ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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18話 狙撃手、再び 

『――――――オッパイザーだ!』

 

その名を告げる先生の声が俺の中でリピートされた。

 

オッパイザー…………。

 

そうか、オッパイザーっていうのか。

 

オッパイザー…………。

 

オッパイザー…………おっぱい、ざー…………。

 

おっぱい…………おっぱい…………?

 

何度も何度も『おっぱい』という単語が再生された。

 

そして―――――。  

 

「もうちょっとカッコいい名前はなかったのかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

天を仰ぐ俺!

 

あれってそんな名前だったのぉぉぉぉぉぉ!?

機体は何度か見てきたけど、その名前は今初めて知ったわ!

 

なんで、よりによって『オッパイザー』!?

他にも名前は考えられたでしょ!?

 

確かにおっぱい好きだけども!

おっぱいドラゴンだけれども!

 

酷いネーミングだよ!

 

『酷いとは酷いわ。名付け親には私も入ってるのよ?』

 

おまえかい、駄女神! 

なんつー名前つけてんだ!?

 

『だってイッセーはおっぱいドラゴンだもの! アザゼルくんと一生懸命考えたんだから!』

 

そのまんまじゃねーか!

努力の方向性が間違ってるぞ!

 

耳元の通信用魔法陣からアザゼル先生の声が聞こえてくる。

 

『本当ならもっと小型にしたかったんだがな、そのサイズで限界だった。乳力(にゅー・パワー)の力が大きくてなぁ。俺の持てる技術の枠を越えてきたんだ』

 

『おっぱいの力は偉大ということね。でも、アザゼルくん。これで新商品も決まったんじゃない?』

 

『そうだな。これは売れる。冥界どころか、各神話勢、おっぱいドラゴンファンのもとに届けようじゃねぇか!』

 

『ええ!』

 

なんか、未婚元総督と駄女神が新商品を目指してるんですけど!?

あんたらの商魂逞しすぎるだろう!?

つーか、商品化するってことは特撮でも出す気だな!?

 

イグニスが言う。

 

『さぁ、ドッキングするわよ、イッセー! あなたの真の力を見せてあげなさい!』

 

『そうだ。そのために猛ダッシュで調整したんだからな。一泡吹かせてやれや、イッセー!』

 

二人が俺を促す。

 

ここまで来たら機体の名前なんて置いておこう。

商品化も自由にしてくれ。

 

―――――今、俺が欲するのは目の前の敵を殴れる力だ。

 

青年の姿となったアセムが笑む。

 

「アハッ♪ ここに来て、面白いのが出てきたね。―――――君の準備が整うまで待とう。さぁ、君の全力を僕に見せてごらんよ。僕が知りたいのは、望むのは、今の君が持つ全てだ」

 

準備が出来るまで待つ、か。

なんともサービス精神の良い神さまなことだ。

 

だが、手を出してこないのは俺としてはありがたい。

 

それに、向こうがご所望なら魅せてやらないとな。

―――――俺の全てを。

 

俺はアセムを一瞥すると空高く飛び上がる。

ぐんぐん高度を上げて、冥府の雲を突っ切った。

俺を追うようにアザゼル先生から送られてきた赤い機体も空高く舞う。

 

赤い機体が俺の背後に位置した時、俺は叫んだ!

 

「―――――ドッキングする!」

 

すると、背中の装甲がカシャカシャとスライド。

背中に宝玉が現れる。

 

鎧の宝玉と機体に埋め込まれた宝玉から音声が響く。

 

『Docking Sensor!』

 

『Oppaiser Docking Mode! Oppaiser Docking Mode!』

 

機体が変形し、接続部のようなものが現れる。

そこにも宝玉が埋め込まれていて、背中の宝玉と光線のようなもので結ばれる。

 

オッパイザーが背中に接続されて俺と一体化すると、EXAの鎧はより適した姿へと変わり始めた。

各部のブースターは小型化され、籠手に収納されていたキャノン砲が無くなる。

その代わり、背中の翼が一回り大きくなった。

 

天武と天撃、天翼の鎧を無理矢理くっつけたEXAはその力にどこかズレがあった。

それが今、修正されていくのを感じる。

 

―――――乳力の歯車が完全に一致した。

 

全身の宝玉から眩しい輝きが放たれ、冥府を照らす!

