[木場 side]
「リアス、朱乃、木場、ギャスパー、ロスヴァイセ、おまえらはちょっと来てくれ」
僕とリアス前部長、朱乃さん、ギャスパーくん、ロスヴァイセさんがアザゼル先生に呼ばれた。
他のメンバーにイッセーくんと彼のご両親を任せると、僕達は先生と共に病室をあとにして、同階の休憩フロアまで足を運ぶ。
そこには黒いジャケットを着た男性、『刃狗』こと幾瀬鳶雄さんと見知らぬ男女が数名いた。
幾瀬さんがアザゼル先生に言う。
「全員揃えました」
「悪いな、急に呼び出してしまって」
「いえ、俺達も『D×D』と共に前に出る時期かと思ってましたから。微力ながら協力させてもらいます」
そう言ってくれる幾瀬さん。
先生が改めて僕達に言う。
「うちの刃狗チームも今回は表のメンバーとして参戦してもらう。後で連携やらの相談をしてくれ」
グリゴリでもトップクラスの実力者チームが表舞台に出てくれるのか!
今回のような世界規模の戦闘だと一人でも多くの強者が必要だ。
彼らの参戦は本当にありがたい。
ここで朱乃さんがとある人物を見つけ、驚いていた。
その視線の先には朱乃さんとよく似た二十代前半の美しい女性。
女性は朱乃さんに微笑む。
「朱乃、元気そうね」
「朱雀姉さま!」
朱乃さんは駆け寄ると彼女と抱擁を交わした。
朱雀と呼ばれた女性は愛しそうに朱乃さんの頭を撫でる。
「しばらく顔を見られなくて心配していたけど、会えて良かったわ」
「こちらこそ、連絡もせずに申し訳ありませんでした」
「いいのよ。あなたの立場を考えれば仕方のないことだもの」
―――――朱雀。
その名前には覚えがある。
姫島朱雀、姫島宗家の現当主。
そして、血筋的には朱乃さんとは従姉妹に当たる人だ。
姫島家現当主にリアス前部長が微笑んで迎えた。
「お久しぶりね、朱雀」
「ええ、リアスさん。小うるさい家の者達は黙らせてきたわ。私も鳶雄達やあなた達と共に行かせてもらうわね。こういう時こそ、姫島家の者として力を振るうべきだと思うから」
姫島家当主の彼女が幾瀬さんと顔見知りなのは理由がある。
実は幾瀬さんも姫島の血を引いており、朱乃さんと現当主の朱雀さんとははとこの関係にあった。
朱雀さんは続けて言う。
「姫島だけでなく、他の四家からも術者が戦線に加わらせてもらいますね」
日本の地を古くより異形から守ってきた異能集団がある。
姫島家、百鬼家、真羅家、櫛橋家、童門家。
この五つの家は五大宗家と呼ばれている。
彼らも参戦してくれるとは………。
ここに更に一つの集団が歩み寄った。
「鳶雄、あんたが顔を出すとはな」
不敵に笑みながら、幾瀬さんに声をかけたのはヴァーリ。
そう、ヴァーリチームの登場だった。
リゼヴィムの最期を見た後、彼らは僕達と共に北欧の戦線に加わっていた。
彼らも苛烈な戦いで多くの邪龍を凪ぎ払ってくれていた。
防衛成功後はどこかへ姿をくらませていだが、再び集まってくれたようだ。
幾瀬さんがヴァーリに言う。
「まぁね。今回はうちのチームも表に出てトライヘキサの破壊活動を抑止するために戦う。君達のフォローもしながら、隣で暴れさせてもらうよ」
「久し振りにあんたの本気を見られるのか? ふっ、それだけの事態と言うことだな。出来れば、あんたとの再戦時にあれを見たかった」
「ははは、格好つける癖は相変わらずだな。――――やはり、君の出番のようだ」
不敵な物言いをするヴァーリに幾瀬さんはそう言った。
幾瀬さんの視線は彼の背後に向けられていて、その所作にヴァーリの表情が一変する。
「――――っ! まさか、連れてきているのか………?」
刃狗チームからとんがり帽子を被り、ローブを着た女性が姿を現した。
長い金髪に碧眼の美女だった。
彼女の服装から魔法使いであることは分かるのだが、彼女の登場で少し驚くことがあった。
