ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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23話 リリンの最期

美羽、アリスと合流した俺は上空から降りて、アグレアスの地に降り立った。

 

俺達のすぐ目の前には全身から血を噴き出して、踞るリゼヴィムの姿。

美羽とアリスが放った一撃はかなり効いたらしい。

 

ごふっと口から血を吐き出すリゼヴィム。

 

「クソがっ………! こんなごり押しで俺が突破されるってのかよ…………っ!?」

 

今気づいたことだが、奴の声が元に戻っている。

ドーピング剤で『悪』と『魔』を体現したようなあの姿は解けており、元の中年男性の姿に戻っていた。

 

ドーピング剤にも時間制限があったのか、もしくは美羽とアリスの砲撃を乗り切るために残った力を使いきったからなのか。

 

どちらにしろ、リゼヴィムはこちらを攻撃する程の力は残っていないだろう。

 

俺は地に伏せるリゼヴィムに言う。

 

「ごり押しで悪かったな。だが、それが一番早そうだったんでな。…………こいつは、この力は俺だけの力じゃない。おまえが手も足も出なかったのは、それを理解していなかったからだ」

 

そう、この虹色の力は俺だけのものじゃない。

美羽やアリス、リアス達の想いが俺の力となったから、リゼヴィムを圧倒できた。

俺一人じゃどうなっていただろうな。

 

イグニスが言ってくる。

 

『でも、これはあなたの力でもあるのよ、イッセー。あなただからこそ、皆の想いを受け止め、力に出来た。あなたにはそれだけの器がある。いえ、訂正しましょう」

 

そう言うとイグニスは実体化する。

 

いつものように赤い髪をなびかせる彼女だったが、少し違っていた。

イグニスも俺と同じく虹色の輝きを放っていたんだ。

 

イグニスは真正面からリゼヴィムに告げる。

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、あなたを倒したのは「絆」の力よ。強い想いはやがて繋がり、どんな理不尽でも乗り越えられる。それを理解できないようでは、あなたはどんなに力を高めたところで、イッセーには、彼らには勝てない。人の心の光を信じないあなたでは―――――」

 

繋がることで強くなる。

決して揺るがない絆はどんな脅威だって押し退けられる。

 

今の俺達のように。

 

美羽とアリスが俺の横に立ち並ぶ。

俺と視線が合うと、二人とも強い目で頷いた。

 

リゼヴィムは瓦礫に手をかけて、それを杖にして体を起こす。

血反吐を吐き捨て、忌々しそうな目でこちらを睨んでくる。

 

「ごぶっ………。異世界の魔王の娘と姫君、そして異世界より帰還せし赤龍帝、か。………あぁ、そうだよ。こいつらを先に殺っておくべきだった………。こいつらが………こいつらさえ、いなければ………!」

 

リゼヴィムが怒りと焦りに彩られた表情でそう漏らした時―――――。

 

一陣の風が俺達の間に吹いた。

 

僅かに意識がそちらへと向けられた瞬間、俺達とリゼヴィムの間に一人の少年が現れる。

白いパーカーを羽織り、フードを深々と被ったその少年はいつも通り、楽しげな笑みを見せている。

 

俺はその少年の名を呟いた。

 

「………アセムか」

 

その少年―――――異世界の神、アセムはフードを脱ぐとニッコリと微笑む。

 

「やぁ、勇者くん♪ この間振りだねぇ。ふんふんふーん、いやぁ、良いオーラを放っているよ。実に心地良い波動だ。どうやら、僕の想像を超えてきたみたいだねぇ」

 

リゼヴィムと違い、俺の波動に何とも楽しそうにしているアセム。

心からそう思っているのか、それともリゼヴィムと違い余裕があるのか。

………こいつの場合、どちらでも取れそうなんだよな。

 

アセムの登場にリゼヴィムは今までの表情を一転、いやらしい笑みを作って何度も頷いた。

 

「おおっ、アセムきゅんじゃないか! うんうん、分かってたよ! おじさんのピンチに駆けつけてくれたんだよね! 今からこのクソ生意気なガキ共をぶっ殺してやろうぜ! なんなら、そこの小娘共をぶち犯してボロ雑巾みたいにするのもありだな! 心身共にズタボロにしてやろうや! うひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

 

アセムが現れたことで、形勢を逆転できると踏んだのだろう。

そして、その考えは間違いではない。

 

俺達は未だにアセムの実力を測れないでいる。

まるで底無し沼。

覚醒した俺達であっても、敵うかは分からない。

 

こいつはリゼヴィムとは明らかに違うからだ。

 

くるりと体の向きを変え、リゼヴィムの方を向くアセム。

その表情は変わらず、いつもの笑顔。

 

「やぁ、リゼ爺。随分、こっぴどくやられたもんだねぇ。勇者くんもダメだよー、お爺ちゃんは労ってあげなきゃ。これからの時代はお年寄りも増えていくみたいだし、必要なスキルだよ?」

 

にこやかに言うアセムは一歩、また一歩とゆっくりリゼヴィムに近づいていく。

 

なんだ………この違和感………。

あいつは何をしにここに来た………?