 

宝玉の一つ一つには『∞』の文字が浮かび上がっている。

 

これは………無限の力を表しているのか?

 

そんな疑問にイグニスが答えた。

 

『いえ、それは無限を意味しているんじゃなくて、おっぱいを表しているの』

 

おっぱいかよ!

とうとう宝玉におっぱいが浮かび上がってきたよ!

確かに見えなくもない…………って、よく見たら円の中に点がある!

二つの円、それぞれの中心に点がある!

これ、おっぱいだ!

 

『この瞬間、イッセー中にあったアリスちゃんの乳力とリアスちゃんの乳力が完全にフィットしたのよ。ダブルスイッチ姫の力があなたの中で噛み合った。乳力をフルで使える今の姿は――――――ダブルオーッパイザーってところね』

 

なんで伸ばした!?

なんでおっぱいを伸ばした!?

そこはダブルオッパイザーじゃダメなのか!?

 

『なんとなく!』

 

毎回毎回適当すぎるだろ、この駄女神は!

 

 

 

~その頃のダブルスイッチ姫~

 

 

一誠がオッパイザーとドッキングを果たした頃、アリスとリアスにも変化があった。

 

その変化は誰の目にも明らかで、アリスと激突しているヴィーカにも、リアスの周囲の者達にも認識できた。

 

その変化とは―――――。

 

「「なに、これ…………!? 私の乳首が………光ってる!?」」

 

駒王町を模したフィールドと冥府。

離れた場所にいるはずの二人の言葉は奇跡的にタイミングも一致していた。

 

 

~その頃のダブルスイッチ姫 終~

 

 

 

なにはともあれ、これで俺の中にあった乳力は安定したんだな!

 

しかし…………不思議なことに、ドッキングした瞬間、全身に受けていたダメージが消えたんだ。

しかも、体力まで全快している。

 

これは一体…………。

 

俺の疑問が読めたように先生が通信を送ってくる。

 

『オッパイザーにはな、おまえが搾ってきたアリスとリアスの母乳が搭載されている。そのおかげでおまえは力を取り戻したはずだ』

 

「マジですか!? こいつにそんな機能が!?」

 

『ま、提案したのはイグニスだ。実際に回復しているようで俺も驚いてる。しかし、一つだけ言っておくが、その回復が使えるのは一回のドッキングにつき一回だけだ。つまり――――――』

 

アザゼル先生の言葉を続けるようにイグニスが言った。

 

『つまり、使う度にアリスちゃんとリアスちゃんのおっぱいを搾らないといけないってことね♪』

 

な、なんですとぉぉぉぉぉぉ!?

 

ドッキングする度に二人のおっぱいを搾れと!?

また『休憩室』に二人を連れ込めと!?

 

そ、それはちょっと嬉しい特典のような気が…………。

多分、アリスパンチが飛んでくると思うけど、それがあっても良いかな…………。

 

う、家に帰ったらまたお願いしてみようかな…………。

 

二人の可愛くエロい光景を思い浮かべているとアザゼル先生が追加情報をくれる。

 

『いいか? オッパイザーはあくまで乳力を安定させるものに過ぎん。その状態の継続時間は通常のEXA形態とさほど変わらん。まぁ、出力自体は上がっているかもしれないけどな。とにかく、おまえの体力が切れるまでの勝負だ。体力が尽きればドッキングも解除されるから注意しろ』

 

「解除されるんですか? シトリー眷属の人工神器的な感じじゃないと?」

 

『確かにオッパイザーは人工神器の技術を使用しているが人工神器とは似て非なるものだ。しかも、EXA形態専用で非常に限定された代物となっているからな。他の形態には使えんぞ』

 

あー、なるほど。

まぁ、あくまで乳力安定補助装置だもんな。

そう考えれば納得はできるような…………。

 

先生は続ける。

 

『こっちの戦闘は今のところ順調だ。だが、冥界、天界から援軍を送ることが出来ないのは申し訳なく思っている…………』

 

「大丈夫ですよ。こっちはこっちで気張るんで先生はリアス達を見てあげてください。―――――俺もあいつに一発叩き込むんで」

 

下から俺を見上げるアセムへと視線を移す。

奴は変わらず、ニンマリと笑みを浮かべている。

 

俺は一度、大きく息を吸って――――――

 

「いくぜ、アセム! こっからが第二ラウンドだ! ドライグ!」

 

『おう! 色々残念だが、今なら使えるぞ! やれ、相棒!』

 

ドライグからの許可は得た!

