ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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やっべぇ、サブタイが浮かばなかったぜ☆


20話 借りたものは返そう 

[木場 side]

 

「祐斗! ゼノヴィア! イリナ! そっちはもう終わったの?」

 

僕とゼノヴィア、イリナさんの姿を見たリアス前部長がこちらに声をかけてきた。

 

エヴァルド・クリスタルディとの戦闘を終えたボク達三人は駒王学園(レプリカ)に移動していた。

前デュランダル使いことヴァスコ・ストラーダ率いる戦士の一団と戦闘中であるリアス前部長達に加勢するためだ。

 

僕たちが到着したちょうどその頃、戦闘が行われているはずの校庭では戦況に変化が起きていた。

 

――――――駒王学園の周囲一帯をあの虹色のシャボン玉が覆っていたんだ。

 

戦士の一団だけでなく、仲間の皆も一様に泣いていた。

 

デュリオさんが神器の力で生み出したこの虹色のシャボン玉はこちらにも届いていたらしい。

 

リアス前部長が訊いてくる。

 

「このシャボン玉はこちらの陣営のものなの?」

 

「このシャボン玉はジョーカーが作り出したもので、相手の大切なものを思い返させて戦意を鈍らせるものだそうです」

 

その問いに答えたのはイリナさん。

 

このシャボン玉を作り出したデュリオさん本人は今も向こうに残っている。

師であるエヴァルド・クリスタルディや戦士達と話したいことがあるようで、 僕たちをこちらに送ってくれたんだ。

 

このシャボン玉に触れてしまえば誰もが戦意を失う。

エヴァルド・クリスタルディですらそうだった。

 

しかし、この状況下に置いても一切戦意が薄れない者がいた。

 

「これはこれは………キレイなシャボン玉ではないか」

 

しわくちゃな顔に笑みを浮かべるヴァスコ・ストラーダ。

その手にはデュランダルのレプリカ。

 

………この戦場の様子を見るに皆はまだ彼と戦っていないようだ。

 

ヴァスコ・ストラーダは祭服を脱ぎ捨てる。

服の下にあったのは、齢八十を超える老人のものとは思えない分厚い筋肉の鎧。

長身も相まって、彼から感じる重圧は凄まじい。

 

 

――――――ストラーダ猊下は正真正銘の怪物だ。

 

 

こちらに来る直前、エヴァルド・クリスタルディが僕に言い残した言葉だ。

 

怪物とさえ思われたあの男を以てしてもそう言わしめる力。

こうして向き合っていると分かる気がする。

 

一歩、彼が前に出るだけで寒気が走る。

これが本当に人間の力なのか………そんな疑問すら浮かんできてしまう。

 

ヴァスコ・ストラーダは手を広げて、彫りの深い笑みで言った。

 

「では、教義の時間といこうか。悪魔の子らよ、学んでいきなさい」

 

解き放たれる濃密な重圧。

いったいどれほどの………。

 

ゼノヴィアが言う。

 

「デュランダルのレプリカ。力は本物の五分の一に満たないと聞くが………猊下が持つ以上、その限りではないだろう」

 

エクスカリバーのレプリカもそうだった。

エヴァルド・クリスタルディの振るっていたエクスカリバー・レプリカは僕の想像を遥かに超える力を発揮した。

目の前の剣士はそれと同等、いや、それ以上の力を持つと見て良い。

 

最初に仕掛けたのはゼノヴィアとイリナさんだった。

 

ゼノヴィアは悪魔の翼を、イリナさんは二対の純白の翼を広げて高速で駆ける。

 

ヴァスコ・ストラーダは特に動く様子を見せず、構えすらしない。

油断でも余裕を見せているわけではない。

その表情はまるで――――――。

 

ゼノヴィアがデュランダルを振るう!

 

だが…………。

 

「っ!」

 

デュランダルは先日のように指だけで受け止められてしまう!

 

「猊下、失礼を!」

 

ゼノヴィアに続いて、イリナさんがオートクレールで斬りかかる。

 

しかし、こちらも人差し指と中指で挟んで止められてしまう!

 

二人とも渾身の一撃だったはずだ!

それを指だけで止めるとは…………!

 

剣を捕まれた二人ははそのまま豪快に放り投げられてしまった!

