翌日、昼休みのことだった。
「次期生徒会長を目指すゼノヴィアさんの主張を纏めたチラシでーす!」
「はーい、よろしくねー。ゼノヴィア氏に一票をよろしくお願いしまーす!」
「清き一票をどうぞよろしくお願いいたします! どうか、お願いいたします!」
道行く生徒にチラシを配るイリナ、桐生、アーシア。
現在、駒王学園では次期生徒会メンバーを選出する選挙が本格的に行われている。
今のようなチラシ配りもそうだが、廊下にも手製のポスターが貼られていたりするんだ。
聖母マリアの格好したゼノヴィアの写真で『駒王学園に真の平和をもたらします! 清き一票をお願い致します!』という文字がデカテカと記されたポスターだ。
初めて見た人からすれば、胡散臭さ全開だけど、ゼノヴィアのことを知っている者からすると、「らしいよね」という評価を受けている。
まぁ、外国からの転入生ってのと、彼女の性格、それから信仰心が強いことも知られているからね。
確かに『らしい』と言えばそうなる。
そんなアーシア達の選挙活動を中庭で弁当を食べながら見守る俺、美羽、アリス、レイナ。
アーシア達は選挙活動するから、速攻で済ませちゃうんだよね。
なので、暫くは別々で食べることになる。
レイナがストローでジュースを飲みながら言う。
「張り切ってるね。私も手伝いたいところなんだけど…………」
「レイナも忙しいんだろ? グリゴリの仕事。外交局の副長だったよな?」
「ううん。今は財務局に勤めてるの。まぁ、忙しいことには変わりないんだけど…………。はぁぁぁ…………アザゼル先生がね、変なロボットとか作るでしょ? 私って、あの人のお目付け役だから、その辺りの監視には調度良いって言われて回されて…………グスッ」
「苦労………してるな」
「うん………甘えていい?」
「………出来る範囲で受け止めます」
「…………やった♪」
肩に頭を乗せてくるレイナちゃん。
この娘ったら、本当に苦労してるよね。
まだ若いのに…………。
とりあえず、撫でてあげよう。
俺で癒せるのならしっかり癒してあげないと。
俺がレイナの頭を撫で撫でしていると、アーシア達を伴いながらゼノヴィアが中庭に登場した。
名前を記したゼノヴィアは道の真ん中に立って演説を始める。
「えー、こんにちは、駒王学園の皆。このたび、生徒会長に立候補した二年のゼノヴィアだ。ぜひ、私の言葉に耳を傾けてほしい。私が生徒会長になった暁には―――――」
ゼノヴィアのスピーチが始まる。
生徒達も足を止めてゼノヴィアのスピーチを聞き入っていて男子からも女子からも声援が届く。
「ゼノヴィアさん、がんばれ!」
「期待してるわよ、ゼノヴィアちゃん!」
という応援の声以外にも………。
「ゼノヴィア先輩! 応援してます!」
「ゼノヴィアお姉さま! 絶対に一票入れます!」
一年生の女子からは熱い視線が注がれている。
ゼノヴィアお姉さま…………ね。
あいつ、後輩女子から人気あったんだな。
「一年女子から見てゼノヴィア先輩はカッコいい女性として大人気です」
解説と共に現れたのは小猫ちゃん。
レイヴェルとギャスパーもいて、オカ研一年が集合していた。
「よろしいですか?」
「いいよ。空いてるしね」
俺達が席を詰め、小猫ちゃん達が座る。
三人も弁当を手に持っているところを見ると、今から昼食らしい。
小猫ちゃんは弁当の包みを広げながら言う。
「ゼノヴィア先輩は学内でも知らない人がいないほどですから、スピーチをすれば自然と人が集まります」
小猫ちゃんの言うように、ゼノヴィアの周囲はスピーチを聞きに来る生徒で一杯だ。
特に見られるのが一年の女子生徒だろう。
先程から「ゼノヴィアお姉さま」という単語が聞こえてくるし。
