ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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21話 偽りの神

[美羽 side]

 

虹が広がっている。

このアグレアスを包みように広がる虹の帯。

虹色に輝く粒子が世界を満たし、ボクの心まで満たしていく。

 

温かい…………心から落ち着く光。

この虹の輝きに触れるだけで安心する。

 

ボクはこの光を知っている。

ボクはこの温もりを知っている。

 

これはお兄ちゃんの………イッセーの光―――――。

 

ずっとボク達を守ってきてくれたものだ。

 

ボク達に襲いかかってきていた量産型の邪龍、そして、先程現れた複製赤龍帝の軍団。

 

アーシアさん達が駒王町に戻ったため、圧倒的な数の暴力で潰されると思った。

だけど、この虹の輝きがボクを、ボク達を守ってくれた。

 

邪龍と複製体の群れがボク達に襲いかかろうとした時、この虹の粒子がボクの代わりに防いでくれた。

虹の輝きが広がる場所ではどこも同じ様子で、虹に触れた瞬間に邪龍も複製体も押し潰されていく。

 

ボクと対峙しているベル、そしてアリスさんと対峙しているヴィーカは何ともない様子だった。

 

ヴィーカはこの虹色の輝きに薄く笑みを浮かべている。

 

「ふふふ、ようやくね。これでお父様の願いも………」

 

お父様…………アセムの願い?

 

もしかして、この輝きを待っていた?

お兄ちゃんが目覚めるのを待っていたというのだろうか?

 

上空に映し出された映像を見上げると、驚くことにこの虹色の輝きは駒王町にも広がっているようだった。

 

まさか………次元を越えて、この輝きは広がっていると言うの?

そんな馬鹿なこと…………無茶苦茶過ぎる。

 

そう思ったボクだったけど、ふいにお兄ちゃんの言葉を思い出した。

 

 

――――――次元ねじ曲げても、世界の理を崩してでも守りきるさ。

 

 

その言葉を思い出すと、自然と笑みがこぼれた。

 

だって、本当に次元をねじ曲げて守ってるんだもん。

強引すぎるよ…………!

 

でも、それがお兄ちゃん………兵藤一誠なんだよね。

 

ふと映像にあるものが映った。

それは虹色の輝きの中で強く輝く黄金のオーラ。

黄金の輝きは町全体に広がり、邪龍によって破壊された建物や木々をも元の姿に戻していく!

 

オーラの中心にいるのは―――――アーシアさんだった。

 

アーシアさんの声が頭に響いてくる。

 

 

―――――イッセーさんは私達を守ってくれました。私だって皆さんを守ります。お父さんもお母さんも学校のお友達も絶対に守りきってみせますっ!

 

 

強い覚悟の感じられる声だった。

 

彼女の背後に黄金のドラゴンが見える。

そのドラゴンはアーシアさんを守るように彼女を包み込んでいた。

 

そっか、ファーブニルも一緒に戦ってくれているんだ。

オーラとなって、アーシアさんを護ろうとしているんだ。

 

虹色の輝きと黄金の輝きが駒王町全体に広がり、邪龍の群れをことごとく弾いていく。

 

おそらく、あれがアーシアさんの禁じ手。

きっと、この輝きに触れてアーシアさんは至ったのだろう。

 

アリスさんが空を見上げながら言う。

 

「また、あいつに守られちゃった。あーあ………いつまで経っても、守られっぱなしなのは悔しいなぁ。私だって皆をイッセーを守りたいのに………」

 

「そうだね、分かるよ。ボクも同じ気持ちだから」

 

ボクは微笑みながらそう答えた。

 

ボク達はいつもお兄ちゃんに守られている。

これまでも、今現在も。

 

それじゃダメなんだ。

 

ボクも、ボク達もお兄ちゃんを守りたい。

お兄ちゃんの横で戦いたい。

 

そして、今がその時―――――――。

 

『美羽ちゃん、アリスちゃん、聞こえるかしら?』

 

脳裏にイグニスさんの声が聞こえた。

他の人には聞こえないのか、その声に反応しているのはボクとアリスさんだけ。

 

