ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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19話 二天龍の逆鱗

「俺も訊きたいことがある。―――――まだ、何か隠していることがあるんじゃないですか?」

 

「…………」

 

俺の問いに黙る王者。

 

既に王者の目的は達成された。

王者が明かしたレーティングゲームの闇。

今頃、冥界では様々な論争が飛び交っているだろう。

 

突然もたらされた情報を冥界の人達は偽りだと思うだろうか?

それはない。

冥界で絶大な支持を受ける王者本人による告白は重く真実味を帯びている。

 

「テロリストに力を貸してまで知りたかったことを知り、それを告白した。民衆はあんたの言葉を信じるはずだ。冥界の上役、古い悪魔達も大騒ぎだろう。目的を達成した今、あんたが俺と戦う理由はあるのか? このままリゼヴィムの元にいる意味はあるのか? 俺はあんたのことをほとんど知らない。だけど、これだけは言える。―――――あんたは完全な悪にはなれない」

 

俺は面と向かってハッキリとそう告げた。

 

この人は目的を遂げた今もなお、心の中でもがき苦しんでいる。

善と悪の狭間で葛藤している。

 

復讐のためとはいえ、彼がしたことは冥界を崩しかねないことだ。

暴動が起こり、冥界各地でこれまで以上の被害だって出るだろう。

 

一応、アジュカさんが対策を考えてくれているらしいが、必ずしも上手くいくとは言えない。

少なくとも被害がゼロになるということはないはずだ。

 

王者は己の行動が罪もない人々を傷つける結果になるかもしれないことを理解している。

 

俺の言葉に王者は暫し黙り混むと、目元を伏せながら口を開いた。

 

「私は…………どうすれば良い? ここまで来るために、多くの罪を犯した私はどうすれば良い? これまで犯してきた罪。それによって生じるであろう今後の事態に、私はどうすれば良いと思う?」

 

王者は上空からアグレアスの町を見渡した。

 

レーティングゲームの聖地として賑わっていたこの浮遊都市も今やテロリストの本拠地。

冥界の人達が観光で訪れたこの町は無数の邪龍が飛び交う魔境と化した。

 

現在はこの浮遊都市を取り戻すために俺の仲間達が戦っており、各所で爆発音や地響きが鳴る。

その音はまるでこの島の悲鳴のように聞こえた。

 

レーティングゲームの王者として、一人のプレイヤーとして、聖地がこのように荒れ果てている現状は心を痛めているだろう。

この事態を招いた要因が自分なのだから尚更だ。

 

俺は一度瞑目する。

 

「あんたが犯した罪が消えることはない。今も、これからも。どうすれば償えるかなんて、答えなんてない。だから、俺にはあんたがどうすれば良いのかなんて分からない」

 

目を開いた俺は王者と視線を交わし、続ける。

 

「でも、あんたは今回の行動に相応の覚悟をもって動いたはずだ。自分のしたことで、冥界が荒れると分かっていて、それでも動いた。だったら、その覚悟でこれからも動け。もがいて、苦しんで、あんただけの答えを見つけろよ。あんたにしか出来ないことがある。それがいつかは償いになるかもしれない。―――――生きろ。生きて罪を償え。それが俺があんたに言えることだ」

 

「………ここまでした私に死ぬなと言うのか。………君は誰よりも残酷だ」

 

俺は王者じゃない。

これから先、王者がどうすれば良いのかなんて誰にも分からない。

 

以前、トウジさんにも言ったことだ。

 

―――――向き合うしかないんだよ、自分の罪と。

どこまでも、死ぬまで、永遠に。

 

答えなんてない。

それでも探し続けるしかないんだ。

 

ふいに俺は天界での出来事を思い出す。

 

「八重垣さんを知っていますよね?」

 

「ああ。クレーリアが恋をした彼だね?」

 

王者の聞き返しに俺は頷いた。

 

「俺は直接は見ていませんが、彼と戦った仲間が見たそうです。―――――八重垣さんと、彼を抱き締める女性の姿を」

 

「………噂は聞いている。クレーリアは…………どんな顔をしていたか、聞いてはいるだろうか?」

 

「………優しい顔をしていたそうです」

 

八重垣さんは今も天界にいて、監視はつけられているが、ミカエルさんの下で活動しているそうだ。

時折、あのエデンの園に赴き、そこで彼女の顔や声を思い出しているという。

 

天を仰ぐ王者。

一筋の涙が頬を伝っていた。

 

「赤龍帝くん。一つ…………頼みたいことがある」

 

「頼みたいこと? 俺に?」

 

「そうだ。私は――――――」

 

「―――――っ!」

 

王者の語った内容に俺は目を見開いた。

 

そうか、そうだったのか………!

