ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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5話 将来を考えよう

三者面談が終わった、その日の夕方―――――。

 

「おまえ、経済学部を目指すのか」

 

夕食の後、父さんがそう訊いてきた。

 

三者面談の様子を母さんから聞いた父さんはどこか感慨深げな表情を見せている。

 

俺は頷いて肯定する。

 

「まぁ、今のところはね。大学行くなら何を勉強したいかはっきりさせた方が良いと思ったし、今だからこそ学べるものもあると思うんだ」

 

「なるほどな。近頃の子供は何となく進学ってやつが多いと聞くが…………うんうん、おまえがそんな風に考えてくれているのは正直、嬉しいぞ」

 

「ええ、ほんと。あの性欲ばっかりのバカ息子が…………! 私、泣きそう!」

 

「ああ…………! わかるぞ、母さん!」

 

…………ものすごく失礼なことを言われているような気がする。

なぜここで性欲の話になるんだ…………。

 

性欲強いけど!

そこは否定しないけど!

 

父さんがビールをもう一杯開ける。

 

「よし、イッセー。飲め! 二十歳だからいけるだろう?」

 

「実年齢は二十歳でも、十七歳で通してるんだよ! やめてくんない!?」

 

俺がそう言うが、そこへモーリスのおっさんが、

 

「よし、飲め!」

 

「なんでだ!?」

 

「おっさんになるとな、若いやつと飲みたくなる日も出てくるのさ」

 

「知らねぇよ!」

 

どれだけ飲ませたいんだ、あんた達は!

 

すると、俺の隣に座っていたアリスが手を伸ばす。

 

「はいはいはい! 私が飲む!」

 

「おまえ、二本目だろ!?」

 

「良いのよ、別に! やけ酒よ!」

 

おっさんからもぎ取ったビールをぐびぐびと飲んでいくアリス!

何があった!?

 

アリスは半分泣きながら叫ぶ。

 

「リーシャ! よくもあれこれ話してくれたわね!」

 

「あら? 本当のことを言っただけですよ? アリスの進路はイッセーのお嫁さんで良いのですよね?」

 

「ぶふぅぅぅぅ!」

 

噴き出す俺!

 

三者面談でそれ言ったの!?

それはダメだろう!?

 

間違ってないよ?

間違ってないけどね!?

それでも、三者面談でそれはどうかと思うんだ!

 

アリスはテーブルに突っ伏す。

 

「もうダメ…………私、あの学校行けない…………」

 

おいおいおい!

どこまで話したんだ、リーシャは!

アリスがノックアウトされてるぞ!?

 

ロセが優しい微笑みを浮かべて言ってくる。

 

「目標を持つことは良いことです。早め早めに目標を持っておくと、勉強も捗りますからね。…………そ、その経営を学びたいんですよね?」

 

「そうだよ。将来的にはグレモリーの領地を任せられるわけだしね。全く知識がないというのはどうかと思ったんだ」

 

俺がそう答えると、ロセはこちらに歩み寄ってきて小さな声で…………、

 

「そ、その…………私もその手の知識は教えることが出来ますので…………か、家庭教師というか…………ま、マンツーマンで教えることも、出来ますよ?」

 

頬を染めながら俺にしか聞こえない声で言うロセ。

 

マンツーマン…………だと!?

それはあれですか、家庭教師プレイが出来ると!?

 

いやいや…………落ち着け、俺。

ロセは俺のために教えてくれるわけで、そんな邪な想いを抱くなど言語道断!

ロセに対して失礼だ!

 

しかし…………ロセの表情を見ていると何か期待しているようにも思えて…………。

 

勉強後のご褒美。

机にロセを押し倒して、そのまま…………!

 

おっと、いかんいかん!

 

俺は大きく咳払いする。

 

「うん、その時はよろしくな。まぁ、とりあえずは大学部への進学を決めないといけないんだけどね」

 

そう、何よりもまずは大学部に合格しなければならない。

今日の話は大学部への進学が確定しているということを前提にしているからな。

その前提を満たさなければ話にならない。

 

美羽達と勉強しているだけあって、幸いにも合格レベルはあるようだ。

今後もこつこつ勉強していきますかね。

 

ロセは顔を真っ赤にしながら、オホンと小さく咳払いした後に続ける。

 

「ここにいるほぼ全員は大学卒業後、グレモリー関連の企業に就職するのではないか、と予想されています。教員の中では『グレモリー内定枠』と言われているほどです」

 

「ちなみに『シトリー内定枠』もあるのよ?」

 

と、リアスが付け加えてくれた。

 

あ、やっぱりあるのね、シトリー内定枠。

そちらは主に生徒会、シトリー眷属なんだろうけど。

 

 

 

 

「やれやれ、うちの親も大袈裟だな。これでも将来のことは考えてるってのに。まぁ、そうしないといけない立場なんだけど」

 

