――――――タッチコートに短いフレアスカートという出で立ちのロスヴァイセさんが!

今時の十代女子っぽくバッチリ決めている!

いつもはスーツかジャージという両極端な人が、オシャレしてる!

 

なんてこった…………レアだ!

レアすぎる!

 

などと思っているとロスヴァイセさんが半目で訊いてくる。

 

「…………今、少し失礼なこと考えてませんでしたか? 私だってたまにはこういう格好をしますよ」

 

「い、いえ! 似合ってるなぁ、と思いまして!」

 

ブンブンと首を振りながら言う俺。

 

うーん、心の中読まれてた!

顔に出てましたか!?

 

「それじゃあ、行きますか?」

 

俺がそう言った時だった。

 

こちらへ歩いてくる人影が二つ。

 

―――――リアスと朱乃だ。

 

少々不安げというか悲しげな二人だが…………。

 

リアスが言う。

 

「夜までには帰ってきなさい。冥界に行く前のミーティングもあるし」

 

「了解だ」

 

「わかりました」

 

返事をする俺とロスヴァイセさん。

 

デートの予定は二人で軽く買い物して、食事も外で済ませてくるというなんとも大雑把なものだ。

まぁ、昨日の今日だから仕方がないと言えばそうなるんだけど。

 

すると、リアスが苦笑しながら言った。

 

「ゼノヴィア達には二人の邪魔をしないように言って聞かせておくわ。私達も後を追うようなことはしないから」

 

あー、そういや、朱乃との初デートの時は皆追いかけてきてたなぁ。

何人かは別で買い物に行ってたみたいだけどさ。

 

あの時のことを思い出している俺だが、その間にもリアスと朱乃の表情は益々重くなっていく。

 

ふ、二人にとって俺達のデートはあまりよろしくないらしい…………。

 

俺は息を吐くと、二人に言った。

 

「リアス、朱乃。今度、ドライブに行こうか。もちろん、二人の予定が合えば――――」

 

「「うん!」」

 

おおっ、言いきる前に返事をされてしまった!

 

さっきの半分黒に染まっていた表情はどこへやら。

今では目をキラキラ輝かせて、眩しいくらいの笑顔だ。

 

二人に別れを告げ、玄関を出た俺とロスヴァイセさんは家のガレージへ。

 

シャッターを開けてスレイプニルを起動させる。

 

ちなみに、今回はサイドカーは外してある。

二人だし。

 

ロスヴァイセさんが訊いてくる。

 

「バイクで行くのですか? てっきり電車で行くものだと」

 

「まぁ、電車でも良いんですけどね。遠出の時は出来るだけ使いたいというか…………。こっちの方が圧倒的に速いですし」

 

「アザゼル先生のお手製ですから、人間界の電車よりは速いのでしょうけど…………。スピード違反はダメですよ?」

 

「アハハハ…………分かってます」

 

免許の種類的にはアウトなんだけどね。

それを言ったら色々言われそうなので黙っておこう。

 

俺はヘルメットを被るとロスヴァイセさんにもヘルメットを渡し、スレイプニルに跨がる。

 

「ロスヴァイセさん、乗ってください」

 

ロスヴァイセさんは頷き、俺の後ろに座る。

 

すると―――――分かっていたけど、ロスヴァイセさんのおっぱいの感触!

 

女の子とタンデムって最高だな!

 

よぅし、これからも女の子を後ろに乗せていこう!

おっぱいを楽しむために!

 

こうして、俺とロスヴァイセさんのデートはスタートした。

 

 

 

 

デートの場所だが、スレイプニルを走らせるだけあってこの町ではない。

 

俺達が訪れたのは日本の首都、大都市東京。

なんでも、ロスヴァイセさん的に東京に用があるらしい。

 

目的の場所近くの駐車場にスレイプニルをとめた俺達は徒歩でその場所へ向かう。

ちなみに認識できない用のボタンを押してきた。

スレイプニル、デカいし派手だ。

それに何かあった時はこちらに転移させるから、その時に見られるのは不味いからね。

 

流石は東京、人が多い。

 

