ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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13話 眷属、そして―――――

医務室を出てから十数分後。

 

俺は家にあるものを取りに行ってから、再び皆がいる医務室に戻ってきていた。

 

ベッドに目をやると横になっているディルムッドの顔色は更に悪くなっていた。

…………こいつは急がないといけないな。

 

戻ってきた俺にアザゼル先生が訊いてくる。

 

「イッセー、何か案があるみたいだが…………何をするつもりだ?」

 

俺は懐を探って、家から持ってきたものを取り出した。

それは重厚な雰囲気を持つ一つのケースだ。

 

皆の視線が俺の手元に集まる。

すると、ケースを見たリアスが察したようで、目を見開いた。

 

「悪魔の駒………? イッセー…………あなた、もしかして…………」

 

そう、このケースには俺が上級悪魔に昇格した際、渡された悪魔の駒が入っている。

この間、モーリスのおっさんに『戦車』を二つ、リーシャ、ニーナとワルキュリアの三人で『兵士』の駒八つを全て使ってしまったため、残るは『騎士』の駒二つ。

 

ケースの蓋を開けると赤い『騎士』の駒が二つ綺麗に納められている。

 

俺はその内の一つを取り出した。

 

「そう。俺は―――――ディルムッドを悪魔に転生させる。俺の眷属として」

 

『―――――っ』

 

この提案に皆は全てを理解したようだ。

皆の視線は俺の持つ『騎士』の駒と眠っているディルムッドを行き来する。

 

アザゼル先生は顎に手を当てて唸った。

 

「なるほどな。悪魔化すれば、肉体の強度だけでなく、魔の力に対する抵抗力も上がる。現在、ディルムッドの体内をニーズヘッグの瘴気が蝕んでいる状態だ。悪魔化により、肉体の抵抗力を上げてやれば、治療による回復も可能、か………」

 

俺は静かに頷いた。

 

そう、悪魔に転生すれば肉体の強度は飛躍的に上がる。

光に対しての抵抗力は大幅に下がるだろうが、魔に対する抵抗力は上がるだろう。

 

治療を始めるまでに時間が経ちすぎた。

人間のままでは解毒治療が間に合わない。

 

ならば―――――悪魔にしてから、治療したらどうだろうか?

 

これが俺の思い付いた手だった。

 

安易な考えかもしれない。

悪魔化したところで、間に合わないかもしれない。

 

それでも、可能性があるのなら、ディルムッドを助けることが出来るのなら――――――。

 

ソーナが眼鏡をくいっと上げた。

 

「ですが、イッセーくんはそれでよろしいのですか? 彼女を助けたい気持ちは分かりますが………。上級悪魔にとって、眷属の選定は重要です。駒は限られていますから」

 

「そんなことは良いんだよ。今はディルムッドを助けることの方が俺にとっては重要だから。もし、ここで何もしなければ、俺は絶対に後悔する………」

 

「そうですか…………。あなたらしい答えです」

 

ソーナはフッと微笑む。

 

確かに誰を眷属にするのかは上級悪魔にとって重要なことだろう。

自分がその人を従えていくんだし、能力や人を見てじっくり考える必要がある。

 

それよりも俺が気にしているのは…………ディルムッドを転生させるのが俺で良いのか、という点だ。

 

命がかかっている時にこんなことを議論するのはどうかと思うが…………ディルムッドは美羽の眷属になりたいと言っていた。

将来、美羽が上級悪魔に昇格して自分の駒を得た時に、美羽の手で悪魔に転生したかったはずだ。

 

美羽の手で悪魔になることはディルムッドの人生にとって、重要な意味があるはずなんだ。

 

仮に俺の眷属になっても、美羽が昇格した時にトレードするつもりだが…………本当にそれで良いのだろうか?

 

俺は浅い呼吸のディルムッドとその手を握る美羽に視線を移す。

 

俺は…………俺の選択は間違ってないのだろうか?

