ようやく卒論を乗りきれたので投稿再開しまっす!
お待たせして、すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!
というわけで、最終章『終業式のブレイブ』始まります!
1話 侵攻
―――――起きているか、イッセー?
声が聞こえた。
意識がぼんやりしている俺に語りかけてくるやつがいた。
―――――なんだ、寝ているのか。
懐かしい声だ。
俺はずっとこいつの背中を追いかけていた。
―――――今はまだ休むといいさ。おまえはずっと俺の代わりに力を尽くしてくれていたからな。
おまえの代わり、か。
―――――イッセー。俺がおまえに託したのは重荷か、それとも………。
声は次第に薄れて、やがて完全に聞こえなくなった。
俺はまどろみの中へと落ちていく―――――。
[木場 side]
「退避! 非戦闘員はすぐに退避しろ! 急げ!」
近くで白衣を着た男性が叫んでいた。
男性は手を回し、他の白衣を着た人達を必死の形相で誘導している。
ここは冥界、堕天使領。
グリゴリの研究施設が建ち並ぶ重要拠点の一つだ。
ここでは日夜、神器の解析から人工神機の開発、魔法・魔術の研究が行われている。
そんな場所が現在、大混乱に陥っていた。
その理由は空に浮かぶ巨大な魔物。
七つの首を持った全長数百メートルにもなる怪物が僕達を見下ろしている。
霊長類のような前のめりの姿勢で、極太の腕が四本あり、二本の足は腕以上に太い。
体を黒い毛が覆っており、所々に鱗のようなものがある。
また、全身のあらゆるところから赤い角のようなものも生えている。
奴が持つ七つの尾は全てが長く太く、そして、全ての形が違う。
獅子のものもあれば、ドラゴンの尾もある。
その怪物はあらゆる獣の特徴を有していた。
巨体から流れ出る瘴気はこれまで感じたことがないほど濃密で、異常なのは明らかだ。
少し触れるだけで悪寒が走る。
―――――
アグレアス奪還作戦、イッセー君がリゼヴィムを倒し作戦は無事に達成される。
そう思われた直後、アレは現れた。
アグレアスを揺らし、島の最奥からゆっくりと姿を見せたトライヘキサは無数の邪龍と複製された赤龍帝の軍団を連れて飛び立った。
そして、復活を果たしたトライヘキサはその足でグリゴリの主要施設に攻撃を仕掛けてきたんだ。
『このわずかな時間でここまで食い込まれるなんて………!』
耳にはめたインカムからリアス前部長の苦渋に満ちた声が聞こえてきた。
トライヘキサの復活と侵攻を受けて、僕達『D×D』メンバーもアグレアスから現地に直接駆けつけていた。
僕達が駆け付けた時には現地は既に戦火に包まれていた。
数ある研究施設が軒並み破壊され、瓦礫の山と化している。
負傷者は数多く、死者も出ている。
トライヘキサが口を開けた。
その時、大混戦の中で誰かが叫んだ。
「来るぞォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
刹那―――――トライヘキサから灼熱の業火が吐き出された!
冥界の空を火炎が駆け巡り、僕達の頭上を染め上げる!
上空で応戦していた堕天使の戦士達が成す術無く、消されていく。
あまりに広範囲に放たれた火炎に避けることが出来ず、咄嗟に防御魔法陣を展開した者ですら魔法陣を砕かれ、焼き尽くされてしまったのだ。
歴戦の堕天使ですら、容易に消し飛ばしてしまうのか………!
