ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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12話 見つけた居場所

駒王町には三大勢力共有の施設がある。

それはつい最近出来た真新しい施設で町の外れに設置されている。

 

アジュカさんと話していたフィールドから帰ってきた俺達はそこにデュリオも加えて集まっていた。

 

部屋にはベッドが二つあり、そこに色々な医療器具に繋がれたディルムッドとオーフィスが横たわっている。

二人とも服はボロボロとなっており、現在、アーシアが治療しているところだ。

 

こちらに戻ってきた時、二人とも無残なほどズタボロ状態だった。

 

ディルムッドは片腕をちぎられ、全身の肉を抉られており、オーフィスも四肢を砕かれ、顔も見られないほどに滅茶苦茶にされていた。

 

なぜ、二人がこんなことになったのか。

それはクリフォトの襲撃によるものだ。

 

奴らは――――――父さんと母さんを襲撃しやがったんだ…………!

 

アザゼル先生が険しい表情で俺に告げる。

 

「イッセー、おまえのご両親は無事だ。今は落ち着いてもらうため、他の部屋で寝てもらっている。………町に展開しているスタッフが現地に駆けつけた時、二人の周りには邪龍の死骸の山。そして、この剣が地面に突き刺さっていたそうだ」

 

先生が取り出したのは一振りの剣。

銀色に輝く両刃の剣だった。

 

「魔剣ベガルタ。こいつの能力は強力な盾、防御結界を張ることだ。この剣がご両親を守っていたそうだ。奴らの物量の前に力尽きても、結界は維持されていた。ただ、かなり強く張っていたみたいでな。内側にいたご両親を完全に閉じ込める形になっていたようだ。現地に向かったスタッフ総出で結界の解除をすることになったよ」

 

俺はその剣を受け取り、剣の腹を指でなぞった。

 

おそらく、父さんと母さんが結界の外に出てしまうと考えたんだろうな。

二人が目の前で娘の一人が傷ついているのに飛び出さない訳がない。

だから、内側からも外側からもそう簡単には崩せないように結界を張った、か。

 

…………ディルムッド…………おまえ、こんなボロボロになってまで父さんと母さんを…………っ!

 

握りしめた拳から血が滴り落ちる。

爪が肉に食い込んでも、それ以上の激情が俺の中で渦巻いていた。

 

モーリスのおっさんが先生に問う。

 

「だが、ディルムッドは例の地下空間で見つかったと言うじゃねぇか。そこの坊主が発見したんだろう?」

 

おっさんが指差したのはデュリオだ。

 

そう、今回、傷ついたディルムッドとオーフィスを保護したのはデュリオ。

 

皆の視線が集まるなか、デュリオは言った。

 

「………何やら不安を感じてさ。俺があそこに行った時は邪龍が逃げるところだった。先にそこのクロウ・クルワッハが駆けつけていたようだけどね」

 

「…………」

 

デュリオが指す方向には部屋の壁に背中を預ける格好のクロウ・クルワッハの姿。

 

デュリオが方向を続ける。

 

「オーフィスは………『虹龍(スペクター・ドラゴン)』の卵を庇う形で倒れてたよ。そして、ディルムッドもその場に捨てられたような形でいた。きっと、クロウ・クルワッハの登場に驚いたんだろうね。彼女を放り捨てて逃げたようだよ」

 

デュリオがそう言うと先生が懐からリモコンを取り出した。

ボタンを操作すると、この部屋に取り付けられていたモニターに映像が映し出される。

 

そこは例の地下空間の記録映像だ。

タンニーンのおっさんから大事な卵を預かる以上、不測の事態に備えて監視をしなければならなかったのと、希少種ゆえ、孵化の瞬間を映像に収めたかったという理由であそこにはいくつかの監視カメラを設置していた。

 

………映し出されたのは突如として地下空間に現れた一体の邪龍とオーフィスが対峙し、そして無残に暴虐の限りを浴びせられている様子だった。

 

黒い鱗を持った細長い蛇の形をしたドラゴン。

口からはよだれなのか、毒液なのか、分からないものが延々と垂れ流れており、不気味に浮かべる笑みと合わさって醜悪きわまりなかった。

 

このドラゴンに覚えがあるのか、嫌悪の表情でロセが言う。

 

「『外法の死龍(アビス・レイジ・ドラゴン)』ニーズヘッグ。北欧に生息していた伝説の邪龍です。討伐しても、何度も蘇る非常にやっかいなドラゴンです。あまりに執念深いため、ラグナロクが来ても生き残るだろうとさえ、言われています。…………記録では最後に討伐されたのが数百年前のこと。自力で蘇ったのか、それとも聖杯か」

 

アザゼル先生が続く。

 

「どちらにせよ、聖杯による強化はしているだろうな」

 