アジュカさんが言っていたことの意味は…………ライザーとのゲームの意味はそのために――――――。

 

一通り話したところで王者は改めて訊いてくる。

 

「………そういうことなのだ。頼めるだろうか?」

 

「ええ、もちろんです。だけど、少し………いえ、かなり痛いかもしれませんが、そこは我慢してくださいね?」

 

俺はそう告げた後、ある魔法陣を開く。

それは俺に与えられた特殊な召喚魔法陣。

 

本当ならここで使うべきじゃないだろうが、少し予定が変わったな。

 

赤く輝く魔法陣から現れるのは―――――。

 

「いくぜ、ドライグ。――――――ドッキングするぞ!」

 

俺は心の中でアリスとリアスに謝りながら、それを使った。

 

 

 

 

「ぜぇぇぇぇぇぇぇぇあっ!」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!

 

 

壁を破壊して展望台へと戻ってきた俺。

そして、俺の足元で倒れている王者。

王者は全身から血を流し、ボロボロの状態で瓦礫の下に埋まっている。

 

ちょっとやり過ぎた感じはするが…………まぁ、良いだろう。

一応、確認は取ったしな。

 

展望台に戻った俺の視界に入ってきたのは床に倒れ伏すヴァーリ。

すぐに立ち上がり、鎧を着込む。

 

………極覇龍は使えないか。

あれは体力と魔力をバカみたいに消耗する。

相手が神器無効化を持っている以上、変身してもすぐに無効化されてしまう。

そうなれば、ただ無駄に力を消費するだけになってしまう。

 

「ふふふ、どうした、ヴァーリよ。こんなものではこの祖父には届かぬぞ」

 

リゼヴィムが威風のある態度でそう言うが、ヴァーリは不機嫌極まりない表情だ。

 

ヴァーリは右手の籠手を解除して、手元に幾重もの魔法陣を展開。

リゼヴィムに強力な攻撃魔法を放つ。

 

なるほど、神器を介さず、ただの魔法を打ち込めばリゼヴィムの神器無効化は意味を為さない。

禁手の鎧で身体能力の差を埋めて、ただの魔法、魔力による攻撃でリゼヴィムに詰め寄るつもりなのだろう。

 

俺は聖剣のオーラを外側に纏うことで、神器をコーティングする形にしたが…………。

 

しかし、流石に超越者。

ヴァーリの攻撃をものともせず、軽く体を動かして全ての攻撃魔法を避けていた。

 

ヴァーリは魔法を撃ち込み続けながら、不機嫌な口調で漏らす。

 

「…………全く、かんに触る口振りだ。ルシファーの息子として、リリンとして振る舞うことで壮麗たる姿を見せているつもりだろうが…………貴様の根底は、その体から滲み出ている陰険で悪辣なオーラと同じもの。リゼヴィム、貴様は生まれもっての悪、悪意そのものだ」

 

孫であるヴァーリにそう告げられたリゼヴィムはきょとんとするが、途端にいつもの醜悪な笑みを浮かべた。

 

「うひゃひゃひゃ。だったら、どうすんだよ、クソ孫くん? よぼよぼのお祖父ちゃんに一矢も報いることも出来ない雑魚ドラゴンの癖になぁ?」

 

ベロを出して、ふざけた態度を見せてくる。

 

倒れる王者を一瞥した俺はヴァーリの横まで歩みより、奴を睨んだ。

 

「そうかい。そんじゃ、その雑魚ドラゴンに追い詰められるおまえはクズ以下だな。なぁ、リゼヴィム」

 

俺の登場にリゼヴィムは一瞬嫌な表情を見せた。

 

天界でのことを思い出したのだろう。

視線を倒れている王者の方に移し、小さく舌打ちした。

 

「王者くんも使えないねぇ。もうちっと頑張ってくれると思ったんだがよ」

 

「今度はおまえの番だ、クソジジイ。ヴァーリ、約束だ。こっからは俺も参戦させてもらう。俺もこいつは許せないからよ…………ッ!」

 

俺はヴァーリにそう言うと殺気を放った。

全力の殺気だ。

 

ヴァーリはなんとも言えない表情だったが、無言で頷いた。

 

よし、確認は取れた。

こっからは俺も全力で潰させてもらう…………!