そんな中で俺達は…………いや、ロスヴァイセさんは凄く目立っていた。

 

「…………外国のモデルさんかな?」

 

「すっげぇ美人…………」

 

道行く人がすれ違う度にロスヴァイセさんへ好奇の視線を向けてくる。

 

まぁ、当然か。

元々、美人なロスヴァイセさんがこうしてオシャレしてるだ。

周囲にキラキラしたエフェクトが見えるほど美女オーラを放ってる。

 

ただ、人を寄せ付けないほどのオーラを放っているため、逆に誰も声をかけようとはしてこなかった。

 

当のロスヴァイセさんは視線が集まるなか、若干恥ずかしそうにしていた。

 

「…………ジャージやスーツ姿だったら、こんなに目立たなかったのでしょうか…………」

 

「そんなことはないですよ。ロスヴァイセさん、美人ですから、どんな格好でも目立ちますって」

 

率直な感想を述べてみたが、ロスヴァイセさんはというと、

 

「…………」

 

頬を赤く染めて黙りこんでしまった!

 

あ、あれぇぇぇ!?

いつものクールなロスヴァイセさんはどこに行ったの!?

なんで、そんな乙女顔してるの!?

 

歩くこと十分。

 

着いたのは駅ビルのとあるフロア。

ここがロスヴァイセさんの目的の場所。

 

それは――――――百均だった。

 

フロアひとつ丸ごと百円均一という大型ショップ。

 

着いた途端、ロスヴァイセさんが歓喜の表情を浮かべていた!

 

「ここが夢にまでみた女性向け百円均一の大型店…………『ベラ』っ! このブランドはまさに女性向けのオシャレなアイテムをラインナップしてるんです! 百円とは思えない高機能で実用性の高い商品を取り揃えいることで有名でして! ああ、あれなんてもう…………!」

 

…………一人で熱く語り、商品を手に取り始めてしまった。

 

楽しんでいるようで良かったけど…………残念だ!

いや、人の趣味をどうこう言うのはあれだと思うが…………。

 

う、うーん…………。

 

「見てください、イッセーくん! これもそれもあれも全部百円です! 二百円とか三百円なんて商品は一つもないんですよぉぉぉっ!」

 

やはり、ロスヴァイセさんはロスヴァイセさんだった。

 

 

 

 

 

 

買い物も一段落して、俺とロスヴァイセさんは近くのカフェのテラス席で休憩していた。

 

「す、すいません…………調子に乗ってしまって」

 

申し訳なさそうな顔で謝るロスヴァイセさん。

 

なぜかって?

 

それはね…………

 

「本当に良いんですか? 私の買い物にお金を出してもらって」

 

「まぁ、これもデートですし。男が出す方が格好がつきますよ」

 

「でも一万円分も…………」

 

うん、確かに財布が悲鳴をあげかけたよ。

 

まさか百アイテムも購入するなんて思わなかったもん。

いきなり一万円も出費することになるとは予想外過ぎた…………。

 

お金、持ってきておいて良かった。

 

ちなみに購入した物は近場にあった配送業者で配達してもらうことにした。

流石に多すぎたもんで…………。

 

まぁ、お金のことは良いんだけどさ、若い娘さんが態々東京にまで来て、この買い物で良かったのだろうか?

 

美羽と買い物に行くときは「この服可愛い!」とか「似合ってるかな?」なんてことを訊いてくるのだが、ロスヴァイセさんの場合、「これで百円!?」とか「見てください! これも百円ですよ!」とかだ。

 

一体、何度『百円』という言葉を聞いたか…………。

 

この先、ロスヴァイセさんは大丈夫だろうか。

心配になってくるよ。

 

「あ、あの…………つまらなかったですか? す、すいません、一人だけハイテンションになってしまって」

 

俺が難しそうな顔をしていたためか、ロスヴァイセさんが気まずそうな顔でそう漏らした。

 

俺が考えているのはそっちじゃないんだけどね。

 

「まぁ、ハイテンションのロスヴァイセさんを見るのも面白いですよ。普段はクールに決めてますし。なんかこう、新鮮でした」

 