『イッセーは至ったわ。――――――今度はあなた達の番よ。今こそ、あなた達に眠る力を呼び覚ます時よ』

 

イグニスさんは優しい声でボク達に言った。

 

『唱えなさい。世界のためになんて事は言わないわ。ただ、あなた達が愛する人のために。あなた達の心にいつもいる彼のために』

 

ボクとアリスさんは目を閉じた。

 

―――――感じる。

ボクの中にある力を。

ボクに流れる血を。

 

内側に眠るボクの可能性。

ボク達だけに許された力。

それがようやく花開く時が来たんだ。

 

ボクはゆっくりと目を開き、呪文(うた)を謳い始める。

 

そこにはボクだけでなく、お兄ちゃんの声も交じっていて―――――。

 

「――――王の意思を引き継ぎし者よ」

 

黒い………星夜のような輝きを持った黒いオーラが体から溢れてくる。

それはボクの体を覆うと、発現する力に相応しい形に変化していく。

 

『――――魔なる力を以て夜を照らせ』

 

赤い龍のオーラが右手に集まっていく。

静かな波動を放つ赤いオーラは一本の杖を形成した。

龍を模した魔法の杖だ。

 

「――――我が父よ、赤き勇よ、我は汝らの想いを胸に至ろう」

 

この黒いオーラは魔王シリウスの…………お父さんのもの。

そして、この赤いオーラはお兄ちゃんのもの。

二人の想いがボクを優しく包み込んでいく。

 

『――――汝、偽りの夜の神となりて』

 

そして、ボク達は最後の一説を口にする。

 

「『顕現せよ――――――!』」

 

黒のオーラが弾けたと思うと、一瞬、ボクを中心に星空が広がった。

無数の星が輝く夜の世界。

 

ほんの一時だけ見せた夜は引いていく波のように消えていった。

 

ボクの姿にベルが口を開く。

 

「変わった………? お姉ちゃんの力が比べ物にならないくらい、上がってる………?」

 

首を傾げて疑問を口にするベル。

 

今のボクが放つ波動は――――――神のものだ。

例のロスウォードの疑似神格、あれをボクなりに発動したもの。

 

艶のある漆黒ドレスを纏い、天女のような黒い羽衣を羽織っている。

手には龍を模した魔法の杖。

先端には龍が赤い宝玉を掴んでいる。

 

「疑似神格発動―――――神姫化ってところかな。今のボクは神の力を持つ存在。この姿は魔王の血に宿る力を完全に覚醒させた、ボクだけのものだよ」

 

神姫化『黒星の魔姫(ミュスティカ・フュルスティン)』。

星夜を司る偽りの神。

 

ベルは驚きながらも、手元を動かし新たな魔獣を作り出していく。

 

「お姉ちゃん、すっごく強い。戦わなくても分かる。だから………」

 

彼女の周囲に複数の魔法陣が展開される。

そこから現れるのは百メートルクラスの人の形をした大型魔獣。

そして、彼女は更なる魔法陣を描き、今しがた作り出した魔獣を融合させていく。

 

魔法陣の輝きと共に顕現したのは禍々しいオーラを放ち、腕が十二本もある一体の巨人………いや、魔神だ。

腕の一本一本に巨大な剣を携えた魔神。

 

これはアウロス学園襲撃の際、ベルが見せた規格外の力。

神にも等しい力を持つ魔獣を作るという、ボク達の理解を越えた能力。

 

「ベルも力出す」

 

ベルが手をボクに翳して、魔神に命令する。

 

魔神は極太の腕を振り、その手に握る巨大な剣で襲いかかってきた!