 

リゼヴィムは特に何も感じないのか、両手を広げて意気揚々とアセムを迎え入れる。

 

「そう! そうなんだよ! さっすが、アセムきゅんだ! だからよ、こいつらを―――――」

 

リゼヴィムがそこまで言いかけた時だった。

 

―――――鮮血が宙に舞った。

 

「へっ………?」

 

間の抜けた声を出すリゼヴィムは、視線を下へと移す。

 

自分の腹を深々と貫いたアセムの腕。

腕はリゼヴィムの腹を完全に貫通して、背中からアセムの手が見えていた。

真っ赤な血が白いパーカーを赤く染める。

 

「お年寄りはね、苦しめるんじゃなくて、楽に死なせてあげなきゃ♪」

 

いつもと変わらぬ口調でアセムは腕を引き抜いた。

ズルリとリゼヴィムの腸が引き抜かれる腕と共に外に出てくる。

 

リゼヴィムは未だに自分が何をされたのか理解出来ないようで、

 

「な、なんだ、こりゃ…………? ア、アセム………? おまえ、何を………?」

 

リゼヴィムの問いにアセムは、手にべっとり着いた血を拭き取りながら言う。

 

「あれ? リゼ爺は体もボケちゃったのかな? まぁ、あんな無茶苦茶なドーピングしてたら、感覚がおかしくなっても不思議じゃないけど」

 

血を撒き散らしながら、再び地に膝をつくリゼヴィム。

その目は苦痛と驚愕が混じっていて、薄く笑むアセムを捉えていた。

 

「おまえ………俺を、裏切るのかよ…………!?」

 

「んー、裏切るというのは半分正解で半分間違い。もう君は用済みなのさ。君の名と立場、そしてクリフォトは世界に対して共通の敵をもたらすにはちょうど良かったんだよ。上も下もない、全ての者の意識を向けるためにね。………でも、君の名前じゃ、神々の反応は微妙だったみたいだけど」

 

アセムはリゼヴィムの周囲をコツコツと足音を立てながら歩き回り、説明するような口調で続けた。

 

「――――聖書に記されし者、リリン。これだけじゃ、全勢力、全ての神を本気にさせるには至らなかったようだ。だから、僕は直接動いた。この世界の神々を本気にさせるためにね。結果、僕は君よりも警戒される立場になったというわけだ」

 

アセムは頬に指を当てて困ったような表情を浮かべた。

 

「結構悩んだんだよ? どのタイミングで僕が出ていくか。正直、この世界を滅ぼしたいなら、直ぐに出来たんだよ。でも、僕の目的はそこじゃない。この世界全体―――――人間から、他の種族、そして神々。ありとあらゆる種族、層に警戒を持たせて、意思を一つにするためには僕が一人で躍り出ても仕方がない。急いだところで意味がない。では、どうするか」

 

アセムは膝を着くリゼヴィムに指差した。

 

「まずは、君のように世界から既に認識されていて、危険視されている人物に動いてもらう。君という『悪』に対して世界が少しずつでも一つになれば…………と思ったんだけど…………」

 

アセムは途端にガックリと落としてため息を吐く。

 

「まぁ、ちょっぴり…………いや、かなり期待外れだったかなぁ? 君、勝手に動いて余計なことしちゃうし。おかげで僕は急がなきゃいけなくなったじゃないか。もー、ぷんぷんだよ。げきおこだよー」

 

ぷんぷんと、可愛らしく怒りを示すアセム。

僅かな時間で随分と表情豊かだな…………。

 

しかし………急ぐ?

リゼヴィムが行ったことで、アセムは急がなければならなくなった………?

