ライザーが行方不明となっていた経緯は分かった。
しかし、王者は未だに行方を掴めていない。
おそらく、リゼヴィムの元にいると思われるが…………。
気を持ち直したソーナは立ち上がりながら、目を細めていた。
「アジュカさま、それで姿を見せない王者がしたいこととは?」
核心についての質問だ。
リゼヴィムと通じ、アグレアスの強奪まで援助し、アジュカさんと会うためにライザーを利用した。
真実を知った上で王者は何をしようというのか。
その問いにアジュカさんは―――――。
「今ここで話したことを冥界全土、各勢力に至るまで打ち明けることだろう」
『………っ』
皆が一様に息を飲んだ。
冥界に住まう人達が真実を知れば、冥界の価値観はひっくり返る。
レーティングゲームには可能性があり、下級、中級悪魔の夢、希望となっていた。
それが実は真っ黒なもので、ランキングすらも操作されていたものだと知れば、ここまで夢を抱いて生きていた者達が…………将来の夢にしていた子供達でさて、希望を失ってしまう。
上級悪魔の中でも立ち上がったライザーのようにゲームと真っ直ぐ向き合っていた者達からすれば許せないことだ。
これまで自分達の誇り、魂をかけたゲームは何だったのか、そんな疑問すら浮かび上がってもおかしくはない。
ランキング一位、絶対王者たる皇帝べリアルの口から語られる真実は重く受け止められるだろう。
その後に待ち受けるものは――――――。
「………今まで以上の犠牲が出るかもしれませんね」
苦渋に満ちた表情でソーナが言う。
そう、真実を知った者達が暴動を起こす可能性が出てくる。
そして、その被害は現時点の被害よりも大きく、凄惨なものになるだろう。
アジュカさんが息を吐く。
「相応の犠牲はあるだろう。特に今回は無理矢理に事が進んだ。アグレアス強奪の件といい、失われたものは無視できない」
アザゼル先生が問う。
「しかし、監視カメラの映像を見られたということは、古い悪魔達はおまえさんと皇帝べリアルの会話を聞いたということだ。利権だの何だのと煩い連中にとっては危惧すべきことだろう」
「ええ。なので、あの場の出来事はある程度改竄しておきましたよ。もう年寄り達は勘づいて行動しているでしょうが」
「相変わらず抜け目ないな。その様子だと、王者が事を起こしても、良い対策案があるのだと見える」
「一応、悪魔の王なのでね。それにサーゼクスが出来ないことをするのが、俺の仕事だと思ってます。表はあいつ、裏は俺ですよ」
「なるほど、そりゃそうだ。だが、事が起きるにしても出来るだけ犠牲は少なくするべきだ」
「それは重々承知の上です。罪のない民から犠牲を出すわけにはいきませんから」
しばし、意味深に見つめ合うアザゼル先生とアジュカさん。
VIP、種族の長同士、思うところがあるようだ。
アザゼル先生は笑む。
「ま、ライザーの事改めて礼を言う。これでうちの教え子も安心するだろうからな」
先生はそう言ってレイヴェルの頭を撫でた。
ライザーがフェニックス家に届けられたことにより、とりあえずは一段落というところだろう。
少なくともレイヴェルを含めたフェニックス家の皆さんはライザーが帰ってきてくれたことで、安心が出来るというもの。
この話し合いが終わったら、レイヴェルを一度、フェニックス家に返すべきだろう。
ライザーに会わせてやらないとな。
その時は俺も着いていった方が良いのかな………?