 

その一振りで町を破壊できる威力を持った一撃。

まともに受ければボクの体なんて消えてなくなるだろう。

 

前回はティアさんとディルさんの協力でなんとかもったけど、一人ではどうにもならなかった。

 

ボクは杖を翳して巨大な魔法陣を展開。

魔法陣が魔神の剣をことごとく弾いていく。

たった一枚の防御魔法陣が町を破壊できる力を容易に防いでいるのだ。

何度も何十、何百と魔神の攻撃を受けてもビクともしない堅牢過ぎる盾。

 

しかも、今、ボクは全力を出しているわけではない。

まだまだ余裕がある。

 

これだけで疑似神格の凄まじさが、自分がどれ程の力を手にしたのかが実感できてしまう。

 

防御魔法陣を維持しつつ、ボクは杖を振るう。

先端の宝玉が赤く輝き、三つの魔法陣を展開する。

 

ボクを中心に三角形を描くように配置された魔法陣に魔神の剣が触れる。

 

すると―――――魔神の剣は砂のように崩れ去った。

 

「―――――ドゥルヒ・ゼーエン。この姿になって、ようやく使える分解魔法だよ」

 

以前、ディオドラ・アスタロトによって囚われたアーシアさんを助けるために使ったことはある。

だけど、あの時はお兄ちゃんに力の譲渡をされて、やっと使えるレベルだった。

しかも、使った後は強い疲労に襲われるという消耗具合。

 

あの時はまともに使えるレベルじゃなかった。

神姫化して初めてまともに使えるようになったんだ。

お父さんに教わったこの魔法を。

 

あらゆる物質・魔法を分解する究極の分解魔法。

直接触れていないと分解できないという点を除いては最強クラスの魔法。

まぁ、複雑な構成の物程、分解に時間がかかるんだけどね。

 

幸いなことに魔神の剣は一瞬で分解できるくらい単純な構成になっているようだ。

 

ただ、魔神本体を分解しようとすると、少し時間がかかりそうだから…………。

 

「この一撃で終わらせるよ」

 

頭上に幾重にも展開される黒い魔法陣。

重なっている枚数は百はあるだろう。

 

すると、この周辺一帯に影が映った。

影はかなり大きく、余裕で魔神の大きさを越えている。

 

空を見上げるベルはポカンと口を開けて、

 

「…………隕石?」

 

遥か上空からこちらに向かって降ってくる巨大な剣を岩。

灼熱の炎を纏って急降下してくるそれはどう見ても隕石だ。

 

隕石の落下コース上にいるのは目の前の魔神。

 

ボクは魔神を囲むようにクリアーブルーの障壁を四枚、張り巡らせる。

これで魔神は逃げることが出来ないし、他の皆を巻き込むことはないだろう。

 

………衝撃はいくだろうけど。

 

「―――――ミーティア・フォールライン。その魔神はもうボクには通じないよ」

 

遥か空から降ってきた隕石は魔神を押し潰し、結界の内側を灼熱の炎が満たしていった―――――。

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

[アリス side]

 

 

アグレアス全体が激しく揺れた。

激しい揺れにより、都市の高層建築は幾つも崩壊している。

 

原因は言うまでもない。

美羽ちゃんが落とした隕石だ。

 

ヴィーカが目元をヒクつかせている。

 

「………シリウスの娘さんって、あんなに無茶苦茶する子だったかしら? もうちょっと静かに戦える子だと思っていたのだけれど…………」

 

それには激しく同意したい。

ちょっとやり過ぎてる感じはする。

事前に結界を張らずに落としてたら、アグレアスへの被害は尋常じゃないことになっていただろう。

 

………そう考えると、アグレアスが割れてないだけマシと言うべきかも………?

 

う、うーん………美羽ちゃん、戦い方が派手になったかな?

ま、まぁ、相手が相手だから、仕方がないんだけど。

 

虹の粒子で満たされているアグレアスの上空で神姫化した美羽ちゃんとベルが壮絶な戦いを繰り広げ始めた。

次から次へと生み出される強大な魔獣を一撃で屠っていく攻撃魔法の数々。

 

疑似神格を発動した美羽ちゃんの魔力は桁違いに底上げされていて、かなりの力を使っているはずなのに息切れを起こしていない。

 

これが神の力…………。

 

あの力が私にも―――――。

 

「それで、王女さまもあの力を使えるのかしら? 神の力。あなたにだけ許された力とやらを」

 

ヴィーカはどこか期待しているような笑みで訊いてくる。

 