 

アセムの言葉に怪訝に思う俺だったが、その間にリゼヴィムは震える声でアセムに問う。

 

「て、てめぇ…………いつからだ? いつから、俺を裏切るつもりで…………」

 

「いつから? 最初からだけど?」

 

きょとんとした顔で即答するアセム。

 

アセムは人指し指を立てて言う。

 

「頃合いを見て君は消すつもりだったよ、最初からね。僕が目指す先に君はいてはいけない存在だ。あ、でも、暗殺なんて面倒な真似はしないよ? 君程度なら、すぐ消せるしー」

 

「………っ!?」

 

目を見開くリゼヴィム。

 

組んでいたつもりが、最初から裏切るつもりだった。

しかも、自分を消す予定だったというのだから、その反応は納得できる。

 

突然、アセムはクスクスと笑い始める。

 

「悪魔は『悪』で『魔』の存在ねぇ。君のその思想を否定する気はないよ? 考え方は人それぞれだし。でもでも―――――」

 

アセムはリゼヴィムの前にしゃがみこむ。

 

そして、嘲笑うように言った。

 

「――――『悪』を名乗るなら、その分、討たれる覚悟を持ちなよ。自分は大丈夫だと思った? 自分は好き勝手やっても、その代償を払わなくても良いと思ってた? その結果がこの様だ。ねぇ、魔王の息子くん。君ってさぁ、ほんっと、どこまでも三流だよね」

 

「…………ッッッ!」

 

バカにするような口調にリゼヴィムは顔を真っ赤にして強く歯軋りをする。

ここまでバカにされたことは無いんだろうな。

 

奴のオーラが荒ぶり、その怒りの全てをアセムに向けている。

 

どこに残っていたのか、リゼヴィムは手元に魔力を集め、アセムに放とうとする。

 

しかし―――――。

 

魔力を放とうとしたリゼヴィムの腕は消し去られた。

アセムの背中から生える禍々しい蝶の翼によって。

 

アセムは笑う。

 

「アハッ♪ 君、勝てると思ってるの? ここは逃げるべきだと思うけどねぇ。あ、そうだ。ここまで利用させてもらったお礼に選ばせてあげるよ」

 

アセムは指を二本立てて、

 

「ここで僕に消されて死ぬか、それとも無様に逃げて別の者に殺られるか。――――どっちが良い?」

 

なっ………!?

こいつ、ここでリゼヴィムを逃がすってか!?

冗談じゃねぇ!

 

俺達はこいつを―――――。

 

飛び出しそうになる俺達をアセムは手で制する。

 

「まーまー、落ち着きなよ。どーせ、ここまで弱りきったお爺ちゃんじゃ、大したこと出来ないって。ま、不安だって言うなら…………」

 

蝶の翼が羽ばたく。

刹那、リゼヴィムの残っていた腕が飛び、砂のようになって崩れていった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

悲鳴をあげるリゼヴィム。

 

激痛に悲鳴をあげて、地面を転がるリゼヴィムにアセムは言い放つ。

 

「もー、あんまり騒ぐと近所から苦情来るよ? 介護とかしてもらえなくなるよ? あの世のヘルパーさんが優しければ話は別だろうけど」

 

その凄惨な光景に美羽とアリスが息を飲む。

 

リゼヴィムがどれだけ痛め付けられようが、当然の報いだと思っている。

でも、アセムの目は、こちらが底冷えするほどに冷たく―――――。

 

アセムはリゼヴィムに問う。

 

「それで? どうするの? ここで死ぬ? それとも………おや? あーらら、グダクダしている間にお迎えが来たようだよ?」

 

アセムの視線が一点に向けられた。

 

そこに一つの龍門が開かれようとしていた。

龍門からは黄金のオーラが解き放たれる。

 

それを見て、リゼヴィムは酷く狼狽していた。

 

「………嘘だろっ!?」

 

龍門から姿を現したのは―――――一体の龍王。

巨体をよろよろと動かすその姿からは、天界で消耗した体力が元に戻っていないことが見てとれる。

 

しかし、強烈なまでの迫力、戦意、明確なまでの殺意を抱いて、黄金の龍王―――――ファーブニルは体を引きずらせながら、動き出す。

 

『………ようやく、見つけた』

 

眼前の仇敵を捉えたファーブニルからはとてつもないプレッシャーを感じる。

向けられていない俺達ですら、冷や汗をかくほどだ。

 

リゼヴィムは信じられない様子で、首を横に振りながら、恐れおののいていた。

それは俺が奴を追い詰めた時よりも、アセムが裏切りを示した時よりも強い反応だった。

 

「なんでだ…………! なんで、ここまで執拗に…………!? 夢の中にまで追いかけて来やがってよ…………!」

 

夢の中………?