 

………って、何もしなければ後悔するって言ったはずなのになんで迷ってるんだよ、俺は…………。

 

俺は首を横に振ると改めて美羽と目を合わせた。

 

ディルムッドに意識はない。

だったら、美羽に訊くしかない。

 

「…………いいか?」

 

その一言だけを美羽に投げ掛けた。

 

美羽はディルムッドの顔を見つめた後、深く頷く。

そして、俺に真正面から言ってきた。

 

「お願い………。ディルさんを助けて………」

 

美羽はそう言うとディルの頬をそっと撫でて、後ろに下がる。

 

俺は手に握った『騎士』の駒を眠っているディルムッドの胸に置いた。

 

目を閉じ、強く念じる。

 

 

―――――生きろ、と。

 

 

「赤龍帝、兵藤一誠の名において命ず。汝、ディルムッドよ。我が下僕となるため、悪魔と成れ。汝、我が『騎士』として転生せよ!」

 

『騎士』の駒が赤く輝く。

赤い光がこの医務室を照らし始めた。

駒が軽く宙に浮き、ディルムッドの胸の中に入っていく。

 

その光景に俺は進路相談があった日、美羽と話したことを思いだした。

 

 

―――――ディルさんね、ボクのことを本当に家族だと思ってるって言ってくれたんだ。それはボクがお兄ちゃんに持っている想いと近いんだと思う。

 

―――――それは美羽のことをお姉ちゃんみたいに思ってるってことか?

 

―――――うん、多分ね。………家に来てから笑うことが出来たって。忘れていたものを取り戻せた気がするって言ってたよ。

 

 

こいつは無愛想だけど、最近はよく笑うようになった。

美羽のことを家族だと、姉だと思うようになった。

父さんと母さんを守ったのは美羽の笑顔を守るためでもあったんだと思う。

 

でも、でもよ…………!

 

「おまえがいなくなったら、泣くんだよ! 生きて生きて笑え! 美羽の妹だろ! 俺達の家族なんだろ! おまえの居場所はここだ! だから―――――死ぬなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

喉が焼き切れそうになるくらい、俺は必死に叫んだ。

叫びに応じるように、助けたいという気持ちに応じるように駒は赤く、熱く輝きを増していく。

やがてディルムッド自身の体も赤く光始めた。

 

すると―――――。

 

「これ…………」

 

部屋にいた誰かが声を漏らした。

 

ふと辺りを見渡すと―――――虹色の粒子が医務室に広がっていた。

いや、医務室だけじゃない………外まで広がっているようだ。

 

その発生源は―――――俺とイグニス。

いつの間にか俺達の体は輝いていて、その光から虹色の粒子が放出されているようだった。

 

イグニスは優しく微笑むと手を重ねてくる。

 

「イッセー、この感覚を覚えていなさい。感じるでしょう? 皆の想い、この熱を」

 

そう言われて初めて気づいた。

 

…………皆の想いが俺の中に流れ込んできている。

これは天界の時と同じ感覚だ。

リゼヴィムと戦っていた時………ゼノヴィアとイリナ、八重垣さんから聖剣を受け取った時と。

 

アザゼル先生でさえ不思議そうに辺りを見渡す中、イグニスは続けた。

 

「今はまだ不完全。でも、あなたは確実に変化――――進化しているわ。私の本来の力とあなたが持つ力が合わさっている。………アセムくんが望んでいたのはこのことだったのね」

 

「アセム………? なんで、ここでその名前が………」

 

「いずれ分かるわ。イッセーの中の可能性が完全に目覚めたその時に。でも………あの子も悲しい子ね。私の予想が正しければあの子は―――――」

 

イグニスは憂いに満ちた目で呟いた。

 

イグニスはアセムの考えが分かったのだろうか………。

冥府である程度の目的を話してくれたけど、あいつの計画にはまだ先がある…………?

 

そんなことを考えているうちに部屋を満たしていた虹色の粒子と赤い光は収まった。

 

悪魔の駒はディルムッドの体内に入り、彼女を悪魔に転生させた。

その証拠に彼女からは悪魔の気配を感じることができる。

 

「う……ん…………ん………?」

 

ディルムッドが目を開けた。

 

美羽が飛び付くように彼女の手を握る。

 

「ボクが分かる? ボクが見える?」

 

「………マスター。はい、見えていますよ」

 

フッと優しげな微笑みを見せたディルムッドに美羽は涙を流す。

 

アザゼル先生がディルムッドに繋いでいた医療器具、そのモニターを見て驚愕の声を漏らした。

 

「こいつは…………! どういうことだ?」

 

眉間にシワを寄せてモニターに映し出される数値を何度も確認していた。

 

そんな先生にリアスが問う。

 

「どうかしたの?」

 

「…………消えてるんだよ」

 

「消えている? なにが?」

 

聞き返すリアス。

 

先生は未だ信じられないといった表情で俺達に告げた。

 

「ディルムッドを蝕んでいたニーズヘッグの瘴気。そいつが完全に消えている」

 

『――――っ!?』

 

その報告に全員が仰天した!

