[木場 side]
アセムが世界へ向けて発信してから、十分が経過した。
冥界の空には未だ、巨大な穴が開いており、向こう側には血のように赤く染まった世界が広がっている。
ヴァーリチームは一時的にこの場を離れると言って、どこかへ行ってしまった。
残されたのは僕達グレモリー眷属、赤龍帝眷属、刃狗チーム、そしてアザゼル先生だ。
「三日………。それまでに彼らを止めるだけの戦力、もしくは対抗策を揃えなければいけないなんて………」
朱乃さんが空を見上げながら、そう呟いた。
三日―――――それが僕達に与えられた時間。
その時が来たら、アセムの手勢が、トライヘキサが、邪龍達が一斉に侵攻を始めてしまう。
あの『門』を通って、全世界を蹂躙しに来る。
世界中、全勢力圏………その中には人間界も含まれている。
アセムの声は人間界にも届いているはず。
今の冥界と同じかそれ以上に混乱していることだろう。
五代宗家のように異能を持っている者ならともかく、多くの人が異能・異形とは関わりを持たない一般人だ。
そこへ突然の宣戦布告。
巨大な怪物を見せられ、三日後には侵攻してくると言っているのだから、混乱になるのは目に見えている。
冥界もトライヘキサだけでも大騒ぎなのに、アセムの登場で彼らの混乱具合は更に上限突破。
普通に語りかけてもひたすらオロオロしているような状態だ。
つまり、人間界も異形の世界も大パニックというわけだ。
この三日の間に彼らへの対抗策を揃えると同時にこれらへの対策も考えなければならない。
リアス前部長が言う。
「相手にどんな思惑があるにせよ、三日という時間があるだけマシね」
「リアスの言う通りだ。破壊された場所の修復、各勢力と連携も取れる。他にも負傷者の治療、人間界へのサポートとやれることは多い。………まさかと思うが、そこがアセムの狙いか? いや、流石に向こうの思惑を考えている暇はない。まずは―――――」
アザゼル先生は通信用の魔法陣を展開して、各部署に指示を出していく。
僕達の元に報告をしに来てくれたスーツを着た男性もアザゼル先生の指示を受けて、颯爽と立ち去って行った。
人間界へのサポート………これが全勢力が最も苦労することになるだろうね。
一般人の記憶やデータの改ざんは必須になる。
………それでも何かしら超常的なことが起きたという認識にはなってしまうだろくけど。
朱雀さんも一度、人間界へ戻り、まずはそちらの対応に当たると言っていた。
現状でどこまで混乱を抑えられるか………。
ふと近くにあったテレビを見ると、そこには数分前とは違った映像が流れていた。
少し前まではレーティングゲームに関する件で怒りを露にしていた人達もアセムの登場にそれどころではなくなってしまっている。
それもそうだろう、何せ
突如と冥界の空にぽっかりあいた大きな穴。
そこから放たれた極大の光は遥か彼方で着弾し、この冥界を揺らした。
どこに逃げようとも無駄、隠れても無駄。
あの光はどこまでも追ってくる。
そう考えると怒りをぶつけている場合じゃない。
今は怒りをぶつけることよりも、アセム達をどうにかしないと全てが終わる。
戦っていない人でもそれを理解するのに時間はかからなかったようだ。
そうなると今度は怒りの感情よりも、死への恐怖が彼らを支配する。
一通りの指示を終えたところで通信を切ったアザゼル先生はロスヴァイセさんとギャスパーくんに視線を向けた。
「ロスヴァイセ、ギャスパー。今すぐ俺と来てもらう。聖杯対策にはおまえ達の力が必要だ」
「「はい」」
頷き、それに応じた二人を連れてアザゼル先生は歩いていく。
すると、モーリスさんがそれを止めた。
「アザゼル、少し待ってくれ。おまえさんに頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
「そうだ」
モーリスさんの視線は僕と後から来たゼノヴィア、この場にいる剣士二人に向けられた。
「今からこいつらを鍛える。今のレベルでも十分強いが、今度の戦いを生き抜き、勝つためには足りない」
アザゼル先生は指名された僕達を見渡すと頷いた。
「なるほど。つまりは修行場所が欲しいってことか。だが、三日では流石に時間が足りないだろう?」
確かに。
三日ではどれだけ急いでも、大きなレベルアップは見込めないだろう。
いくら異世界最強剣士『剣聖』が修業をつけたとしても。
しかし、モーリスさんが続けた言葉は僕達の思いもしなかったことで、
「ああ。だからこそ、おまえに頼むんだ。外界とは時間の流れの異なる修行場所。アザゼルなら創れるんじゃないかと思ってな。例えば、こちらの一時間がその修業場所なら一か月、とかな」
「―――――! そう来たか」
顎に手を当て、納得しているアザゼル先生。
僕もモーリスさんの提案に思わず唸ってしまった。