桁違い………あまりに桁が違う、違いすぎる。
グレートレッドと並ぶと称されるあれはきっと、神クラスですら、羽虫のように扱ってしまうのだろう。
だが、僕達の敵はトライヘキサだけじゃない。
「祐斗、斬りこむぞ!」
「はい!」
モーリスさんの声に応じて僕は駆けだした。
騎士王状態となった僕は聖魔剣を握り、邪龍へと迫る。
聖魔剣には対邪龍対策として、龍殺しの力を付与してある。
元々はジークフリートと戦うために編み出した能力だけど、やはり創れるようになっていて良かったと思える。
禁手の更に上の領域に至った今の僕なら――――――。
「ハァッ!」
真正面からの一刀両断。
量産型邪龍の体は左右に分かれ、崩れ落ちる。
それを横目に僕は更に加速していく。
すれ違う刹那の瞬間に剣を振るい、邪龍を斬り捨てた。
これで何体目だろうか。
アグレアスからの連戦、今日だけで一体何体の邪龍を斬っただろう。
恐らく百や二百じゃ利かないと思う。
「そらよッ!」
モーリスさんが刀身を黒く染めた二振りの剣を振るう!
巻き起こる黒い竜巻!
巨大な竜巻が空に浮かぶ邪龍を、複製体を細切れにし、跡形もなく消滅させた!
そこから、モーリスさんは黒い剣戟を飛ばし、前方の群れを薙ぎ払っていく!
これで前方がかなり開けることになった。
それを確認したモーリスさんがゼノヴィアに問う。
「ゼノヴィア! いけるか!」
僕達の後方には、二振りの聖剣―――――エクスカリバーとデュランダルを天に掲げるゼノヴィア。
刀身には凄まじい聖なるオーラが滾っている。
ゼノヴィアは不敵に笑み、
「ああ、もう十分だ。いくぞ、デュランダル、エクスカリバー!」
ゼノヴィアが二刀を振り下ろし、長時間チャージされていた聖なるオーラが解き放たれる。
僕とモーリスさんは横に飛び―――――強烈な砲撃が通り抜けていった!
大地を深く抉り、天まで届く聖なる斬撃!
近くにいた邪龍は当然、かなり離れた場所にいた邪龍、赤龍帝の複製すらも呑み込んでいった!
後に残ったのは伝説の聖剣が残した傷跡だけ。
ゼノヴィアの砲撃が通過した場所は煙を上げ、今の一撃がどれ程のものだったかを物語っている。
ゼノヴィアは肩で息をしながら言う。
「私もかなり派手になっただろう? 今のでかなりの数を減らせたと思うが」
君はずっと派手だよ。
まぁ、減らせたのは認めるけどね。
モーリスさんが苦笑しながら言う。
「すまんな、砲撃役に徹してもらって。悪いが、この面子じゃ、砲撃役が出来る奴は少ないんでな。今回ばかしは無理を承知で頼んでいる」
僕達三人はそれぞれ役割を分担をして戦っている。
いわゆる、スリーマンセルだ。
僕が先行し、持ち前のスピードと聖魔剣の多様性を活かして量産型邪龍を斬る。
モーリスさんは量産型邪龍を倒すと同時に強大な力を持った赤龍帝の複製体を彼の絶技を以て殲滅。
そして、僕達二人が戦っている間にゼノヴィアが聖剣の力をチャージして、遠方にいる敵を一気に屠る。
ただ、ゼノヴィアは毎回フルパワーでの砲撃を放っているため、消耗が激しい。
「気にすることなんてない。私は私に出来ることを最大限にやるだけだ。イッセーがいない今、彼の分まで力を発揮しようじゃないか」
ゼノヴィアは汗を拭いながらも、力強くそう答えた。
そう、彼女の言う通り、イッセー君はこの場にいない。
彼はクリフォトの首領リゼヴィム・リヴァン・ルシファーを降した後、倒れてしまったからだ。
