ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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4話 目覚めない英雄

[木場 side]

 

北欧世界でトライヘキサの軍団との戦闘を終えた僕達『D×D』メンバーは一度解散して、それぞれの部署に戻っていた。

 

デュリオさん、イリナ達天使組は修復中の天界基地へ、レイナさんはグリゴリの施設のある冥界の堕天使領へ戻り、修復の手伝いをしている。

サイラオーグ・バアルさんとシーグヴァイラ・アガレスさんは治療を終えた後、冥界で起きている暴動を治めるため、それぞれ眷属を連れて現地に急行した。

ソーナ元会長のシトリー眷属もそれについて行っている。

 

僕を含めたグレモリー眷属と赤龍帝眷属は首都リリスにある『セラフォルー記念病院』に足を運んでいた。

ここは冥界でも屈指の医療設備とスタッフが揃った高名な病院。

 

そこにイッセーくんが入院しているのだ。

 

入院と言っても、傷そのものはアーシアさんの治療によって完全に塞がっている。

しかし、完治したはずなのにイッセーくんは目を覚まさないんだ。

 

五日前のアグレアス奪還、及びクリフォトへの奇襲作戦。

あの戦いでイッセーくんはリゼヴィムを追い詰めた。

追い詰められたリゼヴィムはオーフィスの蛇を独自に改良したドーピング剤で肉体を強化、逆転を図ろうとした。

更には駒王町に量産型邪龍を送りつけるという非道まで行い、僕達をとことんまで追い込もうとした。

 

その時だ、イッセーくんが殻を破ったのは。

 

アグレアスだけでなく、駒王町にまで広がったあの虹の輝き。

イッセーくんから溢れ出た虹の輝きは次元を越えて、僕達とあの町を守ってくれた。

実際に目の当たりにしたにも関わらず、あの光景は夢だったのではないか。

あの戦いから時が経った今でもそう思えてしまう。

 

新たな領域に足を踏み入れたイッセーくんはそのままリゼヴィムを圧倒。

外法とも言える手段で強化されたリゼヴィムを撃破した。

 

ただ………やはり、強大な力の分だけイッセーくんへの負荷は凄まじいようで、彼はリゼヴィムの最期を見届け、異世界の神アセムと少しの会話をした後に倒れ、気を失ってしまった。

作戦の後、病院に運び込まれたイッセーくんは、すぐに全身をくまなく検査、診察をしてもらったのだが、どこにも異常は見当たらなかったとのこと。

 

彼の意識は回復していないけれど、トライヘキサは待ってくれない。

奴らは天界を破壊した後、北欧にその悪意の矛先を向けてきた。

 

僕達はテロ対策チーム『D×D』として、彼らと戦わなければならない。

意識がまるで回復しないイッセーくんを彼のご両親とニーナさん、ワルキュリアさん、そしてニーズヘッグの襲撃から体力の戻っていないディルムッドに任せて、僕達は北欧世界に赴くことになった。(ディルムッドの場合、美羽さんが強制的に待機させたとも言う)

 

そして、どうにか北欧世界の防衛に成功した僕達は、この病院に戻ってきたわけだ。

 

先程、サーゼクス様の緊急放送が院内のテレビに流されていたが、病院の受付近くでも不安なことを話し合う患者とその家族が目立つ。

『戦争』、『避難』という単語が常に聞こえてくる、そんな状態だ。

多くの神々が戦線に立つレベルの戦いに不安を抱くのは仕方のないこと。

そんな人達を守るためにも僕達は戦わなければならない。

 

受付を済ませたリアス元部長が僕達の元へと戻ってきた。

 

「受付は済んだわ。イッセーの部屋に行きましょう」

 

 

 

 

病院に入ると、そこにはベッドの上で未だ眠り続けるイッセーくんの姿と、彼のご両親。

イッセーくんの眷属となったニーナさんとワルキュリアさん、ディルムッドの姿もある。

 

