ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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6話 生き残るために

[木場 side]

 

「世界中の全てがあれの射程圏内だということだ………っ!」

 

『――――っ!』

 

先生の発言に僕達全員が息を呑んだ。

 

空に浮かぶあの『門』はアセムが構築した擬似的な異世界と繋がっている。

僕達が見たあの極大の光線は威力だけでなく、射程も規格外。

更に、あの『門』が自在に場所を変えられると考えた場合、自然とその答えは出てくる。

 

リアス前部長が呟く。

 

「今の一発はわざと人のいない場所に撃ったのかしら?」

 

アザゼル先生は頷く。

 

「おそらくな。自分の力を世界中に見せつけるためだろう。全世界、あらゆる神話、あらゆる種族。そんなものは関係ない。全てがあれのターゲットだということを理解させるための演出だ」

 

演出………。

地図を塗り替えるレベル、そんな攻撃を同時に複数箇所へと放つ。

ここまでの規模でそれを行った、それが演出だなんて………。

 

すると、アザゼル先生が聞こえてたかのように、映像の向こうにいるアセムは薄く笑んだ。

 

『今ので察してくれた人もいるようだね。そうだよ、これはただの演出。誰が、どこへ逃げようとも無駄なのさ』

 

逃げ切ることは不可能ということか。

 

アザゼル先生が疑問を口にする。

 

「奴はアポプス達と組んだと言っていたな。なら、トライヘキサも奴のところにいるはず。どこにいる………?」

 

トライヘキサと邪龍軍団は北欧の戦線から姿を消した後、こちらでは捕捉できないでいる。

考えられるとすれば、強化されたアジ・ダハーカの禁術によって追跡を逃れていることだ。

 

先生の言うように手を組んだというのなら、アセムの構築した世界にいてもおかしくはない。

 

そもそも、地球の三分の一ほどもある世界を構築したにも関わらず、誰にも悟られなかったこと事態が脅威であるのだが………。

 

映像や『門』から見える光景にトライヘキサの姿は見えない。

 

『さて、次に気になるのはトライヘキサの行方だよね? もちろん、僕達のところにいるよ』

 

アセムが再び指を鳴らした。

 

すると、空に魔法陣が描かれ、そこに別の映像が映し出される。

そこに映っていたのは血のように赤い空に佇む七つの首を持つ魔獣―――――トライヘキサ。

 

この騒動の主犯である邪龍筆頭二体と手を組んだことから分かっていたけれど………。

実際に目にすると、嫌な汗が流れてくる。

 

アセムのもとにトライヘキサがいる。

このことが、どれほど脅威であるか………。

 

ここで、映像のトライヘキサに変化が訪れた。

 

トライヘキサの肉体が一度、胎動した。

一瞬、巨体がぶれたと感じた、その時―――――。

 

トライヘキサの体が横へと広がり始めた!

 

七つの首、それぞれの間が広がり、やがては体一つ分くらいの間隔になった。

別れた体の隙間から筋肉の繊維のようなものが覗かせる。

伸びた繊維は真ん中あたりで、千切れると、それぞれが蠢き始める。

そして―――――新たに肉体を構築した。

 

これは…………!

 

アザゼル先生が目を見開いた。

 

「分裂しただと!? あの化け物め、首の数だけ体を分裂できるっていうのか!?」

 

七つの首を持つ最強の魔物が、体を七つに分裂させた。

これが意味することは―――――。

 

「異なる場所を同時攻撃できるということか………やってくれるぜ………」

 

驚愕から一転、冷静な口調でアザゼル先生は言った。

 

僕達はトライヘキサの常軌を逸した力を目の当たりにしている。

僕らの集中攻撃を受けても、神クラスの一撃を受けてもトライヘキサは平然としていた。

多少、体の表面を焦がすか、肉を爆ぜさせるだけで、すぐに体を再生させてしまう。

 

代わりに飛ばしてくる特大の火炎が地を大きく抉り、山々は消し飛び、味方陣営は痛烈な打撃を受けていた。

神々ですら、あの火炎に呑み込まれていった。

 

七つに分かれた分だけ、力が拡散しているのなら………。

いや、分かれている分だけ力が分散しているとしても、相手は無限だった頃のオーフィスや夢幻を司るグレートレッドに匹敵する怪物。

首一つになっても常軌を逸した存在であることは変わりないだろう。

 

しかも、随伴している量産型邪龍の数は膨大で、特に複製赤龍帝の軍団が強力すぎる。

あれらを相手取るだけでも厳しいと言うのに………!

