ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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R18で朱乃&小猫投稿しましたー。
次回はティア姉&イグニス姉さんの予定です。


15話 開幕

[木場 side]

 

 

転移型魔法陣により決戦のフィールドへ移動して数分。

 

エヴァルド・クリスタルディ率いる部隊と戦う僕達のチームは既に戦場に立っていた。

こちらの戦場はあの廃墟と化した教会とその周辺。

アーシアさんの件で堕天使達が居城にしていた場所でもあり、イリナさんのお父さんが過去に所属していた場所でもある。

 

戦闘開始まであと少し。

もうすぐ、僕達の相手が現れるだろうという時、待機していた僕のもとにジョーカーであるデュリオさんが話しかけてきた。

 

「いやー、まさか木場きゅんと一緒の戦線に立つなんてねぇ」

 

「いえ、こちらこそ光栄ですよ」

 

「木場きゅんはさ、複雑な事情を抱えてるって聞いていたから、俺と組むのは嫌かなーなんて思ってたんだけどね」

 

「憎むべき相手ぐらいはわきまえているつもりです。僕達のリーダーを恨むなんてことはしませんよ」

 

僕は彼と何度か接触してきた。

そこで分かったことは、彼は僕が思っていた以上に軽く、優しい青年だったということだ。

 

彼は僕の言葉に苦笑した。

 

「そっか。木場きゅんの話は聞いていたからさ、今日は殺気むんむんかなーって心配してたんだ。………よく、ねぇんだよね、わだかまりがあろうとも、今身内で争うのはさ。今だけは我慢の子が一番なんだよな」

 

そう言うと、彼は懐からなにかを取り出した。

 

それは――――――折り紙で折られた鶴だった。

 

「今度、駒王町の近くの教会施設で神器の解呪術式が行われるんだ」

 

デュリオさんは鶴の頭を指で撫でながら続ける。

 

「………脚の不自由な子がいるんだ。車椅子生活の長い子でさ。どうやら、脚に関する神器を持っているようなんだけど、その子の抵抗力が弱くてさ。どうにも悪い方向に能力が作用しちゃったみたいなんだ。神さまからの贈り物でもある神器が持ち主の枷になっちゃうなんてさ。神器って怖いところもあるんだよねぇ」

 

「その子の解呪術式が?」

 

「そうそう。グリゴリの技術が浸透してきたおかげでね。まだ完璧ってわけじゃないけど、それでもその子は解呪を受けることにしたのさ。阻害していた面が弱くなって普段通りの生活が出来る、かもしれない。ま、元総督の技術なんだから成功するでしょ。俺は信用しちゃってるけどね」

 

にんまりと微笑むデュリオさん。

 

心よりアザゼル先生に信頼を寄せている証拠だろう。

元々敵対していたとはいえ、先生が真摯になって取り組んでいた同盟の訴えは一部の者に怪しまれながらも、一つずつ確実に信頼を寄せている。

 

かく言う僕達もその内の一つだ。

 

堕天使の総督という肩書きだけで胡散臭く感じてしまっていた時もあったけど、今はそんな考えは消え去ってしまっている。

あの人はどこまでもお人好しなんだ。

 

デュリオさんは立ち上がる。

 

「その子は歩けるようになったら遊園地に行きたいって言うんだよ。自分の脚でアトラクションを全部回って見たいってね。…………普通なんだよ。神器を持っていようと普通の子供なんだよ。だからさ―――――」

 

彼が折り鶴を空へ放る。

すると、鶴は風に乗って空高く飛んでいく。

宙を一回りした後、再び風に乗って彼の手元に帰ってきた。

 

「俺は、あの子達の素朴な夢が守れりゃ上々かなって思うんだよね」

 

彼は折り鶴を懐に仕舞うと、一言漏らす。

 

「さ、ケンカの時間だ。おっかない先生との再会だ」

 

その言葉に呼応するように、僕達の眼前に戦士の一団が現れる。

数は百近くはいるだろう。

神父服を着た者から、ゼノヴィアやイリナさんと同じ戦闘服を着ている女性もいる。

 

その全員から敵意が向けられる。

 

戦士達から一歩前に出たところにエクスカリバーのレプリカを携えた祭服の男性―――――エヴァルド・クリスタルディが立っている。

 

戦士達の師であり、ゼノヴィアやイリナさんにも剣を教えた人物。

アザゼル先生ですら、彼の実力の凄まじさを語っていた。

 