普段は見られそうにないところを見せてもらってるだけで、こちらとしては退屈しない。

つまらないなんてことはなかった。

 

ロスヴァイセさんはカップのコーヒーに口をつけた後に言う。

 

「思えば、男性とのデートなんてこれが初めてです」

 

「そうなんですか? というより、初デートの相手が俺で良かったんですか?」

 

正直、女性のエスコートなら木場の方が上手いし、アザゼル先生ならもっと面白い場所に連れていったりしてくれるだろう。

 

俺も何度かのデート経験はあるけど、普通レベルだ。

 

ロスヴァイセさんは照れくさそうに続ける。

 

「も、もし、周囲の男性でデートの相手を一人選べと言われたら、イッセーくんを選ぶでしょうし…………。か、勘違いしないでくださいね! 『もし』です! 『もし』の話ですから!」

 

アハハハ…………そんなに必死になって強調しなくても…………。

 

俺が苦笑していると、ロスヴァイセさんは息を吐いて表情を曇らせた。

 

「私は学生時代はずっと勉強ばかりしていましたから…………。周囲のヴァルキリー候補生達はヴァルハラの戦士と化したカッコいい英霊達の話で盛り上がっている時も勉強で…………。同級生が異性にうつつを抜かしている間に一歩でも前進しようとただひたすらに机に向かっていました」

 

ロスヴァイセさんは遠い目をしながら続ける。

 

「青春を勉強に費やしたおかげでヴァルキリーになることが叶いましたけど、今思えばもう少し遊んでおけば良かったかな、なんて振り返ることもあります」

 

「何言ってんですか。まだ青春を謳歌できる十代なんですし、今からでもいけますよ。…………俺なんて気づいたら十代終わってますし」

 

青春を謳歌できる十代。

その貴重な十代のうち三年は異世界にいて、修業するか戦場にいたもんな、俺。

なんとも血みどろ臭い青春だった…………。

 

否!

 

それでも、俺は青春を送ると決めたんだ!

実年齢を誤魔化し、十七歳の高校生として!

 

俺は青春を謳歌してみせるぞぉぉぉぉぉ!

 

「ま、そういうわけで、ロスヴァイセさんはまだまだ青春できますよ」

 

「どういうわけですか…………?」

 

そういうわけです。

とりあえず、ロスヴァイセさんはまだ十代なんで余裕で青春できます。

断言できます。

百均好きは少々あれですが、美人で性格も可愛いので全然いけます。

 

「それに若くして主神のお付きだなんて凄いことじゃないですか」

 

「…………置いていかれましたけどね」

 

「あ、あれはあのじいさんがボケてるだけなんで…………気にしない方が」

 

「…………そうします」

 

うっ…………地雷踏んじまった!

ロスヴァイセさんが更に落ち込み気味になってしまった!

 

でも、俺としてはそのおかげで仲間になってくれたから良かったと言えばそうなのかもしれない。

 

ロスヴァイセさんが憂いのある表情を浮かべる。

 

「…………それに私はイッセーくん達が言うほど大した者でもありません」

 

そう言うと、ロスヴァイセさんは懐からワッペンを取り出した。

幾重ものルーン文字を円形に列ねた独特の形。

 

これは…………ゲンドゥルさんの転移魔法陣と同じ紋様だ。

 

ロスヴァイセさんが続ける。

 

「これは私の家に伝わる家紋みたいなものです。家の長子たる者はこれを代々受け継ぎ、心と体に刻んで後世に繋げていきます。…………私は、長子でしたがこの紋様を…………受け継げなかったんです」

 

アースガルズに住まう半神の一族はそれぞれの家で独自の魔法、技術、伝統を作り研磨して、後継に継承していくそうだ。

そして、代替わりをしていくときに家の跡目を継ぐ証として、独自の紋章を心と体に刻ませる。

これはロスヴァイセさんの家も例外ではなかった。

 

当然、長子たるロスヴァイセさんも受け継ぐ予定だったのだが…………どんなに儀式をしてもロスヴァイセさんの心身に紋章は宿らなかったという。

 

