ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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べリアル編ラストです!


24話 皇獣の復活

「………手のひら返しが酷いと思うかい?」

 

ファーブニルの顎によって砕かれ、息絶えたリゼヴィムに視線を送りながら、アセムはそう訊いてきた。

 

こいつは今までリゼヴィムと組んでいた。

こいつらの協力が、クリフォトの戦力を強化し、厄介な存在へと変えたことは間違いない。

 

だが………。

 

「端から裏切る………というより、端から利用するつもりだったんだろ?」

 

「うん、まぁね。正直に言うと異世界侵攻なんて僕の目的じゃないんだよ。ただ、僕も少し油断してた。まさかまさか、リゼ爺のせいで駆け足になるなんて思ってなくてさ」

 

「駆け足………か。おまえ、この世界を一つにするのが目的なのか? なんでそこまで急ぐ必要があるんだよ? 急いだところで、ろくな結果にならないことはすぐに分かるだろう? 不平や不満は絶対に出るぞ」

 

先程、リゼヴィムに告げていた通り、こいつの目的はどうやら、この世界の意思を統一することにあるらしい。

 

…………が、それを急いでしまえば、間違いないなく反発の声は出る。

三大勢力内で起こったクーデターと同じように。

 

俺の言葉にアセムは苦笑する。

 

「そーなんだけどねぇ。そんなのんびり構える程、僕達(・・)には時間がないのさ。だけど、ここに来て最後のピースは埋まった。ねぇ、勇者くん?」

 

アセムの言葉に俺も美羽もアリスも、イグニスですら怪訝な表面を浮かべていた。

 

僕達………?

時間がない………?

その時間がないっていうのが、リゼヴィムのせい………?

 

ダメだ、いくら考えたところで、こいつが何を考えているのかが見えてこない。

 

何をそんなに急いでいるのか、何を俺に求めているのか。

こいつは俺に何を求め、どうしてほしいんだ?

 

少しずつ、このアグレアスを覆っていた虹も薄くなってきた。

俺の力が弱まってきたからだろう。

俺もそろそろ限界に近い。

 

アセムはこの浮遊都市を覆う虹の輝きを見つめながら、口を開く。

 

「君は………いや、君達は気づかなかったのかい?」

 

「気づく? 何に?」

 

俺が聞き返すとアセムはため息を吐く。

やれやれといった表情で、アセムは続けた。

 

「君達の住むこの世界、そしてアスト・アーデ。ここまで来て君達はまだ分からないかい? 既に異なる世界は二つある。ならば―――――」

 

アセムが何かを言いかけた時だった―――――。

 

 

グォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

 

 

突如、俺達を激しい揺れが襲った!

 

こいつは…………アグレアス全体が揺れているのか!?

それに今聞こえたのって…………何かの咆哮?

いや、そんなでっかい化け物なんていたか?

 

クロウ・クルワッハが吼えたとは考えにくいし…………。

 

「これ…………瘴気っ!?」

 

美羽が声をあげる。

 

どこからか瘴気が漂ってきていた。

ニーズヘッグの瘴気なんて可愛く思えるほど、濃密で邪悪な………!

 

どこだ………?

どこから………?

この瘴気の持ち主はいったい………?

 

すると、アセムが小さく舌打ちした。

 

「リゼ爺か………。なるほど、やられたよ。そういう君の手回しの良さは尊敬できるね。………このタイミングであれを目覚めさせるとは………」

 

アセムの視線の先、そこに何かがいた。

 

それが何かとは断言できないし、俺は見たことがないので、それが何か分からない。

 

ただ、一つ分かることは………巨大で邪悪な何かということ。

濃密な瘴気を放ち、ゆっくりと姿を現す山のように巨大な怪物がそこにいた。

 

多くの邪龍を従えたそれは天に昇っていく―――――。

 

「何よ………あれ!?」

 

アリスは目を見開き、冷や汗を流していた。

アリスだけじゃない美羽も俺も、バトルマニアのヴァ―リでさえ、巨大な怪物に畏れを抱いてしまっていた。

 

この場で平然としているのはイグニスとアセムくらいだ。

 

「あらぁ、なんかすんごいの出て来たわね」

 

「でしょー? なんかすっごいの出て来たんだよねー。リゼ爺のせいでー」

 

「おまえら軽いな!?」

 

「「テヘペロ☆」」

 

イグニスとアセムが横ピースでウインクしてくる!

こいつらそういうところ、マジでそっくりだな!

似た者同士か!