…………見せてやろうじゃない。

私に与えられた力を。

 

私は目を閉じて、自分の内側に意識を集中させる。

 

 

――――いこうか、アリス。

 

 

ええ、いきましょう。

私の、私達の力と想いを見せてあげましょう。

 

「―――――神の槍に選定されし者よ」

 

槍から白金色の輝きが放たれる。

目映い光はこの一帯全てを埋め尽していく。

 

『―――――煌めく灯となり、闇を斬り裂け』

 

槍から発せられる光は私を覆い、背中に一対の翼を与えた。

黄金に輝く翼だ。

 

「―――――神槍よ、赤き勇よ、我は汝らと共に歩む者なり」

 

赤いオーラが現れ、私を後ろから抱き締めていく。

 

温かい………この温かさは間違いない。

いつものあいつの熱だ。

 

『―――――汝、偽りの光の神となりて』

 

神々しい輝きを放ちながら、私はイッセーと最後の一説を唱える。

 

「『降臨せよ――――――!』」

 

その瞬間、光の嵐が巻き起こった。

輝く風が私を中心に広がっていく。

巨大な光の柱が空を貫いた―――――。

 

ヴィーカの眼前に舞い降りた私はその名を口にする。

 

「疑似神格発動―――――神姫化『白雷神后(タキオン・ヴァスィリーサ)』」

 

白金色の輝きを放つ私に、ヴィーカは感嘆の声を漏らす。

 

「綺麗ね。その黄金の翼、天使でも最上位………セラフみたい。でも、雰囲気はまるで違う。プレッシャーも桁が違うじゃない」

 

セラフ、か………。

確かにこの背にある黄金の翼はセラフの翼のように見える。

 

私は天使になった訳じゃない。

美羽ちゃんと同様にロスウォードの疑似神格を自身に合わせて発現させた姿が今の私。

 

偽りの神。

光を司る偽りの神。

 

悪魔に転生した私が光を司るというのは変だけど………。

 

私は槍を構えて言う。

 

「いくわ。今まで通りに構えていたら―――――死ぬわよ?」

 

私は少しだけ足を動かした。

刹那、私は光の粒子を纏ってその場から消える。

 

次に姿を現したのはヴィーカの懐だった。

 

ヴィーカは全く反応できていない。

今の動きはヴィーカの理解の外側にあった。

 

白金色に煌めく稲妻を槍に纏わせ、鋭い突きを放つ!

 

「………っ!?」

 

ヴィーカは咄嗟に幾重にも剣を作り出して、それを盾にするが、紙のように崩れていく!

幾つもの剣を貫いた私の槍はそのまま、ヴィーカの左腕を斬り落とした!

 

「なっ………!? くぅ………!」

 

ヴィーカは離れた左腕を回収して後ろに飛ぶ。

 

しかし、その時、私は既に彼女の背後に立っていた。

 

「―――――遅い」

 

そう告げた私は白雷を彼女へと放つ。

ヴィーカは腰を捻って直撃は避けたものの、掠めてしまい、脇腹から血を流してしまう。

 

彼女は苦しい表情を浮かべながらも、背後に複数の魔法陣を展開。

そこから現れたのはガトリングガンと呼ばれるこの世界の兵器。

正確にはヴィーカが己の能力で作り出した物。

 

一度に大量の弾丸を撃ってくるあれは厄介極まりない。

更に言えば、弾丸の一発一発に聖なる力が籠められているから悪魔にとっては最悪の兵器とも言える。

 

それが百近く、その全ての銃口が私に向けられている。

 

「プレゼントよ!」

 

ヴィーカが指を鳴らすと、全ての銃口が一斉に火を吹いた!

聖なる力を籠められた弾丸が雨のように降ってくる!