 

「ならば魔法で!」

 

後方からロスヴァイセさんが無数の魔法陣を展開して、各種属性が入り乱れるフルバーストを撃ち込んだ!

 

人間相手にそんなことをすれば跡形も残らない。

しかし、それすらも避けようとはしなかった。

 

魔法が直撃する瞬間、指を一本出す。

突き出した指で魔法の一つ一つに高速で触れていく。

 

その瞬間―――――――触れられた魔法は霧散してしまった!

 

この結果にロスヴァイセさんは驚愕する。

 

「………術式そのものを崩したというのですか!?」

 

「魔法とは計算だ。方程式を崩す理をぶつければ相殺、破壊は可能なのだ。特に若い使い手は洗練されておらず、形だけ、見た目だけのものが多い。僅かなほころびを見つければ、この通り」

 

「………っ!」

 

言葉も出ないといった表情のロスヴァイセさん。

 

ヴァスコ・ストラーダの理屈は理解できる。

しかし、ロスヴァイセさんの術式は洗練されたものだ。

今の一瞬でその僅かなほころびを見つけたというのか………!?

 

驚愕しながらも僕は地面を蹴り、今出せる最高速度でヴァスコ・ストラーダへと斬りかかる。

 

エヴァルド・クリスタルディとの戦いを経てかなりの消耗はしたものの、聖魔剣は更に研ぎ澄まされた。

刀身はどこまでも澄んでいて、騎士王の力もより高くなっている。

 

僕の突貫にヴァスコ・ストラーダは笑むとデュランダルのレプリカを握る。

 

「良い面構えだ、若き剣士よ」

 

その瞬間、僕の聖魔剣とヴァスコ・ストラーダのデュランダル・レプリカが火花を散らす!

 

ぶつかると同時に襲いかかってくる力の波動!

受け止めただけだと言うのに腕が持っていかれそうになる!

 

だけど、聖魔剣は聖と魔の入り交じったオーラを衰えさせていない。

むしろ、どんどん強くなっていっている。

 

デュランダル・レプリカから聖なるオーラを吸いとって自らの聖属性を高めているんだ。

 

僕が高速で動くと、ヴァスコ・ストラーダも齢八十を越えているとは思えない身のこなしで剣を振るってくる。

 

僕達の剣は何度もぶつかり、空中に火花を散らす!

 

少し前の僕ならここまで打ち合えてはいないだろう。

 

今、こうして怪物と称された男と剣を交えていられるのは魔剣創造が僕の想いに応えてくれているからだ。

 

魔剣創造は一度、僕から力を奪った。

それはデュリオさんの言ってた通りで、僕がこの力に至った時のことを愚かにも忘れてしまっていたから。

 

この力は守るためにある。

僕の大切な人を、大切な仲間を。

 

だから、僕は――――――。

 

「我が主のために、仲間のために―――――守るために剣を振るおう!」

 

そう叫ぶと僕は刀身から火と風を発生させる!

聖魔剣を中心に火炎の嵐が巻き起こった!

 

しかし、火炎が完全に包み込む前にヴァスコ・ストラーダは目にも止まらぬ速さで抜け出しまう。

 

―――――ここだ!

 

聖魔剣を高く振り上げ――――――一気に振り下ろす!

 

刀身から放たれる無数の剣!

火、水、雷、風とあらゆる属性を持った聖魔剣の雨が一斉に降り注がれる!

 

移動し、止まった瞬間は次の動作へ移るときに僅かな遅れが出る。

 

これなら―――――。

 

ヴァスコ・ストラーダは迫る剣の雨を前にしてうんうんと頷いた。

 

「良い太刀筋だ。剣にどれだけの『心』を乗せているかが伝わってくる。だが―――――素直すぎる」

 

ヴァスコ・ストラーダはデュランダルのレプリカを地面に突き刺すと、右拳を引いた。

右腕の筋肉があり得ないほど肥大する。

 

「ふんっ!」

 

気合いと共に右の正拳が打ち出される!

 

拳による拳圧が地面を抉り、剣の雨を粉々に破壊する!

それだけでは足らず、剣の雨を放った僕の方にまで突き進んでくる。

 

僕は大きく横に飛んでそれを回避するが、避けた先の建物が拳圧の衝撃によって崩壊する!