女性はヴァーリの前に立つと、ニッコリと微笑む。
「また、わがままを言っているのですね?」
「………ッ! ラ、ラヴィニア………ッ!」
なんと、ヴァーリは後ずらりして頬をひくつかせていたのだ。
ここまで狼狽するヴァーリは初めて見た。
ラヴィニアと呼ばれた彼女はヴァーリの手を取る。
「メフィスト会長とアザゼル元総督から表に出ていいとお許しがでたのです。また、一緒に戦えるのです、ヴァーくん」
………ヴァーくん。
その呼び方でなんとなく分かってしまった。
以前、幾瀬さんに修業に付き合ってもらった時、ヴァーリのことをそう呼ぶ人がいると聞いたことがある。
なるほど、この女性がその人だったんだね。
「い、いや、しかしだなっ!」
「ヴァーくん………グリゴリを裏切って、一人でおじいさんを探しに行って、色んな人に迷惑をかけてしまったのです。そういうのは良くないのです。今回は皆と一緒に戦うのです。いいですね?」
ラヴィニアさんはヴァーリを胸元に引き寄せて、そのまま抱き締めてしまった。
「うっ、くっ………!」
あのバトルマニアのヴァーリが抵抗できずに顔を紅潮させている!
まさか、あのヴァーリがこんな反応を見せるとは!
初めて見るヴァーリの意外な姿に僕やリアス前部長は驚くばかりだが、アザゼル先生や刃狗チームはニヤニヤ顔でヴァーリをおかしそうに見ていた。
「さっすが、うちのリーダーが唯一頭の上がらない人にゃん」
「『氷姫』の気配を察すると逃げてばっかりだったからなぁ。今回は油断にプラスして、完全に気配を消されてたってわけだ」
ヴァーリチームもリーダーの姿に愉快そうにしている。
しかし、僕は美猴から出てきた単語に再び驚いてしまっていた。
―――――『氷姫のラヴィニア』
『
最強の魔法使いの一角とされている、神滅具『
彼女がその人だったとは、これまた驚きの展開だ。
『氷姫』の名に興味を引かれていると、黒歌とルフェイが小声で訊いてきた。
(ところで、赤龍帝ちんは大丈夫なの?)
(一応、情報はこちらにも入ってきていたのですが………。すぐに駆けつけることができなくて、申し訳ございません)
二人も兵藤家にご厄介になっている身。
それに、イッセーくんとは気を許せる間柄になっているから、心配していたみたいだ。
僕は小声で二人に状況を教える。
(今のところ命に別状はないみたいだけど………。やっぱりまだ目覚めてはくれないんだ)
(そう………)
二人は息を吐きながら残念そうな表情をしていた。
普段は軽い雰囲気の黒歌もイッセーくんが起きてくれないと、寂しいのかもしれない。
フロアに集うメンバーを見渡してアザゼル先生が言う。
「今回は皆の力を貸してもらう。トライヘキサに加えて、異世界の神まで絡んだおかげで世界中がヤバい。協力を拒んでいた勢力も出てくるほどだ。今こそ、一人一人の協力が重要になってくる。………それでだ。ロスヴァイセ、ギャスパー、聖杯につて新たな情報を得た。トライヘキサ対策のためにおまえらの意見と協力を仰ぎたい。この後、俺についてきてくれ」
「分かりました」
「はい」
先生の言葉に二人は力強く頷いた。
「リアス、グレモリー眷属は別命あるまでここに待機していてくれ。イッセーのこともある。モーリス達にも後で動いてもらう」
「ええ、分かったわ」
「ヴァーリ、鳶雄。おまえらのチームは魔王城で待機だ。何か動きがあったら――――――」
先生がそこまで言ったときだった。
「お、おい! な、なんだあれは!?」
通路の向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。
声につられて院内にいた医師から看護婦、患者、お見舞いに来たと思われる人まで一様に窓のある通路へと集まり、ザワザワとざわめき出す。
一体、何が起きたのだろう?