 

俺は内側の駒を『女王』に昇格!

同時に昇格強化でこの形態と駒の力を最高のレベルで同調させた!

 

「―――――トランザム!」

 

『Trans-am Drive!!!!』

 

籠手の宝玉から発せられる力強い音声!

 

鎧が赤く――――紅蓮の輝きを放ち、大きく広げられた両翼からは赤く煌めく粒子が大量に放出される!

 

俺はアセムに指を突きつけて叫んだ。

 

「EXA改めダブルオーッパイザー! 俺の全力、受けてみやがれぇぇぇぇぇぇ!」

 

赤い粒子を放出しながら俺は急降下!

EXAの時よりも遥かに速いスピードでアセムへと突貫する!

 

対するアセムは黒い籠手を突き出して、本日一番の笑みを見せてくれる!

 

「アハッ♪ それだよそれ! 君の新しい可能性を見せてくれ!」

 

異世界の神との第二ラウンドに突入!

 

俺達の拳が衝突すると、互いのオーラが激しく火花を散らす!

巻き起こる稲妻が周囲を破壊し始める!

 

「ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇあっ!」

 

「アハハハハハハハハハハ!」

 

俺の咆哮とアセムの笑い声が混ざる。

 

合わさる拳を中心に空間が歪み、渦が発生し始める。

地面が割れ、雲が歪み、渦に引き寄せられていく!

 

剥がれた地面が浮かび上がってきた瞬間、弾かれたように俺とアセムは後ろへと飛んだ。

それと同時に空間の歪みが収まり、剥がれた地面は重力に引かれて落ちていく。

 

俺は翼を広げると、落下中の地面を蹴って前に出る。

光の軌跡を描いてジグザクに宙を漂うアセムへと殴りかかった!

 

対するアセムはフードの下から笑みを覗かせると、無数の残像を生み出した。

残像の全てが掌を向けて、黒いオーラを集中させていく。

 

「さぁ、見切れるかな?」

 

そう言うとアセムの残像全てからエネルギー弾が放たれる!

百や二百を遥かに上回る数のエネルギー弾!

 

さっきのアセムの言葉から察するに幾つかはダミー。

幻影が混じっているようだ。

 

だけど、全てのエネルギー弾から危険な感じがしていて、区別がつかない!

 

区別がつかないなら――――――。

 

「全部撃ち落とすまでだ!」

 

俺は身を縮めて力を溜めると―――――一気に解き放った!

全方位へと広がる衝撃波!

 

赤い波動が黒い球体を相殺、空中で大爆発を起こす!

空一面が火の海となる!

 

俺は赤い粒子を撒き散らしながら、翼を羽ばたかせて、火の海の中を突っ切っていく。

 

燃え盛る炎を飛び抜けた先にいるのはアセム!

奴もこの火の海の中を抜けてきたらしく、猛スピードで迫ってきていた!

 

再びぶつかる拳と拳!

 

俺は紅蓮のオーラをたぎらせ、ラッシュを仕掛けた!

 

アセムは余裕の笑みを浮かべて全てを避けきっている――――ように見えた。

見ると頬には切ったような跡があり、血が滲んでいる。

他にもアセムのトレードマークともいえる白いパーカーも所々が破けていた。

 

それはつまり―――――アセムが俺の拳を避けきれなくなってきていることを示している。

 

それまで掠りともしなかった俺の攻撃を徐々にではあるが、体が反応しきれなくなっている。

 

俺はというと、アセムの攻撃は受けているものの、受けるダメージはかなり減っている。

しかも、受ける数も大幅に下がっていた。

 

そして――――――。

 

「オォォォォォォォォッ!」

 

「ッ…………!」

 

アセムの頬にめり込む拳。

ついに俺の攻撃がアセムを完全に捉えた。

EXAでも届かなかった拳がようやく届いたんだ。

 

「ここから一気に押しきってやるぜ!」

 

籠手のブースターが火を吹く。

小型化したブースターだけど、出力は前よりも上がっている。

 

おそらく、俺の中の力が安定する前までは無駄に力を放出してしまっていたのだろう。

それが安定したことで力を集中できるようになった。

 

しかも、トランザム状態の今なら、スピードもパワーも三倍!