 

「拳の余波だけで!? サイラオーグ並だというの!?」

 

リアス前部長が驚愕の声をあげる。

 

ゼノヴィアが語る。

 

「猊下のパンチは『聖拳』と呼ばれるものだ。パンチにすら聖なる力が宿っている。悪魔である私達が受けてしまえば大ダメージだぞ!」

 

拳の勢いだけで建物を破壊する…………。

サイラオーグ・バアルやイッセーくんのように圧倒的なパワーの持ち主なら可能だが…………それを人間の老人がするのか…………。

 

いや、人間だからと言って『あり得ない』と決めつけるのは間違った考え方なのだろう。

僕が今まで見てきた人間の中には強靭な肉体を持つ悪魔であろうと、それを上回る人物がいた。

 

悪魔に転生する前のイッセーくんだって、その段階でリアス前部長や僕よりも強かった。

黄金の輝きを放つ槍の持つ英雄、異世界の剣士。

 

僕の…………僕達の想像を越える人間は何人も見てきた。

目の前の老人もその一人ということなのだろう。

 

《僕が行こう!》

 

闇の獣と化したギャスパーくんが飛び出していく!

 

イッセーくんの影響なのだろうか、この状態のギャスパーくんは好戦的で真っ向からの打ち合いを好む。

毎日の修業ではイッセーくんに肉弾戦で食らいついている。

彼の成長には僕もイッセーくんも驚くばかりだ。

 

ヴァスコ・ストラーダの『聖拳』を掻い潜って懐に近づくギャスパーくん!

ヴァスコ・ストラーダはデュランダルのレプリカを構え、刀身に濃密な聖なるオーラを迸らせる!

 

闇の獣と化したギャスパーくんがその巨体から拳を打ち出していく!

 

しかし、ヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカの刀身で、あるいは体捌きで軽々と受け流してしまう!

 

ギャスパーくんがデュランダルを抑えようとするが、莫大な聖なる波動に圧されてしまい、しかも、闇の衣が一部剥がされてしまう!

剥がされた部位からは生身のギャスパーくんを少しだけ覗かせた。

 

《なんだ、この聖剣の力強さは…………!?》

 

飛び退くギャスパーくん。

剥がされた闇の衣を修復しながら、彼はその怪しく輝く赤い瞳を開かせていた。

 

『じゃあ、俺が行くぜ!』

 

漆黒の鎧を纏った匙くんが邪炎をたぎらせる。

 

アウロス防衛戦の際、ついに至った彼の禁手。

その力は神滅具の紫炎すらも押し返す力を持っている。

 

匙くんは複数のラインを飛ばしてヴァスコ・ストラーダの体に接続しようとする。

 

それを受けてヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカを薙いだ。

 

伝わってくる強烈な悪寒!

僕達は慌てて体勢を低くした!

 

すると、僕達の頭上を何かが高速で通りすぎて―――――。

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥン…………

 

 

音がした方へと視線を送れば、このフィールドに造り出されている建物の何棟かが崩れていた。

 

ただ崩れたんじゃない。

上と下で綺麗に切られている。

斜めに入った切り口…………それによって、切り口の上側にあった部位が滑り落ちて崩れたんだ。

 

なんという切れ味の鋭さだろうか。

 

ゼノヴィアがデュランダルを振るうところを僕は近くで見てきたが、これほどまでに鋭利な波動を見たことがない。

 

レプリカであろうとも、それがデュランダルであれば本来の性能以上の力を発揮している…………!

 

『クソッ!』

 

怖じけず匙くんは特大の邪炎を何発も放つが、ヴァスコ・ストラーダは軽々と防いでしまう。

刀身と拳に宿る聖なる力で、あの邪炎をことごとく霧散させていく!

 

邪炎のことごとくを払い除けられた匙くんが叫ぶ。

 

『なんだ、このジジイ!?』

 

うん、その反応は間違ってないよね…………。

 

ヴァスコ・ストラーダは首を横に振りながら言う。

 

「貴殿らは神器の力に頼りすぎているのだ。私の力に理屈なんてものはない。愚直なまでの鍛練と無数の戦闘経験が私の血となり肉となっただけだ。一心不乱なまでの神への信仰と己の肉体への敬愛を忘れなければ、パワーは魂にすら宿るのだよ」

 

そう告げるとヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカの刀身に聖なる莫大なオーラをたぎらせて一気に振るう!