 

ヴァ―リが唸る。

 

「これが異世界の神達か………!」

 

「違う! あいつらは異世界のバカ!」

 

ここに来てツッコミが止まらないよ!

おかしいよね、こいつら!

 

 

ピロリン ピロリン 

 

 

「おー写った写った。ヴィーカが作ったスマホも画質すんごい上がってるじゃん♪」

 

「おまえはとことんシリアスを壊さないと気が済まねぇのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

なにこいつ!?

なんであの怪物の写真撮ってるの!?

 

バカなの!?

とりあえず拳骨していい!?

 

ヴァ―リが再び唸る。

 

「これが………異世界の神か………!」

 

「ヴァ―リィィィィッ! おまえもボケに回るのやめてくれる!? 怒るよ!? 俺、そろそろ怒るよ!?」

 

なんで、次から次にボケが飛んでくるわけ!?

俺一人でどう捌けばいいんだよ!

ヴァ―リは天然なのか、わざとなのかはっきりしてくれないかな!?

 

その時――――。

 

「………っ!」

 

唐突に俺を強烈なめまいが襲う。

視界がぐにゃりと歪み、足元がおぼつかなくなった。

全身から力が抜けていき、崩れ落ちるように俺はその場に倒れてしまう。

 

「………あれ?」

 

床を眺めるしかない俺。

力を入れたくても指一本すら動かすことが出来ない。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「イッセー!? しっかりして、イッセー!」

 

悲鳴をあげる美羽とアリス。

何か言葉を返したいが、言葉が発せない。

 

イグニスが実体化を解き、俺の中に戻ってくる。

 

『限界ね。これ以上はもう………』

 

そうか………限界か。

ここで限界なのか………。

 

アセムが俺の視界に入るように立った。

 

「勇者くん、僕はいつでも君を待とう。その時こそ――――――」

 

その時こそ………そうだな。

ああ、分かってる。

 

その時こそ、俺は―――――。

 

アセムは踵を返し、転移魔法陣を展開する。

転移の光が奴を包み込もうとした瞬間、奴は顔だけをこちらに向けて、

 

「一つ、僕が気づいたことがある」

 

アセムは真剣な表情で、俺に告げた。

 

「このアグレアス――――――ラピュタを思い出さない?」

 

それだけ言って奴は転移していった。

 

 

―――――なんで、ここでそれ言うの………。

 

 

それが気を失う前に入れたツッコミだった。

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

時は少し遡る。

 

アグレアスの内部に侵入した俺、アザゼルは大分奥に進んだところで黒いドレスを着た少女と対峙していた。

 

動力室に続く巨大な両開きの鉄の扉を前にして、その少女――――オーフィスの分身体、リリスは待ち構えていた。

 

「………なぁ、やっぱり、通してくれないのか?」

 

「むり。リゼヴィム、ここ、守れとリリスに言った」

 

「戦わんとダメか?」

 

「たたかう? リリス、つよい。とても、つよい」

 

「………まぁ、そうなんだろうが」

 

まともにやりあったところで、一方的に潰されるのは目に見えている。 

拳をシュッシュッと可愛く突き出してはいるが、その一撃は常軌を逸している威力だろう。

 

俺はこの奥にある動力炉に行かなければならない。

事前に用意していたアグレアスの内部地図のおかげで、いくつかのトラップはあったものの、ここまでスムーズに進めた。

そこまでは良い。

 

最大の難関は目の前のお嬢さん。

 

戦闘力的なことだけじゃなく、こいつとはどうも手合わせしたくないんだが…………。

 

イッセーなら、要領良く事を運びそうだ。

ドラゴン使いとして類稀なる才能を有した元聖女、アーシアなら、このドラゴンをどうあやすだろうか?

 

…………そこまで思慮して、俺はとあることを思い付く。

 

懐を探り、取り出したのは非常食として持ってきていたチョコバー。

袋を半分だけ破り、中身を露出させた。

 

「じゃあ、お菓子をやろう。どうだ?」

 

「―――――っ!」

 

お菓子を見た途端、目の色を変えやがった!

オーフィスも大概この手のものに弱いが、分身体も同じか?

いや、分身体だからこそ、同じなのかね?

 

俺はチョコバーを左右上下に動かしてみると、リリスの視線もそれに釣られて動いていた。

………これはこれで面白いな。

 

「欲しいか?」

 

俺がそう言うと、無言と無表情で生唾を飲み込むリリス。

 

目を潤ませたあげく、腹を鳴らしてやがる。

 

………なんか、こっちが酷いことをしているみたいで、気が引けるな。

 

「通してくれるなら、やる。どうだ?」

 

「………ほしい。でも、とおせない。…………リリス、どうすればいい?」

 

俺に聞かれてもな。

どうしたらいいんだろうな?