 

勢いを増した拳はアセムを遥か彼方まで吹き飛ばす!

 

俺はここぞと追撃に出る。

 

しかし、ここは流石のアセム。

力を放出すると、その場で宙返り。

空中で体勢を整えやがった。

 

アセムは頬を拭いながら笑う。

 

「うん、これは予想以上だね! これがおっぱいパワーなのかな?」

 

「そういうこった!」

 

結果的におっぱいだもんな!

否定は出来んよ!

 

アリスさん!

リアスさん!

…………おっぱいをありがとう!

心からお礼を言わせてもらうよ!

 

無事に帰れたら、二人に抱きつこう!

 

俺はアリスとリアス、二人のスイッチ姫を思い浮かべながら、二人の力をこの手に顕現する。

右手に滅びの魔力、左手に白雷。

力が安定したことで、俺の中の二人の力もより強く扱えるようになっていた。

 

例えば―――――。

 

翼から勢いよく飛び出る八基のビット。

高速で動くビットは砲門をアセムへと向ける。

 

砲門に溜められるのは――――――滅びの魔力だ。

 

「フェザービット! あいつにぶちかませぇぇぇぇ!」

 

一斉に放たれる滅びの球体!

赤龍帝の力で高められた滅びの力がアセム目掛けて迫る!

 

前回は手で払われたが、

 

「おっと、これは避けた方が良さげだね!」

 

アセムはその場から飛び退き、回避する。

 

アセムが避けたことで滅びの魔力はそのまま地面に落ちて――――――地面をごっそり消し去った!

 

巨大なクレーター………というより、かなり深い穴だ。

滅びの魔力は地面を消し去りながら、地下深くまで突き進んでいったようだ。

 

続けて接近戦を挑む俺が纏うのは白雷だ。

ビットを二つ手に握って、白雷で形成された刃を出現させる。

 

「ちょっとでも触れれば丸焦げだぜ!」

 

「うはー、怖っ! 今のまま直接触れるのは不味そうだね。なら、僕も剣を出そうか」

 

そう言うとアセムはオーラを集中させて黒い剣を二つ作り出す。

 

互いに二刀流となって、剣を振るう俺とアセム。

ぶつかるたびにそこを起点に空間にヒビが入る。

俺達の力に周囲の空間が悲鳴をあげていた。

 

超高速で繰り広げられる剣戟。

 

しかし、それも長くは続かなかった。

 

激しく撃ち合った末に――――――俺の剣がアセムの剣を砕いた。

 

この結果にアセムは驚いた様子で、

 

「僕が力負けしているなんてね…………!」

 

「ああ、今なら力押しでもなんとかなりそうだ!」

 

だが、こっちには制限時間がある。

トランザムももう長くは続かないだろう。

 

だから―――――ここで決める!

 

俺はビットを手放すとアセムの腕を掴み、腹に強烈な一撃を叩き込む!

衝撃がアセムの肉体を突き抜けた!

 

「カハッ………!」

 

アセムの体がくの字に曲がり、口から空気を吐き出す。

 

俺はアセムを全力で上に放ると、翼と腰に折り畳まれているキャノン砲を展開。

持てる力の全てを籠めた。

 

「こいつで終いだぁぁぁぁぁぁ!」

 

そう叫んだ瞬間、翼から放出されていた赤い粒子が変化した。

赤から――――――虹色へ。

そう、天界で起きたあの現象だ。

 

 

その時、俺の頭に二つの人物の顔が浮かんできた。

 

 

―――――優しく微笑む知らない女性。

 

 

―――――ボロボロの姿で横たわる、知っている少年。

 

 

ふいにアセムの顔を見ると――――――笑みを浮かべていた。

それは今まで見たことのない穏やかな笑みで―――――。

 

『EXA Over Blast!!』

 

放たれた莫大な砲撃がアセムの体を包み込んだ―――――。

 

 

 

 

 

冥府の空が紅蓮に染まっている。

 

オッパイザーと奥の手であるトランザムよって超強化された俺の力はアセムの力を上回った。

 

でも、それも最後の一撃で終わり。

 

時間切れとなった俺は鎧も通常のものに戻り、オッパイザーも分離。

魔法陣が展開され、オッパイザーはどこかに転移してしまった。

 

イグニスが言う。

 

『限界が来たらオッパイザーは自動的にアザゼルくんの研究施設に転移されるわ。残ってても仕方ないし』

 