そのニーズヘッグが無抵抗のオーフィスに暴力を振るい続ける。

巨大な前足で何度も殴り付け、切り裂き、幾度も踏み潰す。

更には大きな顎で噛みついたりもしていた。

 

有限になったとしても、邪龍程度、今のオーフィスでも十分に撃退できる。

なぜ、オーフィスは抵抗しなかったのか。

 

その理由はニーズヘッグが掴んでいる――――――血塗れのディルムッドだ。

 

先生が苦い顔で言う。

 

「奴らは本来、先にイッセーの両親を拉致してオーフィスの元に行く予定だった。それを阻止したのがディルムッドだったというわけだ。奴らはディルムッド一人に邪龍の群れを当てている。しかも、グレンデルの量産型。死骸だけで百は越えていた。あれだけの邪龍を一人で、二人を守りながら相手にするのはディルムッドでも厳しかったんだろうな。だが―――――」

 

先生はディルムッドに視線を移して、目を細めた。

 

「こいつはイッセーの両親を守りきった。最後までな。大した奴だよ、こいつは。…………奴らとしても、そこまで時間をかけるわけにもいかず、力尽きたディルムッドを代用したってことだ。―――――人質としてな」

 

映像では地下空間に現れたニーズヘッグとオーフィスが対峙し、何かを話している様子だった。

ニーズヘッグが足に掴んでいたディルムッドをオーフィスに見せつける。

すると、オーフィスは構えを解いて、邪龍の暴虐の甘んじて受け入れていた。

 

オーフィスは家に住むメンバーを大切に思っていた。

表情では分かりにくいが、気づけば誰かと一緒にいることも珍しくない。

それはディルムッドも同様だった。

 

オーフィスはディルムッドを守るためにあえて抵抗しなかったというのか…………っ。

 

「…………卵も狙っていたようね。卑劣極まりないわ…………っ!」

 

リアスも怒りに打ち震えていた。

 

映像ではニーズヘッグが卵を狙う素振りを何度も見せていて、その度にオーフィスは卵の前に立ち、守ろうとしていた。

そこを―――――ニーズヘッグは無慈悲に暴力を繰り返していく。

何度も何度もオーフィスの体を傷つける。

 

無限だったころなら何ともなかっただろうが、今は有限。

強力な力を有していても、無抵抗のまま攻撃を受け続ければ傷つく。

 

「………しかし、どうやって入ってきたのでしょうか?」

 

冷静にそう問うグリゼルダさん。

 

この地下空間には特殊な結界が張られていた。

それは認められた者しか入れないようにするためだ。

 

そして、その結界を考案したのはアザゼル先生でもある。

 

「………リリス。オーフィスの分身体とオーフィスの繋がりのようなものを利用したのかもしれん。今、突破された結界の解析を行っているが…………こういうときに限って役にたたん結界だ…………!」

 

悔しそうに先生は目を細めて髪をかき上げる。

 

「デュリオの言ってた通り、転移してきたクロウ・クルワッハの気配を察知してニーズヘッグは逃げている。この時、ディルムッドを手放したのは不幸中の幸いだった。向こうに囚われずに済んだからな。………映像の反応を見るにクロウがオーフィスと接点を持っていて、あそこを度々訪れていたのは向こうにとって予想外だったのかもしれん」

 

先生が言うように、クロウ・クルワッハが転移したことで状況は一転。

ニーズヘッグがクロウ・クルワッハを見た瞬間に仰天。

 

クロウ・クルワッハがオーフィスの変化に気づいて、ニーズヘッグを睨んだところで、奴は即座に逃げていった。

 

この記録映像はクロウ・クルワッハがオーフィスに近寄り、デュリオが地下空間に入ってきたところで停められた。

 

映像が停められたところで、ベッドの上の二人を治療し終えたアーシアが会話に入ってくる。

その表情はとても苦しげだった。

 

「一先ずケガは治りました。オーフィスさんは休んでいれば、そのうち良くなります。ですが…………」

 

アーシアの視線はディルムッドに向けられた。

 

アーシアの治療のおかげで、ちぎれた腕は元通りに繋がれ、深く抉られていた箇所も綺麗に治っている。

…………が、ディルムッドの顔には嫌な汗が流れていて、呼吸も中々落ち着いてくれないでいる。

 

その様子にアザゼル先生が顎に手を当てて言った。

 

「ニーズヘッグの瘴気が原因だろう。正確には体内に奴の瘴気を流されてしまったことにより、肉体が異変を起こしている。八岐大蛇の毒ほどではないが、奴の瘴気を受ければ悪魔でも体に異変を起こす。人間なら尚更な」

 

ディルムッドは強い。

曹操には及ばなくても英雄派の中でも上位の実力を持っていた。

しかし、身体能力は高くても人間であることには変わりがない。

 

