でも、書いちゃう!
学園の南西部。
空にも地にも邪龍の群れがうじゃうじゃしている。
「どきやがれっ!」
俺は向かってくる量産型の邪龍を仕留めながら前に進んだ。
進む方角からは邪悪なオーラが二つ。
片方は今回が初だが、もう片方は知っている。
―――――邪龍、グレンデル。
このしつこそうなオーラは間違いない。
あいつは天武の鎧の一撃を食らって、体が半分になっても向かってきやがった。
木場達から聞いた話ではリアスの新必殺技を受けて、頭だけになっても戦おうとしたという。
頭のネジが飛んだイカれたドラゴン。
攻撃的で残虐。
戦うことよりも殺すことに喜びを見出だす奴だ。
今回は逃がしやしない。
今日、ここで必ず仕留める。
二度と復活できないように。
拳を振るいながら、グレンデルを確実に仕留める方法を考えていた。
その時―――――視界に巨大な火柱が映った。
紫色の炎。
巨大な火柱は十字架を形作っていて――――――
「なっ………!? おいおい、なんでこっちにあれが上がるんだよ!?」
通信では学校の北側、リアス達と交戦中のはずじゃ………。
まさか、態々こっちに移動してきたのか………?
クソッ………嫌な予感しかしねぇ!
胸騒ぎがした俺は飛行スピードを上げて、現場へと急いだ。
▽
あの紫炎を見てから、直ぐのことだ。
現場へと到着した俺は――――――言葉を失った。
「このっ………!」
「なんで砕けないのよ!」
球状の結界らしきもものに囚われ、動きを封じられている小猫ちゃんとシトリー眷属の一年生、仁村さん。
結界を内側から殴り付けているがびくともしていない。
「こい、邪龍め!」
「我らが相手だ!」
「あの学校には行かせないぞ!」
槍や剣を握り勇敢に立ち向かおうとする鎧姿のお父さん達。
全員、鎧も原型を留めないぐらいボロボロだ。
そして―――――
「………っ」
全身から煙をあげる匙の姿があった。
匙は言葉もなくその場に倒れこんでしまう。
まさか、直撃を受けたのか!?
俺の耳に高笑いが聞こえてくる。
空からだ。
上を見上げると宙に展開する魔法陣の上に人影が一つ。
「おほほほ、ごめんあそばせ。ついつい超強めの十字架を放ってしまいましたわん」
紫炎のヴァルブルガッ!
あいつが………あいつが匙をやったのか!
匙の近くにいたグレンデルが上空を見上げて、文句をつける。
『おいおいおい! 人が楽しんでるところに横槍は止めてくれや! クソ魔法使いがよ!』
「あらあらん。ちょっとぐらいいいじゃない? だってぇ、そこの悪魔くん、すんごく必死なんだもの。私もいじめたくなりましたわん」
地に倒れ伏す匙は全身から煙を上げて、動く気配を見せない。
あの炎は聖遺物!
俺達悪魔にとって猛毒どころか必殺技に等しい効果を出す!
それの直撃を受けてしまえば匙は………!
「匙ぃぃぃぃぃぃっ!」
俺は降りかかってくる邪龍共を蹴散らし、匙に駆け寄った。
倒れる匙を抱き抱えると………。
「………兵、藤………来てくれた………のか?」
今にも消えそうな弱々しい声だった。
肌は焼けただれ、全身から赤い血を流れ出ている。
見れば、左足は青く腫れ上がっていて、明らかに折れていた。
それに紫炎を受けたせいで………消滅しかかっている!
「しっかりしろ、匙! おい、聞こえてるのか!? 返事をしろ! 待ってろ、今、治してやるからな!」
俺は懐を探る。
取り出したのはフェニックスの涙だ。
これはレイヴェルをトレードした時に俺の昇格したお祝いにとレイヴェルの親父さんがくれたもの。
こいつで匙を――――――
「ちぃっ!」
俺は咄嗟に匙を抱えて、その場から飛び退く。
ついさっきまでいた場所に巨大な紫炎の十字架が立ち上がった。
俺は上空を睨み付けながら叫ぶ。
「邪魔すんじゃねぇよ、ヴァルブルガ!」
「だってぇ、狙うなら今だと想いましたしぃ。まぁ、外してしまいましたけどねん」
そう言ってヴァルブルガは匙を抱える俺に向けて紫炎を次々に放ってくる!
ええい、くそったれめ!
こちとら、あんな嫌な女にかまってる暇はねぇんだよ!