怪訝に思った僕達はフロアの窓から外を覗く。
すると――――――。
「なんだ………あれは………!?」
僕は思わず声に出していた。
僕達の視線は空に向けられている。
通常なら冥界特有の紫色の空が広がっているはずなのだが、今回は違っていた。
一体、何百メートルあるのだろう。
巨大な―――――端が見えないほど広大な『穴』が空に空いていたのだ!
空にぽっかりと空いた穴は暗く、アニメやマンガで描かれるブラックホールに見えた。
あまりの出来事に思考を停止させていると、穴に変化が起きる。
真っ暗で何も見えなかったのだが、黒が徐々に薄れていき、穴の奥に景色が見え始めた。
完全に闇が晴れたとき、見えたのは町のような何かだった。
建物に見えるものも、よく見るとただの白く四角い物体。
材質が何なのかは分からないけど、低いもの………一軒家くらいのものもあれば、大きな高層ビルのようなものもあり、それらがランダムに並んでいる。
空は血のように赤く、月のようなものが不気味に浮かび、それらが一つの景色を作り出している。
そして、その中で一際目を引くのが一番奥に見える巨大な城のような建物。
黒く、禍々しいオーラがここからでも認識できる。
「アザゼルさま!」
このフロア、僕達の方に慌てて走ってくる者がいた。
スーツを着た男性で、堕天使の気配がすることからアザゼル先生の部下の人だと言うことが分かる。
おそらく、現在起きていることでアザゼル先生を呼びに来たのだろう。
そう思った僕だったが、その予想は外れることになる。
アザゼル先生が言う。
「あの穴のことか? あぁ、分かってる。俺も今――――」
「ほ、報告します! 現在、世界中に冥界と同様の事象が起きているとのことです! 北欧、ギリシャ、須弥山、エジプト、ケルトの領域――――人間界を含め全ての勢力圏に出現しています!」
『―――――っ!?』
男性の報告に僕達は驚愕した!
全勢力に同様の事態が起きているというのか………?
すると、空に再び変化が訪れる。
穴の横に魔法陣が描かれ、空に映像を映し出した。
そこに映っていたのは―――――どこか邪悪さを感じさせる闇色の衣服を纏った白髪の青年。
その青年は余裕のある笑みを映像越しにこちらに送ってくる。
『初めまして。そして、会ったことのある人達は久し振りと言っておこう。僕の名前はアセム。君達の世界とは異なる世界の神だ。そして、君達の世界に害なす者さ』
アセム………ッ!?
そうか、イッセー君が冥府でかの神と対峙した時、彼は青年の姿になっていたと聞いた。
あの姿がそうなのだろう。
彼のトレードマークとも言える白いパーカーではないのは………。
それにあの闇色の服はいったい………?
しかし、アセムという名を聞いて納得してしまった。
このタイミングで、世界規模でこれだけのことを出来る者といえば彼しかいないだろう。
実際に戦ったことはないけど、イッセーくん達の話から、彼の実力は未知数であることは分かっている。
強力な配下を生み出し、『システム』を覗いた者。
リゼヴィムに協力するふりをして、奴を利用していた異世界の神。
たった一人で冥府を手中にした神。
アセムは冷たい笑みを浮かべながら言う。
『突然のことで驚いていると思うから、とりあえずは現状を説明しておこうか。今、目の前に広がっている世界は僕が次元の狭間に構築した世界。擬似的な異世界と考えてくれて良い。規模は地球の三分の一くらいだ。この世界は各神話の領域、世界中と目の前の穴――――「
その言葉にアザゼル先生が眉を潜める。
「地球の三分の一………世界中と繋がってるだと………? 異世界の術………おそらくはレーティングゲームの技術も応用したんだろうな。あれも『禍の団』に流れていた。リゼヴィムを利用していたなら、奴にも技術が流れていても不思議じゃない。そういえば、奴は『システム』を覗いていたな。神滅具の一つ『
あの空間には僅かにだけど、レーティングゲームのフィールドと似た雰囲気が感じられる。
先生の言うようにクリフォトから渡された技術を応用したんだと思う。
でも、これだけの規模で構築してくるなんて………!