 

ゼノヴィアが放つものよりも遥かに濃密で大きい!

 

極大の波動は凄まじい勢いで僕達へと迫る!

 

「盾よ!」

 

ロスヴァイセさんと朱乃さんが強力な防御魔法陣を幾重にも張り巡らせた!

 

強固な魔法障壁がデュランダル・レプリカによる聖なる波動に一枚、また一枚と破壊されていく!

僕は咄嗟に聖魔剣で構成された壁を魔法障壁の前に幾重にも重ねて展開するが、それすらも呑み込んでしまう!

 

ロスヴァイセさんと朱乃さんが更に魔法障壁を張り巡らせたところで、ようやく聖なる波動は消え去った。

 

残っていた魔法障壁は僅か数枚。

 

…………ロスヴァイセさんだけでなく、朱乃さんも防御魔法陣を張り、僕が聖魔剣による壁を作ってこれか。

止めたとはいえ、あの波動を抑え込むのにどれだけの力を使ったことか。

 

見ればヴァスコ・ストラーダにはまだまだ余裕がありそうだ。

 

「まだだ!」

 

ゼノヴィアが再び突貫を仕掛ける!

 

エクス・デュランダルを握り、天閃と破壊を重ねた状態で振るう!

 

ゼノヴィアの一撃をデュランダル・レプリカで受けながら、ヴァスコ・ストラーダは楽しそうに笑む。

 

「そうだ! それでいい! 何も考えてはいけない! いいか、戦士ゼノヴィアよ! たとえ、エクスカリバーと同化しようともデュランダルの本質は純粋なパワーだ! だからこそ、貴殿は選ばれた! 否定するな! 力を否定してはいけない!」

 

ゼノヴィアと剣を交える彼の言葉は、まるでデュランダルの使い方を教授しているようだった。

先代として、現所有者であるゼノヴィアに。

 

何度か打ち合った後、本物とレプリカがつばぜりあう。

その中で、先代は現所有者へと問うた。

 

「だが、パワーの表現は一つではない。戦士ゼノヴィア、この剣の姿は貴殿が求めるものなのか?」

 

「―――――ッ!」

 

その問いにゼノヴィアの動きが止まる。

一旦後ろに退いた後、エクス・デュランダルに視線を向けた。

 

師の問いに感じたところがあったのだろうか?

 

エクス・デュランダル…………エクスカリバーとデュランダルのハイブリット。

その力は確かなものだが…………。

 

今のエクス・デュランダルはゼノヴィアが求めるものとは違うということなのだろうか…………?

 

すると、リアス前部長が前に立った。

 

「これならどうかしら?」

 

頭上に浮かぶのは巨体な滅びの塊―――――消滅の魔星(エクスティングイッシュ・スター)

 

堅牢なグレンデルの肉体ですら消し飛ばすリアス前部長の必殺技!

 

「避けないと死ぬわよ!」

 

警告をしながら、特大の一撃を放った!

 

スピードは決して速いとは言えないが、あの吸引力と消滅の力は絶大だ。

受けてしまえば無事ではいられない。

 

あえて警告をしたのは彼に避けてほしいからだろう。

 

しかし、ヴァスコ・ストラーダは避けるそぶりを見せない。

ただただ愉快そうに微笑んで滅びの球体に視線を向けていた。

 

「これはこれは…………老体にはちと厳しい代物だ。―――――しかし」

 

ヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカの切っ先を天に向ける。

刀身には莫大で濃密な聖なるオーラ。

 

 

―――――一閃。

 

 

眩い光に視界を奪われてしまう!