ロスヴァイセさんには兄弟がいなかったため、その紋章は親戚が引き継ぐことになり、その人はすんなりと継承儀式が済んでしまった。

 

ロスヴァイセさんがワッペンを持ちながら言う。

 

「相性が悪かったのでしょうか。私の家の者はルーン、ガンドル、セイズをバランス良く使いこなしてきたのですが、私はセイズ式に未だ馴染めず。その代わりにヴァルキリーの間で使われていた戦闘用の攻撃魔法ばかり習得できてしまって…………今では一族屈指の攻撃魔法の使い手となってしました。私だけが異端児なんです。幸い、ヴァルキリーになれたのですが、成績は現役時代の祖母と比べると散々なものでした…………」

 

落ち込み気味にロスヴァイセさんはそう告白してくれた。

 

「我が家の代々の術者は精霊との交信、降霊術を得意としてきましたが、私だけ突出して攻撃魔法をスポンジのように吸収してしまいまして…………。あげく、効率化や燃費の見直しもできるほどに明るくなってしまいました。父も母も誉めるを通り越して、呆れてしまったようです」

 

「それでも十分凄いことだと思いますよ? 美羽も言ってました。ロスヴァイセさんの技術力と才能は凄いって」

 

「そんなことはありません。子供の頃は一族が引き継いだものを継承し、祖母と同じようにヴァルキリーになると当たり前のように思っていました。周囲もそれに期待していた。でも、叶わなかった」

 

ロスヴァイセさんはワッペンをしまうと、空を見上げてため息をついた。

 

「故郷で青春を謳歌しないまま飛び級で卒業して、ヴァルキリーになれたものの、家の紋章は継承できず。ヴァルキリー時代は特に目立った成績も出せずにいたものの、オーディンさまのお付きになれた。…………オーディンさまの付き添いで日本に来たら、悪魔に転生して人間界の教員になってしまった。…………改めて振り返ると転々とし過ぎて、何がしたいのか、よく分かりませんね。私は一体、何になりたいのか、未だに分からないんです」

 

言われてみれば確かに転々としているな。

他のグレモリー眷属も中々に波瀾万丈な人生送ってきてるし、リアスのもとにはわけありの者が集まっているような気がする。

 

「祖母には申し訳ない気持ちがあるのは確かなんですけどね。期待に応えられていたとは思ってませんし…………」

 

家の紋章を受け継げなかったことを本当に申し訳なく思ってるんだな。

 

ロスヴァイセさんは俺の顔を見て、ハッと気づいたように謝りだした。

 

「…………ごめんなさい。イッセーくんに私の半生を長々と話してしまって…………。イッセーくんは私なんかより、もっと大変な過去を持ってますし、こんなのただの愚痴にしかなりませんよね…………」

 

「いえ、内に抱え込むものを吐き出してくれて良かったと思ってますよ。愚痴でも良いです。俺ならいつでも聞きますよ?」

 

ロスヴァイセさんもあまり自分のことは語らないしね。

今回はロスヴァイセさんを知る良い機会になったと思う。

 

愚痴でも何でも良い。

こうして話してくれたことは嬉しく思うかな。

 

俺は頬をかきながら言う。

 

「何になりたいのかなんてちゃんと理解している人なんて少ないと思いますよ? 俺だってただがむしゃらに生きてきたっていうか…………。まぁ、あれです。何がしたいのか、何になりたいのかが分からないなら、『今』何が楽しいのかを探してみればいいんじゃないですか?」

 

「『今』ですか?」

 

「ええ。どんなに悩んだところで、将来のことなんて大雑把にしか見えません。それなら、『今』の自分が何に夢中になっているのかを見つめてみるんです。それが将来、自分がしたいことに繋がるかもしれません。ロスヴァイセさんは楽しんでいることはありますか?」

 

俺の問いにロスヴァイセさんは暫し黙りこむ。

 

そして、顔をあげて口を開いた。

 

「…………教師としての仕事。人に物を教えるということが、あんなにも楽しいとは思ってなくて」

 