「これは先生。お久しぶりっすね」

 

手を上げながら気軽に話しかけるのはデュリオさん。

 

声をかけられたエヴァルド・クリスタルディは険しい表情を変えず、重々しい口を開いた。

 

「この再会、喜ぶべきか、嘆くべきか。デュリオよ、そして転生した天使達よ。私を師と呼ぶのであれば、問答無用で我らの剣を受けてはくれまいか?」

 

「こっちも訊きたいことが山ほどあるんすけどね。でも、まぁ、話し合いができるならそれに越したことはないように思えるんすよ」

 

彼は身内で争うことに苦言を呈していた。

言葉で振り上げられた手が下ろせるなら、それが一番なのは誰もが思っていることだろう。

 

しかし、エヴァルド・クリスタルディはこう返してきた。

 

「近々、この地の施設で神器摘出の儀が執り行われるようだな」

 

「その通りです」

 

どうやら、僕が先程聞いた話はクーデター側も情報を得ていたらしい。

エヴァルド・クリスタルディは嘆息しながら言う。

 

「しかし、その施設には『悪魔的な儀式』が根付きつつある。それは罪深いところだ。断罪せねばならない。…………という過激な発言をする者もいる。私も敬遠な信徒。否定しきれない面もある」

 

「………それはあの施設を壊すと? じゃあ、あそこの子供達はどうするつもりで?」

 

「辺獄にて罪は浄化されるだろう。――――と、言ったらどうする?」

 

その言葉を聞いた途端、笑みを絶やさなかったジョーカーの表情が一変する。

 

「………冗談でもそれは俺の前で口にしちゃいけねぇってやつですよ、先生」

 

怒気を含んだ声。

 

これは挑発だ。

そんなことはデュリオさん自身も分かっているはずだ。

しかし、それでも今の発言は無視できなかったのだろう。

 

エヴァルド・クリスタルディは嘆くように言う。

 

「デュリオ、おまえのように優秀な戦士がなぜ気づかない? ジョーカーという立場に至りながらもなぜ気づかない? 同盟を組もうとも罰せなければならない悪はいるのだ!」

 

「ええ。そんなことは俺にだってわかりますよ。どうしようもねぇ悪い奴がいるってことくらいね。ですがね、あの子達には関係のないことですよ。同盟だとか悪だとか、そんなことはね。あの子たちは何があっても守らなきゃならねぇんですよ」

 

煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)は、おまえの力は世界の均衡を崩すことができるのだぞ? それでも、おまえは――――――」

 

「それでもです。俺はね、世界をどうにかしたいなんてことは、今の今まで一度だって考えたことありませんよ。俺はいつだって一つのことを実践してきただけに過ぎないんすよ」

 

彼は両手を広げて、抱きしめる仕草をした。

 

「俺の手の届く範囲にいるガキんちょどもの笑顔を守る。俺はそのために強くなった。ジョーカーになった。それは今でも変わりはしねぇんですよ」

 

その言葉に師であるエヴァルド・クリスタルディも、その背後に控えている戦士達も複雑な表情となっていた。

 

―――――守るために強くなった。

 

彼もまたイッセーくんと同じなのかもしれない。

戦う理由、強くなった理由。

それは大切なものを守るため。

 

ジョーカーの話す言葉から、彼らも感じるものはあったようだ。

 

シスター・グリゼルダさんも一歩前に出る。

 

「クリスタルディ猊下、互いに言葉は無粋となりましょう。これ以上、何を言ったところで、この子の心は動きません」

 

シスターの言葉を受けて、エヴァルド・クリスタルディは天を仰ぐ。

 

「相変わらず、馬鹿正直な男だ」

 

どこか呆れるような師の言葉に、優しいジョーカーは笑んだ。

 

「俺一人くらいバカな天使がいてもいいんじゃないすかね? 罰は来ないでしょ」

 

「そうか、ならば私も己の意思を貫くとしよう。敬う神が同じだとしても『正義』を違えてしまったのならば、正せねばならない」

 

エヴァルド・クリスタルディはエクスカリバー・レプリカの切っ先をこちらに向けて高らかに吼えた。

 

「これ以上の言葉は無粋………確かにその通りだ。おまえも私も戦士ならば、互いの得物をもって意思を押し通すまで。――――――戦士達よ! 天より許された一戦だ! 思いのたけを今日この場ですべて吐き出せ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

この一帯を揺らすほどの声量が戦士たちから発せられる!