異世界の神アセムと会話した後、気を失ったとのことだが………。
今はソーナ前会長の伝手でシトリー領にある病院に搬送されている。
何も問題がなければ良いのだが………。
モーリスさんはゼノヴィアの頭に手を置くと笑んだ。
「ま、あいつがそう簡単に死ぬとは思えん。問題ないだろ。何より、おまえさん達を残して逝くとは思えねぇ。あいつの夢はハーレム王なんだろう?」
確かにその通りだ。
イッセー君が美羽さんやアリスさん、リアス前部長達を悲しませるようなことをするとは思えない。
彼は次元すら越えて、その意思を貫いたほどだからね。
「さて、この辺りは粗方片付いたと思うが………」
モーリスさんは今も激戦が続く戦場を見渡した。
この近辺を襲撃していた敵戦力はほとんど倒したはずだ。
この後の行動としては戦況の厳しい場所に移動して、友軍を援護。
敵勢力の撃退なのだが………。
「アレをどう退けるかね? いや………他にもヤバイ奴がいるか」
モーリスさんの視線は僕達のいる場所の西へと向けられる。
そこの遥か上空では空半分を闇が覆い、その闇に対抗するようにもう半分を神々しい光が覆っていた。
光と闇、相反する力がぶつかり合っている。
二つの力の起点にいるのは一組の男女。
闇を放っているのは黒い祭服を着た褐色の肌の美青年、光を放っているのは黄金に輝く翼を広げた女性。
青年は直接面識があるわけではないので確証はないが、アザゼル先生から聞いた話から察するに『原初なる晦冥龍』アポプスだろう。
聖杯の力で復活した邪龍筆頭格の一体だ。
そして、そのアポプスと対峙している女性はアリスさんだ。
熾天使のような姿になった彼女からは神格の波動が感じられる。
―――――神姫化。
アグレアスの戦いでアリスさんは覚醒し、神の力を得た。
その力はアセムの眷属の一人、ヴィーカを圧倒するレベル。
だが………。
「推されてるな。アリスはかなりの力を出しているが、相手には結構余裕がある」
モーリスさんは厳しい表情で呟いた。
遠目でしか判断できないが、アポプスの表情には確かに余裕が見える。
そして、僅かにだがアポプスの放つ闇がアリスさんの光を侵食し始めていた。
二人の拮抗が崩れ始めたんだ。
神の力を得たアリスさんをも超える力を持っているというのか………!
もう一体の邪龍筆頭格アジ・ダハーカはトライヘキサの傍らで佇んで、戦場を眺めているだけだが………奴もアポプスと同レベルの力を持っているとすると、かなり厄介だ。
神を超えた力を持つ邪龍が二体。
これはあまりに脅威だ。
邪龍筆頭二体の脅威について考えていると、上空で邪龍を殲滅に出ていたリーシャさんとロスヴァイセさんが降りてきた。
リーシャさんの肩には二人組の妖精、サリィとフィーナ。
リーシャさんが目を細めて言う。
「アリスの援護に行きたいところですが、そう簡単にはいきませんね」
リーシャさんの視線の先にはトライヘキサ。
七つの首の内の一つが嘔吐き、大きく口を広げた。
また、火炎を吐くつもりか………!?
そう思って身構える僕だが、その予想は見事に外れた。
トライヘキサの口から吐き出されたのは――――――無数の量産型邪龍だった!
通常タイプの邪龍だけでなく、グレンデルタイプとラードゥンタイプの量産型邪龍もいる!
まさか、トライヘキサが量産型邪龍の生産まで担っているなんて!