 

息を吐いた俺はリリスにチョコバーを突きだした。

 

「………わーったよ。おじさんが悪かった。とりあえず、これはやる。通してくれるかくれないかはそれ食ってから考えてくれ」

 

敵わんね。

これでも元は堕天使の総督だぜ?

そんな俺がチビッ子には勝てんとは…………俺もサーゼクスのことは言えないくらい、甘々だ。

 

俺からチョコバーを受け取ったリリスは無言でチョコバーを頬張り始める。

 

「美味いか?」

 

「…………」

 

俺の問いにリリスは無言で頷く。

随分満足そうにしているが…………。 

 

俺はリリスの横に座り込み、深く息を吐いた。

 

やれやれ、どうしたものか。

菓子でどうにか釣って、その場を離れてもらうか?

それができたら楽なんだろうが…………。

意外に頑固っぽそうだ。

 

果たして、俺の言うことを聞いてくれるかどうか。

 

天井から水滴が落ちてきた。

それは俺の目の前を通過し、足元で弾ける。

 

そこで、俺は先程起きた不思議体験を思い出した。

 

トラップを解除しながら、ここを目指していた時に出現した虹の粒子。

そして、頭に直接響いてきたイッセー達の声。

 

長く生きてきたが、あんなのは初めての体験だった。

 

もしかすると、あれはイッセーの覚醒によって生じたものなのかね?

あいつは色々な可能性を秘めているからな、どんな進化を果たすのかは俺にも予想できん。

 

………ちょっと聞いてみるか。

 

「なぁ、おまえさん、あの虹の輝きを見たか?」

 

「みた。声もきこえた」

 

「どう思った?」

 

俺はリリスの答えを期待しているのか。

元龍神オーフィスの分身体だ、もしかしたら、俺に捉えられない何かを捉えているのかもしれない。

 

ま、具体的に何かが分かるってことは無いだろうが。

 

「分からない。ただ………」

 

「ただ?」

 

「赤龍帝の叫びが聞こえた」

 

ふいにリリスのドレスにドラゴンのアクセサリーが着いているのが目に映った。

こいつは確かイッセーがリリスに買ってやったというあれか?

 

「そのアクセサリーは?」

 

「赤龍帝がくれた」

 

当たりか。

 

まてよ…………こいつはもしかすると…………。

 

「イッセー………赤龍帝と会いたくないか?」

 

俺がそう訊くとリリスの表情に反応があった。

無表情だった顔にほんの少しではあるが、変化が見える。

 

…………二天龍の話題になると、感情が動くのか?

 

俺はアクセサリーを指差す。

 

「それを貰ったのだろう? あいつなら、もっと良いものをくれるさ。リゼヴィムなんかより、ずっと良いものをな。イッセーだけじゃない、白龍皇やもう一人のおまえとも会わせてやろう。どうだ? 魅力的な話だろう?」

 

「………もう一人のリリス………赤龍帝………白龍皇………」

 

これは、かなり来てるんじゃないか?

 

なるほど、リゼヴィムがオーフィスを狙った理由が分かってきたぞ。

僅かなやり取りだったが、以前よりもリリスは不安定になっている。

いや、不安定というよりは感情というものが芽生え始めてきていると言った方が正しいか。

 

俺の推測にしか過ぎないが、リゼヴィムはリリスを作る際に感情が灯る要素を残しておいたんだろう。

そして、それが仇になった。

 

二天龍とオーフィスの名を少し出しただけで、これだけ反応を示していれば、奴の護衛としては使いにくいことになる。

 

奴はオーフィスを使ってリリスを強化、自分の身の安全をより確実なものにしようとしていたのかもしれないな。

 

ま、その辺りは本人に聞いてみないと分からんが………。

 

ともかく、今のリリスなら―――――。

 

「今なら菓子もつける」

 

これが決め手になった。

 

リリスはその場に頭を抱えて座り込んでしまう。

 

「………おかし……赤龍帝……もう一人のリリス………おかし………白龍皇…………二天龍………おかし………」

 

お菓子が着いてくるとのことで、完全に混乱しちまったな。

リゼヴィムの命令が絶対的で無くなった証拠だ。

 

これで、もう一度頼んだらどうなるかね?

ここまで来れば、案外楽に入れるような気がするんだが………。

 

と、そう思った時だった。

 

 

鉄の扉の向こうからドス黒いオーラが滲み出てきた。

禍々しく、触れるだけでこちらがやられてしまいそうなほど、濃密な瘴気………!

