ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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とうとう280話まで来たか………!


17話 償いの道 

「へぇ………まだそんな切り札を持っていたんだね。これは少し………いや、かなり驚いたよ」

 

訂正を入れながら、笑みを見せるアセム。

 

―――――昇格強化『女王』。

 

昇格強化は兵士の駒が昇格した際、俺が持つ三形態に合うように独自の調整を行ったもの。

通常の昇格よりもより力を引き出す代物だ。

 

天武は『戦車』。

ブースターが大型化して、拳の威力、手数が増える。

 

天撃は『僧侶』。

キャノン砲が増設され、砲撃の威力と連射性が上がる。

 

天翼は『騎士』。

翼が一対から二対になり、その分、フェザービットの数も増える。

機動力が上がるほか、ビットにも『騎士』のスピードが付与される。

 

『女王』はこのEXA形態の力を一気に底上げできる。

 

EXA形態は天武、天撃、天翼の三形態の力を併せ持つ。

そして、『女王』は『戦車』『僧侶』『騎士』の能力を併せ持つ最強の駒。

 

この二つの力が重なったときの出力は桁が違う。

 

赤い光を放ちながら、俺はアセムを睨む。

 

「第二ラウンドだ。――――――いくぞ」

 

俺は地面を蹴って、飛び出す!

動いた衝撃で辺り一帯が吹き飛んだ!

 

「っ! 速いっ!」

 

かつてない初速、加速にアセムも初めて驚愕の表情となった。

 

アセムが俺を迎え撃とうと構えるが―――――俺は瞬時に背後に回り込む!

 

「後ろだっ!」

 

繰り出す紅蓮の拳!

触れれば燃え付きそうな荒々しいオーラを纏わせた拳がアセムの顔面を捉える!

 

初めてアセムに俺の攻撃がヒットした!

 

アセムは地面に叩きつけられて、激しくバウンド。

遠くの方まで転がっていく。

 

「くっ! この速さと力は!」

 

アセムは飛び起きると、空高く飛び上がる。

 

「逃がすかよっ!」

 

俺はフェザービットを全基展開して、追撃を仕掛ける!

 

EXA形態の鎧にはいくつもの宝玉が埋め込まれているわけだが、現在、その一つ一つに増大した力を圧縮貯蔵している。

 

EXAの余りあるパワーは『女王』に昇格強化した際、一気に増えるわけだが………それでは無駄が多すぎる。

 

そこで、増えすぎた余分なパワーを宝玉に溜め、戦闘時に爆発させることで、かつてない超パワーを発揮させているんだ。

 

一時的ではあるが、今の俺の力は―――――

 

「今の俺の力はさっきの三倍だ! そう簡単にやれると思うなよ!」

 

「君はいつも新しい力を出してくるね!」

 

「戦う度に強い奴らが出てくるんだ! 何かしら新技なり強化なり作らねぇとこっちがやられるんだよ!」

 

「そうだとしても、それを毎回実現する君は流石としか言えないよ。それでこそだけどね!」

 

アセムは横、下、上とあらゆる角度から迫るビットを破壊しながらも、俺の攻撃をかわしていく!

 

こいつ、これだけのスピード、これだけの手数で攻めてもそれを避けきるかよ!

マジでどんだけだ!?

 

だけど、これだけの手数で攻めていれば、いつかは隙が生まれる。

そこを狙わせてもらうぜ!

 

俺は籠手、腰、翼のキャノン砲を全て展開。

全砲門をアセムへと向ける!

 

圧縮したエネルギーを前面に解放。

砲門に凄まじいエネルギーが集まっていく!

 

「くらいやがれぇぇぇぇぇ!」

 

『EXA Full Blast!!!!』

 

解き放たれる赤き光の奔流!

砲門の一つ一つから極大のエネルギーが放たれ、アセムを呑み込もうと突き進む!

 

「うわっ!?」

 

迫り来る砲撃をアセムは横に飛んで間一髪で避けやがった!

あのタイミングで避けるのかよ!?

 

俺はアセムの回避能力の高さに舌を巻きつつも、ようやく出来た隙を逃さない!

 

砲撃を止めて、アセムの頭上に飛んだ!

 

手にはアスカロン!

 

アスカロンに赤いオーラを乗せてアセム目掛けて振り下ろす!

 

完全に捉えた!