 

全身に赤いオーラを纏わせた俺は、ドッキングしたことにより一層大きくなった天翼の翼を広げ、真正面からリゼヴィムに挑む!

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 忘れたのかよ! 神器を介している以上―――――無駄ってね!」

 

確かに普通にいけば、ヴァーリと同じく鎧を解除されてしまうだろう。

そうなると、強制的に今の状態も解除される。

 

だが―――――。

 

『Penetrate!!』

 

透過の音声が流れる。

あいつの手が俺の手に触れる―――――が、俺の拳は勢いを更に増して、奴の顔面にめり込んだ!

 

奴は正面から打撃をもろにくらい、石造りの床を大きくバウンドして壁に激突した!

 

鼻血を流すリゼヴィム。

 

「………なんだ、こりゃ…………」

 

信じられないような声音で、立ち上がったリゼヴィムは鼻血をぬぐう。

手にはべっとり赤い血がついていた。

 

俺はリゼヴィムの傷と拳の感触を確かめた後に言う。

 

「やっぱな。ディハウザーさんの『無価値』を通り抜けたからいけると思ってたけど…………。おまえの『神器無効化』はもう俺には効かねぇよ。俺が得た力、ドライグが生前に持っていた『透過』の力はおまえの異能すら通り抜ける」

 

「………っ! 俺の『神器無効化』を通り抜けたってのか!? んな、アホなッッッ!? 俺の『神器無効化』はな! どんな神器だろうと、神滅具だろうと、全部! ぜぇぇぇぇんぶ、無効化すんだよ!」

 

殴られてもなお、現実を信じられないリゼヴィムは俺に指を突き付けながら叫んだ。

 

俺は一歩、重たい一歩を踏み出す。

殺気を纏い、奴との距離を積めていく。

 

「信じようが信じまいが、そんなのはどうでも良い。さぁ、覚悟しろ。二天龍を前にして生き残れると思うなよ?」

 

ヴァーリも俺と並び立つ。

 

「二対一………か。逆なら好みなのだが………」

 

「我が儘言うなって。俺もあいつを潰したくて仕方がないんだ。ここは二人でやっちまおうぜ」

 

端から見れば二対一で卑怯だと思われる構図だが、この下衆にそんな甘い考えはいらない。

 

こいつは今まで何をした?

 

吸血鬼の町を壊滅させた。

アウロスの町を、子供達を襲った。

天界をついでで襲撃し、アーシアを傷つけた。。

 

そして、今回も俺の家族を――――――。

 

許せる訳がない。

ヴァーリが言った通り、こいつは『悪』そのものなんだ。

イタズラに周囲をかき回し、触れてはいけない領域に土足で踏み込んだ。

 

だからさ―――――。

 

「リゼヴィムッ! てめぇは『悪』の権化だ! てめぇが泣かせた人達の分まで俺が! 俺達がてめぇをぶん殴る!」

 

『Trans-am Drive!!!!』

 

籠手の宝玉から発せられる力強い音声!

 

鎧が赤く――――紅蓮の輝きを放ち、大きく広げられた両翼からは赤く煌めく粒子が大量に放出される!

 

俺は神速でリゼヴィムとの距離を詰め、奴の懐に入る!

そして、奴にアッパーを繰り出した!

 

『Penetrate!!』

 

透過の力で奴の無効化をすり抜け、三倍に引き上げられたEXAの力の全てがリゼヴィムに叩き込まれる!

 

打ち上げられるリゼヴィム!

 

そこへ、回転の力を加えた後ろ回し蹴りを追加でぶちかます!

 

「ぐばぁ! ………んだよ、それは!? んだよ、それッッ!?」

 

血を撒き散らしながら叫ぶリゼヴィム。

 

そのリゼヴィムの背後に待ち構えるのはヴァーリだ。

 

「兵藤一誠に気を取られている場合ではないぞ、リゼヴィム!」

 

ヴァーリは籠手の部分だけを解除して手に濃密な魔力を纏う。

魔力に纏われた手刀がリゼヴィムの首に打ち込まれた!