ロスヴァイセさんが言う。
「これではトライヘキサを封じるか倒さない限り、邪龍は永遠と増え続けることになりますね。恐らく聖杯の力とトライヘキサの力を組み合わせて、その生産性を高めているのでしょうが………」
「トライヘキサをこの場で倒すのは不可能でしょう。圧倒的に戦力が足りません。では、聖杯を奪取する方法で行きたいところですが………所持しているのはあの邪龍筆頭格の二体の内どちらか。今のアリスですらアポプスには届かないことを考慮すると、現状、奪取することでさえ厳しいですね」
リーシャさんがそう続け、モーリスさんも深く息を吐いた。
この二人ですら、この感想なのか………。
量産型邪龍だけなら余裕で屠ることが可能だ。
この二人だけじゃない、僕達も激戦を潜り抜け力をつけてきた。
引けを取ることはないだろう。
しかし、その数が無尽蔵に来るとなれば話は別だ。
「祐斗、その状態を解いておけ。適度にペースを落とさないとすぐにバテるぞ」
モーリスさんの言葉に頷いた僕は言われた通り、騎士王形態を解いた。
トライヘキサが量産型邪龍の生産工場であることが分かった以上、ペース配分を考えないとすぐに体力を失ってしまうだろう。
禁手第二階層はそれだけ消耗が大きい。
僕はまだイッセー君のようにこの力を完全に扱えているわけではないからね。
モーリスさんがインカムを通じてリアス前部長に話しかけた。
「リアス、そっちの状況は?」
『正直、厳しいわね。サイラオーグ達も戦ってくれているから、戦況は保てているけど………これ以上数を増やされたとなると………』
「流石に手が回らないか。援軍の見込みは?」
『アザゼルに確認を取ったけれど、まだ時間がかかるそうよ。トライヘキサの復活というだけでどこの神話勢力も大混乱。一応、援軍の了承はしてくれているようだけれど、どれくらいの時間で到着するかは分からないみたいね』
グレートレッドと並ぶ皇獣が復活し、攻撃を仕掛けてきた。
そんな情報を受ければどこも混乱するだろう。
また、トライヘキサの襲撃を受けてから時間は僅かしか経っていない。
………増援はまだ厳しいか。
元々、ここはグリゴリの研究施設。
武闘派よりも研究職の堕天使の方が多い。
そのため、戦える戦士の数が限られている。
今、戦っているのは『D×D』メンバー以外では堕天使と悪魔、そして天界から派遣された天使達。
向こうは戦力をこの場で増やすことが出来るが、対してこちらは減っていく一方。
「早いところ何とかしないと、物量で押しつぶされそうです………ね!」
リーシャさんは上空に飛び上がると、両手に握る魔装銃を構え、遠くにいた量産型邪龍を狙い撃った。
彼女の周囲を幾つもの魔装銃と盾が飛び交い、狙撃と防御が同時に行われていく。
邪龍と戦い、危なくなっている味方を守り、迫る邪龍を次々と撃ち抜くリーシャさんの攻防一体の猛撃。
この戦いの間に『女王』へとプロモーションしたのだろう。
彼女は『騎士』の機動力で戦場を駆け回りながら、正確無比に邪龍を狙い撃つ。
あの妖精二人とのコンビネーションがあって、初めて成り立つ戦い方だとリーシャさんは言っていたが、その戦いぶりは華麗で鮮やかなものだった。
モーリスさんが空に浮かぶトライヘキサを眺めながら言う。
「いいか、おまえ達。この場で求められるのはあの怪物を倒すことじゃない。………いや、本来ならそれがベストなんだが、そいつは無理だ。不意を突かれた上にこれだけの戦力差。これを覆すには奇跡でも起きねぇ限りは難しいだろう。この場で俺達がやるべきことは、可能な限り戦えない奴を逃がすこと。そして、あの怪物が退くまで戦線を保たせることだ。あんまり前に出すぎるなよ?」
頷く僕とゼノヴィア。
僕は呼吸を整え、剣を構えた………その時だった。
トライヘキサと各地で暴れまわっていた邪龍達に変化が訪れる。
奴らの足元に魔法陣が展開されたのだ。
「あれは………」
ロスヴァイセさんが呟くと同時に、奴らの姿は魔法陣の光の中に消えていった。
この地域一帯を飛び回っていた邪龍も、複製体も、アリスさんと激戦を繰り広げていたアポプスも、そして………トライヘキサの姿も消えてしまっていた。
「転移した………?」
今の今まで激しい戦いが行われていたことが嘘であるかのように静まり返る戦場。
突然の撤退に戸惑う僕達。
周囲からも疑問と更に警戒を強めるよう注意する声が聞こえてくる。
僕達は警戒を強め、周囲を見渡す。
すると、インカムから声が聞こえてきた。
それはイリナからの通信で―――――。
『大変よ! 天界にトライヘキサが現れたって!』
[木場 side out]