 

エヴァルド・クリスタルディは天高く上げた剣を一気に振り下ろした!

 

「死んでも後悔はするな! 罪からくる報酬は――――――死なのだから!」

 

それが開戦の狼煙となり、戦士たちは叫びと共にこちらに向かって駆けだしてくる!

 

耳にはめたインカムからソーナ前会長の声が聞こえてきた。

 

「それでは皆さん、始めましょうか。私達の意思の全てをぶつけましょう!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

『椿姫、翼紗は前に出て盾を形成しなさい!』

 

「「はい!」」

 

ソーナ前会長の指示で最初に動いたのは『女王』真羅先輩と『戦車』由良さん。

 

真羅先輩はカウンター型の神器『追憶の鏡(ミラー・アリス)』を使って、前方に鏡を形成した。

彼女の神器の能力は鏡が破壊された衝撃を倍にして相手へ返すもの。

後衛に並ぶ戦士達が光力が込められた銃弾や遠距離型の神器で一斉射撃をしてくるが、宙に展開された無数の鏡がそれらの衝撃を倍にして相手へ返していた。

 

真羅先輩の横では由良さんが人工神器『精霊と栄光の盾(トゥィンクル・イージス)』を構えた。

こちらは契約した精霊の属性に応じて多様な攻防手段を生み出す。

今も契約した精霊の力によって、炎の障壁を作り出している。

真羅先輩の鏡をすり抜けてきた攻撃を由良さんの炎の盾が焼き尽くす。

 

先手を取ったはずの戦士達の攻撃は、シトリー眷属の『女王』と『戦車』によって完全に防がれる結果となった。

 

また、二人が直接狙われないように『僧侶』花戒さんの人工神器による結界が二人を守っている。

 

遠距離攻撃が完全に防がれた戦士達が次に出る手段は前衛による攻撃。

得物を握った戦士達が雄叫びと共に突貫してくる。

 

ソーナ前会長の指示が飛ぶ。

 

『こちらもアタッカーで応えましょう』

 

その指示で動くのは『兵士』仁村さん、『騎士』巡さんとベンニーアさん、『戦車』ルガールさん。

ここに僕とイリナさん達『御使い』のメンバーが参戦する。

 

僕達前衛は教会の戦士達と剣を交える。

 

身のこなしで、どの戦士もある程度の場数を踏んできた者達だと理解できる。

しかも、手に持つ得物は光の剣や槍、聖水から十字架と悪魔がダメージを受けるものばかり!

 

しかし、僕達だって何度も死線を潜り抜けてきたんだ。

目の前の戦士達のレベルなら――――――。

 

「今の僕の相手じゃない!」

 

僕は聖魔剣を振るって数名を一度に倒した。

 

倒したと言っても刃は潰してあるため、殺したわけじゃない。

彼らはクーデターで死者をだした訳ではない。

むろん、斬られても文句は言えない立場。

彼らの武器も抜き身の刃だ。

 

それでも、殺さずに済むならそれに越したことはないだろう。

復讐の怨嗟を絶ち切るためにも、極力死人は出したくない。

 

《あー、けっこうめんどうっス》

 

「これも一つの試練なのだろう」

 

高速で動くベンニーアさんと魔法の炎に包まれた両腕を豪快に振るうルガールさんがそう呟いていた。

この場において、ベンニーアさんは鎌の刃のない部分で相手を攻撃している。

ルガールさんもかなり力を抑えている。

 

ベンニーアさんの死神の鎌は斬った相手の魂を削ることになり、死に至らしめる可能性がある。

また、狼男であるルガールさんは凶悪な攻撃力を有する魔法戦士だ。

二人ともその気になれば、相手を容易に殺すことが出来る。

 

そう、ここにいる僕達は自ら力を抑えて戦っている。

これは相手からすれば『手加減』に他ならない。

 

戦士達の後ろでただただ戦場を見詰めているエヴァルド・クリスタルディもそのことには気づいているだろう。

 

真羅先輩が吼えた。

 

「会長! 条件が整いました!」

 

『ええ、椿姫。至りなさい。全員、後方に下がって!』

 

至る…………?

 

まさか――――――。

 

僕達はソーナ前会長の命令のもと、真羅先輩から距離を取る!

 

同時に真羅先輩が力ある言葉を発した!

 

「―――――禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

すると、鏡から三体のモンスターが現れた!

