ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

342 / 421
2話 混乱する世界

[アザゼル side]

 

 

トライヘキサが復活を果たしてから、五日が経過した。

 

俺はバラキエルと共に冥界、悪魔世界の首都リリスにある魔王城にいた。

そこにある作戦会議室にて、集まった悪魔側と堕天使側の首脳陣と共にトライヘキサの対策を話し合っている。

 

サーゼクスは別件で一時的に席を外しており、グリゴリの現総督シェムバザはグリゴリの本拠地で直接指揮を執っている。

 

五日前のクリフォトへの奇襲作戦は一応の成功は果たしたと言える。

クリフォトの首領であるリゼヴィムを討ち取り、アグレアスは奪還できたため、当初の目的は達した。

 

しかし、俺達を待っていたのは予想を遥かに越えた結末だった。

 

リゼヴィムは最悪なことにトライヘキサを復活させてしまったのだ。

自分の死を最後の鍵として、トライヘキサに掛けられていた封印術式を一気に吹き飛ばしてしまうという仕掛けを施していた。

 

復活したトライヘキサはアポプス、アジ・ダハーカの邪龍筆頭格、邪龍、複製赤龍帝と共に行動を開始。

復活したその足でグリゴリの施設を破壊していった。

 

………復活してすぐにグリゴリの施設を狙ったのは手っ取り早く壊せるからだろう。

 

で、冥界の堕天使サイドをやったら、次は同じ世界にある悪魔世界を襲うと思いきや、俺達の行動を読んでか、天界に空間転移だ。

虚を突いたなんてレベルじゃない。

 

………トライヘキサと戦った配下の大勢が戦死した。

幹部であるサハリエルとベネムネさえ重傷を負わされ、意識がない状態だ。

 

くそったれ………ッ!

破壊された施設には俺のラボもあったんだぞ。

あそこには研究途中のものもあった。

中にはかなり重要な資料もあったんだ。

今回の件で研究は遅れることになるな………。

 

何より、優秀な職員を、配下を失ってしまったのは大きすぎる………!

提出された死者のリストには昔から俺に着いてきてくれた奴らもいた。

若い頃から俺とバカやってた奴らだ。

 

………やっぱり慣れないものだな、失った時の喪失感ってやつは。

何百年経っても、この手の後悔は消えないものだ。

 

天界の被害も甚大だ。

セラフメンバー三名が重傷、四大セラフもラファエルが片足を失い、ウリエルは片腕を持っていかれたと報告が来た。

ミカエルですらトライヘキサの相手が出来ず、手負いとなっている。

天界のトップを務める奴がこの場にいないのも、現在、治療中であることと破壊しつくされた天界基地の復旧に当たっているからだ。

 

幸い『システム』は守り切ることが出来たようだが………その犠牲はあまりに大きい。

この僅かな時間でどれだけ多くの黒い羽と白い羽が散っていったことか。

 

グリゴリの施設同様、天界をある程度破壊した後、奴らは姿を消した。

俺達は姿を消した奴らをすぐに追跡したが、結局は見つけられず仕舞い。

 

俺達の索敵に引っかかる前に奴らが姿を見せたのは――――――。

 

「北欧の世界も火に包まれているというのか…………」

 

バラキエルが円卓に映し出されている映像を見て戦慄した。

 

そう、奴らは今、北欧に進撃している。

 

北欧の世界は三層になっており、最下層には死の国ヘルヘイムや氷の国ニヴルヘイムがあり、最上層には神々が住むアースガルズがある。

神々の住むその領域に七つの首を持った全長数百メートルの怪物―――――トライヘキサは姿を現した。

最下層に転移したトライヘキサはそこから破壊を始め、復活から五日目の今日、最上層に到達した。

 

恐るべき侵攻スピードだ。

現在、北欧の神々、ヴァルハラに仕える英霊達、ヴァルキリー部隊もトライヘキサ軍団を止めるため、死力を尽くして立ち向かっている。

 

だが、トライヘキサの吐く凶悪で強火な火炎は、その一撃で彼らの命を容赦なく奪っていく。

 

トライヘキサの傍らに漂う二つの影。

三つ首の邪龍『魔源の禁龍』アジ・ダハーカと人間態の『原初なる晦冥龍』アポプス。

こいつらも強力だ。

 

アジダハーカは空を埋め尽くす無数の魔法陣を展開し、そこからあらゆる特大の炎、氷、水、雷、暴風と、数きれないほどの属性魔法を超広範囲で撃ち放ち、ヴァルハラの英霊達を襲う。

 

アポプスは天空に特大の闇を作り出して、太陽を覆おうとする。

奴の術で太陽が覆われたらアウトだ。

アポプスの禁術が発動し、一帯全域を『原初の水』と呼ばれる暗黒の大河で飲み込んでいくからだ。

食らえば、神クラスであろうと抗えるかは分からない。

 

アポプスを止めようとヴァルキリーの大部隊が魔法陣を展開させる。

巨大な闇の球体が太陽を陰らせたところで、動きを止めた。

ヴァルキリー部隊とアポプスによる一進一退の術式戦が始まるが………。

 

アポプスには余裕がある。

やろうと思えば、ヴァルキリー部隊の術式を押し返し、直ぐにでも暗黒の世界を創れる。

それをしないのはこの状況を楽しんでいるからだろう。

 

アジ・ダハーカとアポプス。

この二体の実力はずば抜けている。

復活前よりも力を上げているのは聖杯の力か………?