 

ディルムッドの体を蝕んでいた瘴気が消えた………!?

喜ぶべきことだが、あまりにいきなり過ぎて俺達は唖然としてしまっていた。

 

リーシャが先生に訊く。

 

「私はあまり知らないので、なんとも言えませんが…………悪魔に転生したおかげなのでしょうか?」

 

「いや、悪魔に転生したからといって体を蝕む毒が消える訳じゃない。抵抗力が上がって、自然治癒することならあるかもしれないがな。だが、ニーズヘッグの瘴気はそこまで生易しいものじゃない。八岐大蛇の毒ほどでないにしろ、その毒性は極めて高いからな。…………なんだ? 何が起きたんだ?」

 

先生はディルムッドの脈を測ったり、改めてモニターの数値を確認するが、結果は変わらないようで、何度も首を傾げていた。

リアスやソーナ達も原因を考えているようだが、その理由が分からず先生と同じような表情を浮かべている。

 

唯一、分かっていそうなのが―――――。

 

「うっふっふ~♪」

 

いつものご機嫌な笑顔でピースサインを送ってくるイグニス。

 

瘴気が完全に消えた理由、か。

多分、あの虹色の粒子なんだろうな…………。

 

あの熱…………あの時、感じた熱がディルムッドを助けた?

ディルムッドを蝕んでいた瘴気を消し去ったのだろうか…………?

 

考えたところで、分からないな。

 

ディルムッドが少々掠れた声を発する。

 

「マスター………」

 

「なに?」

 

「お腹…………空きました。唐揚げ、食べたいです」

 

なんとも呑気なお願いだな。

意識が戻って早々に唐揚げ希望ですか。

 

その呑気さが場を和ませ俺達を安堵させた。

いつものディルムッドだと。

 

瘴気が消えたとはいえ、失われた血までは戻っていないようで、今も顔色が悪い。

でも、ディルムッドの表情はとても柔らかなもので、体が少し楽になったのだと認識できた。

 

美羽は涙を流したまま微笑み、大きく頷いた。

 

「うん! いっぱい作ってあげるからね! ディルさんのほっぺが落ちるくらい美味しいの作ってあげる!」

 

こりゃ、暫くは唐揚げが続くかな?

まぁ、たくさん食べて体力を戻してもらわないといけないからな。

ディルムッドが飽きるまで食べてもらおうかね。

…………飽きる日が来ない可能性もあるけど。

 

俺はディルムッドの前に立つ。

 

「ディルムッド………。もう気づいているかもしれないけど、おまえが意識を失っている間に俺は………」

 

悪魔に転生させようとしたことを伝えようとした時、ディルムッドは首を横に振った。

 

「何を気にしている? 私は救われたのだろう? 私は生きたいと願った。そして、おまえ達は私を救おうとしてくれた。………不思議な感覚だった。暗闇の中にいた私を温かな………とても温かな熱が包み込んでくれた。それが私を呼び戻してくれたんだ」

 

温かな熱………?

 

それってもしかして、さっきのやつか………?

意識を失っていたディルムッドもそれを感じていたのかな?

 

ディルムッドは重くなっているであろう体を起き上がらせようとする。

咄嗟に美羽が支えに入った。

 

「あまり無理しちゃダメだよ? すっごい大ケガだったんだから」

 

「ありがとうございます。ですが、これだけは伝えておかないといけませんから」

 

そう言うとディルムッドは俺達を見渡した。

 

一人一人、目を合わしていき………最後に俺の方を見てきた。

 

「―――――ありがとう」

 

…………っ。

こいつ…………反則過ぎる…………!

 

このタイミングでそんなこと言われたら、俺は…………!

 

ディルムッドは首を傾げて、

 

「泣いているのか?」

 

「バカやろ………! 泣くわ! おまえ、わざとだろ! ちくしょう、俺も涙もろくなっちまったよ!」

 

「おまえ、まだまだ若いだろうが」

 

モーリスのおっさんが軽くツッコミを入れてくる!