 

なんだ、これは………!?

 

「リゼヴィム…………死んだ?」

 

リリスが天井を見上げて、首を傾げながらそう呟いた。

 

リゼヴィムが死んだだと?

殺ったのはイッセーか、ヴァーリか。

とにかく、リゼヴィムが消えたのなら、奴の命令は無効となるはずだ。

 

俺は鉄の扉に触れ、重たい戸を開いた。

中に足を踏み入れた俺は動力炉の光景に言葉を失ってしまう。

 

地図によれば、アグレアスの最深部はぽっかりと超広範囲に空いた円形の空洞となっていた。

中心には動力炉たるどでかい結晶体があるはずなのだが…………。 

 

中に入った俺を迎えたのは七つの首と十の角を持つ、あまりに大きすぎる『獣』。

その巨体はゆうに数百メートルを越えており、グレートレッドよりも更に巨大だった。

 

首の一つ一つが、全て異なる生物を形作っていて、獅子、豹、熊、龍と統一感はない。

体の作りもあらゆる生物の特徴を有してり、異物感を放っている。

 

その巨大な獣が、今、目覚めようとしていた。

獣の目がゆっくりと開かれていく………!

掛けられていたであろう封印の術式が浮かび上がり、砕けていく………!

 

俺も実物は初めて見るが、間違いない。

 

 

―――――『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』トライヘキサ。

 

 

トライヘキサが今まさに復活しようとしていた………!

 

このタイミングで目覚めるだと!?

異常だ………この解呪スピードはあまりに異常過ぎる!

 

やはり、天界で得た生命の実がトライヘキサを活性化させて、解呪を加速させたのか?

 

見ると、トライヘキサの肉体にはアグレアスの動力炉である結晶体が埋め込まれていた。

アグレアスの動力を解呪のために使っていたのか………!

 

親父の遺産は全て使い込むってか。

全く、ダメ息子らしい考え方をしてやがる………!

 

なんにしても、こいつを目覚めさせるのはまずい!

 

焦る俺はその場凌ぎの封印術を展開するが、トライヘキサを止められる気配はまるでない!

 

一つ目の首が完全に目覚め、咆哮をあげる!

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

鳴き声だけで、魂を掴まれたような感覚!

今の咆哮は都市部にも響いたはずだ!

上の連中も気づいただろう!

 

どうにかして、復活を止めようとする俺だったが、背後に複数の気配を感じ取った。

振り向けば、そこにいたのは二つの影。

 

現れたのは翼を生やした三つ首の巨大な黒いドラゴンと、黒い祭服を着た褐色の肌の美青年。

 

巨大な三つ首ドラゴンは『魔源の禁龍(ディアポリズム・サウザンド・ドラゴン)』―――――アジ・ダハーカ。

褐色の青年は人間の姿をしているが、おそらく『原初なる晦冥龍』―――――アポプスだろう。

 

青年――――アポプスが俺に言ってくる。

 

《初めましてだ、堕天使の元総督殿》

 

「アポプス………。この異常なまでの解呪スピードはなんだ? いきなり、封印が解けたような感じだったが………おまえらか?」

 

問う俺。

 

トライヘキサから放たれるこの瘴気。

ここまでの瘴気なら封印が解けていくにつれて、徐々に滲み出ていくはずだ。

 

しかし、これは先程になって、いきなり現れた。

何か特殊な術でも使ったのだろうか。

 

俺の問いにアポプスは首を横に振る。

 

《どうやら、リゼヴィム王子は自身が死を迎えた時に自身の魂をエネルギー源として強制的に段階を飛ばして封印を解呪するように仕掛けていたらしいな》

 

チッ………あの野郎………!

なんて無茶苦茶な真似をしてくれる!

 

舌打ちする俺だが、アポプスは構わずに続けた。

 

《早速で悪いが、我らの宣言を聞いてもらいたい》

 

そう言って、アポプスが懐から取り出したのは一個の盃、ヴァレリーの聖杯だった。

 

「聖杯………リゼヴィムから奪ったのか?」

 

俺が問うとアジ・ダハーカは『くくく』と笑う。

 

『まぁな。魔術の類なら俺の方が上手ってことだ。リゼヴィム固有の亜空間から抜き出しておいたのだ』

 

『ボクは大変魔法がお上手なのよ☆』

 

『あんなの余裕!』

 

そりゃあ、こいつは千の魔術を操ると言われた最強の邪龍の一角だ。

リゼヴィムが隠したところで、抜き出すなんて簡単だろうよ。

 