運動神経抜群で頭も良い(戦闘に関しては脳筋が目立つけど)。
誰とでも分け隔てなく接する姿勢。
そこにボーイッシュなところも加わって、女子生徒からはカッコ良く見えるんだろうな。
レイヴェルが言う。
「それだけでなく、ソーナ前会長とは毛色が全く違うという意味でも注目を集めてますわ」
「あ、なるほど」
堅実な運営でありながら、生徒の意見を取り入れて柔軟にこなしていたソーナ。
体育会系で活動的なゼノヴィア。
仮にゼノヴィアが生徒会長になれば今までと全く違う運営をしていくだろう。
ゼノヴィアが注目されている理由に納得していると、とある生徒が視界に入った。
偶然通りかかったもう一人の生徒会長立候補者である花戒さんが生徒達と挨拶を交わしていた。
「頑張ってね、花戒さん。応援してるわ」
「一票いれるからね」
同級生の女子生徒から声援を受ける花戒さん。
花戒さんも落ち着いた微笑みで「ありがとうございます」と返していた。
花戒さんを支持するのは優等生が多いって耳にしたな。
「今の二人の支持具合って分かる?」
ふと気になったので聞いてみる。
ゼノヴィアの相手は生徒会でソーナの傍らにいた花戒さんだ。
ソーナの仕事ぶりを傍で見てきている分、ソーナ同様、堅実な運営をしていくとは思うけど………。
小猫ちゃんが言う。
「新聞部のクラスメイトに聞いてみたんですけど、現状は六対四でゼノヴィア先輩が不利です。やはり、ソーナ前会長のもとで働いていた実績は大きいです」
「四割か………。まぁ、現段階でそれだけの支持を受けているのなら、まだまだいけるな」
「はい。それにゼノヴィア先輩を支持する、その半分は投票が揺らがないと聞いています」
「そうなの?」
「支持する大半がゼノヴィア先輩に助けられた女子運動部の人や学校生活で助けてもらった者ばかりだからです。ゼノヴィア先輩は困った人を見かけると放っておけない性格をしていますから、助けられた生徒は多いんです」
「生徒会長に立候補する前の一生徒の時から、陰でこの学校に気を配っていたということですわ」
なるほどな。
確かにゼノヴィアはよく女子運動部に助太刀していたし、困っている生徒を助けていた。
そんなシーンを俺もよく見かけたよ。
アリスがスピーチをしてきるゼノヴィアの方を見ると、笑んだ。
「ふふふ。この選挙、最後まで勝負は分からないわね。面白くなりそう」
「おまえ、昔のこと思い出してる?」
「うちの国は王政で世襲だし、選挙なんてなかったわよ? まぁ、よっぽど私に問題があればニーナがトップになってたと思うけど…………。ふっ、日頃の行いが良かったからね」
「…………」
「…………その目はなによ?」
「…………いや」
「アハハ…………」
俺とアリスのやり取りに苦笑する美羽だった。
▽
放課後。
部活を終えた俺はグリゴリの施設にいた。
そこで――――――。
ズズッ………ズズズズッ…………
「ぷはっ」
蕎麦をすすっていた。
ざるに盛られた艶のある麺を箸ですくい、めんつゆへ。
そして、一気にすする。
うん、カツオの風味があって美味!
「どーよ。ここ最近じゃ一番の出来なんだぜ?」
そう訊いてくるのは俺の隣で同じく麺を啜るアザゼル先生。
実はこの蕎麦、先生が打ったものなんだよね。
めんつゆも先生お手製なんだとか。
「神器を弄る以外にも趣味は持っていてな。最近は手打ち蕎麦に凝ってる。昔は釣りにハマって、それで数年費やしたこともある」
なるほど。
堕天使の生も悪魔同様に果てしなく永い。
何かに没頭して、それを極めるというのもありなのかもな。
俺も趣味でプラモデルは作っているけど、別の趣味を見つけてみるかね?