 

しかし―――――。

 

弾丸は私に届く直前に阻まれ、消え去っていった。

 

この結果にヴィーカは目を開く。

 

「オーラだけで防いだというの!?」

 

正しく言えば、防いだのは私が纏うこの白金色の稲妻。

並みの者が触れたら最後、焼かれて、灰になり、完全に消滅する。

 

あの程度の武器なら槍を振るわずとも防げるようだ。

 

「これならどうかしら!」

 

ヴィーカが手元に聖なる波動を放つ槍を造り出す。

槍を握り高速でこちらに接近してくる。

 

「―――――アルビリス」

 

私は自身の槍の名を呼び、石突きで地面を叩く。

 

すると、槍は呼び掛けに応じて、凄まじい波動を放った!

波動は地面を大気を伝って広がっていき、周囲にあった物を全て破壊していく!

ヴィーカも大気の波に巻き込まれ、遥か後方へと吹き飛ばされていった!

 

「この力………! その槍の…………!?」

 

ヴィーカは体勢を何とかして整えるが、驚きは隠せていない。

 

私の持つこの槍―――――霊槍アルビリスは火、水、土、風を司る神に近い存在である四大神霊によって創られた神具。

簡単に言えば、この世界で言う神滅具のようなものだろう。

 

…………私はそんな事知らずに使い勝手の良さでこの槍を選んだんだけど。(だって、お父様はそんなこと教えてくれなかったんだもん………)

 

今のはこの槍が持つ『土』と『風』の特性を使って生み出した波動だ。

一定範囲に強烈な地震と暴風を起こして、ヴィーカを払った、それだけ。

 

私はヴィーカが構えたと同時に動き出す。

再び、光の粒子を纏って、彼女に迫る!

 

光すら超えた速さで私はヴィーカを追い詰めていく!

彼女が剣を振るえば、それ掻い潜って彼女を斬る。

彼女が銃弾を放てば、身に纏うオーラで全てを消し去った!

 

私から距離を取ったヴィーカは荒くなった息を整えながら訊いてくる。

 

「………速すぎるわね。それもあなたの能力かしら?」

 

「能力って程じゃないけどね。疑似神格の発動で私のスピードは劇的に引き上げられているわ。………まぁ、授けられた力だからあまり自慢できたものじゃないけど」

 

この力は借りた力。

私が修業で得た力じゃない。

 

イグニスさんが私にロスウォードの疑似神格を与え、イッセーが覚醒したことで、それに連動して発現できるようになった。

ここに私の努力は入っていない。

 

だから、私は今の力を己の力だと言うつもりはない。

 

ヴィーカは傷口に持っていたフェニックスの涙をふりかけ、切断された腕を繋げる。

シュゥゥ………という音と共に彼女の腕は完全に元通りとなり、至るところに出来ていた傷も治癒されていった。

 

彼女は腕が繋がったことを確認すると口を開く。

 

「良いんじゃない? それはあなたと勇者君の絆が実現させた力と言っても良いのでしょう? それなら、むしろ誇るべきよ。あなた一人の力じゃなくても、あなたと彼の力と言うのなら問題はないと私は思うけど?」

 

―――――っ。

 

なるほどね。

道理でこの女を嫌いになれないわけだ。

 

いや、正確には嫌いなんだけど…………。

胸のこと言ってくるし…………。

 

それでも、心から嫌悪したことはない。

 

多分、この女のこういうところがその理由なんだと思う。

 

私はふぅと息を吐く。

 

「そうね、そう思っておくわ。それなら、私もこの力を誇ることが出来る。一応、お礼を言っておくわ」

 

「あら、敵にお礼を言うなんて変わっているわね」

 

「人としての礼儀よ」

 

「あらあら、そういうところは流石に元王女さまなのかしら? でも、あなたのそういうところ、私も好きよ♪」

 

ヴィーカはそう言ってウインクしてくる。

 

自分の腕を斬った相手に言う言葉じゃないわね………。

まぁ、この女らしいというか、何というか。

 

ヴィーカは全身から光を放つ私を見つめながら、ふむと考え出す。

 

「さてさて………今のままだと何も出来ずに負けちゃいそうだし、私も奥の手使おうかしら?」

 

ヴィーカからのプレッシャーが膨れ上がる。

 

そう、ヴィーカにはまだ奥の手がある。

それがどんな能力でどれだけの力を秘めているのかは未知数。

 

しかし、このプレッシャーは今の私とひけをとらない。

 

神の力を得ても油断できないのが、アスト・アーデの神アセムとその配下達。

少し…………かなりシリアスを壊してくれる面々だけど、実力は本物。

 

どうくる―――――。

 

私が身構えた時、ヴィーカの耳元に小さな通信用魔法陣が現れる。

 

「お父様? どうなさったのですか、このような時に。今、かなり盛り上がってきたところなのですが………」

 

お父様………つまり、彼女達を従えているアセムのこと。

 

アセムがこのタイミングで彼女に連絡を…………?