 

空に浮かぶ巨大な穴――――『門』から見える光景に動きがあった。

白く四角い物体がランダムに並び立つ、その隙間から何かが浮かび上がってきた。

幾つもの巨大な―――――巨人と言っても差し支えない存在が立っていたのだ。

 

魔獣騒動の折、冥界全土を震撼させた超獣鬼、豪獣鬼と並ぶスケール。

六つの腕を持ち、それぞれの手に巨大な得物を握っている。

 

あれはベルが創造した魔神………!

美羽さんが幾度も苦しめられた怪物!

 

それ以外にも、量産型の邪龍から赤龍帝の複製体が魔神の傍に漂っている。

 

………一体、どれだけいるのだろう?

数えるのが馬鹿らしく思えてくる程に多い。

千や万どころではない。

 

異世界の神と邪龍の筆頭格、トライヘキサが繋がるだけでこれだけの数を揃えられると言うのか………!

 

『ちなみに、この擬似異世界の中心にあるシステムを完全に破壊しないと延々に増え続ける。なんと言っても、分裂したトライヘキサのうち、その一つを動力に使う予定だからね。ほとんど無限に産み出し続けることができる。そして、それを制御しているのはこの僕だ』

 

つまり、それは―――――。

 

アセムは人差し指を立てて告げた。

 

『つまりは、僕とトライヘキサの両方を倒さないとこの戦いは終わらないってことさ』

 

これから侵攻してくるトライヘキサ、邪龍・複製赤龍帝軍団、そして魔獣騒動と同等のレベルにある超巨大魔獣の軍団。

これらを退けるだけではこの戦いは終わらない。

たとえ、トライヘキサを倒せたとしてもアセムを倒さなければならない。

また、アセムを倒したとしても、トライヘキサも止めなければ僕達は生き残れない。

 

この場にいる全員が後の戦いの激しさに思考を持っていかれていた。

それでも、僕達の想像は追い付いていないと思う。

 

ここからの戦いは激戦も激戦。

生きるか死ぬか、これまでよりも遥かに激しいものとなる。

 

………想像しただけで嫌な汗が止まらなくなる。

 

この映像は世界中に流されている。

となると、一般の………人間界の混乱の方も大きくなりそうだ。

こちらの方も何か対策を打たないと………。

 

と、ここで複数の気配が近寄ってくるのを感じる。

 

「ここにいたか」

 

そう言いながら、僕達の前に現れたのはモーリスさんだった。

彼の後ろにはイッセー君の病室にいたメンバーもついてきている。

 

ふと、僕は違和感を覚えた。

この非常事態だからだろうか、モーリスさん、リーシャさん、アリスさん―――――特に美羽さんの表情が厳しいものになっていた。

 

気になったリアス前部長が美羽さんに話しかけた。

 

「美羽………? どうかしたの?」

 

皆の視線が美羽さんに集まる。

美羽さんは空に浮かぶ映像、アセムを見上げると目を細めた。

 

「あの服………彼が着ているあの服は―――――アスト・アーデの過去の魔王が着ていたものだよ。ところどころの装飾は違うけどね」

 

――――――ッ!