問題はこいつらがこの聖杯を何に使うかってことだ。

 

俺は二体の邪龍に言う。

 

「そいつを渡してもらおうか、アポプス、アジ・ダハーカ」

 

《それはできぬ相談だ、堕天使の長よ。言ったであろう? 我らは宣言をしにきたと。リゼヴィム王子ではないが、我らは我らで異世界への戦いに興味があるのだ》

 

「―――――っ! おまえら、まさか………!?」

 

目を見開く俺に二体の邪龍は薄く笑んだ。

 

アジ・ダハーカとアポプスは目覚めつつあるトライヘキサを見上げながら、口を開く。

 

『俺達はこのトライヘキサをいただいていく』

 

『もらっちゃうよ!』

 

『使っちゃうよ!』

 

《我らは邪龍だけの世界を冥界にも人間界にも異世界にも作りたいのだ。この黙示録の獣も、この聖杯もそれに利用させていただく》

 

そうこうしているうちにトライヘキサの頭部は最後の七つ目が目を覚まそうとしていた。

ドラゴンのような頭部が、目を開けていく―――――。

 

「おまえら、最初からリゼヴィムを裏切るつもりで………? いや、それでは、異世界の神アセムは………?」

 

問う俺にアポプスは言う。

 

《アセム殿は知らないが、我らは最初からという訳ではない。リゼヴィム王子があまりに情けないがために考えを改めただけのこと》

 

「おまえらとアセムは協力関係でないと?」

 

《少なくとも我らは関わりを持ったつもりはない。向こうもこちらに干渉するつもりはないようだ》

 

こいつら、互いに好き勝手にやるってことかよ………。

厄介にも程がある………!

 

俺の眼前で―――――七つ目の頭部が完全に目覚めるっ!

 

 

グォオオオオオオオオオオオッ!

 

ズオオオオオオオオオオオッ!

 

ギュオオオオオオオオオオオッ!

 

 

七つの首がそれぞれ咆哮をあげ、この都市部全体を大きく震わせていく!

声量だけでこれか………!

 

トライヘキサが巨体を揺り動かし、復活の余波で都市部の一部が崩壊していく。

 

頭部の一つが上空を見上げて、大きく口を開いた。

凄まじいまでのオーラ………そう、神クラスですら容易に屠るであろう濃密なオーラが口に集まっていく!

 

危険を感じた俺はリリスを脇に抱えて、壁際に非難し、全力で防御魔法陣を幾重にも張り巡らせた。 

 

刹那――――。

 

トライヘキサの頭部の一つが極大の火炎を吐き出した!

天井がそれを受けて、一瞬で消え去っていく!

 

余波だけで、展開した魔法陣が次々と砕かれていった!

 

首の一つが火を吐いただけでこれだと…………!?

 

驚愕する俺は再び背後に視線を向けると、既に邪龍二体の姿はそこにはなかった。

 

代わりに奴らの声だけが聞こえてくる。

 

《堕天使の長よ。最後の戦いといこう。貴公ら『D×D』と我ら邪龍の最後の戦いだ。来るならば、来るといい。我らはリゼヴィム王子のような小細工はしない。トライヘキサと共に眼前の敵を全て一切合切破壊するのみ》

 

『止めれるものなら、止めてみろよ。俺達も全力でいかせてもらう』

 

『全力! 全力!』

 

『本気でぶつかろうぜ!』

 

それが邪龍二体からの送られてきた最後の声だった。

 

火炎により、巨大な穴を開けられた天井。

トライヘキサが開かれた天井目掛けて、ゆっくりと飛び出していく。

それに付き従うように現れたのは無数の邪龍と赤龍帝の複製体。

赤と黒が空を埋めつくし、その中心にいるのは黙示録の獣。

 

666を冠した七つの頭部を持つ、あまりに巨大すぎる獣。

グレートレッドと並び、黙示録に記された伝説の皇獣が動き出す。

 

世界は混乱への道を歩み出す――――――。

 

 

[アザゼル side out]

 

 




~予告~

赤き英雄は戦場に立つ。
全ての決着をつけよう―――――。

僕は僕の約束を守るために、この世界の理不尽となろう―――――異世界の神、アセム

俺は俺の守りたいもののために戦う。これまでも、今も、これからもな。見せてやるよ、こいつが俺の―――――赤龍帝、兵藤一誠

繋がる想い。
開かれる可能性の扉。

一誠とアセムの最後の戦いが始まる――――。

最終章突入―――――。

~予告、終~


こんな感じで次章が本作最終章となります。
ラストスパート、頑張りまーす!

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