 

刃がアセムに届く――――――その時だった。

 

『Burst』

 

それは鳴ってはならない音声。

倍加がキャパシティを越え、籠手の機能が停止したことを表している。

 

鎧が解除され、全身から力が抜けていき、俺は地面に落ちた。

 

…………。

 

…………。

 

…………は!?

 

…………え?

ちょ…………なんで!?

 

俺、まだいけるぞ!?

全然戦えるんですけど!?

 

ちょ、あの………ドライグさん!?

どうなってんの!?

 

すると、ドライグの呆れたように言った。

 

『はぁ………。今のは相棒が限界を迎えたわけではない。神器の方がもたなかったのだ』

 

マジでか!?

俺じゃなくて神器の方が限界来ちゃったの!?

 

『だから止めろと言っただろう。不安定な力に調整が済んでいない力を掛け合わせるなど無理にも程がある。………危うく神器が壊れるところだったぞ』

 

………ロスウォードと戦った時はそんな感じじゃなかったじゃないか。

 

まぁ、後でしばらくの間、使えなくなったけどさ。

 

『あの時は僅かな時間であったこと、それにシリウスとイグニスの協力もあってまだ安定していたからな。今回は力そのものが不安定過ぎたのだ』

 

………さ、最悪だぁ………。

 

このタイミングで神器が逝きましたか、そうですか………。

 

『いや、逝ったわけではないぞ? 機能が停止しただけだ』

 

どのみち最悪だよ!

 

俺、絶賛バトル中なんですけど!?

あと一歩でアセムの野郎に強烈な一撃ぶちこめたんだぞ!?

 

地面に落ちて動けなくなっていると、アセムが俺の横に降り立った。

 

「いや~危なかった危なかった♪ さっきのを貰っていたら、かなりの傷を負っただろうね」

 

そう言うとアセムは手に握っていた剣を消した。

 

俺は地面に大の字になりながら、アセムに問う。

 

「………トドメをささないのか?」

 

「してほしいの?」

 

「いや。ただ、このまま何もしないのかと思ってな。ま、その時は全力で抵抗するけど。窮鼠猫を噛む的な感じで」

 

「ん~。まぁ、僕と君は敵だしねぇ。普通ならここで痛めつけたりするんだろうね。リゼ爺とかしそうだし」

 

「あー………。あいつは絶対にするな」

 

リゼヴィムとか、相手を一方的に痛めつけたりするの好きそうだよなぁ。

 

あいつ、性格悪そうだし。

いや、中身は単なるガキか。

 

「君はまだまだ伸びる。僕は君の先を見たい。ならば、ここで君を殺してしまうのは勿体ないだろう? 時が来るまで待つさ」

 

「………それで、俺がおまえを倒すことになってもか?」

 

「アハッ♪ そうなればいいけどねぇ。さっきの君を見ていると期待が膨らむかな♪ ま、何度でも挑んでくるがいいさ」

 

アセムは楽しげに笑んだ。

 

………相変わらず、こいつは読めないな。

 

まさか、こいつもロスウォードと同じ………?

いや、でも、あいつとこいつは違うだろう?

 

アセムが言う。

 

「もしかして、僕がロスウォードと同じように死にたがってると思ってる?」

 

「一瞬、それも考えたけど違うだろ?」

 

「まぁね。その辺りはその時が来たら教えてあげるよ♪ じゃあ、僕は帰るよ。せっかく『システム』の中身を見せてもらったわけだし、早速創らないと♪」

 

………創る?

 

いったい何を―――――。

 

アセムの企みを考えていると、奴はくるりと体を反転させてテクテク歩いていった。

 

「あ、おい! 待ちやがれ!」

 

「待たない~。そろそろ、おっぱいドラゴンの放送時間だから~。今週はスペシャルだから見逃せないんだよね~。一応、ブルーレイに録画してるけど~」

 

こいつ、それがあるから早く帰ろうとしてたの!?

 

つーか、ブルーレイ!?

買ったの!?

買ったのか!?

 

あ、マジで帰りやがった!?

 

「なんで、俺の敵は変人が多いんだぁぁぁぁぁぁ!?」

 

『それは相棒が変人だからだろう』

 

その意見には反論できねぇよ!

くそったれめ!