………僕達が北欧に向かっている間に目覚めてくれれば、と思っていたのだけど………。

 

意識の戻っていない彼の様子にリアス元部長を初めとした女性陣は悲しげな表情となってしまう。

戦場では邪龍達に果敢に立ち向かっていた女性陣だが、やはり、愛する男性が目覚めてくれないというのは悲しいものなのだ。

 

真剣な表情でテレビを見ていたニーナさん達は僕達の入室に気づくと、安堵しながら迎えてくれた。

 

「皆さん、ご無事で安心しました。お姉ちゃんも大丈夫だった?」

 

「かなり激しかったけどね。なんとか無事よ、ニーナ。こっちで何か変わったことは?」

 

アリスさんの問いに答えたのはワルキュリアさんだった。

 

「イッセー様の容態は安定していますが、相変わらずです。他に変わったことと言えば、各地で暴動が起きたことぐらいでしょうか。大変混乱しているようで、抱え込む不安を何かにぶつけてしまいたいのでしょう。もう情報が入っていると思いますが、冥界の各地で同様の件が起きているそうです」

 

「まぁ、こんな状況じゃあね。どさくさに紛れて破壊工作している奴は絞めればそれで済むけど、そういう人達を一方的に押さえ込むのは逆効果とも言えるし………」

 

アリスさんは顎に手を当てて暫し考え込んだ後、深くため息をついた。

 

アリスさんの視線はベッドの上のイッセーくんに向けられ、憂いのある瞳で呟いた。

 

「もう………『おかえり』くらいは言って欲しかったわよ………バカ」

 

そう言って、彼女はイッセーくんの鼻を指先で突いた。

 

そんなアリスさんではあるが、戦闘時は凄まじい力を発揮していた。

『白雷姫』の二つ名を持つ彼女は持ち前のスピードと破壊力を活かして、多くの邪龍を凪ぎ払い、更には彼女が得た新たな境地―――――神姫化まで使って、戦線を支えていた。

 

他の女性メンバーも同じだ。

彼を想う一人一人が果敢に、華麗に戦ってみせたのだ。

 

グレモリー男子たるギャスパーくんに至っては「イッセー先輩の分も僕が殴る!」と言って、黒い獣―――――バロールの化身となって、多くの邪龍を豪快に殴り飛ばしていた。

本当に、彼の戦闘スタイルはイッセーくんの影響が色濃く出ているよ。

 

シトリー眷属もバアル眷属も他の『D×D』メンバーもイッセーくんの分まで暴れてやるって気概で北欧での戦いに臨んでいた。

 

僕だってそうだ。

 

病室の椅子に座っていたディルムッドは美羽さんの姿を見るなり駆け寄ってくる。

 

「マス………お、お姉ちゃん………大丈夫?」

 

「うん、ボクは全然大丈夫だよ? ほら、この通り」

 

そう言うと、美羽さんはその場でくるりと回って、自身の無事を彼女に示した。

 

無事を確認したディルムッドは息を吐いて、

 

「………良かったです。お姉ちゃんがケガなくて………」

 

「うふふ、心配してくれてありがと」

 

美羽さんは安堵するディルムッドを優しく抱き締めた。

その光景はまるで本当の姉妹のように見える。

 

いや、彼女達はもう姉妹なのだろうね。

血は繋がってなくとも、家族になれる。

イッセーくんが美羽さんを妹として迎え入れたように、美羽さんもまたディルムッドを妹として、家族として迎え入れたんだ。

 

美羽さんは髪をすくようにディルムッドの頭を撫でながら言う。

 

「ディルさんもお兄ちゃんとお父さん、お母さんの側にいてくれて、ありがとう。ニーナさんも、ワルキュリアさんもね。皆がここに残ってくれたから、ボク達は戦えたんだよ?」

 

そう言われたディルムッドは美羽さんの胸に顔を埋めて、目元を滲ませていた。

 