俺は即座に鎧を天翼に変えて、フェザービットを展開。
五つのビットがクリアーレッドの障壁をピラミッド状に組み、俺達を攻撃から守る。
今ならいける!
俺は小瓶の蓋を開け、匙に振りかけた!
こいつを消滅させてたまるかよ!
こいつには夢がある!
「匙! 死ぬんじゃねぇ! 先生になるんだろうが! こんなところで寝てる場合じゃねぇだろ!」
俺は必死になって匙に声をかけた。
ふいに俺の視界に匙の左手が映った。
左手の甲には神器が装着されていて、一本のラインが出ていた。
そのラインを追っていくと、グレンデルの足に繋がっているのが分かった。
俺の脳裏に匙の言葉が蘇っていく―――――。
―――――なぁ、兵藤。
―――――子供達がさ、俺を『先生』って呼んでくれるんだ。………俺を『先生』って。俺なんてまだまだなのにな。
―――――兵藤、俺、ここで子供達の対応をしてきて再認識できたよ。俺は絶対に『先生』になる。まずは中級悪魔にならなきゃいけないけどさ。
―――――それでも、絶対になるぜ。
匙が掠れた声で言う。
「あいつら………学校を潰すって………あそこには………あそこには………」
ぼそりぼそりと呟きながら、立ち上がろうとする。
フェニックスの涙で傷が塞がり、消滅の危機をなんとか脱したとはいえ、紫炎の………聖遺物によるダメージは大きすぎる。
動けるような状態じゃない。
まだ、意識も朦朧としているはずだ。
それなのに………!
「………行かせられるか、行かせるかよ………っ」
こいつは………匙はあの学校を、子供達を守ろうと………前に出る………!
グレンデルに立ち向かおうとする!
俺はそんな匙の肩を掴んで止めた。
「バカ野郎………! おまえってやつはよ………! そんなになってまで………!」
匙、今のおまえの脳裏にはあの子達の笑顔が浮かんでいるんだろう?
だから、守ろうとして、敵わないとわかっている相手にも立ち向かおうとするんだろう?
俺は涙を流しながら、匙に言った。
「おまえはよくやった………! よく、俺が来るまで持ちこたえてくれた! あの学校はおまえが守ったんだ、匙!」
だからさ―――――
「ここから先は俺に任せろ。おまえが守ったあの学校と子供達には一切手は出させねぇよ」
▽
俺はフェザービットの障壁で匙を覆った後、グレンデル達の前に出た。
グレンデルが大きな口を吊り上げながら言う。
『よう、赤龍帝、久し振りだなっ! 調度いいところに来てくれたぜ! そこのクソガキじゃ物足りなかったんでな!』
その横にはドラゴンの形をした木………いや、巨大な木のドラゴンが立つ。
顔と思われる部位が大きく裂ける。
あれが口で、窪みの中で赤く輝くのが眼ということなのだろう。
木のドラゴンが俺を捉えて声を発した。
『初めましてですね、現赤龍帝。「
こいつがこの周辺丸ごと結界で覆ったドラゴンか。
防御、封印に関するものに長けているらしいな。
確か、初代ヘラクレスの試練の一つで、毒蛇であるヒュドラの毒を口に放り込まれて倒されたと聞いた。
まぁ、そんな便利アイテムなんて持ってないし、あったとしても聖杯で強化されているから効かないだろう。
俺はグレンデル、ラードゥンと上空にいるヴァルブルガを見渡して問う。
「………一応、聞いておく。なんで学校を狙った?」
その問いにグレンデルが答える。
『その学校ってのを壊そうとすると、本気になって俺様と遊んでくれるって聞いてたからな。まぁ、そこのクソガキ程度じゃ遊びにもならなかったけどな! ヴリトラがいりゃ、マシだったかもしれねぇけどよ? 神器くっつけた程度のザコじゃあ俺の相手は無理だぜ! ゴミくずみてぇに踏んでやったよ! グハハハハッ!』
………そんなことだろうとは思ったよ。
そんなことを言われたら匙は退けない。
何がなんでも足を止めようとしたはずだからな。
俺は球状の結界に閉じ込められている小猫ちゃんと仁村さんに近づいていく。
二人とも泣きそうな表情をしていた。
「イッセー先輩………」
「兵藤先輩………匙先輩は………?」
「大丈夫だ。フェニックスの涙を使ったから何とかね」
俺がそう答えると仁村さんは心の底から安堵していた。