先生は驚きながらも呟く。
「これはもうレーティングゲームの技術とは別物………世界構築と言って良いんじゃないか?」
リアス前部長がアザゼル先生に問う。
「一つの世界を構築したというの………?」
「ここまでの規模でやられたんじゃな………。それに奴は擬似的な異世界と言った。技術は使っているだろうが、レーティングゲームの技術などとはレベルが違いすぎる。もはや別物と言って良いはずだ」
アザゼル先生はそう考察するが………何にしても僕達の理解を越えていることには変わりがない。
これがアセムの力か………!
彼の真の力はいったいどれほどの………!
映像のアセムは続ける。
『さて、簡単に説明したところで、なぜ僕がこんな風に動いたのかを教えよう。それはね、今のお遊びをやめて、君達の世界を一気に落としてしまおうか、そんな風に考えたからだよ』
なっ………!?
これまでのことを『お遊び』の一言で片付けてしまう点にも驚きだけど、彼が本気で動くというのか………!
トライヘキサの襲撃だけでこの世界は大騒ぎだというのに!
いや、彼の発言で既に騒ぎは大きくなっている。
院内のあちこちから『異世界』という単語が聞こえてくる。
今までは上層部………各勢力の首脳陣しか知らなかったことがこの場で明かされてしまった。
一般の人達はまだ『異世界』という単語に疑問符を浮かべているが、後々、説明を求められることになるだろう。
その時、彼らがどんな反応をするか………。
『アポプスくん達は聖杯の力の関係上、ちまちま攻めていたけどね。彼らの急襲に君達は防戦一方だっただろう?神々も出てきて、いい具合に盛り上がってはいるが………このままではワンパターンで面白くない。そこで、僕はこの戦いをもっと大きくするために彼らに協力を持ちかけてみた。結果、彼らとは意見が合致したよ。そう、つまりだ。これからはトライヘキサと僕の軍勢が一度に君達の世界を襲う』
「………っ! ここに来て手を組んだのか!」
アポプス、アジ・ダーカとアセム一派はこれまで別々に動いていた。
アグレアス奪還作戦の折、アザゼル先生は邪龍筆頭格であるあの二体の邪龍と話したそうだが、その時は協力関係ではないと言っていたそうだ。
そんな奴らがここで手を組んだ。
それは本気も本気でこの世界に仕掛けるということだろう。
『もうチマチマやり合うのはそちらとしても面倒だろう? ここで全面衝突、最終決戦といこうじゃないか』
アセムが指を鳴らす。
すると、奥の城らしき建物の頂上が光輝いた。
刹那―――――全てを呑み込む極大の光線がこちらに向けて放たれてきた!
光線は空に空いた大きな穴――――『門』を通り抜け、冥界の空を駆け抜けていく!
遥か彼方へと消えていった光はどこかに着弾したのだろう。
見えなくなったと思った途端、この地域一帯を巨大な揺れが襲った!
あまりの大きさに院内の患者はおろか、僕達ですら立っていられず、必死に柱や手すりにしがみついていた。
「なんて威力だ………っ! どこに当たった!?」
アザゼル先生は膝をつきながら、部下の男性に問う。
男性は耳にはめたインカムから慌てて情報を仕入れ始める。
インカムの向こうから聞こえてくる声に何度か頷いた男性は目を見開き、開いた口が塞がらなくなっていた。
まるでその情報が冗談か何かと思ったように。
意識をこちらに戻した男性は乾いた声で僕達に言った。
「め、冥界は悪魔側にある山岳地帯が丸ごと消し飛んだとのこと………。その地域は誰も住んでいないようなので、死者が出た可能性は低いとのことですが………」
「ちょっと待て。
何かを察したような顔のアザゼル先生。
男性は報告を続けた。
「先程放たれた光は冥界だけにあらず………あの穴が出現している領域全て、とのことです………ッ!」
冥界だけじゃないのか!?
あの穴は各神話、世界中に出現していると聞く。
つまり、それは―――――。
「あの射程はかなりのものだ。もし、あの
アザゼル先生が苦渋に満ちた表情で空を睨んだ。
「世界中の全てがあれの射程圏内だということだ………ッ!」
[木場 side out]
アセム君、ついに世界構築までやってしまいました。
構築した世界のイメージはブリーチ地獄篇の地獄です。