 

奴は展望台の床を破壊して、下階まで落下する。

それを追いかける俺とヴァーリ。

 

「ちぃっ!」

 

舌打ちしながら、俺達の追撃を逃れるリゼヴィム。

 

奴はガラス窓をぶち破り、庁舎の外へと逃げる。

狭い空間で俺達二人を相手にするのは不利と踏んだのだろう。

 

「逃がすかよッ!」

 

「貴様にはここで終わってもらうぞ!」

 

俺達が逃がすはずがない。

 

赤い龍と白い龍。

歴代でも最高と称された二天龍が奴を追いかける!

 

アグレアス上空で繰り広げられる格闘戦!

『透過』の力を戦闘の軸にして、俺とヴァーリはリゼヴィムに攻撃を繰り出していく!

 

俺の拳が、ヴァーリの蹴りがリゼヴィムの繰り広げる攻撃と衝突する!

その余波だけで、周囲の建物を破壊していくほど!

 

近くを舞っていた量産型邪龍は余波に巻き込まれて落ちていく。

 

俺達を同時に相手にしてここまでやれるのは流石としか言いようがない。

性格はクズだけど、実力は本物。

 

偽りの力で傲る旧魔王派の連中とは訳が違う。

 

「おらぁぁああああああああああ!」

 

空中でルシファーの翼を広げたリゼヴィムは巨大な魔力弾を無数に放ってくる!

一発一発に常軌を逸した魔力が籠められており、くらえば瀕死のダメージは余裕で受けてしまうだろう!

 

でも、三倍に力を引き上げられた俺なら話は別だ。

僅かな時間しかもたなくとも、絶大な力を発揮できる今なら、奴の攻撃だって崩せる!

 

展開したフェザービットがそれぞれオーラの刃を形成し、奴の魔力弾を切り刻んでいく!

 

真っ二つに分かれた魔力の塊はアグレアスの空を揺るがす程の大爆発を起こした。

 

俺がリゼヴィムの魔力弾に対処している間にヴァーリはリゼヴィムに詰め寄る。

 

「ハッ! 赤龍帝の透過には驚かせられたがな! おまえの神器は無効化できんだよッ!」

 

リゼヴィムがヴァーリの鎧に触れようと手を伸ばした瞬間―――――。

 

ヴァーリの体を赤いオーラが覆った。

そのオーラがヴァーリの盾となって、リゼヴィムの手を阻む。

 

そして――――――白い龍の拳が魔王ルシファーの息子に届いた。

 

ヴァーリの拳が深くリゼヴィムの腹に突き刺さり、リゼヴィムは体をくの字に曲げる。

 

空中でよろよろと後ずさるリゼヴィムは血を吐き出しながらも、大きく開いた目でヴァーリを睨む。

 

「んでだよ………ッ! なんで、おまえにも無効化が通用しない…………!?」

 

ヴァーリは自身を纏う赤いオーラに目をやりながら答えた。

 

「俺を覆っている兵藤一誠のオーラのお陰だ。この赤いオーラには彼の『透過』が付与されている」

 

そこに俺が説明を続ける。

 

「無効化できない俺のオーラがヴァーリを守る鎧となったってわけだ。つまり、俺がいる限り、おまえの『神器無効化』は俺にもヴァーリにも通じない」

 

自身の前に並び立つ俺達の姿にリゼヴィムは目元をひくつかせる。

やがて、忌々しそうな目で俺達を見てきた。

 

「…………今代の二天龍は異常、か。長年殺しあってきた赤と白がこうして、俺を前に手を組むなんざ、なんの冗談だよ………!」

 

ヴァーリとは戦ったこともあるし、共闘したこともある。

初めて共闘したのはロキの時だったか。

 

確かに今代の俺達は過去の二天龍からすれば、少し………いや、かなり外れた存在なのかもしれないな。

 

ドライグとアルビオンも和解しちゃったし。

 

籠手の宝玉が点滅し、ドライグの声が発せられる。

 

『魔王ルシファーの息子よ。言ったはずだ、俺もアルビオンも決して嘗めてくれるなよ、と』

 

アルビオンがドライグに続く。

 

『貴様はあまりに愚か過ぎた。かつてヴァーリに行ったことも、今回、兵藤一誠に対して行ったこともそうだ。彼らの………否、我らの逆鱗に触れるには十分過ぎた』

 

『二天龍の逆鱗に触れたのだ。―――――貴様を滅ぼす理由はそれだけだ』

 


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