風呂から上がった俺は同じく風呂上がりの美羽にそう漏らしていた。

 

俺の呟きに美羽も苦笑する。

 

「それだけお兄ちゃんのことを考えてるってことだよ」

 

「考えてる、ね…………。そういや、美羽の方はどうだったんだ? とりあえずは大学部に行くって言ったんだろ?」

 

「うん。その後はお兄ちゃんの手伝いって決まってるし、そこはそう伝えておいたよ。でも、お兄ちゃんも勉強することを決めてるなら、ボクも決めないとね」

 

顎に手を当てて考え込む美羽。

 

美羽も将来的には俺の眷属として色々と手伝ってもらうことになるだろう。

その時に向けて美羽も今から備えておこうと言うのだ。

俺としてはありがたく思う。

 

真剣な表情の美羽を見ていると、何となく気になったことがある。

 

俺は美羽に訊ねる。

 

「美羽も上級悪魔目指すんだよな?」

 

「うん。ディルさんと約束したもんね」

 

ディルムッドとの約束。

その約束とは、いつか、美羽が上級悪魔になった時に眷属としてディルムッドを迎え入れること。

 

つい最近聞かされた話で、どうやら二人とも真剣らしい。

 

美羽は嬉しそうに語る。

 

「ディルさんね、ボクのことを本当に家族だと思ってるって言ってくれたんだ。それはボクがお兄ちゃんに持っている想いと近いんだと思う」

 

「それは美羽のことをお姉ちゃんみたいに思ってるってことか?」

 

「うん、多分ね。………家に来てから笑うことが出来たって。忘れていたものを取り戻せた気がするって言ってたよ」

 

笑うことが出来た、か…………。

 

初めてあいつと出会った時―――――京都で見たあいつは誰も寄せ付けないオーラを出していた。

一応は仲間であるはずの英雄派にすら牙を剥くような危ない奴だった。

 

今では食い意地のはった、少し変わった女の子。

美羽と話している時にはよく笑っているのを見かける。

 

…………たまに乙女な(?)ところもあるけど。

トイレで遭遇した時は殺されるかと思った…………。

向こうも泣きながら槍を向けてきたし…………。

 

ま、まぁ、あいつも色々と変わることが出来たってことかな?

 

「お兄ちゃん、ボクね、上級悪魔になるよ。そして、自分の駒を貰ってディルさんを眷属にするよ。それがいつになるかは分からないけど…………」

 

「美羽ならすぐになれるだろ。実力もあるし、頭も良い。焦ることはないさ。それに…………いきなり飛び級とか、マジで大変だから。順を追って昇格した方が絶対に良い」

 

下級悪魔から上級悪魔への昇格推薦。

近年、昇格すること自体が稀な中、飛び級で受けさせてもらえるというのは物凄く光栄なことなんだと思う。

転生して一年も経っていない中での昇格だ。

混乱もあったが、当然嬉しくもあった。

 

しかし、昇格してから初めて分かることがある。

上級悪魔になったとき、自身のいる立ち位置。

それに伴ってくるもの。

 

冥界のことで知らないことが多い俺にはかなりの厳しいものだ。

今はリアスやレイヴェル、皆の支えもあって、何とかやってこれたが、一人だったまず無理。

これは断言できる。

 

だから、美羽が本当に上級悪魔を目指すのであれば、出来るだけ段階を踏んでから昇格してほしいと思う。

 

「もちろん応援はするけどな」

 

「うん、ありがと、お兄ちゃん」

 

美羽は微笑むと腕を組んできた。

 

美羽の髪、体から良い香りが漂ってくる。

それに美羽の体の柔らかさや熱も合わさって、なんとも心地いい。

 

よし…………部屋に戻ったらモフモフしよう。

 

そんなことを考えながら二階へと上がった俺だったが…………。

上がった通路の端に大きめの段ボール箱が置かれているのを見つけた。

 

「お兄ちゃん、あの箱何か知ってる?」

 

「いや…………誰のだ、これ? つーか、こんなもんここに置いてたっけ?」

 

段ボールで思い浮かぶのはギャスパーだ。

最近はそうでもないけど、俺の中ではギャスパーと段ボールはセットなんだよね。

 

しかし、俺が段ボールから感じた気はギャスパーのものではなかった。

 

「おいおい…………」

 

俺は息を吐きながら、段ボールに近づき、それを開けた。

 

そして―――――。

 

「なにやってるの…………ヴァレリー?」

 

段ボール箱の中に三角座りでちょこんと座っていた金髪美女―――――ヴァレリーにそう訊ねた。

 

赤い瞳が俺を捉えて、ニッコリ笑う。

 

「あ、ごきげんよう」

 

「「うん、こんばんわ」」

 

俺達兄妹がそう返すと、ヴァレリーはすっと立ち上がり、箱から出てくる。

 

教会から譲ってもらった本物の聖杯の欠片を加工して作られたペンダントによって、ヴァレリーはこうして意識を取り戻すことができた。

 

しかし、経過は慎重に見た方が良いと先生に言われており、行動は制限されていたはずだが…………。

 

とりあえずの疑問としては、

 

「なんで、段ボール?」

 

そう、なぜにヴァレリーが段ボールの中に入っていたか。

 

イタズラでもしようと思ったのか?