けど、なんだか涙が止まらないんだよ!

 

気づけば、リアス達も涙ぐんでいた。

 

ですよね!

そうなりますよね!

もうね、普段とのギャップというか何というか…………とにかく泣ける!

 

「もう! あんた泣きすぎよ! グスッ」

 

アリスがチョップを入れてくるが…………こいつも号泣していた。

 

おまえも泣いてんじゃねぇか!

 

あ、やべっ………。

泣きすぎて鼻水出てきた。

 

ディルムッドが言う。

 

「おまえの残りの駒は『騎士』だったな。つまり、私はおまえの『騎士』となったわけか」

 

「そうだ。まぁ、美羽が昇格して、自分の駒を持ったらトレードするつもりだけどな。おまえは美羽の眷属になりたいんだろう?」

 

そう問うとディルムッドは頷いた。

 

こいつも美羽好きだからなぁ。

本当に姉みたいに思っているようで。

 

美羽がディルムッドに抱きついた。

 

「ボク、絶対に昇格して、ディルさんを眷属にする! 頑張る!」

 

「はい。私もその時は必ず。それまでは赤龍帝眷属の『騎士』として力を振るおう」

 

「よろしく頼むよ」

 

俺は微笑むとディルムッドの頭を撫でた。

 

すると、ディルムッドは少し黙り込んで何かを考え始める。

抱きついている美羽を見て、俺の方に視線を移す。

それを何度か繰り返すと、ディルムッドは口を開いた。

 

「私は………マスターを姉のように思っています」

 

「うん。ボクもディルさんのこと、妹だと思ってるよ? あ、もうこの際、『お姉ちゃん』って言ってくれても良いんだよ? ボクが『お兄ちゃん』って呼んでるみたいに」

 

美羽がそう言うとディルムッドは途端に顔を赤らめる。

 

…………照れてるらしい。

前にも思ったけど、段ボールハウスに住んでいたとは思えないほど純情だな。

 

こいつの恥ずかしさの基準は未だによく分からないところがある。

 

「…………お姉………ちゃん」

 

ディルムッドが口をごもらせながら、そう呟いた。

 

その瞬間―――――。

 

「ディルさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

美羽が滝のような涙を流してディルムッドを抱き締めた!

滅茶苦茶感動してるよ、この子!

昔の俺じゃん!

 

うつった!?

俺のシスコンがうつったのか、我が妹よ!?

 

そんなことを思っていると、ディルムッドは俺をじっと見つめてくる。

 

「その………マスターの妹ということは…………赤龍帝の妹という…………ことなのか?」

 

「…………え?」

 

予想外の言葉に俺の時は止まった。

 

た、確かに…………美羽の妹になるということは俺の妹になるということになるかもしれない。

 

いや、それで良いのか?

いきなりだぞ?

あの無愛想だった娘がいきなり俺の妹?

 

それって…………いやいやいや…………。

流石にそれは…………。

 

なつくどころか、槍向けてきたからね、この十五歳。

………まぁ、俺が悪かったんだけど。

トイレに入ってること知らずに開けちゃったし。

 

脳みそがフル回転して、これまでのこととこれからのことを考えていると、ディルムッドは顔を真っ赤にしながら――――――。

 

「おに…………おに…………お兄ちゃん…………」

 

「ディルちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

俺は号泣してディルムッドに…………否、ディルちゃんに抱きついたのだった。

 

 

 

 

赤龍帝眷属

 

王  兵藤一誠

女王 アリス・オーディリア

僧侶 兵藤美羽(変異の駒)

僧侶 レイヴェル・フェニックス

戦車 モーリス・ノア(駒二つ)

騎士 ディルムッド

兵士 リーシャ・クレアス(駒六つ)

兵士 ニーナ・オーディリア

兵士 ワルキュリア・ノーム

 

 




というわけで、ディルムッドがイッセーの騎士になりました。
ここは皆さんの予想通りだったのではないのでしょうか?

ですが…………ディルちゃんの『お兄ちゃん』を予想できた人はいるかな?

ここ数話でディルちゃんの株が急上昇しているような気がします(笑)
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