すると、先生は苦笑して俺と更に反対側の人物に目をやる。
「まさか二天龍に手打ち蕎麦を振る舞うことになるとは思わなかったけどな」
そう、先生を挟んで反対側の席で俺達と同じく蕎麦を啜るのは白龍皇ヴァーリだ。
確かに今まで争ってきた二天龍がこうして堕天使の長が打った蕎麦を食べる光景なんて、誰も見たことがないと思う。
ヴァーリは熱めのお茶に口をつけると、
「流石はアザゼルだ。麺にコシがあって、かつ歯切れも良い。これで一儲け出来るんじゃないか?」
食レポみたいなこと言い出したよ!
あのヴァーリからそんな言葉が聞けるとは!
結構貴重な経験かも!
「いんや、日本の老舗に行ってみろよ。もっと美味いって。店を出すにはもっと腕を上げねぇとな」
「出すんですか!?」
「冥界でも日本食は広まりつつあるからな。海外でも日本食が流行っているだろう? あんな感じだ」
そういや、ファーストフード店とかあったな…………あれは日本食じゃないけど。
ひょっとすると、冥界の町にも回転寿司とか出来るんじゃないか?
この人ならやりかねないな。
サーゼクスさんと組んで、店開きしそうだ。
ヴァーリが言う。
「しかし、今日は良いものを見れたな。兵藤一誠の新しい力を実際にこの目にできた」
今日、俺がグリゴリに来た理由はEXA形態を安定させるための外付け装置の動作確認と調整を行うためだ。
それで、実験施設で動作確認をしているところ、偶々、グリゴリを訪れていたヴァーリと鉢合わせることに。
俺のEXA形態を見て楽しそうな笑みを浮かべていたヴァーリはハッキリと覚えている。
………滅茶苦茶燃えてるんだよなぁ。
もう闘志がみなぎっててさ、今すぐにでも戦いたいって顔してたんだよね。
いつぞやの挑戦もあるし、どこかで再戦があるんだろうなぁ。
ちなみに俺を除いたオカ研メンバーは隣町にある美味しいと評判の鯛焼き屋に行っている。
情報元は小猫ちゃんで、アリスが食べたいと言ったので、皆で食べに行くことになったそうだ。
今度、俺も連れていって貰おうかな。
「先生、蕎麦湯あります?」
「あるぞ、ほい」
「どうも」
残っためんつゆを蕎麦湯で割って飲む。
冬に飲むと暖まるよね。
これぞ日本人!
なんて感想を抱きながら、ヴァーリに言う。
「言っとくけど、EXAは不安定だからな? あんまり期待すんなよ?」
「そうは言うが、あれほどの力だ。気にならない訳がない。しかも、力を三倍に引き上げるなど面白すぎる」
「相変わらずのバトルマニアだな………。先生、調整はどんな感じなんですかね?」
話を先生に振る。
基本的に先生が解析して調整を施している。
で、その進捗具合を俺が確かめるって流れになってるんだけど…………。
先生は蕎麦湯で割っためんつゆを飲み干すと、一息ついた。
「まずまずといったところか。今のところ順調だな。後は微調整を繰り返して、完全にフィットさせるだけだ。分かっていると思うが、あれはあくまで安定させるための補助装置だ。継続時間が伸びる訳じゃない」
「分かってますよ。そこは俺の体力次第ですよね?」
「そういうこった。………しかし、あれだな。イグニスがスイッチ姫二人の
うっ…………それを聞きますか。
正直に言うとだな…………搾りました。
『休憩室』にアリスとリアスを連れていって、搾らせてもらいました。
そんでもって、ちょっと休憩していきました。
『二人のおっぱい、搾らせてください!』って言ったときはアリスに殴られたっけ。
あぁ………駄女神のせいでまた…………。
だが、悔いはない。
二人とも可愛かった。
すると、俺の背後に赤い髪のお姉さんが現れる。
「二人とも何だかんだで喜んでたわよねー。それに、最後なんて二人でイッセーを搾ってたんだし、お会い子――――」
「実体化早々にそんなこと言うの止めてくれる!? 俺達、飯食ってるんですけど!?」
「食べ終わってるじゃない」
「いや、ヴァーリまだ食ってるから!」
黙々と蕎麦食ってるから!