 

次に目を開けた時に映ったものは――――――。

 

「…………っ。嘘でしょ…………?」

 

リアス前部長がついそう漏らした。

 

なぜなら―――――必殺の滅びは真っ二つに両断されていたからだ。

 

あまりの光景に戦場の時が止まった気がした。

ヴァスコ・ストラーダ以外の者は口を開けてただ目の前の現象を理解できないでいる。

 

リアス前部長が笑みをひきつらせる。

 

「こういう時って笑うしかないのかしらね」

 

ヴァスコ・ストラーダは言う。

 

「いいかね? デュランダルは『全て』を斬れるのだ。たとえそれがバアルの滅びであろうと例外ではない」

 

全てを斬る…………。

デュランダルを真に極めればここまでの力を発揮するか…………。

 

「もう教会はこのおじいさんだけで十分のような気がします」

 

「うんうん…………コカビエルさまが追い込まれたのも頷けるわ…………」

 

小猫ちゃんもレイナさんはなかばやけくそになりかけてるような表情でそう呟いた。

 

その気持ちは僕も同意かな。

 

怪物と呼ばれたエヴァルド・クリスタルディですら怪物と呼ぶ程の力。

圧倒的な力の塊。

 

僕は彼と剣を交えて、その怪物振りを実感したつもりだったけど…………どうやらあれは彼の力の一端でしかなかったらしい。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「―――――さて、次は私の番ということでよろしいでしょうか?」

 

そう言って現れたのはメガネをかけた一人の青年。

背広姿で、相変わらず笑みを浮かべている。

 

その手に握られているのは聖剣の王コールブランド。

 

アーサー・ペンドラゴンが前デュランダル使いの前に立った。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

駒王町を模したフィールドの一角。

 

そこで『D×D』メンバーと教会の戦士達の決闘を観戦していたヴァルスは耳元に通信用の魔法陣を展開していた。

 

「ほう、そちらに邪龍を送ってきましたか」

 

『そうなんだよー。全く余計なことしてくれるよねーリゼ爺ったらさ。ここからって時にだよ? もしかしたら、あそこから僕を驚かせることを彼はしてくれたかもしれないのにね。生え際が三センチくらい後退する呪いでもかけてやろうかな?』

 

「それは…………地味に辛い呪いですね、父上」

 

『もしくは前頭部から後頭部にかけて真ん中だけ毛根が死ぬ呪いとか?』

 

「ブフッ!」

 

『あ、今想像したでしょ。爆笑してるじゃん』

 

「い、いえ…………く、くくくっ…………」

 

肩を震わせて口許を抑えるヴァルス。

どうやらかなり奇抜な髪型を想像したらしい。

 

ヴァルスは何とか笑いを抑えながら、アセムに問う。

 

「そちらに送ったので、こちらには来ない…………というわけではないでしょうね」

 

『そりゃそうでしょ』

 

その答えにヴァルスはげんなりする。

 

「私は純粋に剣士達のぶつかり合いを見に来たのです。それを邪魔されるのは不愉快ですな」

 

『まぁ、気持ちは分かるけどね。ただ、そんな君に嬉しい情報をあげよう』

 

「嬉しい情報?」

 

『そう。勇者くんに加勢があったんだけどね。来たのは――――――リーシャ・クレアスだ』

 

「それは…………なるほど、そういうことですか」

 

『そういうこと。こっちにはいなかったから、もしかしたら、そっちにいるかもしれないよ?』

 

アセムの情報にヴァルスはついつい笑みを浮かべてしまう。

心の奥から沸き起こる高揚。

リーシャがこの世界に来ているということは自然とそこへ思考は辿り着く。

 

一誠がリーシャだけをこちらの世界に呼ぶだろうか?

否、それはあり得ないだろう。

彼女達を呼んだのは自分達に対抗するためなのだから。

 

アセムは続ける。

 

『リゼ爺の手勢が現れた時に彼女は現れた。そちらでも同じなんじゃないかな?』

 

「しかし…………そのタイミングで私が出るとなると、リゼヴィム殿と同じになってしまうのでは?」

 

『ま、一応協力関係だしね。主義思想は違うとはいえ周りから見れば同じ穴のムジナさ。そんなこと言うのは今さらだよ。―――――それに言ったはずだよ。僕は君達を縛り付ける気はないと。自由に動いていいと。君が一戦交えたいと言うのなら、行くがいい。どうせ、一対一をのぞむんだろう?』

 

「当然です」

 

ヴァルスは静かに、それでいて激しく闘志を燃やす。

 

 

そして――――――。

 

 

『あ、借りたDVDの延滞料金はヴァルスが払ってね? 忘れたのヴァルスだし。借りたものはちゃんと返そうね』

 

「父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

無情な(かつ当たり前の)一言に涙した。

 

 

[三人称 side out]

 

 


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