さて、二人を覆うこの結界だが………。
俺が結界に触れると、ラードゥンが言う。
『その結界は半端な攻撃では破れません。噂の「D×D」メンバーの攻撃力を試したかったのですが………そこの二人では破ることは出来ませんでしたね。あなたはどうです、現赤龍?』
すると、小猫ちゃん達を覆っているものと同じ結界が俺に張られ、俺を封じ込めた。
なるほど………確かに防御、封印が得意とだけはある。
瞬時に強固な結界を俺に張りやがった。
小猫ちゃんの闘気を込めた拳や仁村さんの蹴りでも壊せないのはそれだけ硬いということ。
まぁ、でも―――――
「これくらいで封じ込めると思うなよ?」
俺は渾身の拳を打ち込み――――――結界を破壊した。
バリンッというガラスが割れるような音と共に砕け散る。
俺は解放されたと同時に小猫ちゃんと仁村さんを覆っていた結界も破壊し、二人を助け出した。
この様子にラードゥンは感嘆の声を発する。
『ほう、私の結界をこうも容易く。流石は若くして魔王クラスと称されるだけはありますね。あなたに対しては少々手を抜きすぎたようです。………しかし、現代の若手悪魔というのは中々の力をお持ちのようですね』
ラードゥンが魔法陣を展開する。
すると、宙に映像が映し出された。
そこに映っているのは――――――
『ふんっ!』
黄金の獅子を纏うサイラオーグさんの姿だった。
拳を振るい、迫る邪龍の群れを次々に蹴散らし、飛んでくる魔法を撃ち破っていた。
魔法を放っているのは三つ首の邪龍アジ・ダハーカ。
サイラオーグさんはアジ・ダハーカと戦闘中なのか!
『滅んでもらうぞ、邪龍共ッ!』
闘気を大量に放出し、アジ・ダハーカに向かっていくサイラオーグさん。
サイラオーグさんも町と学校を守るために、巨大な敵に立ち向かっている。
子供達の未来を奪おうとする邪悪な存在を滅ぼすために。
だったら、俺も滅ぼそう―――――目の前の邪悪なドラゴンを。
俺は赤いオーラをたぎらせる。
「小猫ちゃんと仁村さんは匙とあそこで戦っている人達を守りながら量産型を叩いてくれ」
「………イッセー先輩はどうするんですか?」
「俺は………こいつらを始末する。イグニス、手伝ってもらうぜ」
『オッケー。今回ばかりはお姉さんも張り切っちゃう。匙くんも頑張ってたしね。私達も何がなんでも守るわよ?』
俺は仁村さんが仁村さんが倒れている匙を保護したのを確認するとイグニスを呼び出す。
匙を守っていたフェザービットはイグニスの刀身にくっつくとカシャカシャという音と共に変形し、イグニスと合体。
出来上がるのは刀身が三メートル近くはある超巨大な剣だ。
『なんだ? 見たことねぇもん持ってるな。そのバカでけぇ剣で俺とやり合おうってか? 面白ぇ!』
哄笑をあげながら俺を迎え撃とうとするグレンデル。
俺は奴の言葉を無視して言う。
「グレンデル。………おまえ、匙のことザコだって言ったな?」
『あっ? それがどうしたよ? ザコにザコって言って何が悪い? 実際、そこのクソガキは俺に手も足もでなかったぜえぇぇぇ! グハハハハ!』
口を大きく開き、一層大きな声で笑うグレンデル。
「――――取り消せ」
『なんだと?』
「取り消せよ、その言葉。あいつのどこが弱い? 見てみろよ、おまえの足に未だに繋がってるラインを! 意識すら戻ってない状態で! あいつはおまえと戦っているんだよ! そんなあいつのどこが弱いってんだ!」
あいつの左手から伸びるラインはグレンデルの足にずっと繋がっている!
足を折られても!
全身ズタボロにされても!
聖遺物の炎で消滅の危機に瀕しても!
死んでもおかしくない状態で、あいつは一人でグレンデルに立ち向かっていた!
子供達を守るために!
だから、俺は許せねぇ!
「あいつをザコ呼ばわりするんじゃねぇよ!」
俺はそう叫ぶと地面を蹴って駆け出した!
『はっ! ゴタゴタうるせぇよ!』
グレンデルの口から巨大な火炎が放たれる!
このままいけば直撃コース!
俺はグレンデルの炎をまともに受けることになる!
だけど、俺は避けない!
「あいつが受けたのは痛みはこんなもんじゃねぇ!」
俺は迫る火炎を拳でぶち抜き、高く跳躍する!