………初めて見たときの印象が完全に消えてしまったせいで、誰か分からなくなってきた………。

イッセーくんの家に住むようになってから、キャラは変わっていたけれど………。

うん、これ以上考えるのはやめよう。

なんだか無粋のような気がしてきたからね。

 

こうしてお互いの無事を確認した僕達はイッセーくんに意識を戻した。

 

穏やかな呼吸に安らかな表情。

一見すれば、心地よく眠っているようにも見える。

 

「しっかし、熟睡してやがるな………。よし、今のうちに落書きでもしてやるか。祐斗、そこの油性ペン取ってくれ。髭描いてやる」

 

「えっと、イッセー君も寝たくて寝ているわけじゃないんですし………」

 

この場を和ませようとしてくれたのか、モーリスさんが笑いながらそう言うが………本当に描いてしまいそうだ。

この人はこの人でイタズラが好きなようだしね。

 

しかし、イッセー君が目覚めないのはなぜなんだろう?

先ほどのワルキュリアさんの報告だと、僕達が北欧に言っている間も目を覚まさなかったようだし。

 

リアス前部長も疑問を口にする。

 

「イッセーが目を覚まさないのは、あの時使った力が関係しているのかしら? 強すぎる力の反動?」

 

リアス前部長がイッセー君の額に触れ、彼の体調を診ていると―――――。

 

「もしかしたら、他にも原因があるかもしれないぜ?」

 

聞き覚えのある声が扉の方からしてくる。

皆が振り返れば、そこにはアザゼル先生の姿があった。

 

アザゼル先生が室内に入ってくると、リアス前部長は怪訝な表情で訊いた。

 

「他にも原因があるというの?」

 

「悪いが、こいつは俺の単なる予想に過ぎん。それで良ければ話すが………。確かに覚醒したイッセーの力は絶大だ。俺も長く生きてきたが、次元を越えて広がる力なんざ、見たこともなければ聞いたこともない。そんな強大な力だ、当然負荷も大きいだろう。肉体だけでなく精神にもかなりの負荷がかかっているはずだ」

 

それはこの場の誰もが考えていることだ。

大きすぎる負荷が数日に渡ってイッセー君を蝕っている、と。

 

しかし、とアザゼル先生は続ける。

 

「俺は一つ気になっていることがあってな。ワルキュリア、ニーナ。ここ数日、イグニスの姿を見かけたか?」

 

アザゼル先生に問われた二人は首を横に振った。

 

「いえ、私は見かけておりません」

 

「私もです」

 

イグニスさんが姿を見せていない………?

彼女は仮とはいえ肉体を得てから、実体化したままでいる時間がほとんどだった。

ティアさんとお茶をしたり、イッセー君のご両親と何気ない会話をしたり………美羽さん達にセクハラをしたり。

基本的に誰かといた。

 

また、普段はかなりお茶目な人ではあるけど、今のような事態の時には女神としての顔を見せてくれる。

イッセー君が目覚めない今、彼のご両親やニーナさん達の不安を和らげたりしてくれているのだろうと思ったんだけど………。

 

アザゼル先生は言う。

 

「イッセーが目覚めないこのタイミングであの女神も姿を見せなくなった。もしかしたら、あの女神に訊けば原因が分かるかもしれん。ドライグは………俺達と会話できるのか?」

 

アザゼル先生がイッセー君――――――彼の左腕に話しかけた。

すると、彼の左手の甲に宝玉が現れた。

 

『ああ、俺は問題なく話せるぞ』

 

「そうか。なら聞かせてもらおう。今、イッセーとイグニスはどうなっている?」

 

その問いにドライグは―――――。

 

『簡潔に言おう。相棒の精神とイグニスはこの場にはない』

 

「いない? どういう意味だ?」

 

『言葉通りの意味だ。相棒の精神は完全に離れてしまっている。肉体には問題ないのだが、代わりにおまえ達の声は相棒には届かない。すまんが、俺も把握しきれていないのだ。ただ、一つだけ。イグニスからおまえ達に伝言がある』