生徒からのロスヴァイセさんの評価は高い。

もちろん、容姿とか性格も含まれているんだけど、ロスヴァイセさんの授業は分かりやすいんだ。

要点を絞って伝えているために担当クラスの成績は高い。

 

先輩教員の方にも可愛がられているようで、破天荒なアザゼル先生に一言もの申せる存在としても一目置かれているようだ。  

 

俺は微笑みながら言う。

 

「それなら、とりあえず今は教師を続けてみたら良いんじゃないですか? きっとこれからのロスヴァイセさんにとっても貴重な時間だと思うんで」

 

「…………そう、ですね。イッセーくんの言う通りかもしれません。悪魔としての生は長いですし、今の教師としての仕事を楽しむのもありかもしれませんね。…………それにしても、イッセーくん」

 

「なんです?」

 

「私と一つしか違わないのに…………人生相談上手いですね」

 

「アハハハ…………。カッコいいこと言ってますけど、さっきの全部モーリスのおっさんの受け売りです」

 

あのおっさん、色んな人から相談受けてたりするからね。

側で聞いてたら覚えてしまった。

 

俺も色々相談受けてもらったっけな。

 

いやー、懐かしいぜ。

 

 

 

~そのころのモーリス~

 

 

 

「おじさま、おじさま」

 

「ん? どうした、ニーナ」

 

「お姉ちゃんの部屋を整理してたら、こんな日記見つかったんだけど…………この間、渡しそびれちゃって」

 

「どれどれ…………こいつは旅の時につけてた日記か。ほほぉ」

 

「どうする? 見てもいいかな?」

 

「ま、内容は大体予想できるがな。見ても良いんじゃないか? 多分」

 

「多分って…………」

 

「バレなきゃ良いだろ。つーか、おまえは気になって気になって仕方がないんだろう?」

 

「まぁね。おじさまも見る?」

 

「おー、見る見る。暇だしな」

 

ニーナは日記をそっと開く。

 

そこには――――――

 

「これ…………お兄さんの観察日記?」

 

「やっぱりな」

 

モーリスとニーナはニヤニヤ顔でアリスのマル秘日記のページを捲っていった。

 

 

 

~そのころのモーリス、終~

 

 

 

「そういえば、ソーナからのオファーは受けるんですか?」

 

ロスヴァイセさんからソーナが建設した学校の将来の先生候補としてオファーが届いていると話を聞いていた。

 

魔法の教師として求められているようだ。

 

「まだ考え中です。もちろん、すぐにというわけではないようなので…………。今度、その学校に行きますし、見学しながら考えてみようかなと」

 

まぁ、それもそうだな。

こういうことはしっかり自分の目で見て判断した方が良いに決まっている。

 

「私に何ができるか、まだ分かりません。ですが、教えるということは好きです。いえ、好きになりました。ですから、今度のお手伝いも楽しみにしているんですよ」

 

微笑むロスヴァイセさん。

 

俺はコーヒーに口をつけた後、言った。

 

「俺にできることがあるなら言ってください。できる範囲で」

 

「ふふ。では、また買い物にお付き合いしてもらいましょうか。イッセーくんとの百均巡りは悪くありません。祖母への言い訳にもなりますし」

 

「アハハハ…………百均好きですね」

 

その辺りは全くぶれないんですね。

いえ、もう分かってますけど。

 

 

 

さて…………

 

 

 

「どういうつもりだ? クリフォトってのは人のデートの邪魔するほど暇なのかよ? なぁ―――――ユーグリット・ルキフグス」

 

俺は後ろの席に座る者に声をかける。

 

ロスヴァイセさんは俺の言葉に驚いて俺の背後にいる者に警戒の構えを取っていた。

 

その者―――――銀髪の青年、ユーグリット・ルキフグスが感心するような声を漏らす。

 

「おや、気付かれてしまいましたか。気配は消していたのですが。しかし、その割りには容易に背後を取らせてくれましたね?」

 

「それぐらいで俺がやられるか。つーか、こういうのは背後取ったとは言わねーよ。…………何の用だ?」

 

俺は低い声音でユーグリットに問う。

 

白昼堂々と東京に現れたことには面を食らったが、こうして俺達の元に現れたということは何か用があってのことなのだろう。

 

俺の問いにユーグリットはフッと小さく笑う。

 

「今日はあなたに会いに来たのではありませんよ、兵藤一誠。そちらの方に用事があるのです」

 

ユーグリットは立ち上がると、ロスヴァイセさんに近づき、手を差し出した。

 

「――――ロスヴァイセ、私達のもとに来ませんか?」

 

はぁっ!?