 

はぁ………やれやれだ。

 

俺は痺れる体に鞭打って立ち上がろうとすると、ズキンと胸の奥が激しく痛み、つい膝をついてしまった。

 

アセムに斬り裂かれた傷口から大量の血が垂れ、足元の花を赤く染める。

 

「ぐっ………かなり響いてんな………。だけど、ここで休んでもいられねぇか」

 

―――――イリナ、今行く。

 

 

 

 

 

[イリナ side]

 

 

私、紫藤イリナはイッセーくんと別れた後、ゼノヴィア、アーシアさんと共にエデンの園を駆けた。

 

初めて見た…………。

あれが異世界アスト・アーデの悪神。

イッセーくんを狙っているという強大な敵。

 

見た目はどこにでもいるような普通の子供なのに身に纏うオーラは言い知れぬ不気味さを持っていて………。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「イリナ、考えていることは分かるが今は父君を助けることが先決だ。そのためにリアス部長もイッセーも残ってくれたんだからな」

 

「ええ、分かってるわ。私はパパを助けて見せる!」

 

しばらく走り、もうすぐ第五天へと通じる門が見えてきそうになった時だった。

 

私の視界に二つの影が見える。

 

一つは禍々しい波動を放つ剣を有した、あの八重垣という男性。

 

そしてもう一つは―――――

 

「パパ!?」

 

「第五天から連れ出したというのか!」

 

パパは第五天で解毒の最終段階に入っていたはず!

 

あの人は解毒中のパパを無理矢理連れてきたというの!?

 

そんな…………!

 

八重垣という男性がパパの髪を乱暴に掴んだ。

 

「紫藤さん、僕は思っていたんですよ。この楽園と言われた地で復讐を完遂しようとね。信徒にとって極限の願いであるエデンでの殉職。僕と彼女を裁いたあなたには過ぎるほどでしょうか」

 

パパは毒による苦しみに耐えながら、彼に言う。

 

「私は………君には私を殺す理由がある。私はそれだけのことをしたんだ。殺されて当然の身だ」

 

「パパ!? なんでそんなこと―――――」

 

私が叫びかけた時だった。

 

パパは私の顔を見た後、八重垣さんに視線を戻す。

 

「………私は生きる。生きて罪を償う」

 

その言葉に八重垣さんが激昂する。

 

「何を言っている………! あなたは! 僕とクレーリアを! 生きて罪を償うなど、そんなことで僕達の怒りがおさまると思っているのか!」

 

「………そんなことは思っていない。だけどね、私はある男の子に言われたんだ。―――――生きて罪を償えと。贖罪の方法なんて分からない。どうすれば、許してもらえるか。許してもらえる方法なんて無いかもしれない。それでも、生きて自分の罪と向かい合う。それが、こうして生きている自分に唯一出来ることだと」

 

―――――っ!

 

それは………その言葉は………。

 

パパがイッセーくんと病室で二人になった後、私は部屋の前でイッセーくんを待っていた。

イッセーくんに話したいことがあったから。

 

その時、ふいに病室から聞こえてきたのがその言葉だった。

 

私はイッセーくんが私のことを想ってくれていたことを嬉しく思った。

だけど、同時になんて厳しいことを言うんだろうとも思った。

 

死んで償うのではなく、生きて罪と向かい合う。

答えなんて分からない。

もしかしたら無いかもしれない。

そんな残酷な旅をイッセーくんはパパにさせようとしていたのだから。

 

でも、パパはその覚悟を決めていた。

人生をかけて罪を償う方法を探すと。

 

「………っ! 僕は………僕達は愛し合っていたんだ! 僕は彼女を愛していた! 彼女も愛してくれた! 僕達は種族が違っていても分かり合えた! 愛し合えた! それなのに………あなた達は………! ぬ………うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!」

 

………怒りと悲しみの籠った叫び。

 

彼の想いに呼応してか、邪龍と一体になっていた天叢雲剣から八つのドラゴンの頭が噴き出してきた!