起きたばかりでそんなことを思い付くなら、この子もかなりのやんちゃ娘だ…………。

 

うちのアリスさんみたいに。

 

 

 

~そのころのアリス~

 

 

地下の大浴場にて。

 

「うわぁ、お姉ちゃんのおっぱい大きくなってる! 前はぺたんこだったのに」

 

「う、うるさいわね! ようやく胸にも成長期が来たのよ!」

 

「成長期~? 本当はお兄さんに揉まれてるからじゃないの? 知ってるよ、お姉ちゃん…………おっぱい出るんでしょ?」

 

「な、なななななんでそれを!?」

 

「お兄さんから聞いちゃった♪」

 

「あのバカぁぁぁぁぁぁ! なに話してくれてんのよ!?」

 

「それでそれで? おっぱい吸われるのってどんな感じ? やっぱりお兄さんに触られると良いの?」

 

「え、えっと、それは…………」

 

顔を真っ赤にしながら、一誠との夜について語るアリスだった。

 

 

~そのころのアリス 終~

 

 

今ごろアリスはニーナと姉妹で仲良くしてるだろうな。

 

と、それよりも今はヴァレリーか。

 

「ギャスパーの真似をしているところなの。この箱に入るとギャスパーは落ち着くそうだから、私も入ってみようかと思って」

 

ギャスパァァァァァァ! 

おまえ、なんつーもんを恩人に紹介してるんだよ!?

引きこもりの極意とか教えてないだろうな!?

つーか、今でも段ボールの方が落ち着くんかい!

 

俺が心の中でツッコミを入れていると、美羽が苦笑しながらヴァレリーに訊ねる。

 

「体の調子はどうかな?」

 

「ええ、おかげさまで転移魔法陣経由とはいえ、こちらのお家まで来ることが出来るようになったわ。今日はギャスパーと一緒にお邪魔させてもらってます」

 

まぁ、今はまだ直接歩いて移動するのは辛いだろうな。

魔法陣で移動する方が懸命だ。

 

ふいにヴァレリーは廊下のあらぬ方向に視線を向けつつも、首を傾げながら言った。

 

「そういえば『皆』の声が聞こえなくなってしまったのよね。不思議だわ」

 

『皆』…………彼女に宿る聖杯が起こす副作用。

この世にあらざる者達が見えてしまい、その声も聞こえてしまう。

 

先生曰く、それは本来、見ても聞いてもいけないものだそうだ。

 

まともに接触し続ければ、精神が汚染されて、イカれてしまう。

吸血鬼の町で出会った時のヴァレリーはまさにそれだった。

 

今のヴァレリーは聖杯を使用していないことと、本物の聖杯で作ったペンダントを首にかけているおかげで意識はハッキリしているし、瞳にも曇りがない。

 

そのことに安心感を思えながら、俺は笑顔で訊く。

 

「生活で困ったこととかあるか? 言ってくれたらサポートするよ」

 

「…………えーと、そうねぇ」

 

首を捻って考え込むヴァレリーだったが、彼女は笑顔で答えた。

 

「特にないかも。ギャスパーがいてくれるから、寂しくないわ」

 

ギャー助め、頼られちゃってまぁ…………これからも益々男が磨かれていくな!

 

うん、この感じなら問題無さそうだ。

ようやく、二人は安住の地を得んだ。

せっかく、目を覚ましたんだし、あいつと楽しまないとな。

 

「あー、ヴァレリー! ここにいた! あまり動き回っちゃダメだよ! まだ様子を見ているところなんだから!」

 

慌てながら階段を降りてきたのはギャスパー。

 

こいつもヴァレリーのことになるとハキハキしてるな。木場もトスカさんと二人でよろしくやってるし。

 

「オカ研男子部員の春なのかね」

 

「お兄ちゃんはずっと春だよ?」

 

そう言われるとね。

確かに春続きだよ。

 

でも、木場もギャスパーも守る存在が出来たというのは大きいだろう。

もちろん、これまでも主であるリアスのため、仲間のために力を振るってきたんだけど、それを越えて守るべき存在、女の子が出来た。

男として多少の無茶はするかもしれないけど、彼女達を残してしまうような真似はしないだろう。

 

今後の二人の成長に注目だな。

 

「動くときは僕と一緒って言ったでしょ!」

 

「うふふ、ギャスパーは厳しいわ」

 

なんとも微笑ましい二人だった。

 

 

 


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