いや、あの二体のことだ、復活後に自らを鍛え上げたという考えも出来るな。

どちらにせよ、奴らの実力は常軌を逸している。

 

魔王の一角、ファルビウム・アスモデウスが口を開く。

 

「何事もなく転移できているのはアジ・ダハーカの禁術かな。これは厄介だ。複製赤龍帝の力で強化できるとしたら………。結界なんてお構いなしだろうね。これでは勢力間で助け合いなんて無理だ。どこだって、急な襲撃に備えて自国を守る方を優先する」

 

セラフォルーも続くように口を開いた。

 

「邪龍くん達の行動は誰かの入れ知恵かしら? 無闇やたらに暴れまわっているように見えて、フットワークが軽いってイメージがあるのよね」

 

セラフォルーの言うように奴らには奴等なりの目測があると見える。

完全に破壊するのではなく、ある程度まで壊すことが出来ればそれで良しとしているようだ。

 

和平関係にある各勢力は被害を受けている神話体系のもとに援軍を送りたいところなのだが、世界間ごとの強固な結界をモノともせずに転移してくるトライヘキサ軍団に、どの勢力も自国の守りを固めるだけで精一杯なのだ。

 

とはいえ、冥界の悪魔側と堕天使側、加えて天界も送れるだけの戦力は派遣している。

テロ対策チームたる『D×D』も北欧に行ってもらっている。

映像でもリアス達が多くの邪龍を相手に勇敢に立ち向かう姿が映されていた。

 

バラキエルが厳しい表情で魔王達に問う。

 

「悪魔世界はどのような様子なのだ? かなりの混乱状態にあると聞くが」

 

冥界、悪魔側では俺達がいる首都リリスを始め、各主要都市に軍隊、警察官、上級悪魔、そして最上級悪魔も眷属を率いて待機してもらっている。

悪魔側の戦力をほぼ総動員している形だが、それでも足りないくらいだろう。

大抵ことならこれで乗り切れるが、今回は相手の桁が違うからな。

 

現在起きている事態は一般市民の悪魔達にも伝わっており、魔獣騒動の再来だと混乱に陥っている。

また、このどさくさに紛れて破壊活動をし始める輩もいるという具合だ。

その輩もすぐに鎮圧されていたが…………どこもかしこも大混乱だ。

 

トライヘキサと邪龍軍団。

教え子が、部下が、仲間が戦っているというのに、ここで指揮するしかない己が恨めしい。

 

………現役を引退したのはちょいとばかし早かったか。

 

だが、そんなことを愚痴っていても事態は好転しない。

俺は俺ができることをするまでだ。

 

そんな気持ちでいると、北欧の戦線に新たな増援が加わっていた。

 

「インド神話の神々………! 阿修羅神族まで来てくれたか………!」

 

猿の神ハヌマーン、象の頭のガネーシャ神が大勢の配下を連れての登場だ!

しかも、阿修羅神族から阿修羅王ヴァルナまでもが部下を引き連れて北欧に加勢にいきやがった!

 

各神話体系の中でもインド神話勢力はバケモノクラスが多い。

その中から駆けつけてくれた神々はその一撃だけで無数の量産型邪龍と複製赤龍帝を消し去っていく。

 

しかし、どれだけ削っても量産型の邪龍と複製赤龍帝は延々と増えていく。

 

トライヘキサの首の一つ、ドラゴンの頭部から吐き出される丸い卵のような物体。

そこから複製赤龍帝と邪龍が飛び出してくるのだ。

 

これが俺達が苦戦している要因の一つ。

 

リゼヴィムの野郎がそういう風に改造したのだろう。

トライヘキサはあの軍団の生産も担っていた。

 

生産者であるトライヘキサを止めようにも、奴は北欧の神々とインド神話の神々の猛攻を受けても気にも止めない。

僅かな傷は与えても、すぐに回復してしまう。

 

トライヘキサの頑強さには舌を巻くしかない。

これが黙示録に記された伝説の獣………!

 

多くの神々が参戦したこの戦場は終末の戦争としか思えない有り様だ………!

こんな局面は三大勢力の戦争、いや、それ以上の―――――。

 

そんな時、突如として、トライヘキサ側の攻撃の手が止まった。

同時に奴らを覆うように転移魔法陣が展開、奴らは転移の光に消えていく。

 

突然のことに戦場にいる者は驚き、呆気にとられている。

おそらく、奴らの目標は大体達することが出来たのだろう。

 

俺達は各自、配下に命じて奴らの次の転移先を探らせるが………無駄に終わるだろうな。

 

トライヘキサの軍団が姿を消して、数分。

奴らがどこかに現れたという情報は入ってこない。

 

そして―――――

 

『おおおおおおおおおおおおっ!!』

 

映像の中で勝鬨が上がる。

北欧はなんとか防衛できたということで良いのだろうな。

 

邪龍側の突然の退却、この理由は恐らく―――――。

 

ファルビウムは難しい表情となる。

 

「………聖杯かな?」

 

「だろうな。おそらく、聖杯が一時的な限界を迎えたんだろう。あれほどの数を生産しているが、それが無限というわけではない。とれだけ強化しようが、必ず限界はある」

 

無限なんてもんは全盛期のオーフィスのみを指すのだから。

 

北欧の防衛が成功したちょうどその時、会議室に入ってくる者がいた。

用事を済ませてきたサーゼクスだ。

 

「どうやら、北欧は守れたようだ」

 

「まぁな。とりあえずは防衛成功ってことで良いだろう」

 

サーゼクスは頷くと会議室の面々を見渡して、

 

「この事を冥界の皆に伝えようか」

 

魔王ルシファーは、不安を抱えている冥界の民衆に語りかけることにしたのだった。

 

 

[アザゼル side out]

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。