つーか、他の人がいる前で俺達の夜を語らないで!
流石に恥ずかしい!
イグニスは俺の隣に座る。
「アザゼルくん、ビールある? あと枝豆~」
「そういう注文はもう少し早く言ってくれよ。飯食う前に実体化出来ただろう?」
「しょーがないじゃん。さっきまで歴代相手にしてたんだし~」
「…………またSMかよ」
「うん! 今回は蝋燭垂らしてみました! 現在、女の子達は拘束してバイブ責めしてます!」
「おいぃぃぃぃ! そんな詳細聞いてねぇよ! 止めて! ヴァーリにそんな生々しい情報聞かせないで!」
「テヘッ☆」
俺のツッコミにペロッと舌をペロッ出す駄女神。
こ、こいつ………いつでもどこでも平常運転だよな!
「…………バイブ?」
「ヴァーリィィィィ! おまえは気にしなくていい! つーか、気にするな! おまえはこっち側に来たらダメだ!」
『アルビオン! 耳を塞げ! あるいは神器の奥へと逃げろぉぉぉぉぉ!』
俺に続きドライグの叫びが響く!
聞かせられない!
絶対絶対ぜーったい聞かせられない!
駄女神のお話は基本R18指定だから!
それにアルビオンが聞けば、また精神崩壊起こすぞ!?
アザゼル先生は俺達のやり取りにやれやれといった様子で、机に何かの装置を置く。
そして、その横には枝豆。
「先生、それは?」
「枝豆を作る人工神器。程よい塩加減で作ってくれる酒のお供にはかかせない神器だ」
「無駄なところに技術詰め込むなよ!?」
「無駄とは失礼な。これを開発するのにどれだけ時間かけてたと思ってんだよ? あと、最高の卵かけご飯を作るための人工神器もある」
「マジで無駄だな!」
どこに最新技術詰めこんでんだ!?
そりゃ、レイナが苦労するわけだ!
必要ない物を作りすぎだろう!?
すると、ヴァーリが立ち上がった。
「アザゼル。カップ麺の待ち時間を無くす神器はないのか?」
「そこぉぉぉぉぉ!? ヴァーリ、おまえもボケキャラ!?」
「空腹の時にあの待ち時間は煩わしいんだ。あの三分…………あれは辛い」
「分かる! 分かるけど、おまえの口からそんな言葉は聞きたくなかった!」
すると、先生は懐から何かの装置を取り出した。
嫌な予感がする。
まさか…………まさか――――――。
「ったく、しょうがねぇな。あるぜ。これを使えば瞬時にカップ麺が程よい状態になる」
「あるんかいぃぃぃぃ!」
「忙しいときにあの三分…………あれは辛いんだ」
「あんたら親子だな!」
アザゼル先生はヴァーリの育ての親と聞いていたが、変なところが似てしまったらしい!
ヴァーリのやつもカップ麺専用の人工神器をありがたく受け取ってるし!
つーか、カップ麺専用の人工神器ってなに!?
「他にも天然パーマを治す人工神器もある」
「絶対いらん!」
このボケの数、いよいよ一人で捌ききれなくなってきた。
その時だった――――――。
俺の耳元に通信用魔法陣が展開される。
相手は美羽だった。
俺は魔法陣から聞こえてくる声を聞いて目を見開いた。
美羽達がクーデターを起こした教会の戦士達と接触したそうだ。