そりゃそうか。

あくまでEXA対応だもんな。

 

俺の限界が来たらオッパイザーも使えなくなるってアザゼル先生も言ってたし。

 

俺は未だ紅蓮に包まれる空を見上げる。

 

持てる全ての力を使いきった。

今から戦っても圧倒されて終わるだろう。

出来れば、今ので終わってほしいと願うが…………。

 

空を覆っていた紅蓮が収まり、元の色を取り戻していく。

 

 

すると―――――。

 

 

「アハハハハハ! これは予想を遥かに越えてきたね! パワー、スピード、今の僕を上回っている! いいね! 凄まじい成長だよ!」

 

楽しげな笑いと共に露になっていく黒い影。

 

そこにいたのは――――――禍々しい色の蝶だった。

 

あらゆる色が混ざった暗い色の蝶の羽。

それがアセムの背中から大きく広げられている。

 

見ればアセムも傷だらけで、それなりのダメージは負っているようだが…………。

 

アセムは蝶の翼を羽ばたかせて、俺と同じ高さまで降りてくる。

 

「いやはや、凄いよ君は。僕がここまでボロボロにされたのはロスウォードくんにやられて以来かな? まぁ、あの時は死にかけたけどね」

 

「…………あれ受けてピンピンしてやがんのかよ」

 

俺がげんなりしながら言うとアセムは首を横に振った。

 

「結構ダメージは大きいよ? 生身であれを受けたからねぇ。これぞおっぱいドラゴンの力ってね。ふふふ、その姿がテレビ放映されるのが楽しみだよ♪」

 

こいつ特撮のこと考えてるんですけど!?

やっぱりピンピンじゃねーか!

 

トランザムで三倍強化してこれかよ!?

 

「うんうん、順調に成長しているようで何よりだよ。今、一瞬だけど発動していたあの力。リゼ爺はあれを気味悪がってたけどね。僕としては嬉しい進化だよ。…………ピースが埋まるのも近いかな?」

 

アセムは何やら笑顔でうんうん頷いている。

 

…………ピース、か。

 

そういや、美羽にも言ってたな。

自分が動くときはピースが埋まった時だと。

 

俺はインカムを通して聞いていたアセムの言葉を思い出しながら訊いた。

 

「………おまえは美羽に言ってたな。今の世界はおかしいって」

 

「言ったよ。今、この世界は色々動き出してるね。でも、不十分なんだよ。彼女にも言ったことだけどね、神も人間もそれ以外の存在も世界の一部だ。それぞれの存在があるからこそ世界は動いていく。この世界の存在はそれを分かってないのさ」

 

「結局、おまえは世界を一つにしたいってことなのか? だけどな、この世界はようやく和平に向けて動き出したんだぜ?」

 

この一年で世界の情勢は劇的に変化している。

 

長年争ってきたもの同士が同盟を結ぶ。

当然、不満や反発の声が出てくる。

今回の教会でのクーデターもそれが爆発したものだ。

 

アザゼル先生たちもそれを理解しながらも、世界を良い方向に動かそうとしている。

 

それを…………。

 

しかし、アセムは首を横に振った。

 

「不満や反発? それは当然さ。今、教会でクーデターを起こしている者達がいるだろう? 彼らは自らの想いを声に出し、行動に移し、君達にぶつけた。君達もそれに応えている。そうして互いの信念や想いをぶつけることも世界を廻すには必要なことだ」

 

「だったら、おまえは―――――」

 

アセムは俺の言葉を遮って続ける。

 

「僕が言っているのはそこじゃない。僕はこうも言ったはずだよ。―――――『無駄に力を持つ者は思い上がり、くだらないことに固執する。弱者はその地位に甘えて自分は無関係だと世界から自身を切り離す。こうした人達が他者を否定し、閉じ籠り、分かり合おうとしなくなる』ってね。最初から自分達の想いを伝えようともしない、相手を分かろうともしない」

 

アセムは左右の手を広げると交互に視線を移す。

 

「世界は自分達のもの? 自分達を中心に動いてる? それは間違いだ。自分は関係ない? それも間違いだ。この世界にはそういう考えの者が多すぎる。神も人もそれ以外も。意識してか、無意識なのかは知らないけどね。―――――僕は気づかせてやりたいのさ、『自分達は世界の一部である』ことを」