外と内で時間の流れが異なる場所。
それはアウロス学園襲撃時でクリフォトが仕掛けて来たものと同じ原理だと思うが、そこなら、十分な修業が可能だろう。
すると、リアス前部長が言った。
「一度、アスト・アーデに飛んで向こうで修行すれば良いのではないかしら? イッセーは向こうで三年過ごしても、こちらでは時間が経過していなかった。私達も同じだった。それなら―――――」
その提案にアザゼル先生は首を横に振った。
「俺も一瞬それは考えた。だが、イッセーが目覚めない今、その手は使えん。それに次元の渦の原理が解明できていないのが現状だ。二度、同じことが起きたからと言って、三度目も同じとは限らん。となると、モーリスの言うようにこちらで創ってやった方が確実だ。ラヴィニア、メフィストに頼んで術式を送ってほしい。その手の魔術はメフィストなら良いやつを知っているだろう」
「はいです。ですが、どれもこれも相当、力を消費するものばかりなのです。即席で出来るものではないですよ?」
時間を歪ませるという行為はそれだけで多くの魔法使いが必要であり、万全の準備を以て行うことだ。
アウロス学園の時にはアジ・ダハーカやアポプスといった伝説に名を残す邪龍が複製した赤龍帝の力を用いて結界を張っていた。
それだけ膨大な力が必要なのだが…………。
「だろうな。それも想定済みだ。美羽、アリス。おまえ達の力を借りる。神姫化したおまえ達の力なら、結界の維持もできるはずだ。範囲は限定的になるがな」
「うん、任せて」
「オッケー。大船に乗った気でいなさい」
神姫化した時の二人の力は上位クラスの神に匹敵する。
二人の神クラスの力があれば、それも可能ということか。
アザゼル先生は僕達を見渡すと改めて言った。
「この三日が勝負だ。俺とおまえ達………いや、この世界にとってな」
[木場 side]
▽
[美羽 side]
アザゼル先生がロスヴァイセさんとギャスパー君を連れて、この場を離れてから一時間ほどが経った。
次の指示があるまで、ボクは送られてきた術式を確認して、必要な魔力量と強度などの計算をすることになっている。
今もお兄ちゃんの病室で、計算をしているんだけど…………。
「………これ、神姫化出来てなかったら、絶対に二人で何とかなるレベルじゃないよね」
分かっていたけど、この魔力量は尋常じゃないよね。
まぁ、規模と時間の歪みの強さにもよるんだけど………。
「うわぁ………。これ、キツくない? モーリス達が中で暴れるから、それなりの強度も必要だし………」
と、さっきの強気な発言とは真逆のことを言っているアリスさん。
ただ、結界を張るだけなら問題ない。
問題なのは中であのモーリスさんが剣を振るうこと。
内側から真っ二つにされそう………。
………でも、そんな無茶苦茶な人でもトライヘキサには通じなかったんだよね。
彼の剣戟を受けても、トライヘキサはすぐに再生してしまう。
向こうの数はどんどん増えていくから、トライヘキサだけを相手にすることも出来ない。
天界の修復に向かっているイリナさん、グリゴリの修復に向かっているレイナさんは合流までもう少し時間がかかるとのことだった。
怪我人が多いとのことで、アーシアさんとそのサポートとして小猫ちゃん、ゼノヴィアさんもグリゴリへと向かっている。
こちらは後で天界にも向かうらしい。
他のメンバーはと言うと、冥界各地で混乱している市民の対応に追われていた。
『D×D』、特に上級悪魔グレモリー家の次期当主として、ボク達の中では最も知られているリアスさんにすがってくる人は少なくなく、リアスさんは対応に追われてしまっている。
朱乃さんや木場君もそれに付き従っているようだ。
もちろん、ボクとアリスさん以外の赤龍帝眷属メンバーも動いていて、レイヴェルさん先導のもと、各地で暴徒の鎮圧に赴いている。
ディルさんもそれについて行った。
ボクはふと浮かんだ疑問をアリスさんに投げ掛けてみる。
「ニーナさんも行っちゃったけど、大丈夫なのかな?」
ニーナさんはボク達のように戦う力を持っている訳じゃない。
だから、力任せに暴れる人を抑えることなんて、出来ないだろう。
まぁ、彼女に危害が及ぶことはないと思うけど。
一緒に動いているメンバーが異常だからね………。
「美羽ちゃんも思っただろうけど、モーリスとリーシャがいるんだから、ニーナがケガをすることはないわ。絶対ね」
「うん、ちょうど思ってたところだよ。でも………」
「ニーナがいて役に立つか、でしょ?」
ボクが質問を言い終える前に言われてしまった。
アリスさんは病室の天井を見上げると、過去を思い出すように語りだした。