 

「伝言?」

 

ドライグの言葉に美羽さんが訊き返す。

 

イグニスさんから僕達への伝言。

宝玉が点滅し、そこからドライグが記録したのであろうイグニスさんの声が聞こえてくる。

その内容とは―――――。

 

『――――イッセーはあなた達のもとに戻ってくるわ。皆の危機に登場してこその勇者でしょう? だから、今はただ想っていて。言葉は届かなくとも、皆の想いは届くから――――』

 

イグニスさんからの伝言はそこで終わっていた。

 

そこにはイッセー君の状態や目覚めない原因についての内容はなかった。

だけど、彼女の言葉は僕達を安心させるには十分だった。

 

イッセー君は必ず戻ってくる。

それを聞けただけで、自然と抱えていた不安が薄れていく。

 

美羽さんが微笑んだ。

 

「うん………イグニスさんがそう言うなら大丈夫だよね」

 

「ええ。普段は………まぁ、アレだけど。こんな時に冗談や嘘を言う人じゃないもの」

 

アリスさんも小さく息を吐きながらそう言った。

リアス前部長や朱乃さんも「そうね」「そうですわね」と表情を和らげて微笑んでいた。

 

アザゼル先生は一度瞑目すると、ベッドの隣に座るイッセー君のご両親に話しかけた。

 

「イッセーは必ず目覚めるだろう。あの女神がそう言うなら、俺は確信をもってそう言える。そして、目覚めたイッセーは再び戦場に立つことになると思う。自分の意志で。………申し訳ない」

 

深く頭を下げるアザゼル先生。

 

二度目の謝罪だった。

一度目はイッセーくんのご両親が拐われそうになった件。

今度はイッセーくんが今回の件。

 

「俺が不甲斐ないばかりに、息子さんに無茶を強いてしまっている。確かにイッセーは肉体も精神も強い。だが、強すぎるがゆえに、俺達上の人間は甘えてしまっていた。無茶をするなと言いながら、まるで反対のことをさせてしまっていたんだ………。俺の責任だ。あなた方の件、そして息子さんの件………本当に申し訳ない」

 

アザゼル先生の言葉は真摯で心の底から後悔の念を含ませていた。

 

すると―――――イッセー君のお父さんは首を横に振った。

 

「先生、頭をあげてください。私達の件に関しては私共に落ち度がありました。私共がもっとあなた方の事情を理解していれば、ああはならなかったでしょう。………イッセーのことも、これは息子が望んだことです。こいつは皆さんを守ることが出来て、これで良かったと思っているはずです」

 

イッセーくんのお母さんも続く。

 

「もちろん、息子には無茶をしてほしくない。その気持ちは今も昔も、これからも変わりません。けれど、この子に後悔はしてほしくないんです。それに………この子は約束してくれました。必ず皆で帰ってくるって。イッセーは馬鹿でスケベで変なところで頑固だけれど、約束は守る子です。だから、絶対に起きてくれます」

 

イッセーくんのお母さんがベッドで眠る我が子の手を握った。

優しく、包み込むようにイッセーくんの手を両手で覆う。

 

「私に出来ることがあるとすれば、これぐらいだから………。情けない話だけれど、私達にはイッセーのように戦ったり、皆を守る力なんてないわ。だから………だから………願いだけでも、想いだけでも、この子の支えになれば………」

 

イッセーくんのお父さんもそこに手を重ねて、祈るように目を閉じる。

 

それは僕の見間違いだったのかもしれない。

 

はっきりと見えた訳じゃない。

ただ、そう見えた気がしただけなのかもしれない。

 

イッセーくんのご両親が彼の手を握った時。

 

 

――――一瞬、イッセーくんの体を虹の輝きが覆ったような気がした。

 

 

[木場 side out]

 

 

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