帽子を被った魔物、大きなネズミ、洋服を着た二足歩行の兎だ!

 

『あれが椿姫の禁手、「望郷の茶会(ノスタルジア・マッド・ティー・パーティ)」。禁手には発動条件があり、それは鏡で一定回数カウンターすること。鏡から現れたモンスターはそれぞれが特異な能力を発します』

 

大きなネズミが戦士たちの元に行き、口からガスを吐き出した。

ガスに包まれた戦士達は足取りをふらつかせたと思うと次々に地面に倒れていく。

 

『「冬眠鼠(ドーマウス)」は一定範囲内に存在する全ての相手を強制的に眠らせます』

 

強制的に眠らせる能力!

確かにあのネズミの周囲にいる戦士達は完全に眠りこけていた!

 

「ひゃはぁぁぁぁ!」

 

「おおおおおおっ!」

 

正気を失ったように叫ぶ戦士達!

服を着た兎が跳ねる度に広がる波紋が戦士達に触れた瞬間、その戦士達は狂ったように暴れ始めていた!

 

『「三月兎(マーチ・ラビット)」は一定範囲内の者達を意識を凶暴化させます。そして―――――』

 

ソーナ前会長の視線が最後の一匹、帽子を被った細身の魔物へと向けられる。

その魔物の目が戦士達を捉えた瞬間、彼らは虚ろな目となり―――――。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「あ、い、いやぁぁぁぁぁあ!」

 

何かに怯え始めた。

見えないなにかに向かって武器を振り回し始める。

 

『「帽子屋(マッド・ハッター)」は一定範囲内の相手に幻覚を見せます。これら三つの能力を受ければどのような相手でも戦いから除外できます。これから逃れられる相手は強靭すぎる精神を持っているか、最初からそのような感情とは無縁の相手でしょう。少なくとも、この場において、そんな異常な相手はいません。直接的なパワーはありませんが、相手の戦力を削ぐ方法はパワーでなくとも良いのです』

 

なんという恐ろしい能力だ。

 

鏡の中から現れる多様な能力を持つ魔物達。

この三体の他にもいるのだろう。

なんせ、魔物の名称はルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』から取った名前なのだから。

 

「これは次にゲームで当たると怖いですね。明らかに僕達グレモリーとは相性が悪い」

 

この能力は『ハメ手』の類いだ。

 

真羅先輩の禁手もそうだが、匙くんや他のシトリー眷属は多くがテクニック、ウィザードタイプだ。

だけど、禁手に至った匙くんやルガールさんのようにパワーでも押せるメンバーが属している。

 

以前、アザゼル先生が眷属のバランスとしてはシトリーの方が上だと称していたが、本当にその通りだと思う。

パワーとテクニックの両面に強いイッセーくんがいるにしても、僕達はパワーの方面に傾きすぎているからね。

 

すると、僕の呟きにソーナ前会長は、

 

『ふふふ、次は負けませんよ、木場くん』

 

うん、これは本腰入れてゼノヴィアに技術面を磨いてもらわなければ!

もっとテクニカルな相手への対処方法も覚えてもらわないと!

ようやくテクニックを身に付けてきたと思えば、最終的にはパワー押しだしね!

 

『ですが、木場くん。もっと恐ろしい対戦相手が近くにいるのではないですか? ―――――イッセーくん達赤龍帝眷属は現段階で異常ですよ?』

 

「ハハハ………それは…………否定できませんね」

 

上級悪魔になったイッセーくんはこれから、『王』として自らの眷属を率いて、レーティングゲームに参加できる。

まだまだ駒は揃っていないけど…………現時点でおかしいことになってるよね。

 

そうか………なぜか考えてなかったけど、いずれはイッセーくんともぶつかることになるのか。

 

その時、僕はどこまで戦えるのだろうか…………。

 

僕達が教会の戦士を次々と倒していき、真羅先輩の禁手が戦線崩壊の決定打となったところで、ついにその男は剣を握った。

 

「―――――下がれ」

 

低く、重い声音は戦場を一瞬で静まりかえらせた。

 

それまで剣を振り上げていた戦士達がその剣を下ろし、彼らの師が通る道を開ける。

 

「ここからは私が出る」

 

――――――元エクスカリバーの使い手、エヴァルド・クリスタルディが動く。

 

 

[木場 side out]




原作でも思ったけど真羅先輩の禁手能力怖いですよね。

次回はもう少しオリジナルを入れたいところです。

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