ファーブニルが奴の夢の中に出たって…………。

 

俺の疑問に答えるようにアセムが言う。

 

「リゼ爺はねー、ファーブニルくんに呪いをかけられていたのさ。ファーブニルくんは毎夜毎夜、夢の中に現れて、リゼ爺を何十、何百、何千と殺し続けたみたいだよ?」

 

そうか、リゼヴィムの目の隈はそういうことだったのか。

 

毎夜、夢の中でファーブニルの襲撃を受けていた。

超越者の一人として数えられていても、夢の中では手足も出なかったと。

 

何となくわかったぞ、今回、リゼヴィムが行った杜撰な計画の背景が。

 

『…………おまえは、アーシアたんを泣かせた』

 

瞳を危険な色に輝かせるファーブニルは、体を引きずって、一歩、また一歩とリゼヴィムに近づいていく。

 

ここまで強烈な殺意を感じたのはいつ以来だろう。

いや、もしかしたら初めてかもしれない。

 

異様なまでの迫力にリゼヴィムは顔面蒼白となって後ずさる。

両腕を失い、体力も底を尽きた奴はまともに動くことが出来ず、その場に尻餅をついてしまう。

 

その間にもファーブニルはリゼヴィムへと迫り、ついには眼前にまで迫った。

 

リゼヴィムは無理矢理笑顔を作って、ファーブニルに言う。

 

「ま、待て! 待ってくれ! あれは………ほら! 演出だ! 盛り上げるための! 天界のあそこまで行って、ルシファーの息子が攻めたら―――――」

 

ズンッという地響きと共に生々しい骨の砕ける鈍い音が響いた。

 

ファーブニルの巨大な足が、リゼヴィムの両足を踏み潰したからだ。

 

「がぁぁああああああああああああっ!!!!」

 

絶叫をあげるリゼヴィムは激痛に上半身を跳ね上げるが、ファーブニルが両足を踏んでいる以上、逃げることは叶わない。

 

その様子にアセムはやれやれとため息を吐く。

 

「ここにきて命乞いとは…………。君ね、どこまで評価を下げる気だい? 情けないにも程があるだろう? 魔王の血は君にはもったいなさすぎるよ。君もそう思うだろう、勇者くん?」

 

「敵だけど、その意見には同意するよ、アセム」

 

どこまでも情けない姿を晒してくれる。

 

ファーブニルは憤怒の色に染まりきった大きな顔をリゼヴィムに近づける。

 

『おまえは、アーシアたんをいじめた。絶対に許さないッッ!』

 

ファーブニルはアーシアを大切に思っていた。

アーシアが微笑む度に、ファーブニルはどこか満足していた。

 

きっと、アーシアが微笑んでくれるのなら、それで十二分に幸せだったのだろう。

 

―――――それをリゼヴィムは遠慮なしに傷つけた。

 

アセムが冷たい言葉をリゼヴィムに告げる。

 

「傷つけるなら、それ相応の報いを受ける覚悟を持ちなよ、魔王の息子くん? 君は何も考えず、ただイタズラに触れすぎたのさ。まぁ、君と組んでいた僕が言うのもなんだけどね?」

 

アセムの言葉は届いたのか、届かなかったのかは分からない。

 

ただただ、リゼヴィムは迫る死に絶望していた。

両腕は消され、両足を砕かれた。

逃げる術などありはしない。

 

龍王の顎が奴を噛み殺したのと、この場にヴァーリが到着したのは同時だった。

 

リゼヴィムの最期の瞬間を目にしたヴァーリは一度、瞑目する。

 

「リゼヴィム、おまえはルシファーの名をあまりに辱しめ過ぎた。だが、安心しろ。ルシファーの名は俺が引き継ぐ。少なくとも俺はおまえのようなルシファーにはならないさ」

 

 

 

 




~後書きミニエピソード~

小猫「イッセー先輩は温かいです………にゃぁ」

イッセー「うぅ………小猫ちゃんはいつも………きゃわいいなぁ!」

黒歌「ありゃりゃ? 白音ばかりかまって、ズルいにゃん。 赤龍帝ちんは私には興味ないのかにゃ?」

イッセー「興味ないわけないだろ! 興味津々さ!」

黒歌「だったら、私も体験してみないかにゃ? ほら、猫又姉妹丼なんて、そう味わえるものじゃないわよ?」

小猫「姉さまには………イッセー先輩は渡しません。わ、私の先輩…………です」

イッセー「ガハッ!」

~後書きミニエピソード、終~

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