こいつ、ロスヴァイセさんを勧誘に来たのかよ!?

 

でも、なんでロスヴァイセさんなんだ…………?

 

疑問が次々に浮かんでくる俺だったが―――――ロスヴァイセさんは顔面蒼白となっていた。

 

なぜ自分なのか、心当たりがあるのだろうか?

 

ユーグリットが目を閉じて謳うように口を開く。

 

「―――――ここに知恵がいる。思慮ある者はその獣の数字を数えよ。その数字は人間を表している。その数字とは『666(スリーシックス)』である」

 

うっ…………頭痛がしやがる。

こいつが謳ったのは聖書に記されている文かよ。

 

謳った本人も頭痛がするようで、額を押さえていた。

 

「ご存知の通り、今のは黙示録の一節ですよ。…………頭痛がするので、あまり口にしたくないのですが」

 

「全くだ。悪魔が急にそんなもん口にすんなよ」

 

俺の指摘にユーグリットは苦笑する。

 

黙示録…………グレートレッドも記されているというヨハネの黙示録。

そこには666(スリーシックス)たるトライヘキサも記されていた。

 

ユーグリットはロスヴァイセさん視線を合わせたまま続ける。

 

「アースガルズでの学生時代、あなたは一つの論文を書いたそうですね。タイトルは『黙示録の獣について』」

 

――――――っ!

 

ロスヴァイセさん、トライヘキサについての論文を書いていたのか。

 

そうか、松田達が言っていた図書館でのロスヴァイセさんって…………過去に書いた論文のことを思い出してのことだったのか。

 

ロスヴァイセさんは声を震わせながら言う。

 

「あ、あれは結論がまとまらなかったために破棄しました。提出したのは違う論文ですよ。それをなぜ…………。まさか…………」

 

ロスヴァイセさんはそこまで言うと何かに気づいたようにハッとなる。

 

「あの論文の内容を当時のルームメイトに話したことがあります。あなた達、あの子に何をしたのですか…………!」

 

「記憶を探らせていただいただけですよ。断片しか拾えなかったので、こうして勧誘という手に打って出たわけです」

 

「っ! あの子を襲ったのですね!? なんて外道! ここで私が――――」

 

ロスヴァイセさんが右手を突き出そうとして…………俺はその手を掴んで制した。

 

一瞬何か言おうとしたロスヴァイセさんだったが、周囲を見てから渋々右手を降ろす。

 

確かにこいつらがしたことは許せないだろうけど、ここでドンパチやるわけにはいかない。

 

ここには無関係の人が大勢いる。

こんなところで暴れれば間違いなく巻き込んでしまう。

 

ユーグリットは笑みを浮かべながら言う。

 

「彼女は無事です。特に人質にもしていないので安心してください。ただ、これだけは」

 

ユーグリットはロスヴァイセさんの横を少し通り過ぎたところで立ち止まり、ロスヴァイセさんの髪をすくう。

 

「私はあなたの能力が欲しい。あなたは素晴らしい力をお持ちだ。――――それにこの銀の髪は美しい。まるで…………」

 

…………なんだ?

 

今のロスヴァイセさんを見るユーグリットの眼に違和感を感じてしまった。

 

能力だけが目的じゃないのか…………?

 

まさか―――――いや、でも…………。

 

「ごきげんよう、兵藤一誠、ロスヴァイセ。また会いましょう。それまでに答えを決めておいてください」

 

それだけ言い残して、ユーグリットは俺達の前から去っていった。

 

俺は深くため息をついた後、リアスに連絡を取り、予定より早いが帰宅することにした。

 


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