上空で腰を捻り、回転の勢いをプラス。
超巨大剣をグレンデルの頭上から振り下ろす!
「てめぇはここで終わりだ!」
『そうね。あなたは魂のまで―――――』
「『燃え尽きろ!』」
紅蓮の斬戟がグレンデルを真っ二つに切り裂いた―――――。
▽
ズゥゥゥゥン
地響きをたてながら、真っ二つになったグレンデルの体が倒れた。
体の断面にはイグニスの炎が燻っていて、現在進行形でグレンデルの肉体を焼いている。
『んだよ……これはよ!? 魂が………俺様の魂が薄れて………消されていくのか!?』
体が半壊しても、頭だけになっても戦意を失わなかったグレンデルが驚愕し、激しく動揺していた。
それもそのはず。
今までグレンデルは聖杯によって何度も肉体が再生できるという前提で戦っていた。
だから、体がどれだけ壊れようとも向かってきた。
しかし、復活できるのは魂があってこそだ。
つまり、聖杯があっても魂が消滅してしまえば、復活はできない。
「おまえは炎に焼かれて消える。肉体だけじゃない、魂までな」
イグニスが続く。
『その炎は消そうとしても無駄よ。私の意思がない限り消えないから。どんな術を使おうともあなたの消滅は確定よ、邪龍グレンデル』
「つまり、もうおまえは復活はできない。ここで終わりだ」
俺は紅蓮の炎に燃やされ、消え行くグレンデルにそう告げた。
グレンデルは息も絶えそうな声を漏らす。
『クソッタレ………マジ、かよ………。この俺が………? ちくしょう………なんで俺が………』
それだけ言い残すと邪龍グレンデルという存在はこの世から完全に消滅した。
肉体も、魂までも―――――。
『
以前戦った時にイグニスを使えていれば、もっと楽に事が運んだのかもしれないが………それは言っても仕方がない。
とりあえず、これが『D×D』結成後の初戦果ってところか。
俺はイグニスを仕舞いラードゥン達の方を振り返る。
すると―――――
「次………って、いねぇ。あいつら逃げやがったな」
辺りを見渡してもラードゥンとヴァルブルガの姿はなかった。
おそらく、俺とグレンデルがやり合った一瞬に逃げたのだろう。
『んっふっふっー。私の力に恐れをなしたわね』
イグニスが実体化し、俺の横にお姉さんが現れる。
まぁ、そうでしょうね。
あんたの力はマジでヤバい類いだから。
単純に出力が違いすぎる。
サマエルでも焼死するレベルだからね。
「どう? 今回の私は駄女神じゃなかったでしょ? 子供達を守るために、必死になって邪龍と戦う匙くんの姿に心を打たれて力を発揮する私………! かっこいい………!」
「自分で言う!?」
つーか、この人、自分で『駄女神』って言ったぞ!?
自覚あったのか!?
イグニスは俺に抱きつき、頬擦りしてくる!
「私、久しぶりに女神したから疲れちゃった。私、シリアスになると疲れるのよねぇ」
「シリアスになると疲れるってなに!?」
「シリアスモードはもって三分ね。それ以上は続かなーい。というわけで、お姉さんはシリアスブレイカーになっちゃうぞ♪」
うわぁぁぁぁぁぁん!
やっぱり、この駄女神ダメだぁぁぁぁぁぁ!
ちょっと前まではカッコよかったのにぃぃぃぃぃ!
少しでもそう思った俺がバカのか!?
俺が悪いのか!?
「ちょ、ここ、まだ量産型いるから! こんなことしてる場合じゃないって!」
「えー、ケチー」
「えー、じゃない! とにかく―――――のわっ!?」
イグニスを引き剥がそうとした俺だが、バランスを崩し、倒れてしまう。
あー………俺、何やってんだろ………。
皆、戦ってるのになぁ。
などと思いながら起き上がろうとすると――――――
むにゅん
やわらかい感触が俺の手に。
ふと視線を下ろすと――――――イグニスのおっぱい揉んでた!
くっ………なんてやわらかさ!
相変わらずの女神おっぱい!
最高です!
イグニスは特に驚くことなく、
「いゃん♪ このタイミングで揉んでくるなんて、流石はラッキースケベね。私の見込みに間違いはなかったわ」
「見込みってどんな見込み!?」
俺のツッコミが辺りに響く――――――。
「………何やってるんですか、ドスケベ先輩」
小猫ちゃんが邪龍をこっちに投げてきた。
今回使った超巨大剣はクアンタのバスターソードのイメージです。