アジュカさんも笑みを浮かべる。
「それぐらいはしますよ、元総督殿。せっかく有望な若手が出てきたのだから、死なせるわけにはいかない。今のレーティングゲームの状況は俺の見通しが甘すぎた故の結果だ」
「ま、人間界の国際競技と似たようなものだろ。おまえさんはゲームの発案者だが、発案者というものはどの時代も製作したものから一歩離れただけで厄介者扱いされる。こう言ってはなんだが、仕方がないところもあったんだろうな」
先生の言葉にアジュカさんは肩をすくめる。
「そう言われてしまえば、そこまで…………というわけにもいかないんですよ。俺も出来る範囲で手を出さなければ、事態は悪化の一途を辿るでしょうからね。ですが―――――」
そこでアジュカさんは俺達『D×D』のメンバーを見渡した。
リアスとソーナ、そして俺へと視線を配らせる。
「現在の若手、特に君達は冥界でも力を持った存在だ。ライザー・フェニックスも、君達若手悪魔も今後のレーティングゲームを変えられる逸材だと俺は考えている」
「いっそのこと、こいつらをプロ入りさせて、上役共の鼻をへし折るのも一興だろうな。こいつらなら今の実力でも上位に食い込めるはずだ」
先生は笑いながらそんなことを言うが…………。
冗談…………ではないな。
結構本気の目だ。
先生の提案にアジュカさんも面白いといった表情を浮かべた。
「それは楽しそうだ。その時の老人共の顔を拝んでみたくはあるな。そうだ、赤龍帝くん」
「なんでしょう………?」
「君、プロにならないか? 今の君なら、君の眷属の実力なら上位陣、トップランカーですら容易に打ち砕けると思うのだが?」
な、なんて提案をしてくるんだ、この人は…………。
う、うーん…………プレーンなルール、ガチンコ勝負なら何とかなりそうな気もするけど、特殊なルールが入るとなぁ。
俺ってゲーム経験少ないなんてレベルじゃないもん。
サイラオーグさんとの一戦、あれだけしか出場してないし。
ま、まぁ、そこは頼れる眷属、頼れるマネージャーであるレイヴェルに頼るか。
レイヴェルならライザーの眷属としてプロの試合も何度か出てるし。
うちの眷属の中では一番、レーティングゲームに詳しいし。
俺はレイヴェルに話を振ろうとするが、その前にアザゼル先生が首を横に振った。
「いや、やっぱり止めておこう。こいつが出たらレーティングゲームのパワーバランスが崩壊する」
「んなっ!? ちょっとそれ酷くないすか!?」
「おまえな、『王』は
すると、モーリスのおっさんが、
「ちょっと待て、アザゼル。俺のどこが若手だよ? どう見ても良い歳したおっさんだろ」
「悪魔の寿命からしたら、おまえさんは若手だよ。言っておくが、アジュカの方がおまえより遥かに歳上だぜ?」
「マジか」
あ、そういえば、そうだな。
モーリスのおっさんって、人間で言えば十分おっさんだけど、悪魔でいえばまだまだ若いんだよな。
見た目若いサーゼクスさんやアジュカさんでも何百年と生きてるわけだから、今更ながら色々と感覚がおかしくなりそうだ。
改めて自分が若いことを知ったおっさんは顎を擦りながら言う。
「なるほどなぁ。つまり、今なら俺でもレッツパーリィできるわけだ」
「おうよ。何なら俺が良いとこ、連れてってやろうか? レッツパーリィ出来るぜ」
「おー、行く行く」
なんか、おっさん二人が握手してる…………。
レッツパーリィって、あんたら何するつもりだ!?
あ、レイナちゃんが物凄い視線を先生に向けてる。
明らかにレッツパーリィを阻止しようとしてる。
きっと、仕事が溜まってるんだなぁ…………うんうん。
俺はそんな光景を横目にアジュカさんに言う。
「えーと、一応考えてみます…………」
「何も今すぐにという訳ではないよ。ゲームに出場している暇もないだろうしね。だが、君達のゲームは見てみたいと思っている」
なんだか、すごい期待をされているような…………。
ま、まぁ、今すぐじゃないしね。
時間があればレーティングゲームの勉強でもしておこう。
先生達の言うように真っ黒に染まった運営や上役の鼻をへし折るのもアリだろうしな。
公式のゲームで、正々堂々、真正面から打ち砕くのは楽しそうでもある。
アジュカさんは微笑を浮かべる。
「若手の君達には多大な迷惑をかけるだろうが、どうか乗り切ってほしい。上のことは上で対処させてもらう。これから何が起ころうとも、君達は暴れるところで暴れ、守るべきところで守ってくれるだけでいい」
なんとも分かりやすいことを言ってくれる。
今の俺達が何かを言ったところで上役連中が変わることはないだろう。
それならば、俺達は俺達で出来ることをすればいい。
と、ここでアザゼル先生が指を一本立ててアジュカさんに問う。
「ひとつだけ教えてくれ。――――現存する『王』の駒はいくつある?」