今のところ姿は見ていないけど、どこかで見ているのだろうか?

 

「……そうですか。分かりました」

 

それだけ言って、ヴィーカは通信を切った。

 

彼女は深く息を吐く。

 

「残念だけど、今日はここまでね。せっかく盛り上がってきたところなのだけれど、帰還命令なのよ」

 

「帰還?」

 

「ええ。――――.全てのピースは埋った。後は彼がこの世界に示すことが出来ればそれで終わり、ですって」

 

全てのピース…………?

彼…………というのはイッセーのことだろう。

アセムはイッセーに関心を持っているようだし。

 

しかし、世界に示す…………って何のことなの?

イッセーに何を期待しているの?

 

ヴィーカは足元に転移魔法陣を展開する。

 

「それじゃあね。―――――今度出会う時は私達も決着を着けましょう。全力で。出し惜しみなんてしないわ。その頃には勇者くんとお父様も全ての決着を着けると思うしね」

 

彼女はウインクすると、この場から去っていった。

 

何なのよ…………あいつらは…………。

 

すると、私の横に美羽ちゃんが降りてきた。

 

「そっちも行っちゃったみたいだね」

 

「ええ。とりあえずは引いてくれたみたいだけど………。何がしたいか分からないわね。表向きはリゼヴィムに協力しているけど、目的は違うみたいだし………」

 

私がそう言うと美羽ちゃんは顎に手を当てた。

 

何か心当たりがあるような表情をしていて、

 

「多分、この世界を一つにする、とかかな………。同盟とか表面的なことじゃなく、もっと深い次元で………」

 

「でも、この世界は同盟に動き出したばかりよ? 私達の世界とは事情も全然違うし…………急ぎすぎじゃないかしら?」

 

「それはそうなんだけど…………」

 

言葉を濁す美羽ちゃん。

 

よくよく考えると、アスト・アーデでも、人と魔族は長年争ってきたのに、今は互いに平和を望み、共に歩んでいくことを決めている。

色々な要因はあるけど、和平への道を切り開いたその中心にいたのって…………。

 

アセムの狙いって、まさか―――――――。

 

思考がそこに至った時、庁舎のある方向から爆発音が聞こえてきた。

 

そうだ、ヴィーカ達が引いても戦いはまだ続いている。

今もこのアグレアスを覆っている虹の輝きがあるとはいえ、まだ皆は戦っているんだ。

 

「いこう、美羽ちゃん。イッセーのところへ」

 

「うん!」

 

私達は空を飛び、虹の世界を駆けていく。

 

待っててね、イッセー。

今すぐ行くから―――――。

 

[アリス side out]

 




~後書きミニエピソード~

イッセー「ガハッ!」

美羽「お兄ちゃん!? いきなりどうしたの!?」

イッセー「ヤバい…………美羽とアリスが…………神々しくて…………ガハッ!!」

アリス「あんた、最近、戦闘以外で血吐くの多くない!?」

イッセー「可愛いし、綺麗なんだもん! そりゃ、血くらい余裕で吐くわ! 美羽! アリス! 二人とも大好きだぁぁぁぁぁぁ! とりあえずモフモフさせてぇぇぇぇぇ!」

ディルムッド「あ、おね………お姉ちゃん………ちょっと良い………かな?」

美羽「カハッ!」

アリス「美羽ちゃんッッッ!?」


~後書きミニエピソード、終~


シリアスが続くので、後書きでほのぼのしてください~( ´・ω・)シ



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