 

アスト・アーデ過去の魔王………つまり、美羽さんのご先祖様が着ていたもの。

いつもの白いパーカーではなく、魔王の服を身に纏うとは………。

 

モーリスさんが言う。

 

「奴さんは魔王として、この世界を落とすつもりなのかね? なんにしても、とんでもねぇ奴が出てきたな………。俺は初めて奴さんの力を見ることになるが、規格外もいいところだ」

 

規格外の力を持つこの人から見てもアセムの実力は異常ということか。

 

僕と同じことを思ったのかアザゼル先生がモーリスさんに問う。

 

「おまえさんでもあれは無理か? 人間版超越者みたいなおまえでも」

 

に、人間版超越者………。

確かにこの人を表現するならその言葉が一番しっくりくるのかもしれない。

 

「今の俺は悪魔だろう。やりあってみないことには分からんが、まともにやり合えば向こうの方が上手だろうな。奴は全力のイッセーに対してまだまだ余裕があっらしいじゃねぇか。流石の俺もフルパワーのイッセーは相手できんよ」

 

モーリスさんが言うフルパワーのイッセー君とはアザゼル先生が創った『オッパイザー』なるものと合体したイッセー君のことだろう。

名前はかなり酷いけど、絶対的な力を発揮できる。

 

しかし、それでもアセムの全力を引き出すには至らなかったと言う。

 

「『剣聖』にしてはえらく弱気な発言だな」

 

「おまえら、俺をなんだと思ってやがる。こんな弱々しいおじさんに期待しやがって」

 

「おまえが弱々しいなら、この世界の大半は死に絶えてるぞ。………とにかく、おまえでも難しいぐらいの化け物ってことか。いや、全力のイッセーを捌ける時点でそれは分かりきっていたことだ」

 

僕はモーリスさんの背中から空へと視線を戻す。

そこには変わらず、薄く笑みを浮かべた青年の姿。

彼の瞳がこちらを捉えた。

 

………心を、魂を捕まれているようなこの感覚は………!

彼と目を合わせただけで全てを見透かされる、そんな気さえしてしまう。

 

アセムは僕達がモーリスさんと合流したことを知っているのだろうか?

 

だが、あれは映像だ。

アセム本人はあの映像の向こうにいる。

 

この映像自体、世界中に向けられたものだ。

その中で僕達の状況を把握するなど不可能に近い。

 

アセムは笑みを浮かべたまま言う。

 

『―――――三日だ』

 

三日………?

唐突に告げられたその日数に僕達は怪訝な表情を浮かべていた。

 

『三日後、僕達は全世界に向けて進軍する。逃げるも良し、戦うも良し。下らないプライドにすがっても良いし、この状況から目をそらしても良い。門は開けておくから、直接、僕を倒しに来ても良い。時間が来るまで僕達の方から仕掛けることはない。準備を整えることだ』

 

アウロス学園が襲撃を受けた際、リゼヴィムは僕達に時間を与えた。

あの時はリゼヴィムがアグレアスを奪うために用意された時間だった。

 

では、アセムは何を企んでいるんだ………?

 

リアス前部長も怪訝な表情で言う。

 

「こちらに時間を与える目的は何かしら? 各地が混乱している今が絶好の機会であるはずなのに………。リゼヴィムの時と同じく裏で何か企んでいる………? 彼はまだ動けない状況にあるのかしら?」

 

「あれだけの数を率いておいて動けないってことは無いだろう。奴ら、その気になれば今すぐにでも歩を進めることは可能だ。考えられるとすれば………」

 

顎に手を当てて考えるアザゼル先生。

 

リーシャさんがアザゼル先生に言う。

 

「ただただ、こちらに時間を与えるだけが目的かもしれません」

 

「それも考えられるな。こちらを弄んでいるつもりか?」

 

彼はこれまで、こちらを弄ぶような発言や行動を取ってきた。

そのため、リーシャさんの考えもあるかもしれない。

 

世界中の神々に喧嘩を売って、更には時間を与える。

アセムにはそれだけの余裕があることは間違いないだろう。

 

『考えることだ。自分達が生き残るために、この世界が生き残るためにはどうすれば良いのか。一人一人が考え、己の役目を果たすことが、僕やトライヘキサを倒すことに繋がるだろう』

 

アセムは最後に世界へ向けてこう告げた。

 

『―――――今のままではダメなんだよ。変わらなければいけない、この世界も。でなければ、滅ぼされてしまうよ?』

 

そこで空に映し出されていた映像は途切れた。

空に開いた巨大な穴―――――『門』を残して。

 

 

[木場 side out]

 




このペースだと360話は越えそう…………。
長いなぁ(今更感www)

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