「まだ戦争中だった頃。私とイッセー、モーリス、リーシャの四人は各地を動き回っていたわ。私達が動かないといけない状況だったから………。でも、それが出来たのはニーナが残ってくれたおかげなの。あの子が皆の不安を受け止め、オーディリアという国を支えてくれていたからこそ、私達は動くことが出来た。あの子は見た目はフワフワしてるけど、結構、芯がある子なのよ」
そういえば、初めてオーディリアで話したときもそんなことを聞かされた覚えがある。
ニーナさんが残ってくれたから、お兄ちゃん達は戦えた。
お兄ちゃん達が前線で戦っていなかったら、和平なんて無かったかもしれない。
ボクがこうして、お兄ちゃんの側にいることも無かったかもしれない。
そう考えれば、ニーナさんだって和平の立役者の一人なんだ。
アリスさんは嬉しそうに、それでいて誇らしげに言った。
「ニーナがいてくれるなら大丈夫。あの子の声は皆の心に響くから。あの子の優しい心の声がね」
アリスさんの言葉からは、瞳からは妹であるニーナさんを心の底から信頼していることが伝わってくる。
「たーまーにームカッとくるところもあるけど。なんで、ニーナの方が胸の成長速いのよ! 腹立つ! 妹のくせにぃぃぃぃぃ! しかも、これ見よがしに見せつけてくるし! あいつはヴィーカと同類なのかしら!?」
天を仰ぐアリスさん。
………アリスさんの胸も当初と比べると大きくなったと思うんだけど、まだ気にしてるんだ………。
ボクからすれば、良い感じの美乳になってきてるから、逆に羨ましくもあるんだけど。
というか、ニーナさんもアリスさんのこういうところが面白がってるんだろうなぁ。
うん、仲の良い姉妹だよ、本当。
姉妹………妹…………妹…………。
『――――お、おね………お姉ちゃん…………』
「カハッ」
ボクは前触れもなく吐血した。
「美羽ちゃん!? なんで!?」
「うぅぅ…………お姉ちゃん…………お姉ちゃんって…………いけない! ディルちゃん成分が足りないよ!」
「またなの!? 北欧でもたまに血吐いてたけど、またなの!? どれだけ、イッセーに似たのよ、この似た者義兄妹は!?」
「エヘヘ………照れるよ………」
「誉めてないんだけど!?」
どうしよう、ここにきて妹成分が足りなくなるとは!
流石に予想外だよ!
なるほど、ここ数日でお兄ちゃんの気持ちがすっごく分かってきた。
これが―――――シスコン道か………!
なにこれ、なにこの気持ち。
抑えきれそうにない。
今すぐ、ディルちゃんに抱きついてモフモフしたい。
でも、ディルちゃんも行っちゃったし………。
態々、ディルちゃんを呼び戻す訳にはいかない。
無い物ねだりはよくない。
では、この衝動をどうするか…………。
「あっ…………」
ここでボクの脳裏に素晴らしいアイデアが浮かんだ。
浮かんでしまった。
………いや、それは浮かんだと言うよりは今まで我慢していたと言うべきだろうか。
「よし」
「美羽ちゃん?」
立ち上がるボクを見て怪訝な表情を浮かべるアリスさん。
ボクは一歩、また一歩とベッドの方へ歩いていき―――――。
目を覚まさないお兄ちゃんにダイブした。
「ああっ!? ズルい………じゃなくて! なにしてるの!?」
「よくよく考えたら、ここ数日、お兄ちゃん成分を吸収してなかったからね。………この際に、ね?」
そう、ボクはこの数日、お兄ちゃんと話をしていない。
甘えてないし、お風呂も入ってない。
キスだって…………。
ボクの体はもう限界だった。
圧倒的にお兄ちゃん成分が足りていない…………!
「ボク、もう我慢できない」
「美羽ちゃん、それ、色々といけないことしてるみたいに聞こえるわ」
「欲求不満です」
「美羽ちゃん!?」
「お兄ちゃんに甘えたいよ!」
「あぁ、ブラコンの方だったの………」
ボクは眠っているお兄ちゃんに抱きついて、顔を埋めた。
あぁ………この感覚だ…………。
お兄ちゃんの鼓動が心地よくて…………。
この数日はトライヘキサの件で天界に行ったり、北欧に行ったりしていたし、他の皆もいるから我慢していたけど…………。
「皆の前ですると収集つかなくなりそうだからね」
「………私もいるんだけど………」
やれやれとため息を吐くアリスさん。
そんなアリスさんにボクは、
「アリスさんもする?」
そう問いかけた。
すると、アリスさんの顔は一気に赤くなり、頭のてっぺんから湯気が出てきた。
「わ、わわわわわ私も!? あ、あの、その、私はその別に良いって言うか………。うん、やっぱり、他の皆が頑張ってるんだし、ここでサボるのは皆に悪いって言うか…………。だ、だだから、私は今は遠慮…………」
「…………」
「…………ご、五分だけなら…………」
この後、アリスさんは赤面しながら、お兄ちゃんの眠るベッドに入ってきた。
[美羽 side out]
モーリス提案の修行場所は所謂…………アレです。
グレモリー眷属の更なる強化が始まります!
そして、久し振りのシリアスブレイク!