「生産ライン自体は初期ロットでストップさせてます。製造方法を知らせていないどころか、製造自体が俺しか出来ないため、新たに作り出すことは不可能です。たとえ、異世界の神であろうと。したがって、現存しているの初期ロットで製造した分のあまり。把握しているのはここにある分を含めて九つ。王者から受け取った分もありますので、俺の手元にあるのは全てで四つ」
いつの間にかアジュカさんの手に二つ目の『王』の駒が握られていた。
これが王者から受け取ったという駒だろう。
この答えに先生は険しい顔つきとなる。
「つまり、残りの五つは上役連中の手元か。意外に多いな。いざというとき、十分に状況を覆せる数だ。使用した者次第では魔王クラスが生まれる程のものだ。残りの五つの駒でどんな悪魔が生まれるか分かったもんじゃない」
「俺は数千年かかろうとも全て回収するつもりです。製造した手前、それぐらいはしなければ」
王者から受け取ったのは回収する意味もあったようだ。
使用者の力を劇的に引き上げる驚異の駒だから、当然なんだけどね。
ふいに俺の中で疑問が生まれる。
「リゼヴィムは『王』の駒の存在について知っているんですかね?」
「おそらくは。だが、『王』の駒はあまりに強すぎる者、あるいは特異な能力を持つ者が使用するとオーバーフローを起こすようでね。最悪、命の危険が生じる。助かっても良いことはないだろう。そういう点では同様の効果を持つオーフィスの蛇の方が使い勝手が良い。あちらはこれといったリスクが存在しないからね」
なるほど…………。
驚異的ではあるが、その反面、リスクが存在するのか。
それも命に関わるようなリスクが。
性格はガキだけど、リゼヴィムは『超越者』の一人に数えられるほどの実力者。
『王』の駒を使えば死ぬ可能性がある。
奴もその点は理解していたから、『王』の駒について知っていても、使おうとしなかったのだろうか?
流石の奴も死ぬリスクを背負ってまでパワーアップはしないか………。
そんな疑問を浮かべていると、アジュカさんが先生に言う。
「アザゼル元総督殿、こちらからも一つ」
「なんだ?」
「気を付けた方が良いでしょう。正直な話、俺が敵ならば『D×D』打倒のために真っ先に狙うのはあなただ」
―――――っ。
この発言には皆も思うところがあるようで、二人に視線を集中させていた。
アジュカさんは続ける。
「あなたは有能すぎます。腕利きのアドバイザーとして、チーム『D×D』だけでなく、各勢力にとってもね。それゆえにあなたは狙われるでしょう。…………といっても自覚はおありのようだが」
先生は苦笑しながら、肩をすくめる。
「………ちょっと前に破壊神にも同じことを言われたよ。………まぁ、自衛の策はいくつか用意しているがな」
先生を狙う、か。
力だけなら、チーム『D×D』は先生抜きでも十分と言える。
しかし、俺達がここまでやってこれたのは、先生がいたからこそ。
先生は各勢力との橋渡しだけでなく、その知識、頭脳を活かしてあらゆる手回しを行ってきた。
先生の存在は俺達や各勢力のVIPにとって重要なもの。
だからこそ、狙われる。
敵にとって、何よりも厄介な存在だから。
………お願いだから、あまり無茶はしないでくれよ、先生。
俺達には無茶をするなと言いながら、陰で無茶をする人だからな、この先生は。
アザゼル先生は逆にアジュカさんに問う。
「そういうおまえさんも大分おかしなことに首を突っ込んでいると聞いているぞ? 残る神滅具―――――『
突然挙げられた神滅具の名前。
その神滅具二つがこの空間に関係している…………?
アジュカさんは首を横に振った。
「申し訳ないが、これは俺の領域だと思っている。たとえ神器に明るいあなたでもあれらを捉えるのは無理でしょう。なにせ、この世界の理の外にあるのですからね」
「そうかい」
先生は苦笑した後、息を吐いた。
その時―――――。
アジュカさんとアザゼル先生の耳元に小型の連絡用魔法陣が同時に展開された。
魔法陣の向こうからくる情報に耳を傾ける二人。
アジュカさんは目を細め、先生はその連絡に言葉を失っていた。
アジュカさんはこちらを振り向くと、一言告げてくる。
「すぐに戻りたまえ」
「何があったのですか?」
突然のことにリアスが問い返すと、アジュカさんは衝撃的なことを口にした。
「オーフィスが邪龍に襲われたそうだ。更に―――――」
アジュカさんの視線は俺と美羽を捉える。
すると、先生はそれと合わせたかのように俺と美羽の肩を掴んできた。
「イッセー、美羽、落ち着いて聞いてくれ」
「何があったんですか………?」
俺の問いに先生は深呼吸した後、一泊おいて―――――。
「オーフィスが襲撃を受ける直前、外出していたおまえ達のご両親も襲撃を受けた。そして………ディルムッドが瀕死の重傷だそうだ」
原作から展開が変わってきます~。