 

その言葉を聞いて、俺の頭に一つの考えが浮かぶ。

もしかして、こいつ…………最初に出会った時のあの態度、あの口調はまさか――――――。

 

しかし、そうだとしてもまだ疑問となる点がある。

 

「おまえの目的は何となくだけど、分かってきた。だがな、なんで、アスト・アーデの神であるおまえがこの世界でそれを成そうとする?」

 

そう、こいつはあくまでアスト・アーデの神だ。

それが態々こちらの世界で…………クリフォトと手を組み、神々に喧嘩を売ってまで成そうとするのか。

 

その理由が分からない。

 

すると、アセムは―――――。

 

「―――――約束だからさ。ずっと昔にした、ね。この世界からすれば、あまりに自分勝手な理由だと思うけどね」

 

…………約束?

こいつが…………誰かと…………?

 

そいつはもしかして、さっきの…………。

 

 

その時だった――――――。

 

 

冥府一帯に魔法陣が無数に展開された。

空を埋め尽くすほどの魔法陣。

その紋様は――――――クリフォトのものだ。

 

アセムが空を見上げて呟く。

 

「やれやれ、リゼ爺も余計なことを…………。よっぽど勇者くんに殴られたのが腹立ってたんだろうねぇ」

 

魔法陣から現れたのは邪龍だった。

夥しい数の邪龍が空を埋め尽くす。

しかも、ただの量産型じゃない。

   

「グレンデルとラードゥンだと!? あの野郎…………!」

 

天界で量産型のグレンデルはいたけど…………ラードゥンまで量産したのかよ!

 

って、俺への嫌がらせかよ!?

なんて小さい奴!

 

アセムが言う。

 

「いくら今は協力関係でもこれは…………。僕の楽しみを邪魔するなんて、彼も良い度胸………いや、バカなのかな? さて、どうする勇者くん? ここにいる邪龍は君に差し向けられたものだ。当然、君を狙ってくる」

 

アセムが言い終えると同時に邪龍が咆哮をあげて、一斉に飛びかかってきた!

 

この数、アセムとやりあった直後で捌ききれるか…………?

 

俺が構える―――――が、ここで異変が起きる。

 

俺に迫っていた邪龍が撃ち落とされたんだ。

 

―――――遥か彼方から飛んできた光線によって。

 

アセムが驚愕する。

 

「僕の感知の外からの攻撃…………!? そんなこと…………。そうか、勇者くん。君は彼女を―――――」

 

アセムは分かったらしいな。

 

今の攻撃―――――狙撃が誰の手によって行われたのか。

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

「よっし! 一匹命中! さっすが!」

 

ガッツポーズで笑う一人の少女がいた。 

テンション高めの活発そうな雰囲気を持った赤毛の少女だ。

 

「でも、まだまだ数はいるのよ? 今のだけで喜んでいる場合ではないわ」

 

赤毛の少女にそう言うのはもう一人の少女。

赤毛の少女とは対照的に大人しそうな見た目をした、淡い水色の髪色の少女だ。

こちらは髪を後ろで束ねている。

 

どう見ても違う二人であるが、共通点がある。

 

それは明らかに人ではないのだ。

 

彼女達の身長は一般的な人間の掌サイズ。

背中にはキラキラと輝く二対の翼を持っている。

 

その姿はまさに妖精。

 

そんな二人は一人の女性の肩に乗っていた。

 

女性は言う。

 

「フィーナの言う通りですよ、サリィ。イッセーはかなりの力を使ってしまったようですし、アリス達も戦闘中。ここは私達の出番と言うわけです」

 

「言われなくてもわかってるよ! んもー、二人はいつも細かいなぁ」

 

「サリィがいつも適当すぎるのですよ」

 

「私のどこが適当なんだよ、フィーナ!」

 

「全部ですね」

 

「泣くぞ!? 泣いちゃうぞ、私!」

 

ワイワイと女性の肩の上で賑やかにする二人の妖精のような少女。

 

女性は手に握る銃を構えて、二人に言う。

 

「二人とも、そろそろいきますよ? こういう非常時のために私達はここにいるのですから。―――――ライフルビットとシールドビットの展開をお願いします」

 

「「了解! ――――――任せて、リーシャ!」」

 

[三人称 side out ]

 

 




赤瞳の狙撃手&新キャラ登場!

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