悪魔でも体に異変を起こすレベルだ。

人間であるディルムッドにはかなり厳しい代物。

 

アザゼル先生は続ける。

 

「大量の失血に、ニーズヘッグの瘴気。すぐに治療を施したがいかんせん発見の時点で時間が経ちすぎている。今も解毒は続けているが、果たしてもつかどうか…………」

 

その言葉に激しく反応する者がいた。

 

美羽が涙を流しながら叫んだんだ。

 

「そんな! このままじゃ、ディルさんは…………! このまま弱っていくところを見るしかないんですか!?」

 

「………気持ちは分かる。今も必死で治療中だ。だがな、やはり人間の肉体では限界があるんだよ」

 

デュリオが見つけた時にはディルムッドは既に片腕を失い、全身が血塗れだった。

体力も血も失い、そこに毒ともいえるニーズヘッグの瘴気。

 

イリナのお父さんの時は俺達がすぐに運んだおかげで、応急処置とはいえ何とか解毒が間に合った。

 

しかし…………今回はあまりに遅すぎた…………。

 

弱い毒でも治療が遅れれば命を落とすことがある。

それと同じだ。

 

俺は…………!

俺達は…………このまま見ているしかないのか…………!

 

こんな姿になっても、父さんと母さんを守りきってくれた恩人に…………家族に…………何も…………。

 

俺はまた見ているしか出来ないのか…………。

 

ふいに赤い髪のお姉さんがディルムッドの額に触れた。

 

「ディルちゃん………生きたい?」

 

イグニスはディルムッドにそう訊ねた。

 

深い眠りについたままのディルムッド。

返事など帰ってくるはずもない。

 

それでもイグニスは問い続ける。

 

「生きたいのよね? ようやく、あなたが望むものが手に入ろうとしていたんだもの。暗い闇の中でやっと陽があなたを照らしてくれたんだもの。その陽を守るために頑張ったのよね? 美羽ちゃんの、イッセー達の陽を消させないために」

 

俺達の陽…………。

 

もし、ディルムッドが駆けつけていなければ、父さんと母さんはどうなっていたか分からない。

少なくともリゼヴィムの人質にはなっただろう。

 

俺が父さんと母さんの立場なら、俺は――――――。

 

 

「…………私は…………」

 

 

ディルムッドが…………言葉を発した。

弱り切った体で、僅かに言葉を発したんだ。

 

美羽が彼女の手を強く握る。

 

「ディルさん! 聞こえる? ボクが分かる…………?」

 

美羽の呼び掛けにディルムッドは目だけをそちらに向けた。

 

そして―――――。

 

「私は…………守れましたか? あの二人を…………守ることができましたか?」

 

「うん! お父さんもお母さんも、二人とも無事だよ! ディルさんが守ってくれたんだよ…………!」

 

「そう、ですか…………」

 

―――――ディルムッドの目から雫がこぼれ落ちた。

肌を伝い、ベッドに零れていく。

 

「………守られて…………逃げて逃げて逃げ続けて…………。でも、やっとあの日の、あの時の姉のように…………」

 

姉…………?

美羽…………いや、これは違うか?

ディルムッドの目は遠い日を思い出しているような…………。

 

イグニスがディルムッドの頬に優しく触れる。

 

「ディルちゃんはもう一人じゃない。こうして、心から想ってくれる人達がいる。あなたの苦しみや悲しみを理解してくれる人達がいる。あなたと喜びを分かち合える人達がいる。もう感情を捨てる必要はないの。―――――あなたの居場所はここよ。だから、生きなさい。強く望みなさい」

 

その言葉にディルムッドは弱々しくも、強く言葉を発した。

 

「私は…………まだ死ねない。死にたくない…………。この温もりを捨てたくない…………。やっと、やっとなんだ。ずっと求めていたんだ…………。だから、私は…………」

 

「そうだよ! ディルさんは死なない! ずっとボク達と一緒なんだ! ボクの、ボク達の家族なんだから!」

 

美羽が両手で強くディルムッドの手を握る。

 

二人の頬からは止めどなく涙が流れ落ちていく。

 

そうだ。

諦めてたまるか。

こいつは、俺達が守れなかったものを守って、傷ついて…………!

今も必死に生きたいと願っている…………!

 

俺は…………俺は――――――。

 

「美羽…………皆…………」

 

ふいに浮かんだ考え。

それでディルムッドを助けられるのかは分からない。

それでも、可能性があるのなら――――――。

 

俺は皆を見渡した後、一言だけ告げて背を向けた。

 

「ちょっとだけ待っててくれ。すぐに戻る」

 

あるものを取りに、俺は家へ戻った。

 




イッセー両親の拉致は阻止!
ディルムッドが体を張って守りきりました!

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