 

アーシアさんが叫ぶ。

 

「以前に見たときよりも大きくなってます!」

 

「ああ。だが、前よりも不安定になっていないか?」

 

ゼノヴィアにそう言われて、改めて剣から現れた邪龍を見てみる。

 

前に戦った時よりも大きく、それでいて禍々しいオーラを放ってる。

でも、確かにどこか揺らぎがあるというか………。

 

力が定まっていないような気がする。

 

ゼノヴィアが続ける。

 

「………あの男の想いに迷いが………? イリナの父君の覚悟に推された………?」

 

パパの目には強い覚悟が宿って見えた。

私でも分かるくらいに強い意思が、パパの表情から見てとれる。

 

少し前のパパなら、彼の復讐を受け入れたかもしれない。

 

今でもどこか弱々しく感じる。

でも、少し前のパパとは明らかに違う。

この先も生きて、生き抜いて、一生をかけて罪を償うという覚悟―――――灯が宿っていた。

 

その灯をつけたのは――――――イッセーくん。

 

気づいたら私は白い翼を羽ばたかせて、一人突貫していた。

パパを助けたい、守りたいという一心で。

 

八岐大蛇の頭の一つが大きな口を開けてパパを呑み込もうとする。

 

だけど、それは後方から飛んできた聖なるオーラによって完全に吹き飛ばされる。

 

「行け、イリナ! 援護するぞ!」

 

「私もサポートします!」

 

ゼノヴィアがデュランダルを構えてそう言ってくれる!

アーシアさんもファーブニルを召喚して私を送ってくれる!

 

私は二人のサポートを受けてパパの救出に成功!

パパを連れて、邪龍から距離を取る。

 

「パパ、大丈夫?」

 

私は直ぐにパパの容態を確認しながら、無事を確かめる。

 

僅かに残る毒の影響か、汗をかいていて顔色が悪い。

それに所々にかすり傷がある。

 

すると、パパは私の肩を掴み、体を震わせて言った。

 

「イリナちゃん………。お願いだ。本当ならパパが向き合わなければいけないこと。だけど、今の私には彼を止める術がない。だから………お願いだ。彼を………八重垣くんを止めてあげてくれ………!」

 

イッセーくんの言葉が脳裏に過る。

 

第四天の門を潜っている時、イッセーくんは私にこう言った。

 

 

―――――この先にいるのは強敵だ。おそらく、俺はそこに残ることになる。

 

―――――その時はイリナ、トウジさんはおまえが助けるんだ。自分の手で大切な人を守るんだ。

 

 

分かっているわ、イッセーくん。

 

大切な家族、大好きなパパ。

 

私は―――――パパを守り抜いてみせる!

 

「任せて、パパ」

 

私はそう言うとオートクレールを構えた。

 

「お願いオートクレール。私に力を貸して。パパを守る力を。皆の助けとなれる力を、そして――――彼を止める力を!」

 

刹那、オートクレールから目映い光が放たれた!

聖なるオーラがどんどん膨らんでいく!

 

「イリナ、終わらせるぞ! 私達であの男を止める! デュランダル!」

 

ゼノヴィアの声に応えるようにデュランダルも極大の聖なるオーラを解き放つ!

 

私のオートクレールとゼノヴィアのデュランダルが共鳴を起こし、一回りも二回りも大きくなっていく!

次第に二つの聖剣の光は辺り一帯を照らす巨大な光の柱になった!

 

私とゼノヴィアは黄金の輝きを身に纏って駆けていく!

 

「八重垣さん! あなたは………! あなたの想いは間違っていないわ!」

 

「だが、こんなことをしていては悲しみが繰り返されるだけだ! だからこそ、私達はおまえを止める!」

 

襲いくる八岐大蛇の頭を斬り裂きながら、私達は八重垣さんに迫る!

 

「………主よ。イリナさんに、ゼノヴィアさんに………そして、あの方に………! どうか………! どうか…………!」

 

アーシアさんが主に祈りを捧げていた。

 

すると、アーシアさんの横にいたファーブニルの瞳が輝き―――――私達に黄金のオーラを送ってくれた。

 

黄金の龍王の加護というべきなのか、それは私達三人を守るかのように包み込んだ。

きっと、ファーブニルも私達の想いに応えてくれたのね。

 

私とゼノヴィアは刀身に黄金のオーラを纏わせて突き進む。

 

荒れ狂う邪龍を全て消し去り、八重垣さんの眼前に立つ。

 

そして―――――私達は聖なる波動を放った。

 

彼は何の抵抗も見せないまま、呑み込まれていく――――。

 

その時、彼を優しく抱き寄せる女性が見えた気がした。

 

 

[イリナ side out]

 


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